※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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189 ふたりでひとり

「い、いきます、いぐうう」

 

 ノヴァと客人の男は、寝台の上で縛られているアンの裸身の上で激しく抱き合っていたが、そのノヴァが男にしがみつくようにして、背筋を弓なりに反らせた。

 男は胡坐に座った腰の上に、ノヴァを乗せるようにして抱いていて、そのノヴァが汗まみれの身体を男に擦りつけるように絶息したような声をあげている。

 

 アンはまだ楽にならない息を懸命に続けながら、それにしても、一体全体、自分たちふたりは、いつからこの男に抱かれているのだろうと考えていた。

 それがどうしても記憶にないのだ。

 

 キシダインが連れてきた客人だという男が寝台の上にあがったとき、最初に命じられたのは、この男の前でノヴァと抱き合えということだったはずだ。

 しかも、男はアンがたまたま、ノヴァによって四肢を寝台に繋ぎ留められている状態であったことから、アンが自由になることを許可せず、そのまま、アンをノヴァが責めることを求めたのだ。

 

 すでに汚されるまで汚され、辱めるだけ辱められたた身体だ。

 見知らぬ男の前で女同士の絡み合いを見せることが、恥辱だとは思わない。

 むしろ、どんな状況であろうとも、ノヴァと愛し合えるというのは、この地獄のような屋敷での生活における目くるめくような幸福の時間なのだ。

 アンは、キシダインが、アンのこともノヴァのことも、それほど長く生かすつもりがないという予感を覚えている。

 だから、少しでもノヴァと愛し合える時間がもらえることは、むしろ、望外の喜びだった。

 

 そして、ノヴァとアンは愛し合った。

 愛し合ったはずだ。

 だが、気がつくと、アンは目の前の男に抱かれ、ノヴァもまた同じように抱かれていた。

 それだけではなく、すでにアンは二度も男の精を股間に注がれている。

 ノヴァも、同じだけ抱かれていると思う。

 

 回数だけを知覚しているのは、とにかく男が精を注いだとき、凄まじい衝撃が全身を走り抜けるのを覚えているからだ。

 その不思議な恍惚感は忘れようもなく、男がアンの心を鷲掴みするような不可思議な感覚とともに、それを知覚した。

 しかし、なぜか、前後の記憶がない。

 

 あるのは、ノヴァと胸や股間を擦り合って絶頂を極めたはずだという感覚だ。

 それなのに、絶頂するときには、確かに男の怒張はアンの中にしっかりと挿入されていた。

 

「そろそろ、俺の淫魔力がアン様に刻まれている魔道を越えましたよ。そろそろ、正体を明かしてもいいでしょうね……。実のところ、俺はイザベラ王女とアネルザ王妃に頼まれて、おふたりを救いに来た者です」

 

「えっ?」

 

 アンはびっくりして声をあげた。

 

「ただ、アン様に刻まれていた魔道の縛りを解除するのに、こうやって外道のようにおふたりを抱くことが必要だったのです。許してください。面倒な説明は省きますが、俺は女を犯さないと能力が発揮できないんです」

 

 男が半ば失神状態のノヴァをアンの上に重ねるように横たわらせながら言った。

 この男の与える巨大な快楽に、息も絶え絶えになってしまったノヴァは、いまの男の言葉を耳にしてはいないだろう。

 だが、アンは驚愕した。

 

 アンを助ける──?

 しかも、アネルザとイザベラの頼み──?

 まずは、その懐かしい名前の響きに、アンは叫びだしたくなるような懐かしさと嬉しさを感じた。

 

 しかし、それと同時に恐怖した。

 助かる……?

 駄目だ──。

 それを心に思ってはならない……。

 アンにかかっている呪術がアンの呼吸を止めて、死にまさる苦しみを与えるのだ。

 全身が逆立つような恐怖を予感し、アンは歯を食い縛った。

 

 だが、なにも起きない……。

 襲ってくるはずの苦しさはない。

 あるのは、全身を包む、痺れのような性の疼きだけだ。

 

「……その調子なら、大丈夫のようですね。もう、逃げられますよ。あそこにいるキシダインとモルドも、本物じゃありません。俺の女であり、仲間のエリカとコゼという女です。あとでちゃんと紹介しますね」

 

 男がアンの耳元でささやくように言った。

 それだけで、アンは全身が溶けるように感じてしまい、思わず甘い声をあげてしまっていた。

 

「ふふ……。それよりも、随分、感じやすい身体をしていますね……。イザベラ姫様も、アネルザもいやらしい身体をしていますけど、あなたも素晴らしい。これから、愉しくやれそうですよ」

 

 男が言った。

 そして、すっとアンの下腹部に指を伸ばした。

 

「んふううっ」

 

 男の指がアンの恥部に触れた瞬間に、痛みと錯覚するような熱い戦慄が襲い掛かった。

 アンは、顔を左右に激しく揺さぶり、拘束された身体をのけぞらせた。

 

「面白いことをしてあげましょう。仲良しのおふたりにぴったりの淫魔術です。アン様とノヴァの快感を完全に同調させてシンクロさせます。これで、おふたりは、真の意味で一心同体ですよ。アン様の感じた快楽は、同じものとしてノヴァに感じ、ノヴァが受けた快楽とまったく同じものがアン様にもやって来ます。ふたり同時に達すると、快感の二倍、四倍に増幅するということです。この身体で保持しておきますね……。俺たちの仲間になったことに対する俺からの贈り物です」

 

 同調──?

 しんくろ──?

 片方が受けた快楽がもうひとりにも伝達する?

 男が言っていることが、ほんの少しも理解できない。

 だが、男がその言葉を告げ終わったとき、ただでさえ、性交の余韻で熱くなっていた身体が、さらにかっと燃えたようになったのだ。

 

 なんだろう、これは──?

 アンは狼狽えた。

 

「……あっ、ああっ、ああ……」

 

 そのとき、気を失ったように横たわっていたノヴァが、身体を悶えさせながら身じろぎした。

 そのノヴァを起きあがらせて、男が立ったいま、アンに説明したことと同じことを言った。

 ノヴァも訳がわからないのだろう。

 きょとんとしている。

 

「あっ、な、なに……?」

 

 しかし、説明のあいだ、男はノヴァの身体のあちこちをまさぐるように擦っていたのだが、なにも触れられていないアンの身体にも、ぞわぞわという感覚がやって来た。

 ふと見ると、ノヴァも男の愛撫で身体を淫らにくねらせている。

 

「さっそく、共鳴の洗礼がやって来ましたね。次からは、ふたりのどちらかが精を受けても、別のひとりも、それにより支配を深めてしまいますよ」

 

 男がそう言いながら、ノヴァの身体を移動させて、ノヴァの顔がアンの股間に覆いかぶさるようにした。

 

「……説明よりも、体感した方が早いでしょう。さあ、ノヴァ、アン様の股間を舐めるんだ。まあ、それにより、ノヴァも同じ場所に同じ刺激を受けるのだから、手の込んだ自慰のようなものだけどね」

 

 男が言った。

 やはり、意味はよくわからなかったが、それはノヴァも同じだろう。

 しかし、もはや、この男に逆らう気持ちはなく、アンはノヴァの責めを受け入れる体勢を取った。

 ノヴァも特に抵抗の素振りは示さない。

 すぐに、ノヴァの唇がアンのもっとも敏感な肉芽を包むのを感じた。

 

「ああっ」

「ふわあっ」

 

 アンは悲鳴を迸らせてしまったが、驚いたことに舐めているノヴァについても同じような声をあげた。

 

「な、なんですか、ロウ様──。い、いまのは──?」

 

 ノヴァが顔をあげて男に視線を向けている。

 アンは、その言葉で、この男がロウという名前だったことを思い出した。

 

「これが快楽の共鳴だ。さあ、やめるな」

 

 ロウがノヴァの顔をアンの股間に押しつけ直すとともに、ノヴァの両手を伸ばさせてアンの乳房に乗せるようにした。しかも、指でしっかりと、アンの勃起した乳首を挟ませている。

 その不思議な感触に、アンは驚いた。

 乳房と乳首に密着させられたノヴァの手と指は、なぜか粘性物のようなもので貼りつき、離れなくなったのだ。

 なにをされたのかというのもわからない。

 しかしながら、本当にアンの乳房にノヴァの手はくっついている。

 

「んああっ」

「んんっ」

 

 またもやアンとノヴァは同時に声をあげた。

 ノヴァが身悶えしたため、くっついているノヴァの手がアンの乳房と乳首に刺激を加えたようになり、それでアンは感じる声をあげたのだが、やはり、ノヴァもまた悶え震えた。

 

 これが快楽の共鳴──?

 わけがわからないが、納得するしかない。

 このロウは、不思議な力で、その言葉のとおり、アンとノヴァの快楽を完全に同調するように細工をしたと思った。 

 

 それにしても、このロウは何者だろう……。

 アネルザやイザベラから派遣されたと称するが、それは本当だろうか?

 いずれにしても、もっと不思議なのは、アンはこのロウに抱かれることについて、些かの罪悪感も嫌悪感もないということだった。

 これまで、キシダインをはじめとして、多くの男に抱かれてきたが、共通するのは、怖気が走るほどの気味の悪さだった。

 それは、媚薬により無理矢理に快楽を引き出されたときも同じだった。

 無理矢理に絶頂させられながらも、アンの心の奥底には、男たちに対する心の底からの嫌悪がしっかりとあった。

 

 だが、このロウに対してはそれがない。

 むしろ、もっと苛められたいという気持ちしか沸いてこない。

 これまでノヴァにしか抱かなかった幸福感をこのロウに抱かれることで感じる。

 もしかしたら、それは、ノヴァと一緒に抱かれているということからやってくる錯覚なのかもしれないが、アンはだんだんと自分の心に、このロウにもっと滅茶苦茶に苛められたいという願望が沸き起こってしまっていて当惑していた。

 

「さあ、ノヴァ、続きをするんだ。最後の仕上げをする」

 

 ロウが言った。

 不思議だ……。

 

 いまのはノヴァに命じた言葉だが、このロウの言葉には、絶対に逆らいたくないという気持ちにさせる力がある。

 ノヴァも同じなのだろう。アンの股間に顔を押しつけたまま、ノヴァが本格的な舌責めを開始した。

 

「いやあっ、はぐうう」

「んふうう」

 

 アンはぴたりとノヴァに肉芽に唇を押し当てられ、敏感なところに舌を這わせられ、身体をのけぞらせてしまい、つんざくような絶叫をした。

 ほとんど同時に、ノヴァもまた一瞬凍りついたようになって、大きな悶え声をアンの股間に密着したままあげる。

 だが、舌責めはやめない。

 

 アンは、ノヴァに奉仕をされながら……。

 ノヴァは、アンを奉仕しながら……。

 それぞれに悶え叫んだ。

 

「うふううっ」

 

 そして、股間に大きな充実感が襲ってきた。

 眼を開くと、ロウがアンの股間を責めるノヴァを背後から突いていた。

 おそらく、「性感の共鳴」とやらで、その感覚がアンにも襲ったのだろう。

 

 そして、律動が始まった。

 実際には、なにもない。

 だが、確かにロウに犯される感覚が襲い続けている。

 これは、ノヴァが犯されている感覚……。

 それと同じものをアンも受ける……。

 いま、アンはノヴァと同時に犯されているのだ――。

 アンは、その事実に対して、気を失うほどの感動と幸福感を覚えた。

 

「ああっ、ノヴァ、ロウ様──。き、気持ちいいです……。あ、ああっ」

 

「んふううっ、んふっ、んんっ、んんっ」

 

 アンの嬌声に合わせるように、アンの股間を舐めているノヴァが声を迸らせている。

 これが共鳴だとすれば、ノヴァはもういきそうなのだろう。

 アンは、ノヴァに舐められながら、さらにロウに股間を激しく犯されることで、信じられないような快感を覚えているのだ。

 

 すごい……。

 ノヴァに愛されても気持ちいいのだが、ロウに子宮近くをごつごつと抉られて、泣くような快感が襲う……。

 

 いや、違う……。

 これは、本当はノヴァに襲っている快感だ。

 だから、気持ちいいのだ。

 それを共鳴で感じているだけのはずだ。

 しかし、アンにとっては、自分自身が犯されているのも同じだ。

 大きな快感の波が席巻し、アンは悲鳴をあげて、全身を硬直させた。

 全身が崩れ落ちるような衝撃を覚えて、アンは一瞬目まいに襲われる。

 同時に、股間にしっかりとロウの精が流れ込むのを感じる。

 

 それは、本当に不可思議な衝撃だった。

 いま、アンは犯されてはいない。

 ロウに犯されているのはノヴァだ。

 それにもかかわらず、アンは現実にロウの怒張を膣に感じていたし、それだけでなく、しっかりと精を注がれたのも感じた。

 

 そして、アンは絶頂した。

 おそらく、本当に絶頂したのはノヴァなのだと思う。

 ノヴァが犯され、そして、絶頂したことにより、アンもまた犯されている感覚に襲われ、精の放出の衝撃を覚えた。

 それは、まるでノヴァに犯されている感覚だった。

 

 いや、ノヴァだ。

 アンは、ノヴァに犯されているのだ。

 ロウという男の身体が介入して、流し込まれているのはノヴァの快感なのだ。

 本能的にそれがわかり、心の底からの充実感を覚えた。

 アンとノヴァはひとつになった。

 ふたりでひとつにだ――。

 ふたりでひとり……。

 それがわかった。

 そして、もっと大きなロウという存在が、アンとノヴァを包み込んでいる。

 

 大きな快感がずっと続いていた。

 絶頂してもなお、まだ気持ちよさが終わらない。

 アンはまるで宙に浮かんでいるような恍惚感を味わい続けていた。

 

「ああ、ひ、姫様、姫様、姫様……」

 

「ノヴァ、ああっ、ノヴァ──」

 

 ノヴァがアンの股間から顔を離して、痴呆のようにアンのことを呼んだ。

 アンもまた、ただひたすらに、ノヴァの名を呼ぶ。

 頭が真っ白になる。

 アンは、ノヴァとひとつになりながら、そしてまた、このロウという男に身も心も支配される感覚に襲われた。

 

 それは恐ろしいものでも、屈辱的なものでもない。

 この男に支配される……。

 ノヴァとともに……。

 

 お前たちを性奴隷にする──。

 頭の中に言葉が発生した。

 それは、声として発せられた言葉ではない。

 突然にアンの心の中に発せられた啓示のようなものだった。

 

 はい──。

 

 アンの心の中で声がした。

 それは、ノヴァ自身の心の中で発せられた承諾の言葉に違いない。

 

 待って──。

 

 アンは、ノヴァに置いていかれるような気持ちになり、慌てて、アンも性奴隷になるという叫びを心の中で叫んだ。

 ノヴァが向かうところに、アンも一緒に進まなければならないのだ。

 アンはノヴァであり、ノヴァがアンでもあるのだから……。

 お互いがお互いの一部なのだ。

 いや、すべてだ。

 

 すぐに、巨大でとても温かいものが、アンを支配するのを感じた。

 そして、身体全体にロウが入ってきた。

 ノヴァの存在とともに……。

 いま、アンは真の意味で、ノヴァとひとつになった。

 なんという幸せなのだろう。

 もう死んでもいい……。

 アンは薄くなる意識の中で、はっきりとそう思った。

 

 

 *

 

 

 一郎は顔をあげた。

 都合よく気を失ってくれたアンとノヴァは、そのまま亜空間の中に一時的に連れ込んだ。

 このまま、キシダインとモルドに化けているエリカとコゼとともに、屋敷を出ていけば、なんの問題もなく、外に出れるだろう。

 屋敷の敷地に出るのも、この屋敷の家人に命じて、馬車を準備させればいい。

 一度、外に出てしまえば、あとはどうにでもなる。

 一郎は、待機をしていたエリカとコゼに声をかけるために、ふたりに視線を向けた。

 

「おいおい……」

 

 だが、視線の先にあった光景に接して、思わず一郎は突っ込みの言葉を呟いてしまった。

 エリカとコゼは、一郎がアンとノヴァを抱くのにあてられたのか、股間に片手を挟むようにして強く太腿を締めつけ、もじもじと身体を捩じらせていたのだ。

 つまり、ほとんど無意識のうちに、自慰のように股間を刺激してしまっているようだ。

 ふたりの顔は真っ赤であり、しかも、一郎がそっちを向いているのに気がついていない。

 

 それにしても、エリカとコゼは、それをキシダインとモルドに化けたままやっているのだ。

 正体がわかっていると思えば可愛いが、見た目は男なので笑ってしまう。

 一郎は、ふたりをからかってやることにした。

 

「こらっ、気をつけ──。その場に立て──」

 

 思い切り怒鳴った。

 

「は、はいっ」

「えっ、はい──」

 

 ふたりが慌てふためいた感じで、立ちあがって身体を真っ直ぐにした。

 その瞬間、一郎は噴き出してしまった。

 ふたりの股間では、しっかりと勃起した股間がズボンの膨らみを作っている。

 一郎は、裸のまま、ふたりの前に歩み寄った。

 

「動くな。じっとしてろ──。命令だ」

 

 股間を隠そうとしたエリカに一喝して行動を制すると、一郎はふたりの前にやって来た。

 膨らんでいるズボン越しに、ふたりの男の性器を鷲掴みする。

 

「うっ、あ、ああ、ちょ、ちょっと、ロウ様……」

「くうっ、い、いや……」

 

 ふたりが甘い声を出して悶えだす。

 もっとも、その声も変声している男の声だ。

 ちょっと気色の悪いものもある。

 

「なにをやってんだ、お前ら──。これでも一生懸命に、アン様とノヴァを慰めていたんだぞ。お前らはそれを見ながら自慰か──。ちょっといやらしすぎるぞ」

 

 一郎はからかいながら、布越しに擦る手の動きを速くした。

 エリカとコゼが、小さな悲鳴をあげた。

 だが、動くなという命令に、ふたりとも姿勢を崩せないでいる。

 

「あ、ああ、や、やめて、やめてください、ロ、ロウ様……。こ、こんな格好のままは……や、やです……」

 

「ご、ご主人様、いや、あっ、ああっ」

 

 ふたりがさらに悶え始める。

 一郎は、当惑するふたりの訴えを無視して、さらに勃起した男根を刺激し続けた。

 やがて、ふたりは、ほとんど同時にズボンの中で射精をした。

 

「どうだ? 男として精を放った気分は?」

 

 一郎はふたりに言った。

 エリカもコゼも、すっかりとしょげたようになってしまっている。

 一郎は笑ってしまった。

 

「……あ、あのアン様とノヴァは……」

 

 しばらくして、キシダインの姿のエリカが遠慮がちに言った。

 

「亜空間に一時的に退避させた。じゃあ、ふたりを外に連れていくぞ。屋敷に入ったときと同じにキシダインの客を装って出ていく。コゼもしっかりと頼むぞ」

 

 一郎が言うと、やっとふたりとも正気に戻ったような顔になった。

 ただし、ふたりのズボンの前は、射精した精液で丸い染みのようなものができている。

 

 それにしても……。

 

 一郎は思った。

 戻ったら、変身を解いてからも、男根だけは残して、ふたりをからかってやるか──。

 たまには、ふたなり責めというのも愉しいかもしれないな……。

 一郎は部屋を出ていきながら、そんなことをふと考えた。

 

 

 *

 

 

 すでに夜になっていた。

 アンとノヴァがいるのは、第三神殿の客間の一室だった。

 そこに、二年前には、地方からやってきたばかりの筆頭巫女だったスクルズが、神殿長代理になっていて、ロウから、アンとノヴァの身柄を預り、匿ってくれることになったのだ。

 

 スクルズは、なにか必要なものがあれば、すぐに言ってくれと告げ、神殿長としての務めがあるからと、数名の巫女にアンたちの世話を命じて立ち去っていった。

 いまは、アンとノヴァをここに預けたロウたちはいない。

 アンたちをスクルズに託すと、夜にはイザベラとアネルザが来るはずだと言って、立ち去っていった。

 

 アンはいまだに、この状況について理解できないでいた。

 本当に、キシダインの屋敷から出ることができたのだろうか……?

 ロウは、キシダインについては、もう権力を失う直前にあり、万が一にも連れ戻される心配はないから安心して欲しいと、アンに言った。

 

 アンはあまりのことに呆然としてしまい、あの地獄のような場所から助け出してくれたことに、ロウにお礼を告げるのを忘れたと気がついたのは、かなりの時間がすぎてからだ。

 それにしても、結局、あのロウは何者だっただのろう……。

 アンは、自問自答し続けている。

 

「……姫様、なにかお飲みになりますか? それと、軽い食事をしませんか?」

 

 同じ部屋にいて、アンと同じように呆然としている様子のノヴァが言った。

 部屋には、豪華ではないが数種類の飲み物や、果実や菓子などの食べ物が準備されていて、好きなように飲食して欲しいし、なにかほかに食べたいものがあれば、隣室に控えているミウという若い巫女に告げてくれとスクルズは言ってくれていた。

 そして、スクルズは、アンたちをふたりきりにした。

 アンとノヴァをふたりきりにするのは、スクルズの配慮のようだった。

 

 アンは、なんとなく、この神殿の神殿長代理のスクルズが、アンとノヴァの事情をすっかりと承知している様子であることを感じた。

 また、スクルズは、アンをここに置いて立ち去ったロウと親しそうだった。

 

 どういう関係なのだろう……。

 スクルズはすでに筆頭巫女であり、神殿長代理をするほどの高位聖職者なので、ロウとスクルズが男女の関係というのは、まずあり得ないのだが、それを思わせるような親しさがふたりの中にはあった。

 

 また、男女の関係といえば、キシダインと執事のモルドに変身して、アンをキシダインの屋敷から脱出するのをロウとともに尽してくれた、エリカというエルフ女とコゼという小柄な女性は、間違いなく、ロウと男女の関係だろう。

 

「姫様?」

 

 ノヴァだ。

 アンは、慌てて返事をした。

 

「そ、そうね……。じゃあ、貰うわ。ただし、あなたも一緒に食事をなさい。それが条件よ」

 

 アンは言った。

 通常、王族とその侍女が一緒に食事をするというのはあり得ないが、アンはもはや、ノヴァのことを単なる侍女などとは思っていない。

 

 盟友であり……。

 仲間であり……。

 親友であり……。

 そして、恋人であり……。

 それにしても、これは本当のことなのだろうか……。

 本当にアンとノヴァは救われた……?

 

 本当に──?

 

 アンは思い出して、ノヴァに見えないように、自分の股間に手を伸ばすと、ここで与えられた服の上から軽く肉芽の付近を揉んでみた。

 

「あんっ」

 

 アンも鼻息をあげてしまったが、軽食の準備をしていたノヴァが、甘い声をあげて膝を崩した。

 

「くっ」

 

 そして、さらにアンの股間に大きな疼きが襲った。

 やっぱり、ロウが言及した「快楽の共鳴」というのは、本当にふたりの身体に刻まれているのだと悟った。

 アンが自分の股間に触れることで、それがノヴァに伝わり、ノヴァが感じたことで、さらに逆に衝撃がアンに戻ってきたのだ。

 アンはそれを理解した。

 

「も、もう、姫様──」

 

 ノヴァが顔を真っ赤にして、頬を膨らませた。

 だが、その眼は笑っていた。

 アンも思わず、微笑んでしまった。

 

 そのとき、扉が外から叩かれた。

 返事をすると同時に扉が開き、そこからイザベラが飛び込んできた。

 イザベラの侍女長のシャーラも一緒だ。

 

「姉上──」

「イザベラ──」

 

 久しぶりのイザベラだった。

 二年前には、まだ子供だったが、いまでは少し大人の女性の風格を備えている。

 アンはイザベラを抱き締めながら思った。

 

「おお、アン姉様、苦労したのだな。わたしも、姉様の境遇を承知したのは、ついこのあいだだったのだ。だが、ロウのおかげで助けることができた。嬉しい──。もうすぐ、王妃殿下も来るぞ。なにしろ、キシダインが捕縛されたのでな。その始末で、まだ来れないのだ。だが、必ず来る──。三人で話をしようぞ。とにかく、本当によかった」

 

 イザベラがアンを強く抱きしめながら声をあげた。

 アンは、やっと助かったのだという実感が込みあがってきた。

 そう思うと、急に涙がこぼれ落ちた。

 アンとイザベラと抱き合いながら、しばらく泣き続けた。

 

 アンが口を開いたのは、やっと発作のような慟哭が収まってからのことだ。

 まず、訊ねたのは、アネルザ王妃とは仲がいいのかという疑念だ。

 

 二年前──。

 キシダインに降嫁することが決まったとき、アネルザとイザベラの関係は最悪だった。

 アネルザは、まだ少女のイザベラを目の仇のようにしていて、イザベラ王女を失脚させ、キシダインを王太子にしようと画策していた。

 アンはイザベラのことが好きだったので、なんとかアネルザを翻意させようとしたが、その力はアンにはなかった。

 

 そして、二年──。

 

 アンは、ノヴァとともに、あの屋敷に閉じ込められていたので、その時間でなにが変わったのかはわからない。

 ただ、ロウの物言いにしても、スクルズにしても、さらに、いまのイザベラの言葉からして、アネルザとイザベラはかなりの昵懇のように思えた。

 アンとしては嬉しいことだが、どうしてそうなったのかが不思議だった。

 

「イザベラ……。そのう……、お母様とは……?」

 

 思わず、訊ねた。

 その短い言葉だけで、イザベラはアンが訊ねたいことを理解したのだろう。

 にっこりと微笑んだ。

 

「すっかりと仲良しだ。……まあ、いろいろある。姉様には包み隠さずに話すが、つまりは、それもロウのおかげなのだ」

 

 イザベラは椅子にアンを腰かけさせて言った。

 自分も隣に腰かける。

 それだけではなく、さらにシャーラとノヴァを呼んで、同じテーブルに同席させた。

 シャーラには躊躇った感じはなかったが、ノヴァは当惑していた。

 だが、シャーラに強引に連れられるようにして、ノヴァもやって来る。

 

「つまりは、この四人は、“姉妹”というものらしい。姉上とわたしは、もちろん姉妹だが、実はシャーラもそうでな。ノヴァもそうなったのだろう……。そして、この神殿のスクルズ、ほかにも、大勢の姉妹がいる。ロウを中心にしたな……。そして、アネルザ王妃殿下もまた、そうなのだ」

 

 イザベラが顔を赤くして言った。

 だが、アンにはちっともわからなかった。

 

「わからないわ、イザベラ。姉妹とはなんでしょう?」

 

 アンは首を傾げた。

 

「なんだったなかあ……。前にロウに教えてもらったのだが……」

 

 イザベラは困ったような顔になった。

 

「“さお”姉妹ではなかったですか、姫様」

 

 そのとき、シャーラが口を開いた。

 イザベラがぽんと手を打った。

 

「そうだ。竿だ。竿──。竿姉妹だ。つまりは、この四人を含めて、アネルザ殿下も、ロウを中心とした竿姉妹というわけだ。つまりは、あの男はクロノスなのだ」

 

 イザベラが嬉しそうに言った。

 だが、まだアンには合点がいかず、途方にくれてしまった。

 しかし、なぜだか、笑いが止まらなくなり、けたたましく笑ってしまった。

 

 笑って、笑って……。

 いつしか、アンはむせび泣いていた。

 ふと見ると、ノヴァも泣いていた。

 その姿をイザベラとシャーラが優しげな顔で見ていた。

 

 

 *

 

 

「おう、アン──。会いたかったよ。今度こそ、本物だね──」

 

 アネルザがやって来たのは、すでに夜中に近い時間だった。

 こんな時間によくも、宮殿を出て来られたものだと思ったが、どうやら、宮殿内にあるアネルザの私室とこの第三神殿は、常時移動術で行き来できる魔道を刻んだ姿見がお互いに設置してあるとのことで、いつでも自由に往復できるのだそうだ。

 それだけでなく、ロウの屋敷にも繋がっているとのことであり、アンはそれについても驚いてしまった。

 

 とにかく、アンとアネルザは抱き合って再会を喜び合った。

 そして、しばらく泣き合ってから、大切な話があると言って、アネルザにイザベラとともに呼ばれて、三人だけで隣の寝室に入った。

 シャーラとノヴァはそのままだ。

 

「ふたりにとって、シャーラとノヴァが大切な相手ということは承知している。だけど、これはしばらくはお前たちの胸の中にしまっておきな。大切な忠告をしようと思っている」

 

 アネルザが急に深刻な表情になって言った。

 アンはイザベラとともに姿勢をただした。

 だが、アネルザがそれを見て苦笑した。

 

「これは畏まりすぎたかねえ。まあ、大したことじゃない。わたしがお前たちに悟らせたいのは、あのロウを絶対に手放すなということだ。わたしにはわかる。アンはともかく、もうイザベラもわかりかけてきたと思う。あいつは今回のことひとつを見てもわかるように、大した男だ。希代の人物と言っていい。この先、なにがあっても、あいつに従え──。これは王妃としても心からの忠告だ」

 

「なんのことかと思えば、それはわかっている、王妃殿下。わたしはそのつもりだ」

 

 イザベラが笑った。

 しかし、アネルザが首を横に振る。

 

「いや、わたしが主張するのはもっと本質的なことだ。あの男は間違いなくクロノスだ──。しかも、一代の英雄の器だ。わたしは確信したよ。これから、なにがあるかわからん。お前たちの父親、あの男はあんな器だし、キシダインひとりのことだって、なにもできなかった男だ。わたしは、もうあれを見限っている。お前たちも見限るんだ。いまの王とロウ──。もしも、このふたりのどちらかを選ばないとならないとすれば、絶対にロウを選べ。しかも、迷いなくね。これはわたしの心からの忠告だよ」

 

 アネルザが言った。

 さすがにイザベラは驚いた表情をしている。

 いま、アネルザが口にしたのはただ事じゃない。

 国王よりも、ほかの人物を重んじろというのは、王妃として絶対に口にしてはならない言葉だ。

 だが、アネルザはそうしろという。

 これは、万が一、ロウが王を裏切るようなことをすれば、そのときにはロウに付けと言っているのだ。

 そんなことを……。

 

「わかっている──。あのロウはそんなことを考えてないし、王とロウが対立するというようなことは多分ないのかもしれない。ただ、わたしが言いたいのは、お前たちの幸せは、ロウとともにあるということだ。あんな男はいない。絶対に逃がすな。幸いにも、あの男は大勢の女を同時に大切にしてくれる男だ。お前たちふたりとも愛してもらえ。必ず手放すな」

 

 アネルザがきっぱりと言った。

 そして、頬を綻ばせた。

 

「わかった。忠告に従う、王妃殿下」

「従います、お母様」

 

 イザベラとアンはしっかりと頷いた。

 すると、アネルザが安心したように、ふたりを同時に抱き締めた。

 

 

 

 

(第34話『囚われの王女救出と王妃の忠告』終わり、第35話『寝取りの恩賞』に続く)

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