【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「そら、コゼ、取って来なさい」
エリカが白い球体を床に放った。
一郎の感覚では、エリカが遠くの床に投げた玉は、ピンポン玉くらいの大きさのものだ。
それがころころと床を勢いよく転がっていく。
「は、はいっ」
少し恐怖に怯える感じのコゼが、脱兎のごとく四つん這いで球体を駆け追っていく。
コゼは特に拘束はされていないが、コゼの小さな首には、エリカが装着した真っ赤な犬の首輪がついていた。
また、コゼは素裸だ。
コゼがエリカの命令に従って、四つん這いで移動することを甘んじているのは、早い話がエリカが怖いからだ。
なにしろ、いまのコゼはわずか十歳の童女なのだ。
それに比べて、エリカは立派な大人である。
しかも、いまのコゼには、エリカについては、絶対に逆らってはならない「調教師」だと認識させていた。
そのコゼを、エリカが乗馬鞭で脅しながら服従を強いているのだから、逆らえるわけもなく、コゼはさっきから汗だくになりながらも、エリカの「遊び」の相手にされている。
サキの仮想空間の中だ。
キシダインの始末をつけてから、王都に戻った翌日となる。
今日は、王家からの呼び出しがあり、一郎とエリカとコゼは、王宮に出向いていた。
成功をしたクエストの一件だと思うが、最終的な任務達成の確認に加えて、今日ここで報酬を受け取ることになっている。
意外なことに、一郎と会うのは国王自身だという。
もちろん、そんなことは知らなかったが、宮廷内に案内をされて、準備された一室で待っていたら、そこにサキが現われて、しばらくしたら国王が面会をすると、一郎に告げたのだ。
一郎は驚いてしまった。
まあ、考えてみれば、キシダインの暗殺に関する仕事は、一応は王家から冒険者ギルドに出された秘密クエストということになっている。もちろん、本当は、あれは一郎がアネルザにやらせたことであり、突き詰めれば依頼人は一郎自身のようなものだ。
だが、かたちとしては、王家の依頼であり、王家といえば、当主は国王だ。
従って、報酬を支払うのであれば、当主の国王というのは当然かもしれない。
しかし、相手は国王だし、アネルザからも、好色なだけの筋金入りの怠け者の愚図男だと聞いていたので、その国王がわざわざ、一郎に面談をするように取り計らうとは意外だった。
また、サキが国王の伝令のような立場で、一郎を出迎えるのは不思議な感じだが、実は、先日のキシダインとの最終抗争の過程で、一郎たちがルードルフ王の身柄を押さえて、こっちに都合のよい王命を出させるための、ルードルフの
サキはアネルザとともに、ルードルフを後宮に実質的に監禁をし、一郎とアネルザがやりたい放題に作った命令にサインをさせ、魔道により国王にしか調印のできないように制限されている玉璽を片端から押させまくらせた。
それにより、わずか十日でキシダイン派と称される主流派から、宮廷における権限とさまざまな権益を失わせることに成功したということだ
宰相たちも一掃されている。
キシダインの失脚を契機に、これまでの大臣はほぼ入れ替わり、アネルザが選んだ数少ない「王女派」と呼ばれる者たちが選出された。
新しい宰相も、フォックスという男であり、アネルザに言わせれば、人畜無害が取り柄のぱっとしない男なのだという。
まあ、アネルザ曰く、それくらいが丁度いいのだそうだ。
ただ、そのキシダイン派追い落としの一連の過程で、ルードルフの居場所はサキしか把握しておらず、サキがルードルフの行動を管理するという態勢ができあがってしまった。
だから、一郎とルードルフの面談に際し、一郎に対する伝言をサキが伝えに来るということになったということだ。
それはともかく、そのルードルフがやって来るまで時間があるので、仮想空間で遊んではどうかということになった。
国王ほどにもなれば、相手を待たせるのも、ひとつの権威表現のようなものなので、あえて時間をかけるのかと思えば、いま抱いている女とやりまくっていて、やめそうにないだけなのだそうだ。
今日は国王付きの女官を国王のところに連れていったが、彼女も待たされているらしい。
だから、こっちはこっちで好きなことをしていればいいと誘われた。
一郎は、そうさせてもらうことにした。
仮想空間術はサキの固有能力であり、サキは自分の想像する世界を自由自在に作成して、そこに自分だけでなく、他人を閉じ込めることができるのだ。
そして、そのサキを一郎は支配をしているので、近くにサキがいれば、一郎はそのサキの能力を通じて、仮想空間術を操ることもできる。
そこで、サキから一時的に能力を貸与された一郎は、エリカの耳打ちの願いを聞き入れて、コゼを十歳にして仮想空間に入れ、「調教師エリカ」がコゼを躾るという世界を作り出したのだ。
そして、いまに至っている。
サキについては、いったんルードルフのところに戻った。
ところで、今回はシャングリアは同行していない。
シャングリアは、先日のキシダイン護送中の「落雷事故」の後始末があり、この数日は連日騎士隊の方に通っている。
まあ、書類仕事の類いなので、シャングリアによれば、もう一日か二日で全部完了するということだった。
シャングリアが書類仕事というのは、ぴんとはこないが、あんな性格でも、一応の書類はこなせるし、そういえば、先日はコゼとともにキシダイン邸に魔道具で変身して入り、家人のひとりの演技をして、アンたちを保護するということもやった。案外に器用なのだ。
それに、真っ正直な性格のようでありながらも、貴族間の駆け引きや権謀術数も理解していないわけでもなさそうだ。
あれでも、やはり貴族なのだなと思ったりする。
とにかく、いまは、この仮想空間の中で、すっかりと調子に乗っているエリカが、思う存分に、子供姿になったコゼをいたぶっている真っ最中だ。
一郎が呆れてしまうほどのはしゃぎぶりである。
いまも、エリカが投げた球体を童女のコゼが追いかけていく。
さすがにコゼだ。
その動きは素早く、まるで本当の四つ足の小動物のようだ。
「んふううっ」
だが、もう少しで球体に追いつくというところで、突然に童女のコゼの身体ががくりと折れ曲がり、その場にひっくり返った。
その理由はなんでもない。
コゼのクリトリスには、一郎がエリカに与えた吸盤式の振動具がすっぽりと被されている。しかも、お尻の中にも、エリカによって、イボ付きのローターもねじ込まれたようだ。
それをエリカが操作している「リモコン」で作動されたのだ。
外観は童女でも、コゼの肉体の中身そのものは、すっかりと調教の終わった敏感な身体だ。
性感帯だって、しっかりと発達している大人のそれである。
特に、お尻を徹底的に一郎から調教されているコゼには、お尻と肉芽の同時の刺激は堪らないだろう。
だから、ひっくり返ってしまったのだ。
なかなかに、エリカもえげつない。
「こらっ、さっさと立ちなさい、コゼ──。お前のご主人様が仕上がり具合を見学に来られたのよ。不甲斐ない姿を見せるんじゃない──」
エリカが乗馬鞭でぴしゃりと床を叩いて、大きな音をさせた。
どうやら、設定は、一郎が奴隷主人で、エリカが調教師ということのようだ。まあ、どうでもいいが……。
「は、はい──。んくうっ、くっ」
コゼが慌てたように立ちあがり、四つ足の姿勢になって駆け始める。
だが、エリカはコゼの股間の淫具を振動させっぱなしなのだろう。
コゼの動きは、さっきと比べて遥かにぎこちない。
「くううっ、可愛いいい……。見てください、ロウ様……。あのコゼがあんなに、わたしに素直に……。ロウ様、愉しいです」
エリカが滅多に見せない心からの悦びの顔を一郎に示しながら、一郎に耳元でささやいた。
一郎は苦笑するしかない。
実のところ、エリカは、サキの仮想空間の中で、童女に戻したコゼと「遊ぶ」のが、なによりも大好きだ。
よくわからないが、ツボに嵌まるとはこのことであり、そんなに回数は多くないのだが、記憶操作で身体だけでなく、記憶さえも童女化しているコゼを百合責めするときのエリカは、いつものエリカとは異なり、性欲剥き出しの生き生きとした姿を示す。
「んっ、んんっ」
童女のコゼが球体に追いついた。
動きが戻っているので、いつの間にか、エリカはコゼの股間の振動を止めたようだ。
これからコゼは、球体を咥えて戻るのだが、エリカはコゼに球体を膣の中に入れて、戻って来いと命令しているようだ。
コゼが顔をしかめながら、懸命にピンポン玉大の球体を股間に亀裂に押し込んでいる。
「さっさとする。遅い──」
エリカがぴしゃりと床を乗馬鞭で叩いた。
「は、はい、申し訳ありません、エリカ様──」
コゼが指で一気に玉を亀裂に押し込み、慌てて駆けてくる。
だが、またエリカが横にあるリモコンで、コゼに装着している淫具を操作したのがわかった。
「ひにゃああっ」
コゼが悶え声をあげてひっくり返る。
「ははは、ロウ様、愉しいです──」
エリカが白い歯を見せて言った。
一郎は、エリカらしくない緊張感のない姿に噴き出してしまった。
そのとき、目の前に、サキがいきなり出現した。
このところ、すっかりと見慣れた感のある人間族の妖艶な美女姿だ。
「
サキが言った。
一郎は首を竦めた。
「一対一か。存外に国王も度胸があるのかな? 武器も持たないで? 向こうは護衛もつけないということ?」
「護衛は部屋の外に出す。案内人の女官もいるが、よくは知らんが、国王はそいつにも外で待機するように命令しておったぞ。自分には誰であろうとも、手は出せんそうだ」
サキの言葉に頷き、一郎はエリカに声をかけた。
「というわけだ。ちょっと、外で国王と話してくる。一対一だが、サキが安全を保障する。お前たちは仮想空間の中で待機してくれ。なにかあったら、頼む──」
「はーい──。でも、絶対になにかあれば、わたしたちを必ず出してくださいね……。ほらっ、コゼ、走れ──」
エリカがこっちを見ずに返事をして、白い玉を思い切り遠くに投げた。
幼いコゼが必死に駆け出すが、すぐにがくりとひっくり返る。
エリカを見ると、リモコンを片手にけらけらと笑っている。
まったく……。
一郎はいつにないエリカの姿に苦笑した。
「じゃあ、戻してくれ、サキ」
「わかった。ルードルフに告げたら、わしも仮想空間側で待機する。あっ、そうそう。さっきアネルザから伝言があったぞ。国王の申し出には逆らうなと言っておったな」
「逆らうな? そもそも、アネルザは、俺が国王に会うことを知っているのか?」
宮殿に出頭指示が来ていることは教えたが、さすがにさっきの今では、王に会うことをアネルザに伝える暇はなかった。
「一応な……。よくはわからんが、アネルザは損をするわけじゃないから、国王の申し出は受けて置けとか言っておったな。お前が快く応じることに期待しているそうだ」
おかしな伝言だなとは思ったが、とにかく一郎は頷いた。
「おう、そうだ──。大事なことを忘れておった。あの国王は、一応は魔道具の防護具のようなものを持っておる。こっちから攻撃しなければなにもないが、魔道でも刃物でも、もしも、なんらかの敵意のある攻撃をすると跳ね返ってくるというもののようだ。だから、わしでさえも、あれを魔道をかけることはできんのだ。気をつけるがいい」
そんなものもあるのかと思ったが、一郎は「わかった」と言い、サキに仮想空間から出すように告げた。
それにしても、そんな護り具をルードルフ王が持っているとは思っていなかった。
だったら、サキは、もはや完全にルードルフを言いなりにしているようだが、それは魔道なしにやっているのかと改めて感心もした。
そして、現実世界側の部屋に戻った。
すると、すぐに扉が開く。
入って来たのは、ひとりの女官だ。
「お待たせしました、ロウ殿。陛下がお会いになります」
その女官に促されて、一郎は立ちあがった。
部屋に入ったときは、エリカとコゼも含めて三人だったのだが、一郎しかいなくなっていたことに、訝しむ様子もなかった。
そのまま、一度、廊下に出て、その女官の後ろから歩く。
しばらくして、ふたりの近衛兵が扉の前に立っている部屋に着いた。
女官は中に入ろうとはせず、扉を外から叩いて、一郎の到着を室内に告げた。
室内から返事があり、女官が扉を開く。
「どうぞ、ここからはおひとりでお願いします。陛下はそれを望んでおります」
一郎は軽く女官に会釈をして、室内に進んだ。
室内は、広いとも狭いともいえない程度の部屋だ。
しかし、そのさっきの部屋に比べて格段に調度品が豪華であり、部屋の中心にある卓を囲んだ長椅子のひとつに、ひとりの中年の男が深々と腰かけている。
“ルードルフ=ハロンドール
人間族、男
ハロンドール王国国王
年齢50歳
ジョブ
治政力(レベル5)
生命力:50
攻撃力
50(素手、王の宝珠)
魔道力:30
経験人数
男20、女210
特殊能力
「王の宝珠」の加護”
国王のルードルフに間違いがないようだが、どこにでもいる中年の親父という感じだ。
ぷっくりと出ている腹がすごい。
もっとも、会うのは一応は初めてではあるが、先日のキシダインに対する宮廷裁判のときに、一郎はルードルフに変身をしている。だから、王の姿に初めて接するというわけではないのだが、やはり、姿見越しではなく、自分の目で見る印象は異なる。
また、どうでもいいが、垣間見えるジョブにある治政力レベルが「5」というのは、低いなと思った。
このジョブは、治政をするような役割についている者に現れるジョブのようだが、あのキシダインは治政力ジョブが「20」だった。
かつて、歌姫事件で一郎が痛めつけたドルニカ女伯爵など、治政力レベルそのものは、「30」もあった。
それに対して、仮にも国王が「5」というのはどうなのだろう。
「国王陛下……」
とりあえず、その場に跪く。
もっとも、知っている儀礼はこれくらいだ。
この後にどうするべきかも知らない。
もしかしたら、こっちから話しかけてはいけなかったか?
まあいいか……。
「冒険者だというが、存外に礼儀正しいのだな。しかし、構わぬ。無礼講でいこう。そっちにかけたまえ、ロウ」
ルードルフ王は無邪気そうな笑みを浮かべたまま言った。
一郎は王の向かい側の長椅子に腰をおろした。
礼節をやらなくていいというのは助かった。
ルードルフ王が嬉しそうに微笑む。
なんだかとても上機嫌だ。
正直な感想は、よくわからない男だということだ
目の前の王には危険なものを感じないが、なぜ、ここまで一郎に対して無防備なのかわからない。
一郎は、一応は百戦錬磨ということになっていて、一郎がその気になれば、衛兵に護られていない王などどうにでもなると、ルードルフは考えていいと思う。実際のところ、ルードルフは、一郎が宮廷裁判でタリオ兄弟を殺させ、今回の「クエスト」でキシダインの始末を終えたことを知っているはずである。
高位貴族の殺人も意に返さない男と認識しているはずだ。
もっとも、ルードルフのステータスには、「王家の宝珠」という魔道具らしきものがある。
これが、サキが言っていた王家の護り具なのだろう。
その護り具に絶対の自信を持っているのか……?
いずれにせよ、ルードルフには、極めて友好的な雰囲気のみしか感じない。
一郎に対して、なんの敵意も抱いていないようだ。
ルードルフは、たった一個の護り具のみだけを持ったままのほとんど無防備な状態で、本当に、たったひとりで一郎の前に姿を現したようだ。
そして、ことりと小さな箱のようなものを卓の上に乗せた。
「いま置いたのは防音具だ。これで、この部屋における声は、いかなる方法であっても外に漏れることはない。外にいる護衛どもにもな」
ルードルフがにっこりと微笑んだ。
それは、ルードルフが危険なのではないかと思った。
この男の危機管理はどうなっているのだろうと、逆に心配になってきた。
「俺が……いえ、私が怖くないのですか?」
「怖い? 怖くはないな。お前のことは王妃が保証している。余にとっては、それで十分だ。あれはなかなかに頼りになる女でな。いずれにせよ、今日は、対等の立場で話したい。それで、お前にやって来てもらったのだ。人払いもしたのはそのためだ」
ルードルフがからからと笑った。
「対等な立場…………ですか?」
一郎は不要にへりくだることもなく、かといって、十分に礼儀を重んじている話し方になるように気をつけて言葉を選んだ。
「対等な男としてな。だが、こういう言い方をすれば、対等というわけにはいかぬかもしれんな。つまりは、余はアネルザの夫であり、アネルザは余の妻だ。お前は、その余の妻を寝取った男ということだ。だが、それでも、余は対等の会話を望んでおる」
ルードルフがさらに高笑いした。
一郎は背に冷たいものを感じてしまった。
実のところ、アネルザに新しい愛人ができ、それが一郎であるというのは、王都の貴族界では知らぬ者のない醜聞となっているらしい。
当然に、ルードルフは承知しているはずだ。
妻を寝取った男が、その妻の夫と対面するのだ。
しかも、それは、このハロンドールの最高権力者だ。本来であれば、これは災厄そのものだろう。
もっとも、この会見にはそういう殺伐としたものは全く感じない。
「……そんな顔をするな、色事師よ。余は、そなたについて恨んではおらんし、なにかの咎めをするつもりはない。だが、あのアネルザをあそこまでたらし込んでくれた恩人を一度見ておきたいと思ってな」
「はあ……」
なんと応じていいかわからない。
とにかく、ルードルフは上機嫌だ。
だが、いまだに一郎には、その上機嫌の理由がわからない。
「もちろん、お前が、以前までアネルザが奴隷宮に囲っていたような多くの男娼風情でないことは承知しておるぞ……。そうそう、キシダインの一件だったな。あれを見事に片付けてくれたことは本当に感謝している。なにせ、あの男は実に面倒な男だったからな。それに、宮廷裁判では余に化けてくれたらしいな。だが、それは重罪だぞ。この国の法では死刑にあたる。もちろん、余が問題にすればということだがな。つまりは、そなたの命は、ある意味で余が握っておる。そういうことだ」
ルードルフ王が意味ありげににやりと笑った。
一郎はさすがにむっとした。
あのときに、そのキシダイン裁判に出席するのが嫌で、後宮で駄々をこねたのはこいつだ。だから、一郎が肩代わりをする羽目になったのだ。
しかし、ルードルフは、一郎がちょっと不機嫌になったことなどわからなかったのか、さらに機嫌よく笑いながら口を開く。
「……しかし、お前は面白い男のようだな。ちょっと調べさせたところ、お前の愛人はアネルザだけではないようだ。モーリアのところの女騎士のシャングリアもお前の愛人なのだろう? ほかにも、いつもエルフ女や人間族の女を侍らせておるとか。すべて、お前の愛人なのだろう?」
ルードルフ王は、ますます上機嫌で言った。
「まあ、そのとおりです……」
否定するつもりもないし、否定することは不可能だ。
冒険者としての一郎が、シャングリアを始め、美女揃いのパーティの「紺一点」として名も馳せているのは隠しようもない。一郎というぱっとせず、また若くもない男が、美女ばかり侍らせているということが結構有名なのは承知している。
「好色であるところは、余に似ておる。まさか、それだけ美女をいつも侍らせておいて、手も出してないということはあるまい? 全部に手を出し、満足させ、そのうえで慕われている。そうだな?」
「まあ、そうですね」
肉体関係がないなどと嘘をついても仕方ないし、とりあえず認めた。
とにかく、なんのために、一郎を呼び出したのか見極めようと思った。どうやら、この国王は、一郎に対して、キシダインの暗殺成功の報酬を渡す以外の目的があるようだ。
いずれにしても、ルードルフ王から感じるのは、一郎に対する旺盛な好奇心である。
それが態度にも、言葉にも出ている。
ここに呼び寄せたのが、好奇心から出たものであるのは確かな感じだが、いま少し考えが読めない。
「ますます、いいのう……。ならば、その性技の腕で女たち……、さらには、アネルザまでもたらしこんだ。そうだな?」
「たらしこんだとかは……」
その言い方は好きではない。
まあ、その通りともいえないことはないが……。
「よいよい。そう硬くなるな──。一対一の男同士の話だと申したであろう。とにかく、さっきも言ったが、余は礼を言うために呼んだのだ。キシダインの件……。そして、アネルザの件をな……」
一郎は訝しんだ。
キシダインの件というのはともかく、アネルザの件で礼とはなんだろう。
すると、ルードルフが急に真面目な顔になった。
「キシダインは面倒な男で、懐中の刃物も同じだった。余に代わり、王になる野心を持っていた。ただ、自分を味方する大貴族を集めていて、迂闊に排除すると暴発を起こしかねない危険を持っていた。かといって、あいつの望むとおりに、王太子にしようものなら、あっという間に余を亡き者にして、王になっただろう。だから、王太子にもさせられん。本当に困っておったのだ。まあ、それでアンを嫁がせて懐柔したのだが……」
ルードルフが溜息をついた。
急に、しおらしそうな表情になったなと思った。
もしかしたら、かなり感情が変わりやすい性格なのだろうか。
しかし、それはともかく、いま、少し聞き捨てならないことを耳にしたと思った。
最後の言葉によれば、もしかして、この国王はキシダインが危険な男であることを知っていて、アンを嫁がせた?
「キシダインがどんな男であるかを承知で、アン様と婚姻させたのですか? 例えば、女扱いとか……」
調べてわかったが、あの男はかなり重度の性差別主義者であり、アンとの婚姻の前にも、それでかなりの問題を起こしていたということがわかった。
その都度、身分の力と金の力で闇に葬っていたようだが、王家の力であれば、その程度の情報には辿り着いたのではないだろうか。
これについては、アネルザも、当時はキシダインの身分や王権に近い立場のことしか気にせずに、性格のようなものに着目しなかったことを悔いていたが、ルードルフ王については、キシダインにアンを嫁がせれば、アンが不幸になることをある程度予期してもいいでのはないだろうか。
だとしたら、アンを不幸な境遇にしたのは、王も共犯だということにもなるのだが……。
「余としては、懐柔でなだめつつも、機会を見つけて失脚させる機会も窺っておったのだが、隙のない男でなかなかに尻尾はつかめんかった……。お前は、いい具合にあいつを追い込んでくれた。これで、キシダイン派は消滅だ。もう余の立場を脅かす者はない。本当に礼を言う」
ルードルフ王は言った。
一郎の質問を聞いていたのか、聞いていなかったのはわからないが、まあいい……。
いずれにしても、この男がアンをキシダインと結婚させたのは、自分を脅かす力を持ちかけていたキシダインを懐柔するのが目的だったということだ。
少なくとも、アンの幸せを望んだ結果ではないだろう。
この王が考えたのは、自分の保身のことだけということか……。
考えてみれば、何度も危機に陥ったイザベラについても、その対応は酷いものだった。
イザベラが何度も暗殺に瀕し、それがキシダインの仕業だとわかっているのに、なにも手を付けなかったのだ。
この男にとっては、娘たちというのは、その程度ということだ。
「……キシダインの暗殺の手並みも見事だったな。キシダインは雷に当たって死んだ。王都では、天罰によるものというのが専らの評判のようだ」
ルードルフ王は笑った。
一郎は、「おそれいります」とだけ答えた。
すると、王はにやりと笑った。
「なかなか、打ち解けんな。余は、腹を割った話をしているつもりだがな」
「一国の王陛下に対して、隠す腹などありません。でも、さすがに、いささか緊張しております。もしも、無礼があれば、それに免じてお許しを」
一郎は頭をさげた。
どうでもいい。
いずれにしても、なんの話し合いかわからんが、この男がイザベラやアンを大切に考えていないことを推察できることに接して、一郎もあまりいい気分ではない。
そろそろ、引きあげたいかな……と一郎も考えだしてきた。
「冒険者のくせに、そつが無いな。まあよい……。ならば、席を変えようか……。最初にも言ったが、余は、お前と腹を割った話がしたい。だから、距離が縮まれば、遠慮もなくなるだろう」
ルードルフは、すっと立ちあがったかと思うと、テーブルを挟んで一郎の座る長椅子に腰かけてきた。
一郎はちょっとびっくりした。
一対一で対面するのも不敬なのだが、さすがに、一国の王と同じ椅子に座るということが許される行為ではないということはわかっている。
慌てて立ちあがろうとした。
しかし、ルードルフが一郎の腰に手を回して、がっしりと押さえてそれを阻む。
そして、すっと一郎の耳元に、口を近づけてきた。
「もっと、腹を割ろうぞ、ロウ……。なにせ、余とお前は、同じ女を食った仲だぞ。アネルザの件は感謝しておる。よくぞ、あの扱い難い雌猪を大人しくさせてくれた……。アンとキシダインの夫婦仲が悪いことがばれたときには、殺されるかと思ったが、まあ、あれも悪くなかったな。とにかく、余は、お前の足にキスをしたいくらいだ。あれは、キシダイン以上に扱いにくくてなあ」
「ちょ、ちょっと陛下……」
なんのつもりか知らないが、やたらに距離が近い。
しかも、回した一郎の腰から手を離す気配がない。
「……本当だぞ、ロウ。余が好色であるのは評判であるから知っておると思うが、本当はアネルザは、それが面白うなかったのだ。しかし、余も長くひとりの女に執着する気質でもない。余がアネルザに飽くのもすぐだった……。それで婚姻当初は、寵姫を替えるたびに、狂ったように喚き散らしたものだった……」
「そんなことが……?」
あのアネルザも、このルードルフの好色に嫉妬していた時代もあったのかと思った。いまは、完全に見放している感じだが……。
それはともかく、一郎は身体をずらして、ルードルフから距離を取ろうとした。
だが、ルードルフがその分身体をずらせて、一郎と密着した体勢を保持してくる。
なんなんだ、これ?
一郎は困惑した。
「そう逃げるな……。腹を見せ合おうぞ……。そのアネルザだが、やがて、腹癒せなのか、これ見よがし性奴隷を集めたりしてなあ。だが、お前が相手をするようになり、奴隷どもも処分してすっきりした……。それだけじゃない……。このところ、余にも優しくするようになってな……。このあいだも久しぶりに、余の相手をしてくれたのだ……。本当に気持ちよかった。おそらく、それもお前のおかげだな……。本当に感謝しておる……」
ルードルフ王はにこやかに言った。
しかし、相手をしたというのは、アンの偽物との茶会の後に、ルードルフの身柄の確保にサキとともに向かったあれのことだろうか?
耳にしている限り、相手をしたというものじゃなく、拷問まがいの嗜虐をして痛めつけただけのことだったはずだが……。
それにしても、ルードルフの手は、一郎の腰に回されたままだ。
気持ち悪いなあ……。
「……だが、一度訊いてみたかったのだ。あのアネルザをどうやって飼い慣らしたのだ。話によれば、アネルザはお前に夢中で、傍目にもすっかりとお前に惚れ抜いているのが明らかなそうではないか……。どうやら、お前に与えられる快感はアネルザを骨抜きにしたようだ。どんなに凄い性の技を持っておるのか興味があるぞ」
王の手がすっと、ロウの太股の上に置かれた。
ぞわぞわという気味の悪さに包まれる。
そして、この王のステータスに、性経験「男:20」という情報があるのを思い出した。
一郎は、今度は慌てて、立ちあがろうとした。
だが、その一郎の腕をがっしりとルードルフ王が掴む。
思いのほか力の強い男で、一郎は押さえつけられるかたちになった。
ルードルフ王がすっと一郎ににじり寄る。
座っている脚がぴったりと接する。
一郎は、肌が粟立つのを感じた。
「まあ、待て、ロウよ……。別に取って食おうとしているわけではないわ。落ち着かんか。ところで、なかなか良いかたちの尻をしとるな。どうだ……? アネルザを垂らし込んだ性の技……。余にも味わわせんか……? 実はな……」
王がさらに一郎に密着する。
一郎は離れようとするのだが、ルードルフはかなり強く一郎を掴んでおり、振りほどくには全力で抵抗することが必要そうだった。
一郎が躊躇していると、にやりと王が微笑んだ。
「……余は女好きだが、男の相手を全くせんわけではない。アネルザについている侍女によれば、アネルザは、お前のことを神の技を持つ男とも言っているそうではないか……。あれは、凡そ隠し事はできん女だ……。余はそれを聞いて、お前に興味を持った……。神の技……。興味がある。実に興味がある……」
ぞっとした。
王の顔が真剣だったからだ。
一郎はとにかく、離れようとした。
しかし、ルードルフ王がそれを許さない。
いずれにしても、これで王が一郎を呼んだ理由がはっきりした。
だが、まさか、ルードルフ王が、一郎をわざわざ呼び出したのが、自分の好色を満足させるためとは夢にも思わなかった。
そして、その求める相手が一郎とは……。
「お、お待ちください、陛下……。お、俺は男を相手にする趣味は……」
「心配いらん。余のところには、一時的であれば、性別を逆転させる技を持つ魔道を扱う魔道師もおるぞ。お前が女になればよい……。それとも、余が女になるか……? どっちでもいいぞ」
ルードルフ王が、一郎の腰に回している手にぐいと力を入れる。
好色であることにかけては、ほとんど病気だという噂もある王だ。
全身の粟立ちがさらに激しくなる。
しかし、そのときだった。
一郎の魔眼によって、目の前のルードルフの全身に、さっと赤いもやが浮かびあがるのがわかったのだ。
一郎が女を抱くときに、愛撫の道しるべにしている性感帯の証のもやである。これを目印に愛撫をすれば、どんな女でも、避けられない快感を呼び起こされて泣き狂う。
一郎の必殺の武器だ。
だが、なぜか、その能力が発動してしまったのだ。
まさか、一郎の内心のどこかが、ルードルフとの性交を意識した?
一郎は、ルードルフに迫られかけていることよりも、それを心の底から恐怖した。
「うわっ」
一郎は悲鳴をあげてしまった。