※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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149 仲間割れ

「あうっ」

 

 小気味のいい音とともに、ぶるりと震えた乳房に、一筋の赤い鞭の痕が浮かびあがった。

 凄まじい衝撃がボニーの身体を駆け抜ける。

 

「あ、ありがとう……、ごさ……ございます……」

 

 ボニーは歯を食い縛って、強制されている言葉を口にした。

 

「駄目だな。まだ、心からの言葉じゃない。お前が心底、この鞭がありがたいと思ったら、やめてやる」

 

 ロウが笑いながら、次の一打を乳首を狙って打ち付けてきた。

 

「あぐうっ」

 

 気を失いそうになる痛みがボニーを襲う。

 だが、打たれた鞭痕は、「癒しの風」とかいう魔道の香によって、すでに消滅しようとしていた。ロウたちが、ボニーを鞭責めするにあたって施している処置だ。

 

 今日の──といっても、昼なのか夜なのか、ボニーにはわかりようもないのだが──ボニーへの責めは、鞭責めだった。

 部屋の真ん中に二本の柱があり、ボニーはその中心に両手両脚を開いて立たされ、手首と足首を左右の柱に装着されている金具でしっかりと固定されて、いまは万歳をするように腕をあげさせられている。

 その状態で、ロウがボニーの股間の下に「癒しの風」という香を焚いたのだ。

 そんな魔道具に接するのは初めてだが、どうやらそれは、身体に受けた傷を瞬時に直してしまう「治療術」の効果のある香のようだ。

 

 そして、鞭責めが始まった。

 ロウたちは、手に乗馬鞭を持ち、無防備で避けようのないボニーの裸身を容赦なく鞭で打ちまくった。

 打っても打っても、鞭の傷はすぐに治ってしまうので、傷も残らないし、すぐに回復するので怪我のために気絶することもできない。

 だが、激痛には変わりない。

 そうやって、延々とボニーは打たれ続けていた。

 

「駄目ですよ、ご主人様。いつ終わるかなんて言ったら……。それに、なにをやっても、終わりなんかありませんよ。終わるのは、あたしたちがこれに飽きたときです。こいつは拷問を受ける玩具なんですから、玩具の役目は、ご主人様にただ拷問されることだけです」

 

 コゼだ。

 そのコゼが背後から、ボニーの脇腹を鞭でひっぱたいた。

 今日は、いつもは交代で拷問役をしているロウとコゼがふたり揃っていた。

 逆に、シャングリアはいないし、エリカもいない。

 

「うぐうっ……あ、ありがとうございます……」

 

 ボニーは顔を歪めて、呻くように言った。

 

「ここは、どうだ」

 

 ロウが今度は股間に向かって、乗馬鞭を振りおろした。

 

「うぎゃあああ」

 

 ボニーはお礼を言うのも忘れて、全身を突っ張らせた。

 ロウの鞭先は、ボニーの肉芽を寸分外れずに、まともに衝撃を叩き付けたのだ。

 さすがに一瞬、意識が飛ぶ。

 気がつくと、がっくりと脱力して、股間からはじょろじょろと尿が洩れていた。

 

「こ、こらっ、あんた、勝手におしっこなんかして……。お香が消えちゃうじゃないのよ」

 

 コゼが呆れたように言った。

 

「も、申しわけありません……」

 

 ボニーは項垂れた。

 しかし、一度始まった失禁は、止めようもない。

 股間から洩れ落ちる尿は、股のあいだに置かれた香にまともに降り注ぎ、そこから焚きあがる魔道の香を消してしまっていた。

 

「仕方ない……。だか、癒しの風は、いくつかスクルズ殿に頼んで作ってもらっている。なくなれば、また、作ってもらうし、いくらでもお代わりがある。それよりも、ちょっと休憩するか。さすがに打ち疲れた」

 

 ロウが笑いながら乗馬鞭を床に放り投げた。

 そして、ボニーの後ろに回って来る。

 一方で、コゼはボニーの足の間に拡がっている尿を雑巾で掃除をし始めた。

 

「あっ」

 

 ボニーの口から声が出た。

 ロウが両手首を固定している柱の金具を操作して、思い切り足首のある下方におろしたのだ。

 どうやら、これは自由な位置で固定できるようになっているようだ。

 両手の位置を膝くらいまで下げられたボニーは、自然と背後にいるロウの腰を突きだした体勢になる。

 

「んふうっ、んんっ」

 

 ボニーは身体がびくりと反応させた。

 ロウが後ろからボニーに股間を指で愛撫し始めたのだ。

 このロウの指はすごい。

 信じられないくらいに、あっという間にボニーの全身は大きな愉悦に包まれる。

 少しずつ欲情するとかいう生易しいものではなく、身体の芯から無理矢理に快感を掘り起こされるという感じなのだ。

 

「あっ、あはっ、はあっ……」

 

 股間から沸き起こる昂ぶりと歓喜が身体を席巻する。

 ボニーは、このロウに捕らえられるまで、これほどの興奮を性で覚えるということはなかった。

 媚薬の香を吸わされながら、キシダインに犯されたときには、怖ろしいほどに欲情したと思ったが、このロウから与えられるものは桁違いだ。

 まだ、ほんの数擦りしかされていないのに、早くもボニーは絶頂に向かって飛翔しかけていた。

 

「浅ましい女だなあ。そうだ。今度は声を我慢させてみようか。許可なく喘ぎ声を出すな──。コゼ、もしも、声を出したら、どこでもいいから蝋燭の蝋を身体に垂らしてやれ。なんだったら、炎で炙っても構わんぞ。火傷くらいだったら、スクルズ殿の『癒しの風』ですぐに治るはずだ」

 

 スクルズというのは、やはり、第三神殿の筆頭巫女のスクルズという神官のようだ。

 よく名が出てくるが、口ぶりからすれば、ロウの女のひとりのようだ。

 だが、第三神殿のスクルズといえば、このハロンドールの王都では、魔道遣いとしては第一人者のはずだ。

 しかも、美人だと耳にする。

 この男は、どこまで王都中の主立つ女に手を出しているのだと呆れた。

 

 それにしても、声を出すなという命令に、ボニーはぞっとした。

 慌てて、口をつぐむ。

 

「じゃあ、ご主人様の命令ですからね。我慢するんですよ、ボニー」

 

 ボニーの洩らした尿を掃除したコゼが、燭台から蝋燭を持って来た。

 熱そうな蝋燭の炎と蝋がこれ見よがしに、ボニーに示される。

 ボニーは恐怖に包まれた。

 

「じゃあ、始めるか。ところで、快感が増幅するように、贈り物をしてやろう」

 

 そのとき、ロウがくすくすと笑いながら、ボニーの目にすっと触れたかと思った。

 

「あっ、な、なにっ、な、なんで?」

 

 ボニーは悲鳴のような声をあげてしまった。

 ロウがボニーの瞼にそっと触れたかと思うと、突如として瞼が閉じて開かなくなってしまったのだ。

 

「……最初に言ったと思うがなあ。お前の身体は、俺が淫魔術ですっかりと支配しているんだぞ。瞼が開かなくするくらいのことはもう簡単だ。もう、二十発以上も精を注いでいると思うしな。ほかにも、こんなこともできるぞ」

 

 ロウがぽんとお尻を叩いた。

 その瞬間、ボニーの身体はまるで炎に炙られたかのようにかっと熱くなった。

 

 なに、これ……?

 

 ボニーは狼狽した。

 なにもしないのに、汗が噴き出てくる。

 さして、身体の芯からただれるような疼きが沸き起こってくる。

 これは、なんだ……?

 

「これが感度十倍の世界だ。一度、この感度で犯されると、身体がこの快感を覚えてしまって、普通のセックスじゃあ我慢できなくなるぞ」

 

 そのとき、前側の乳房にすっと手が伸びた。

 峻烈な甘美感が乳房に弾け飛んだ。

 

「んはああっ」

 

 ほとんど絶叫に近い嬌声だった。

 それくらいに凄まじい熱情だったのだ。

 

「あらあら、ご主人様のたったひと触りで、これ?」

 

 コゼの声が横でした。

 

「ひぎいっ」

 

 ぽたぽたとお尻に垂蝋が落ちてきた。

 尻の焼けるような痛みに、ボニーは喉の奥で呻いた。

 

「ふあああっ」

 

 その次の瞬間だった。

 股間にロウの怒張がすっと挿入されてきたのだ。

 ロウの亀頭は、ボニーの感じる場所を確実に擦りながら奥に進んでくる。

 しかも、そこから流れる愉悦は、快感などという生易しいものじゃない。

 それこそ、身体を快楽の槍で串刺しにされたような気持ちよさが全身を包む。

 こんなの無理──。

 ボニーは心の中で叫んだ。

 これほどの快感の中で、声を出さずにいられるわけがない。

 

「ちょっとは、我慢しようとしてよ」

 

 コゼの苦笑するような声がした。

 ぽたぽたと背中に蝋がたらされた。

 灼熱の痛みが背中に拡がる。

 一方で、ロウの律動が始まる。

 ボニーはその衝撃に身体を弓なりにした。

 痛みと快感にまぜこぜにされて、ボニーは早くもおかしくなりかけた。

 

「んふううっ、ふうううっ」

 

 気持ちよさで、喉から声が迸る。

 すると、コゼがまた揶揄の声をかけて、蝋を身体に垂らした。

 もう、声を耐えることなんて不可能だと悟ったし、というよりもそれどころじゃなかった。

 ロウの与える股間への律動は、一打一打が快感の暴力そのものだった。

 凄まじい快感が一発一発やってくるのではない。

 まるで雨でも注がれるように強烈な愉悦が次々に襲い、炸裂し、弾け飛ぶ。

 それが延々と続くのだ。

 

 コゼから与えられる垂蝋は、ほとんど身体に受けっぱなしの状態になった。

 だが、ボニーにはそれすらもありがたい気がした。

 こんな快感など、まともに受けたら、とても正気ではいられない。

 なんとか理性を保てるのは、コゼが蝋の熱さで、少しだけ快感を引き戻すからだ。

 それでも一回目の絶頂はすぐに訪れた。

 ボニーはコゼの蝋を受けながら、がくがくと身体を震わせて気をやった。

 

 そのときだった。

 

「ロウ様、コゼ、なにをしているんですか。犯すのはいいけど、拷問をしながらなんて、可哀想すぎます。それに、今回のことについては、いくらなんでも度を越してます。ロウ様、目を覚ましてください」

 

 怒ったような声が部屋に轟いた。

 どうやら、エリカのようだ。

 

「なんだ、お前。ここには来るなと言っただろう。ボニーへの扱いが気に食わないなら、一階にいろと言ったはずだぞ。こいつは、俺たちを殺しに来た刺客なんだぞ。どんな扱いをしたって構うものか」

 

 ロウが不貞腐れたような声を出して舌打ちした。

 

「で、でも……。とにかく、ロウ様は今回はおかしいです。なにか、お考えのことがあるなら、教えてください」

 

「うるさいって、言っているだろう。考えなんかない。一度、拷問のような責めをやってみたかっただけだ。俺はもともと、こういう性癖なんだよ。放っておいてくれ」

 

 ロウが怒鳴った。

 次の瞬間、部屋の中でがらがらと鎖が鳴る音がした気がした。

 

「きゃああああ」

 

 そして、エリカの悲鳴が迸った。

 どうしたのだろう?

 視界を塞がれているボニーには、なにがどうしたのかわからない。

 

「馬鹿ねえ、エリカ……。ご主人様に逆らうなんて……。だから、そんなことになるのよ」

 

 コゼが呆れた声を出している。

 

「興醒めだな」

 

 ロウが不貞腐れたように、荒々しく律動を再開した。

 再び愉悦が迸る。

 二度目の絶頂まであっという間だった。

 今度は、コゼの垂蝋はなかった。

 

「あはあああっ」

 

 ボニーはほとんど咆哮していた。

 そして、長く深い絶頂を続けるボニーに、ロウが精を放ったのがわかった。

 

「コゼ、失神するまで、淫具で責めていろ」

 

 ロウがボニーから離れた。

 そのとき、ロウの手がぽんとボニーの頭に触れた。

 すると、凍りついたように動かなかったボニーの眼がすっと開いた。

 

「あっ」

 

 ボニーは叫んでいた。

 少し離れた場所で、エリカが片脚の足首に足枷を装着されて、宙に浮かされている。

 両手首は背中側で手錠を嵌められてるようだ。

 ロウもコゼも、ボニーから離れた気配はなかったので、どうやって、そんなことがエリカにできたのかわからない。

 だが、ボニーに対するロウの行為をたしなめたエリカは、その罰として、ロウによって、片脚だけで宙吊りにされてしまったようだ。

 

「う、ううう……」

 

 エリカが苦しそうに呻いている。

 そのエリカのスカートは完全に垂れ下がり、白い下着が露わになっていた。

 

「エ、エリカ……。あ、あんた、エリカになにを……?」

 

 驚いてボニーは言った。

 なんだかんだ言っても、いまの段階ではエリカは、ロウの仲間であるはずだ。

 それなのに、あんな扱いするなんて……。

 

「気にしなくていいのよ。あんなの、あたしたちの日常よ……。ごっこ遊びのようなものよ……。それよりも、あんたの相手はあたしよ。まだ、感度十倍のままなんでしょう? きっと狂っちゃうわね」

 

 コゼが言った。

 

「んひいいいっ」

 

 ボニーは全身をがくがくと反応させた。

 コゼが背後から、さっきまでロウの怒張が埋まっていた場所に振動する張形を挿入してきたのだ。

 まだ、絶頂の余韻の続けている身体が、さらに飛翔させられる。

 

「こっちもよ」

 

 そして、さらに淫具の責めを受けている女陰のさらに上の菊座にも、コゼは長細い感じの淫具をゆっくりと押し込んできた。

 潤滑油のようなものを塗っているのか、その淫具もまた、それほどの抵抗なく肛門に挿し込まれてしまう。

 全身が引き裂かられるかと錯覚するような快感が全身に拡がる。

 ボニーは泣き叫んだ。

 

「あがああっ、はああっ、や、やめてっ、も、もう許して──」

 

 悲鳴をあげた。

 これはすごすぎる。

 

「しばらく、入れっぱなしにしてあげるわね。気を失うまで絶頂を繰り返したら、解放してあげる」

 

 コゼが意地悪くくすくすと笑った。

 だが、もう、なにも考えられない。

 ボニーは、発狂するような快感に我を忘れた。

 

 ふと見ると、ロウがエリカの股間から下着をはぎ取っていて、いまはエリカの無毛の股間に、さっきまでコゼがボニー使っていたと思われる蝋燭を近づけていた。

 そして、驚いたことに、上を向いているエリカの股間に深々と蝋燭を突き挿したのだ。

 ボニーは驚愕した。

 

 しかし、正気を保てたのは、そこまでだった。

 ボニーは、股間から襲いかかるふたつの淫具が起こす残酷なまでの快感に、すっかりと意識を飲まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ボニー……」

 

 声がした。

 

「……ボニー。起きて……」

 

 もう一度、声……。

 

 エリカ……?

 耳元でささやいているのは、エリカの声だと思った。

 たちまちに脱力感が襲って来た。

 

 そういえば、あのコゼの淫具責めに遭い、覚醒させられつつ数回失神させられ、その挙句に完全に意識を失わされた。

 あれから、少し休ませてもらったのか……?

 どうやら、床に寝ているようだ。

 

 そして、はっとした。

 なにかに拘束されているという感じがない。

 まるで、なにも拘束具がない状態のようだ。

 慌てて目を開く。

 床にうつ伏せに倒れたように放置されていたボニーの前に、エリカがしゃがみ込んでいた。

 どうやら、エリカは、さっきのロウからの拷問から解放されたようだ。

 確か、逆さ吊りにされて、蝋燭を股間に突っ込まれ、ロウから何度も「もうしません」という言葉を繰り返し叫ばされてたと思ったが……。

 

「ボニー、話はなしよ……。逃げなさい。この地下室の奥に換気口があるわ。そこから地上に出られるわ。出たところは屋敷の裏庭よ。そのまま屋敷の壁を越えて、城郭の喧噪に紛れるといいわ。あとは、あんたの能力があれば、逃亡も可能でしょう?」

 

 エリカが早口で言った。

 驚いて身体を起こした。

 やっぱり、ボニーには、拘束具は装着されていない。

 というよりは、いま、エリカに外されたという感じだ。

 鎖が天井から繋がった枷が、ボニーの身体の横に置かれている。

 

「な、なんで……?」

 

 びっくりして、周りを見回した。

 どうやら、エリカひとりのようだ。

 ふと見ると、エリカは上衣と半ズボンと靴を準備してくれている。

 

「下着までは揃えられなかったわ。とにかく、いまなら逃げれるわ。ロウ様たちは、わたしに見張りを命じて一階に休みにいったわ……。あなたは、しばらくは目が覚めないと思われているのよ……。だけど、しばらくしたら、降りてきて、また拷問を再開するわよ。もっとひどい拷問を……」

 

 エリカの言葉に、ボニーはぶるりと身体を震わせた。

 冗談じゃない。

 このまま、責められ続けたら、どうにかなってしまう。

 しかし……。

 

「な、なんで、あんたは、わたしを助けるの?」

 

 ボニーはエリカの差し出す衣類を受けながら言った。

 

「……いくらなんでも、こんなの間違っているわ。あんなのロウ様じゃない。いくら、送られた刺客だといっても、限度というものがあるわよ。人を毀すために責めるなんて」

 

 エリカは怒っているようだ。

 よくわからないが、そういえば、エリカは、ずっと、ロウのボニーに対する仕打ちに反対していた。それが、さっき受けたロウからのエリカ自身への仕置きで、頭にきたということだろうか。

 そういえば、この女は真面目で直情的だった。

 そして、よくわからないが、ボニーをロウから助けようとしてくれているようだ。

 

「……あ、ありがとう……。だ、だけど、あんたが……」

 

 とにかく、それだけを言った。

 すると、エリカがにっこりと微笑んだ。

 

「……わたしのことは心配しなくていいわよ。ちょっと、お仕置きを受けて、それで終わりだから。ロウ様がわたしたちを責めるのは、日常のことなんだから」

 

 エリカが言った。

 ボニーは、その表情から、ロウの淫魔術の恐ろしさを知った気がした。

 エリカは、ロウの今回のやり方に反発しながらも、本質的なところでは逆らう気はないようだ。

 女を完全に支配してしまう淫魔術……。

 間違いなく、エリカはロウの操りの支配状態に違いなかった。

 

「……それと、これ。きっと逃亡するのに役に立つわ。万が一にも、ご主人様が追いかけてくることを考えて、これを使うといい。あなたの持ち物だったものよ」

 

 エリカが「変身の指輪」を差し出した。

 ボニーが、小離宮に侵入するときに侍女に変身するために使ったものだ。

 それは、ロウたちに捕らえられたときに、衣類とともに取りあげられていた。

 

「感謝するわ」

 

 ボニーはそれを受け取って、すぐに指に嵌めた。

 全身に魔道の力が注ぎ込まれるのを感じる。

 これなら、いける……。

 ボニーは腹を決めた。

 

「……とにかく、逃げて。こうしている間にも、ロウ様は戻って来るかも……」

 

 エリカが促した。 

 ボニーは頷いた。

 そして、エリカの胸に向かって、指を突き出した。

 

「うっ」

 

 エリカが喉をあげて身体を強張らせた。

 ボニーの技のひとつである経絡突きだ。

 定められている身体のつぼを強く押すことで、瞬時に人を弛緩させたり、気絶させたり、あるいは息を止めたりもすることができる。

 エリカが崩れ落ちる。施したつぼは、一瞬にして相手を気絶させるつぼだった

 

「……悪いわね。だったら、あなたに変身させてもらうわ。あのロウの息の根を止めてあげる。それで、あなたは、ロウの淫魔術から解放されるわ。せめてものお礼よ。一緒に逃げましょう……。ロウが死ねば淫魔術は解けるわ……。そうしたら、あなたは自由になる。せめてものお礼よ」

 

 ボニーは倒れたエリカに声をかけると、すぐにエリカから服を脱がせ始めた。

 そして、エリカが身に着けているものを着ていく。

 エリカは腰に短剣も下げていたが、それも身に着ける。

 最後に、じっとエリカの顔を見る。

 自分の身体が変化するのがわかった。

 これで変身の指輪が作動して、ボニーの姿はエリカそっくりになったと思う。

 

 そのまま、部屋を出た。

 だが、ぎょっとした。

 すぐそばにロウがいたのだ。

 いまにも、さっきまでいた拷問室に入ろうとしている。

 

「おう、エリカ。ボニーはまだ意識が戻らないのか? だが、念のためだ。目を離さないでくれ……。まあいい。俺が交代するから、お前は一階に行って……」

 

 皆まで言わせなかった。

 ロウが喋り終わる前に、ボニーの持っていた短剣は、深々とロウの胸に吸い込んでいる。

 特に武芸の心得もないようであるロウに逃げられるわけもなく、ボニーの短剣は確実に致命傷をロウに与えることに成功していた。

 

「うっ、ぐっ……」

 

 ロウが断末魔の呻きをした。

 短剣を抜く。

 胸から血を噴き出しながら、ロウが物も言わずに崩れ落ちた。

 

「ざ、ざまあみろ……」

 

 ボニーは血だまりに倒れたロウに吐き捨てた。

 これまでに受けた様々な責め苦が頭に蘇り、一気にその溜飲がさがった気がした。

 ボニーは、ロウが死んだのを確かめるために、ロウの身体の前にしゃが込んだ。

 

「……う……あっ……」

 

 しかし、ロウはまだかすかに息をしていた。

 そのあいだにも、血はだくだくと流れ続けているが、すぐに息をしなくなるだろう。

 だが、そのとき、不自然なものを感じた。

 傷が小さくなっている……?

 ふと見ると、ロウの胸の傷は心なしが小さくなっている気がする。

 

 なんで……?

 ロウの傷は即死に値する傷のはずだ。

 それなのに……。

 そして、ボニーは、おそらくロウの身体には、なんらかの魔道がかかっていて、ロウ自身が傷を自力で癒す力があるのではないかと悟った。

 そうだとすれば、ロウはすぐに回復する。

 ボニーは慌てて、短剣の刃を首に当てた。

 

「……だったら、首を斬られても死なないか見せてみて……。これでも死ななければ、あたしも諦めるわ」

 

 ボニーは力の限り、短剣を押し込んだ。

 ロウの首が胴体から切断されて、身体から分断される。

 切断部の首から血が飛び出る。

 もう一度、ロウの身体を確かめる。

 今度は、確実に死んでいる。

 念のために、首を蹴飛ばして、胴体から遠くにやった。

 

「エリカ」

 

 ボニーは自分を助けてくれたエリカを起こすために、急いで部屋に戻った。

 ロウは死んだ。

 淫魔術はもうない。

 これでエリカは操りから解放されて、正気に戻ったと思う。

 

「エリカ──。エリカ?」

 

 部屋に戻ったボニーは、すぐに床に倒れたままのエリカに違和感を覚えた。

 

「エリカ?」

 

 慌てて駆け寄った。

 エリカは気を失ってなどなかった。

 すでに死んでいる。

 愕然とした。

 

 なぜ?

 ボニーが打ち込んだのは、気絶させるだけの急所だ。

 死ぬわけがないのだ。

 

 だが、エリカは間違いなく死んでいる。

 わからない……。

 なぜ、エリカが死んだのか……。

 これも、ロウの淫魔術……?

 もしかして、自分が死んだら、女たちを道連れにするように、淫魔術を仕掛けていた?

 

 ボニーがロウを殺したから、エリカまで殺してしまったのか?

 わからない……。

 とにかく、逃げよう……。

 ボニーは決心した。

 

 逃げる──。

 もう、振り返らなかった。

 再び廊下に飛び出して、さっきエリカが教えてくれた換気口とやらに向かう。

 廊下には、首と胴体が離れたロウの身体が、血の中に倒れたままだった。

 その姿には、まったくの変わりはない。

 ロウが死んだのを確信し、ボニーは地下室の奥にあるはずの脱出場所に向かって駆けた。

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