【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「まったく、呆れたのう──。随分とシャーラを呼び戻すのが遅いとは思っておったが、まさか、全員揃って乱交をしておったとはな──。しかも、ミランダとマアも一緒か? もっと真面目な女と思っておったが、お前たちまでロウ殿の悪徳に染められたのか?」
イザベラだ。
もっとも、怒っているという雰囲気ではない。
その証拠に、口元には笑みが浮かんでいる。
どちらかというと、からかっているという口調だ。実際、淫魔術で感情に接触してみても、怒りの感情はどこにもない。ただ、少し呆れているという心が大部分であり、さらに少しだが、嫉妬の感情のようなものもある。
これは、乗り遅れたことに対する口惜しさのようなものかもしれない。
一郎は苦笑した。
「悪徳はひどいですね、姫様」
一郎は笑って口にした。
すると、イザベラが白い歯を見せた。
「だったら、悪徳は優しいロウ殿をたぶらかす淫女たちの方かな。悪い女たちだ」
「この男こそが諸悪の原因ですよ、姫様……。まあ、ちょっと羽目を外しそうになってしまったのは認めます」
「ロウ殿の前では、あたしもただの少女になるようだね」
ちょっと
キシダイン工作のために集まったマアの商会の部屋である。
集まったのは、一郎のほかに、いつもの三人娘、スクルズ、ミランダ、そして、マアだ。
ほかにシャーラを呼び出していて、集まりの時間が夜になったことで、王女のイザベラも一緒に来れることになったらしく、たったいまシャーラとともに、ふたりが移動術でやって来たところだ。
なにしろ、当初はもう少し夕方に近い時間に話し合いをして、その後は参加できる者がここで食事……とまあ、それが終われば、一郎を中心に男女の営みでも……。
……というような予定だった。
だから、シャーラは、一郎が到着する前に一度やって来ていたらしいが、一郎の到着が少し遅れそうだという伝言があったので、一度宮殿敷地内の小離宮というイザベラ王女の住まいに戻り、一郎が到着次第に魔道通信で連絡をしてもらうことになっていたようだ。
だが、待てど暮らせど、なかなか連絡がこないので、それで業を煮やし、夜になったということもあり、小離宮を離れても問題がなくなったイザベラとともにやって来たらしい。
ところが、そこで見たのは、一郎が集まっていた女六人と、乱交をやっている光景であり、それでこうやって、説教のような物言いをしているということだ。
まあ、集まりが遅くなったのは、確かに一郎のせいだ。
それは否定しない。
なにしろ、スクルズとエリカを城郭で羞恥調教をしながらやって来たこともあり、ついつい好色の火がついてしまって調子に乗り、その勢いのまま、一郎は乱交のようなことを集まっていた女たちを相手に始めてしまったからだ。
しかし、確かに、その原因の大半が一郎にあることは否まないが、一郎だって、ミランダやマアまでが積極的に迫って来てくれるとは思わなかった。
嬉しくなった一郎が、ついつい我を忘れて、さらに意欲的にみんなを抱いたというのは、無理からぬことだったのではないだろうか。
いずれにせよ、いまはやっと落ち着いて、マアの私室であるこの部屋にある卓を囲んで椅子に腰掛ける態勢になった。
たったいままで性交をしていた女たちも、服や髪はまだ乱れた感じであるし、顔も上気しているものの、一郎の淫魔術で身体の回復はしており、少しだるそうだが、なんとか全員がちゃんとしている。
「疲労回復効果のあるエンゲル草の煎じ茶ですよ。元気が出ます」
シャーラが笑いながら、全員にお茶を配り歩いている。
卓を囲む席のもっとも上座になるひとり用の席に腰掛けているのはイザベラだ。一郎は、その右翼側の長椅子に座っていて、両横にはスクルズとコゼが陣取っている。シャングリアとエリカは、小さな椅子を持って来て、一郎たちの後ろ側だ。
マアは、イザベラとは真反対になるひとり用の椅子である。
ミランダは一郎たちの向かい合わせの長椅子だ。
そのミランダの横に、お茶を配り終わったシャーラがいま腰かけた。
「……さて、ところで、これで来るべき者は全員なのか? アネルザ殿は? ベルズもおらんな」
イザベラが口を開いた。
この集まりが、これから始めようとしているキシダインとの戦いのための密約であることは、すでに全員が承知している。
それに関わっているのは、一郎の愛奴たちであり、仲間たちだ。
一郎が性奴隷の刻みをしているのは他にもいて、イザベラの十人の女官と侍女たちもいるし、冒険者ギルドのランもいる。だが、彼女たちは深くは関わっていないし、万が一、事が失敗に終わっても、斬首刑の対象になるような立場にはしていない。
キシダイン工作が失敗すれば、処刑されるか、あるいは死んだ方がましな立場になることになるほどの重要な関わりをしているのは、ほかにはアネルザとベルズだ。
しかし、ふたりとも、ここには来ていない。
「ベルズは、最終的には協力します。でも、陰謀のようなことをして他人を死に陥れるというようなことは、戒律に反することなのです。だから、話し合いには参加しません。わたしたちには信仰を守るという立場もあります。ご理解ください。ただ、もう一度申しますが、ベルズは与えられる役割には参加します」
スクルズが真面目な顔で言った。
その表情には、さっきまで一郎に犯されて、淫らに悶えていた気配は微塵もない。ほかの者の服装や髪は乱れているが、魔道でも遣ったのか、ひとりだけちゃんとしている。大したものだ。
それはともかく、いまのスクルズの物言いには、一郎もちょっと疑念を抱いた。
「ベルズ様のことはわかったけど、あんたはいいの、淫乱巫女様? あんたは信仰の戒律とかいうものとは、別の立場なの?」
一郎を挟んで反対側のコゼがスクルズに言った。
さっき一郎が抱いた疑念もそれに同じだ。陰謀が戒律に触れるのかどうかは知らないが、信仰上のことでベルズがこの集まりに積極的に関われないのであれば、スクルズはどうなのだろう?
「わたしはわたしで、正しく優先順位をわきまえておりますわ、コゼさん。まったく問題ありません」
「ご主人様に従うのが、あんたの優先順位ということ?」
コゼが笑った。
最初の頃は、高い身分の神殿の巫女ということで、遠慮気味の接し方をしていたコゼたちだが、最近では一郎と一緒に暮らす三人娘に一番立場が近いということで、スクルズにも容赦ない。
さっきもコゼとスクルズは、競い合うように一郎に交互に積極的に甘えてきたものであり、そのたびに対立するようなことを言い合っていた。
「それを口にすると、さすがに戒律に触れますので申せません。ただ、まったく問題はありませんとだけ申しておきます」
スクルズはあっけらかんと言った。
一郎も苦笑した。
「王妃殿下をお呼びしなかったのは、これから話すことがアン王女のことになるからだよ、姫様」
マアが口を開いた。
一郎も頷き、口を開く。
「アネルザには、その目で確かめてもらう機会を作るし、この俺が伝える。さもないと、事に先んじて暴走をしてしまうかもしれない……。アネルザをここに呼ばなかったのは俺の指示です、姫様」
一郎は言った。
イザベラが一郎に視線を向ける。
「その言い方からすれば、アン姉様のことについて、王妃殿が暴走をするようなことがあるということか?」
イザベラの顔が険しくなる。
このハロンドール王国の三人の王女のうち、アネルザの実の娘であるのは、長女のアンだけだ。目の前の第三王女のイザベラにしろ、タリオ公国に公妃として政略結婚で嫁いだエルザ王女にしろ、アネルザの実子ではない。
だから、アネルザはアンを溺愛していて、政略結婚で国の外に出すことを良しとせずに、タリオ公国には第二王女のエルザを送り、アンにはこの国でイザベラに次いで、次期国王の可能性が高いキシダイン公に嫁がせた。
キシダインが王になれば、アンもまた、王妃として国王に準じる立場になれるからだ。
アネルザにしてみれば、アンこそ三姉妹の長女であり、女王になるべき者だったのだ。
それがたまたま魔力が皆無だということで、この国の古い伝承に従い、王位継承権を外されたのは、理不尽極まりない事柄だったのだ。
だから、アネルザは、王太子として、イザベラではなく、キシダインを王太子に推していた。
そのアネルザを強引な手段でイザベラ派に寝返らせたのが一郎だ。
だからこそ、一郎はアネルザが愛しているアン王女の行く末については、自分の責任でもあると感じてもいた。
なにしろ、キシダインを失脚させることに成功すれば、当然ながら、キシダイン夫人のアンもまた失脚させることになる。
だが、今回、だんだんと調査が進むことで状況が変わってきた。
アンが置かれている状況……。
話半分としても、とんでもないことだ。
これを知れば、アネルザは必ず激怒して、自らキシダインの首をねじ切りに行きかねない。
だから、とりあえず、アネルザに調査のことを伝えるのは、状況をはっきりと確認してからにしようと思っている。
「あたしの調査に触れた者たちがおる。ひと組目は、いまキシダインが預かっているタリオ公国からの客人のグラム兄弟だ」
マアが言った。
すると、イザベラが嫌そうな表情になった。
「あの野蛮人どもか……。なかなかに素行が悪いようだな。先日、宮廷を訪問したときも、あちこちで女官たちや侍女たちに粗暴なことをして
「実害があったら、是非言ってくれ。毎日通っているのだから、小さなことでもな」
一郎は言った。
その兄弟が先日宮廷にやって来たときの騒動は耳にしている。
女官や侍女どころか、たまたま宮廷を訪問していた令嬢とかにも悶着を起こして、多数の貴族たちから、王家に不満が寄せられているようだ。
そういう情報も入ってきている。
まあ、キシダインの上客ということになっているから、表だったことにはなっていないようだが……。
「頼もしいな、ロウ殿。なんとかしてくれるのか? 相手はタリオ公国の上級貴族だぞ」
イザベラがちょっと笑いながら言った。
一郎がグラム兄弟に怒った物言いをしたのを冗談のように考えたのかもしれない。
なにしろ、一郎は王都にやって来て一年足らずの一介の冒険者だ。
グラム兄弟のような上級貴族とは立場が違う。
「姫様、言っておくけど、その兄弟を残酷に殺すというのは、もう決めている。直接に手を出すかどうかはともかくね……。おマア、続けてくれ」
一郎の言葉にイザベラがちょっと驚いた表情になった。
ほかの者も同じだ。
女扱いは鬼畜だが、あまり残酷なことを口にはしない一郎だと思っているのかもしれない。
しかし、一郎は、そのグラム兄弟のことを事前にマアに教えられているので、今回のことは腹に据えかねている。
「マア、なにを知っておる?」
イザベラがマアに視線を向け直した。
「王都の高級酒場で散々に酔いつぶれたときに、酒の勢いもあって、ある高位階級の女を冷酷に躾けてやったと面白おかしく喋ったらしいのう。上級貴族の夫人だけど、馬鹿で能力が低いので蔑まれている役立たずで、夫の依頼で調教をしたとか……。魔道薬で回復させながら滅多打ちに殴ったとか……。夫人の大切にしている侍女を裸にして蹴り合って、蹴り球をして遊んだとか……。ほかにも聞くに堪えないようなことを……。そして、どうやら、それはアン夫人のことのようだ……」
「な、なんだと──?」
イザベラが声をあげた。
この集まりの女たちの中には、アンを知っている者もいるし、知らない者もいる。また、マアがいま口にした情報に、すでに接している者もいるし、初耳の者もいる。
いずれにせよ、全員が鼻白む表情になった。
「ほかにも、デュセル侯爵──。この家の執事に接することができた。魔道薬を嗅がせて、少しばかり強引な手段で情報を取ったところ、ある貴人の女を抱くためにキシダイン邸に通っているということもわかった。キシダイン邸に住む貴人の女──。アン夫人のことに他ありませんのう」
マアがさらに言った。
イザベラはさらに顔を険しくした。
「な、なにを言っているのだ──。まさか、キシダインがあの優しいアン姉様を役立たずだと馬鹿にしてグラム兄弟に折檻を許したり、さらに娼婦のような真似をさせて、自分の手下となる上級貴族に性奉仕をさせているとか、そういうことを語っておるのではあるまいな──。そんな馬鹿なことはない──。確かに、キシダインは嫌な奴だが、それでもアン姉様だけは大切にしてくれているのだ。アネルザ王妃殿も、それだけは認めていて……」
「お言葉を返すようだが、これは確かな情報だよ、姫様……。それに、実のところ、キシダインとアン夫人が仲睦まじいというのは、あまり根拠のある噂ではないのだ。そもそも、アン夫人がキシダイン邸でどのような生活をしているかは全くの不明だ。あまりにも諜報に対する守りが固いのだ。でも、一介の夫人の生活について、それほど情報を隠すというのは、それ自体が不自然なことと思いませんかな」
マアが言った。
すると、シャーラが口を開いた。
「姫様、実のところ、それは事実です。わたしも、独自の伝手でアン夫人の情報を集めようとしたことは再三あります。でも、確かにまったく情報は得られませんでした。アン夫人のことは、キシダインは非常に堅固に情報漏れを封じているようです。言われてみれば、これは非常に不自然かもしれません」
「まさか……」
イザベラが絶句した。
「信じられません……。あのお優しいアン様のことを……」
スクルズも見たことがないような怒りの表情になった。
エリカたち三人については、一郎と同じ情報にすでに接している。ただ口を真一文字にして、腹立ちに耐える様子だ。
「姫様、今回、ロウに言われて、冒険者ギルドとしても、アン夫人周辺のことを調査しました。それでわかったのですが、アン夫人が降嫁するにあたって、王妃殿下は十数人の侍女と下男を同行させておりましたが、ほぼ全員がすでに、病死していることがわかりました。生き残っているのが何人なのかわかりませんが、少なくとも十人以上は病死です……。ちなみに、キシダイン邸に仕える家人の中で、この二年で病死したのはほかにはおりません」
ミランダだ。
もちろん、一郎はこの報告にも接している。
わざわざ補足しなくても、これが表すのは明らかだ。
たった二年ほどのあいだに、アン夫人の連れてきた家人だけが、次々に病死するなどあり得ない。
全員、キシダインに処分されたのだと思っていい。
むしろ、それだけのことをして、のうのうとキシダインが咎められることなく平然とすごし、さらに権力を保持しているという現状が一郎には信じがたい。
「それは確か……なのだな……?」
「家人の死のことですか、姫様? 確かですね。これは表に出ていることですので……。表に出ていないのは、本当の死因だけです」
ミランダははっきりと言った。
イザベラの顔が真っ赤になった。
激しい怒りによるものだ。
「それと、もうひとつ……。先日、姫様の侍女を使って、毒で暗殺をけしかけた者もわかった。これも、ギルドでひそかに捕えている」
一郎は言った。
ミランダが同意するように頷く。
一郎が直接に動いたわけじゃないが、先日、侍女たちを一度に性奴隷にしたとき、オタビアとダリアの記憶でわかったデュセル卿の家人という男をミランダに捕えさせたのだ。
大した面倒でもなかったようだ。
いまは、一郎さえも知らない場所に、ミランダが厳重に監禁させているはずだ。
捕らえてから、証拠能力として認められている強力な自白剤で、なにもかも白状させたとも耳にしている。
やはり、オタビアたちをけしかけたのは、デュセル卿の命令だそうだ。
オタビアの姉のナディアも絡んでいた。
「わたしを毒殺しようとした者を捕えているおるのか? 誰だ──?」
「これも、さっきのデュセル卿です、姫様。確かな証拠も握りました。デュセル卿の後ろを糸で引いているのがキシダインなのは明白でしょう。その代償は、アン夫人を抱かせることだったのかもしれません。デュセル卿の好色は有名ですから」
ミランダが言った。
もちろん、ミランダはその捜査を通じて、実際に駒として動いたのが、オタビアとダリアであることは知ってしまったが、それは口にしない。
イザベラも訊かない。
そういうことになっているのだ。
「ならば、引き渡せ──。その証拠……。つまり、犯人だな──。それでデュセルを捕える──。そして、キシダインのことを白状させる──。それで一連の決着がつく──。さすがに、これなら陛下でも……」
イザベラが激昂して声をあげた。
しかし、一郎は首を横に振った。
「無駄ですよ、姫様──。そんなことで決定打になるくらいになるはずがない。すでに何人も殺している。その男をキシダイン告発の証人として表に出しても、当局に引き渡した時点で証拠隠滅のために始末されるだけです。すべての王軍も、近衛兵も、行政府も、いまや全部がキシダインに握られていることをお忘れなく。だから、国王陛下だって、大人しくしているんでしょう」
一郎は言った。
もっとも、国王がなにも言わないのは、一郎の見たところ、そういうことが面倒だからではないかと思う。
そもそも、国王がもっとしっかりしていれば、ここまでキシダインという悪党がのさばることはなかったのだ。
「ならば、どうせよというのだ、ロウ殿──」
イザベラが椅子の手すりを乱暴に叩いた。
すっかりと一郎に牙を抜かれた感があるイザベラだが、もともとは気性の激しいお転婆姫だ。
いままで知らなかった、アン夫人に対するキシダインの扱いを教えられて、平静ではいられないのはわかる。
だが、一郎は別のことも思った。
異母姉妹のイザベラが、アンのことではこれだけ怒るのだ。
実の母親のアネルザの耳に入れたらどうなるか……。
一郎は嘆息した。
「キシダインを罠にかけます。弁解のしようのない決定的な失敗を……。そして、動きます。捕らえているデュセル卿の家人という証拠も、グラム兄弟の悪事も、そのときに一度に表に出します」
一郎はイザベラに視線を向けた。
「罠?」
イザベラが首を傾げる。
だが、ほかの者はすでに承知だ。
もう半月くらい前から、これに向かって動いていた。
キシダインがこちらの思惑通りに暴発するように、さまざまな情報操作もしている。
一郎の愛人たちの中で、罠のことを初めて耳にするのは、イザベラくらいのものだ。
「罠はすでに動いています。これについては、アネルザにも話していますし、工作そのものを一緒にやってもいます。アン王女のことは改めて、アネルザには納得させる機会を俺から作るけど、キシダインを失脚させること自体は、すでに同意だからね……。スクルズ、準備したものを……」
「はい」
スクルズに声をかけると、スクルズが収納術で一枚の大きな地図を出して、卓に拡げた。
この王都を中心とした周辺地図だ。
数日後に開催される王軍大演習の会場となる郊外の演習場も記載されている。そこに至る経路も……。
「ほう、王都周辺地図か……。是非、買い取りたいな。言い値で支払うぞ、スクルズ殿」
マアが地図を覗き込みながら感嘆の声をあげた。
一郎は知らなかったが、以前の世界であれば、どこの地図でも店で買えるが、この世界においては、地図そのものが軍事機密らしい。
スクルズに準備してもらったのは、神殿に置いてある機密書庫のものだ。そもそも、こんなものを神殿が保有しているということ自体が、外聞を憚るようなのだが、スクルズは一郎が頼めば、どんなことでも嫌とは言わない。
二つ返事で持って来てくれた。
「駄目です。この地図は存在しないことになっているものです。存在していないものをお売りすることはできません」
「残念だな」
スクルズの人を喰ったような返事に、マアがくすりと笑った。
「それで……?」
イザベラが地図を覗き込むようにして訊ねた。
一郎はエリカに言って、この部屋にあるランガというチェスに似た遊戯の駒を持って来てもらった。
「どうぞ、ロウ様」
「ありがとう」
一郎はそれ受け取って、駒の入った箱を数日後に開かれる王軍演習場の会場に置く。
「ここが数日後の開催される王軍大演習の会場です。一年に一度のお祭りであり、大変な注目があります。王族、貴族のみならず、一般民衆も注目する大きな集まりだ……。ここで大きな失敗……。例えば、王女暗殺の現場などを押さえられれば、さすがに国王陛下も重い腰をあげざるを得ないだろう」
一郎はそう言ってから、箱の中から女駒を幾つか取りだして、ある場所に置いた。
王都から演習場に向かう経路には三経路があり、その中でもっとも遠回りになる経路上にある狭い峡谷だ。
「ダドリー峡谷……か? それが?」
イザベラだ。
ほかの者も黙って、一郎の言葉を待っている。
一郎は、考えている策を説明した
全員に期待している役割もだ。
みんな神妙に聞き、誰も口を挟まなかった。考えていた策は少しずつは説明し、それぞれに動いてもらっていたが、こうやって最初から最後まで説明するのは初めてだ。
思い切った策だけに、すでに知っている者も、改めて聞いて真剣な表情になっている。
説明が終わったとき、一瞬静寂が訪れた。
だが、その静寂を破ったのはエリカだった。
ちょっと険しい顔をしている。
「わかりましたが、ロウ様は安全なところにおられますよね? その策であれば、ロウ様が正面に立たれる必要はありません」
エリカが言った。
一郎は笑い飛ばした。
「お前たちにだけ危険な矢面に立たせて、俺だけ安全な場所で待っていられるわけないだろう。みんなの後ろに立つよ。失敗すれば、全員で死ぬだけだ。俺だけ置いていくような意地悪をするなよ。俺の策だぞ」
一郎は笑いながら言った。
「だったら、その場にはわたしもいよう。そもそも、それが成功するには餌が必要だな。キシダインが乗ってくる餌はわたし以外にはない」
イザベラが口を挟んだ。
一郎は肩をすくめた。
「そんなことは必要ない……と言いたいところだけど、実際のところ、ひとつでも歯車が狂うと、上手くはいかない策だ。姫様自身が本当に餌になってもらうのが一番いい。実はどうやって、頼もうかと思っていた。自分から言ってくれて助かったよ」
一郎は白い歯を見せた。
真剣な表情だったイザベラが破顔した。
「そなたが、わたしを除け者にするような意地悪でなくてよかった」
イザベラがにっこりと微笑む。
これについては、シャーラも駄目とは言わなかった。
かなりの危険な策だ。
これに宮廷闘争に無関係の一郎たちが深く関わって、命をかけることになる。
さすがに、イザベラだけを安全な状況にしたいとは口にはできないのだろう。
それに、そもそも、イザベラには一郎たちと行動をともにする以上の安全な場所など、どこにもない。
「承知したわ、ロウ」
「わたしもです」
ミランダとスクルズも大きく頷いた。
「あたしにできることはあるかい、ロウ殿?」
マアが言った。
今回のことで一番に貢献をしてもらったのはマアであることは間違いない。
流通の力でキシダインの屋台骨を崩し、キシダインの権力を支えている大貴族たちを領地に返している。
だから、いまはキシダインが失脚をしようとしても、大きな声でそれを阻止しそうな大貴族は王都に不在だ。
そのあいだに、罠に嵌まったキシダインを追い込める。
また、独自の情報力でキシダインの悪事に迫ることができたのも、マアのおかげだ。
マアがいなければ、アンのことなど、なにもわからなかっただろう。
しかし、いまの説明では、当日の行動として、マアの役割はなにも含まれていない。
「三つほどあるかな……。ひとつ目は緊急だが、魔道具の手配を……。アン夫人のことがあるので、どうしても潜入のようなことが必要だ。危険な仕事だけど、これはコゼとシャングリアに託したい。だが、矛盾するようだが、絶対に危険にも晒したくないんだ。とにかく、いつでも脱出できる移動術の魔道符と変身用の魔道具が欲しい。いずれも、魔道遣いでなくても扱えるものだ。また、絶対に見破れないものを……」
「すぐに準備しよう。明日の夕方までにな……」
マアが頷く。
やはり頼もしい女だ。
一郎はにっこりと笑った。
「お任せください、ご主人様。なんでも命じてください」
「わたしもだ」
コゼとシャングリアがはっきりと言った。
「それであとふたつは、なんだ?」
マアだ。
一郎はにっこりと微笑んだ。
「もうひとつは、ここで祈ってくれ。なにもかもうまくいって、みんなで明るく笑えるようにね……。最後の願いは、おマアだけでないかな……。まあ、全員に対するお願いだ」
「全員?」
ミランダが口を挟んだ。
一郎はにっこりと微笑んだ。
「ああ、これだけの仕事だ。俺だってご褒美が欲しい……。だから、全部うまくいったら、俺の女たちの全員を剃毛させて欲しいんだ。そして、股間に俺の愛奴であるという紋章のような印を刻みたい。これをさせてくれたら……」
「て、剃毛──。いま、剃毛って言ったの、ロウ? じょ、冗談じゃないわ──。印はともかく、剃毛って、あそこの毛を剃るということでしょう──。馬鹿じゃないの──。なにを言ってんのよ──。真面目に語っているのかと思えば、その真面目な顔でふざけたことを言わないのよ──」
真っ赤な顔で怒鳴りだしたのはミランダだ。
あまりの突然の権幕で、むしろ一郎がびっくりしたくらいだ。
しかし、自分の愛奴を剃毛するというのは、男の夢のようなものだ。いま実際に剃毛しているのはエリカくらいだし、これを機会に全員の毛を剃ってしまいたいなと思ったりしている。
「だから、お願いだろう──。それに俺は真面目だぞ。いいじゃないか、剃毛くらい」
「いや、いや、いや、絶対にいやあ──。いやよ。ふざけないでよ、あんた──」
ミランダが真っ赤な顔のまま大声をあげた。
これは嬉しいことになってきたと思った。
こんなにも激しく嫌がるのだ。
実際に剃毛することになったら、どんなに愉しいことになるのだろう。
「剃毛って……なんだ?」
イザベラは首を傾げている。
剃毛そのものの意味がわからないらしい。
ほかの女は、あんぐりと口を開いて絶句して顔を赤くしている。比較的、動顛してないのは、すでに剃毛済みのエリカくらいのものだ。
「剃毛とは、あそこの毛を全部剃って、つるつるにすることですよ、姫様……。もちろん、俺が自らやります。一本一本の毛穴を食い入るように確認しながら綺麗に剃りあげてあげますね。なにしろ、命をかけるんですからね。嫌とは言わせませんよ……。ああ、そういえば、今朝、侍女たちを亜空間で抱かせてもらっときに、ヴァジーたちには話をしました。全員に剃毛させて欲しいってね」
「なっ」
イザベラがやっと、ほかの女同様に絶句する。
一郎は大笑いした。
だが、笑うのは一郎だけだ。
女たちの顔は引きつっている。
「いやっだたら、いやあ──。それだけは、絶対にいやよお──」
ミランダがもう一度声をあげた。
「はいはい……。まあとにかく、全部終わってからだな。そのときに話し合おうよ」
「話し合う余地なんて、ないのよ──」
ミランダの怒りの絶叫が部屋に響き渡った。
*
「三人よ」
まずはトリアが言った。
「ひとり……です」
「あたしはふたりです」
すると、ノルエルとモロッコが続けて応じた。
小離宮にある食堂である。
実は内密なことであるが、今夜はシャーラとともにイザベラ王女が移動術で外出をしている。
嬉しそうに、いそいそと出掛けたので行き先はロウのところに決まっているが、おかげでトリアたちにはすることもない。
たったいままでは、マアから送られた氷菓子を全員で愉しく食べていたが、いまは当番の者以外は自室だ。
しかし、当番のトリアたち三人については、王女がいずれ戻るまでは、休むわけにはいかない。
だから、この食堂に夜勤当番が集まり、なんとなく雑談に興じていたところである。
少し前までも、トリアは、王女がシャーラと移動術で度々に外出をしていた気配は掴んでいたものの、一切の情報を教えてもらえなかった。
一応はトリアだって、イザベラ王女に忠誠を誓っており、実家からの圧力にも抵抗して、最後までイザベラに付いていく覚悟だった。だからこそ、トリアを信頼してくれていないということに寂しさを感じていたものだ。
まあ、やむを得ない状況ではあったが……。
それが数日前に全員がロウの女にしてもらってから、一変して詳細な行動を教えてもらえるようになった。
いまも、王女の不在を悟らせない工作をここで継続するように指示されている。
嬉しいことだ。
それはともかく、いま話していたのは、今日一日のあいだに、何人の男に声をかけられたかということだ。
王女付きの侍女は、宮廷に残っている唯一の王女であり、もっとも高位の王位継承権を持つイザベラの専属侍女であるのに、なんとなく日陰者扱いのところがある。
とにかく、宮廷内の厄介者という感じであり、宮廷内で一番の勢力を持つキシダインの政敵の位置づけであることからも、王女付きの侍女たちに積極的に声をかける者などほとんどなかったのだ。
それが、この数日だけで、トリアだけでなく、多くの侍女たちが何度も宮廷内で声をかけられたのだという。
全部、男からだ──。
つまりは、付き合わないかという誘いの声掛けだ。
あのときロウが口にした、ロウに抱かれれば抱かれるほどに美しく変わるというのは、やはり真実であり、まだ数日だというのに、毎日訪れるロウに亜空間で抱かれることで、トリアは自分の肌が驚くほどに綺麗になったという実感がある。
もちろん、ほかの女も同様だ。
もとの肌が白いトリアなどはどこまでも白くなったし、目の前の濃い褐色の肌のモロッコなどは、本当に美しい艶々の黒い肌だ。同性のトリアがぞっとするほどに美しい。
王女付きの専任女官長のヴァージニアなど、まるで別人であり、その変化には度肝を抜かれるほどだ。
だからだろう。
突如として、声をかけられるようになったのは、その影響というのは間違いない。
また、自分で言うのもなんだが、トリアたちはただ肌が美しくなったわけじゃない。
何ともいえない色香のようなものまで帯びるようになった気もする。
毎日、毎日、確実に自分が美しくなり、色香を帯びるように変わっていくのを感じる。
本当に、ロウの愛奴になってよかったと思っている。
しかも、早晩、王女はキシダインとの抗争に打ち勝って、正式の王太女になると思う。
そうなれば、日陰者扱いの立場は劇的に一変するだろう。
しかし、高位貴族の子女がいまから王女付きの侍女になりたいとやってきても、トリアたちが外される気づかいはない。
なにしろ、トリアたちは、ロウの女ということでは、王女と同じ立場の仲間なのだ。
ロウがそう言った。
だから、絶対に一生の面倒を看るとも……。
自分たちは勝ち組だ。
トリアはいまの自分の立場を愉しんでいる。
なによりも、毎日抱いてくれるロウとの交合は本当に気持ちいいし……。
鬼畜な調教だって、正直、今日はなにをさせられるのだろうと、半分怯えながらも、わくわくしている自分がいることは確かだ。
「やっぱりね……。だけど、これから毎日、こうなのかしら。はっきり言って、もうロウ様だけしか目に入らないという感じだから、好条件の独身男だとしても迷惑このうえないのよね。なんとかならないかなあ」
トリアは言った。
困っているというのは本当だ。
たった数日で、この変化だ。
今後、トリアたちがロウの精をたくさんもらって、さらに美しくなるのは間違いないと思う。
そんな不思議な力がロウの精にあるのは確信している。
だが、そうなれば、いまはただの声掛け程度で済んでいるものが、実家を通じての結婚の申し込みということにでもなるのではないだろうか。
いまさら、他の男に嫁ぐつもりはないので非常に面倒だ。
キシダインが目の仇にしているイザベラ専属侍女になったことで、婚姻話などないことを覚悟していたが、よく考えれば、ロウの企てが成功して、イザベラ王女が王太女にでもなれば、いまの王女付きの侍女たちは、王女と結びつきが強い好条件の結婚相手に早変わりだ。
どうしたものだろうか……。
そのとき、扉が開いてヴァージニアが入ってきた。
侍女たちのトリアとは、女官ということで立場は異なるが、本来は大変に優秀な叩きあげの女官だということは耳にしていた。
だが、やはり試験登用であるということと、色気皆無の堅物という評判が祟ったのか、少し前のことであるが、王女付きの女官として小離宮にやってきた。
王女付きの女官長といえば聞こえはいいが、部下のない女官長であり、王女自体が宮廷の仕事を全くしていていないので、業務といっても少し前から始まっている王女騎士に関わるものくらいだ。
本来のヴァージニアの実力から考えると、閑職以外の何者でもないだろう。
また、堅物という印象は、一緒に働いていても同じだった。
いつも険しい顔をして、トリアたちに厳しいことを要求する姿に接するにつれ、面倒な上司がやってきたなあとしか思えなかった。
しかし、縁があり、同じ男の支配される性奴隷になってみると、存外に可愛らしく情熱的なところもあるということを知った。
「ねえ、ヴァージニア様、いま話していたんですけど、やっぱりヴァージニア様も、お綺麗になって、たくさん声をかけられるようになりました? 今日一日でどのくらいの声をかけられたかって、話をしていたんですけど」
トリアは言った。
数日前なら、ヴァージニアを相手に、こんな軽口をいきなりするなど考えられなかった。
しかし、このヴァージニアは、ロウから特別の雌犬調教というやつを受けていて、亜空間で一緒になるときは、ずっと四つん這いで這うことを強要されているし、一緒にならないときも、亜空間から戻った直後は、最低一周以上を屋敷内にいる全員の前で素裸で四つ足で首輪付きで歩かされている。
同じように調教を受けている身分としては、対等の性奴隷としての親しみしか湧いてこない。
「トリア様……そんなことは……」
ノルエルが心配そうに横から口を挟んだ。
モロッコも驚いている。
ふたりにとっては、まだヴァージニアは厳格な女官長様なのだろう。
だが、ロウに抱かれて劇的に変わったのは、ヴァージニアなのは間違いない。
若返っているし、よく見れば、目もひと回り大きくなって鼻筋も美しい。ひと周り小顔にもなって、大変な美女になった。ずっと後で丸めて束ねていた髪をおろして、お洒落に伸ばしているというだけでは、ちょっと言い訳の難しい変化だ。
「声をかけてくる男ということ? 関係ないわね。わたしは、ロウ様以外には
ヴァージニアがぴしゃりと言って、空いている椅子に座った。
殺気までこもっているのではないかと思うような冷たい物言いだが、これがロウの前になると、甘えた鼻声に変わるので愉快だ。
初日にロウと悶着を起こした迫力は、いまのヴァージニアにはロウに対しては皆無だ。
「まあ、それはわかりますけど、参考までにどのくらいなのかなあって……」
トリアは
「三十五人よ──。ロウ様の性奴隷であるわたしに声をかけるようにな不届き者は全員の名を記録しているわ。あまりしつこいようなら、いずれあらゆる手段で排除する方針よ」
凄みのある口調でヴァージニアがそう言ったので、トリアはびっくりした。
だが、いまのヴァージニアなら、本当になんでもやりそうだ。
業務上の罠を仕掛けられて、順に左遷されていく哀れな男たちを考えると、トリアもぞっとしてしまった。
横を見ると、ノルエルもモロッコも目を丸くしている。
「まあ、ヴァージニアさんはそれだけの能力があるからいいですよね。だけど、わたしたちなんて、男を跳ね返すような力があるわけでもないし……。まあ、モロッコなら、しつこい男を剣で圧倒するんだろうけど」
トリアは言った。
「まあ、そうかもですね」
モロッコが笑った。
ロウの女になることで、何人かの女は大きく能力を発揮させた。
モロッコもそうだ。
前から剣の覚えはあったが、やはり女ということで男に通じる実力というほどでもなかったようだ。
それが、一昨日騎士団の稽古に特別参加したところ、全員を完全に圧倒してしまったという。
シャーラも、いまはモロッコの実力を認めて、自分がいないときのイザベラ王女の護衛をモロッコに命じたりしている。
ほかに、著しい能力の飛躍はセクトだ。
料理が神がかり的に美味しくなったのだ。
いまでは、セクトが作ったもの以外は、とても口にする気にならない。
先日やってきたロウに、セクトが手作りの菓子を振る舞ったところ、ロウも絶賛していた。
ほかの者はよくわからない。
トリアも、最近では妙に頭が冴えている気もするが、もしかしたら、そんなところもロウのおかげなのかもしれない。
「困るようなら、わたしに言いなさい。あらゆる手段であなたたちを守るから──。それも、わたしの役目だと思っているわ。とりあえず、その男たちの名と所属を教えて──。それとなく、手を打っておくから」
ヴァージニアが真面目な顔で言ったので、トリアはいざとなったら頼むとお茶を濁した。ちょっと声をかけたくらいで、ヴァージニアの工作に嵌まって、仕事を失う男たちが気の毒だ。
「あっ、そう……。じゃあ、とにかく、困ったら、ちゃんと言うのよ。ほかの者もそう言っておいて」
ヴァージニアが念を押すように言ったので、そのときにはお願いしますと、トリアは頭をさげた。
「でも、確かに、急に絡まれだした者も多いみたいですね」
モロッコが口を挟んできた。
すると、ヴァージニアが大きく頷いた。
「さっきも言ったけど、ちゃんと手を打つから任せておいて。ただ、あなたたちも、絡んでくる男たちには毅然と対応しなさい。場合によっては、自分たちはロウ様の女だとはっきりと言ってもいいのよ。それについては、王女殿下にも、ロウ様にも許可を得ているから」
ヴァージニアが言った。
「えっ、口にしてもいいのですか……?」
ノルエルだ。
トリアも意外だった。
はっきりと言われたわけでじゃないが、ロウはイザベラ王女の愛人だ。その愛人を侍女たちもまた、女にしてもらっているということは、決して漏らしてはならないことだと思っていた。
「いいのよ。ロウ様はたくさんの女を同じように愛して頂ける方よ。アネルザ殿下もそうおっしゃっていたわ。堂々とすればいいのよ。もちろん、それがあなたたちに都合が悪いことなら、言わなくてもいいわ。ロウ様も、姫様もその態度よ」
ヴァージニアは言った。
「それなら、いいかもしれませんね……。男に言い寄られても、もう、ロウ様の性奴隷にしてもらっているとはっきりと口にすれば、もう近づいて来ないかも……」
トリアは笑った。
すると、ヴァージニアも微笑んだ。
「まあ、ほかにもわたしは考えていることもあるけどね……。ロウ様が今朝お訪問になったとき、今回の騒動が片付けば、わたしたちの全員を剃毛したいとおっしゃったのを覚えている? そして、股間にロウ様の愛奴である模様のような印を刻むとも……」
そして、ヴァージニアが言った。
トリアはかっと顔が赤くなるのを感じた。
もちろん、記憶している。
ロウによれば、近くキシダインとの決着をつけることを考えていて、それが終われば、トリアたち全員の股間の毛を剃って、ロウの性奴隷の証である印をつけたいということだ。
もちろん、それを受け入れてくれた女だけのことと念を押したが……。
朝からずっといままで、侍女たちはその話で持ちきりだった。
どうなるかわからないが、おそらく全員が受け入れるのではないかと思っている。少なくとも、トリアとノルエルについては、また、一番最初に立候補で手をあげようと話し合っている。
「も、もちろん、覚えています」
とりあえず、トリアは言った。
「わたしは、そのときに、そのロウ様の愛奴の証というものを股間にはもちろん、どこか見える場所にも刻んでもらうつもりよ。額とかね……。そうすれば、わたしがロウ様の持ち物であることを誰もが一瞬で理解するでしょうし……」
ヴァージニアがうっとりとした表情になった。
顔に性奴隷の印──?
さすがに、トリアは鼻白んでしまった。