※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

184 / 1059
184 追い詰められた女

 扉の外でどすんと大きなものが当たる音がした。

 シャングリアは駆け寄った。

 

 ここは、キシダイン家では「奥座敷」と称されている魔道の結界のかかった一角であり、さらにこの部屋は、その奥座敷でアン王女の監視を任されている男たちが寝泊りをする大きな寝室だ。

 寝台が十個ほどあるが、そこで、キシダインの妻であるアンの監視を任されているキシダインの私兵たちは交代で寝泊りしているらしい。ただ、あくまでも仮眠施設なので、寝台の数は奥座敷にいる人数分あるわけじゃない。多分、半分程度だろう。

 ただし、いまは、その寝台の全てに男が横たわっている。

 その全部が死体だ。

 

 扉を内側から開くと、すでに死んでいるらしい男が倒れ込んできた。

 首に尖ったものを突き刺した痕があり、そこからわずかだが毒の香りがする。

 シャングリアは嘆息した。

 

「コゼ、お前は一体全体、何人殺すつもりなのだ。寝台はもういっぱいだぞ」

 

 シャングリアは、男のそばに立っていたコゼに小さな声で怒鳴った。

 もっとも、コゼはいつもの小柄で可愛らしい女性の姿ではなく、このキシダイン家の執事のモルドに変身している。

 また、シャングリアについても同様であり、マアから借りている『変身の指輪』で、屋敷に住み込んでいるキシダインの家人の男に化け、こうやって奥座敷に入り込んでいるのだ。

 もちろん、コゼとシャングリアが変身している相手は、いずれも、すでにこの世にはいない。

 それぞれ息の根を止めた場所の近くに、シャーラが魔道で穴でも掘って隠したはずだ。

 

「何人、殺すかって? 全員に決まってるでしょう。女を監禁して全員で繰り返して乱暴し、あまつさえ、(かわや)女なんて蔑むような下劣な連中は、全員死ねばいいのよ」

 

 モルドの姿のコゼが吐き捨てた。

 シャングリアとコゼが、ロウの指示でキシダイン家に潜り込んだのは、昨日のことだった。

 すでにひと晩がすぎている。

 目的は、キシダインに監禁されているアン王女を確保するとともに、キシダインが無謀な賭けに出て、イザベラ王女を襲撃をするように導くことであり、さらに、その作戦の内容をロウに逐一報告することだ。

 

 だが、ここに入り込んで、うまくアン王女が監禁されている場所に潜入することに成功して驚いた。

 この屋敷で見聞きしたのは、アン王女と、その侍女のノヴァの想像以上の悲惨な状況であり、特に、侍女のノヴァは悲惨という言葉では表現できないような惨たらしい境遇にあった。

 

 アン王女に仕える唯一の侍女として、ノヴァはアンを監視するキシダインの私兵たちから、毎日のように凌辱され続ける日々を送っていた様子だったのだ。

 性欲のあり余った兵たちは、アン王女には手を出してはならないと言われている反面、侍女については、殺すのと孕ませる以外のことなら、なにをしても構わないというキシダインの言葉により、およそ考えられる限りの凌辱をノヴァに行い続けていたらしい。

 

 性器や肛門や口を繰り返して犯すことは当たり前として、時には余興として動物とまぐ合わせたり、魔道の淫具で悪戯をしたり、あるいは、ほとんど拷問まがいの嗜虐をしたりである。

 大抵のことをしても、キシダイン家にある高価な魔道の薬剤で回復させることができるし、避妊の薬もある。

 だから、男たちは、ノヴァの華奢な身体をわざと傷をつけたり、骨を砕いたり、内臓を壊させるほどの虐待をしたりと、ノヴァを人間扱いさえしていないようだ。

 身に着けている服を破られたり、汚されたり、さらに隠されるのは日常茶飯事のことらしく、排尿や排便さえも、男たちの前でさせられているということだった。 

 そんなことは特に調べる必要もなく、聞き耳をたてているだけで、屋敷のあちこちで、ノヴァをこんな風に辱めてやったとか、以前にやったこれこれは面白かったなどという会話が、奥座敷だけでなく、あちこちで語られているのだ。

 

 シャングリアが兵のひとりに変身して入り込んだ昨夜も、びりびりに破かれた侍女服を紐で縛って裸身を隠すようにしていた。

 どうやら、繕うための針と糸までも取りあげられたようだ。

 しかも、身体のあちこちに痣があり、動くのもつらそうな状況の中で、五人ほどの兵に取り囲まれて犯されていた。

 

 そのときは、アン王女が監禁さえている部屋に食事を運ぶ途中だったらしく、五人を満足させなければ、部屋に入らせないと言われてるようだった。

 それが最初に見たノヴァの姿であり、彼女はまだ少女の面影が残る可憐な美少女だった。

 それが、男たちの残酷な嗜虐心を掻きたてていることもあるのだろう。

 

 目の前で男たちに笑いながら凌辱されているノヴァの姿にシャングリアも激昂したが、モルドに扮していたコゼの行動は過激の一言だった。

 まずは、モルドとして強く命じて男たちの凌辱をやめさせ、ノヴァをアンの部屋に行かせると、不平顔の五人を次々に首に尖った錐のような特殊武器を刺して殺してしまったのである。

 シャングリアはびっくりしてしまった。

 

 しかも、すぐに男たちに飛びかかるのではなく、ちゃんとノヴァを立ち去らせてから皆殺しにするという、冷静さのうえに存在する殺意に、激しすぎるコゼの怒りが垣間見えてしまい、仲間ながらぞっとなった。

 とにかく、表情ひとつ変えずに、五人もの人間をあっという間に殺した手腕と冷酷さには、シャングリアも舌を巻いた。

 

 いずれにせよ、殺してしまった男たちについては、許されていなかったアンの部屋に侵入したためにしようということにして、シャングリアも唯一の目撃者役として口裏を合わせた。

 

 だが、コゼは、それからもノヴァに手を出そうとした男を見つけると、すぐに呼び出して陰で殺してしまうのだ。

 シャングリアは、その都度、騒ぎにならないうちに、死体を隠さねばならず、こうやって、ここで酒に酔って寝ている体裁をして、寝台に横たわらせる作業をずっと続けているというわけだ。

 

 そして、コゼがまた次の犠牲者を連れて来た。

 周りにばれにくいように、血の流れない殺し方を選んでいるコゼだが、これで最初に処断ということにした五人を含めて、十一人もコゼは殺している。

 いまだに騒動になっていないのが不思議なくらいだ。

 

「とにかく、殺し過ぎだ、コゼ。キシダインが出立する前に、ここで騒動になってしまえば、ロウが準備した策が台無しになるぞ。キシダインが屋敷でおかしな状況が発生していることに気がついて、襲撃計画そのものをやめたらどうするのだ」

 

 シャングリアは、部屋の扉を閉じて、コゼが連れてきた新しい遺体を引きずりながら言った。

 とにかく、もう寝台はないので、床にでも寝かせるしかない。

 コゼの殺した男は、床に転がしたまま顔に酒をぶっかけて匂いをつけ、横向きにして毛布を被せた。

 十人以上が意味なく泥酔して、朝っぱらから寝ているなどおかしな風景だが、こんなに次々に連れて来られては、死体の隠しようもない。

 

「あたしは、女を厠女なんて馬鹿にするような連中が許せないのよ。どっちにしても、これで終わりよ。ノヴァには、アン王女の部屋に入って、二度と出てくるなと強く命じたわ。一応はあそこは、安全地帯だしね」

 

 コゼが言った。

 シャングリアは頷いた。

 コゼは、ノヴァに手を出す兵を見かけるたびに、そいつを殺しまくるのだから、ノヴァが外に出なければ、これ以上ノヴァには手を出す兵は現れない。

 つまりは、コゼが殺意の発作を出すこともないというわけだ。

 

 シャングリアはよくは知らないが、いつも明るくて悪戯好きのコゼだが、実は、ロウと出逢う以前には、この屋敷のノヴァとよく似た境遇だったらしい。

 だから、ノヴァの置かれている境遇に、激しすぎる怒りを覚えてしまうのだろう。 

 

「それに、キシダインは出立したわよ。たったいまね」

 

 コゼがさらに言った。

 

「出立? 随分と早いな。どこかに寄るのか?」

 

 一応は貴族であるシャングリアは、ああいう式典というものは、階級の低い者から参集するというのが常識だということを知っている。

 キシダインは王家の一員という立場であるため、もっと遅い時刻に出発しなければならないはずだ。さもないと、公爵であり、ハロルド公であるキシダインが階級の低い貴族と同時刻に到着するということになってしまう。

 だから、どこかに立ち寄ってから大演習の会場に向かうのかと考えたが、キシダインが事態の改善のために釈明したがるはずの国王は、ぎりぎりまでサキが身柄を押さえる手筈になっている。

 アネルザも近習に行方不明で押し通せと厳命させているはずだ。

 キシダインが立ち寄る場所などないはずだが……。

 

「姫様を襲撃する刻限にはすでに演習場に到着していて、襲撃とは無関係であることを装いたいのよ。とにかく、ご主人様には連絡したわ。あたしたちも、いつでも向こうに合流する準備をしましょう」

 

 実のところ、当初の計画では、コゼとシャングリアは、キシダインの出立後、キシダインの命を受けたモルドの指示を装って、先にアンを屋敷から連れ出す予定になっていた。

 それができなくなったのは、アンには強力な呪いの魔道がかけられており、屋敷から外に出ようと考えるだけで、呼吸困難になってしまうという暗示が擦り込まれていることがわかったからだ。

 そうなれば、アンにかけられている魔道を解くには、ロウの力が必要だ。

 だから、アンはここに置いておき、騒動の決着後に、改めて脱出させようということになった。

 

 コゼが指のリングを操作して、いつもの姿に戻る。

 すぐに、その場で執事の服を脱ぎ始めた。

 シャングリアも変身を解いたが、兵の恰好を装っているので、服装はこのままでも戦える。

 得物も剣でいい。

 シャングリアは、自分の剣を腰に佩くとともに、コゼの服をしまってあった荷を下着姿になったコゼに投げた。

 コゼが素早く服を身に着け始める。

 

 こっち側とロウについては、ギルドの魔道具の通信具により、常時連絡が取り合えるようになっている。

 連絡さえすれば、移動術の扱えるスクルズ、シャーラ、ベルズの誰かが回収してくれる手筈だ。

 コゼが耳に入れている通信具に触れようとしたとき、急にその顔色が変わった。

 

「シャングリア、シャーラからよ──。ご主人様の指示が来たわ。撤収よ。いよいよ姫様たちの乗る馬車への襲撃が始まるわ。予定の位置に向かってる。キシダインの傭兵隊が伏せているのも確認したそうよ。待機しているミランダと合流しろだって」

 

 コゼが顔をシャングリアに向けた。

 

「いつでもいい──。ここに転送口を繋げるように伝えてくれ」

 

 シャングリアは剣の鞘をばちんと叩いた。

 一方で、コゼが口の中にある通信具にぶつぶつとなにかをささやく。

 その直後、転送術の出口が目の前の空間に開いた。

 コゼが飛び込み、シャングリアもそれに続いた。

 

 

 *

 

 

 異変が起きている。

 アンは、なんとなくそんな予感がした。

 

 このところ、連日にわたり、アンとノヴァに暴力を振るっては残酷な奉仕を強いていたあのグラム兄弟が、突如として、屋敷から出されたらしい。

 彼らが屋敷に滞在するのは、まだ半月以上予定のはずだったらしく、突然のことということになる。

 それをアンに告げたのは、キシダインだ。

 キシダインは、これまでやったことがないような猫なで声でアンに声をかけ、アンを冷酷に扱っているように思える行為をキシダインがするのは、愛しているが故のことだとささやき始めた。

 

 アンは、いきなりのキシダインの優しげな扱いに、嫌悪を通り越して恐怖した。

 その反応に、キシダインは気分を害したように出ていった。

 だが、これも意外なことに、アンにはなんの暴力も残酷な仕打ちもしなかった。

 それが昨夜のことだ。

 

 そして、たったいま、ノヴァが部屋に駆け込むようにやって来た。

 ノヴァによれば、執事のモルドから、今後、アンの部屋から、二度と外に出るなと告げられたようだ。

 また、ノヴァは奇妙なことを話した。

 牢獄であるこの部屋の外にいるベーノム(?)の監視兵が、なぜかどんどんといなくなっているというのだ。

 ノヴァがモルドに追いやられたときには、いつもは十人くらいは見張っている監視が、ほとんど姿が消えてしまっていたということだった。

 

 なにかが起こっている。

 ただの勘だが、アンにはそう思えた。

 

「……ノヴァ、来て……」

 

 アンは、やはり不安そうな顔をしているノヴァを寝台に引き寄せた。

 ノヴァもまた、アンの部屋に閉じこもることを命じたモルドに対して、いつもと異なるなにかを感じたようだ。

 モルドに指示されて持たされたらしい二人分の食事も、この二年間で見たことのないような豪華な食事だ。

 それはノヴァが出入口の扉の横に置いたまま放ってある。

 もっとも、王族として生活していた時代に比べれば、その食事だって質素なものなのだが、この二年間、冷たくて粗末なものしか口にしていないアンとしては、モルドがノヴァに運び込むことを許した食事の内容は、信じられないくらいのご馳走に感じた。

 

「なにか、変ですね、姫様……」

 

 アンがノヴァの身体を抱き締めると、ノヴァが不安そうに呟いた。

 

「そうね……。わたしもそう思うわ、ノヴァ」

 

 アンがノヴァをぎゅっと抱くと、ノヴァもアンのことを抱き返してきた。

 

「……姫様、モルド様が変でした。とても……。まるで人が違ったようで……」

 

 すると、ノヴァが顔をあげて、アンにささやいた。

 アンの顔とノヴァの顔は、ほとんど密着するかのようにくっついている。

 この部屋には監視の魔道具があり、見張りに聞こえないように会話をするには、こうやって身体を寄せ合って語り合うしかない。

 また、見張りの眼を誤魔化すため、意味のある内容をささやいていることを悟られないように、アンとノヴァの手は、お互いの身体をまさぐり合い、胸と胸、頬と頬を擦りつけるような仕草を続けている。

 この部屋の情景を眺めている者からは、アンとノヴァが身体を寄せ合って、愛の言葉をささやいているようにしか思えないだろう。

 

 長い期間、見張られ続けてきたふたりが、なんとか連中の眼をかすめて、ふたりだけで意思の疎通をするための知恵だ。いつもそうするわけではないが、どうしても連中に聞かせたくないことは、そうやって話すのだ。

 それで、いつしか、本物の百合の関係になったりもしたのだが、とにかく、アンとノヴァは、見張りに訊かれたくない言葉を交わすときには、必ず、お互いに百合の性愛を求める仕草をすることにしていた。

 それで、耳元で言葉を交わす動作を続けても、まったく不自然さがない。

 

「……人が変わった……?」

 

 アンは、ノヴァを抱きながら首を傾げた。

 

「いつになく優しいというか……。わたしを凌辱しようとした見張りたちをすぐに追い払います……。そのくせ、殺気に溢れているというか……。わたしは逆に怖くなりました……」

 

「殺気……?」

 

 アンは呟いた。

 そして、思うことがあり、ノヴァを抱く腕に力を思い切り込めた。

 それは、ほとんど無意識のことだったが、それにより身体を思わずのけぞらせたノヴァは、アンに寝台に抱き倒される体勢になった。

 

「あっ、ご、ごめんなさい」

 

 アンはとっさに身体をどかそうとした。

 そのアンをノヴァが抱き寄せて、身体を密着させて阻む。

 そして、口をアンの耳に寄せた。

 

「……いいんです。それよりも、なにか思い当たることでも……?」

 

 ノヴァがアンの身体の下で言った。

 アンは首を小さく横に振った。

 

「……思い当たることなんて、ここに閉じ込められているわたしにあるわけがないわ……。だけど、もしものことだけど、ここにわたしが閉じ込められていることをお母様や陛下が知れば、どうするかと思ってね……。逃げたいと思うわけじゃないし、それに期待をしているわけじゃないわ……。ただ、キシダインが、わたしをここに監禁していることを注意深く秘密にしているということは、わたしにもわかる……。だけど、もしも、それが発覚しそうになったら、どうするだろうとは考えるわ……」

 

 アンは言った。

 

「そ、そのときには──」

 

 ノヴァが思わず声を荒げそうになり、はっとしたように口をつぐんだ。

 言葉を詰まらせたのは、ひとつは、声をあげることで会話の内容を見張りに悟られる危険があるということだろう。

 もうひとつは、アンが逃亡を頭に思い浮かべると、窒息寸前の苦しさが何刻も発作のように続く操りにかけられているからだと思う。

 

 逃亡の意識を浮かべるだけで、死の一歩手前まで呼吸困難になる。

 そのくせ、決して死ぬこともないのだ。

 あれは苦しい……。

 この魔道のために、アンは、もはや、この牢獄の部屋から逃げようとする意思さえ持つことができなくなった。

 

 ノヴァは、アンのことを大切にしてくれた母親のアネルザや父の国王がアンの境遇のことを知ったのではないかというアンの言葉に、この屋敷からアンが脱出できることを考えたのだろう。

 だが、それを口にすることで、アンにかけられている魔道の発作を呼び起こすことを心配したのだと思う。

 だから、慌てて口をつぐんだに違いない。

 しかし、アンは、それは不可能だと思っている。

 いまも、逃亡の可能性のことは考えていない。

 その証拠に、発作は生じない……。

 

 考えているのは別のことだ。

 

「……もしも、このことが明るみになりそうになったら、発覚する前に、キシダインはわたしを殺すと思うわ。病気ということにでもしてね……」

 

 どう考えても、そうなるのだ。

 キシダインにとっては、アンなど王位継承権を得るための道具でしかなかったはずだ。

 アンが死んだところで、死んだ王女の夫として、王位継承権は残る。

 キシダインがいまアンを殺さないのは、アンが生きていた方が死んでいるよりは、王位継承としては有利になるくらいのことでしかないと思う。

 

「……そ、そんな……」

 

 ノヴァが顔を真っ蒼にした。

 その顔は、心も底からアンの身の末を心配している様子だ。

 

 優しいノヴァ……。

 愛おしいノヴァ……。

 

 こんな目に遭い続けていても、本当にアンのことを心配してくれる……。

 なんと健気で、かけがえのない人……。

 

「おお、ノヴァ──。わたしがこれを嘆いているのは、わたしのことではなく、あなたのことなのよ──」

 

 アンは声をあげるとともに、服のままノヴァの身体に全身を擦りつけるようにした。

 感極まってしまったのだ。

 すると、ノヴァがアンの下で悶えるように身体をくねらせた。

 

「あ、あん、姫様」

 

 ノヴァが顔を真っ赤にして、可愛らしい声をあげた。

 アンははっとしたが、もう心を制御できなくなってしまった。

 もうすぐ、アンたちの死期がやってくる……。

 確かに、そう考えると、すべての辻褄が合う。

 

 昨夜のキシダインの突然の態度の変化……。

 アンとノヴァの周りから、どんどんと見張りの者が遠ざけられていること……。

 ノヴァに対する執事のモルドの態度の変化……。

 なによりも、ノヴァの感じたモルドの殺気……。

 つまり、キシダインは、アンを殺すことに決めたのだ──。

 

 だから、突如として、態度を改める仕草をしたり、周りから人を遠ざけたりしているのでないだろうか……。

 見張りを遠ざけるのは、本当はアンが殺されたのだという事実を知っている者を限定するためだ。

 また、キシダインとモルドの態度の変化は、もうすぐ殺そうとしている相手に対する多少の憐れみだろう。

 

 そうやって、突き詰めていくと、ノヴァに託された食事でさえも、その予兆のように思える。

 あと残された食事がどれだけのものかわからないが、その質があがったのは、いわゆる死刑囚に対する恩恵のようなものではないか……。

 

 そして、ノヴァは、もうこの部屋から、二度と出るなと言い渡されたようだ。

 もうノヴァが二度と部屋から出ないということは、おそらく「処置」は遅くとも今日中には実施されるに違いない。

 なにしろ、アンがもうすぐ殺されるなら、ノヴァがアンの部屋に留められる理由は明白だ。キシダインがアンを殺すときには、必ずノヴァも一緒に殺すはずだ。

 だから、一緒に殺すために、そばに置くのだ。

 ノヴァをアンとともに処分するのは、余りにも当然の処置だ……。

 キシダインのアンに対する仕打ちの生き証人であるノヴァを殺さない理由は存在しない。

 しかし、それを防ぐ方法は、アンにはなにもない。

 アンにできるのは、ただノヴァとともに殺されるのを待つことだけなのだ……。

 

「ああ、ノヴァ……」

 

 アンはもう一度、アンの身体の下で横たわるノヴァを抱き締めた。

 そして、アンの思うことをノヴァの耳元で告げ続けた。

 アンとともにノヴァもまた、もうすぐ死ぬ……。

 そうに違いないというアンの言葉に、ノヴァは涙を流すのかと思えば、ほっと安堵するような笑みを浮かべた。

 

「……そうであれば、もう姫様も……わたしも苦しまなくて済むのですね……。そして、嫌なこともされなくて済む……。嬉しいです。やっとこの日が来ました……。しかも、わたしには勿体ない幸せです。姫様とともに死ねるなど……」

 

 ノヴァは微笑んでいた。

 そのノヴァの頬にぽつぽつと滴が落ちた。

 それはアン自身の涙のようだった。

 ノヴァはもうすぐ殺されるかもしれないということを、ちっとも恐れていないようだ。

 それどころか、その顔には、長かった苦しみから解放されるかもしれないという期待に満ちた喜びに溢れているように思えた。

 それは、ノヴァがここでどんなにつらい時間を過ごしたのかということを想像して余りある。

 そのノヴァが、アンの身体の下で、ふと表情を和らげた。

 

「……姫様、そうであれば、お願いがあります……。厚かましいとは思いますが、もう一度、わたしを愛してください……。できたら、死ぬ瞬間まで愛し合いたい……。どうせ死ぬなら、わたしは姫様と愛し合いながら死にたいのです……」

 

 ノヴァが訴えるように言った。

 それはアンも同じ思いだった。

 アンは一度ノヴァの身体からおりると、身に着けているものを寝台の下に次々に脱ぎ捨てた。

 

 もう、服を着ることもないだろう。

 キシダインが、アンとノヴァをどれだけ生かしておくつもりか知らないが、それは長い時間のことではない気がする。

 だったら、殺される瞬間までノヴァと愛し合おう。

 アンは心に定めた。

 

 獣のように女同士でまぐ合いをしながら死んだと笑う者がいれば、笑うがいい。

 アンには、残りの人生の最後までノヴァと愛し合えたという時間があれば十分だ。

 

 アンはノヴァに向き直った。

 すでにノヴァもまた、生れたままの姿になっていた。

 ノヴァが身に着けていたものも、アンの服とともに無造作に床に捨てられている。

 

「ふふふふ……」

 

 アンは込みあがった笑いとともに、ノヴァをもう一度押し倒した。

 この寝台には、いつもアンが拘束されるために使われる革紐が四隅についている。

 それにノヴァの手首と足首を繋ぎ始める。

 

「ひ、姫様……?」

 

 ノヴァが微笑みながら、少しだけ驚いた顔をした。

 

「いいでしょう、ノヴァ? わたしだって、たまには、あなたを責めたいわ。うんといかせてあげる。あなたの身体を全部を舐め尽くしてあげる……」

 

 アンは笑いながら言った。

 どうしても、笑いが込みあがって仕方なかった。

 ノヴァも抵抗しない。

 その代わり、ノヴァはとても妖艶な笑みを浮かべた。

 

「……いいですよ……。その代わり、この後で交代です。次はわたしがアン様を拘束します。いいですね」

 

 ノヴァが言った。

 アンは大きく頷いた。

 そして、ノヴァを四肢を大きく拡げたかたちで固定する。

 アンは、まずはノヴァの股間に顔を埋めた。

 ノヴァの股間は、すっかりと濡れている。

 驚くほどに豊かな量の蜜だ。

 アンは舌を這わせて、ノヴァの愛液を啜った。

 

「んんんっ、ああんっ、ひ、姫様──」

 

 ノヴァが身体を跳ねあげた。

 だが、拘束している四肢への革紐が、ノヴァがアンの舌から逃げるのを阻む。

 アンは、さらにむさぼるように、ノヴァの股に舌を動かし続けた。

 ノヴァが艶めかしい声をあげて乱れ始める。

 

「……も、もしも、生まれ変わったら、わたしはもう王家には生まれない。ただの普通の女として生まれる……。そして、ノヴァの妻にしてもらう……。あなたのために生きるの──。ああ、ノヴァ、大好きよ──」

 

 アンは膨らんできたノヴァの肉芽に舌で振動を与えながら、ノヴァの果肉を押し広げるように、肉襞の縁をなぞった。

 ノヴァがアンの舌に翻弄されて、激しく身悶えする。

 

 愛おしいノヴァ……。

 優しいノヴァ……。

 

 ノヴァが気持ちいいなら、アンも気持ちがいい。

 アンが快感を得るときは、ノヴァもまた快感に耽ってくれる。

 ノヴァがアンの愛撫で大きなよがり声をあげた。

 

「あううっ、ああん、わ、わたしこそ、何度でもアン様のものになります──。アン様にお仕えします……。アン様のそばにおいてもらえるなら、妻でなくていい……。ど、奴隷でもいい……。いえ、わたしは、アン様の奴隷に生まれ変わります……。ああ、アン様、あっ、ああああっ」

 

 アンは、二匹の白い蛇がお互いに絡み合うかのように身体をノヴァの身体に擦りつけ、そして、ノヴァの花芯をいたぶり、どこまでも官能の極致に身を昂ぶらせていった。

 

 

 

 

(第32話『別れの性愛』終わり、第33話『ダドリー峡谷事件』に続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。