※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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165 残酷な遊戯

 部屋でひとりで待っていたアンは返事をした。

 少し前まで、愛を交わしていたノヴァはいない。

 そろそろ、アンの主人のキシダインが客を連れて来る刻限になったので、アンが身に着けていたものを運んで立ち去っていた。

 服を持っていったのは、キシダインの言いつけだ。

 ノヴァは泣きそうな顔で何度も謝っていたが、謝る必要などないのだ。

 このキシダインや、その取り巻きにノヴァが逆らえるわけがない。 

 

 入って来たのは、キシダインと、その客であるらしいふたりの男だった。

 ノヴァによれば、外国人の賓客ということだったが、アンはすぐにふたりが誰なのかわかった。

 ローム三公国のひとつであるタリオ公国の上級貴族であるグラム兄弟だ。

 まだ、キシダインの妻になる前にも、この兄弟はハロンドール国を訪問したことがあり、王国主催の宴で数回顔を合わせている。

 まだ、アンが少女の時代だったが、ふたりから滲み出る粘着的な陰湿さが印象に残っていて、アンは一瞬にして、このふたりが嫌いになったのを記憶している。

 

 確か、兄がグラム=コブという名で、弟がグラム=ヴェルという名だったと思う。

 ふたりとも、すでに三十を超えているはずだ。

 久しぶりに会ったふたりだが、そのときの悪印象は、いまでも少しも変わらない。

 そのふたりが目の前にいる。

 アンは拡がる不安に気持ちを抑えられなくなった。

 

 どうしていいかわからず、アンは寝台に座ったまま、両手で剥き出しの乳房を隠したままでいた。

 三人は、アンの姿など見ようともせずに、つかつかと部屋を横切っていく。

 ノヴァが完全に出ていく前に、この部屋に三人分の竹編みの椅子が運び込まれていた。

 三人はそこに向かっているようだ。

 しかし、アンのすぐ横を通り過ぎるとき、弟のグラム=ヴェルの手が、アンの髪をむんずと掴んだ。

 

「きゃあああ」

 

 いきなり、髪の毛を引っ張られて、床に引きずり落とされた。

 さらに、床に倒れたところを横腹に蹴りを入れられる。

 アンは声もあげられずに、その場にうずくまった。

 

「まだ、蹴られてえのか、雌犬」

 

 グラム=ヴェルの足がもう一度飛んでくるのがわかった。

 慌てて起きあがろうとしたが、そのときには肩を思い切り蹴りあげられていた。

 アンの身体は床に二回、三回と転がる。

 

「アン、俺に恥をかかせるんじゃない。お前は客を接待する妻だろう。座ったままでいる無作法があるか。こっちに来て、挨拶をしろ」

 

 キシダインが笑いながら言った。

 そのキシダインは、兄のグラム=コブとともに、すでに竹編みの椅子に腰かけていた。

 

 アンはいきなり振るわれた暴力に対して、怒りや恐怖を感じるよるも、驚いてしまった。

 これまでキシダインは、何人もの客にアンを抱かせたが、いまのように暴力的なふるまいをする者はいなかった。

 仮にもアンは、この国の国王の実の娘であり、いかに奴隷的に扱われているとはいえ、キシダインの正妃だ。

 娼婦のように犯されても、男たちの接し方は、それなりの礼儀のようなものはあった。

 

 だか、このグラム兄弟のアンの扱いには、一片の敬意もない。

 無礼そのものだ──。

 いや、人間としても扱っていない。

 まるで「物」のように手酷く扱われたことに、アンはびっくりしてしまった。

 

「ひぎいい」

 

 だが、次の瞬間、目の前に火花が走った。

 グラム=ヴェルがアンの頬に平手を放ったのだ。

 アンは床に倒れ、その身体をグラム=ヴェルがまた足蹴にした。

 その様子をキシダインは笑いながら眺めている。

 アンの身体に今度こそ、恐怖が駆け巡った。

 とにかく、これ以上暴力を受けたくなくて、急いで起きあがる。

 

「……アン、お前はこのグラム兄弟殿の接待をすると聞かされなかったのか? 接待のときはどうするのだ? この前教えたはずだぞ」

 

 キシダインがわざとらしい呆れた声をあげた。

 すでに、グラム=ヴェルは、兄のグラム=コブの隣の椅子の位置に移動して座っている。

 アンはそれを追うようにして、とにかく、グラム兄弟の前に裸のまま立った。

 

「こ、今夜は、おいでいただき、ありがとうございます……」

 

 アンは深々と頭をさげた。

 キシダインに強要されている台詞だ。

 この夫は、自分の妻を娼婦のように客に抱かせるとき、こうやって屈辱的なふるまいや物言いをアンにすることを強要していた。

 そして、アンは、小さく唾を飲み込んでから、さらに言わなければならない言葉を続けた。

 

「……この奴隷妻の身体で……、存分にお愉しみください……」

 

 叩かれた頬がひりひりするとともに、蹴られた身体の場所がひどく痛みで疼く

 そのとき、ちょうど目の前だった兄のグラム=コブが舌打ちをした。

 そういえば、このグラム=コブは、なにかにつけ、この冷たい舌打ちをするのが癖だった。

 まだ少女だったアンは、なによりも、この舌打ちが虫唾が走るほど嫌いだった。

 

「生意気だな、お前──。お前、自分の立場がわかっていないだろう──。このキシダイン殿がいるから、俺たちに失礼をしても、許してもらえると思っているな──。だが、キシダイン殿には、お前が粗相をしたり、失礼をしたりすれば、容赦なく懲らしめて欲しいと言われているんだ。そんな態度を取り続けるんなら、キシダイン殿の前であろうと許さねえぞ」

 

 グラム=コブが怒鳴った。

 その権幕はすさまじかったが、アンはどうして叱られているのかわからず、素裸の身体を小さくして途方にくれた。

 

「あ、あの、なにかお気に召さなかったのでしょうか……?」

 

「当り前だ──。その挨拶の仕方はなんだよ。最低の雌犬だな。なんで、お前の頭は俺たち客の足よりも上にあるんだ。俺たちを甘く見ている証拠だろう」

 

 火を噴かんばかりの怒声が飛んだ。

 アンは、慌ててその場に跪て土下座をした。

 腰をおろす瞬間、アンは一瞬だけ、キシダインを見たが、キシダインは、自分の妻が客に暴力を振るわれたり、怒鳴られてしているのを心から愉しんでいるようだった。

 期待もしていなかったが、やはり、助けは得られそうにない。

 アンはとにかく、全裸で床に正座をして土下座をした。

 

「もっと前に来い──」

 

 今度はグラム=ヴェルが怒鳴った。

 いまにも蹴られるような怒りの響きが声に込められている。

 アンはぞっとした。

 恐ろしいとアンが思ったのは、それが決して作ったような怒りではなかったからだ。

 この男には病気のようなかんの強さがあるようだ。

 それがグラム=ヴェルをひどく苛つかせているように思えた。

 

「お前は、本当になにをやらせても遅せえなあ」

 

 グラム=ヴェルがアンの髪を鷲掴みして力任せに引っ張った。

 アンは、すぐに対応できずに、まだ同じ場所に留まっていたのだ。

 

「ううっ」

 

 アンは三人の足元に引き摺られた。

 

「もう一度、やり直せ」

 

 グラム=ヴェルが怒鳴った。

 

「ど、どうか……」

 

 アンは再び額を床に擦りつけた。

 

「ずぼらをすんじゃねえよ。立ったところからやり直すんだよ」

 

 だが、肩を蹴り飛ばされて、ひっくり返らされた。

 アンは急いで立ち上がる。

 

「……ア、アンです。ご、ご挨拶させていただきます」

 

 まずは直立不動の姿勢になり言った。

 そして、床に頭を付けるために屈む。

 

「声が小さい。まだ、舐めてる──」

 

 グラム=ヴェルの足がアンの腹にめり込み、アンは呻き声をあげながら、股を開いて仰向けに床にひっくり返ってしまった。

 その姿が無様だと言い、三人が同時に笑いこけた。

 

「……それはいい。アン、まずは足を開いて、がに股で自己紹介しろ。それから、全裸土下座で挨拶だ」

 

 キシダインが手を叩いて笑いながら言った。

 さすがに躊躇したが、アンがちょっとでも動きを静止させると、グラム=ヴェルの蹴りがアンの無防備な裸身に飛んでくる。

 アンは三人から命じられるままに、両脚を横に開いて腰を落とした格好で名乗りを言わされた。

 そして、床に膝を頭をつけて、土下座をする。

 

「遅い、やり直しだ」

 

 すると、グラム=ヴェルがまたもや、アンの肩を力任せに蹴りあげた。

 

「ひいっ」

 

 アンは泣き声をあげてしまった。

 

「ど、奴隷妻のアンでございます──」

 

 アンはとにかく、張りあげんばかりに叫んだ。

 最初の姿勢は、いまやっている中腰になり両脚を左右に拡げるという屈辱のがに股姿だ。この恰好から挨拶をして、すぐに土下座をして奉仕の言葉を告げる──。

 強要されているのは、その行為だ。

 だが、いまだに終わっていいという言葉はかけてもらえない。

 

 一度やるごとに、駄目な箇所を指摘され、殴られたり蹴られたりする。

 そして、やり直す……。

 果てしないほどに、それを繰り返している。

 身体は蹴られた青あざと、繰り返させられる土下座挨拶で汗びっしょりだ。

 しかし、少しでも気を抜けば、怖ろしい力で目の前のグラム兄弟に暴行されるのだ。

 アンは、身体がばらばらになろうとも、これを続けるしかない。

 

「待て、貴様──。まず、その姿勢がなってねえ──。眼は開けて、真っ直ぐだ。手は頭の後ろ──。馬鹿野郎が──。脚は開いても、背筋は真っ直ぐにしていろ──。そんなことも、言われなきゃわかんねえのか」

 

 じっとしていろと、弟のグラム=ヴェルに怒鳴られて、条件反射的に身体が竦んで静止した。

 だが、とまった瞬間に頬を張られて怒鳴られた。

 アンは目の前に火花が飛び、めまいで倒れそうになるのを耐えながら、胸を張り、下肢に力を入れて腰を踏ん張った。

 

「王家で我儘放題で育った低能女です……。しっかりと、躾けてやってください」

 

 キシダインが笑いながら言った。

 いまやキシダインは、ふたりから少し椅子を離して、横からグラム兄弟がアンを躾けるのを見学する態勢になっている。

 

「まったくですね。まあ、お任せください、キシダイン公。確かに馬鹿女のようですが、何度も殴れば、頭に躾が染みつくでしょう」

 

 兄のグラム=コブが笑いながら言った。

 そのとき、そのグラム=コブの靴の足先が開いているアンの股間に無造作に伸びた。

 

「ひっ」

 

 アンは思わず反射的に避けた。

 次の瞬間、はっとしたが、そのときには激昂したグラム=ヴェルの蹴りが腹の真ん中に食い込んでいた。

 

「はぐうっ」

 

 アンは後方に蹴り飛ばされて転がった。

 だが、痛む身体に鞭打って、急いで立ちあがる。

 すぐに起きなければ、さらに暴力が襲ってくることは、これまでの繰り返しでわかっている。

 とにかく、さっきの態勢に戻る。

 すると、グラム=ヴェルの火の出るような平手が飛んで来た。

 アンは辛うじて、倒れることを耐えたが、口の中に血の味が拡がった。

 

「なんで避けるんだ、この低能女──。兄貴がお前の股ぐらに触ってくれようとしたんだぞ」

 

「も、申しわけありません──。つ、つい……」

 

 アンは言った。

 だが、苛立ちのような舌打ちとともに、グラム=コブの蹴りが開いている膝の片側に飛んで来た。

 

「ひぐうっ」

 

 アンはその場に倒れてしまった。

 

「謝るときに立ったままでいる気か、この雌犬……」

 

 グラム=コブがわざとらしく呆れた声で言った。

 アンは慌てて、その場に土下座した。

 

「か、重ねて申し訳ありません──」

 

 今度こそ、ぴったりと床に額を押し付けた。

 次の瞬間、ずしりと靴の底が真上から頭に落とされた。

 

「んぐうっ」

 

 鼻が折れたかと思うくらいの衝撃だった。

 

「本当に低能だな。遅いんだよ」

 

 踏んだのは弟のグラム=ヴェルだ。

 

「お、遅れて申し訳ありません──」

 

 アンは頭を踏まれながら叫んだ。

 

「本当にそう思っているのか……?」

 

 兄のグラム=ヴェルの声がした。

 

「は、はい──。お、思っています。わ、わたしの至らぬ点を指摘していただいてありがとうございます」

 

 そのあいだも、グラム=ヴェルの靴裏の圧力が緩むことはない。

 

「本当にそう思って、さっきよりも頭をさげているのか、低能女?」

 

 グラム=コブだ。

 

「は、はい──。さげております。低能ですから、言いつけに従おうと努力しております」

 

 アンは言った。

 とにかく、このふたりを満足させるには、ひたすらに平伏して、恭順の態度をとることだ。

 さもなければ、さらに暴力を振るわれる。

 

「なんだと、だったら、俺の命じた挨拶は手を抜いていたということだな──。さっきはこれ以上、頭をさげることができないくらいに挨拶をしろと教えたろう──。それなのに、まだ頭をさげることができたということは、手を抜いていたということだ」

 

 横から頭を蹴り飛ばされた。

 

「んぎゅうう」

 

 アンはその場にぶっ倒れた。

 さすがに起きあがれなくて、ちょっと横になったままでいた。

 だが、その身体に容赦なく、グラム=ヴェルの蹴りが続く。

 アンは泣き叫びながら、土下座の姿勢に戻る。

 

「頭が高いと言ってんのがわかんねのかよ。額を床にめり込ませるんだよ。床よりも低くすんだ。気持ちがこもっていねえから、床がへこまねえんだ」

 

 また頭を踏まれる。

 アンは泣き叫んだ。

 すると、兄のグラム=コブのわざとらしい大きな嘆息が聞こえた。

 

「キシダイン公、そなたの奥方でなければ、腹立ちで殺しているところですよ。まったく、どうしようもない低能女ですな」

 

 そのグラム=コブが言った。

 

「殺すのは困りますが……。でしたら、代わりの者を連れて来ましょう。そっちでしたら、責め殺しても構いません──。おい、モルド──」

 

 キシダインが突然に大きな声を出した。

 

 モルド……? 

 アンは頭を踏まれながら首を傾げた。

 モルドというのは、このキシダイン邸に仕える執事だが、滅多にここに来ることはない。ただ、この部屋に入ることの許されている唯一の男の部下ではある。

 奥の扉が開いた気配がした。

 

「アン様──」

 

 そのとき、悲鳴のような声がした。

 

「あっ、ノヴァ」

 

 その声が紛れもなくノヴァだった。

 それとともに、頭の上のグラム=ベルの足が避けられたので、アンはとっさに頭をあげた。

 

 やはり、ノヴァだ。

 いつもの侍女の服を身に着けていて、執事のモルドに引き入れられるように入って来た。

 アンの姿に、すでに号泣していて、駆け寄ろうとしてくる。

 

「んぐううっ」

 

 だが、突然に悲鳴をあげて、その場に倒れた。

 呆気にとられたが、アンはノヴァが首に見たことのない首輪をしていることに気がついた。

 ノヴァはその首輪に両手をやり、もがき苦しんでいる。

 どうやら、首輪が締まり続けているようだ。

 アンははっとした。

 

「いやああ、やめて、やめてください。ノヴァを許して──」

 

 アンは脱兎のごとく立ちあがってノヴァに駆け寄った。

 ノヴァに駆け寄って抱き寄せたとき、ノヴァが突然に脱力した。

 驚いたが、首輪の締めがなくなっただけのようだ。ぐったりとなっているが、ノヴァは荒い息を続けている。

 とにかく、ほっとした。

 

「……これはもともとは下働きの娘なのですが、アンの侍女ということにしております。王族の娘ですが無作法女ですから、わざわざ貴族の子女もあてがうこともありませんしね……。実は、いまでは、このアンとは百合の仲なのですよ。アンの代わりに、この娘を殺していいですよ。首に魔道の首輪をさせてきました。ちょっと魔道をかければ、首輪が締まって、この侍女は死にます……。これなら、さすがにアンもおふたりの躾に身が入るというものです」

 

 キシダインが鬼畜に笑った。

 アンは驚愕して、ノヴァを強く抱いた。

 ノヴァを殺す──?

 そんなことはさせない──。

 させるわけにはいかない──。

 

「キ、キシダイン様、わたしはなんでもします。なにをされてもいいのです。で、でも、ノヴァだけは──。ノヴァだけは──」

 

 アンは悲鳴をあげた。

 だが、アンはグラム=ヴェルにより、無理矢理にノヴァから引き離された。

 そして、離された場所で、不意に足元に白い円が浮かんだ。

 魔道で描かれた円のようだが、アンを囲むように大きく円が床に浮かびあがっている。

 

「そこから出れば、この侍女の首輪が一気に締まって、首が引き千切れる。それが嫌なら、そこから出るな」

 

 グラム=ヴェルが冷たく言った。

 もう一度駆け寄ろうとしたアンは、その言葉で凍りついたようになってしまった。

 

「……どうです、グラム兄弟殿──。せっかくですから、ちょっと余興代わりに運動しませんか。おふたりに対して、このモルドと俺の組に分かれて、“蹴球”という遊びをしましょう。このところ、若い貴族で流行っている運動なのですがね。つまりは、ひとつの球をふたつの組に分かれて蹴り合い、相手の門の中に球を蹴り込めば勝ちという遊びです」

 

「蹴球なら、我が公国でも流行っているから知っているが……」

 

 グラム=ヴェルは突然のキシダインの申し出に当惑している。

 

「ただし、ここには、蹴球に使う球がありませんのでね。それで、このノヴァに球になってもらいましょう──。こら、ノヴァ──。……というわけだから、呆けていないで服を脱いで丸くなれ。お前は蹴球の球だ。それとも、球の役をアンにやらせるか?」

 

 キシダインが言った。

 アンは円の中で呆気にとられた。

 

 一方でグラム兄弟は、それは愉しそうだと笑って、すっくと立ちあがった。

 また、ノヴァも球になれと言われた意味がよくわからなかったようだ。

 床に腰を落としたままの態勢で動かないでいる。

 すると、グラム=コブが魔道の杖を出し、床に描かれた円の中に留まっているアンに光線を飛ばした。

 

「んぎいいっ」

 

 アンは絶叫して、自分の身体を抱き締めるようにしながら、その場に崩れ落ちた。

 凄まじい電撃がアンの全身を襲ったのだ。

 

「アン様──。お、おやめください。せ、折檻なら、あたしを……」

 

 ノヴァが叫んだ。

 

「侍女の不始末は女主人の責任だ。もっと苦しめ」

 

 グラム=コブの酷薄な声がした。

 アンは悲鳴をあげ続けた。

 うずくまったままの全身が勝手に飛び跳ね、見たことのない激しさで痙攣をする。

 アンは身体が引き裂かれるような激痛の中、アンの名を何度も呼ぶノヴァを必死で見た。

 そのノヴァの服をキシダインの執事のモルドが掴んでいるのが見えた。

 そして、モルドがノヴァの服の襟を力任せに下に向けて引き裂いていた。

 

「いやああ──。お、おやめください、モルド様──。もう、これしか服はないのです。いやあっ」

 

 ノヴァが必死になって服を守ろうと両手で自分を抱くようにした。

 

「だったら、裸で仕事をすればよかろう。どうせ、毎日、厠女のように男たちに抱かれているのであろうが。お前に服など勿体ない」

 

 モルドが面白がって、さらに破ろうとする。

 

「わ、わかりました。脱ぎます。脱ぎますから……。そ、それよりも、アン様をもう許してください」

 

 ノヴァは、自ら服を脱ぎだした。

 それに合わせるように、アンを襲っていた電撃がとまった。

 アンは床にうずくまったまま脱力した。

 

「兄貴、こんな低能女を相手に兄貴の魔道を遣う必要はねえよ……。こらっ、低能女、四つん這いになって尻を向けろ。侍女が愚図なのは、主人のお前の罪だ」

 

 グラム=ヴェルがつかつかと歩み寄って来た。

 アンは慌てて、四肢を床につけて頭をさげるようにして尻をあげた。

 四つん這いになることを強要されたというのもあるが、アンはこの円の外に出るわけにはいかないのだ。

 蹴り飛ばされるなら、身体を低くしておかないと、そのまま外に出てしまうということもある。

 

「おう、やっと言われなくても、蹴りやすいような姿勢を取ることができたか」

 

 やって来たグラム=ヴェルが後ろで、脚を後方に振りあげた。

 次の瞬間、腰の骨が砕けたのかと思うような衝撃が襲ってきた。

 

「んぐうっ」

 

 アンは歯を食い縛って必死に激痛に耐えた。

 同時に腕を前で突っ張るようにして、身体が飛び出すのを防ぐ。

 その分、蹴られた衝撃がまともに身体の芯を貫いた。

 

「なにも言うことはねえのかよ」

 

 今度は床に着けている頭の上に、足が真上から落とされた。

 ごんと大きな音がして、額が思い切り床に叩きつけられる。

 

「……ふごおおっ」

 

 頭を床に蹴り落された衝撃に、アンはすぐには口がきけなかった。

 

「……あ、ああ……も、もうしわけ……」

 

 そして、やっと口から出すことができた物言いも、完全に舌がもつれてしまった。

 

「なに、言ってんだか、わかんねえよ」

 

 苛立ったようなグラム=ヴェルの蹴りが、またもや頭の上から直下してきた。

 それを三回、四回と繰り返される。

 その度に、アンは目の前に火花が散るような感覚に襲われた。

 

「や、やめてぇ──。アン様ではなく、あたしを蹴ってください──。あたしを折檻してください」

 

 ノヴァの悲鳴が聞こえた。

 だが、そのノヴァの声もすぐに、ノヴァ自身の悲鳴で途切れた。

 もしかしたら、ノヴァも蹴られるか、殴られるかしたのかもしれないと思った。

 アンははっとしたが、グラム=ヴェルの暴力を受けているいまは、ノヴァを見ることもできない。

 

「……お前は蹴球の球だと言ったであろう、ノヴァ。お前が早く球にならんから、アンが折檻されるのだぞ。アンが蹴られているのはお前のせいなのだ。それがわからんのか」

 

 ノヴァに声をかけるキシダインのわざとらしい呆れ声がした。

 

「あっ……。た、球……。わ、わかりました。ま、丸くなれば、いいのですね──」

 

 ノヴァの震えるような声がした。

 やっとグラム=ヴェルの蹴りがやめられ、グラム=ヴェルがアンから離れる気配がした。

 アンはノヴァの状況を確認するために顔をあげたが、朦朧としていて視界はぼやけている。

 なにしろ、大の男の力で何度も何度も頭を思い切り踏まれたのだ。

 目まいだけでなく、舌もうまく動かなくなっているのを感じる。

 

「……こ、こ、これでよろしいでしょうか……」

 

 ノヴァの声が聞こえた。

 やっと視界が戻ってくる。

 ノヴァは部屋の真ん中で素裸になり、膝を曲げてその中に頭を入れ、さらに両手で膝を抱くようにしている。

 その周りに、四人の男が集まっていた。

 

「では、始めますか。この球が相手側の壁に辿り着けば一点です」

 

 キシダインが笑って言った。

 そして、男たちが歓声をあげて、一斉に四方からノヴァを力任せに蹴り始める。

 

「おお、ノ、ノヴァ──。や、やめて、やめて、やめて──」

 

 アンはノヴァの名を絶叫した。

 だが、アンのいるところと、ノヴァの身体を球にした蹴球をしているところは少し離れている。

 それに、円から出れば、ノヴァの首輪が締まって死んでしまうと言われているアンには、ひたすらにノヴァの名を呼ぶ以上のことはできない。

 ノヴァは呻き声のようなものをあげながら、身体のあちこちを蹴られながらも、身体を丸める態勢を取り続けている。

 

「ほら、ほら、身体が丸くなくなったぞ、ノヴァ──。球の役ができなくなれば、アンに交代させるからな」

 

 キシダインがそう言って、ノヴァの身体を横に蹴りだした。

 

「おっ?」

 

 グラム兄弟が笑いながらそれを追う。

 キシダインが足の裏全体を使って、押すようにして、グラム兄弟の真ん中を通して、反対側にいるモルドにノヴァを蹴りやった。

 モルドが力任せにノヴァの身体を壁に向かって蹴る。

 

「ぐええっ」

 

 だが、その踵が抱えていた腕の下をくぐって腹に思い切りめり込んだようだ。

 ノヴァが胃液のようなものを少し吐いて、腕を身体から離した。そして、身体が伸びる。

 

「もう終わりか、ノヴァ?」

 

 モルドが嘆息した。

 そして、部屋の隅にノヴァが置いたノヴァの服を持って来ると、ノヴァが吐いた胃液をその服でごしごしと足を使って拭く。

 

「わ、わたしを──。ノヴァはもう許してあげてください……。どうか、わたしを──」

 

 アンは泣き叫んでいた。

 これ以上、蹴られ続ければ、首輪が締まらなくても、ノヴァは死んでしまう。

 そう思ったのだ。

 だが、誰ひとりとして、アンの方を見ない。

 アンは、それでも自分が代わると叫び続けた。

 

「……だ、大丈夫……。ア、アン様には……て、手を出さない……で……」

 

 ノヴァが動いて、再び身体を丸くした。

 

「試合再開だな」

 

 グラム=コブがすかさず、ノヴァの身体を蹴る。

 丸くなっているノヴァの身体が転がるが、そこでまた、身体を離した。だが、男たちが追ってくる前に、もう一度丸い姿勢に直る。

 アンはもう見ていられなかった。

 なんという残酷な遊びなのだろう。

 生きている女を球にして、それを蹴り遊ぶとは……。

 

 惨たらしいキシダインたちの蹴球遊びはしばらく続いた。

 ノヴァは蹴られては姿勢を崩して、また丸くなり、丸くなっては、蹴りあげられて身体を伸ばしてしまうということをひたすら繰り返した。

 アンは号泣した。

 

「……では、これでどうかな……」

 

 グラム=コヴが懐の魔道の杖にちょっと触った。

 その瞬間、わずかだが、ノヴァの身体が床から浮きあがったと思った。

 

「ほらっ」

 

 グラム=コブの凄まじい横蹴りがノヴァの身体に食い込む。

 

「んがああっ」

 

 耐えていた感じのノヴァの口から大きな呻き声が迸った。

 そのノヴァの身体が壁に向かって飛び、あげてしまった横顔からまともに壁に叩き付けられた。

 

「ひぶうっ」

 

 ノヴァがおかしな奇声をあげて、その身体が完全に脱力して床に倒れる。

 しかも、口からまとまった血が噴き出した。

 

「ノヴァ──」

 

 アンは絶叫した。

 口から出した血の中に白い物が混じっているのをアンは見つけたのだ。

 ノヴァの歯だ。

 それでも、ノヴァは懸命に身体を丸くしようとしている。

 だが、もう手足は動かないようだ。

 身体は痙攣のような震えをするだけで、ほとんど動かない。

 

「前半終了にしますか。後半は負けませんよ」

 

 キシダインが声をあげた。

 

「なんの、次も我らが勝ちますから」

 

 キシダインとグラム兄弟がこっちに引きあげてくる。

 一方で、モルドは倒れているノヴァに悪態をつきながら、これ見よがしにノヴァの服で汚れた床を掃除している。

 そして、はっとした。

 グラム兄弟がアンの前後にやって来ていたのだ。

 しかも、ふたりが、いまだに四つん這いの姿勢のままだったアンの前後でズボンをおろし始めている。

  

「もたもたするな。口を開けんか──。低能だが、奉仕くらいはできるのだろう。だが、手を抜けば容赦なく、この円の中から蹴り飛ばすからな。そうすれば、あの侍女は死ぬ」

 

 兄のグラム=コブが怒張を突き出しながら言った。

 アンは慌てて、それを口に咥えた。

 

「なんだ、濡れているじゃねえか。蹴ったり、踏まれたりされるのが快感か? やはり、低能だけあって変態だな。だが、俺は女が感じるのは好きじゃねえんだ。気持ちよくなるのは男だけでいい。よがるくらいはいいが、もしも、勝手に達したら、この円から本当に蹴り飛ばしてやるからな」

 

 グラム=ヴェルが後ろからアンの尻たぶの両側を掴んだ。

 そっちは、尻の後ろからアンの女陰に男根を挿入をする。

 アンの身体は、事前に飲まされた強い媚薬のために、爛れるように熱くなっていた。

 それがこれまで反応していなかったのは、あまりの手酷い扱いのために、心が麻痺していたからだ。いま、局部を犯され始めたことで、アンの身体はしっかりと媚薬の疼きを取り戻してしまった。

 

「奉仕の手を抜くなよ、低能女。ちょっとでも気を抜いたと判断すれば、あの侍女は殺すぞ」

 

 前側のグラム=コブがアンの髪の毛を掴んで、アンの顔を強引に捩じりあげた。

 

「んんっ、んっ」

 

 前で兄のグラム=コブの一物を奉仕させられるとともに、後ろから弟のグラム=ヴェルに乱暴に犯されて、アンの身体には、感じてはならない女としての愉悦が四肢に流れ始め出した。

 

「うっ、んううっ」

 

 アンは爪で床を掴むようにしながら、懸命に自分の身を戒めた。

 達したらノヴァを殺すというグラム=ヴェルの言葉が単なる脅しとも思えなかった。

 この残酷な兄弟なら、ただアンを嘆き悲しませるという目的だけのために、ノヴァを無慈悲に殺しそうだ。

 しかし、後ろから子宮の奥を突きあげるグラム=ヴェルの律動のひとつひとつが、アンの媚薬に侵されている身体を燃えあがらせていく。

 

 だが、一方で兄のグラム=コブへの奉仕を務めなければならないので、後ろからグラム=ヴェルが犯すのに備えることができない。

 それでも、アンは懸命に耐えた。

 口と股間でグラム兄弟の性器を受けるという時間がしばらく続いた。

 

「ああ、つまんねえ身体だが、自慰よりはましか」

 

 背後でグラム=ヴェルが唐突に叫んだ。

 そして、不意に膣の中で怒張から精が放たれるのを感じた。

 ほっとしたが、本当に女を悦ばせるつもりはないのだと思い知った。

 アンの身体の反応を完全に無視した自分本位の射精だった。

 

「じゃあ、後半が終われば、交代するか」

 

 兄のグラム=コブも、弟の射精に合わせるように、アンの口の中に精を放った。

 アンは喉と舌で懸命にそれを飲み下す。

 

 精を放ったグラム兄弟がアンから離れていく。

 ふたりがアンから去ったために、やっと視線をあげることができた。

 離れた椅子にキシダインが優雅そうに腰かけて、打ちひしがれたアンを満足そうに眺めていた。

 また、部屋の隅では、まるで気を失ったようになっているノヴァの上からのしかかっていたモルドが、ちょうどノヴァを犯し終わったところだった。

 

「さあ、後半戦を始めますか、キシダイン公──」

 

 グラム=コブが笑いながら声をかけた。

 キシダインが返事をして立ちあがり、モルドから解放されたノヴァは辛そうな呻き声とともに、再び身体を丸める体勢になった。

 

 

 

 

(第28話『奴隷妻と侍女』終わり)

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