※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第32話  別れの性愛
183 追い詰められた男


 モルドは、馬車の中にいた。

 アネルザと会うために宮殿にやって来た「アン」を送迎するためだ。

 キシダインに嫁いだ娘のアンを王妃のアネルザは溺愛している。

 これは有名な話だ。

 だが、そのアンを妻にしたキシダインは、アンを屋敷の奥座敷に監禁して、奴隷以下の生活を強いている。

 これは、ほとんどが知らない事実だ。

 

 国王のルードルフには三人の娘がいたが、王妃アネルザの血が流れているのは、長女のアンだけだ。タリオ公国の公妃になっている第二王女のエルザも、キシダインとともにハロンドール王国の王太子候補であるイザベラ王女にしても、妾腹の子であり、アネルザの実の娘ではない。

 だから、アネルザは、キシダインに嫁いでからのアンをこうやって、定期的に宮殿に呼び出しては、母娘の語らいをしたがるのだ。

 もっとも、キシダイン邸にいるアンをアネルザ王妃に本当に会わせるわけにはいかない。

 だから、こうやって、替え玉まで作って、アンの代わりをさせているというわけだ。

 実の母親を騙すのだから、神経の使う仕事だし、万が一にも情報が漏出すれば終わりだ。

 

 まったく、キシダインの性癖にも困ったものだが、女を徹底的に酷く扱うことが、なによりもの性的快楽であるらしいモルドの主人のキシダインは、第一王女であったアンが自分の妻になるや、屋敷の最奥に監禁して、侮辱と暴力にまみれた最低の扱いを強いた。

 それが二年にも及んでいる。

 

 キシダインとしては、アンを娶ったのは、キシダイン自身が王位継承権を得るためであり、それ以上の理由はない。

 だから、屋敷の奥に閉じ込めて、好き勝手に扱うことにしたのだろうが、キシダインに嫁がせてからも、アンに会いたがるアネルザへの対応には苦慮をしていた。

 なにしろ、王妃アネルザは、国王ルードルフに最も大きな影響を持つ女であり、なによりも、第三王女イザベラと王太子争いをするキシダインの有力な後見人なのだ。

 キシダインが本当はアンをどのように扱っているかを知れば、キシダインを王太子に推す有力な応援者を失うということでは済まず、アネルザが烈火の如く怒りまくり、キシダインを処断しようとするのは間違いない。

 

 だから、アンを屋敷に監禁した直後から、キシダインとモルドは、ルイという女を替え玉に仕立てて、徹底的な訓練をして、アンの身代わりをさせることにした。

 姿形は魔道具によってアンとそっくりにさせ、話し方や身のこなし、ちょっとした仕草なども、まったく同じように振る舞えるように練習させ、いまや、アンが屋敷外に出なければならない事があれば、ずっとそのルイが身代わりを務めている。

 

 その技巧は、それがアンではないと知っているモルドさえも、困惑するくらいであり、実際、アネルザは、度々の茶会で会っているアンは実は偽者であり、ルイが魔道具で変身している姿だというのを疑ったこともないはずだ。

 今日も、突然の呼び出しだったが、今頃は宮殿の庭園における「母娘の語らい」を愉しんでいると思う。

 

 そして、普段は滅多に屋敷から出ない執事のモルドだったが、その偽者のアンが外に出るときには、必ず、馭者役をすることになっていた。

 主人のキシダインの命令であり、キシダインは思わぬことで、ルイが裏切り、アンのことを誰かに耳打ちしないかどうかをモルドに見張らせているのだ。

 それほどに、アンを酷く扱っていることが外に漏れるのを怖がるのであれば、演技でもいいから大切に扱えばいいと思うのだが、モルドの主人のキシダインは、どうしても、女を大切に扱うということはできない性分らしい。

 我が主人ながら困ったものだ。

 

 モルドは、庭園の入口で馬車を停めて、ルイが戻って来るのをひとりで待っていた。

 アネルザからのアンの呼び出しのために、馬車で同行したのは最小限度の人間だけだ。

 アンに化けているルイを見張るふたりのモルドの手の者の女とモルド自身だ。

 これも極力、情報漏れを防ぐための配慮である。

 

 そのとき、誰もいるはずのない馬車側に、あるかないかの気配を感じた気がした。

 振り向こうとしたとき、首になにかが当たった。

 痛みはない。

 そして、尖ったものが首から抜けていく感触があった。

 

「えっ?」

 

 呟いた。

 モルドは自分が馭者台から落ちていくのをはっきりと感じた。

 地面に顔が当たるのを防ごうと思うのだが、手が動かない。

 

「な、なんだ?」

 

 もう一度呟いた。

 モルドは地面に仰向けに落ちた。

 見上げる視界に、馬車から顔を出した小柄な女が映った。

 黒髪のかなりの美女だが、見たことのない女だ。

 手に太くて長い針のような金属の道具を持っている。その先端には血がついていた。

 もしかしたら、あの金属の尖端をモルドの首に刺したのか?

 わけがわからない……。

 

「シャングリア、シャーラ、悪いけどモルドの死体の処分は任せるわ……。偽者たちが戻るまで時間がないみたいよ。エリカから魔道通信で合図が入ったわ。あたしは、そのままこいつに変身して、先に屋敷に侵入することにする」

 

 馬車の上の女が言った。

 シャングリア、シャーラ……?

 ほかにも誰かがいるのか……?

 シャーラって、イザベラの侍女をしているあのシャーラか?

 そもそも、モルドのことを死体と言ったか?

 どういうことだ?

 

「わかった。わたしは屋敷の近くに行って連絡を待ってる。魔道通信で誘導してくれ、コゼ」

 

「ふたりとも、くれぐれも気をつけてね」

 

 ふたり目の声は、やはりあのシャーラだ。しかし、シャングリアというのはわからない。コゼという女もだ。

 モルドはその女たちを確かめようと思ったが、それはできなかった。

 身体が動かせなくて、首を向けられない。

 しかも、急速に視界が暗くなっていく……。

 声も出ない。

 なにかの魔道をかけられて、身体全体がふわりと浮く感触がした。

 それが最後だ。

 モルドの意識は、急速にまったくの闇に包まれた。

 

 

 *

 

 

「し、信じられん」

 

 キシダインは、アンとしてアネルザと面会したルイからの報告と、さらに執事のモルドからの情報に接して、屋敷の自室で呆然としてしまった。

 ルイは、屋敷の奥に監禁しているアンの身代わりとして、どうしても屋敷の外にアンを連れ出さなければならないときに、長年にわたってアンに変身させて使っていた女であり、また、モルドはこの屋敷にいながら、多くの手の者を使ってキシダインにとって有益な情報を集め続けてきた信頼のできる部下だ。

 

 そのモルドも、今日はルイに同行をしており、同行させていた手の者からの情報として、ルイの報告が正しいことを証明した。

 モルド自身は、アンに扮したルイとアネルザの会合には同席はしていないが、一緒に同行させたふたりの侍女役の女部下を通じて、アネルザの言葉を把握したようだ。

 モルドによれば、ふたりの侍女は、人払いして遠ざけられたものの、ふたりとも唇の動きだけで言葉を読む能力を身に着けている。それで会話の内容を把握したとのことだ。

 また、モルドは急ぎ集めた他方面の情報からも、どうやら、もたらされた情報が正しそうだという裏付けを持ってきた。

 

 そのふたりの侍女役の手の者の女たちの証言──。

 ルイの言葉──。

 そして、彼女たちからの情報からとはまったく別方面からモルドが掴んでいる情報──。

 そのすべてが一致していた。

 キシダインは呆然としてしまった。

 

 つまりは、あの優柔不断の国王のルードルフが、長年の王太子問題に見切りをつけ、ついにキシダインを見限って、第三王女のイザベラを王太女にすると決したというのだ。

 それが明日の王都郊外の王軍演習の謁見の場で発表されるという──。

 国王をはじめ、各大臣や貴族の重鎮などが多く参加する行事だ。

 イザベラもキシダインも当然に参加することになっている。

 

 あまりもの突然の状況の変化であり、俄かに信じられることではないが、ほかならぬアネルザ王妃からの言葉とあれば信じるしかない。

 王妃アネルザは、キシダイン派の重鎮だ。

 それだけでなく、キシダインの扱う手の者を仕切っているモルド自身も、その裏付けの証拠をほかに持って来ているのだ。

 信じるしかない。

 キシダインは愕然とするしかなかった。

 

「だが、おかしいではないか。なぜ、いきなりそんなことになる。なぜだ──」

 

 キシダインは叫んでしまった。

 すると、モルドが咳払いをして、ルイに退出するように合図した。

 いまは、変身を解いているルイが一礼をして部屋から出ていく。

 ふたりきりになったところで、モルドが口を開いた。

 

「……閣下、実のところ、陛下がお心を定めた理由については、グラム兄弟のことがあるようです。どうやら、あの兄弟自身がアン様を毎夜のように犯していると、酒の席で口にしたらしいのです。それを聞いていた者の誰かが、それを陛下や王妃の耳に入れたようです。それで、陛下が不興を覚えて、周囲に確かめたところ、どうやら、アン様の境遇の噂話について、その者たちが次々に陛下と王妃にささやいたとかで……。とにかく、それで事態が一変したというのが真相らしく……」

 

 モルドが苦虫を噛み潰したような表情で言った。

 これには、キシダインも舌打ちするしかない。

 もともと、グラム兄弟が女に暴力を振るう悪癖があるというのは、本国だけでなくハロンドールにも伝わっている悪評だ。

 それを賓客扱いして、屋敷に滞在させるというのは、実のところ反対する者も多かった。

 いまは、あの兄弟は屋敷にはいないが、酒の席で口止めしていたことを喋りまくるというのは、あの兄弟がいかにもやりそうなことだ……。

 

 だが、それが国王に耳に入ったとなると……。

 国政にはほとんど無関心で、男でも女でも相手構わずに好色で有名なルードルフだが、さすがに、娘がキシダインに酷い目に遭わせられているという噂には我慢ならないものを感じたのだろう。

 

「……わかった。あのグラム兄弟とは、完全に縁を切る。屋敷の中でアンに暴言を吐いて、俺の不興を買ったということにしろ。それで、グラム兄弟の言ったことなど、出鱈目だということにしてしまえ。陛下には、すぐに釈明に向かう。手配しろ」

 

 キシダインは言った。

 情報操作についても、モルドはお手のものだ。

 白いものを黒と言いくるめる情報攪乱の手腕なら、モルドの右に出る者はない。

 また、王妃の耳に入ったのは面倒だが、ルードルフの方はどうにでもなる。

 

「すでに宮廷に連絡を取りましたが、陛下は後宮に入ってしまったそうです。なにがあっても、明日まで誰も寄越すなと命令があったらしく、面会ができるとしても、明日の王軍大演習の謁見の後しかないようです」

 

「あの能無しめ」

 

 キシダインは舌打ちした。

 また、新しい女だろう。

 それとも、また美少年の奴隷でも入手したか?

 とにかく、一度始めれば、確かに長い。

 嗜虐するのも、されるのも、とにかく快楽に結びつくことが大好きな変態で、それを邪魔されるのだけは激しく怒る。強引に面会を強要すれば、むしろ逆効果だ。

 そもそも、さすがにキシダインでも、後宮には入れない。

 

「それに事態は一刻を争いますぞ、閣下──。すでに陛下は、王太子をイザベラ王女にすると内々の者に指示をしてしまったのです。発表は明日の大演習の席です。このままでは、閣下がアン王女のことを陛下に釈明したところで、それは、王太子がイザベラ王女と触れの出された後のこと……。そうなれば、これまで閣下のお味方となっていた諸侯たちも、あっという間にイザベラ派に寝返ることも考えられます。そうなれば……」

 

「わかっておるわ」

 

 キシダインは苛立って声をあげた。

 しかし、確かにそうだ。

 これまでは、有力貴族たちも、キシダインが王太子候補であり、次の国王の可能性が高いということで、キシダインに媚びを売るような態度をしていたのだ。

 それが、イザベラが王太女になったとなれば、これまでに好き勝手をしていたつけが、一気にキシダインに降りかかって来る可能性がある。

 しかも、冤罪であるならともかく、アンを奴隷扱いして酷く扱っていたことは事実なのだ。

 ほかにもあるが、それひとつだけでも、国王がキシダインを処断する理由には十分なはずだ。

 

 国王のルードルフがキシダインのことを腫れ物に触るように慎重に扱ってきたのは、キシダインが、王妃アネルザ、さらに多くの有力貴族を味方につけているからだ。

 それがなくなれば、逆にルードルフは、王家に匹敵する力を持つキシダインを一気に片付けてしまおうと考えることはあり得る。

 あの王は、好色でだらしないが、まったくの暗愚ではない。

 

 いや、そもそも、もっと面倒なのは、王妃か……。

 キシダインが王太子の最有力候補でいられたのは、王妃の後ろ楯があったからだ。あれは、我儘で癇癪持ちで有名だが、一方で面倒看のいいところもあり、貴族界では人望もあるのだ。

 王妃がキシダインから離れれば、ごっそりとキシダイン派が減る可能性が大だ。

 ならば、王妃か……。

 

「王妃に会う。ルイをもう一度呼び戻せ。夫婦で仲睦まじいとこもを見せてくる。まだ、間に合うだろう」

 

「そっちも連絡を試みましたが、王妃宮にはいないらしく、愛人のところではないかと……。近習も行き先をよく承知してないらしく……」

 

 モルドが困った顔になった。

 

「どいつもこいつも――。王妃の行き先を知らんだと――。よく、それで近習が務まるな――」

 

 キシダインは怒鳴った。

 だが、アネルザに新しい愛人ができたのではないかという噂には、キシダインも接していた。なにしろ、あの悪名高かった奴隷宮を閉鎖したのも、その愛人にのめり込んだからだという。

 しかし、その相手が誰かというのは知らない。

 こんなことなら、もっと調べさせておくべきだった。

 とにかく、すぐに手を打たなければ……。

 

「やはり、王女を殺すしかありませんな。いまなら、手が届きます。しかし、王太女に指名されては、一度に状況が変わります。だが、いまなら……」

 

「……なにか考えがあるのか、モルド?」

 

 どうやら、モルドにはなにか策があるようだ。

 キシダインは、いつになく積極的に意見を口にするモルドに、多少の違和感を覚えたものの、とりあえず、モルドに視線をやった。

 すると、モルドは準備していたらしい一枚の地図をキシダインに示した。

 

「これは?」

 

 キシダインは地図を見た。

 モルドが出したのは、王都から郊外の王軍演習場に向かう経路の地図だ。

 王軍演習場には、複数の経路があるが、そのうちのひとつに線が引いてある。

 

「私の得た情報によれば、イザベラ王女は、ここに印した経路を使って、明日の午前中に王軍演習場に向かいます。警護に当たるのは、冒険者たちで編成した王女騎士団です」

 

「あの野蛮人どもか……」

 

 キシダインは不快な気持ちを隠すことなく吐き捨てた。

 最近のことだが、イザベラ王女は、国王に許されて、自分がギルド長をしている冒険者たちを私的な騎士として、自分の警護に当たらせるということをしていた。

 金さえ支払えば、忠誠心など誰にでも売り渡す者たちと蔑まれることが多い冒険者だが、ひとりひとりは一騎当千のつわものたちでもある。

 イザベラの身辺に冒険者たちが侍るようになって、以前にも増して狙い難くなったのは確かだ。

 まあ、こちらとしても、イザベラの騎士団に属する冒険者たちの買収工作が進んでいるから、しばらくすれば、連中についても、すっかりとこっちが支配してしまうことができると思うが……。

 

「……ここを見てください。この狭い谷道をイザベラ王女の一行は通過するのです。王女としては、自分が狙われているのは承知なので、主街道を通ると情報を流しておき、実際には意表をついて、こっちを通る気のようです。王女につけている侍女のうち、こっちに引き込んでいる者からの確かな情報です」

 

 モルドが地図上の一点を指さした。

 キシダインは地図に目を凝らした。

 

「ダドリー峡谷か……」

 

 確かに狭い場所だ。随分と遠回りだし、意表をついている。

 こんなところを通過するつもりか。

 だが、イザベラの侍女の何人かは、実家を脅迫して、こっちの言いなりの道具に仕立てた。

 先日は、デュセル卿を使って、イザベラの毒殺を企てたが、残念ながら失敗したようだ。もっとも、その侍女はまだいるようだから、犯人の特定には至ってないのだろう。

 細かいところはモルドが手配したので、詳細は知らんが……。

 その侍女の情報だというのだから、内部情報だ。

 確かだろう。

 

「……そのとき、切り通しの道に岩を落として崩してしまいます。一発で王女の乗る馬車を潰してしまえれば、それでいいでしょうが、イザベラ王女のところには、魔道を扱うシャーラも同乗するはずです。そうはうまくいかんかもしれません……。ですが、いずれにしても、それで前後の警護とは分断できます。そこをベーノムたちに、山賊を装わせて襲わせるのです。魔道を扱える者も準備しましょう。それで息の根を止めればいい。大がかりになりますが、皆殺しにすれば、証拠は出ません」

 

 モルドは言った。

 ベーノムというのは、キシダインの私兵を指揮させている獣人族の戦士であり、キシダインに絶対の忠誠を誓っていて、それで信用して使っている。

 獣人というのは知能が劣ると言われ、獣に近い存在として軽蔑の対象だが、忠誠心に篤いことは有名で、キシダインは信頼して使っている。

 そのベーノムが率いる傭兵隊は、ハロルド公としてのキシダインではなく、個人としてのキシダインに仕えている者たちであり、そういう工作に使っても情報が洩れることはない。

 ベーノムの率いる私兵を使って、イザベラを大々的に襲撃するということは、以前から視野にあったが、やり口が大袈裟になるので、これまで躊躇いがあった。

 だが、モルドの言葉の通りに、もう猶予はない。

 確かに、決断をすべきときである。

 

「……わかった、ベーノムを呼べ」

 

 キシダインは決した。

 ベーノムに命じて、山賊を装わせて、イザベラを明日の襲撃で殺させる。

 

 やるとなれば、失敗は絶対に許されない。

 キシダインの集めている私兵のすべてを動員することにした。

 総員で五百人以上になる。

 魔道遣いも含まれており、王軍の一軍にも匹敵する強兵だ。

 それで討ち漏らすということは、まずあり得ない。

 

「……呼んで参ります」

 

 モルドが言った。

 そして、部屋を出ていこうとして、不意に思い出したように言った。

 

「……そうそう……。申し伝えておくのを忘れておりました。奥座敷でアン様を見張らせているベーノムの兵ですが、先ほど五名を処断しました。その連中は侍女だけでは飽き足らず、アン様を犯そうと部屋に入ったのです。これは許されぬこと。残念ですが殺しました。ベーノムの手の者ですが、屋敷のことについては、私の管轄──。ベーノムに対しては、部下の締めつけが足りぬと、私から叱責をしました」

 

 キシダインは驚愕した。

 確かに、奥座敷でアンを見張らせているベーノムの兵については、侍女はいくら犯してもいいが、アンに手を出せば、重い罰を与えると申し渡していた。

 それにしても、一気に五名も処断するなど……。

 

 そもそも、連中は粗野で乱暴だが、キシダインの言いつけに逆らったことなどなかった。

 なぜ、命令に背いて、アンの部屋に入るというようなことをしたのだろう……?

 それに、だいたい、連中はひとりひとりが強い戦士でもある。

 それを五人も一度にモルドが処断した?

 よくも、暴動にならなかったものだ。

 キシダインは首を傾げた。

 とにかく、処断というのは行き過ぎだと思った。

 だから、そう言った。

 

「……肝に銘じます……。明日からは、必ず、キシダイン閣下の許しを得てから、処断することにいたします」

 

 モルドは、“明日から”という言葉に妙に力を入れて頭をさげた。

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