【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「丸三日よ。それ以上でも、それ以下でもない。それが約束の時間よ。それが終われば、あの男を解放してもいいわ……。いいえ──。解放しなさい。わかったわね、……クンニ」
ユイナの前に手のひらほどの白い肌をした小人が浮かんでいる。
いまは、その小人の下は、ユイナが刻んでいる小さな魔道陣があり、小人はその魔道陣から離れることはできない。
妖魔族だ。
魔族種の一派なのだが、こうやって異界に居所を移して、人族と世界を異にしながら、条件によって召喚に応じるような種族を総称して「妖魔」という。これはその中でも魔妖精と呼ばれる種族であり、名を訊ねるとクンニだと答えた。
ふざけた名だと思ったが、仕方なく名を呼ぶと、馬鹿みたいに大笑いした。
絶対に本当の名ではないと思うが、妖魔召喚術で呼び出した妖精には、その妖精が名乗った名前でないと契約することができないのだ。
仕方なく命令の最後に名を受け加える。
「はははは……、面白いね……。あんた、クンニ好き? それともフェラがよかった?」
クンニと名乗ったそいつがけらけらと笑った。
ユイナはかっとした。
「いいから契約よ。やるの? やらないの?」
「そうねえ……。面白そうな仕事だから、契約をしてやってもいいけどね……。まあ、条件次第かなあ……」
魔妖精のクンニがなにかを探るように、周囲の匂いを嗅ぐような仕草をした。
魔妖精というのは妖魔に属する妖精のことであり、妖魔というのは、かつて「亜域」を主とする異界に封印されている魔族種たちのことだ。
いまは、もう神話のように伝えられている話であるが、かつて、この大陸には人族と称されるエルフ族、人間族、ドワフ族、獣人族などのほかに、魔族と呼ばれる種族もいたのだ。
すべてがこのナタル森林が発祥といわれている。
しかし、魔族はほかの人族と比べて暴力的で野蛮な連中であり、およそ人族とは違う価値観の中で生きていた。
強い者が弱い者を魔道で縛って支配するというのが彼らの世界であり、彼らにあるのは、暴力と支配、退廃と暗黒だけだ。
人族と魔族は、お互いを相容れない存在として、長く対立をし続けてきたのだ。
もっとも、彼らが生きていくためには、「瘴気」と呼ばれる汚れた大気が必要であり、それはナタル森林を中心に点在していた。
人族もまた、濃い瘴気は毒素と同じであり、人族は瘴気に溢れる地域で生きることができなかった。
そのため、ナタル森林のうち、瘴気の強い地域には魔族が棲み、瘴気のない場所に人族が棲むという棲み分けをしていた。
人族と魔族が同じ森で共存するなど、ユイナには信じられないが、ずっと昔にはそんな時代もあったらしい。
それは、森林から人間族、ドワフ族、獣人族が出ていき、人族の世界が大陸全土に拡がり、ナタル森林で生活をする種族がエルフ族と魔族が主体になっても続いたのだ。
しかし、あるとき、その共存を打ち破る者が出現した。
『冥王』である。
魔族の中に、冥王を自称する強大な力を持つ魔族の個体が出現して、各地に点在する魔族の各種族の統一支配に成功したのだ。
そして、冥王は、すべての魔族を支配に置くことで得た力をもって、さらに、瘴気を拡散させることができるようになり、ナタルの森のすべてだけでなく、森を越えた人族たちの世界のすべても支配しようと目論んだ。
それが伝承の冥王戦争だ。
冥王はすぐにナタルの森のエルフ族に襲いかかり、当時のエルフ族の長老に一時的に阻まれると、今度はナタルの森の外にまで支配を無秩序に拡大しようとした。
そして、あっという間に冥王戦争は、冥王の率いる魔族と人族との全面戦争の様相となり、一進一退の攻防を繰り返しながら戦いは長く続いたそうだ。
もともと、人族はエルフ族、ドワフ族、人間族のほか各種族に分かれて生きており、統一された集団ではなかった。分裂して対立するのが常態である人間族など、十数個の国に分かれていたくらいだ。
しかし、強大な魔族軍に立ち向かうには、人族の力を結集する必要があった。
その人族の各集団をひとつにまとめたのが、人間族の英雄ロムルスだ。
ロムルスは、最後の戦いによって冥王を倒して、冥王そのものを異界に封印することに成功し、さらにロムルスに協力するエルフ族が中心となり、魔族の力の根源である瘴気をナタルの森から一掃して、魔族の力を奪ったのだ。
これにより、魔族たちはナタルの森を始めとする人族の世界に棲めなくなり、瘴気のあるさらに南の世界に逃れるか、あるいは、冥王とともに異界に封印されるかのいずれかの道を選ぶこととなった。
こうして大魔戦争は終わった。
ロムルスは人族のすべてを統一する国を作って、その初代皇帝となった。
かつて、ナタル大森林の西にあった大ローム帝国だ。
しかし、そのローム帝国は、第三王朝において衰退し、現在のカロリック、タリオ、デセオの三公国に分離してしまった。
ローム帝国は名目的には存在するが、実際はタリオ公国内に認められた小さな領域しか支配していない。
いまは人間族の大きな国であるハロンドール王国やエルニア魔道王国など、ローム帝国が建設された時代には存在もしなかった国だ。
いずれにしても、妖魔というのは、その大魔戦争のときに、冥王に従うことなく、人族に協力した種族のことだ。
魔族のすべては異界に完全封印されるか、南方荒地よりもさらに南に向かい、苛酷なその地で滅びることを選ばされたが、例外的に人族に協力した種族は、ロムルスから生存を許された。
だが、人族に協力した種族であっても、ナタル森林から瘴気が消滅されてしまったので、生きていく場所がない。
だから、ロムルスに従うエルフ族の召喚術者が、彼らのためにこの世界と密着している新しい亜域を準備した。
だから、いまは冥王戦争で協力的だった種族のかなりが亜域にいる。
その亜域にいる魔族種を「妖魔」と呼んでいるのである。
もっとも、人族に協力的だった種族の末裔だとはいえ、魔族は魔族だ。
彼らをこちらの世界に戻すことは、禁忌中の禁忌魔道である。
しかし、実際には「妖魔召喚術」と呼ばれる魔道で呼び出せば、封印されている異界から妖魔を連れ出すことは可能なのだ。
妖魔は特殊な価値観を持っていて、「召喚契約」という行為をすれば、絶対に契約者を裏切らない。
また、もともと魔道に長けていたので魔族と呼ばれていたくらいなので、特殊な魔道だって多くの種がそれぞれに遣いこなす。
だから、禁止されているにもかかわらず、多くの上級魔道遣いが、禁忌の妖魔召喚術を遣って、妖魔を使役し、さまざまなことをやってきた。
いまでは、エルフ族に限らず、この世界のすべての人族には、生まれるとすぐに、「魔道十二戒」という絶対に破ることのできない魔道の封印を受けることになっていて、その結果、異界から妖魔を呼び出そうとして接触しようとすると、魔道の源である魔力が凍結されてしまうことになる。
妖魔召喚術のような一連の禁忌魔道は、人族の歴史の中でそうやって封印された魔道でもあるのだ。
だが、禁忌だからこそ、裏でその禁断を犯す者がいる。
禁忌の力に触れたいと思うのは、およそ知性を持つ者なら誰でも望む当たり前の性だとユイナは思う。
妖魔召喚術は、強大な力だ。
だから、さまざまな独立的な賢者が、魔道十二戒の封印を解く方法をひそかに研究した。
そして、実際に十二戒を出し抜く方法も編み出された。
だが、その要領が書かれたものは禁書となっていて、伝承してはならない知識にもなっている。十二戒を破って禁忌魔道に触れる方法を書いた書物は、見つけ次第に焚書することになっていて、古い賢人たちが編み出した十二戒破りの禁忌魔道も、いまは完全に失われている
だが、その禁忌魔道に触れる方法を書いた禁書がここに存在する。
ユイナがそれを見つけたのは偶然のことだ。
両親が死んで、祖父であるトーラスに引き取られてまもなくのことであり、トーラスの蔵書の中に、その古い禁書を見つけたのだ。
古代語で書かれており、その知識のないトーラスには、それが禁書であること自体を知らなかったと思う。
だが、禁止されている魔道を記されたこの禁書に、ユイナは興奮した。
純粋な好奇心だ。
魔道を極めることは、ユイナの夢だった。
生まれつき他人よりも高い魔道の能力があったユイナは、それをもっと極めて、世界一の魔道遣いになりたいと思っていた。
ひそかに古代語を勉強したのもそのためだ。
ユイナは、トーラスの蔵書から禁書を持ち出した。
十歳のときであり、もう六年も前のことだ。
そして、十六歳のいま──。
ユイナは、すでに妖魔を契約によって呼び出す方法を習得していた。
やり方はそんなに難しくはない。
妖魔を最初から完全に召喚するのではなく、魔道陣という魔道で描いた丸い紋様を描き、それにより、こちら側の世界と妖魔たちが封印されている異界の共有の空間を一度作るのだ。
そして、呼び出したい妖魔の種に応じた魔力の波を作ってやる。
召喚ではなく、ただ通り道を開けただけなので、十二戒には引っ掛からない。
その後、召喚契約により、妖魔の身体にこちら側の使役魔道を刻んでしまう。
すると、妖魔は召喚者に帰属する使役体となるために、妖魔の発する魔道波が召喚者の魔道波に覆われてしまい、魔道十二戒には反応せずに妖魔を共有空間の外に出すことができるというわけだ。
いまもユイナは、そうやって、目的の魔道が遣える妖魔を呼び出した。
それが目の前の妖精のような小人であり、クンニと名乗る魔妖精だ。
いずれにしても、禁忌魔道が遣えることは、ユイナの絶対の秘密だ。
ユイナはありとあらゆる手段で、自分のその能力を隠している。
「条件って、なによ?」
ユイナは言った。
条件というのは、呼び出した妖魔に仕事をさせるための「召喚契約」を結ぶ報酬だ。
妖魔になにかをさせようと思えば、魔道陣の外に妖魔を出さなければならない。
召喚契約は魔道契約の一種であり、魔道契約は、魔道を扱う者同士が結ぶ絶対の誓いであって、その破ることのできない誓いを妖魔と結ぶということだが、相互の意思の一致が必要だ。
どんな手段でも、召喚契約を意思に反して結ぶことはできないので、向こうが気に入る条件を準備しなければならず、また、契約を結んでしまえば、召喚側もその魔道に心が縛られることになる。
「どうやら、この家には、おいしい魔石があるみたいだね。それでいいや──。あんたがさっき言ったロウという人間族の男を三日間、懲らしめるくらいの仕事なら、魔石一個でいいよ。それで引き受ける」
「魔石?」
ユイナは首をかしげた。
「あんたらは、クリスタル石と呼んでいるんだろう? それを一個だ。それでいい」
「ク、クリスタル石を──?」
ユイナはびっくりして声をあげてしまった。
確かに、クリスタル石はこの家にある。
もともと、あのダルカンが、密売のための北の屋敷に隠していたものであり、いまは、とりあえず、このトーラスの家の倉庫に運んで、トーラスたちが魔道で施錠している。
そして、数日後にはすべて処分するとも聞いている。
もともと、許可された個数を超えるクリスタル石を作成することは許されておらず、ダルカンが作った密売用のクリスタル石は、その存在そのものがご法度だ。
「そ、それは駄目よ──。持ち出すのは禁止なのよ。それに、わたしでも施錠は解けないわ。二重、三重に施錠されているのよ」
ユイナは言った。
だが、クンニは指を一本出して軽く左右に振った。
「……あんたがなにかをする必要はないさ。あんたは許可をくれるだけでいい。ぼくらにもいろいろな縛りがあってね。こっちの世界のものになにかをするには、こちら側の誰かの許しが必要なのさ。あんたが許可すれば、あとはぼくが自分でする。施錠なんて簡単に解けるよ」
「でも……」
ユイナは渋った。
だが、クリスタルの持ち出しなど絶対の掟破りだ。
それを許すなど……。
「……もしかして、ばれるのを心配しているのかい? それは問題ないよ。絶対にばれない偽物を代わりに置いておくよ。もう魔力を失った空の魔石を置いていく。実際に使おうとしない限り、ばれやしないさ」
クンニは言った。
だったら……。
ならば、ばれる心配はほとんどないと思う。
トーラスたちは、あそこにあるクリスタルを処分するつもりなのだ。使おうとするわけじゃない。すりかえた偽物は、ほかの本物と一緒に処分されてしまうだけだ。
処分されてしまえば、実際には偽物だったなどということはわかるわけがない……。
「……い、いいわ……。ただし、絶対にばれないような偽物を置いておきなさい。それから、ロウに悪戯をするときに、絶対にわたしのことがばれないようにもしなさい。そして、さっき示した罰を三日間与えるのよ」
ユイナは言った。
「契約しよう。三日間、あんたのしもべになるよ」
クンニが満足そうに言って、小さな腕を前に出した。
「契約する」
ユイナもその小さな腕に指をつける。
魔道契約の縛りがユイナを包むのがわかった。
*
「逃亡したダルカンという男とあのアスカが繋がっている可能性──?」
一郎は声をあげた。
三人で遊んだ夢のような夜が明けて朝になっていた。
一郎が目を覚ましたときには、イライジャは朝食の支度ということでもう姿はなく、エリカもすっかりと身支度が終わり、しかも、すでに出立の準備を整え終わっていた。
荷は、いますぐにでも出発できるように部屋の隅に置いてある。
一郎が目覚めると、夕べは、ほとんど気を失うようにして寝入ってしまったので相談できなかったがと前置きして、エリカがこのまま里をすぐに出ようと提案してきたのだ。
いま、その理由を聞いているところである。
びっくりすることに、里を逃亡したダルカンと、あのアスカが繋がっているかもしれないというのだ。
「繋がっているといえるかどうかまではわかりません。ただ、エルフ族が各里で作るクリスタル石には、それぞれ独自の波紋があります。アスカ様は、多量の魔力を召喚術のために必要としていたので、常にかなりの量のクリスタル石を手元に置いていました。わたしも、昨日気がついたのですが、アスカ様が使っていたクリスタル石の大部分は、あのダルカンが密売していたこのエルフの里産のものと同じ波紋のように思うのです」
「つまりは、あのアスカが、この褐色エルフの里と取引をしていたということか?」
一郎は言った。
そうであれば、なんらかのかたちでアスカが、ここに一郎とエリカがいることを知る可能性がある。
いや、むしろ時間の問題だろう。
そもそも、逃亡したダルカンが、アスカの手先だった可能性まである。
ダルカンを逃亡させたのが、アスカの手の者だとすれば、アスカが一郎たちがここにいるのを知るのは時間の問題だ。
「同じ波紋かどうかについても絶対の自信があるわけじゃありません……。また、アスカ様がここから密売されていたクリスタル石を使っていたからといって、直接の取引があったとも断定できません……。でも、万が一のことを考えて、やはり、すぐにここを引き払って、ハロンドール国入りした方がいいと思うのです」
「賛成だな……。そうと決まれば、さっさと出よう──。もう、特に、ここに長居する理由があるわけでもないしな」
一郎は大きくうなずいた。
あのアスカに捕まるかもしれないと考えただけで、大きな恐怖が走る。
捕まれば、今度こそ死んだ方がましな目に遭わされるだろう。
いや、それとも速攻で抹殺されるかもしれない。
いずれにしても、こことアスカが繋がっている可能性があるなら、すぐに出るべきだ。
もともと、ここにやってきたのは、ハロンドールに入国する路銀を確保するためだった。
それはユイナを助けたときに殺した三人から奪った金子と、エリカが里で売り払ってきた連中の装具代で賄えた。
トーラスたちが礼金を払うかどうかは不明だが、それはもういい。
すぐに出立すべきだ。
「ではイライジャに伝えてきます。朝食をとったら出ましょう」
エリカが立ちあがって、一郎を置いて部屋から出ていく。
一郎は寝台に座り直した。
あとは呼びに来るのを待つだけだ。
そのまま、ごろりと横になる。
次の瞬間、突然に自分の身体の内部に、得体の知れない存在が入り込んできた感覚が襲ってきた。
「な、なに?」
一郎は驚いて飛び起きかけた。
だが、手足が動かない……。
びっくりして助けを呼ぼうと思った、
直後に喉になにかが詰まるような感触が襲いかかった。
「あっ……がっ……はっ……」
声が塞がれた──。
それだけじゃなく息もできない──。
気管になにか異物のようなものが詰められたような感じだ。
苦しい──。
息が……。
一郎は身体をもがかせようとした。
しかし、やっぱり身体は動かない──。
し、死ぬ──。
た、助けて……。
“くくく……。もう無駄だよ。ロウの身体はぼくが乗っ取ったからね……。助けを呼ばないと誓えば、息を止めるのをやめてあげるよ──。だけど、もしも、誰かに助けを呼べば、その場で殺す……”
声が聞こえた。
正確には聞こえるのではなく、心の中に直接に話しかけられていた。
さっき、身体の中になにかが侵入する感覚がしたので、その存在が一郎の身体を操っているに違いない。
その存在のステータスも感じた。
“クンニ:契約名(ベルルス)
妖魔(魔妖精(淫魔族))、雌
生命力:500
攻撃力:10
魔道力:1000
経験人数
男999↑、女999↑
淫乱レベル:A
快感値:1000(通常)
状態
契約中”
とにかく、一郎は、心の中で約束を守ると念じながら、大きく首を縦に振った。なにしろ、いまも呼吸が停止させられている。死んでしまう。
ベルルスというのが何者かさっぱりとわからないが、とんでもないことになったというのはわかる。
それにしても、妖魔とか、淫魔というのはなんなのだろう……?
また、この性行為の経験人数の多さも異常だ──。
そう思っていると、不意に喉に詰まっていたものが消滅して息ができるようになった。
「ぷはあっ」
一郎は盛大に呼吸をした。
すると、一郎の身体の中に巣食っているベルルスとかいう存在が大笑いしたのが聞こえた。
ただ、実際には、一切の声はしていない。
一郎の心の中だけに聞こえているものだ。
“とにかく、ぼくの力はわかったね? じゃあ、契約に従って、あんたを懲らしめることにするよ……。好色男に罰を与えてくれと言われているんでね……”
身体に巣食っているベルルスという存在が愉快そうに言った。
すると、なにかが起きた。
寝ている一郎の視線に、膨らんできた胸が入ってきた?
そして、股間にも違和感が……。
なんかあるべきものがなくなったような……。
「うわあっ──?」
一郎は得体の知れない不思議な感触に声をあげた。
そのとき、突然に身体の拘束がなくなった。
一郎は慌てて、身体を起こして胸と股間に手を触れた。
胸に乳房がある。
逆に股間にはなにもない。
女?
女の身体?
このベルルスは、一郎の身体を女にしたのか?
あまりのことに、どう反応していいかわからなかった。
そのとき、ベルルスの我慢できなくなったような笑い声がした。
「お、俺になにをしたんだ、ベルルス──?」
一郎は絶叫した。
そのとき、そのベルルスの笑い声が消滅し、恐怖に包まれたような悲鳴が部屋にとどろいた。
「ぎゃあああああああ──」
なにかが突然に一郎の前に転がり出た。
白い肌をした女の小人だ。
身体が透けて見える薄い布をまとっていて、髪は見たことがないような澄んだ青だ。
ただ、小人であるということを除いて、まったくの女体そのものだ。
透けているのでわかるのだが、乳房もあれば局部もある。飛び出してきた衝撃で大きく股を曝け出すようにひっくり返ったので、スカートのような布がまくれあがり、そのベルルスという小人の股ぐら完全に露わになっていたのだ。
「な、なんで、ぼくの
ベルルスが恐怖に包まれた顔になっている。
そして、すっと寝台の上から宙に浮びあがって、一郎の顔をまじまじと凝視した。
だが、すぐにはっとしたような表情になった。
逃げるつもりだ──。
咄嗟に思った。
冗談じゃない──。
女にされたままどこかに行かれてたまるか──。
「待て、どこにも行くな。止まれ──」
一郎は叫んだ。
「は、はい」
すると、驚いたことに、ベルルスが硬直したように宙で静止した。
身体が恐怖に震えている。
どうしたのだろう……?
一郎は、目の前のベルルスのステータスを心に浮かべようと念じた。
“ベルルス/クンニ
妖魔(魔妖精(淫魔族))、雌
生命力:500
攻撃力:10
魔道力:1000
経験人数:男999↑、女999↑
淫乱レベル:A
快感値:1000(通常)
状態
契約中
真名による支配(ロウ)”
真名によって支配……?
一瞬、考えたが、ふと思い至る知識があった。
真名とは、妖魔の本名のことであり、これを他人に知られて名を呼ばれると、その支配に陥るという伝承だ。
ファンタジーなどでよくある設定であり、一郎も元の世界で悪魔の真名を知ることで、悪魔を操るという小説かなにかを読んだことがある気がした。
それと同じことが起きたのか……?
「ベルルス──。俺にかけた魔道を解け──」
一郎は言った。
「は、はい、ご主人様」
すると、乳房の重みがすっと消失した。
股間に手をやる。
確かな感触──。
一郎はほっとした。
そして、いまだに緊張した表情で宙に浮かんでいるベルルスを見た。
「なんだ、お前は? ベルルス、お前は何者だ?」
「も、もうぼくは支配に陥りました……。で、ですから真名を呼ばないで……。ほかの者にも真名を知られてしまいます……。お、お願いです。真名を誰にもばらさないで……」
ベルルスがぶるぶると震えながら言った。
やはり、真名で呼び掛けられると、その相手の支配に陥ってしまうということのようだ。
ほかの誰かにも知られてしまうと、その支配にも入ってしまう。
そのうちに、すべての者に真名を知られて、誰にも逆らえない奴隷になってしまう。
それを恐怖しているようだ。
「……クンニと呼べばいいのか?」
一郎は言った。
ベルルスのステータスには、真名だという「ベルルス」とともに、「クンニ」という別の名も併記されている。一郎が真名を口にしたせいか、表記も変化しているが……。
それにしても、もっとましな呼び名はないのか……?
「ク、クンニは契約名で……。ご主人様はなんでもご主人様の好きなようにつけてください……。だ、だけど、あなたは何者……? ど、どうして、ぼくのことを……」
クンニことベルルスが目を丸くしている。
一郎はベルルスの身体を手を伸ばして掴むと、手元に引き寄せた。
ベルルスは抵抗しなかった。
ただ、小さな恐怖の悲鳴をあげただけだ。
そして、身体が真っ赤なもやで包まれた。
これはベルルスが欲情している証拠だ。
よくわからないが、一郎が掴むと急に身悶えを始めた。
「な、なにこれ……? へ、変だよ……。ど、どうして、こんなに……」
手の中のベルルスが当惑したような声をあげた。
「……ベルルスでも、クンニでもいいけど質問に答えてないな……。お前は何者だと訊いてるだろう」
一郎はベルルスの身体の正面にある赤いもやの部分に沿うように、すっと手をやった。
「ひゃ、ひゃああ──」
ベルルスは一郎の手の中で激しく身悶えると、大きな声で嬌声を発した。
一郎には、ベルルスの「快感値」が“1000”から“500”まで一気に下がったのがわかった。
こんな小人でも、ちゃんと感じるようだ。
「な、なに……? なんで、こんなに……?」
ベルルスが当惑している。
随分と感じやすい性質のようだが、いきなり性感帯を的確に刺激をされてびっくりしたようだ。
「へえ、ちゃんと感じるのか……。じゃあ、待ってな──」
一郎の心に、この小人の女妖精みたいなベルルスに、急に悪戯心が芽生えたのだ。
よくわからないが、どうせ悪戯好きの妖精かなにかだろう。この世界では、こんな妖精も珍しい存在ではないのかもしれない。
とにかく、一郎にとんでもないことをしようとしたのは事実だ。
だったら、きっちりと懲らしめてはやろう──。
一郎は、手の中にベルルスを掴んだまま、エリカがまとめていた荷のところに行った。
「確か、エリカが獲物を捕らえるときの罠に使っていたものがあったはずだ……」
呟きながら荷の中を探していると、すぐに目的のものが出てきた。
“トリモチ”だ。
粘着力のある溶剤であり、それで罠を仕掛けるときに使うのだ。
一郎は部屋にある小さな卓の上にトリモチを少しだけつけた。そして、ベルルスの手の先と両膝をトリモチで卓に密着させてやった。ベルルスは、両腕を頭の上に伸ばして、両脚をM字に開脚した体勢で貼りつけられて動けなくなる。身にまとっている布も捲くれあがり、局部が完全に露わな状態だ。
怯えた表情のベルルスの身体を荷から一緒に取り出していた「筆」で擦ってやる。
いつも、エリカを「調教」するときに使っている責め具だ。
こんな小さな身体だと、筆は身体の表面を同時に一気になぞることになる。一郎はベルルスの身体に浮かんでいる赤いもやをできるだけ全部一緒に刺激するように筆で数回掃いた。
「ひゃあっ、ひゃあ、ひゃがあああ──」
ベルルスが白目を剥いて暴れ出した。しかし、トリモチで台に磔にされているので、実際には多少左右に身悶えしているだけだ。
一郎は続けて筆を動かしていく。
面白い──。
筆をひと掻きするたびに、百単位で快感値が低下していく。
考えてみればそうだろう。
脇から乳房、そして腹も横腹も曝け出している股間の全部を一気に刺激されるということだ。ほとんど性感帯を余すことなく同時に刺激をしているのだ。
さすがに堪らないらしい。
ベルルスは怖ろしいほどの速度でさがっていく「快感値」が示すように、白目を剥いてがくがくと震えて追い詰められていく。
一郎はベルルスが呼吸をしようとするのを見計らって、それを邪魔するように連続で刺激をしてやる。
さっきの仕返しだ。
快感で呼吸を邪魔するのだ。
すぐにベルルスがおかしな声を出し始めた。
そう思ったら、“100”を切った快感値が一気に“0”になった。
「はがああ──」
ベルルスがM字磔の身体を限界まで反らせて悲鳴をあげた。
しかも、尿のようなものを股間から垂れ流した。
「魔妖精でも小便するんだな」
一郎は笑いながら、続けて筆を擦り続ける。
この小さな女が魔妖精であるというのは、ステータスを見ることでわかっている。もっとも、“魔妖精”というのがなんのことかはわからないが……。
しかし、絶頂により“0”になった快感値の数字は、すぐに“200”以上に回復した。これはすごい。人族ではありえない回復速度だ。
一郎は今度はベルルスの身体を指で擦った。
「あぎゃあああ」
すると、あっという間に、そこから一気に“0”になり、ベルルスがまたもや身体を弓なりにしてがくがくと震えた。
筆よりも、直接の指による愛撫の方が効果があるようだ。
一郎は指による刺激に変えて、ベルルスの小さな局部をくすぐるように触ってやる。
「ひいいいいん」
ベルルスが白目を剥いて悶絶する。
すぐに回復するから、また指で瞬間絶頂をさせる。
びっくりするほどの極端な反応を示す小さな女をいたぶるのが愉しくなってきた。
同じことを続けざまに五回やった──。
すると、ベルルスが口から泡のようなものを噴き出し始めた。
「ひゃがああ──ゆ、ゆるじて──。さ、さがらいまぜん──。ざからいません……。いいいいい……ひがああ──」
ベルルスがまた絶頂の仕草をする。
それでも指をとめない。
すぐに全身が絶頂の仕草をする。
七回目……。
またもや、尿のようなものを股間から噴き出した。
一郎はやっと指を動かすのをやめた。
「さあ、ベルルス──。さっさと白状しろ。お前はなんでここに来たんだ? 何者なんだ? 言わないと、これを百回繰り返すぞ。それとも、寸止めがいいか。お前を絶頂させるのも、ぎりぎりまで追いつめるのも好きなようにできるんだ」
一郎はまだ痙攣のように身体を震わせているベルルスに指を突きつけて怒鳴った。
「はあ、はあ、はあ……。あ、あなたこそ何者……ですか? ぼ、ぼくをこうも簡単に……。お、おかしい……おかしいよ……。あ、あなた……ご主人様に責められると……、か、感じすぎる……」
ベルルスが息も絶え絶えに言った。
そう言われると、一郎もそんな気がした。
ベルルスは愛撫とかは関係なく、ただ触っただけで性的絶頂に至る感じだった。
まるで絶頂人形だ。
「……さあなあ……。もしかしたら、俺が淫魔師であることと関係があるかもなあ……。そもそも、お前は淫魔族なのか? 淫魔族ってなんだ?」
一郎はぼつりと呟いた。
もう一度、ステータスに注目すると、ベルルスは魔妖精の淫魔族とある。
「い、淫魔師──? あ、あなた様は淫魔師──? 淫魔族と淫魔師はもともと主従の関係……。だ、だから、ぼくはあなたの能力が見抜けなくて、うっかりと身体に入ってしまって……。そ、それだけじゃなくて、快感もあなたに……い、いや、ご、ご主人様にあっという間に支配されてしまうんだ……。く、くそう──。淫魔師のところに、ぼくをいかせるなんて……。あ、あいつ、ぼくを騙したなあ──」
クンニが吠えるように怒鳴った。
よくわからないが、やっぱり誰かにけしかけられて来たようだ。そう言えば、“契約中”という言葉もステータスにある。
「誰かに言われてきたというのは、契約したということか? 誰に頼まれたんだ?」
一郎は今度は指でそっとベルルスの身体をなぞった。
「ひゃああ、その手で触らないでええ──」
ベルルスが絶叫した。
“300”くらいまで戻っていた快感値が瞬時に“0”になって、ベルルスが完全に脱力する。
気を失った感じだ。
改めて触って気がついたが、一郎がベルルスに直接触れると、そこが真っ赤なもやになり、ものすごい速度で快感値が低下する。
どうやら、一郎の指が触った場所が、凄まじい性感帯に変化するという感じだ。
それなら、本当になんでもない場所でも同じことがあるのだろうか……?
一郎はベルルスの長い髪を指で繰り返し擦ってみた。
「う、うわああ──な、なに──? なに──? なに? あはああ──」
驚いたことに髪を触っただけで、そこが真っ赤なもやに包まれた。意識を失っていたベルルスが悲鳴をあげて覚醒する。
そして、快感を覚えている証拠に、快感値がどんどんと低下していく。
やはり、この反応は一郎が淫魔師で、ベルルスが淫魔だということに関わりがあるに違いない。
ベルルスは一郎に髪を撫ぜられるだけで、またもや昇天してしまった。
「な、なんれもする……。も、もう……ゆ、ゆるして……」
クンニは息も絶え絶えに言った。
「淫魔は淫魔師に操られるものなんだな? 心も身体も……」
なんとなくそんな感じだ。
「そ、そうです……。い、淫魔は仕える淫魔師には逆らえない……。流れている淫気がそうさせる……。あなた様が望むなら……、せ、正しもべになって……仕えます……。だ、だから、もう、もう許して……」
「正しもべ?」
「い、一時的ではなく、恒久的に隷属するということです。は、外して……。こ、このトリモチ……は、外して……」
ベルルスが荒い息をしながら言った。
もはや、逃げることもないだろう。
一郎は、トリモチを剥がす“取り粉”を出すと、それでベルルスを磔から解放してやった。
ベルルスは一郎の右手に掴まるようにしがみついてきた。
しばらく、ぴったりと汗まみれの身体を密着させていたが、やがてすっと手首から離れて、宙に浮びあがった。
ふと見ると、さっきまでベルルスの身体があった場所に、薄っすらとだが小さな紋様が描かれている、丸い円の中に幾何学的な線と図形、そして、読むことのできない文字らしきものがある。
「そ、それは魔道陣です……。それが亜域と繋がります。ぼ、ぼくを呼び出したいときはいつでもそれを擦ってください。そうすると、ご主人様の淫気の力がぼくのいる場所とこの世界の通路を作ります……」
ベルルスが言った。
よくわからないが、いつの間にか、この魔妖精をしもべにしたことになったらしい。
どういうことだろう……?
まあ、後でエリカに訊いてみるか……?
「……とにかく、誰にけしかけられたんだ?」
一郎は言った。
「そ、それは契約で口封じされていて……。け、契約は破れないんです……。で、でも、もしもご主人様が契約解除を命じるなら……。淫魔の主従関係は通常の魔道契約に優先しますので……」
「だったら、契約なんて解除しろ──。誰に頼まれたのかを……」
「ありがとうございます──。ご主人様の命令で契約を解除します──。ぼ、ぼくを陥れたあいつに仕返しに行ってきます」
ベルルスが満面の笑みを浮かべて姿を消失させた。
「うわっ──待て──」
一郎は声をあげたが、すでにベルルスはいなくなってしまっていた。
結局、誰に頼まれたのか、白状させられなかった……。
一郎は、さっき右手首の魔法陣とかいう紋様を擦れば、やってくるとベルルスが言ったことを思いだして、それで呼び戻そうと思った。
しかし、やめた──。
まあいい──。
実害はなかったのだ──。
あんな変な存在だが、なにかの役に立つかもしれないし、どう対処すればいいか、エリカに訊いてからにしよう──。
そう思った。