※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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239 理不尽な事件

「エリカ、こっちを手伝ってよ」

 

 荷駄馬車の方からコゼの声がした。

 エリカは、すぐに行くと声をかけてから、目の前の物売りの主人に、エリカたちが購った野菜を箱に入れて馬車まで持って来てくれるように頼んだ。

 そして、少し離れた場所に停めてある荷駄馬車に向かう。

 

 王都の食材の市だ。

 そこにたくさんの物売りが集まっていて、野菜でも魚でも肉でも、大抵のものはここで全部買える。

 だから、エリカとコゼは、ここにやって来たのだ。

 

「まったく、人間族は非力ねえ。こんな樽ひとつ持ちあげられないの?」

 

 エリカはコゼにからかうような物言いをしながら、コゼに上にあがるように促した。ひらりと荷駄馬車の荷台にあがったコゼに向かって、ひと抱えある樽を持ちあげる。

 ドワフ族とまではいかないが、エルフ族も狩猟族だけあり、そこそこ力がある。

 人間族とは身体の仕組みが違うので、人間族であれば、大の男でも持ちあげるのに苦労する荷も、女のエリカであげられないことはない。

 

「ほら」

 

 エリカは荷台のコゼに樽を渡した。

 中身は塩漬けの魚だ。

 樽いっぱいの魚など、エリカたちにこれを売った物売りは、きっとエリカたちが何十人も集めるような食事会でも開くのだと思ったかもしれない。

 しかし、これは、エリカたち四人が住んでいる屋敷で食べるためだけの食材だ。

 別に数十人分の食事というわけじゃない。

 四人分だ。

 

「さすが、馬鹿力女──」

 

 コゼが軽口を叩き返す。

 そして、エリカから受け取った樽をごろごろと転がして、荷台の奥に運んでいく。

 

「馬鹿とはなによ、馬鹿とは──」

 

 むっとしたエリカは文句を言ったが、コゼは素知らぬ顔だ。

 エリカは嘆息した。

 

 とりあえず、ひと息して、屋敷から持って来た荷駄馬車を眺める。

 すでに荷台は、さまざまな食材で充満していた。

 樽入りの豚肉、樽入りの牛肉、樽入りの鳥肉、そして、いま運んだのが樽入りの魚というわけだ。

 ほかにも大量のパンや、穀物の粉。

 一郎が大好きなので、米も数袋もある。

 チーズに牛乳、葡萄酒も買った。

 さらに、果実の詰まった木箱だけで三箱もあり、調味料の瓶もずらりと並んでいる。

 かなりの量と種類の食材だが、これだけ集めてくるようにエリカとコゼに指示したのは、屋敷妖精のシルキーだ。

 シルキーは屋敷内に限り、どんな大魔道遣いでも敵わないような魔道の力を駆使するが、さすがに食材だけは作り出すことはできない。

 だから、定期的に、こんな具合に、どこからか料理の材料となる品物を外から運んでくる必要がある。

 今日、その当番になったのが、エリカとコゼということだ。

 

 もっとも、普通であれば、これだけの材料を一度に買ってしまえば、毎日十人の客がやって来たとしても、全部食べつくすまでに、ほとんどの食材は腐って食べられなくなるだろう。

 しかし、シルキーの待っている屋敷内に持ち込みさえすれば、あとは、シルキーの魔道で、いつまでも新鮮な状態で保持することができるのだ。

 

 ……とはいっても、エリカは、その食糧庫が屋敷内のどこにあるのかも知らない。

 シルキーに渡した後は、次にエリカたちが、これらの食材に出逢うのは、毎日の食卓の料理になったときというわけだ。

 

 また、食材といえば、少量だが、今朝もマアのところに立ち寄って、ロウの故郷の味に似ているらしい、なんとかという調味料も受け取ってきた。

 マアの商会は、タリオ本国側の活動ではあるが、異国との貿易もやっていて、ロウの故郷の味に似ている珍しい調味料を外国から手に入れることができるのだ。

 ロウもそれが大好物だ。

 

 それはいいのだが、そのマアにタリオ公国への帰還指示が出ているらしい。

 あのアーサー大公が帰国してから、すぐに本国から通達されたものであるらしく、役人ではないマアには従う義務はないが、逆らえば、本国における商業権益を失うことになるので、事実上の「命令」であるということだ。

 それを受け取ったときのマアも悩んでいた。

 エリカもよくは知らないが、随分とマアも考えたようだが、アネルザやイザベラ、そして、ロウなども交えて話し合い、いまでは、通達指示に従い帰国の方向で動いているようだ。

 あくまでも、一時的な帰国だが……。

 

 マアとロウの関係が、アーサーに知られたわけではないと思うが、マアに言わせれば、この王都で商業ギルドの復権の動きがあるらしく、謀略好きのアーサーがなんらかの仕掛けを企てている可能性もあると言っていた。

 まだ、その動きが不明なのでなんともいえないが、マアが本国に戻った方が、大公府の動きも掴みやすいし、あのマアであれば、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中のタリオの流通を逆支配することもできるかもしれず、そんな思惑もあり、一度、指示に従って帰国することにしたのだ。

 そういうこともあり、マアは、不在間でも、ロウの好きな食材が途切れないように、少量ずつしか手に入らないそれらの調味料を入手の都度、こうやって渡してきてくれる。

 本当にロウに尽くしてくれる女性でありありがたい。

 タリオ本国に一時的にでも戻るのは、あくまでもロウのためなのだ。

 

「お待ちどう、美人のお嬢さんたち──。ここに、置いていくぜ──」

 

 そのとき、さっき野菜を購った物売りの主人が、まだ子供の小僧さんを連れて二箱の野菜を運んで来た。

 

「ありがとう、おじさん」

 

 エリカは、荷台に飛びあがると、コゼとともにそれを受け取って、荷台に並べる。

 

「シルキーに頼まれたのは、これくらい、エリカ?」

 

 物売りが立ち去ると、箱を置き終わったコゼが腰をあげてエリカを見た。

 エリカは、魔道で空中に四角を描く。

 すぐに、その四角の中の宙に文字が浮かびあがる。

 シルキーが指示した食材がそこに書いてあるのだ。

 元奴隷のコゼは文盲だが、エリカはしっかりと読み書きができる。幼い頃に育ったエルフの里の施設で教わったからだ。

 エリカは、それを読みながら、荷台に並んでいる食材を確かめた。

 

「大丈夫みたいよ……。じゃあ、戻ろうか、コゼ」

 

 エリカは頷いた。

 コゼがひらりと馭者台に移動する。

 エリカは、箱と箱のあいだに場所を見つけて、荷台に座り込んだ。

 

 すぐに馬車が動き出す。

 馬車が揺れる。

 途端に、エリカは睡魔を感じ始めてきた。

 なにしろ、まだ陽は東側にあるくらいの朝である。

 食材市は早く行かなければ、いい材料は揃わないので、早朝に屋敷を出てきたが、いつものように、昨夜は遅くまで一郎に可愛がってもらった。

 正直まだ眠い。

 しかも、馬車の揺れが心地よくて、眠気を誘う。

 エリカはそのまま横の箱に身体を預けて、屋敷まで寝ることした。

 

 そのときだった。

 

「きゃあああ」

 

 突然に馬車が大きく揺れて、急制動がかかった。

 

「うわっ」

 

 エリカはその反動で大きく身体を揺られて、危うく引っ繰り返りそうになる。

 

「なによ、コゼ──」

 

 エリカは身体を起こして、怒鳴った。

 

「しまった。当たったわ」

 

 だが、コゼが血相を変えた様子で、馭者台で立ちあがっている。

 

「当たった?」

 

 エリカは怪訝に思って、馭者台に向かう。

 しかし、そのときには、コゼはひらりと地面に降りた後だった。

 ふと見ると、馬車の前に若い女が倒れている。

 

 まさか、当たったというのは、馬車であの女性をひいたのか?

 この辺りは、たまたま人通りの少ない場所のようであり、周囲にはほとんど人がいない。

 エリカも急いで馬車を飛び降りると、コゼがいる女性のところに向かった。

 倒れているのは、若い人間族の女だ。

 どこか怪我をしたという感じはないが、意識はないようだ。

 ぐったりと地面に横たわったまま動かない。

 

「なにがあったの、コゼ?」

 

「急にこの人が飛び出してきて……。とにかく、避けきれなかったの。そんなに強く馬車に当たったわけじゃないと思うけど……」

 

 コゼが困惑気味に言った。

 

「頭を打ったのかも。動かさない方がいいわね」

 

 エリカは言った。

 コゼが頷く。

 

「あたし、スクルズを呼んでくる」

 

 コゼが立ちあがった。

 ここからスクルズのいる第三神殿までは、そんなに距離はない。

 スクルズであれば、治療術で大抵の負傷は治してしまう。

 

「お願い。わたしはここで待っているわ」

 

 コゼは足が速い。

 そのコゼが全力で向かえば、そんなに時間はかからないだろう。

 コゼが駆けだしていった。

 その姿が、すぐに曲がり角の向こうに消えていく。

 

 すると、向かい側から小さな馬車がやって来ることに気がついた。

 馭者台にいるのは、黒いフード付きのマントを覆った小柄な馭者だ。

 だが、その馬車は真っ直ぐに、エリカと女がいる方向に向かってくる。

 エリカは、ここに人が倒れているのを知らせようと、立ちあがろうとした。

 

「えっ?」

 

 そのとき、足首にちくりと、なにかが刺さった感触が襲った気がした。

 

「あっ」

 

 次の瞬間、エリカはすべての力を失い、その場に崩れ落ちた。

 

 弛緩剤──?

 

 そう悟ったときには、エリカは完全に地面に倒れ込んでいた。

 しかも、気絶していると思い込んでいた若い女が、素早く立ちあがって、布を取り出して、エリカの口の中に押し込む。

 さらに、それが口から出ないように、口の上になにかをぺったりと貼られてしまった。

 

 通りかかって来た馬車がすぐ横に停まる。

 エリカの顔に袋のようなものが被せられて、視界を奪われた。

 これは、余程にこういうことに、手慣れた者たちだ。

 エリカは咄嗟に思った。

 しかし、どうしようもない。

 口に入れられたものは、ただの布ではないようだ。

 なぜか、舌と喉が痺れたような感じで、悲鳴もあげられない。

 

 脱力している身体が担がれた。

 馬車の中に乗せられたとわかったのは、胴体が馬車の壁にぶつけられたためだ。

 

 あっという間だ。

 

 エリカは、なにが起きたのかわからず、なんとか力を振り絞って、とにかく、顔にかけられた袋を外そうとした。

 しかし、今度は首筋にまたもや針に刺されたような刺激を感じた。

 

 エリカは無意識の闇の中に一気に吸い込まれていった。

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うう……」

 

 エリカは呻き声をあげながら、必死に鼻に迫って来た水を飲んだ。

 途端に飲んだ水を吐き出しそうになる。

 しかし、吐くわけには行かない。

 エリカは苦しさに耐えて、ひたすらに口の前の水を飲み続けた。

 

 どこかわからない得たいの知れない建物の中だ。

 多分、周りには誰もいない。

 エリカはただ水を飲み続けた。

 

 もう、どのくらいの水を飲んだのか見当もつかなかった。

 おそらく、エリカの腹は飲み続けている大量の水のために、ぷっくりと膨らんでいるかもしれない。

 だが、首を動かすことができないエリカは、ほんの少しも下を見ることができないので、自分の身体がどういう状態なのかを知ることもできない。

 それに、首を曲げられたとしても、顔全体を覆っている容器は完全にエリカの視界を塞いでしまっている。

 

 エリカが感じれるのは、周囲の音と気配だけだ。

 だから、ここがどこかということはわからない。

 誰がこんな風にエリカを拘束していったのかということもわからない。

 周囲からは音や声が聞こえないから、いま周りには誰もいないのかもしれない。

 ただ、上から注がれる水がじょろじょろと容器に入ってくる音だけが不気味に続くのみである。

 

 とにかく、見知らぬ女に毒で気を失わせられて、馬車に乗せられ、気がつくとエリカは、この見知らぬ家に閉じ込められていたのだ。

 意識が戻ったときには、エリカはいまのように、正座の状態で真っ直ぐに背筋を伸ばした状態で身動きできなくなっていた。よくわからないが、なにかによって雁字搦めにされているようだ。

 腕は背中に回されて動かせないし、両足は畳んだ状態から体勢を崩すこともできない。

 

 そして、首から上にはなにかの容器が嵌められていて、視界も奪われていた。嵌められているのは、頭の上が開いている球体のようだった。

 球体の壁は狭く、視界の前に迫っている容器の壁は真っ黒だ。

 首も動かない。

 容器自体が四方から細い鎖で引っ張られて動かないようになっている感じだ。

 

 とにかく意識を戻した直後は、エリカも激しく悪態をつくとともに、なんの目的なのだと懸命に叫んだ。

 だが、応じる声はなかった。

 そもそも、周囲に誰もいない感じだった。

 エリカは途方に暮れた。

 

 だが、そのうちに、首に嵌められている容器の中に、上から少しずつ細い水流が落ち始めたのだ。

 ぞっとした。

 避けようにも、容器自体が動かないので、容器に注がれる水からは逃げようがない。

 たちまちに、容器に入って来る水面がどんどんとあがってきて、エリカの口どころか鼻の穴まで届きそうになったのだ。

 エリカは悲鳴をあげるとともに、必死で容器を水流から横にどかそうとした。

 しかし、なにもできない。

 水は相変わらず、顔を覆っている容器の中に少しずつ注がれ続ける。

 もはや、水死しないためには、水を飲み干すしかなかった。

 エリカはとりあえず、鼻の穴が出るまで水を飲んだ。

 

 そして、エリカと水の戦いが始まった。

 水はどんどんと注がれる。

 死なないためには、水を飲み続けるしかない。

 

 あっという間に、これ以上水を飲むことができなくなった。

 だが、それでも水は注がれ続ける。

 愕然とするしかなかった。

 

 エリカは懸命に水を飲み続けた。

 そして、いまに至っている。

 

 どのくらいの時間がすぎたのだろう。

 

 二刻……?

 三刻……?

 

 どんなに短いとしても、一刻半よりも短いということはない。

 それだけの長い時間、エリカは水を飲み続けているのだ。

 

 エリカはもう朦朧としている。

 だが、意識を失うこともできない。

 水を飲むのをやめれば、エリカの顔を包んでいる容器は水でいっぱいになり、エリカは溺れ死ぬしかない。

 

 そのときだった。

 扉が音を立てて開く音がしたと思った。

 

「んっぐう、ふぐうう」

 

 言葉を喋ろうとしたが、口の上まで水面があがってきているので、ただ水に息が混じる音がするだけだ。

 

 すぐにがらがらと椅子のようなものを引きずる音がした。

 誰かが、エリカの前に座ったのがわかった。

 

「へえ、さすがは、自尊心だけは大きい正真正銘のエルフ族ね。そんなに腹が膨れているのに、おしっこを漏らしていないとは立派じゃない。それとも、まだ水を飲み足りない?」

 

 若い女の声がした。

 おそらく、馬車の前に出てきて、エリカを罠に嵌めた女だと思った。

 だが、なんのために、エリカをさらい、どうして、こんな拷問にかけようとするのかが見当がつかない。

 

 すると、目の前の容器で大きな音が鳴った。

 容器が二つに割れて、水が流れ落ちた。

 視界が戻り、目の前にやはりあの女が出現した。

 にやにやと微笑みながら、椅子に腰かけたまま脚を組んでエリカを眺めている。

 

「はあ、はあ、はあ……。だ、誰よ、あんた……?」

 

 やっとのこと言った。

 そして、もう一度、記憶を全力で回転させる。

 やはり、知らない女だ。

 人間族とは思うが、エリカとはそんなに年齢の差もないと思う。

 すると、その女が魔道の杖を取り出して、エリカに向けた。

 

「立ちなさい」

 

 すると、突如として身体の拘束が消滅した。

 手足も自由になる。

 雁字搦めに縛られていたと思ったのは、そう思わせていた魔道の拘束だったようだ。

 だが、足がすっかりと痺れてしまって立つことができない。

 女が苛立ったように、杖をもう一度振った。

 

「はぎゃああ」

 

 エリカは絶叫してその場にひっくり返った。

 全身に凄まじい電撃が迸ったのだ。

 女の放った魔道によるものだ。

 すると、股間に生温かいものが流れたのがわかった。

 

「あっ、いや……」

 

 さんざんに水を飲まされ続けてきたので、膀胱が破裂しそうなくらいに尿意が襲ってきていた。

 その状態で電撃を浴びせられたために、ついに尿が漏れ出てしまったのだ。

 一度堰を切った尿は、もう止めることはできない。

 エリカはひっくり返ったまま、かなりの長い時間放尿を続けた。

 

「まあ、呆れた豚ねえ。あんた、せめて、おしっこするなら、厠に行かせてとか、容器を当ててとか言えないの? おしっこをしたかったから、黙って垂れ流したの? それでもエルフ族? それとも、エルフ族の恰好をした豚なの?」

 

 女の呆れたような笑い声が部屋に鳴り響いた。

 

「なっ」

 

 あまりの言い草に、流石にエリカも絶句した。

 しかし、いまでも、股間からは尿が垂れ流れている。

 その状態で悪態など口にできるものではない。

 

「さっきのは撤回よ。人前で失禁するような女は、高潔で名高いエルフ族とは言えないわね。あんたは豚に決まり。豚並みに扱ってあげるわ。とにかく、さっさと立ちなさい」

 

 女が嘲笑しながら言った。

 はらわたが煮えかえる気がした。

 だが、飛びかかろうと思っても、これだけ身体が弱っているうえに、女の持つ杖は油断なく、こっちを向いている。

 一方で、エリカの魔道が完全に封じられているのはわかった。

 さっき首に嵌まっている容器は外れたが、まだ首になにかが嵌まっている。

 それが、エリカの魔道を封じているようだ。

 

「まずは、その小便臭い下着とスカートを脱ぎなさい。話はそれからよ」

 

 女が言った。

 憤怒が沸き起こった。

 今度こそ、我慢ならない。

 

 エリカは我を忘れて、女に飛びかかろうとした。

 だが、エリカが行動を起こす前に、全身を凄まじい衝撃が襲いかかった。

 

「あぎゃあああ」

 

 エリカは絶叫して、その場に倒れてしまった。

 電撃は女の持つ魔道の杖ではなく、首からだった。

 エリカが女を攻撃しようとした瞬間に、首輪から電撃が放流されたのだ。

 女が大きな声で笑った。

 

「無様ね……。あんたがあたしに危害を加えようとすれば、首輪があんたの心を読んで、強い電撃を与える仕掛けになっているのよ。電撃が嫌なら、できるだけ逆らおうとは考えないことね……。まあ、あんたに恨みはないけど、うんと恥をかいてもらうわ。そして、エルフ族として耐えられないような死を贈る。それが依頼人の望みだしね」

 

「依頼人?」

 

 エリカは訝しんだ。

 

「あたしの名はゼノビア──。職業は“恨み屋”よ。毒遣いの闇の処刑人とも呼ばれているわ──。あたしのことは、呼び捨てでいいわよ。別に、あんたを調教しているわけじゃないしね。あたしが依頼されているのは、とりあえず、あんたにたっぷりと恥をかいてもらうことよ」

 

 ゼノビアが言った。

 しかし、エリカはなんのことかわからなかった。

 

「恨み屋? 処刑人?」

 

 こいつは殺し屋なのか?

 なんのこと──?

 なぜ……?

 

「話は終わりよ。じゃあ、その小便臭い下着とスカートを脱ぎなさい。それとも、もう一度水を飲む? あれをまた二刻やる? そうしたら、もう少し素直になると思うけどね」

 

 ゼノビアが笑った。

 エリカはぞっとした。

 あの水飲みの恐怖が蘇る。

 まだ、エリカの身体は、強要された途方もない水飲み影響で、ぐったりとしている。

 さすがに、もうあれだけはごめんだ。

 

「……言っておくけど、助けが来ることを願うのは無駄よ。よくわからないけど、あんたの身体から、なんらかの魔道が発信されているというのはわかったわ。だから、一応手は打っている。助けは来ないわ……。あんたの仲間はあんたがどこに連れていかれたのか見当もつかないはずよ……。とにかく、脱ぎなさい。まずは、あなたにうんと無様になってもらうのが、依頼人の望みなんだし……」

 

 ゼノビアが言った。

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