【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
168 淫魔師の決断
「あっ、あっ、ああ、ゆ、許して、もう許してください、ロウ様」
「またいくのか、エリカ、もう何度目かな……。わかったよ。これで最後にする。その代わり、もう少し頑張ってくれ」
華奢な腕を後手に縄で縛られたエリカは、完全に身体を一郎に預けるようにしてきた。エリカは一郎の膝の上であり、いわゆる対面座位の体位である。
怒張は深々とエリカの股間を貫いている。
いつもの屋敷であり、屋敷には女たちと休む場所が一階と地下に両方にあったが、ここは地階側の寝室だった。
寝室とはいっても、床全体が柔らかい寝台の上のような部屋であり、寝るときにはそのまま横たわり、身体に毛布を掛けて寝る。そんな部屋だ。
今日は、ここでずっと四人で性交を続けていた。
一郎は、最後の射精をするために、エリカの腰を揺さぶる両手の動きを激しくした。
「なに言ってんだよ──。まだまだだよ。エリカ、もう少し頑張らないか。ご主人様はまだ満足には程遠いぞ。お前らの役目は、偉大なる淫魔師様のご主人様に淫気を提供することだ。それなのに、途中でへばってどうする」
クグルスだ。
別段、なんの用事ということもないが、今日は一日いつもの屋敷でゆっくりとする予定だったこともあり、朝からクグルスを呼び出していた。
一方で一郎は、いつものように三人娘を縄で緊縛して、さまざまな体位で抱きながら愉しんでいたのだが、代わる代わると抱いているうちに、なんだか三人ともいつの間にか動けなくなってしまったのだ。
最初にエリカが抱き潰れ、次にシャングリアが抱き潰れ、さらに頑張っていたコゼも抱き潰れて動けなくなった。それで、騎士団で鍛えているシャングリアが、もう一度相手をしてくれ、いまはエリカが二度目の相手をしているところである。
二度抱き潰したシャングリアはもちろん、自分の番以外でも交合と交合のあいだに、一郎の相手をしてくれていたコゼは、まだ縄掛けをして突っ伏したままであり、起きあがりそうにない。
さすがに、これは休息をいれなければならないだろう。
だが、朝から始まった四人の性交は、まだ昼にもなっていない。
一郎としては、ちょっと物足りない気持ちだ。
射精も十回はしているが、正直にいえば満足には程遠い感じなのだ。
「そ、そんなこと、い、いったって……し、心臓が……や、破けそうで……ああっ、いやああ、あああっ、と、とにかく、もう少しが、頑張り、ますから、ロウ様……ああっ、あはああっ」
エリカが必死で歯を食いしばって、少しでも長持ちさせようと、健気に自分の身体の反応を押さえようと必死で戦っている。
だが、一郎は自分がいくよりも、一郎の性技で目の前の女が正体なくよがりまくるのに接するのが好きなのだ。
だから、どうしてももっと苛めたくなる。
一郎はエリカを上下に揺さぶりながら、二重三重に縄が巻きついて搾りだされている汗びっしょりの乳房に吸いついた。
ピアスの食い込んでいる乳首を口の中でころころと転がしてやる。
「んひいいっ、んぐうううっ」
すると責めている一郎が驚くほどの反応をしてエリカがのけぞって、全身を大きく弓なりにした。
屋敷にけたたましい悲鳴のような絶叫が響き渡り、がくがくと全身を震わせながら、完全にエリカがばたりと一郎の肩に顔を倒れ込ませる。
「あれっ?」
一郎は完全に脱力しているエリカを両肩を抱くようにして、少し顔を起こさせた。
どうやら、失神してしまったようだ。
いつもは、ステータスを見ながら抱くのだが、たまにはそんなものを見ないで純粋に女たちを愉しみたいと思った。
だが、おかげで責め過ぎたらしい。
エリカはすでに、すーすーと寝息をかいている。
「こらっ、起きろ、エリカ──。まだ途中じゃないか。ご主人様を満足させる前に性奴隷が寝てどうする。起きろ──。ご主人様、遠慮いらないよ。とりあえず、出しちゃえ。だって、まだ出す前だったでしょう」
宙を飛び回っているクグルスがエリカの耳元で叫んだが、どうやら起きないとわかると、今度は一郎に顔を向けて言った。
一郎はエリカから怒張を抜いて横に寝かせようとしていたからだ。
「いや、もう出したよ。さんざんに出させてもらった。途中だったのは最後だけだ。心配ない」
一郎は微笑みながら、完全に意識を失っているエリカから男根を抜いて裸身を絨毯の上に横たわらせた。
夥しい愛液がどっとエリカの股間から溢れるのがわかった。
エリカを床に横たわらせると、シルキーが出現する。
「魔妖精様、いつもお元気ですね」
シルキーがエリカの上に毛布を掛けた。
後手縛りのままのエリカが身体を丸めるようにして、横向きに寝ている。
「くそっ、だったら、シャングリアかコゼ──。起きろ──。ご主人様はまだまだお元気だ」
クグルスがエリカの上から、シャングリアたちが横たわっている場所に移動して大声で怒鳴った。
シャングリアもコゼも、荒い息をしていたが一応は目を覚ましていた。
しかし、身体がかなりだるそうだ。
「あ、あたしが……」
「いや、わたしが……い、いこう……。コゼもいっぱいだろう……?」
コゼを制してシャングリアが身体を起こそうとする。
だが、腰に完全に力が入らないらしく、どうやら緊縛されて腕が使えない状態ではうまく立てないらしい。
「ふたりともいいぞ、ちょっと休め」
一郎は声をかけた。
「そ、そうか……。す、すまん」
「ごめんなさい、ご主人様……」
すると、シャングリアもコゼもあっさりと、身体を横たわらせた。
一郎は苦笑した。
「こらあっ、お前たち、もういいっていうのは、ご主人様のお慈悲だぞ──。それを真に受けてどうする? さっさと起きろ。お前らの役目は、ご主人様に淫気を提供することだ。高位淫魔師様のご主人様には、たくさんの淫気がいるんだぞ。あまりにも不甲斐ない──」
「いや、クグルス。俺も加減なしで張り切り過ぎたからね。三人は休ませてあげよう」
一郎は淫魔術で三人の縄掛けを解く。
全員の身体からぱらりと縄が緩んだ。
「甘いよ、ご主人様──。こいつらは体力があるんだ。それに、死にかけたって、ご主人様なら、性奴隷の心臓を元気にすることだって造作もないはずさ。構わないから、もっともっと淫気を振り絞っちまいなよ。最悪、寝ていても抱けるんだからさあ」
「それには及ばないよ、クグルス。こいつらには、また夕方にでも相手をしてもらう。それに、途中で寝てしまった罰はちゃんとするさ。どうするかな。また、縄電車競争でもしてもらおうかなる それとも、裏の河原を雌犬になって歩いてもらおうかな?」
一郎は笑った。
だが、クグルスは気に入らないみたいだ。
「でも、ご主人様はまだまだ足りないだろう? ぼくにはわかるんだから──。ご主人様は、淫魔師としては、神がかり的なかなりの格上になるしね。淫魔術を駆使するのに必要な淫気も桁外れなんだ。それなのに、ちょっとずつしか淫気を集められないんじゃあ、身体がおかしくなるよ」
「大袈裟だなあ。いくら好色でも、これだけ相手をしてもられば十分さ。エリカたちはよくしてくれている。それに、王都にはほかにも時々相手をしてくれる女もいるんだ。そんなに無理をさせなくてもいい」
「だったら、いまから、その王都の女を抱きに行こうよ。ぼくに言わせれば、ご主人様のお相手はとてもじゃないが三人だけじゃ足りないよ。そうだ、屋敷妖精──。お前がお相手しろ。ご主人様はまだ途中だったんだ」
クグルスは今度はシルキーのところに跳んでいった。
一郎は立ちあがって、クグルスの身体を掴んだ。
「うわっ、ご主人様――。うにゃあああ」
魔妖精のクグルスは、なぜか一郎とは相性がよすぎるらしく、性行為のようなことをしなくても、一郎がクグルスに触れるだけで、快感でよがりまくる。
一郎がクグルスの身体を優しく揉むように手で擦ると、たちまちに激しく悶えだした。
「ふにゅうう、き、気持ちいいい、あああっ、ぼく、ぼく、ぼく、これだめええっ、んひいいっ」
そして、あっという間に一郎の手の中で絶頂してしまった。
構わずに、一郎はクグルスを刺激し続ける。
クグルスは小さな身体を二度三度と弓なりにして、繰り返し果てた。やがて、スカートの中からぴゅっとおしっこのようなものを出して、ぴくぴくと痙攣を始めた。
どうやら潮を吹いたみたいだ。
一郎は手を離した。
「落ち着けよ、クグルス。シルキーもすでに相手をしてもらった。だけど、シルキーを抱くと、半ノスくらい動けなくなるのでな。たまにはいいけど、屋敷の管理もあるから、繰り返しはできないんだ」
一郎は言った。
クグルスは一郎の手から落ちて、床に落下する直前くらいでとどまり、しばらくとまっていたが、すぐにふわりと浮きあがった。
そのときには、もう元気だ。
性交による淫気はクグルスの力の源なので、よがりまくらせれば、むしろ元気になる。
「なんだ、屋敷妖精──。お前も役立たずか──。どいつもこいつもだらしないなあ」
クグルスは再びシルキーの前に飛んでいった。
「申し訳ありません。旦那様に愛して頂くのは、とても気持ちがよいのですが、最近では、わたくしめも気持ちがよくなりすぎて、短い時間ですが機能停止の状態に陥るのです。その代替え処置について、事前に準備してからでないと、わたくしめも旦那様のお相手をするわけにはいかないのです。ましてや、いまは、エリカ様たちもこのような状況ですし……。万が一にも、わたくしめが機能停止のときに、襲撃をされては一大事ですし……」
「仕方ないなあ。じゃあ、やっぱり、ご主人様、ほかに女を漁りにいこうよ。それとも、そこら辺の若い女を捕まえて来よう。さらってきて、ここに監禁して性奴隷として相手をさせるのさ」
「そんなことできるかよ──。シルキー、服を出してくれ」
一郎は声をかけた。
瞬時に一郎の前に台が出現して、その上に平らな衣装箱の入った衣類一式が出現する。
まずは、シルキーの魔道で、一瞬にして一郎の身体が清潔になり、次いで、シルキーが介添をして一郎に服を着させていく。
下着をはかせてもらいながら、一郎はもう一度エリカたちに視線をやった。
いつの間にか、完全に熟睡状態だ。
そんなに激しかったか?
まあ、それなりの回数は絶頂させたが……。
「だけど、いつも抱く女については、もう少し考えた方がいいよ、ご主人様。ぼくたちもそうだけど、淫魔師のご主人様にとっては、好色が不足なのは、ご飯を食べないと同じなんだ。いまのご主人様は、どんな女だって手に入るよ。ほらっ、前に教えてもらった、女が寄ってくるふぇろもんだっけ? ご主人様はそのふぇろもんをいつもいっぱい出しているよ。その気になれば、もっと濃いものも出せる。やってみたらいいよ」
「大丈夫と言ったろう、クグルス。俺は十分にエリカたちに満足している。こいつらは、本当に俺に尽くしてくれるんだ」
一郎は言った。
そのときだった。
ちょうど衣類を身に着け終わったころに、宙に透明のシャボン玉のようなものが出撃して、目の前で弾けた。
「言玉」だ。
しかも、これは言玉を送った相手にしかわからない特別なものだと思う。何度かスクルズに使ってもらったことがあるからわかる。
「んっ?」
言玉を送ったのは、珍しくもシャーラだった。
緊急の用事があるから、すぐにイザベラのいる王宮内の小離宮を訪問して欲しいという伝言だ。
内容はそれだけだったが、一郎にはそれだけで、なにが起きたのかわかった。
以前から、ずっと懸念していたことであり、キシダインに対する圧力を高めていけば、起きるかもしれないと思っていた。
そうでなければいいとは思ったが、やはり起きたらしい。
「どうしたんだ、ご主人様?」
クグルスは首をかしげている。
一郎にしかわからない言玉なので、シャーラからの伝言の内容は一郎にしかわからないし、言玉が送られてきたことすら、クグルスにはわからないのだろう。
「悪いが王宮に用事ができた。すまないけど出掛けて来るよ、クグルス。また、夜にでも来てくれ。またたっぷりの淫気をご馳走するよ」
「わかったよ。でも、ぼくの忠告も忘れないでね。ご主人様にはもっと女が必要だから」
クグルスが一郎の腕にぶつかるようにして、姿を消滅させた。
本来の棲み処の異世界に戻ったのだ。
一郎は王宮に向かうにあたり、三人を起こそうと思ったが思い直してやめた。
護衛なしで出掛けたとあっては、エリカあたりがうるさいが、移動ポッドで王宮に向かうだけだし、向こうにはシャーラもいる。
「シルキー、ここから姫様のところに向かうから、移動ポッド越しに送ってくれ。三人が起きたら、風呂でも入って汗を流しておけと伝えてくれ。戻ったら、また抱くからともね」
「かしこまりました」
シルキーが頭をさげるとともに、身体が捩れる感覚が襲う。
移動術だ。
シルキーが送るのは、この屋敷にある移動ポッドの中であり、そこからはスクルズがあらかじめ刻んでいる魔道により、やはり移動術で一瞬にして、宮廷内のイザベラ王女の小離宮の私室に飛び込むことができる。
本来であれば、王宮内になど、魔道で入る込むことなどできないが、その王宮を包む魔道結界の刻みそのものに力を貸しているスクルズが、一郎のためにひそかに王宮内に移動ポッドを接続したのだ。
ほかにも、正王妃のアネルザに部屋に一郎の部屋から一瞬にして跳躍できる移動ポッドだってある。
「おっ?」
移動ポッドから出ると、いつものイザベラの私室ではなく、小離宮の広間のような場所に到着した。
どうやら、移動ポッドが刻んでいる姿見をここに移動してあったようだ。
十人ほどの侍女たちが広間に集められて、一郎のいる反対側を向いて立っている。
おかげで、一郎の出現に気がついた者は、侍女たちにはいないようだった。
それに比べて、侍女たちに向かい合うように中心にいるイザベラとシャーラは気がついたようだ。そのイザベラは、ただひとり籐椅子に腰掛けており、イザベラの横にシャーラがいる。
さらに四十前後の地味な感じの女性がいた。
侍女ではなく、最近になってアネルザが気を利かして送り込んだ女官だ。イザベラを除いて、ひとりだけ侍女服を着ていない。
名前はヴァージニアだったと思う。
もっとも、ほかの侍女たちもそうだが、一郎はほとんどヴァージニアには面識がない。
イザベラが一郎の出現に顔にぱっと笑みを浮かべた。
随分と緊張した表情だったようだが、どうやら一郎の顔を見て安心したみたいだ。
シャーラも軽く会釈をして、一郎のところに向かおうとした。
だが、そのシャーラが口を開く前に、金切り声の叫びが部屋に響き渡った。
「何者──。どこから入った──。狼藉か──」
口を開いたのはヴァージニアだ。
さっとイザベラを庇うように、イザベラの前に立った。
「俺を呼び出すのはいいけど、みんなに説明をしてもらわないと困るねえ、姫様、シャーラ」
ヴァージニアだけでなく、侍女たちも一斉に振り返り、一郎に敵意の視線を向けた。
「呼んだのはわたしです、ヴァージニア殿。ロウ殿、こちらに……」
シャーラが声をかけた。
一郎は十人近い侍女たちを確認しながら前側に移動する。
トリア、クアッタ、ユニク、セクト、オタビア、ノルエル、デセル、ダリア、モロッコ……。
いや、九人か……。
先日、イエンという若い侍女がボニーを小離宮内に入り込ませることに協力し、翌日、水死体で発見されている。
イエンは前回の毒殺未遂のあとで、キシダインが手を回して新しく入った侍女だったが、そのイエンを脅迫して刺客の手伝いをさせたのは、キシダインの手の者だ。その裏も取れた。
イエンの実家は子爵家であり、実家の領地はキシダインの公爵家に隣接していて、キシダインから圧力をかけられれば、たちまちに実家が傾くような関係にあった。
キシダイン家に媚びを売らなければ、家が立ち行かなくなるような立場なのだ。
それでイエンは、実家を助けるために、イザベラへの刺客だったボニーを引き受けたのかもしれない。
しかし、証拠はない。
そのイエンは口封じに間違いない理由で水死体になっているし、イエンの実家の子爵家をつついたところで無意味だ。
どうせ、キシダインは捕らえられない。
いずれにしても、いまの侍女は九人だったから、ここにいるのは全員ということだ。
「シャーラ殿、ここに男を呼び込むとはどういう料簡なのですか──。こ、ここはイザベラ王女殿下の小離宮であり、男子を入れるなど。し、しかも、この男は誰なのですか──。貴族でもないようですが──」
ヴァージニアという女官が血相を変えた口調で怒鳴った。
随分と真面目で真っ直ぐな気性のようだ。
外見は違うが、エリカに似ている気がする。
とても、実直そうだ。
さすがに、アネルザがイザベラの補助に相応しいと選んだ人物だ。
一郎の女になってからのアネルザには、「人物鑑定眼」という能力が付与している。
そのアネルザが選んだのだ。それなりの人物には違いない。
「黙れ、ヴァージニア──。ロウ殿を呼ぶように指示したのは、わたしだ……。よく来てくれたな、ロウ殿」
イザベラが立ちあがった。
そのとき、ふとイザベラの目が一郎を見た気がした。
視線が合う。
イザベラの口元が緩んだのがわかった。
実は、以前からイザベラと話していたことがあるのだ。
そのときには断ったのだが、後でよくよく考えてみると、それしかない気がした。
いや、それが一番安全なのだ。
だが、どうにも気が進まなかった。
しかし、ここで呼び出されたということは、前々から懸念していたことが起きてしまったのだろう。
よく見れば、侍女たちの表情は暗い。
いきなりの一郎の登場に色めきだっているところはあるが、そんなことが気にならないくらいのことが起きたということがわかる。
とにかく、侍女たちは、これ以上ないというほど死にそうな表情をしている。
それだけで、一郎はやはり起きるべきことが起きたということを悟った。
「ロウ殿、残念ながら、起きてしまったぞ。ならば、わたしの提案を考えることだ。変なところで、生真面目さを発揮するでないわ。柄でもない──」
「だけど、シャーラは不承知だろう? 一箇月前に姫様が提案したときには、とんでもないと声をあげたじゃないか」
一郎はそのときのことを思い出して言った。
今回の提案があったのは、一箇月前だ。マアから調査結果を受けてすぐだった。
イザベラからは、すぐに提案があったが、さすがにシャーラは奇想天外すぎると反対した。だが、意外にアネルザも賛成だったし、さらに意外だったのは、ミランダもイザベラの案に乗り気だったことだ。
「いまは賛成です。合理的に考えて必要だと思い直しました。そもそも、またもや、結局のところ、わたしには防げませんでした。それに防いだところで、第二、第三の事件が繰り返されるだけでしょう……。思いきった手が必要です」
シャーラは言った。
一郎は首を竦めた。
まあ、そういうことなら、覚悟を決めるか。
屋敷で抱き潰されている三人のことを思うと、やはり、こういうことも必要だという気がする。
とにかく、一郎はたった今までイザベラが座っていた籐椅子に座り込んだ。
王女を相手に、たとえ椅子が準備されていたとしても、許可なく、いや、許可があっても腰掛けるべきではない、平民にして一介の冒険者の一郎だ。
ヴァージニアがはっと息をのみ、ほかの侍女たちもびっくりしている。
ただ、イザベラだけはくすりと笑った。
当たり前のように、一郎が座った籐椅子の横に立つ。
「ぶ、無礼な──。そこはイザベラ殿下の──」
ヴァージニアが我に返ったように怒鳴り声をあげた。
だが、そのとき、侍女たちの集団の中からくすりと笑う声がした。
まるでお通夜のように侍女たちが静まり返っていただけだけに、その侍女の笑い声が妙に部屋に響いた。
“トリア
人間族、女
イザベラ王女の侍女
アンジュ―男爵家次女
年齢18歳
……
……
経験数
なし
……”
一郎は、一応は彼女に注目した。
まあ、白だな。
一郎は断言した。
「なにが可笑しいのですか、トリア──」
ヴァージニアが真っ赤な顔で怒鳴りあげた。
随分と怒りっぽい女性のようだ。
まあ、このくらいでなければ、敵の多いイザベラの女官は務まらないだろう。
「も、申し訳ありません」
トリアはまさかそんなに自分の小さな笑いが目立つとは思わなかったのだろう。
真っ赤な顔をしている。
「申し訳ないではありません。なんで笑ったのかと聞いておるのです」
ヴァージニアがさらに怒鳴った。
「静かにせんか、ヴァージニア……。なんで、トリアが笑ったのか、わたしにも興味はあるが、いまはそんな場合ではあるまい……」
イザベラが諫めるように、ヴァージニアを制する。
一郎はイザベラを見上げた。
「なにがありました?」
「毒だ。またしても、わたしの食事に毒が盛られた。警戒しておったから、事前にわかったがな……。誰が盛ったのかは知らん。まだ、調査もしとらん。全員を集めただけだ……」
「この中に間違いなく犯人が?」
「まあ、間違いあるまい。ほかの者には無理だ。逆に言えば、わたしの侍女なら誰でも可能だ……。というわけだ、ロウ殿。事前に情報は貰っておったが、結局は防げんかった。残念ながら、事を起こされる前に毒を見つけることはできんかったな。わたしとしては、侍女の中にわたしを毒殺しようとした者がいるとは信じたくはなかったが、これが現実だ」
イザベラが嘆息した。
一郎は頷いた。
シャーラから緊急事態が起きた言玉が送られたことで、なにが起きたのかのおおよその察しはついていた。
結局は、またもやイザベラに毒が盛られたということだ。
一箇月前にマアの調査で、すでにキシダインが実家に手を回しているふたりの侍女の名はわかっていたので、密かに彼女たちの周囲を調査はしたものの、それらしい毒は発見できなかったし、怪しい素振りはなかった。
だから、シャーラがあえて見逃してもいたはずだ。
それからも、該当のふたりの侍女は注視していたはずだが、イザベラの物言いでは結局のところ、またもや、侍女が毒を盛るまで気がつけなかったのだと思う。
キシダインに脅迫をされていると思われる侍女の予測はついていたのだから、捕らえて訊問するということも考えたが、シャーラがあえて、自由にさせていたのは、侍女たちを信じる気持ちがあったからだ。
実家が脅されていようとも、当の侍女はイザベラを裏切らないとシャーラは口にしたし、それに、逆に、こっちがキシダイン側が手を伸ばした侍女のことを察したことがわかると、新しい手を使われる。
それよりも、手の内がわかっている方がましだと、一郎も判断した。
おかげで事前に発見できた。
侍女がイザベラを狙うなら、十中八九毒だと思った。手段がわかっていれば、対策も打ちやすい。
「どんな手口で?」
一郎は一応訊ねた。
すると、シャーラが口を開いた。
「食べるものではなく、皿と食器に毒を塗られていました。それでわたしの毒見を通り抜けようとしたのです。皿であれば、ここにいる侍女たちの誰にも機会はあります。まだ、身体検査のようなことはしていません。毒を盛ったことが発覚したのは、たったいまのことであり、ここに全員を集めるとともに、ロウ殿をお呼びしたのです」
「なるほど。それで、まだ毒を持っているというわけか……。あまりにもあっさりと毒が見つかり過ぎて、毒の入っていた容器を処分する余裕がなかったということだな」
一郎にやりと笑った。
「シャーラ殿──。い、いくらなんでも、部外者にそんなことを……」
ヴァージニアが絶句している。
だが、イザベラがそれを制した。
「黙れ、ヴァージニア──。わたしが常に刺客に狙われていることは、お前にも言ってあったはずだ。侍女にも常に目を配れと言ったぞ。それにも関わらず、侍女がわたしに毒を盛るのを許したのは、わたしやシャーラのみならず、お前の失態でもある。ちょっとは黙らんか──」
「で、殿下……」
ヴァージニアがイザベラの叱咤にびっくりしている。
一郎は咳払いをした。
全員の注目が一郎に向く。
「さて、いろいろと話はあるが、まず、俺はここにいる姫様とシャーラに頼まれてここにいると言っておく。最初に言っておく。俺はこの中の誰が毒を盛ったのか、すでにわかっている。隠す余裕がなかったようだし、俺にはいまだに、その者が身体に毒を入れていた容器を身に着けているのを知っている」
一郎の声に侍女たちの全員が息をのんだ。
だが、一郎が喋ったことは本当だ。
一郎の魔眼には、はっきりとある侍女が毒を所持していることがステータスに映っている。
「しかし、俺がやろうと思っているのは犯人探しじゃない。そんなことを無駄だということがわかっているし、これを明らかにしても、本人が残酷に処刑されるだけじゃなく、おそらく、実家も取り潰しになり、その一家も路頭に迷うことになるだろう。そうしないために、こんなことを起こしたかもしれないが、残念ながら、それが現実だ。キシダインは、簡単に犯人も、その実家も見捨てるだろう。可哀想なイエンのようにね」
一郎ははっきりと言った。
イエンの名を出したことで、全員が動揺したようにざわついた。
「ま、待ちなさい、あなた、どういうつもりで……。そ、そもそも、あなたは何者なのです──。殿下、わたしは説明を求めます。このわけ知り顔で物を言う彼は誰なのですか──」
ヴァージニアだ。
一郎の言葉に唖然としている感じだ。
まあ、無理はない。
ヴァージニアからすれば、いきなり見知らぬ男が現われて、ここでまたもや起きた毒殺未遂事件のことを糾弾し始めたのだ。
当惑以外のなにもないだろう。
一郎はにやりと微笑んだ。
「俺が何者か、そういえば、トリアさんは知っているようだな。いや、トリアさんだけじゃなく、ほかにも気がついていたみたいだね。まあ、仕方ないか。結構、派手に遊んでいるしね」
一郎はなぜ最初に一郎の顔を見るや、トリアがくすりと笑ったのか、もうわかった。
この小離宮には、一郎はもう何十回も逢引をしにきている。
ちゃんと隠したつもりだったが、気がついていた侍女もいたようだ。
トリアもそうなのだろう。
いま、顔を見ていると、ほかにも何人か、一郎がイザベラのところに通っていたことに気がついた侍女はいるみたいだ。
「トリア?」
ヴァージニアがトリアを見た。
トリアが顔を真っ赤にした。
「トリア、許す。このロウ殿について、なにを知っておる。正直に申せ……。というよりは、ヴァージニアに教えてやれ……。もうよい。いまははっきりとしておこう」
イザベラだ。
トリアは当惑したようだが、元より、かなりおおらかな気質なのだろう。
すぐに、覚悟を決めた顔になった。
「そのお方は、わたしたちの姫様……殿下のご愛人様です。もう、何度もここに通っておられます。魔道でお入りになり、そして、帰られます……」
トリアはっきりと言った。
侍女たちの何人かは驚き、何人かは微笑んだ。
やはり、ばれていたみたいだ。
「あ、愛人──?」
ヴァージニアがあんぐりと口を開けた。
しかし、少なくとも、ヴァージニアは知らなかったみたいだ。
一郎は苦笑した。
それにしても、このトリアもそうだが、侍女の全員が処女だ。
下級貴族でも、王宮にあがるとなれば、なかなかに身持ちの固いようだ。
全員が生娘か……。
もしかしたら、ちょっと大変かな……。
一郎はほくそ笑んだ。
「まあ、そういうことだ。それはともかく、これはすでに決定事項だが、さっきも言ったが、ここで誰が姫様に毒を盛ったかの犯人捜しはしない。それは無駄だからだ。しかし、その者は俺に犯されることになる。それで罪は不問になる。そして、その犯人も含めて、今後、ここに侍女として残る者については、たったいまから俺に全員抱かれてもらう」
「えっ」
「ええっ?」
「なっ」
侍女たちが一斉に声をあげた。
当然だろう。
しかし、一郎は構わずに続けた。
「誰が今回の事件を起こしたかに関わらず、たったいまをもって、ここで姫様の侍女を続けるには、俺の精を受けた者しか認めない。これは姫様ともシャーラとも決めたことであり、覆らない決定事項だ。それを受け入れられない者は出ていってもらうしかない……。あっ、でも、言っておくけど、毒を盛った犯人は逃げられないよ。さっきも言ったけど、誰が毒を入れたのかわかっているからね。だけど、俺の精を受けさえすれば不問にするよ。姫様にも、シャーラにも内緒にしてやろう」
「わたしにも、犯人を教えんのか?」
イザベラが苦笑している。
「名を聞けば、しこりが残る。その実家も処分せねばならない」
「実家ということは貴族か?」
この九人には、貴族出が六人、庶民階級が三人だ。
「ひとりはね」
「ひとり?」
口を挟んだのはシャーラだ。
しかし、この中には身体に毒を隠しているのがふたりいる。一郎にわかるのは、身につけている場合だけだから、荷を徹底的に調べれば、ほかにも出てくる可能性もある。
それにしても、キシダインはどれだけ、イザベラの侍女に手を伸ばしているのか……。
道具にされる侍女も命懸けだと思うが、やりかたは稚拙だ。
キシダインとしても、駄目で元々の刺客のつもりだろう。
そうやって使い捨てにされる侍女も、その実家もある意味被害者だ。だから、一郎はあえて、今回は犯人を伏せることにした。
それよりも、その罪を犯した侍女も含めて、絶対に二度と裏切れないようにすればいい。
一郎の精ならそれができる。
一方で、突然に一郎に抱かれろと申し渡された侍女たち全員が驚愕の表情になっている。
特に、ヴァージニアは顔が真っ赤だ。
「お、お前、なにを言って……」
「いや、それは違うぞ、ロウ殿」
するとまたもや、イザベラが口を挟んだ。
「違う?」
ロウはイザベラに顔を向ける。
「そ、それはそうでしょう。そんな馬鹿げた話……」
ヴァージニアが安堵の表情になる。
「出ていくことは許さん。この部屋の者は全員がロウ殿の精を受けよ。もはや、わたしは、ロウの女になった者しか信じることはできん。だが、ロウの精を受ければ、それだけで、わたしは絶対の信頼をする。そして、これは命令だ」
「で、殿下──」
ヴァージニアが一瞬絶句した。
しかし、すぐに口を開く。
「そ、そんな命令は許されません。いくら、王女殿下でも──。ここにいる者たちは、全員が若い娘なのです。そ、それは、その男の方は王女様の愛人様なのかもしれませんが……。だからといって、理由もなく……」
「なにを狼狽える? それよりも、わたしの言葉に例外はないぞ。ここにいる者は全員、このロウ殿の女になってもらう。そなたも例外ではない」
イザベラがはっきりと言った。
ヴァージニアが今度は顔を激怒させたのがわかった。
一方で、一郎は侍女たちのいる場所の気流に微香を送った。抱くとなれば、気持ちよくしてあげたい。
また、さっきクグルスが言っていたフェロモンとやらも出してみることにした。
やろうと思えば、簡単にできた。さすがは淫魔師の能力だ。
どのくらいが適当かわからないので、とりあえずちょっと強めにする。
その時だった。
目の前の空間が揺れた。
移動術だ。
現れたのは、アネルザとスクルズだ。
一郎は今回のことを予想して、もしも事が起きれば、シャーラに、一郎だけでなく、アネルザも呼び出すように指示していた。
スクルズは、そのアネルザを連れてくるために一緒に来たのだろう。
「王妃殿下? スクルズ様も」
ヴァージニアが声をあげた。
侍女たちもびっくりしている。
「また、毒だそうだな、ロウ殿、イザベラ…。大丈夫か、イザベラ?」
アネルザだ。
「問題はない、王妃殿下。事前に見つけた。それに、毒など飲んだところで、いまのわたしなら、大抵は自分で解毒できる。ロウ殿のおかげで」
「そうか……。それでどうなった?」
「犯人探しはしない。でも、いまから全員を抱く。そう決めたところだ」
一郎は言った。
「おう、その気になったか。そうすればいいとわたしは言ったが、やっとやるつもりになったのだな」
「流石に決心がつかなくてね。でも、支配するのが彼女たちのためだと思い直した」
一郎は頭を掻いた。
また、アネルザが現れたことに、全員が驚いている。また、アネルザとイザベラが昵懇になったことはまだ秘密だ。だから、親しそうなことにもびっくりしているようだ。
「まあ、ここにいる侍女の方々をロウ様の女にするのですか? 皆さん、よかったですね。ロウ様はそれはそれは、お上手ですよ。それに、とても幸せな気持ちになります。ロウ様を信じるのです。何の問題もありませんから」
まるで神を信じなさいという口調で語るスクルズの言葉にさらに、全員が騒然となった。