※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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145 怒りの短刀

「ミウ、そのドワフ女の手足を荷の中にある二個の手錠で拘束しろ。背中側に手足を曲げさせて、右手首と左足首、左手首と右足首というように、手錠の鎖が交差するようにかけるんだぞ。さっさとやらねえと、また折檻のうえに飯抜きだからな」

 

 クライドと名乗った巨漢の暴漢が言った。

 

 スクルズは、クライドにより一階に通じる階段からあがった部屋の入り口に立たされ、首に縄をかけられて木の梁に縄尻を結ばれていた。

 いまは、入口の両端の柱に脚を拡げさせられて括られ、さらに、クライドによって、その両横の柱に打ち込んだ短い鉄杭に足首を結ばれようとしているところだ。

 スクルズは、下着一枚にされており、つまりは、その半裸の姿で一階からあがってくる階段の出入り口を塞がされ、通せんぼのための障害物にされた態勢だ。

 また、ここにあがってから、手首に魔道封じの腕輪を嵌められた。クライドには魔道が効かないのがわかっているが、いまは魔道そのものを封じられてしまった。

 

 ミランダとともにクライドに連れ込まれた、ギルドの向かいにある小さな商家の二階である。

 部屋全体は燭台の灯かりで照らされていた。

 ここは、一階が小売り物屋になっていて、二階が暮らしのための部屋になっているだけの小さな建物だ。

 住人はすでに外に出されて、中にいるのは、スクルズとミランダとクライド、そして、クライドの連れらしい十歳くらいの童女だ。

 

 童女の名はミウというらしい。

 クライドがスクルズを人質にして、全裸にさせたミランダとともにこの建物の二階に連れ込んだとき、大きな荷を背負ってとぼとぼとついてきた。

 

 一方で、このクライドを抑えるために争っていた王兵の一隊と冒険者の集団は、いまは、この建物の下を取り囲んでいる状態だ。

 建物に入ってくれば、スクルズとミランダを殺すとさんざんにクライドが喚いたので、それ以上は近づけないでいるようだ。

 

「……も、申しわけありません、ドワフさん」

 

 ミウが荷から出した鎖のついた手枷を二つ持ってミランダに歩み寄った。

 ミランダは、クライドに命令されて、部屋の隅で手足を伸ばして、うつ伏せにさせられていたが、ミウがやってくると、口惜しそうな表情でミウが作業をしやすいように、手足を背中側に自ら曲げた。

 

 ミウは、服というよりは大きな布を身体に巻いて、腰のところで縄を縛っているだけの恰好だった。布の下は明らかな裸身だ。かなりやつれている感じだし、時折垣間見える布の下の身体は、たくさんの青痣や蚯蚓腫れの傷がある。

 ひどい目にあっているのだろうというのは、それだけで想像がつく。

 なによりも、眼に生気がなく、まるで生きながら死んでいるような虚ろな表情をしている。

 スクルズは、ちょっとこのミウが心配だった。

 

「これでいいだろう。さあ、ドワフ女、ミウをてこずらせんじゃねえぞ。お前が抵抗して、ミウに拘束させなければ、俺はミウの指をまた折らなきゃならねえんだ。罰としてな」

 

 クライドが再びがさごそと荷を探りながら言った。

 そして、短剣と小瓶を取り出す。

 さらに、その小瓶を開いて、鞘を外した短剣の刃に塗りだした。

 おそらく、あれは、刀という武器に塗っていた猛毒だろう。それを短剣に塗り直しているようだ。

 

「あ、あんた、いい加減にしなさい。人質はあたしひとりでいいでしょう。スクルズを解放するのよ」

 

 ミランダが怒鳴った。

 そのミランダに、ミウが装着した手錠が背中で四肢を交差するように嵌まった。

 

「うるせえなあ。イチという男がいつ来るかわかんねえからな。お前らのことを助けたい連中が探し出して連れてくるだろうけど、それに時間がかかるようなら、退屈するだろう──。だから、お前を犯し飽きたら、あの姉ちゃんで遊ぶつもりなんだよ。ぎゃあぎゃあ言うんじゃねえ」

 

 クライドがミランダを蹴飛ばして、仰向けにひっくり返した。

 

「ぐっ」

 

 強く脇腹を蹴られたミランダが少しだけ呻き声を出した。

 両膝と両肘から先を背中に曲げているミランダの乳房と股間が露わになる。

 

「こりゃあ、興醒めだなあ。見た目は童女なのに、中身は陰毛ぼうぼうの年増女かよ。まあいいや。とりあえず、穴は開いているようだしな」

 

 クライドがミランダの股間の前に座り、指で股間を愛撫し始める。

 

「んっ……くっ……」

 

 やがて、ミランダの押し殺したような声が聞こえ始めた。

 

「おっ、ドワフ女というのは、どれも石のように反応しねえと耳にしたことがあるが、こりゃあ、打てば響くような身体じゃねか。随分と敏感な身体のようだが、さては相当の好き者か?」

 

 クライドがミランダの股間をいたぶりながら下品な笑い声をあげた。

 

「う、うるさわねえ。汚い手で触られて気持ちが悪いのよ」

 

 ミランダが食い縛っている口を開いて言い返した。

 だが、スクルズは、ミランダがロウの調教ですっかりと敏感な淫らな身体に作り替えられていることがわかっている。

 また、ドワフ女のミランダにとって、男に愛撫されて感じるというのが、とんでもない屈辱だということも知っていた。

 ミランダが心の底から溺れたような姿を見せるのは、ロウの前だけのことだ。

 

「ク、クライドさん、もうやめてください。それよりも、わたしを犯してください。わたしならいくら辱めても構いません。口でもどこでもご奉仕します。その代わり、ミランダは解放してください」

 

 スクルズは叫んだ。

 

「言われなくても、あんたも犯す。口でも尻でも膣でもな。だが、いまは、この童女もどきを犯したいんだ。黙ってろ」

 

 クライドがミランダの股間と、さらに乳首への愛撫を追加しながら言った。

 そして、傍らにいたミウを呼ぶ。

 

「こいつを持って、あの巫女のところに行け。俺が合図したら刃でどこでもいいから皮膚を裂け。それで、あの巫女はあの世行きだ」

 

 ミウがクライドに渡されたのは、さっき毒を塗っていた短剣だ。

 それを両手で握っているミウがこっちにやって来た。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ミウが泣くような声で言った。

 そして、スクルズの正面に立ち、短剣を向ける。

 そのため、布から手を出しているところの布が割れて、ミウの身体がスクルズの視界に見えた。

 やはり、全身が惨たらしい傷だらけだ。

 

 だが、びっくりしたのは、その股間の状況だ。

 まだ未成熟の小さな股間は、無理矢理に男性器を突っ込んだことによる裂傷ができていて、また治りきっていない傷が膣の上下に残っている。さらに、何度も強姦されたらしく、このくらいの童女ならぴったりと閉じているはずの亀裂が、締りを失って左右に開いていた。

 スクルズには、それだけで、この童女にクライドがなにをしたのかがわかり、生まれて初めて、他人に対する憎悪の感情を抱いてしまった。

 また、スクルズは、すごく不自然な感じでミウが短剣を持っていることに気がついた。

 

「あ、あなた、指が……」

 

 思わず口にした。

 そして、そういえば、クライドがミウの指を折檻として折るというようなことを口走ったことを思い出した。

 ミウの左右の指は、両方の小指と薬指がおかしな方向に曲がっていた。

 どうやら、骨を無理矢理に折られたようだと思った。その部分が青黒く変色もしている。

 

「さて、そろそろ、いいか。俺は女を愉しませる趣味はねえ。お前がいい気持ちになるまで待つ必要もないし、とっととやらせてもらうぜ」

 

 クライドが高笑いするのが聞こえた。

 視線を向けると、クライドはズボンの前から怒張を出して、ミランダの股間に亀頭を挿入しようとしている直前だった。

 

「や、やめてっ、やめてあげてください。それよりも、どうか、わたしを先に──」

 

 スクルズは金切り声をあげた。

 

「やかましいと言っただろう。人質はひとりでもいいんだ。ミウ、もういい。その巫女を短剣で刺せ」

 

 クライドが不機嫌そうに叫んだ。

 

「ま、待ちなさい。ス、スクルズ、大人しくして。大丈夫だから……」

 

 ミランダが慌てたように言った。

 しかし、そのとき、クライドの怒張がミランダの股間を深々と一気に貫いてた。

 

「あっ、ううっ……くうっ……」

 

 すぐに荒々しい律動が開始する。

 ミランダが息を殺すような音を口から洩らしだす。

 スクルズは見ていられなくて視線を下に落とした。

 

「おお、絡みついてきやがる。こりゃあ、なかなかの道具じゃねか。ミウの股とは違うが、ちゃんと筋肉があって締められるのは気持ちいいぜ。これなら、二、三発は続けてできそうだ」

 

 クライドが笑いながら声をあげるのが耳に入ってきた。

 それに混じって、ミランダの「うっ、うっ」という押し殺した呻き声と、ミランダを拘束している手錠が床に擦れて、がちゃがちゃと音を立てるのが聞こえる。

 スクルズは、ミランダに申し訳なくて、がくりと首を垂らした。

 

 そのときだった。

 なにかの喧噪が下から聞こえたと思った。

 すぐに、ぎしぎしと階段をあがってくる足音が聞こえてくる。

 ただ、スクルズは、階下を背にするように立たされているので、誰があがってくるのかまでは見えなかった。

 だが……。

 

「……俺の女から離れな、チンピラ……。俺たちを探しているんだろう?」

 

 スクルズの裸身の横をすり抜けるようにして入ってきたのはロウだった。

 手に短銃を握っていて、それをしっかりと前に向けている。

 

「ミ、ミランダ?」

 

 続いてエリカもやって来た。

 エリカは部屋の中の惨状に、驚愕の声をあげた。

 

「おう、イチというのはお前か。その後ろのエルフ女はエルスラに間違いねえようだな。教えられていた風貌と一緒だ。ちょっと待ってな。俺の目的はお前を殺すことであって、終わったらこの城郭からは出ていく。しかし、もう少しで精を出せるところだ。お前を殺すのはそれからだ」

 

 クライドはミランダを犯すのをやめずに、腰を動かしながら言った。

 

「いまは、ロウとエリカと名乗っている。そんなことも調べずに来たのか? それよりも、俺は離れろと言ったぜ」

 

 しかし、クライドはせせら笑いをしながら、わざとらしく腰を激しく振りだす。背中越しだが、ロウの激怒が伝わってくる。

 

「ああ、ロウ、お、お願い……。こ、この男に……ぶ、武器は効かない……。に、逃げなさい……。うっ、くっ……」

 

 そのとき、犯され続けているミランダが泣くような声をあげた。

 

「心配するな、ミランダ。こんな虫けら、すぐに処分してやる」

 

 ロウの怒りに震えたような声とともに、ロウの持つ短銃が轟音を立てた。

 だが、ロウが撃ったのは、ミランダを犯していたクライドじゃなく、まったく別の場所だ。

 

「ぐあああっ」

 

 しかし、苦しそうな呻き声が、突如としてなにもない空間から迸った。

 そして、ミランダを犯していたクライドが消滅する。

 さらに、さっきロウが銃を撃った場所に、下半身を露出したクライドが改めて出現した。

 クライドは胸から血を流している。

 ロウの銃が当たったのだ。

 だが、どういうことだろう……?

 スクルズは呆気にとられた。

 

「エリカ、ミランダとスクルズの拘束を解いてくれ」

 

 ロウが言った。

 エリカが素早く動いて、スクルズを拘束していた縄を切断するとともに、荷を見つけると、そこから鍵を探して取り出した。

 そして、ミランダを助け起こして手錠を外していく。

 スクルズはほっとしたのと、精根が尽きたのとで、その場に座り込んでしまった。

 

「ロ、ロウ……」

 

 そのとき、エリカに手枷を外してもらっているミランダが、ロウの名を呼んだ。

 そのミランダに、ロウは優しそうな笑みを浮かべた。

 

「すまなかったな、ミランダ。こいつは、俺とエリカを狙ってやって来たようだ。とんだとばっちりで悪かった。ベルズ殿が知らせてくれて、急いで転送術で連れてきてもらったんだが、ちょっと遅かったか? まあいい。犬にでも噛まれたと思えよ。あとで俺がたっぷりと股に上書きしてやるよ」

 

 ロウはそう言い、血を流しているクライドに銃を向けなおした。

 

「ば、馬鹿ね」

 

 ミランダがロウの軽口に、ちょっとほっとした表情になった。

 

「スクルズも悪かったな。下にベルズ殿もいる。おい──、お前たち、ベルズ殿だけを連れてあがって来い。ほかの者は駄目だ。ミランダとスクルズは、まだ裸なんだ」

 

 ロウがクライドに銃と顔を向けたまま、大声で叫んだ。

 すぐに再び階下で物音が始まった。

 

「ロウ、大丈夫か?」

 

「ご主人様、エリカ……。皆さん無事ですか?」

 

 シャングリアとコゼが階段をあがってきた。

 

「ロウ殿……。スクルズ、ミランダ、しっかりして」

 

 つづいて、ベルズも来た。

 コゼとシャングリアは、数枚の大きな毛布と、さっきミランダが自ら脱ぎ捨てた服を持っている。

 とりあえず、スクルズはもらった毛布で身体を覆った。

 

「……ちょっと待ってくれよ、みんな。とにかく、こいつだ」

 

 ロウは血をだくだくと胸から流しながら、苦しそうに息をしているクライドの前に屈んだ。

 

「アスカのところから送られた刺客だな? お前だけか? それとも、ほかにも仲間がいるか?」

 

 ロウが言った。

 

「……な、なんでも……お、教えてやる……。そ、その代わり、た、助けてくれ……」

 

「ああ、だったら早く言えよ。すぐに治療術をしてもらわないと、そのまま死ぬぞ」

 

 ロウが短銃をクライドの頭に向ける。

 

「……も、もうひとり……ボ、ボニーという女が……。と、とりあえず、それだけだ……。な、なあ……、は、早く、ち、治療……じゅ、術を……」

 

「まだだ──。ノルズという女を知っているか? お前らの仲間だった女だろう。そいつに、俺の居場所を教えられたのか? まさか、お前たちに捕らわれているじゃないだろうな?」

 

 ロウが言った。

 スクルズは、ロウがノルズのことをちゃんと気にかけてくれていたということに驚くとともに、感謝の気持ちが沸いた。

 ノルズは、怪しげな組織に加わって、スクルズたちを罠にかけた悪人だが、かつては一緒に神殿の教義を学び、魔道遣いとしての修行を積んだ仲間でもある。

 ロウに捕らわれたものの、監禁を頼まれていたスクルズの手から逃げて、いまでも行方不明だ。

 ほかの者は、ノルズが元の組織に戻ったのではないかと言っていたが、ロウだけは、絶対にそれはあり得ず、もうノルズはロウたちを裏切らないはずだと確信したように繰り返していた。

 

「ノ、ノルズ……? た、確か……パリスのところの……? し、知らないよ……。死んだんじゃないのか……? そ、それよりも……。た、助けてくれ……」

 

「ふん、やなこった」

 

 ロウが鼻を鳴らしたと思うと、二度目の轟音が部屋に響いた。

 今度は眉間だ。

 頭から血を流し始めながらがくりと脱力したクライドが命を失ったのは明らかだ。

 

「……で、でも、どうして……? みんなで寄ってたかってもクライドに傷ひとつつけられなかったのよ……。それなのに、なんで、あんたは呆気なく、こいつを殺せたの?」

 

 ミランダが言った。

 そのミランダは、コゼとシャングリアに介添えされながら、やっと服を身に着け終わっていた。

 いまは、また床に座り込んでいる。

 

「そりゃあ、あんたらは、こいつの影と一生懸命に戦っていただけだからさ。おそらく、こいつの能力は、自分の影を作るとともに、自分の身体を透明にする能力だったんだと思う。だけど、俺には、眼に見えている姿が、こいつの影であることがすぐにわかった。隠れている本体の位置もね」

 

 ロウが銃をしまった。

 空中に消えるようになくなったので、最近駆使できるようになった亜空間術で格納したのだろう。

 

「影?」

 

「分身のようなものさ。エリカは覚えているだろう? ルルドの森のときに、アスカの影が追ってきたのを……。まあ、あのときのアスカの影と、こいつの影は性質は違っているようだけど、その変形だと思う」

 

 ロウがエリカを見た。

 エリカは、「ああ、そういえば」と頷いた。

 

「……言われてみれば、そんな簡単なことだったのね……。くそっ」

 

 ミランダが口惜しそうな顔をした。

 

「本体の気配は完全に消して、影の方に強い気配を作っていたようだしな。魔道でも影しか探知できなかったはずだ。だから、誰もわからなかったのさ」

 

「だったら、なんであんたはわかったの、ロウ?」

 

「勘がいいのさ」

 

 ロウがお道化た口調で言った。

 

 スクルズもやっとクライドの秘密が理解できた。

 クライドの能力は、どんな武器でも魔道も効かないということではなく、自分の影分身を身体から離れた場所に出現させる能力だったのだ。そして、さらに、自分自身を透明にすることもできたのだ。

 だから、クライドに接した者は、クライドが出現させている「影」を懸命に刃物や魔道で倒そうし、それができなかったというわけだ。

 刃物で傷つけられたり、縄で捕らえられたりしたら、その都度クライドは、一瞬影を消して、再出現させていたのだと思う。

 それがクライドの「無敵」の正体だったというわけだ。

 しかし、ロウは呆気なくそれを見抜いて、姿が消えている本体のクライドを撃った。

 だから、倒せたのだ。

 

「あ、あの……」

 

 そのとき、いままで部屋の隅で事態の変化を呆然と眺めていたミウが突然に呟いた。

 

「この子は誰だ?」

 

 シャングリアが声をかけた。

 

「このクライドに捕らわれていた童女のようよ。ミウ、大丈夫?」

 

 スクルズは声をかけた。

 だが、ミウはなにか思いつめた表情でロウを睨んだ。

 

「こ、この人は死んだんですか……。本当に死んだの?」

 

 ミウがロウに言った。

 

「ああ、死んだ。あんたはミウというんだな。だが、治療が必要なようだ……。スクルズ、少し回復したら、このミウを……」

 

 ロウがミウから視線をスクルズに向け直した。

 そのときだった。

 ミウが持っていた毒を塗った短剣をがばりと振りあげたのだ。

 そして、短剣を深々と突き刺した。

 

「こいつめ──、こいつめっ──、お母さんを──お父さんを──こいつ──こいつ──」

 

 ミウが短剣を刺したのはクライドの死骸だ。

 突き刺した短剣をそのままミウは抜いた。

 そして、また突く。

 それを繰り返した。

 何度も、何度も──。

 やがて、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。

 それでも狂ったように死体を冒涜するのをやめなかった。

 

 ずっと虚ろだったミウの顔に初めて、感情が浮き出たのをスクルズは見た。

 それはとてつもなく激しい憎しみだった。

 しばらくのあいだ、ミウは憑かれたように、クライドの身体に短剣を刺し続けた。

 

「ミウ、もう大丈夫よ。しっかりしなさい。もう大丈夫だから」

 

 スクルズはしっかりとミウを後ろから抱き締めた。

 すると、ミウが短剣を捨てて、スクルズに向き直ると、スクルズに縋りついて号泣を始めた。

 そのミウをスクルズはぎゅっと抱き締めた。

 

「あなたを苦しめていた悪人は死んだわ……。わたしがついています……。もう、大丈夫よ……」

 

 スクルズはミウを抱きながら静かに声をかけた。

 

「……スクルズ、そのミウという子には、大きな魔道力があるみたいだよ。まだ活性化されていないようだけど……。もしかしたら、大変な魔道遣いに化けるかもしれない……」

 

 そのとき、ロウが言った。

 

「どうして、そんなことわかるんですか、ロウ様?」

 

 スクルズはミウを抱きながら、驚いて訊ねた。

 そして、改めてミウの魔力を探り、なぜか魔力が膨らんだり、消滅したりということをまるで光が点滅するように繰り返していることがわかった。

 いずれにせよ、確かに魔道力がある。

 魔道力の点滅は極めて珍しく、通常の魔道力の探知では引っ掛かりにくい。

 しかし、魔道遣いでもないロウになぜ、瞬時にわかったのか……?

 

「言っただろう、スクルズ。俺は勘がいいんだ」

 

 すると、ロウはにやりと微笑んだ。

 

「……いずれにしても、こいつは目障りだ。エリカ、コゼ、シャングリア、手伝え──」

 

 ロウがクライドの死骸に寄る。

 女たちも手伝って身体を担ぎあげた。

 窓を開く。

 

「おい、隊長さん。この殺し屋をそっちにやりますよ。あとはお願いします。それっ」

 

 ロウが窓からクライドの身体を放り捨てさせた。

 スクルズは立ちあがった。

 クライドの死骸は、一度屋根にぶつかり、それからおかしな方向に胴体が曲がって、かがり火で照られている王兵や野次馬が集まる道にどさりと落ちていった。

 

「……ロウ様、そして、ミランダ、このミウは一度、神殿に連れていきます。少し落ち着いたら、このミウの行く末を相談させてください」

 

 スクルズは言った。

 ロウとミランダが頷く。

 そして、そのロウがミランダを見た。

 

「……ミランダは、俺と一緒に屋敷に行くよ。こいつに犯されて傷ついた心を俺の肉棒で癒してやるからな」

 

「あ、あたしは傷ついてなんか……」

 

「いいから、いいから」

 

 ロウが笑って、がっしりとミランダの腕を掴んだ。

 ミランダは、困ったような……そして、ちょっとはにかんだような表情でロウに腕を抱えられて立ちあがった。

 

 

 

 

(第24話『誰にも触れない男』終わり、第25話『淫魔師の死』に続く)

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