【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
興行主がマーズを連れてやって来たのは、軍営の営庭だった。
マーズは、少し驚いてしまった。
ただ、すっかりと陽は暮れていたので、王軍の兵の姿はほとんどなかった。
あらかじめ声がかけられてあったのか、マーズと主人の興行主を乗せた馬車は、名を告げると、咎められることなく、すぐに軍営の中に入ることができた。
そして、やって来たのが、この営庭の隅の道場だ。
道場といっても広い。
地面に屋根と壁があって、雨の日でも武術などの稽古ができるようになっている場所のようだ。
道場の外でマーズたちを出迎えたのは、驚いたことに、冒険者ギルドのミランダだった。
ミランダといえば、冒険者ギルドの副ギルド長であり、実質的にこの帝都における冒険者のすべてを牛耳っているドワフ族の女だ。
そのミランダが、自ら、ひとりで案内役として待っていたということに、マーズはちょっと面食らった。
「ふたりとも、ようこそ」
ミランダがまずは、マーズの主人である興行主に挨拶をしてから、続いて馬車を降りてきたマーズに言った。
また、道場には大きな扉もあったが、ミランダが立っていたのは通用門の前だ。
そこから中に入るようだ。
「マーズです」
マーズはとりあえず、羽織っていたものを脱いで挨拶をした。
マントを脱げば、マーズが身に着けていたのは、いつもの闘奴の試合と同じで、下着のような革の上下の闘奴服だ。
ミランダの身体は小さく、童顔なので見た目は人間族の少女のようだった。
だが、かつては、伝説とも謳われたシーラ・ランクの冒険者であることをマーズは知っている。
確かに、立っている姿だけを眺めても、かなりの実力の持ち主ということがわかる。
マーズは闘奴なので、基本的にはお互いに準備をした状況で、武術をもって闘い合うということしかしないが、ミランダは、そうではなく、いつ襲われるのかわからないという、まさに神経を研ぎ澄ます実戦の中で、戦いの術を極めてきた者といえるだろう。
こんなに近くで、ミランダと接するのは初めてだったが、以前から敬意を抱いていたミランダに会えたことに、マーズは嬉しくなった。
「もしかして、今夜のあたしの試合の相手というのは、ミランダ殿ですか? だったら嬉しいです。以前から、手合わせ願いたかったから……」
今夜、ここに連れて来られたのは、ひとりの相手と闘技の試合をするためだと聞いている。興行主に言われているのは、それくらいのものだ。
闘技場で闘う闘奴のマーズだが、それ以外にも、貴族の催し物などで闘技を披露したりすることは多い。
マーズは、珍しい女闘奴だし、見栄えがするので、闘奴というよりは見世物に近いような興行も少なくはない。
ただ、どんな内容であれ、闘技をもって戦う試合であれば、マーズは誇りをもってそれをする。
それだけだ。
強くなることはマーズの生きる目的であり、そのためなら、なにを差し出してもいい。
また、興行主には、今夜の試合は、普通の試合ではなく、マーズの初めての敗北になるかもしれない試合になるかもしれないとも仄めかされていた。
冒険者ということ以外は、誰が相手だということは秘密であり、事前に教えることはできないし、闘いの後で他言することもだめだと念を押されている。
だから、誰が相手なのか知らなかったが、もしかしたら、このミランダが相手なのだろうか……?
現役は退いているが、一応、ミランダも冒険者だろう。
ならば、相手に不足はない。
すると、ミランダが声を出して笑った。
「残念ながら、あたしじゃないわ。でも、強いわよ……。強いといっても、あなたが予想もできない強さだけどね。だけど、あたしも、あいつには勝てないのよ。忌々しいけど、あいつに、完膚なきまでに負けたと思わされたのは、一度や二度じゃないわ」
ミランダが笑いながら言った。
マーズは驚いてしまった。
このミランダが、これほどまでに称賛する相手とは誰だろう……?
だが、マーズには、この帝都で、ミランダよりも強い者に思い当たる者がいない。
何人かの王軍騎士などを思い浮かべてみたが、しっくりとくる存在には、思い至らなかった。
「じゃあ、どうぞ。みんなが待っているわ……。ところで、事前に聞いていると思うけど、ここに入ってからのことは、一切、他言無用よ。ここで誰に会って、誰と戦ったということは、誰にも言わないこと──。いいわね」
ミランダが念を押すように言った。
それは興行主にしつこく言われていたので、マーズは承知していると応じた。
促されて、道場の中に入る。
内部は、かがり火が四隅に置かれていて、まるで昼のように明るかった。
「これは……」
興行主が短く言葉を発して、すぐに膝を曲げようとした。
道場の中心には、四角い池のようなものが掘ってあり、その周りを杭で縄で囲んであったのだが、それを見下ろす位置に小さな階段状の観客席が作ってあって、そこに、紛れもない王太女のイザベラと正王妃のアネルザがいたのだ。
ふたりがお忍びで観戦することは聞かされていたので驚きはしなかったが、とりあえず、儀礼をとるために、マーズは興行主とともに、膝をおろそうとした。
「やめよ──。ここでは、儀礼はなしじゃ。わたしらは忍びで来ておるし、話を聞けば、そんな行儀のいい試合じゃないようだしな」
王妃のアネルザがからからと笑って、マーズたちが礼をとろうとするのをとめた。
観客席には十数人ほどの者がいたが、いずれも女のようだった。
アネルザと王太女のイザベラは、その中心付近にいる。
ただ、随分と親しそうな感じだ。
集まっている者は上下の隔てなしに、適当に座って談笑しているように思える。
「近くで見ると大きいし、すごい筋肉だなあ。まあ、お手柔らかに頼むよ」
そのとき、観客席の向こう側の影に隠れていた者が現われて言った。
男だった。
身体全体を羽織るガウンのようなもので身体を包んでいる。
しかし、マーズには首を傾げるしかなかった。
恰好から考えれば、この男がマーズの試合の相手のようだが、男は闘奴ではないようだ。かといって、騎士というわけでもなさそうだ。
どこにでもいるような市井の男という感じだ。
なによりも、この男はそれほどの武術は持ち合わせていないだろう。
少しも強そうに思えない。
だが、ミランダは、今日のマーズの相手は、ミランダでも敵わない猛者だと言ったと思うが……。
「どうか、ロウ様の首を折らないでくださいね、マーズ殿。それ以外は、すぐに治療することができますから」
王妃アネルザの隣に座っている女が、笑いながら声をかけてきた。
平服を着ているのでわからなかったが、第三神殿のスクルズだ。スクルズといえば、この国随一の魔道遣いで有名な第三神殿の神殿長代理の高位巫女である。
そのスクルズまで観戦するのかと思ったら、そのスクルズの上の段に腰かけているのは、第二神殿のベルズだ。その横にいるのは、頭にフードを被っているので、よく顔が見えないが、同じ年端の若い女性に思える。ベルズの腕を抱いて、ぴったりとくっついている。
「ぱぱ、頑張ってください」
そのフードの女が舌足らずの口調で男に声をかけた。
マーズは、眉をひそめた。
もしかしたら、病気ということで、しばらく姿を隠している第一神殿のウルズか……?
「おう、いい子にしてるんだぞ」
男も親しそうに声を返す。
「わたしは、まだ納得してませんよ。やっぱり無理です。強そうですよ。ロウ様になにかあったら……」
「まだ文句言うの、エリカ。納得したんでしょう。黙って応援しなさいよ」
不満そうに声をあげたのは、若いエルフ族の女だ。可愛らしさと妖艶さが入り混じったような大変な美女だ。
なだめる言葉でたしなめたのが、小柄な人間族の女だ。
いずれにせよ、このふたりも強いだろう。
醸し出す気配だけで、それはわかる。
「納得してないわよ――。させられたのよ」
「ご主人様に連続絶頂させられて、解放してもらいたくて、屈服したのよね。とにかく、大人しくしなさい。ミランダも命は保障すると言ってんだから」
「でも……」
エルフ女は、まだ不満そうだ。
すると、別の女が口を開いた。
「ところで、ミランダ、どういうルールなのだ。ロウ殿が試合の途中で、手足の骨を折られたり、顔面を砕かれたりするのは負けなのか? それとも、わたしたちが治療をするのは許されるのか?」
ベルズだ。
ミランダは、試合中の魔道は禁止だし、そんなことになれば、男の負けだということを説明した。
「スクルズにしろ、ベルズ殿にしろ、それが応援か? 後でお仕置きしてやるぞ。エリカも心配してくれるのは感謝するよ」
男が笑いながら言った。
そのあまりにも親し気な感じに、マーズは驚いた。
その男は、ロウという名前のようだが、マーズには記憶にない。
しかし、もっと驚いたのは、かなり失礼なことをロウが口にしたと思うのに、スクルズとベルズが満更でもなさそうに、笑顔で顔を赤らめたことだ。
なんなのだ、この男は……?
しかも、マーズは、スクルズが応じた言葉に、さらに驚愕した。
「はい、じゃあ、お仕置きを愉しみにしています。それと、この後、お時間を作っていただけないでしょうか。少しお話が……」
スクルズはそう言ったのだ。
ふたりの会話は、まるで男女の戯れ話という雰囲気だ。
あり得ないが、その一瞬、第三神殿のスクルズとロウという男が、男女の間柄に思えてしまった。
「スクルズ、その話はあたしの預りだと言ったでしょう」
ミランダがぴしゃりと言った。
なんのことかわからないが、内輪の話というのはわかる。それはともかく、なんとも緊張感がない。
「なんの話だ?」
「いまは、いいのよ」
スクルズの言葉に首を傾げた男をミランダが制した。
「ぱぱ、ウルズもお仕置きして。ウルズはぱぱが大好き」
あのフードの女が言った。
声は大人の声だが、口調はまるで幼児のようだ。マーズは混乱した。
そのとき、咳払いがした。
ミランダだ。
「……さっきも言ったけど、本当に、ここでの話は他言無用よ」
ミランダが苦笑するような表情で言った。
「マーズ、この戦いには、本来の報酬とは別に賞金をつけてやろう。勝った方に金貨十枚だ。頑張るがよい。だから、闘奴殿もロウ殿を殺さないでくれよ」
声をかけたのは、商会長で有名なあの女豪商のマアだ。
世間の狭い闘奴隷のマーズでさえ知っている王都の有名な女傑たちの集まりに、マーズも当惑してきた。
「ならば、王妃として、わたしも賞金を出すか。ロウがいたぶられるという面白い余興の見物料だ。マアと同じだけ出す」
王妃アネルザがにこにこして言った。
「ただし、殺す一歩手前でやめておけよ、マーズとやら。間違って命を奪えば、悪かったでは済まんぞ。王都の広場で火あぶりにしてやるからそう思え」
王太女のイザベラが言った。
マーズは無言で頭をさげた。
「おいおい、それが応援か、姫様? どいつもこいつも、俺が勝つと思っている者はいないのかよ」
どうやらロウという名前らしい男が笑った。
王太女を相手に、なんという失礼だと思ったが、この場の誰もが、その態度が当たり前のように接している。
唯一の例外は興行主だ。
マーズと同様に、ここに集まっている者と、その女たちとロウの親し気な様子に、目を白黒させている。
「あら、あたしは、あんたが勝つと信じているわよ。さもないと、試合を組んだりしないわ。本当に頑張ってよ、ロウ。勝たないと、成功報酬はないからね。それだけじゃなく、負ければ、クエスト不達成で罰金よ」
ミランダだ。
「怖いねえ」
ロウは笑った。
「わたしはお前が勝つと思う、ロウ──。頑張れ」
下の段の白銀の髪の女が元気な声をかけた。
これも平服でわからなかったが、お転婆騎士こと、シャングリアだ。
男嫌いの男装の女騎士と耳にしていたが、随分と短いスカートだと思った。
それでふと思ったが、エリカという女のスカートも短い。スクルズやベルズもだ。とてもきれいな脚だ。
「わ、わたしも、ロウ様が勝つと信じてます。でも、どうか、お怪我のないように」
「あたしも……」
イザベラの横の女性が恥ずかしそうに赤い顔をして言った。
続いて声をかけたのは、侍女の服装をした女だ。
「おう──。アン殿もノヴァも優しいなあ……。明日でも夜這いに行くよ」
ロウが軽く返した。
「まあ、それは是非、わたしのところにも……」
すると、スクルズが慌てたように横から口を出す。
もう、なにがなんだかわからない。
「ロウ殿、あ、姉上に失礼だぞ」
イザベラが怒鳴った。
マーズはそれでわかった。そして、びっくりした。
王太女の姉というのだから、アンというのは、もしかして、アン王女のことみたいだ。
夫だったキシダインが死去したあと、第三神殿預かりになったと耳にしていたが、そういえば、巫女服を着ている。
「あら、失礼なことはないわよ、イザベラ……。へ、変なこと言わないでよ……。ちっとも失礼ではありません。お待ちしてます、ロウ様」
女が不満そうにイザベラに言った。
やっぱり、間違いなく、イザベラの姉のアン王女だ。
「姫様は、このところ、ロウ殿がお相手をしてくれないので、ご機嫌斜めなのですよ、アン様」
イザベラの下に座っているエルフ女が笑って言った。
あれは、王太女の護衛長となったシャーラだ。彼女も有名人だ。
「そ、そんなことない」
イザベラが真っ赤になった。
「いい加減にしなさい。他言無用と言ったけど、慎みというものがあるでしょう」
ミランダが大渇した。
やっと女たちが静かになる。
「じゃあ、ルールを改めて説明するわ」
ミランダがマーズとロウを中央にある池に促した。
興行主は、ミランダに言われて、観客席の隅に腰かける。
池には、なにか粘性のどろどろしたものが入れられていて、ぬらぬらと不気味に輝いていた。緑色をしていて池の底は見えない。
あれはなんだろうかと、首を傾げた。
「ぬるぬるローション池のスライムプロレスごっこだ。愉しくやろうぜ、マーズ」
ロウが軽口を言った。
だが、ロウが口にした単語の意味がわからず、マーズは当惑した。
「この中に敷き詰めてあるものは、害のあるものじゃないわ。ただの潤滑性の油剤よ。その中で闘ってもらうわ。マーズ、このロウは素人だからね。これはハンデと思ってちょうだい。まともな場だと、瞬間に勝負がついてしまうからね」
ミランダが言った。
「不服はない。このロウ殿も、条件は同じなのだろう?」
「そうだが、俺はぬるぬるローションの闘いは得意だぞ」
ロウが口を挟んだ。
「ぬるぬるろーしょん……?」
この粘性の油剤のことのようだ。
「試合の勝敗は、相手が気を失うか、負けを宣言するまでよ。殺すのはなし。とどめは刺さない。それ以外は、なにをしてもいい……。いい、マーズ。なにをされるかわからないという意味はわかるわね?」
マーズは頷いた。
このところ、興行主の発案で、闘奴の試合のとき、マーズは負ければ、相手に犯されるという条件をつけて、試合をしていた。
観客を沸かせるための演出だが、マーズはそれを受け入れている。
女が闘奴をしている以上、負ければ犯されるということくらいあってもいい。
そう思っている。
「じゃあ、これも、認めてくれ。ハンデだ」
ロウが身体にまとっていたガウンの中から、数個の金属の枷を取り出した。
押し付ければ簡単に手首や足首に嵌められる形状のものだ。
それをぽんと池に放り投げる。
ぼちょんと数個の音がして、枷は「ろーしょん」とかいう池の中に消えた。
ちょっと見ただけでは、どこにあるかはわからない。
「構わないわね、マーズ?」
ミランダが言った。
「構いませんが、あれを嵌めて自由を奪うということですか? だが、試合をしながら、あたしに嵌めるつもりであれば、そんなことは不可能です」
マーズはロウの意図がわからなかった。
「できるかどうか、やってみるさ……。ただ、間違って、自由を奪われれば、いかに、あんたでも無抵抗に犯されるしかないということだ」
「本当に、本気でやってもいいのですか? あっという間に終わると思いますけど……。あたしが彼に負けると思えません。素人では試合にもなりません」
マーズは最後に念を押した。
集まっている女の観客が、この試合を相当に楽しみにしているというの感じる。
しかし、勝敗は一瞬で決まるだろう。
彼女たちを失望させることにはならないだろうか。
「本気で結構だよ。俺も本気でする」
ロウがガウンを取り去った。
「わっ」
マーズは思わず声をあげてしまった。
ロウはまったくの素裸だったのだ。
しかも、股間では男の性器が隆々と勃起していた。
「純情な反応だな」
ロウが笑って、池を囲んでいるロープをくぐって、すっと池の中に入っていく。
そして、ずぶずぶと歩いて、中央に進んでいった。
マーズも、その後に続いた。
「うわっ」
だが、数歩進んだだけで、マーズは悲鳴をあげてしまった。
粘性物は膝まであったのだが、それをしきつめてある足場は、まったく踏ん張りがきかずに、つるりと滑ってしまったのだ。
ロウが普通に歩いているので、マーズも同じように歩こうとしたのだが、こんなにつるつるしているのでは、まともに立つこともできない。
「条件は一緒だからな。卑怯な手段で負けたと思うなよ」
中央で待つように立っていたロウが、ろーしょんの池の中から手枷をひょいと拾いあげて、滑り進んできたマーズの右足首に、がしゃりと手枷を嵌めた。
しかも、反対の枷を右手首にもかけたのだ。
「あっ」
マーズは声をあげた。
一瞬のことであり、つるつる滑る「ろーしょん」に自由を奪われて、マーズはまったく抵抗ができなかった。
逆に、マーズの手首をとられたとき、男の手がマーズの肌にぴったりと貼りついた感触が襲ってもいた。
とにかく、これで、早くも、マーズは片脚と片腕を繋がれてしまい、かなりの自由を奪われて、動けなくなってしまったのだ。
反対の手足は自由なので、まだ戦えないことはないが、立つことはできない。
「始め」
容赦のないミランダの声が、試合場の外からかかった。