【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「よっしゃああっ」
横の席でシャングリアが雄叫びをあげた。
少し前まで、一郎の悪戯で羞恥に顔を染めて悶えていた女とはとても思えない元気さだ。
眼下では、何試合目なのかは知らないが、屈強な男闘奴同士の決着が着いたところだ。
それで、試合に熱中していたシャングリアがほかの観客とともに歓声をあげたのだ。
試合は激しい剣の闘いであり、なかなか決着がつかない感じになっていたのだが、一方が盾を地面に落としてしまい、それがきっかけになり、戦いが終わった。
だが、負けたのは、盾を落とした側ではなく、反対側の相手だ。
どうやら、盾を弾き飛ばされたと見せたのは、隙を誘うための擬態だったようだ。
無造作に入り込んできた相手に向かって、自分の落とした盾を相手の足元に蹴って体勢を崩し、一刀両断で剣を持っていた右腕を肘から切り落とした。
それで勝負ありだ。
「野蛮だねえ……。やだやだ。どうして、こんなのが好きなのかねえ」
だが、一郎は闘技場の砂に拡がる血だまりに顔をしかめた。
やっぱり、どうしても残酷な戦闘ショーというのは受け入れることができない。
さっきから、闘技場にぎっしりと埋まっている観客は、大歓声をあげ続けているが、一郎には、これのどこが愉しいか理解できないでいた。
「血を見るのが好きじゃないなんて、意外な面があるのね。あんた自身だって、悪党を殺したというのは、一度や二度じゃないんでしょう、ロウ? そのあんたが、闘奴の血にしかめっ面をするなんて意外よ。そもそも、あたしたちと一緒に、キシダインの傭兵団と目の前で戦ったときは、もっとひどい状況だったわ」
一郎に密着するように座っているミランダがからかうような物言いをした。
「そうは言われても、あのときは、俺が直接に手を下したわけじゃないしな。それに、俺は殺し合いが好きなわけじゃない。ましてや、こんな残酷な見世物は、好きになれないさ」
「そうか──? 興奮するだろう、ロウ──。闘奴たちの激しい戦いに接していると、かっと身体が熱くなってこないのか?」
シャングリアが興奮状態のまま、横から怒鳴ったような声をあげる。
一郎とシャングリアも、身体と身体を接して座っているのだが、周りが大歓声なので、ある程度大きな声をあげないと、声が届かないのだ。
闘技会が始まった当初は、淫魔術を遣った悪戯で、このシャングリアをはじめ、アネルザ、さらに王太女になったイザベラの護衛のシャーラにまでちょっかいを出し、闘技会の最中に弄んで愉しんだ。
しかし、やって来たミランダに叱られ、いまは大人しく観戦をしている。
そして、本来は、二人掛けの席に、身体の小さなミランダが押し入り、シャングリアとともに一郎を挟んで座っているが、もともと広目の席なので窮屈ではない。だが、少し三人でぎゅっと身体を寄せ合うような態勢になっている。
不自然に密着している一郎たちに、周りも奇異の視線を向けているが、ミランダももう諦めているのか、いまはそれよりも、一郎のお目付けに徹するようだ。
さすがに、ミランダに睨まれては、大人しくした方がいいだろうと判断して、一郎は淫魔術で周りの女に悪戯をするのはやめた。
ミランダにだって、やろうと思えば、淫魔術でいたぶることは容易だが、あまり怒らせると後が怖い。
「かっと熱くなるなら、お前たちと愛し合うのが一番さ。俺には、あの野蛮な殺し合いのどこが愉しいのかわからないね」
一郎はシャングリアに言った。
あからさまな物言いに、シャングリアが困ったように顔を赤らめた。
すると、横でミランダが声をあげて笑った。
「殺し合いじゃないわ。まあ、実際には命を落とすのも珍しくはないけど、腕を斬られたくらいなら死なないわ。闘技場には、腕のいい魔道師もついているし、高額の治療薬も充実している。すぐに治療もされると思う。半月もすれば、あの腕を切断された闘奴も、試合に復帰できると思うわ」
「それでも野蛮なことには変わりないさ」
一郎は言った。
ミランダが肩を竦めた。
「まあいいわ……。闘奴の試合は、王都でも人気の催し物だから、あんたが喜ぶと思って、アネルザとも相談して誘ったんだけど、却って悪かったわね。いずれにしても、次に出るのが女闘奴のマーズよ。あんたの相手よ」
ミランダが一郎の耳元に口を近づけて言った。
「まだ、クエストを受けるとは言ってないよ」
一郎は苦笑した。
このミランダから、闘技会が開催される前に言われたのは、これから出てくるらしい女闘奴のマーズと一郎が一騎打ちをして勝って欲しいというクエストの依頼だ。
一郎としては、少女とはいえ、闘奴と一対一で戦うなど、とんでもないと瞬時に断ったが、ミランダは一郎なら勝てると確信しているらしく、マーズの闘いを観てから返事を聞かせてくれと言われている。
まあ、戦うとしても、闘奴と闘奴としての戦闘ではなく、一郎のやり方で勝負してもいいということになっている。
つまりは、戦いに乗じて、一郎がマーズを犯してしまえと、けしかけられているのだ。
依頼主は、マーズの「主人」となる興行主であり、マーズはとにかく強いので、負けの味を知らないのだという。
興行主によれば、それは長所ではなく、欠点でしかないらしく、これからマーズが飛躍するために、一度、徹底的な負けの味をマーズに味わわせたいのだという。
よくわからない依頼だが、依頼は依頼だ。
ミランダは、どうしても、このクエストを一郎にやらせたいようだ。
「出てくるわよ」
ミランダが声をあげた。
闘技場が大歓声に包まれる。
壁のふたつの扉が解放され、左右の扉のそれぞれから闘奴が登場してきたのだ。
一方は確かに若い女闘奴だ。
年齢は十六歳ということだったが、顔は確かにそんな感じだ。
将来は大変な美女になりそうな感じだが、いまは美少女というのが当てはまる。
身体は大きいだろう。
一郎の女たちの中では、アネルザが一番の身長だが、同じくらいに高いと思った。
髪は黒で肩の後ろまで伸ばしている。だが、まるで刃物で無造作に切断したような切り口だ。しかし、それは彼女の美しさを少しも損なってはいないと思った。
圧巻なのは首から下だ。
これまでに出てきた男闘奴に比べれば、やはり女だけあり身体はひと周り以上も小さく感じるものの、筋骨隆々の逞しい身体つきだし、胸は大きいが、胸元は筋肉なのか、乳房なのか判然としないほどに筋肉が隆起している。
腕の太さ、脚の太さを見ても、まさに鍛えられているという感じだ。
身体は大きく、首から下は、逆にとても十六歳には思えない。
ただ、これまでの闘奴たちが、革の武具のようなものを身に着けていたのに比べれば、乳房と股間を覆うだけの布の服だ。
服というよりは下着だろう。
一郎の感覚では、前世界におけるビキニの水着だ。
そして、マーズは武器らしいものはない。
まったくの空身だ。
「あれで闘うのか?」
一郎はミランダに訊ねた。
「見ていればわかるわ。あんた好みかもよ」
ミランダが意味ありげに笑った。
一方で、マーズと戦うために出てきた男闘奴側にも驚いた。
ひとりではなく、三人いるのだ。
全員が武具はなく、下着を思わせる革の股布だけをしている。
やはり、武器はない。
「一対三か? しかも、女側がひとり?」
意外な演出に一郎もびっくりした。
しかし、考えれば、それだけマーズが強いということだろう。
大股で中央に進み出ていくマーズの顔は自信にあふれており、自分よりも身体の大きな男闘奴が三人いても怯んだ様子はない。
「あなた好みと言ったのは、これからよ」
ミランダが言った。
やがて、四人が中央に進み出た。
こちらを向き、すなわち貴賓席で最上位の身分となる王太女のイザベラに礼をする。
歓声がいよいよ大きくなる。
四人がお互いに向き直る。
「おおっ?」
一郎は思わず声をあげた。
闘技場の中央にいるマーズがいきなり、身に着けていたものを脱ぎ始めたのだ。
胸当てと下着は脱ぎ捨てられて、地面に放り投げられた。
陽に焼けたマーズの逞しい全裸が大勢の観客席の前で露わになった。
野次混じりの歓声が最高潮となった。
「な、なんだ?」
一郎は声をあげてしまった。
「あんた好みだと言ってでしょう。これがマーズの試合の決まり事よ。こうでもしないと、あまりにも一方的に終わるから面白くないのよ。マーズは素手で闘い、全裸で男闘奴の挑戦を受ける。負ければ、その場で犯していい。そういうことになっているのよ」
ミランダが解説した。
「びっくりしたな。だが、マーズは処女だと言わなかったか? 恥ずかしくないのか?」
闘奴とはいえ、まだ少女といえるような年齢だ。
闘奴としてではなく、あんな色情狂まがいの演出をして、嫌じゃないのだろうか。
「恥ずかしいに決まっているでしょう。マーズはもちろん、命令だからいやいややっているのよ。でも、闘奴とはいえ、所詮は奴隷よ。主人の興行主の命令には逆らえないわ」
ミランダは肩を竦めた。
銅鑼が鳴り、試合が始まった。
ところが、歓声が大きかった割には、試合そのものは呆気なく終わった。
マーズは巨漢が信じられないくらいに素早く動き、三人から囲まれるという愚は犯さなかった。
さっと背後に回ると、ひとりを後ろから胴体を掴んで、頭から地面に叩き付け、次いで二人目を足払いでひっくり返すと、首を踏んづけて気を失わせた。
一瞬、ふたりとも死んだのではないかと思うような迫力だったが、一郎の魔眼では気絶状態ではあるが、死んではいない。それどころか、思ったよりも軽傷だ。
マーズは手加減をしたのだ。
それだけ、力の差があるということだが……。
最後に残ったひとりとの戦いは、実際には闘いにもならなかった。
マーズの拳の殴打の連発に、すぐにぐったりとなり、最後には顎への一発で崩れ落ちた。
大歓声があがったが、女闘奴のマーズが闘技場の真ん中で犯されるのを期待していたらしい一部の観客からは、不満を表す「ううっ」という大きな唸り声が鳴らされている。
「あれがマーズか? あの化け物と戦えって?」
一郎はおかしくなった。
ミランダは本当に一郎が勝てると思っているのか?
「あんたとの試合も全裸にさせるわ。勝利条件は、マーズを犯すことに成功すること。あんたが、あの男闘奴同様に倒されて戦えなくなれば、あんたの負け。勝てば金貨五枚を払うわ」
「勝てると思っているのか?」
一郎は苦笑するしかなかった。
「あんたならね」
ミランダは白い歯を見せた。
一郎は肩を竦めた。
「まあいいさ。じゃあ、俺が説明する試合場を準備してくれるなら、受けてやるよ。この闘技会のエキシビションだ。さっさと片付けるさ。明日でどうだ?」
「えきしび……? なによ、それ? あんたって、ときどき、おかしな言葉を使うわよね……。まあいいわ。それで、条件とはなに?」
一郎はミランダにそれを説明した。
ミランダはちょっと考えて、すぐに頷いた。
「準備できると思う──。ありがとう。好色のあんたなら、絶対に受けてくれると思ったわ」
「好色は余計だよ」
一郎は笑った。
*
「明日、冒険者と試合ですか?」
マーズが待機室への訪問を受けたのは、試合後の身体の手入れを終わり、遅めの食事をとるために、与えられている部屋に戻ってからすぐだった。
やって来たのは、マーズの主人であり、興行主本人だ。
「昼間くらいの闘いじゃあ、明日の連戦でも、どうということはないだろう、マーズ?」
「まあ……。だけど、冒険者とはなんです? どんな戦いなのですか?」
マーズは言った。
今日のような大きな闘技場で闘うことも多いが、貴族の宴会の催し物のひとつとして闘試合をすることは珍しくはない。
そんなときは、素っ裸で戦わされること以上の恥ずかしい恰好もさせられることもあるが、試合は試合だ。
闘技の試合である限り、マーズには不満はないし、不満があったところで、奴隷であるマーズには逆らうこともできない。
ただ、命令に従うだけだ。
もっとも、この興行主には感謝している。
女で闘奴などしているのだから、本来であれば、もっと酷い目にあっても仕方がないのだ。事実、他の興行主に飼われている女闘奴は、闘奴でありながら、娼婦のようなこともやらされているみたいだし、男闘奴の性処理扱いだって珍しくない。
それが常識であり、女闘奴の地位など、そんなものだ。
しかし、子供ながらも、大きな身体と怪力を買われて、石切場で奴隷として働いていたマーズを、この興行主は高い金を出して買い取り、闘奴としての技を教えてくれた。
強くなること、闘いの技を極めることは、いまや、マーズの生き甲斐だ。
貞操についてだって、マーズを犯したければ、試合に勝てという言い方で、逆に守ってくれているのだ。
奴隷なので、好きな男と結ばれる望みもないから、貞操にこだわりはないが、理不尽に闇討ちされたり、薬を盛られたりして、身体を奪われたくない。
可能ならば、自分よりも強い相手に、無理矢理に身体を奪われたいものだ。
そんなことを軽く口走ったことがあるので、負ければ犯されるなどという趣向にしてくれているということだ。
観客は喜ぶし、マーズとしても負けた相手になら犯されるのに不満はない。男闘奴たちも、試合で犯していい約束になってるので、試合外では牽制し合って、卑怯な手段では襲わない。
それにしても、冒険者か……。
「
興行主は言った。
マーズは息を吐いた。
「まあ、なんでもいいです。でも、あたしは強いです。負けません。旦那様が、負けることを望んでいても、わざと負けることなんてできないんです」
マーズはこの主催者が、ずっとマーズが負けることを望んでいる気配なのは知っている。
一度、完膚無き敗北の味を知るというのは勝負師にとっては、大切なことなのだそうだ。
そうは言われても、マーズは闘技で負ける気はしない。
いまのところ、自分よりも強い相手というのにはお目にかかってはいないし、だから、今日のような複数の闘奴が相手でないと、勝負にもならないということが続けているのだ。
「わざと負ける必要はない。ただ、見た目は大したことはないようだが、明日の相手は強いそうだ。油断しないことだ」
「とにかく、わかりました。でも、正直、試合にはならないと思いますよ」
「……それはどうかな。先方も、それなりの猛者だと聞いている。それと、その試合は、お忍びだそうだが、王太女殿下と王妃殿下も来られるそうだ。粗相のないようにな」
興行主が言った。
マーズは驚いてしまった。