【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
179 羞恥散歩の実験(1)
商会の建物は、王都ハロルドの中でもっとも中心の大通りに面している。
窓から見える景色は、いつも馬車などが激しく往来しており、さすがは大国ハロンドールの王都だと思わせる賑やかさだ。いま見えるのは、全員が真っ白な馬にまたがる華やかな騎士団の行進である。十人、二十人でもすごいのに、おそらく、百騎は超えるであろう白馬の騎士の大集団なのだ。
「なかなかに豪華
「数日後には王軍大演習だからね。その準備に大わらわなのよ。この数十年、戦らしい戦のない軍にとっては、年に一度の見せ場だしね。去年は観なかったのかい?」
ミランダだ。
今日はここで、ロウたちがやってきて、関係者で話し合いをすることになっている。
いま、いるのはマアのほかに、ミランダだけだが、そろそろ刻限なので、ロウたちも来るだろう。ほかには、スクルズとシャーラが来る。
アネルザはあえて呼んでない。
ロウの指示だ。
アネルザには、はっきりとしたことを確信したら、ロウの口から伝えるそうだ。
マアもそれがいいと思う。
溺愛していた娘アンのことだ。
下手に教えると、アネルザの性格だと、中途半端な段階で暴発しかねない。
「この部屋からほとんど出なかったからね。今年も行かないけど、まあ、縁があったら見物もさせてもらう。機会があればね」
「そうかい。もっとも、演習といっても、決められた台本に添って行動する軍事展示だし、危ないこともないんだけどね。まあ、派手な魔道の演出もあって、大規模な演劇のようなものよ」
「おかげで稼がせてもらったけどね。あれだけの魔道具の量をよくも使い切るのかと思うくらいに卸したよ。魔道具を作れる技術者はそんなに多くはないしね。ハロンドール王国内にみならず、ローム三公国のあちこちに手を回して揃えたさ。まあ、大変な数箇月だったよ」
マアは窓際から部屋の中心にある椅子に移動した。
短い距離だが、本当に若返ったのだという事実を実感させる。この距離を少し前までは痛む膝を我慢して歩いていた。
いまは、若返ったという事実を隠すための魔道具は首にはしていない。
服装も若向きの明るい華やかな色のものだ。
こうやって仲間内の前で若い身体を着飾るのは、マアの愉しみのひとつだ。なにしろ、外に出るときには、従来のような老人でなければならないので、お洒落を愉しむことはできない。
卓には茶器と茶菓子が乗っており、柔らかい座り心地の長椅子や椅子が囲んでいる。
今日はいま乗っている菓子のほかに、とっておきの食べ物を準備している。準備したのは、ミルクに砂糖と卵黄を加えて攪拌させて凍らせた氷菓子だ。海を越えた外国と貿易をする西岸諸国に伝えられた技術をタリオ国内の菓子職人が開発したものであり、いま、タリオの上級貴族層で大人気になっているものだ。
まだ、ハロンドールにはそれほど伝わっていないはずだが、早晩王宮に卸すことになっている。
おそらく、大人気になるはずだ。
ロウには、それに先立って、ここで試食をしてもらうつもりである。
気に入ってくれるといいのだが……。
「ところで、その氷菓子はどうだった、ミランダ?」
「最高よ。シャルベットだっけ? 本当においしいわね。お代わりないの?」
ミランダがことりと持っていた器を卓に置いた。
ひと足先に試食をしてもらった氷菓子を盛っていた器だ。完全に空になっている。それはいいのだが、口の周りに白い食べ痕がついていて、童顔で小柄なミランダがまるで子供のようだ。
マアは噴き出してしまった。
「あれはあまり、大量に食べるものじゃないのよ。腹を壊すわよ」
マアは椅子に腰をおろしながら、手で口の周りに食べ痕がついていると合図をした。
ミランダが赤い顔をして、慌てたように布を出して口を拭く。
そのときだった。
部屋の一部の空間が揺れた。移動術の魔道だ。
そこから、シャーラが出現した。
「マア殿、ミランダ、御機嫌よう。ロウ殿たちとスクルズ様はまだなのですね」
「約束の刻限は夕方だったしね……。奥の厨房の魔道庫にタリオで流行っている氷菓子があるわ。よければ試食をしていって。王女専属の侍女長殿を召使い女のように扱って申し訳ないけど」
「からかわないでください。召使いでも給女でもなんでもやりますよ。厨房にお邪魔します」
シャーラが奥に向かう。
みんなが勝手知ったるマアの部屋だ。
もう教えなくても、なんでも使いこなす。
すると、今度は一階と繋がっている階段側の扉が外から叩かれた。
「マア様、お客様です。シャングリア様とコゼ様です」
扉の外から聞こえた明るい声はスタンだ。
縁があり世話をすることになった孤児の少年であり、使ってみるとなかなかに才能がありそうなので、いずれは本格的に商売のことを教え込もうと思っている。
それにしても、シャングリアとコゼか。
ロウは一緒ではないのか……。
「ありがとう。お前はいいよ。ふたりだけを中へ」
扉には魔道具が設置されていて、扉の内側と外側で自由に会話できるようにしている。
スタンが返事をして、扉の前から立ち去る気配がした。
少しして扉が開き、シャングリアとコゼが入ってきた。
「ロウはどうしたの? 珍しく一緒じゃないのね」
声をかけたのはミランダだ。
ふたりが空いている長椅子に並んで腰をおろす。
「淫乱巫女と一緒よ。エリカは護衛ね。ときどき、あのど淫乱にはついていけないときがあるわ。新しい魔道具の実験をするそうよ。しばらく遊んだら、淫乱巫女の魔道で来ると思うわ」
コゼが少し不機嫌そうに言った。
「淫乱巫女? スクルズのこと?」
ミランダがくすりと笑った。
マアも苦笑した。
「淫乱巫女といえば、あいつしかいないでしょう、ミランダ」
コゼが不貞腐れるように言った。
「スクルズがやって来ると、ロウを取られるからな。今日も四人も女がいたら目立つからと、先にここに向かうようにロウに言われたのだ。それですっかりと機嫌が悪くなった」
シャングリアが口を挟んだ。
その顔は笑っている。
「だいたい卑怯よね、あの巫女も。ご主人様が気に入りそうな淫具を持って来て、気を誘うんだから」
コゼは言った。
マアはそういうことなのかと思った。
よくはわからないが、あのスクルズがロウの言いつけで、よく淫具の魔道具を作らされているということは耳にしている。
マアにいわせれば、才能の無駄遣い以外の何物でもないが、確かにあの魔道遣いは、ロウの卑猥で馬鹿げた要求に、嬉々として応じたりする。
今日も、その一環なんだろう。
いまも、実験とか口にしていた気がするし……。
「だが、あたしに言わせれば、そなたらの方がよほどに羨ましいぞ。いつもロウ殿といられるしな。たくさん愛してもらっているのだろう? スクルズもたまにしか来れない。多少は許してやるがいい」
「なに言ってんですか、おマアさん。あいつ、毎朝、毎晩来ますよ。午前と午後のお勤めのあいだにやってきて、ご主人様の精をもらって、午後の祭事をしたりするんですから。どんな淫乱巫女なのよ」
コゼだ。
そんなにスクルズはロウのところに通っているのか。それにはマアもちょとびっくしりてしまった。
「みなさん、先日はありがとうございました。これは、マア殿の準備された氷菓子だそうです」
シャーラが盆に三人分のシャルベットを準備して持ってきた。
シャングリアとコゼの前に置き、自分も椅子を占領して氷菓子を確保して腰掛ける。
身分も立場も違う女同士だが、同じロウの女ということで、おかしな隔てなく、こうやって和気あいあいとできる。
この集団は、マアにとっては、本当に心を許せる数少ない集まりであり、心から安らぐことができる。
「先日?」
ミランダが口を挟んだ。
「ロウ殿が姫様の侍女を全員、ロウ殿の女にしたのでそのお披露目を……。でも、おかげで、こうやって姫様と離れても、ある程度は安心していられます。わたしの代わりの護衛もいますし」
シャーラが言った。
「おお、あいすか。珍しいな」
シャングリアが言って、シャルベットに手を伸ばした。
「あいす?」
マアは首を傾げた。
「そうね。あいすね。以前にご主人様が一度作ってくれたことがあったわね。エリカに魔道を遣わせながら。結構、大掛かりになったんで、それきりだったけど。あいすね」
コゼも言った。
これにはマアも驚いた。
「ロウ殿は、シャルベットの技法をご存知か?」
思わず声をあげた。
「しゃるべっと? ご主人様はあいすって、言ってましたね……。うわっ、でも、これ美味しい──。エリカが作らされたものと全然違う──。うわあ、美味しい」
コゼが声をあげた。
マアはほっとした。
ロウに悦んでもらおうと貰おうと思って、手間と金を使って準備したものなので、すでに知っているものと聞かされてがっかりしそうだった。こっちの方が美味しいのなら、それでもいい。
「本当だ。うまいな」
「本当に美味しいです。それに、こんな食べ物があるだなんて」
シャングリアとシャーラも顔を綻ばせた。
「帰りには姫様にも持っていっておくれ。新しいロウ殿の愛人殿たちにもね」
ロウが侍女とあのヴァージニアの全員を性奴隷にしたというのは、もちろんマアも教えてもらった。
昨日、家庭教師にあがったら、ヴァージニアが随分美しく変身していたので、驚いたものだった。
いつものサロンのメンバーのモンベール家のアドリーヌ嬢やサンドベール家のエミール、カリーヌ姉妹令嬢なども驚愕していた。
ヴァージニアはお洒落に目覚めたと誤魔化していたが、あれは絶対にロウが若返りの手法を施したのだろう。
それはともかく、王女の侍女たちには、かなり年齢が低い者もいるが、彼女たちもロウの攻撃範囲に含まれるなら、サロンの令嬢たちも、ロウの守備範囲ではないだろうか。
ロウは一度も会ったことはないはずだが、アドリーヌなど、貴族令嬢とは珍しいくらいの、気立てがよくて真面目で可憐だ。ロウなども気に入るのじゃないだろうか。サンドベール家の妹のカリーヌなども、憧れの視線をアドリーヌに向けていたが……。
「ありがとうございます、マア殿」
シャーラが頭をさげた。
「いずれにせよ、ロウから伝言だ。新しい魔道具の実験をするので、少し遅くなる。ただ、陽が落ちる前には来るそうだ」
シャングリアだ。
「つまりは、陽が暮れるまでは、その実験とやらで遊ぶので、遅れるということね。ところで、なんの魔道具の実験なの? ロウのことだから、碌でもない物に決まっているけど」
ミランダが呆れた声を出した。
「エリカは知らないけど、こっそりと淫乱巫女が教えたことによれば、結構なものよ。まあ、さすがにあたしも、それを装着する度胸はないかも」
コゼが肩をすくめた。
*
「ふふふ、愉しいですね。こうやって王都をゆっくりと歩くのも新鮮です。誰にも注目されませんし……。まずは、実験は成功ですね。それに、ロウ様がご一緒ですし……。あっ、ロウ様、あの菓子屋さんに寄ってみませんか? 皆さんに、お土産はどうでしょう?」
王都の大通りをマア商会に進む方向に向かいながらスクルズがくすくすと笑った。
エリカは、スクルズとロウが並んで歩く後ろから進みながら、護衛として周囲を警戒しているのだが、スクルズのはしゃぎようは、エリカも思わず微笑んでしまうものだ。
王都でも有名な筆頭巫女であり、いまは暫定の神殿長代理だ。
それがこうやって、誰からも注目をされることなく街中を歩けるのは、今日、スクルズが持ってきた『欺騙リング』のおかげだ。
同じものをエリカも首にさせられたが、よくはわからないのだが、その機能のひとつは、こうやって人間を目立たなくするというもののようだ。
似たものを以前にも使っていたことがあるが、これはそれのかなりの改良版ということである。
とにかく、その実験ということで、スクルズとロウが王都の中心部に出てきたのだ。
エリカは街中をふたりが歩くので護衛だ。
シャングリアとコゼは、一緒にいると目立つということで先に行かされた。なにしろ、スクルズが持ってきた「欺騙リング」は二個しかなかったのだ。
先行を指示されたコゼは、相当にむくれていた感じだったが……。
いずれにせよ、とにかく、確かに誰も注目はしない。
かといって、見えないというわけでもない。ちゃんと前から行き交う人たちは、エリカたちを避けてくれる。
ただ注目されないだけのようだ。
これはいいと思った。
ロウにもしてもらえば、アスカの刺客から狙われてもかなり有効だ。
以前の同様のものは、それは顔を覚えにくくするくらいの機能であり、すでに知られてしまった顔については効果がなかった。
しかし、スクルズが持ってきた新しい欺騙リングは、王都中で知っているスクルズのことを誰も注目しないようにするもののようだ。
だが、それはともかく、菓子屋に寄るだって?
まるで、デートのようじゃないか。
浮かれているスクルズの気持ちはわかるが。
「でも、そろそろ全員揃っている時間じゃないかしら。そろそろ向かった方がいいんじゃないですか?」
エリカは声をかけた。
「大丈夫だよ。そのために、シャングリアに伝言を託しただろう。どっちにしても、夕食も食べる予定になってんだ。全員、そのつもりで時間を作って集まっているはずだ。問題ない」
「そうですよ、エリカさん。まったく問題ありませんわ……。それよりも、ロウ様、あの菓子店に寄ってはいけませんでしょうか? わたしは、ああいう店には立ち寄ったことはないのです」
スクルズがロウに少しおもねるような口調で言った。
エリカは嘆息した。
これは、まだしばらく王都の散策を続けそうだ。
ふと見ると、スクルズが口にした店は最近できた若い女向けの菓子店であり、かなりの人気の店だ。
大衆向けでもあるので、若い女性たちがいまでも多く集まっているのがわかる。
エリカもコゼと一緒に入ったこともあるが、スクルズくらいになると有名過ぎて入ることは難しいのだろう。
なにしろ、スクルズは貴族ではないが、王都大神殿の筆頭巫女のひとりということで、高位貴族の格式を持っている。
それを考えると、ちょっと可哀想にも感じた。
「いいぞ、スクルズ……。だけど、そのリングの効果を確認しながらだ。覚悟はいいか?」
ロウがくすくすと笑った。
エリカはどきりとした。
ロウがあの笑い方をするときには碌なことはない。
もしかして、このリングには、ただ顔をわからなくするだけの機能のほかに、ほかにもなにかあるのだろうか?
「は、はい……。も、もちろんです……。そのために参ったのですから……。でも、緊張しますね……。では、結構です。いま記憶させました。いつでもお願いします」
スクルズが一度立ち止まってから、次いで、通りの隅に移動する。
エリカも、ついていくロウとともに進む。
「じゃあ、亜空間にしまうぞ。おマアの部屋に着いたら返してやる」
ロウが笑って、スクルズの手を握る。
亜空間?
だが、なにかが変わったという感じじゃない。
いつまで経っても、なにも起きない。
「ふう──。こ、これは、さすがに……。だ、大丈夫でしょうか……? 周りの反応からすると、問題ないようですが、自分ではよくわからなくて……」
スクルズが急に真っ赤な顔になり、手を胸とスカートの前に移動させた。
なんだろう?
「問題はないようだけど、そうやって、手で隠すと逆に目立つんじゃないか。堂々としてろ。効果については俺にはわからん。なにしろ、手を握っていたしな。どうだ、エリカ? なにか不自然なところはあるか?」
ロウがエリカを見た。
エリカは首を傾げた。
「不自然とはなにがですか? もうなにかが始まっているのですか?」
エリカは言った。
スクルズがほっとしたようにぎこちない笑顔になる。
そして、かなり躊躇ったように、手を身体の前から離した。
なにか態度がおかしい。
ロウも好色そうに、にやにやしている。
「特定の人間だけに欺騙を解くには、手を握ればいいのだな、スクルズ?」
ロウがスクルズに言った。
「はい、先ほどのように、数瞬だけ握れば、それで欺騙の効果は消滅して、本当の姿が見れるようになります」
スクルズが口の中の唾液を呑み込みながら言った。
かなりの緊張状態というのがわかる。
「じゃあ、ふたりとも手を握れ」
ロウが言ったので、エリカはとりあえずスクルズに手を伸ばした。
相変わらずの緊張の様子でスクルズがエリカの手を握ってきた。
なにも変わりはなかったが、すぐにスクルズの身体が揺れるような感じになった。いや、スクルズが動いているのではなく、スクルズの立つ場所の空間が揺らぐ感じだ。
「あっ、うわっ」
次の瞬間、エリカは大声をあげてしまった。
スクルズが素っ裸になったのだ。
首のリングのほかには、足のサンダルしかない。
乳房も陰毛もなにもかも剥き出しの一糸まとわぬ全裸だ。
「大声出すなよ、エリカ。遮蔽リングといっても声は注目されるんだ。さて、スクルズ、エリカのリングにも魔道を込めてくれ。いまの服装を記憶させるんだ」
「すでに終わっています。いま、エリカさんから服を奪っても、周りの人からは、いま身に着けている服を着ているようにしか映りません」
「なら、二番目の機能までは成功だな。三番目の機能はどうかな? しかし、その前にエリカだな」
ロウとスクルズが不穏なことを語りだした。ただ、三人にしか聞こえない程度の小さな声だ。
いずれにせよ、エリカははっとした。
やっと、このリングの機能がわかったのだ。
これは、顔を目立たなくするだけじゃなく、外見の服装を記憶して、それを周囲にはそのまま投影して、服装が変わっても、そのまま見せる機能ということだろう。
つまりは、裸になっても、周りには元のまま服を着ているようにしか見えないということだ。
さっき、亜空間に収納ということをロウが口にしたのは、あの後、新しくロウが身に着けた能力で、スクルズからすべての服を奪ったに違いない。
それに、これが二番目?
まだ、なにかあるということ?
それはともかく……。
エリカと言った……。つまりは……。
「ちょ、ちょっと待ってください、ロウ様──」
エリカは慌てて言った。
「待たんな。とりあえず、エリカは、スクルズのようにいきなりの全裸は勘弁してやる。少しずつ慣れていこうな」
ロウが言った。
次の瞬間、スカートが消滅して、下半身が腰の小さな下着だけになった。
「いやっ」
エリカは悲鳴をあげ、慌てて上衣の裾を引っ張って下着を隠した。