【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
歩きながら、エリカの股間をむんずと掴んだ。
「きゃあああ」
すると、ロウの姿になっているエリカが悲鳴をあげた。
コゼは、エリカの狼狽えぶりが楽しくて、思わず吹き出してしまった。
「あんたってば、きゃああはないでしょう。ご主人様の声で女の悲鳴を出さないでよ」
コゼはけらけらと笑った。
すると、きっとエリカが睨み返してくる。
「だ、だったら、触るな、この変態女──」
エリカが大きな声で怒鳴った。
「や、やめんか、お前たち。ばれるだろう」
すると、シャングリアが低い声でたしなめた。
エリカが慌てて口をつぐむ。
しかし、どうしても、笑いが込みあがり、コゼはくすくすと笑い続けた。
すでに、待合室ではなく、会場に進む通路である。
案内人の先導で、何人かのほかの貴族とともに進んでいるところだ。
人目もある。
もっとも、コゼたち三人は集団の最後尾であり、ちょっと距離を開いて進んでいたところだった。だから、いまなら目立たないと思って、ロウに変身中のエリカに悪戯したのだが、あんなにけたたましく叫ぶとは思わなかった。
おかげで、何事かと数名の者が振り返ったのがわかった。
「あ、あんた、いい加減にしなさいよね……」
表情を必死に繕う一郎の姿のエリカが、小さな声でコゼに言った。
しかし、コゼは肩を竦めてやった。
「だって、ある程度は注目浴びなきゃ。さもないと、ご主人様のお言いつけを果たせないじゃないの」
コゼはうそぶいた。
なにしろ、ロウに言いつけられたのは、ロウの姿をしているエリカができるだけ目立つことだ。
こうやって、ロウの姿のエリカが、別にすごしているうちに、本物のロウは、ちょっと明らかにできない行動をひそかにやるというわけだ。
だから、就任式の会場に進みながら、おかしなことをしているが、単に悪戯しているわけじゃない。
とにかく、ロウは確かにこっちにいたという存在感をしっかりと披露する必要がある。
これで、かなりの者がロウのことを記憶しただろう。
だから、いいのだ。
もっとも、それは理由の半分だ。
残りの半分の理由は、面白いからだ。
癇癪持ちのエリカをからかうのは愉しいし、いちいち反応してくれるのも嬉しい。
それに、今日のエリカはロウの姿だ。
どうしても、からかいたくなる。
「うわあああっ。もういい──。こんなのやめよ。そもそも、あんな馬鹿げた依頼を律儀にする必要なんてないわ。だいたい、スクルズもスクルズよ。天空神との誓い? はっ、勝手にすればいいじゃないのよ。だけど、誓いの最中に襲ってくれなんて、馬鹿じゃないの──」
エリカが癇癪を起して舌打ちした。
コゼはびっくりした。
それほど大きな声じゃなかったが、ひそめたような声でもなかったからだ。
「わっ、なにを言っている、エリ……いや、ロウ」
シャングリアがエリカの口を押さえた。
だが、それを振りほどいて、エリカがシャングリアを突き放す。
今度こそ、周りの眼が一斉にこっちに向いているのがわかった。
コゼは憤怒の表情をしているエリカに目で、それを合図した。
「くっ……」
エリカもやっとそれに気がついて、口をつぐむ。
ここで、なにもかも大声で暴露して、すべてを台無しにする気まではなかったようだ。
しかし、これは相当にぶち切れたみたいだ。
なんだかんだと、嫌がるのを無視して、変身によって、エリカに生まれた男性器の股間を何度もいじくってやった。
少々やりすぎたかもしれない。
「わ、悪かったわよ……。ねっ、機嫌を直してください、ご主人様」
コゼもなだめるような物言いで頭をさげる。
「ご主人様」という声はことさら大きくした。
「うるさい、この変態──」
エリカがコゼを突き飛ばさんばかりに通路の脇の隙間に入り込む。
急いで追いかけたが、そこは脇道になっていて奥に通じている。
エリカの姿はない。
入ってみてわかったが、そこにも脇に進む通路があり、しかも、幾つもある。
「……あれっ、どこに行った?」
シャングリアも追ってきた。
コゼは首を横に振った。
「ね、ねえ、ご主人様──」
声を出す。
「うるさいわね、ここよ」
声がした。
だが、男の声じゃない。いつものエリカの声だ。
ちょっと先の隙間から、ひょいとエリカが顔だけ出してきた。
驚いたことに、女の姿に戻っている。
変身を解いたのだ。
コゼは唖然とした。
急いでそっちに向かう。
すると、まさに着替えの最中だった。
着ようとしているのは、たったいままでロウの姿で身につけていた貴族の礼装だ。
服が変わっていないのは、変身をするときに裸だったからだろう。あの「変身の指輪」という魔道具は、服装を含めて変身前の姿にしか戻らないらしい。
エリカは一郎の姿になるときに素裸だった。
だから、戻れば、裸の状態にしかならない。
そのため、エリカは一度服を脱ぎ、エリカの姿になってからまたそれを着ようとしているに違いない。
だから、こんな物陰に隠れたのだろう。
「くうっ、も、もう、ロウ様って、なんてところに、指輪を入れるのよ」
エリカが上衣を身に付けたものの、下はなにもはいていない状態で、顔を真っ赤にして指を股間に入れている。
どうやら、指輪を取ろうとしているようだ。
そういえば、ロウはエリカの股間に指輪を挿入して変身をさせたのだった。
「まさか本気か? クエストを途中で放棄するなど、ロウだけじゃなく、ミランダも怒るぞ」
シャングリアがその様子に真剣な口調でたしなめの言葉を口にした。
すると、エリカがきっとシャングリアを睨んだ。
「もともと、こんな依頼は、反対だったのよ。本当に馬鹿じゃないの。神殿でやる就任式の最中にロウ様に犯してくれなんて。ロウ様をなんだと思っているのよ」
エリカがまくしたてた。
コゼは肩を竦めた。
これは相当に頭に血が昇っている。
なにがいけなかったのだろうか……?
待合室で、ロウの恰好で全裸だったエリカをみんなの目の前で、何度も射精させて笑い者にしたことだろうか……?
あるいは、案内人に声をかけられて会場に向かうあいだも、なにかと股間を触って刺激し勃起をさせ続ける悪戯をしたことだろうか……?
滅多に癇癪を起さないエリカだが……。
いや、そんなことない。癇癪はいつもか……。
いずれにしても、今日は相当に怒っているようだ。
クエストを途中でやめるなどと騒ぐのは余程のことだ。
「ねえ、言いつけに背けば罰があるわよ、エリカ。いいから、戻ってよ」
コゼは控えめに声をかけた。
「罰は受けるわよ。クエスト失敗の罰金だって、わたしが支払う──」
エリカが声をあげる。
「なにを言っているのだ、エリカ。わたしたちの役割は、ロウがスクルズを犯すときに、万が一騒動が起きた場合に備えて、ロウのせいだとばれないように……」
「騒動なんて起きないわよ。理由つけて追っ払われたのよ。そもそも、危ないなら、やめればいいじゃない。罰でも何でも受けるわ。わたしはもういやっ──。くうっ」
声をあげたエリカの指にはねっとりと性液にまみれた指輪があった。
こうなったら、エリカはもう手が付けられない。
ロウの前ではしおらしいエリカだが、もともと気の短い真面目女だ。
誰よりも、エリカの気性はコゼは知っている。
ロウ以上に、エリカ自身以上に、エリカのことはわかっているという自負もある。
「わかったわ。一度ご主人様のところに戻りましょう。とにかく、もう一度、控室に……」
コゼは言った。
怒れば誰の言葉も耳にしないエリカだが、ロウだけは別だ。
ロウに諭されれば、気も落ち着くだろう。
……とは言っても、いまはもう、控室にはロウはいない。
アンとノヴァがいるだけのはずだ。
ロウは、スクルズのところにいると思うから、アンに連絡をお願いすればいいと思うが……。
しかし、式典に準備されたロウの席は、かなり中心に近い位置にある。ロウは爵位は子爵と低いが扱いは上級貴族だ。
シャーラによれば、宰相のフォックスがアネルザの愛人ということで、そのように扱うように指示しているらしい。
会場には身分の低い者から入る。
さっきは、上級貴族の列席者の集団だったので、後に入るのは王侯やそれに準じる格式の者たちだと思う。
一度戻ってしまえば、後から式典に入り直すということはできないと思う。
エリカの言い草じゃないが、罰を覚悟した方がいいかもしれない。
「ふんっ」
ロウの姿のエリカが、鼻息荒く立ちあがって、コゼの横を乱暴に通り抜けていく。
シャングリアは呆然としていたが、コゼが微笑むと、つられるように頬をほころばせた。
「やれやれ」という共通の感情だ。
さっきの通路に出た。
すでに誰もいない。
しかし、エリカはつかつかと通路を乗り越えて反対側に進んでいく。
ちょうど渡り廊下だったので、向こう側は一般民衆のいる広間になる。
「どこに行くのよ、エリカ──。控室に戻ろうって言ったでしょう」
「あんたこそ、なに言ってんのよ。わたしはもうやめたって言っているでしょう。戻るのは屋敷よ――。屋敷に帰るのよ──」
エリカの怒鳴り声が返ってきた。
コゼは今度こそ慌てた。
エリカがいつにも増して激怒しているのがやっとわかったからだ。
あのエリカがロウを放って戻るなんて、頭に血が昇っているに違いない。
「待って、待ちなさい」
追いかけた。
しかし、エリカはまるで走るように進んでいったので、追いついたのは就任式の後で行われるスクルズの演説を聞くために集まっている大群衆のいる広場の端っこだった。
「頭を冷やせ、エリカ。わたしは、ロウに言いつけられたことはちゃんと果たしたいのだ。お前がおらねば、成り立たんだろう」
シャングリアが大声をあげた。
「だったら、これをあげるわ。スクルズにでも、ロウ様にでも変身したらいいわ」
エリカがシャングリアに変身の指輪を押しつけた。
「魔道が遣えなきゃ、変身はできんだろう」
シャングリアがぐいとエリカの腕を掴む。
「なによ、やる気──?」
エリカが腰の剣を掴む仕草をした。
しかし、たったいままでロウの姿になっていたので、剣など持っていない。
やっと気がついて、ばつが悪そうな顔をする。
コゼは、さっと後ろから手を伸ばして、エリカのズボンの上から股間のピアス動かしてやった。
「ひゃああ」
エリカが奇声をあげて、股間を押さえた。そして、その場にしゃがみ込む。
真っ赤な顔になったエリカが、コゼの脚を掴もうとしたときには、すでにコゼはエリカから距離をとっている。
まともに、やり合えばエリカにも、シャングリアにかなわないことは知っているが、逆にまともにやり合わなければ、コゼは誰にも負けないと思っている。
「落ち着けって言っているでしょう。本当にあんたって、相変わらずの短気ねえ……。そのくせ、とっても感じる身体をしているくせに……」
コゼはからかった。
そこに稲妻のようなエリカの蹴りが飛んでくる。
だが、座った状態からの蹴りだったので、避けるのは簡単だ。
空を切ったエリカは、すでに立ちあがってコゼと向かい合う体勢になった。
「やめないか、エリカ。大騒ぎになるぞ」
シャングリアがたしなめた。
コゼとエリカのあいだに入って来る。
「騒ぎになんかならないわよ」
さすがに、エリカもちょっと大人げないと思ったのか、少しだけ冷静さになった感じになった。
「やめるにしても、続けるにしても、勝手に帰るのはまずいよ……。一度、ご主人様に会おうよ」
コゼは静かに言った。
このタイミングが難しいのだ。
しかし、まさに、このタイミングだ。コゼには確信がある。エリカのことは、なにもかもわかっている。
案の定、エリカは眼に見えて、落ち着きを取り戻した。
「それは無用よ……。わかったわよ。ロウ様に変身するわ……。まだ、間に合うわね……」
「本当?」
コゼもほっとした。
エリカも、怒鳴りまくって発散でき、少しだけ冷静さを取り戻したようだ。
「だけど、条件があるわね」
しかし、急にエリカが悪戯を思いついたような表情になった。
コゼは首を傾げた。
「条件って、なによ……?」
とりあえず、訊ねた。
すると、エリカがにんまりと微笑んだ。
たったいままで、あんなに激怒していたエリカが、急に機嫌よく笑ったことに、違和感がある。
「あんた、今日一日、明日の朝まで、わたしの妹になってよ。どうせ、ロウ様は今日は、ほかの女のところだろうし、あんたが妹になるなら、ちょっと癇癪を引っ込めてやってもいいわ」
「はああ?」
訳のわからないエリカの要求に、コゼは思わず声をあげた。
「いいじゃないのよ。スクルズのつまらないクエストなんて、ちっともやる気にならないわ。ロウ様もロウ様よ。だけど、わたしにも、いい事があるなら我慢する。あんたが、妹になるなら、協力してもいいわ」
「な、なによ、その開き直り。協力って、ご主人様のご命令じゃないのよ。そもそも、あたしの方が歳上で……」
「いや、承知した。それでいい。いいな、コゼ」
シャングリアがコゼの言葉を食い気味に遮った。
コゼはシャングリアに顔を向ける。
「なに言ってんのよ、シャングリア。そんなエリカの我が儘なんて、許すことなんか……」
「いや、それで不満を引っ込めてくれるというんだから、エリカの温情だ。妹でもなんでも、やってやれ。減るものでなし」
「だって、妹ってなによ――」
「どうするの、コゼ? わたし、本当に今回のクエストなんか、どうでもいいと思ってんのよ。あんたが承知しないなら、どんなに後で叱られるとわかっても、や、ら、な、い、から」
エリカが開き直ったように言った。
「やる。やるな、コゼ。いいな」
シャングリアが早口で迫る。
それ以上は、抵抗できず、渋々、コゼは頷いた。
しかし、なんで妹になんか……。
「ははは、じゃあ、ちょっと呼んでみてよ、コゼ」
エリカが期待のこもった顔でコゼを見る。
「……うう……、じゃあ、エリカお姉ちゃん、お願いだから、もう一度、ご主人様に変身して……」
仕方なく、コゼはそう口にした。
すると、エリカが満面の笑みを浮かべる。
「お安いご用よ。後で全部終わったら、お姉ちゃんとお風呂に入ろうね、コゼ。ベットも一緒よ。あっ、それと、そのあいだ、ずっと指縛りね」
「ちょ、調子に……」
「承知したぞ、エリカ――」
シャングリアが大きな声を出す。
すると、完全に癇癪の収まったエリカが、変身する場所を探すために、もう一度物陰に飛び込んでいった。
コゼは溜め息をついた。