【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「あら、まだいたの? もう、あがっていいわよ、ラン」
事務室の扉が開いて、マリーの声がした。
ランは、書きかけの書類から顔をあげた。
ミランダから与えられているランの執務室だが、かなりの書類で
王都だけじゃない。この国のあらゆる冒険者ギルドに関する資料がここに全部集まっているのだ。
それを整理して、魔道のかかった情報共有装置により検索ができるかたちでまとめるのが、ランの仕事だ。
それだけでなく、冒険者ギルドの経費管理の一部の業務もランはやっている。
もともとは、ミランダが一手に引き受けていた冒険者ギルドの管理に関する業務なのだが、ランがそれができるということがわかると、ミランダから助手を命じられた。
ギルドの管理の下級奴隷として小間仕事をしていたのが、マリーのような窓口業務をするようになり、いまや、自分で称するのは気が引けるが、ミランダの片腕のようなギルド長の助手業務だ。
大出世だろう。
我ながら、わずか三箇月でしかないのに、この業務の変わりようは驚くばかりだ。
しかも、たった半年以上前までは、ランはなんとか、メニューの文字が読めて、簡単な代金の計算ができるだけの、場末の食堂の女給だったのだ。
それが、なぜか、いつの間にか、ほんの少し教わるだけで、難しい書物も平気で読めるようになり、試しにやらせてもらえれば、複雑なギルドの管理業務の手伝いもできた。
ミランダが狂喜して、自分の仕事の手伝いをさせるようになったのはすぐだった。
ランも驚愕するしかなかったが、やったこともない事務仕事を簡単にできるようになるなど尋常なことではない。
おそらく、ロウのおかげだと思う。
そう思うしかないのだ。
なにしろ、こうやって突如として能力が開眼したのは、ロウに二度目に抱いてもらった直後のことだったのだ。
もしかしたら、ロウには精を注いだ相手について、なんらかの能力を飛躍的に向上させる力があるのではないか……。
さすがに、そのことに思い当たり、ロウやミランダに訊ねた。
やんわりとはぐらかされたものの、否定もされなかった。それだけでなく、絶対にランの考えを口外するなとも釘を刺された。
ランはそれである程度のことを察した。
「あっ、でも、一応、今日の分の業務が……」
ランはマリーに言った。
「そんな仕事は、あんたなら明日にでも取り戻せるんでしょう? ミランダは、さっさと休みをとって、ロウ殿のところに向かったんだから、あんたも準備しなさいよ。せっかくの宴なんだから、おめかしだってあるでしょうに」
マリーが苦笑している。
だが、マリーは知らないのだ。
今日の宴は、ロウからは裸の集まりだと耳打ちされている。
ロウの愛人たちが集まり、内輪だけの乱交で交友を深めるのだそうだ。
だから、お洒落は無意味らしい。
もっとも、それでもせっかくロウに会うのだし、できるだけめかし込みたいという気持ちはある。
まあ、ロウの周りに集まっている女たちに比べれば、ランなど平凡すぎて一緒にいるのが恥ずかしくなるくらいだが、それでもロウはランの恩人だし、なによりも、ランはもうロウを好きになってしまったのだ。
たとえ、ほんの気紛れでもいいし、ちょっとしたからかいとしてでも構わない。
ランは、ロウに関わりたい。
だからこそ、ロウの女たちの集まりに呼んでもらえるなど、ランは有頂天になった。
ランみたいな女を……。
「あっ、でも、おめかしといっても……。それに、集まりは夜なんです、マリー。まだ、陽が高いし……」
ミランダが珍しくも仕事をあがったのは、陽が中天にのぼったときだったが、まだ、それから時間はあまり経ってない。陽はちょっと西に傾いたくらいだ。
「いいのよ。それに、どうせ愉しみで、仕事なんてはかどらないでしょう。まあ、あんたのやっていることを代わりにやってあげるとはいえないけど、しっかりと、ミランダとあんたの仕事は溜めといてあげるわ。でも、もうあがりなさい。先輩命令よ」
マリーが笑った。
ランは新参ものだが、マリーはギルド職員として十年以上になる。若く見えるので、新人と勘違いされることが多いようだが、実は三十代も半ばの三人の子持ちだ。
だが、夫はいない。
三人の子供も全員が父が違う。
よくわからないが、三人の父の全員が、マリーが魔道遣いとして冒険者のひとりだった時代の男たちだそうだ。
なにか事情もありそうなのだが、マリーは事情を語らない。
ただ、酔ったときに、自分は男を不幸にする女だと悲しそうに洩らしただけだ。
また、ありがたいことだが、マリーは、ついこのあいだまで、奴隷身分だったランに、最初から分け隔てのないた態度で接してくれた。
ランは怪しげな操りの術を掛けられて闇奴隷にされ、場末の娼館で性奴隷として飼われていた少女なのだが、ミランダが、ランが不当な手続きで奴隷になっていることを発見し、ロウの能力で操りも解呪してもらった。それだけでなく、ギルドによる身請けというかたちで、ここに引き取ってもらったのだ。
まさに、地獄から天国に引きあげられた救援だった。
しかし、不合理な手続きによる奴隷であっても、奴隷は奴隷である。
だが、深い事情を承知していたマリーは、ランを奴隷ではなく、ごく普通の新人職員として扱ってくれ、それだけでなく、たちの悪い冒険者たちから、ランを守ってくれるようなことも度々してくれた。
幸いにも、ミランダとロウは、ランに操り術をかけた操り師からランを購ってすぐに娼館に性奴隷として売り飛ばしていた分限者を見つけてくれ、身請けのためのお金を奪ってきてくれたのだ。
ランは奴隷解放された。
喜びに泣きじゃくるランに対して、ロウは気にする必要はないと言った。また、ランは詳細は教えてもらえなかったが、直接にそれをしたのは、ロウの知り合いの商人とのことだった。
とにかく、そんなこともあり、ロウにも、ミランダにも、ランは背負って背負いきれない恩があると思っている。
それはともかく、冒険者ギルドの職員は、マリーのように冒険者を引退して、第二の仕事としてギルド職員を務めるようになった者が大半だ。
ミランダからして、この国で最後の
マリーの言葉だが、ミランダ自身が本当は「脳筋」であり、ギルドの管理などという仕事が得手ではないらしい。
だからこそ、突然に高い事務管理能力に目覚めたランが貴重なのだそうだ。
確かに、ランにしても、ギルド管理の奴隷として連れて来られたはずの自分が、ギルドの極秘事項まで扱うような重要書類まで任されるのだから、恐縮してしまう。
しかし、ミランダによれば、ランはロウの女のひとりなので、安心なのだそうだ。
目の前のマリーも、ミランダの書類仕事を手伝うこともあるが、そのときもミランダは、本当の極秘事項情報には、マリーには触れさせない。
だが、ランには平気でそんな情報も渡す。
だから、今回のキシダイン事件にかかわる事務処理にはランが関わった。
この国でもっとも権力を得ていたキシダイン卿の暗殺をロウが引き受けて実行したというクエスト内容には戦慄してしまった。
これについては、少なくとも三十年間は解放されることがない魔道保全がかけられた。
だから、現段階でギルド職員で、今回のことを承知しているのは、ミランダとランのふたりだけだ。
ランとしては、怖ろしい秘密に接してしまったという恐怖しかない。
だが、そのことがあり、キシダイン事件解決の打ち上げという側面があるらしい「性宴」にランも呼ばれることになったというわけだ。
それにしても、ミランダがこれほどに重要な極秘書類の作成に、ランなどに関わらせるなど、ミランダのやることには驚きだ。
しかし、ミランダに言わせれば、どうやら、ロウの女になるということは、仲間を裏切れないなんらかの「呪い」のようなものがかかるらしい。
これについて、もちろん、ランには不満はない。そもそもランの命を助けてくれたのが、ロウなのだ。
いや、そうでなくても、ランはロウに心を支配されるのであれば大歓迎である。むしろ、支配して欲しい。
いずれにしても、だから、余人に任せるよりも、ランに任せるのが絶対に安心できるのだそうだ。
「だけど……」
「だけどじゃないわ。さっきも言ったけど、仕事はきっちりと残しておくわ。だから、遠慮することなく、行っておいで。そもそも、あんたを見ればわかるのよ。心ここにあらずって感じじゃないのよ。本当に愉しみなんでしょう? どうせ、こんなときに、仕事なんて捗らないわよ」
結局のところ、マリーに強引に事務室を追い出されてしまった。
それに、マリーの指摘は本当だ。
ロウと時折逢瀬を繰り返すようになって、その性技の巧みさに、気の遠くなるような快感を覚えるようになっていたが、それとともに、その危険さも自覚してしまった。
あのロウから与えられる性の快楽は、まさに危険な魔道のようなものだ。
神がかりな愛撫の快感を受け、繰り返しの絶頂の末に熱い精を与えられて恍惚とする幸福感とともに終わるロウとの交合は、やがて沸き起こる激しい中毒症状のような疼きとの引き換えだ。
ロウに抱かれてしばらくすると、怖ろしいほどに子宮が疼いてくる。再び抱いて欲しくてどうしようもなくなり、気が狂いそうになる。
しかも、このところは、キシダイン事件とやらで、ロウに抱いてもらう日からかなり遠ざかっていた。
ロウの精液をもらっていない子宮は、ぎゅんぎゅんと脈動して、息を吸うのも苦しいと感じるときもある。
だから、ロウに誘ってもらえて、恥ずかしいが身体がかっかと期待で熱くなっていたのも事実なのだ。
ランは、準備していたとっておきの一張羅を身に着け、しっかりと化粧を施してから、ミランダと待ち合わせている小屋敷に向かった。
そこは、ロウが保有する二軒目の屋敷だ。ロウとロウが一緒に暮らしているエリカたちとの生活の場は、王都郊外の通称「幽霊屋敷」と呼ばれる離れ屋敷であり、今日の集まりもそこなのだが、ロウはそれとは別に、王都内に拠点となる小さな屋敷を一軒保有している。
ちょっと込み入った経緯で、その屋敷の書類上の保有は第三神殿のスクルズらしいが、対外的には、そこはロウの屋敷で知られていた。
また、この屋敷には、ブラニーという屋敷妖精が棲みついていて、さらに、スクルズが施した移動術の設備が整えられていて、それを使って、ロウの郊外屋敷に、一瞬にして転送できるようになっている。
そこから、向かうのだ。
ミランダとの待ち合わせも、その小屋敷だ。
そして、屋敷に着いた。
ランがいつもロウに抱いてもらうのは、この小屋敷であり、勝手は知っている。逆に、王都郊外の屋敷に招待されたのは、今回が初めてだ。
そもそも、それが嬉しい。
「ラン様、いらっしゃいませ。ミランダ様とスクルズ様はお待ちです」
表から入ったところで、すぐに屋敷妖精のブラニーがランを待ち構えていた。
「あっ、お世話になります」
ランは慌てて頭をさげた。
すると、十歳くらいの童女の外見を持つブラニーがちょっと困ったような笑みを浮かべる。
屋敷妖精として、屋敷の主人に尽くす性質を持つブラニーにとって、名目上の主人のスクルズや実質的な主人のロウと同様に、ランのように時折通ってくる愛人たちについても、ちゃんと仕える相手なのだという。
だから、ランがここに来るたびに、屋敷妖精に恐縮し丁寧すぎる態度をとってしまうことに、いつも、必要のないことだと言ってくれる。
しかし、そんなことをいっても、ランは誰かに仕えてもらうような身分じゃない。
逆に、ブラニーの態度こそ、ランは困ってしまう。
「ああ、来たわね」
案内をされた部屋に入ると、ミランダとスクルズが卓を挟んで座っていた。
どうやら、酒を飲んでいるようだ。
卓の上には、火酒と呼ばれる強い酒瓶があり、炙った魚と野菜の肴が置いてある。
だが、杯がミランダの前にしかないところを見ると、飲んでいるのはミランダだけのようだ。
スクルズは温かいお茶を飲んで、にこにこしている。
「ミランダ、飲んでおられるのですか?」
ちょっとびっくりして言った。
だが、考えてみれば、ドワフ族というのは、酒を水代わりにして幼少から嗜む酒豪の種族とも言われている。
ギルド内では飲まないようにしている気配だが、ミランダが酒好きなのは、ランも知っている。
「飲んでるわよ。とても素面じゃ行けないわよ。とにかく、あんたの下の毛は、あたしがしっかりと守るからね。冗談じゃないわよ、あの変態──」
ミランダがランを一瞥してぐいと酒の杯を掴んで呷った。
えっ?
もしかして、かなり酔っている?
そのとき、ミランダの真向かいに座っているスクルズがくすくすと笑った。
「まだ、そのことにこだわっているのですか、ミランダ? ロウ様はあなたの言い分を受け入れて、お毛は剃らないとおっしゃったのでしょう? そんなにしつこく言い募ると、まるで本当はロウ様に剃ってもらいたいみたいですわよ」
スクルズが微笑みながら言った。
すると、ミランダが怒ったような形相でかっとスクルズを睨んで、空になった杯を卓に叩きつけるようにした。
「冗談じゃないわよ──。あたしは剃ってもらいたいなんて思ってないわよ──」
「だけど、ロウ様が剃毛をして、ロウ様の持ち物であることの印をつけてもらうのが、愛人の証であるというようなことを仰ったので、断ったものの、かなり動揺しておられるのでしょう?」
スクルズがくすくすと笑って、ミランダの空いた杯に酒をなみなみと注ぐ。
いまや王都どころか、王国一の魔道遣いではないかという評判もある美貌の女神官のスクルズは、ミランダ同様に、実はロウの愛人のひとりだ。
もちろん、ランはそんなこと知らなかったし想像もできなかったが、そもそも、ここがロウの拠点である屋敷でありながら名義がスクルズであることや、ギルドの極秘書類の管理を通じて知った「三巫女事件」の真相、さらに、ロウのクエストにかなりの頻度でスクルズが関わっていること、それを踏まえたうえでの、スクルズのロウに対する態度などを観察して、ランはあるとき、思い切ってスクルズに訊ねてみた。
あっさりと、スクルズは、自分はロウの女であることを認めた。
男神官と異なり、女神官については、天空神クロノスに仕える者という意味合いで、男との性関係は、禁止ではないものの、信仰における不適切な行為となっていることをランも知っている。
ましてや、スクルズは、第三神殿の神殿長代理も務めるほどの高位の巫女だ。
そのスクルズに恋人がいるなど、大変な醜聞になるはずだが、スクルズはあっけらかんしていた。
あのときは、ランも唖然としたものだ。
また、この屋敷には、やはり、ロウの愛人なのだというウルズもいる。元の第一神殿の筆頭巫女であり、ここで何度も会っているが、幼児返りをして、まさに大人の外見をした幼女だった。
その真相も、やはり、ランはギルドの極秘文書の管理を通じて承知している。
「動揺してないわよ──」
ミランダが怒ったように吐き捨てて、ぐいと酒を飲んだ。
顔には出ていないが、なんとなくかなりの酒を飲んでいる様子がある。
ランはスクルズの耳元に口を寄せた。
「……一本目ですか?」
火酒はかなりの強い酒だ。
ランが飲めば、一杯どころかひと口で倒れてしまうだろう。
「三本目ですわ、ラン」
スクルズがまた笑って、ミランダの杯に酒を注いだ。
「さ、三本?」
ランは思わず声をあげた。
午前中はギルドで仕事をしていたミランダが、午後にここにやって来てすぐに飲み始めたとしても、まだ三ノスもすぎていない。
それで三本というのは、かなりの速度と量だ。
ドワフ族でなければ、間違いなく正体を失っているに違いない。
「あなたも言われましたか? ロウ様の剃毛宣言……。今日はロウ様の女が一同に会するだけでなく、全員の毛をお剃りになるそうですわ。そして、ロウ様のお印をつけるとか……。でも、ミランダはそれを徹底的に断ったのです。そして、ロウ様はだったらいいとお許しになったみたいで……。でも、本当はそれを気にしているんですよ」
「き、気にしているわけないでしょう──。そもそも、女の股間の毛を剃るなんて、あいつ、なにを考えているのよ──。ラン、あたしは、ちゃんとあんたのことを守ってあげるからね──」
スクルズの声がほんのささやき声だったのだが、ちゃんと聞こえたようだ。
ミランダの持つ杯がだんと卓の上で音を立てた。
唖然とすることに、もう空になっている。
ランは目を丸くした。
「ミランダ、ちょっと飲み過ぎでは? まだ、昼間ですし……。それに、あたしはロウ様のお申し出は嬉しくて……。あたしのような女を皆さんと同様に扱っていただけるなど、信じられないし……」
ランはおずおずと言った。
すると、ミランダがランを睨みつけた。
「な、なんでえ──。あんたも、あたしを裏切るの──」
ミランダが一転して悲しそうな顔になった。
ランはたじろいでしまった。
「裏切りって……」
なにが裏切りなのかわからない。
でも、わかったことは、やっぱりミランダは酔っているだろうということだ。かなり感情的になっている。
「もう連れて行ってください、ラン。このままでは、また泥酔しそうですわ……。ミランダもいいでしょう? どうぞ、お先に……。わたしは、アン様たちを待って、向かいますから」
ミランダは手酌をしようとしたが、スクルズがさっと手を振って、瓶を消してしまった。魔道だろう。
だけど、アン様?
スクルズの管理する第三神殿には、キシダインの元妻のアン王女が預けられているが、まさか彼女のことではないはずだが、他にもロウには愛人がいるということは知らなかった。
「ちょっと、スクルズ──。酒を出しなさいよ。あんな変態男のところに向かうのに、とても素面でいけないわよ。出しなさい」
「いいから、向かいましょう、ミランダ。あたし、ロウ様の本屋敷には初めて呼んでもらうのです。早く行きたいのです」
ランはミランダの腕を掴んで立たせるように引っ張った。
スクルズの言うとおりであり、これ以上の酒はよくないだろう。
「えっ、あんた、あの変態男の屋敷に行ったことないの? もう何度も抱かれているんでしょう?」
ミランダがちょっと驚いたような顔になった。
「抱いては頂きましたが、全部この小屋敷のことです。それに、変態とおっしゃいますが、それはなんのことなのですか? ロウ様は随分とお優しいと思いますが……」
ランはミランダを引っ張って立たせながら首を傾げた。
ロウが複数の女を愛人にしていて、それだけでなく、一度に何人もを同時に抱くこともあるということは知っている。
今夜もそういう性宴だ。
だが、ランについては、実のところ、ふたりきりでしか抱かれていない。
抱き方も普通で、いわゆる正常位だ。
変態的な抱き方といえば、あの分限者のところであるとか、娼館でのことの方が余程につらかった。
ランがロウは優しいと口にしたので、ミランダが詰め寄るように、ロウはどんな風にランを抱くのかを訊ねてきた。
そんなこと口にするものじゃないと思ったが、なぜか、スクルズも詰問してくる。
仕方なくランは、いつも普通だと説明し、赤裸々な内容も問われるままに答えた。
すると、スクルズが縛ったりしないのかと驚いたように言ったので、ランは首を横に振った。
縛られて抱かれたことはない。
「淫具は? あの痒み責めは?」
「お尻などとかは?」
ミランダとスクルズが驚いたように破廉恥な質問をしてくる。
そんなことはされたことはないので、ランは否定した。
「……あいつ、あれでも、ランには気を使っているのね……。まあ、酷い目に遭ったからか……」
「そういうところが、ロウ様のお優しさなのですよ」
ミランダとスクルズが嘆息しながら言った。
よくわからないが、ラン以外の者には、かなりの過激なこともするようだ。
でも、そうだとすれば、このあいだまで娼婦として乱暴な抱かれ方をされ、日に何人もの男の相手をさせられてきたようなランに対して、手加減をしているということになる。
ミランダの言葉のとおり、それは、もしかしたら、奴隷になってしまっていたランの境遇に、ロウが気を使っているのかもしれないが、少し寂しく思う。
ランは、ミランダやスクルズのような女傑ではない。
ただの平凡な女だ。
ロウの周りにいるようなとんでもない美女には及びもつかない平凡な外見だし、騙されて奴隷にされたような馬鹿女だ。
そのランに対して、ロウの性癖を解放してくれないのは、嬉しいことではない。
「……羨ましいです。あたしも、変態をされたいです……」
思わず口にした。
すると、ミランダが呆れたという顔になった。
そして、スクルズが口を開く。
「でも、これからはランのことも、容赦なく調教するのでしょうね。だから、宴に呼んだのでしょう」
スクルズは笑った。
「まあいいわ。じゃあ、行くわよ、ラン──。じゃあ、後でね、スクルズ」
「では、後ほど……」
ランはスクルズに会釈をした。
ミランダがブラニーを呼んで、移動ポッドの手配をしてくれと声をあげた。まったく酔った形跡もない。
足どりもしっかりしている。
ランは感心した。
*
【ラン】
サタルス帝に仕えた女傑のひとり。元は冒険者ギルドの職員であり、冒険者でもあったサタルス帝がその能力を見抜き、施政を支える女官吏として抜擢したといわれる。
サタルス帝の近侍として重要職務を歴任し、晩年は第二代の宰相まで昇りつめた。
しかしながら、彼女の生い立ちや経歴は完全に抹消されており、ギルド職員になった経緯も伝わっておらず、身分についても平民であるとしかわからない。
一説によれば……。
ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)