【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ご、ごお……」
王妃用控え室に、シャングリアの泣き声混じりの声が響いた。
それとともに、一郎がシャングリアの生尻を叩く音も鳴り響く。
一郎がやっているのは、持ち前の短気で、宰相のフォックスと騒動を起こしかけたシャングリアへの懲罰としての尻叩きだ。
闘技場の地下にある貴賓室である。
闘技会の開催にはまだ間があるので、王妃のアネルザにあてがわれているこの部屋で、シャングリアとともに暇を潰しているところだ。
懲罰といっても、その暇潰しの材料のようなものだ。
シャングリアには、長椅子に座っている一郎の上に、下半身をすっぽんぽんにさせて、うつ伏せの横抱きで、膝の上に腰を乗せさせている。
さらに、両手は背中で組ませている。
別に拘束してない。
自分でそうするように命じ、どうしても痛さに我慢できなくなれば、手を背中から離せと申し渡している。
いまのところ、悲鳴混じりの声はあげるが、手を背中から離そうという素振りはない。
「ははは、男勝りで名高いシャングリアも、ロウの前では形無しじゃな。そんな可愛い声を出すとはのう」
アネルザだ。
そのアネルザも胸当てだけの下半身が裸の格好だ。
一郎が命じたのは、下半身に身につけているものを全部脱げというものだったが、アネルザは上衣とスカートが繋がったドレスを着ていたので、そんな格好になったのだ。
部屋の中にいる三人の中で、きちんと服を着ているのが一郎だけという状況は、いかにも「主人と女奴隷たち」という構図あり、一郎は愉しく興奮していた。
「そら、もう一発」
一郎は力の限り、シャングリアの尻を叩いた。
すでにシャングリアの尻は真っ赤に腫れあがっている。
その赤尻に新しい手形が加える。
「ひゃ、ひゃああ……」
シャングリアがおかしな声をあげて、身体をのけ反らせた。
一郎は苦笑した。
その理由を一郎は知っている。
このところ……特に刻印を刻んで以来、シャングリアは、痛みに対して恐ろしく感じやすくなってしまい、いまも軽くいってしまったのだ。
一郎のズボンの腿の部分に、べっとりとシャングリアの愛液が垂れたのがわかった。
「数はどうした、シャングリア」
一郎は足の上のシャングリアの股間に手を伸ばして、膣の入口の付近をすっと撫でた。
「ううっ、ろ、ろくううっ」
シャングリアがうつ伏せに腕を組んだまま、弓なりにとび跳ねた。シャングリアの股間は恐ろしく熱くて、しかも、やはりびしょびしょだ。
「数を数えてないのは無効だ。やり直せ」
一郎はシャングリアの尻を叩く。
「ご、ごめん。ろくうっ」
シャングリアは悲鳴をあげる。
「やり直しと言ったら、一からだろうが。低能か、お前」
一郎は叩く代わりに、再び股を愛撫した。今度はクリトリスだ。指でくるくると回してやる。
もちろん、罵倒の物言いはわざとだ。
シャングリアは、一郎から乱暴にされるだけでなく、口汚く罵られる「プレイ」がお気に入りなのだ。
「ひうううっ。そ、そんなことされたら、へ、変になるっ」
シャングリアが痙攣のような震えをした。
驚くことに、それだけで絶頂しそうになったようだ。シャングリアのステータスにもそれが表れていた。
面白いので、絶頂寸前で指をさっと離す。
そして、亜空間に保管している「パドル」という革のしゃもじのような形の尻叩き用の責め具を取り出した。
バシッ──。
パドル特有の大きな音が鳴る。
「い、いちいっ」
すっかりと被虐に酔ったような口調で、シャングリアが数を叫んだ。
「いいぞ、シャングリア。いい子だ」
一郎はシャングリアの股を指でぐちゃぐちゃと愛撫する。
シャングリアが激しく悶えるが、またもや寸前でやめる。
そして、パドルで尻をひっぱたく。
「ひゃああん、しゃ、しゃん……い、いや、にいっ」
絶頂寸前まで快感を引き上げられて、間髪入れずに、いきなり尻を叩かれ、シャングリアの頭は本気で対応できなかったようだ。
「やり直せ、雌豚」
また、パドル。
シャングリアは、また「いちっ」と叫んだ。
叩くときには口汚く罵り、数を言えたら優しく愛撫──。
ただし、寸前までの快感しかやらない。
そして、打擲──。
それを繰り返す。
「……きょ、きょ……」
シャングリアは、狂乱の様子を示しだした。
しかも、パドル叩きが増えると、なぜか舌足らずの状態になってしまった。
一郎は吹き出してしまった。
「声が小さい。しかも、“きょ”とはなんだ。それでも、女騎士の称号を持つ貴族か。最初からやり直し」
一郎は意図的に難癖をつけて、最初からやり直しをさせた
シャングリアは文句は言わなかったし、責めを終わらせることの約束事である背中での腕組も解こうとしない。
それに、シャングリアの顔を見れば、繰り返される快感と痛みに酔いしれ、朦朧となるほどに興奮しているのは明白だ。
すっかり淫情に酔ったように、顔を真っ赤にして表情は蕩けきっており、涎まで垂らしている。
「しゃ、しゃん」
パドル叩きで数度目くらいの“3”を数えたときだった。
またもや、陰核をいじりだした一郎の手管に、シャングリアは奇声を発してよがり出す。
一郎は、ぎりぎりまで責め立ててから、さっと手を離して、パドルを打ちつけた。
「ふぬううっ、よ、よんんっ」
シャングリアはがくがくと身体を震わせて、ついに打擲で達してしまった。
「誰が達していいと許可したか──」
一郎はさらにパドルで叩く。
「ご、ごおおっ、も、もうだめえっ、き、気持ちよすぎる」
驚くことに、シャングリアはまたもや、叩かれて達してしまった。身体を弓なりにして、腰を揺らしながら痙攣する。
一郎は苦笑しながら打擲した。
それから、シャングリアは、一発打つごとに絶頂を繰り返した。
どうやら、ぎりぎりの寸止めと尻叩きの責めに、シャングリアの身体のどこかの線が切れたみたいになったようらしい。
「い、いくっ、きゅ、きゅううっ」
シャングリアが馬鹿みたいに叫んだ。
やはり、軽く達している。
「最後だ。いくぞ」
一郎は声をかけた。
すると、シャングリアが、はっとしたような顔になった。
「だ、だめだ、ロウ。もっと、もっとだ」
最後だと言われたシャングリアが、我に返ったように声をあげた。
「尻が破けてしまうぞ」
一郎は笑った。
「そ、それでもいい」
シャングリアは切羽詰まった感じの口調だ。
一郎は、パドルを亜空間に戻すと、さっと体勢を変え、シャングリアの尻を後ろから突くような格好にし、素早く自分のズボンと下着を膝に下げて、一気にシャングリアの秘肉に一物を沈めた。
「ひゃああああ」
シャングリアが絶叫して身体をのけ反らす。
一郎は、膣の中で光るように真っ赤に感じる子宮口前の性感帯を亀頭の先端でぐいと押した。
そして、赤い場所を擦りながら抜き、また突く。
それを激しく繰り返す。
「んふううっ」
シャングリアはまたもや絶頂した。
「ほら、最後はこれだ。数えろっ」
一郎は絶頂の途中のシャングリアのクリトリスを指でぎゅっとつねる。
「はぎいいいっ、じ、じゅううっ」
シャングリアは絶叫し、失神してぐったりと脱力してしまった。
「やれやれ、ちょっとばかりやりすぎたか……」
一郎は、笑いながら、まだ猛々しく勃起している怒張を抜いた。
そして、真っ赤に腫れあがっているシャングリアの尻をぺろぺろと舐めてやる。
一郎の体液に備わる淫魔術が効果を及ぼし、赤い腫れがみるみるなくなっていく。
多分、眼が覚めたときには、痛みも消滅しているに違いない。
まあ、シャングリアのことだから、それを寂しがるかもしれないが……。
「本当に、ロウは女に優しいのう」
すると、呆れたような声がかけられた。
アネルザだ。
視線を向けると、胸当て一枚のあられもない姿で、全身を真っ赤にして汗をかき、無意識なのか、もじもじと膝を擦り合わせている。
どうやら、一郎がシャングリアを犯す光景に、すっかりと欲情してしまったようだ。
しかし、一方で、その顔には可笑しさを耐えるような笑みを浮かべている。
一郎は肩を竦めた。
「気絶するほど、尻をひっぱたくようなプレイをする俺が優しいって?」
一郎は笑った。
「気絶したのは、苦痛ではない。いわゆる、いきすぎだ。短い時間で繰り返し達したので、息が続かなくなったのだ。シャングリアの寝顔を見よ。幸せそうに寝ておるわ。それにしても、起きるのか?」
アネルザが笑い返した。
そう言われると、シャングリアは満足そうな表情をしている気がする。責めの中止の合図だった腕の組みは最後まで外されずに、いまでも背中だ。
一郎は意識のないシャングリアの両手を真っ直ぐに伸ばして楽な体勢にしてやった。
「一応、身体の回復はさせた。問題ないさ」
一郎はうつ伏せのシャングリアに毛布代わりに、騎士服の上衣をかけてやる。
「わたしが感心するのは、お前の奉仕の態度だ。なんだかんだで、まだ精を放ってはいないのであろう? それでよいのか? わたしには、シャングリアを満足させるためだけに、お前が汗をかいているように見えた。ちょっと妬けたわ」
豪快なアネルザの笑い声が部屋に響く。
奉仕の態度か……。
一郎は苦笑した。
そうかもしれない……。
一郎は、精を放つことそのものよりも、女がよがったり苦しみに耐える姿に接するのが好きだ。
だから、結局のところ、女が先に果てて、精を放つ機会を失うことも多い気がする。
まあ、それは女がたくさんいることで、そうなっても、次の女がカバーしてくれるが……。
「じゃあ、アネルザが俺の精を受けてくれよ。今日の処理係だ」
「嬉しいのう」
無礼な物言いに気を悪くした感じもなく、アネルザがにんまりと笑った。
一郎は、アネルザの股間で勃起している疑似男根の根元に嵌まっているリングの淫具を振動させた。
疑似男根は子供の男性器ほどの大きさだが、本当は肥大化したクリトリスだ。
ただし、淫魔術で小さな亀頭と尿道口まで作って、精液のように愛液が飛び出すようにしている。
最初にアネルザを調教したとき、アネルザを屈服させるために淫魔術でそうやってふたなりにしてやったのだが、この疑似男根を悪戯するたびに、アネルザが激しく反応するので、面白いから、いまでもそのままにしている。
「ああん、や、やめてくれ。い、いきなり……」
根元のリングは、疑似男根をそのまま保持させるとともに、発情の反応をさせることができる。
アネルザは、一転して少女のような声をあげて、よがり出した。
平素の豪胆な態度とのこのギャップが愉しいのだ。
一郎は、抵抗力を失ったアネルザの両脚を持つと、膝を手すりに引っかけて、手から出した粘着剤で貼り付けた。
両手は背もたれを抱かせて、やはり貼り付ける。
これでアネルザは、大股開きで身動きできなくなった。
「アネルザにも奉仕してやるぞ。だから、妬くな」
どうやって責めようかと考えたが、一郎はぶるぶると物欲しそうに震えている疑似男根を口で咥えてやった。
ぺろぺろと舌で先端を舐める。
「う、うわああっ、そんなところを」
アネルザが絶叫した。
そのまま、口全体で擦ってやる。
アネルザはたちまちに、悶絶して一郎の口の中に精を放った。精とはいっても、本当は女の愛液なのだが、ちょっとおかしな気分にならないことはない。
だが、このアネルザと二人きりのときだけの倒錯の遊びだ。
「ほら、お前の出したものだ。きれいにしろ」
一郎はアネルザの放った精を舌に乗せて、アネルザの口に突きつけた。
「あ、あんまり、わたしを追い詰めないでくれ……。お、お前に与えられるものが……す、すごすぎて……、分別のない少女のような気分になる」
アネルザが一郎の舌を舐め始める。
一郎は唇を重ねて、濃厚なキスをした。
アネルザの精も、ふたりの唾液も一緒になってふたりの口を行き来する。
「結構じゃないか。少女になって、悶えてくれよ」
一郎は再び、アネルザの小さな男根を舐めた。
アネルザは切なそうによがる。
なにしろ、男根でいくら射精をしても、女としての快感は満足できないように細工している。
男根から精を出せば出すほど、狂うような焦燥感が拡大する仕組みだ。
一郎はしつこいほど精絞りを繰り返しては、それをアネルザの舌で舐めとらせた。
アネルザは泣き狂った。
「た、頼む、ロウ……。お前のをくれ。前でも、後ろでもいい……。な、なあ……」
アネルザが喚き出した。
それがちょっと常軌を逸した感じにもなったので、一郎は怒張をアネルザの股間に一気に挿入した。
「んふううっ、はああはあ、き、気持ちいい」
アネルザはあっという間に悶絶した。
身体を反り返らせて、痙攣して果てる。
それでも、懸命に膣の筋肉で一郎の怒張を締めて責めてくる。
性技については、たくさんの一郎の女たちの中で、雌妖のサキに継ぐ、能力を持っているアネルザだ。
なんとか、一郎を満足させようとしてくれているのだ。
アネルザの感情からも、そんな健気な心が読み取れる。
我が儘で気分屋で知られる王妃だが、実はなかなかに相手を思いやるところもある。
それが、こんなところに現れもする。
「じゃあ、一発目だ」
一郎は腰を激しく動かし、アネルザの中に精を放った。
しかも、アネルザのもっとも感じる場所を亀頭で刺激しながらだ。
アネルザは大きな嬌声を出して、二度目の絶頂をした。
「まだまだ」
一郎は抜くことなく、さらに責めを強めた。
指をアネルザの尻穴に深々と挿して刺激する。
そして、胸当てをずらして、巨乳を露出させると舌で吸う。
ヴァギナ、疑似男根、アナル、乳首の究極の四箇所責めだ。
アネルザは堪らず、また達した。
一郎はそれに合わせて、二度目の精を放った。
三度目はやめた。
アネルザが白目を剥いたからだ。
一郎はアネルザから一物を抜くと、アネルザの拘束を解いた。
「ロウ……。ま、待て……」
すぐにアネルザは意識を戻した。そして、起きあがり、一郎の性器に掃除フェラを始める。
跪いて奉仕女に徹する王妃に、一郎はずっと頭を撫でてやった。
何歳になっても、そんな風に可愛がられるのは嬉しいのか、アネルザの心から喜びの感情が入ってくる。
「王妃様にフェラチオなどをやってもらうとはなあ。そんな果報者は、天下に国王陛下を除けば、俺くらいのものだろうな」
一郎は笑った。
すると、アネルザが一郎の股間から口を離して微笑んだ。
「あんな男に、そんなことするか。わたしがチンポを舐めたことのある男は間違いなくお前だけだ。なぜか、お前のチンポはいくら舐めても、嫌な気分にはならん。不思議だ」
アネルザが言った。
一郎は思わずにんまりとしてしまう。
「嬉しいことを……。じゃあ、お返しだ」
口を離したアネルザの股間を舐め返してやろうと、ズボンと下着を整えてから、今度は一郎が跪いた。
だが、アネルザが大慌てでそれを制する。
「お前に股を舐められたら、また欲情してしまうではないか。そこに座っておれ」
アネルザは笑って、さっきまで座っていた王妃用の椅子に一郎を腰掛けさせると、自分で服を着始めた。
そう言えば、最初の頃、いつも侍女に着衣を手伝わせているアネルザは、自分では服を着れなかった。
だが、いつの間にか、自分で着れるようになっている。
練習でもしたのだろうか……?
アネルザの着替えをぼんやりと眺めながら、一郎はそんなことを考えた。
服装を整えたアネルザは、一郎の横に腰をおろした。
「茶でも出したいが、あれでは侍女を呼べん。それとも、起こすか?」
アネルザが床に横たわっているシャングリアを顎で指して言った。
一郎は微笑みとともに、首を横に振った。
「あのままにしとくさ。なかなかの景色だ。そうだ。いまのうちに、スカートの丈を変えてやろう。うんと短くな」
一郎は、特別に作らせた女騎士の装束に合うミニスカートを亜空間から出して、いままで着ていたスカートを隠した。
もちろん、下着も渡さないので、シャングリアは下着なしで観客席に同行するしかない。
闘技場で恥ずかしそうにするシャングリアの姿が愉しみだ。
「相変わらず、女の責めには手を抜かんのう」
アネルザが呆れたような声を出す。
「性分でね」
一郎は笑った。
アネルザがつられたように笑った。
しばらく、ふたりで声を出して笑った。
「そう言えば、フォックス宰相が不機嫌で、それは俺のせいだと言ってなかったか? 部屋の外で騒動になったときだよ。あれはどういう意味なんだ?」
一郎は思い出して訊ねた。
「ああ、あれか……。つまりは、ルードルフだ。今日の闘技会には出席せん。それであてが外れて、フォックスが不機嫌だったのだ」
アネルザが笑った。
一郎は、王宮で王に迫られたときのことを思い出して嫌な気持ちになった。
だが、それがなぜ一郎のせいなのだろう?
一郎はさらに訊ねた。
「お前のせいだぞ」
「俺?」
「お前がサキに次いで送り込んだピカロとチャルタとやらだ。あの雌妖が化けた女人があいつは気に入ってしまってな。最近では政務にもほとんど出ずに後宮に入り浸りだ。いい具合に腑抜けておる。前から政務には興味を抱かん男だったが、それに拍車がかかったな」
アネルザが笑った。
サキに加えて、ピカロとチャルタのふたりのサキュバスを遠国の美姫という触れ込みで後宮に入れる際には、アネルザの協力を仰いだ。
もちろん、その正体については、アネルザには説明した。人間族の天敵である魔族たちだが、アネルザは特に反感は持たなかったようだ。
一郎の愛人であるというだけで、すべてを受け入れ、ただ、任せておけと言っただけだ。
男のくせに、男の一郎に性的興味を示した、バイセクシャルの変態王の関心を他所に向けるための処置だが、いまのところ、他のことなど考えられない状態とは耳にしている。
「ところで、スクルズのことは聞いたか?」
アネルザが話題を変えた。
しかし、スクルズのことと言われても、思い当たるものはない。そういえば、このところ忙しいらしく、先日の剃毛パーティー以来、屋敷にやって来てない。
「いや、このところ屋敷にやって来てないなあ。なにかあったの?」
「耳にしておらんなら、スクルズが直接に、そなたに言いに来るだろうな。ローム地方にある大神殿は、この国の王都ハロルドの第三神殿の神殿長にスクルズを内定した。近く正式に教会として発表があるはずだ」
「おおっ」
一郎は声をあげた。
神殿界の人事は、国家の王権とは関係なく、旧ローム帝国域にある大神殿にいる教皇が握っている。
代理扱いの第三神殿長に、スクルズを推薦する工作をハロンドール王国としてやってもらっていたが、それが実を結んだようだ。
「だったら、お祝いしないとな。今夜でも夜這うか」
一郎は笑った。
アネルザが苦笑する。
「夜這いといえば、王太女になったイザベラが寂しがっておるぞ。このところ通っておらんだろう」
「そう言えば、そうかな」
イザベラが王太女になって以来、住まいがティナ宮から、王のいる正宮に移動したため、前のように自由に往き来できずに、ついお見限りになっているかもしれない。
だが、王のいる正宮殿に忍び込むのは、流石に一郎でも至難だ。
スクルズが移動術を刻んだ鏡もあるが、正宮殿は魔道防止の結界が厳重であり、万が一潜入が発覚すれば、スクルズにも迷惑がかかる。
一郎としても自重していた。
すると、その一郎の表情で、そんな内心を察したのか、アネルザが笑った。
「まあ、あれも自分から積極的に通って来んようでは、お前の女である資格はないがな。まあいい。それよりも、真面目な話だ。茶化さずに聞け」
アネルザが真顔になった。
一郎はいぶかしんだ。
「お前には野心はないのか?」
「野心?」
突然の問いに、一郎は困惑した。
「王になる野心はないかと聞いておる。わたしの夫でもいいし、イザベラの夫でもよい。そうなれば、正規に王位継承権も発生する。わたしは夢物語ではないと思うがな」
「王位?」
一郎は思わず言った。
そして、慌てて、首を横に振って否定した。
「隠すな、ロウ……。わたしが信用できんのか?」
アネルザがやはり笑みを浮かべることなく、一郎をじっと見てきた。
「俺はただの好色男だ。王位への野心などないよ」
一郎は首を横に振った。
アネルザが最近、時折、ルードルフにとって代われと仄めかすことには気がついている。特に、キシダイン裁判のときに、ルードルフが現実逃避し、仕方なく一郎が王に成り代わったとき以降、それが顕著になった。
しかし、一郎にはその気はない。
「なあ、わたしがなにも気がつかない馬鹿だと思っておるのか? お前の魂胆に気がつかないわたしではないぞ。どうか、本心を打ち明けてくれ」
アネルザが真面目な顔のまま言った。
しかし、一郎には戸惑いしかない。
だが、確かに野心があると思われても仕方がないかもしれない。
国王の正王妃をこうやって愛人にしただけでなく、さらに、王女の政敵を倒して、自分の女である王女を王太女にした。
また、王には密かに雌妖たちを送り込んで侍らせて骨抜きにしており、いま耳にしたところによれば、王は国政に興味を示さなくなったという。
それだけでなく、サキは、一郎の命令さえあれば、瞬時に王の寝首をかくだろう。さらに、正宮殿にかけられている魔道防止の結界や魔道探知は、サキならば時間をかければすべて無効化すると思う。
それくらいは、一郎の指示なしでサキは動く。
つまりは、その気になって望めば王の命を奪うことも不可能ではないということだし、あるいは、完全な傀儡にして一郎が権力を奪うことも簡単かもしれない。
なにしろ、王妃と王女は一郎の言いなりだし、王都で一番と二番の魔道遣いの巫女は一郎の味方で、ついでに冒険者ギルドという実力者集団も一郎は動かすことができる。
権力が集中していたキシダインとともに、これまで王国を牛耳っていた譜代の大貴族はほとんど力を失った。
マアは、一郎に歯向かう政敵の経済基盤を意図も容易く瓦解させるだろう。一郎が精を注いで以来、マアの流通支配力は神がかり的だ。
そんなことをやっている男が、野心がないという方が無理があるのかもしれない。
だが、間違いなく一郎には野心などない。
すべてが成り行きだ。
「なるほど、野心か……」
一郎はおかしくなった。
しかし、一郎はあることを思い出した。
あの変態王に言い寄られたときだったが、ルードルフ王のステータスの末項に、『王の宝珠の加護』という項目があったのだ。
それが気になり、なんとなくだが、あのとき得意の淫魔術を駆使して、危機を回避しようとは思わなくなった。
「だが、王には宝珠の護りがあるんじゃないか? 迂闊に手は出せんし、その気もない。俺は一介の冒険者だよ」
一郎は言った。
しかし、アネルザは目を見開いた。
「なぜ、王の宝珠のことを知っている? 宝珠のことは王家の秘中の秘だぞ。王に災厄を向ける者があれば、それが逆転して、その災厄が相手に跳ね返るという魔道の秘具だ。わたしは、お前に、その存在を教えてやろうと思っていたのに……」
アネルザが驚いている。
しかし、一郎もまたびっくりした。
「王の宝珠」というものに、そんな仕掛けがあったとは知らなかった。
そうであれば、あのときルードルフ王に言い寄られたとき、いつぞやのパーシバルとかいった貴族の青二才のときのように、サキの仮想空間で女にして淫魔術で支配しようとしていれば、もしかしたら、一郎こそ淫魔術で王に支配されていたかもしれない。
あの男にセックスで支配される自分を想像すると、ぞっとなってしまった。
しかし、アネルザがすぐに唸り声をあげた。
一郎が押し黙ってしまったので、その沈黙を勝手に、別の意味に解釈してしまったようだ。
「……そうか……。いや、なるほど、それでサキたちを……。なるほど、なるほど……。ルードルフは寝屋でも宝珠を外すことはないが、いずれは、確かに裸になれば隙も示すかもしれんしな……。なるほどのう……」
なんだか、納得してしまった。
一郎は、もう一度野心はないと強調した。
「わかった。ならば、そういうことにしておこう──。お前に野心はない。いまはそれでいい」
アネルザは意味ありげに微笑んだ。
どうやら、わかっていないようだ。
まあいい……。
ただの逢瀬の後の戯れ話のことだ……。
「ただ、これだけは言わせてくれ」
アネルザが一郎を見た。
さらに、言葉を続ける。
「いずれにせよ、お前はすでに大きな権力を持っている──。お前がそれを望んだか、そうでないかに関係なくな──」
「権力? 一介の冒険者だぜ。爵位だって、平民が成り上がった子爵だ。上には、伯爵、侯爵、公爵といっぱいいる。上級貴族ですらないんだ」
一郎は肩を竦めた。
しかし、アネルザは真面目な顔のまま、首を横に振る。
「茶化すな。そんなの関係あるか――。大貴族たちがごっそりと力を失い、いまやお前は貴族界の衆目の的だ。わたしやイザベラのみならず、外からは、ルードルフもお前の昵懇だと思われているぞ。なにしろ、国王自らによる子爵への大抜擢だ。また、キシダインの失脚後、王族の権威が大きく高まったいまの状況で、お前は王族全員に強い影響力がある。そして、すべての貴族はそれを知っている」
「知っている?」
「そうだ。当たり前に物を考える力があれば、いまのお前に手を出す貴族はない。それくらいの地位になったのだ。お前が望む望まないに関係なくな。少なくとも、貴族連中はそう見なしている。残る王族は北家、南家と称するふたつの公爵家だが、あいつらなら、わたしが押さえる。金食い虫の役立たずで、気位だけが高くて、民衆にも人気がない。どうにでもなる。お前が望めばな」
「望めばって……」
一郎は困ってしまった。
権力欲などないというのは本音だ。
また、北家、南家というのは、確か王弟と王甥になるハロンドール王家の分家だ。
公爵といっても、権威のみであり、固有の領土はない。王都の北と南に宮殿のような屋敷を構えて、確か、国費から膨大な年金を付与されている。ただ、副業で怪しい商売に多数手を出しているという評判であり、権力を傘に小さな騒動を起こしているのも知っている。
いまのところ、一郎たちに関わりがなかったので、対立することなどなかったが……。
「一度権力を持ってしまえば、常にそれを蹴落とそうとする者が機会を狙っていると思うがいい。お前は、お前自身とお前を支持する女たちの立場を守るために、否応なく、そういう者と争わないとならないことになる……。キシダインは、お前を敵とも思っていなかった……。だから、お前にしてやられた。それと同じことが、今度はお前に起きるかもしれんということだ」
一郎はアネルザの言葉に当惑した。
自分自身がすでに権力の渦の中に存在している者という自覚はなかったからだ。
だが、あるいは、アネルザの言う通りなのかもしれない。
一郎が王宮の権力争いに関わる気がなくても、すでに関わっている。
守りたい者を守るためには、ある程度の力を保持する努力が必要というのは、確かにそのとおりかもしれない……。
「……まあ、お前がぼうっとしていても、わたしもいるし、イザベラもいる。シャーラもあれでなかなか宮廷工作には長けている。スクルズのような者や、マアもお前を助けるだろう。ミランダもちゃんと、お前の周りには気を配っておる。なにも心配することはない」
再び、アネルザが豪快に笑った。