【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
足音がした。
目を開くと、シャングリアの姿をしたサキ、そしてコゼが一郎の首のそばに立っている。
「うわっ、これは心臓に悪いですね。嘘とわかっていても眼を回しそう」
コゼが声をあげた。
「
くすくすと笑いながら、シャングリアの姿のサキの手が一郎の首をひょいと持ちあげて抱えた。
そのとき、目の前の部屋の扉が開いてエリカが現われた。
「ロウ様、ご無事ですか?」
そのエリカが真っ蒼な顔をして叫んだ。
一郎は苦笑した。
「もう、演技はいいよ、サキ。こっちのエリカも消して、元の姿に戻れよ。そして、俺の身体も繋げてくれ」
一郎は言った。
次の瞬間、一郎の首は倒れていた胴体と繋がっていた。
もちろん、辺りに拡がっていた血の海もないし、身体の傷もない。
あれは、すべて、サキの作りだした幻想だ。
ふと見ると、そばにいるシャングリアとエリカの姿がそれぞれにサキに変わった。引き続いて、そのふたりのサキが集まり、ひとりに統合される。
もちろん、ここは、王都側の屋敷でも、城郭外の幽霊屋敷でもなく、サキの作った仮想空間である。
すべては、ボニーを仕掛けるために企てた嘘の舞台だ。
時間だって、何日も過ぎていない。
ボニーは十日近くも過ごした気持ちになっているはずだが、仮想空間の外と中を行ったり来たりしている一郎には、実際には丸一日ほどの時間しか過ぎていないことはわかっている。
ボニーの始末は大切だが、それよりもイザベラのことだ。
操心術で自白をさせたところによれば、ボニーはロウを襲おうとしたのではなく、キシダインの指示を受けて、イザベラ王女を襲撃しようとしたのである。
ボニーが様々な警戒をかいくぐって、簡単に王女の前にやって来ることができたというのも問題だし、イザベラを守るはずの侍女たちにも。キシダインの息のかかった間者が紛れ込んでいたというのも驚きだ。
なによりも、一郎やエリカを狙うアスカたちと、キシダインが通じていたというのも驚愕した。
とにかく、今回のことで、一郎はイザベラを守るためにも、一郎自身の安全を確保するためにも、キシダインを排除しなければならない必要性を認識した。
今回のことが早晩、アスカ側に伝わるのは必至だろう。
もちろん、それなりの処置はするが、放っておけば、キシダインを通じてでも、アスカ側には絶対に伝わり、ロウとエリカのことも、はっきりと認識するはずだ。
だから、それよりも早く手を打つ。
一郎はそう決めた。
「悪かったな。ひとりでふたりの身体を動かすというのは大変だったろう? 本当はコゼだけじゃなく、エリカとシャングリアも連れて来て協力させたかったんだがな……。シャングリアはとにかく、エリカは本当に大根なんだ。まったく、演技なんてできないんだよ……。シャングリアも拷問役はできないだろうし……。それで、サキにふたり分を動かしてもらうしかなかったんだ」
「だいこん?」
サキが首を傾げている。
「ご主人様の故郷の言葉で、演技の下手な役者を表す言葉なんだそうよ、サキ。どうして、そうなのかは知らないけど」
コゼが笑った。
三人の女の中で唯一仮想空間への同行を許されたのがコゼだ。
無論、ボニーを騙すためだが、性格が真っ直ぐすぎるエリカは、まるで演技なんかだめで、この手の細工には役に立ちそうになかった。
だから、置いてきた。
シャングリアについては、意外にも、他人を欺くような芝居もできるのだが、エリカを置いていき、シャングリアとコゼを連れていけば、エリカが拗ねるだろう。だから、大した役目もないし、シャングリアも置いてきた。
それに、女騎士の爵位を持っていて、ある程度は、宮廷にも出入りのできるシャングリアの存在は、現実の世界側でいろいろと動いてもらうために必要でもあった。
だから、エリカとともに残ってもらったのだ。
「なるほど、だいこんか。それはともかく、あれくらいのことはなんてことないぞ、主殿。シャングリアのわしは、ただ、主殿のおちんぽを味わっておっただけだったしな。エリカのわしは、ほとんど出現しておらん」
サキも笑った。
「ところで、ボニーはどうなったの、サキ?」
コゼだ。
「主殿に言われたとおりに、エリカのわしが誘導して、地下室の換気口からここを出るように仕向けた。外に出たところで一度気を失わせ、現実世界側にいるブラニーやエリカたちに引き渡した。向こうでどうなったかは連中に訊ねないとわからん」
「地下室の換気口? わからないわねえ。ボニーはネズミにでもなったの?」
コゼは首を傾げている。
当然だろう。
エリカの姿だったサキは、一郎が指示したとおりに、地下室の換気口から逃げるようにボニーを促し、一郎を殺したボニーは、それに従って逃亡した。
だが、ボニーを拷問するために準備した場所は、ブラニーのいるスクルズが持ち主の王都側の一郎たちの屋敷だし、幽霊屋敷側と異なり、地下層はあれほど大袈裟なものじゃない。一室しかなく、いまここに立っている廊下も、実際には存在しないものだ。
実際の換気口は、一階にあがる階段室にある小さな伝声管のようなものだ。
とても人が通り抜けられるような場所ではない。
だから、コゼは不思議に思ったのだろう。
「仮想空間の特別性だ。人が通り抜けられくらいに大きくしてもらった。いずれにしても、ボニーは逃がすんだからな。本当の侵入経路を教えやしないよ」
「そういうことですか。でも、脱出した天窓は偽物だったとしても、屋敷の存在は知られたんですよね。エリカの言い草じゃないけど、やっぱり危険じゃないですか? まあここは、王都側の屋敷ですけど」
コゼが言った。
そのとおりであり、最初にボニーを連れ込んだのは、いつもの郊外の幽霊屋敷だ。しかし、スクルズの操心術と一郎の淫魔術のふたりがかりの訊問でなにもかも白状させた後は、表向きには、一郎たちの屋敷ということになっている王都内の屋敷にいると思わせるように細工をした。
ボニーが脱出したときには、その屋敷に裏庭に出たはずである。
「いや、それについては、スクルズとブラニーが危険を引き受けてくれたよ。ボニーは俺とエリカが死んだという情報を持って逃亡する。だから、それがアスカに伝われば、もう興味がなくなるはずだけど、逃がすことで、ボニーは屋敷の情報も持っていくことになる。だから、俺たちが死んだという嘘がばれて襲撃をされるとすれば、俺たちの本来の屋敷ではなく、こっち側の屋敷が先になる。それで第二の刺客がやって来たことがわかるということだ」
一郎が王都から逃亡しない代わりに、襲撃者を引きつけるための場所にしようと提案してきたのは、スクルズ本人である。
もともと、その狙いがあったのは確かだが、この小さな屋敷には、ウルズもいるし、スクルズとベルズが交代でウルズの面倒も看に来ている。
そこをはっきりと、危険な状態に晒すのは気が引けた。
クライドとボニーの襲撃があったことで、最初の構想はご破算にしようと思ってたくらいだ。
だが、一郎の危険を少しでも逸らせるために、はっきりとこの屋敷が一郎の屋敷だと情報をあえて流すことをスクルズ自身が提案してきた。
迷ったが、一郎は乗ることにした。
アネルザも、マアも、すでにアスカ対策のために動き出してくれている。スクルズとしても、なにかできることをしたいと強く思ってくれたのだろう。その気持ちが伝わってきた。
一郎の周りにいる女と一郎の中で、誰よりも弱いのが一郎自身だという自覚はある。
だから、助けてもらうことを遠慮するのはやめた。
とにかく基本方針は次の通りだ。
以前からそうしていたが、これからは、この屋敷こそが一郎の住まいだと積極的に喧伝する。そして、襲撃を受けた場合は、スクルズとブラニーで対応しつつ、ロウにそれを知らせてもらう。
その一方で、逆に、一郎たちは死んだという情報も別に流すのだ。
とはいっても、この王都では、すでに有名人になりつつある一郎が死んだことにするのは王都では不可能であり、ボニーに一郎たちの死を伝えさせ、さらに、あくまでもギルドの記録を改竄する程度だ。
駄目で元々の処置だが、アスカはここから遥かに遠いアスカ城である。
キシダインのような、アスカ側と繋がっているような者がいなくなれば、案外に通じるんじゃないかと思っている。
そして、アスカ側に通じているとわかったキシダインについても、最終的には排除する。
これについては、もう一郎も覚悟した。
イザベラ王女を守るためには、キシダインとの対決は必至だ。
「ところで、主殿、さっき主殿が称した“だいこん”どもが、漆黒の本の前に集まっているぞ。スクルズもな。おそらく、主殿が心配なのだろうなあ」
サキだ。
「あいつらが?」
漆黒の本というのは、前の主人がこのサキの仮想空間に入るために使っていた淫気のこもった魔道具だ。
サキの仮想空間に入り込むためのアイテムである。
「わかった。呼び寄せてくれ」
一郎は言った。
すると、すぐにエリカとシャングリアとスクルズが目の目に出現した。
「ロウ様、無事ですか?」
開口一番、エリカがまるで叱るような口調で叫んだ。
「見ての通りだ。ぴんぴんしているよ。ボニーは死んだと思っているはずだがな」
「仮想空間から現実側に戻ったボニーはどうなったの?」
コゼがエリカたちに訊ねた。
すると、シャングリアが応じた。
「ロウの指示のとおりにしたぞ。屋敷の裏庭に出現したボニーを見張った。屋敷に戻ることも警戒したが、そんなことはしなかったな。そのまま屋敷の塀を乗り越えて逃げていった。一応、城郭の外に出るまでは、エリカとスクルズと一緒にこっそりと見届けたが、まっしぐらに街道を進んでいったから、まあ、大丈夫と思う」
「城郭の外に出た? だって、ボニーが逃げ出したのは、さっきのことよ」
コゼが眉をひそめた。
「さっき? ボニーが屋敷の一階に戻されたときの話をしているのか? あれから、半日はすぎているぞ」
シャングリアも疑念の口調で言った。
すると、サキがくすくすと笑った。
「ここと現実世界は、時間の進み方が違うのだ。忘れたのか?」
サキの説明に、シャングリアとコゼはそれぞれに納得したような顔になった。
一方で、ロウとしても、思惑通りにボニーが、ロウたちが死んだと信じ込んで城郭を出てくれたことに安心した。
「ところで言われたとおりに、邪魔は一切しませんでしたが、ボニーは城郭から出たところで、魔道通信を放ちました。なにか、特殊な力で魔道を増幅されていたみたいですね。おそらく、かなりの遠距離通信だと思われます」
スクルズが口を挟んだ。
一郎は頷いた。
「ボニーの能力のうち、通信魔道が特殊に増幅されているのは、淫魔術で支配したときにはわかっていたよ。おそらく、俺とエリカの暗殺を成功したときに、報せることができるようにされてたんだと思う。だけど、あれが最後だ。俺たちの死をアスカ城にした魔道通信を最後に、ボニーに与えられていたすべての暗示は消滅するように淫魔術で細工をした。いまこの時点では、ボニーは誰にも支配は受けていない状態だ。俺の淫魔術は別にしてね」
もっとも、ボニーをもともと支配しているのはアスカであり、アスカの魔術遣いレベルは、一郎の淫魔師レベルを上回るので、アスカの支配を完全に除去できたのかどうかはわからない。
しかし、一郎がボニーを捕えたとき、ボニーの施されていた隷属の首輪による支配者そのものは、アスカから、パリスという男に移り、さらにキシダインになっていた。
だから、首輪が外せた。
それで、そのままボニーを淫魔術で取り込むことも考えたが、やはり危険すぎると思った。
一郎の淫魔師レベルを超えるアスカの支配が本当に外れたのかどうか不明だし、考えた末に、ひと芝居打ってわざと逃亡させることにしたのだ。
ボニーは一郎のことを死んだと信じ込んでいるので、万が一、アスカのところに戻っても、一郎たちの死を伝えるだけのはずだ。
だが、一郎はおそらくは、ボニーにかかっていた隷属の支配は解かれたのではないかと思う。
最後の支配のしがらみは、一郎があえて残していた魔道通信だけだ。
それを行うことを最後に、ボニーは我に返って、すべての隷属から解放されるはずだ。
自由になったボニーがどうするのかわからないし、そもそも本当に自由になったのかどうかもわからない。
だが、逃がすと決めた以上、多少面倒だったが、念のために、こうやってひと芝居を打つしかなかったのだ。
「……それにしても、まだ、わたしは納得していません。わざわざ捕らえた刺客を逃がすなんて……。いくら騙したといっても、あのボニーについては、ロウ様は完全には支配できたかどうかわからないんですよね? やはり、アスカ様のところに戻って、支配され直されてから、もう一度やってきたらどうするんですか」
エリカが強い口調で言った。
一郎は苦笑した。
エリカをこっちに連れてこなかったのは、ボニーを騙すという演技ができないようだと判断したこともあるが、そもそも、エリカだけはボニーを生かして返すことは気に入らないようだったからだ。
もう納得したと思っていたが、まだ不承知だったようだ。
「だったら、殺すべきだったというのか? だって、操心術のときの訊問には、お前も立ち会っただろう、エリカ? ボニーの本質は冷酷な暗殺者じゃない。操られて仕方なくやっているんだ。あのクライドとかいう悪党とは違う」
「そうだとしても、わたしには、ロウ様の安全が第一なんです。もしも、ボニーが結局、アスカ様のところに戻ってしまえば……」
エリカが詰め寄って来る。
一郎は閉口した。
「お前も結構、冷酷だなあ。俺にはボニーはそれなりの善良な女のように思えたぞ。殺すのは気の毒だ」
「何度も言うようですが、ロウ様の安全が第一です。ボニーが可哀想なのは認めますが、ロウ様の安全には変えられません。ロウ様を守るためなら、わたしはいくらでも冷酷になってみせます」
「わかった。わかった。でも、もうボニーは逃がした。おそらく、あのアスカなら、俺たちが死んだと聞かされれば、それで満足するさ。あの女は、そんな性格だと、お前も保証したろう」
一郎は、何度もやった説明をもう一度エリカに繰り返した。
本当に、頑固で扱いにくい女だ。
まあ、それも可愛いのだが……。
「でも、今回のことはアスカ様じゃないんでしょう? あのパリスが指示したものだと……。アスカ城にいた頃のわたしの知識では、パリスなんて、アスカ様の小従のように思っていましたけど、実際には違ったんですよね? だったら……」
エリカがさらに言った。
まあ、エリカにとっては、一郎がついに狙われたというのが、相当に衝撃だったようだ。
本当にしつこい。
一郎は嘆息した。
「じゃあ、正直に言うよ……。彼女が外来人だということを知ったとき、俺はなんとか助けるつもりだったんだ。クライドは悪党だったから殺した。でも、ボニーについては殺したくなかったんだ。俺の場合はエリカが連れ出してくれたけど、召喚術で無理矢理に生きていた場所から離されて、二度と戻れない世界に連れて来られ、挙句に隷属の首輪で支配をされて、したくもない悪事をやらされる……。可哀想だろう……」
「あ……」
エリカがちょっと暗い表情になる。
一郎を強制的にこの世界に召喚したのはエリカ自身だ。
だから、一郎の言葉にちょっとばつが悪い思いをしてしまったのかもしれない。
一郎も、エリカが気にするかもしれないと思っていたので、どうして、こんな面倒をしてまで、ボニーを逃がしたのかということをはっきりと説明しなかったのだ。
「まあ、確かにもういいじゃないか、エリカ……」
シャングリアが口を挟んだ。
そして、一郎に顔を向ける。
「……ところで、ロウに報告しなければならないことがある。ボニーが化けていたイエンという侍女のことだが……」
イエンというのは、キシダインがイザベラ王女の小離宮に送り込んだ息のかかった侍女だ。
ボニーがそもそもロウを直接狙う前にイザベラ王女を狙ったのは、キシダインが裏で糸を引いたからだということもわかっている。
だから、ボニーのこととは別に、シャングリアにはシャーラと組んでイエンを探せと指示もしていた。
彼女を捕らえれば、キシダインの裏工作を告発できるのだ。
しかし、シャングリアは残念そうに首を横に振った。
「……イエンは死んだ。今朝、運河に落ちて死んでいるのを発見された。誤って水の中に落ちたということになっているが、キシダインが口封じをさせたのだと思う」
シャングリアが言った。
「死んだ?」
「申し訳ありません、ロウ様……。協力を命じられたのですが、力が及びませんでした。それと、ボニーが仕掛けた魅了術については、姫様の周りの者については、解除が終わりました。魅了術をかけられてしまっていたのは、ヴァージニア殿という女官だけで、ほかは問題ありません。もちろん、ヴァージニア殿についても、術は解除してます……」
スクルズがさらに言った。
一郎は息を吐いた。
イエンさえ保護できれば、キシダインがイザベラ王女に手を出そうとしたということについての生き証人になると思ったが残念だ。
スクルズには、ボニーが潜入したことによる魅了術の後始末と、シャーラたちの捜査の協力を指示していた。
残念ながら、イエンをさっさと殺されてしまった。
だが、それについても、一郎は腹がたった。
「なんてやつだ……。部下は使い捨てか──。だったら、ボニーを逃がすべきじゃなかったかもしれない。すまんな。逃がしたのは、半分以上は俺の我が儘だ」
そして、舌打ちした。
ならば、やはり、ボニーは留めておくべきだったか……。
彼女もまた、キシダインにそそのかされて、イザベラを狙おうとした生証人だ。
「いや、それについては、シャーラとも話し合ったが無駄だろうと思う。ボニーがいくら喋ったところで、所詮は余所者だ。しかも、ただの刺客だ。キシダインとの繋がりは消されていると思うし、ボニーがなにを喋っても、キシダインを告発する証拠にはなり得ん。用心深いキシダインのことだから、ボニーがなにを喋っても、自分とは繋がらないようにしているだろう」
シャングリアは言った。
一郎は頷いた。
いずれにしても、次はキシダインだ。
こいつが、イザベラ王女を暗殺しようとしているのは明白だし、しかも、裏でアスカ城のパリスと繋がっているということもわかった。
ボニーに訊問した限りにおいては、パリスがこのハロルドに持っている繋がりは、キシダインだ。
これを断ち切らないと、一郎とエリカの安全はかなり危ういものでしかない。
「……思い切った手を打つしかないのかなあ……。それと、イザベラ姫様のところに、簡単に刺客を入れられてしまったのも問題か……」
一郎は呟いた。
もうひとつの懸念は、イザベラ王女に仕えている侍女たちのことだ。
アネルザを動かして、一度解雇された侍女たちは戻してもらったが、結局のところキシダインの息のかかった者を侍女に含まされてしまった。
イエンについては、たまたま新しい侍女だったが、古くからいるといっても、安全とは限らない。
キシダインはかなりの権力者だ。
侍女としてイザベラに仕えている女の実家に圧力をかけて弱みを握り、自分の手駒にしてしまうことだってできるだろう。
「なにか言いましたか、ロウ様?」
エリカが言った。
「なんでもないよ」
一郎はわざと明るく応じた。
心配事をくよくよと考えても始まらない。
もう一度、刺客が送られるなら、そのときはそのときだ。
まあ、イザベラの侍女については、シャーラとでももう一度相談することにでもするか……。
「……ところで、せっかくの仮想空間だ。もうちょっと遊んでいこうか……。サキ、仮想空間の支配権を一時的に俺に移してくれよ」
「今度はなにをするのだ?」
サキが笑いながら、一郎の指示に従ったのがわかった。
この仮想空間が「サキの仮想空間」から「一郎の仮想空間」になったのだ。サキがいるときだけできる遊びだ。
一郎は、屋敷の地下の風景を消滅させて真っ白い空間に変えた。
そして、想像した──。
「な、なんじゃ?」
「うわっ」
「ちょっと」
「こ、これは……?」
「まあ……」
途端に、サキを含めた五人の女たちが驚きの悲鳴をあげた。
無理もない。
一郎は、仮想空間を操れる力を利用して、サキ、エリカ、コゼ、シャングリア、そして、スクルズの五人の首から下を消滅させ、その首を白いテーブルに横に並べるように固定したのだ。
「ロ、ロウ様、これは悪趣味です」
生首だけのエリカが五人を代表するように叫んだ。
「ちょっと、さっき思いついたプレイでな。死姦ごっこだ。お前たちの首から下は死んでいるという状況だ。そして、これを出す……」
一郎は、首の並んでいるテーブルの手前に白い寝台を出現させ、その上に白い女の身体の等身大の人形を出した。
ただし、その人形には首から上がない。
首から上の女たちがぎょっとしている。
「……この首のない人形は、お前たちの首に感覚が繋がるようにした。つまり、この身体に悪戯をすれば、本当には存在しない首から下の身体に受けている感覚として、首から上に伝わるということだ……。さて、とりあえず、クリトリスにでも悪戯するか。誰が一番早く音をあげるかな?」
一郎は笑いながら、右手に筆を出現させて、白い人形の股間をすっと撫ぜた。
そして、肉芽を中心とした場所を筆でくすぐってやる。
「うああっ」
「はああっ」
一番最初にいきなり大きな悲鳴をあげたのは、サキとエリカだ。
エリカは一番一郎との付き合いが長い分だけ敏感だし、クリピアスの効果もある。
サキについては、徹底的な調教によって、ロウ限定であるが超鋭敏な身体に作り替えている。
「あんっ」
次いでスクルズも甘い声をあげた。
「あっ、くっ……」
「う、うう……はああっ」
一方で、コゼとシャングリアは、そのふたりほどの激しい反応ではないが、やっぱり、すでに息があがりかけている感じた。
「受ける刺激が同じでも、違いが出るから面白いな。……じゃあ、一番の足の裏のくすぐったがりは誰だ? 自分の身体がないから、我慢することも避けることもできなくて、くすぐったさもひとしおになるはずだけどな」
一郎は笑いながら、筆先を足の裏に移動させる。
今度は五人ほぼ同時に、苦しそうな笑い声をあげ始めた。
「いやああっ、いや、んふふふふ、くふふふ……、ロ、ロウ様、や、やめて……ふふふふ……」
「あはあはは、だ、だめえっ、ぐふふふ……」
「い、いやじゃ、あああっ、はははは、しゅ、主殿──。こ、これは……」
「ははははは、ひいいいい」
「ああっ、ロ、ロウ様、ゆ、許して、許してください、あはははは」
顔だけの五人が真っ赤な顔になった笑いだす。
だが胴体もないので、首を動かすことでもできずに、ただつらそうに笑うだけだ。
しばらくやっていると、五人とも涙を流して必死の様子で許してくれと哀願してきた。
いずれにせよ、刺激する場所により、五人の女たちの反応が少しずつ変化することに愉しくなり、一郎は筆の場所を次々に変えて人形を刺激してやった。
しばらくすると、五人ともかなりの荒い息になり、反応もそんなに変わらなくなった。
ただ、一番汗をかいているのはエリカだ。
一番感じているのはサキのようだが、もっとも色っぽい顔をして悶えているのはエリカだ。ふたりの次はスクルズだろう。
また、声が大きいのもエリカである。
一方でコゼは、快感を噛み殺すような「うっ、うっ」という声が特徴で、シャングリアは本当に被虐に酔ったような朦朧とした表情をしている。
いずれにしても、無抵抗の女をいたぶるのは、本当に面白いし、反応の違いが愉快だ。
「……じゃあ、そろそろ、本番といくか。だけど、普通じゃ面白くないしな。手始めに、アナルセックスといくか。心配しなくても痛みはないぞ。伝わるのは快感だけだ」
一郎は人形を抱きかかえると裏返しにして、尻を一郎に突き出させる。
同時に自分の身体の服を消滅させた。
そして、ゆっくりと人形のアナルに怒張を埋めていく。
淫魔術の力で人形のアナルを柔らかくして、さらに潤滑油でいっぱいにした。
それほどの抵抗もなく、人形の肛門は、一郎の怒張をどんどんと受け入れていく。
「んはあっ、はっ、ああっ……はああ、ご主人様……」
いきなり激しくよがり声を出したのは、日ごろからアナルセックスの味を教え込んでいるコゼだ。
次いで、サキ、エリカ、スクルズ、シャングリアの順で反応が大きくなる。
「……一度目はアナル。二度目は前……。三度目は、俺をもう一人出して、前後から串刺しと行くか。それが終わったら、休憩代わりに、触手による全身愛撫だ。あっ、それだと休憩は俺だけか……。まあいい。今回手伝ってくれたみんなへのお礼だ。たっぷりと愉しんでくれ」
一郎がそう言いながら人形の尻をゆっくりとした速度で律動していく。
ますます五人の首から発する声が大きくなり、やがて、それが競うような悲鳴に似た声に変化していった。
(第25話『淫魔師の死』終わり)