【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
目を疑った。
巫女服を着ていたあのスクルズという女が、ロウという男になにかをひそひそ声でささやいたと思った瞬間、急にはらわたが軽く捻じれるような感じがして、気がつくと、大勢の王都市民のいる賑やかな場所に立っていたのだ。
そして、尿意が襲いかかった。
「いやあ」
すぐ横で悲鳴がした。
シズだ。
一糸まとわぬ素っ裸であり、両手で股間を押さえてしゃがみ込んだ。
「うわっ」
ゼノビアもまた座り込んだ。
自分もまた、シズと同じように完全な真っ裸であることを思い出したのだ。
「なんだ、なんだ?」
「おい、どうした」
「おお、お前らなんだ?」
ゼノビアとシズが大きな声で悲鳴をあげたことで、あっという間に大勢の通行人たちに囲まれてしまった。
どうやら、ここは王都の中心部にある噴水広場と呼ばれる場所のようだ。
昼間でも夜でも、たくさんの者が集まって寄合や集会を行ったり、あるいは憩いのために集まったりする場所だ。
広場を囲むように屋台もたくさん並んでいて、さっと眺めるだけでも、百人近い者がいる気がする。
「ううっ」
とにかくゼノビアは、しゃがんでいる身体を両手で隠すようにしながら、歯を食い縛った。
猛烈な尿意に襲いかかられているのだ。
なにが起こったのかを頭で理解するのに、数瞬が必要だった。
そして、もしかしたら、これは『転送術』とか『移動術』とか称される跳躍魔道ではないかと考えた。
もちろん、ゼノビアほどの能力では遣うことなどできない高位魔道であるが、あのスクルズと呼ばれていた巫女が、実はゼノビアには足元にも及ばない高等魔道師であることは確かだ。
ゼノビアの魔道が一瞬にして使用不能にされたことから、それは明白だ。
そうであるとすれば、あのスクルズがロウというエリカの「ご主人様」に命じられて、ゼノビアとシズを魔道で、衆目の中に素っ裸で送り込んだのは、間違いない気がする。
「ああ、向こうに行ってください……」
消え入るような声でシズが言ったかと思うと、シズの股間からしゅっという音とともに、ゆばりが落ち始めた。
そして、それは大きな音を立てて地面を奔流として叩き始める。
無理もない……。
このシズは、あのロウから拷問され、木樽で大量の水を飲まされて、かなりの時間、不思議な力で尿道を塞がれて、尿意が溜まったままにされていたのだ。
それが、ここに跳躍されるとともに、解放されてしまったのだろう。
いくら大勢の市民の集まる王都広場といえども、シズが一瞬しか我慢できなかったのは無理もない。
とにかく、ゼノビアとシズを囲んでいた者たちが騒然となった。
「ああっ……、もういやあ……」
シズが泣き始めた。
「シ、シズ……泣かないで……。ごめん、ごめんね……。あんたの依頼に失敗したのは、あたしのせいよ……」
ゼノビアは手で顔を覆ったまま、自分の決断で尿道を緩めた。
あるいは、もうほんのしばらくは尿意を我慢できたかもしれないが、いずれにしても、ここから逃げ出すほどには耐えることは不可能だっただろう。
それだったら、愛するシズとともに、ここで羞恥地獄を味わおうと思った。
それが、シズに対するゼノビアのせめてものお詫びだ。
「こいつらなんだ? いきなり小便を始めたぞ」
「頭がおかしいんじゃねえか?」
「新手の娼婦か? だが、陽が落ちる前に商売をするのは、王都じゃあ禁止だぜ」
衆人の中に混じっている若い男たちが、からかいの言葉をぶつけ始めた。
早く逃げ出したいのだが、シズとゼノビアの放尿は続いている。
立ちあがることは、まだできない。
そのあいだも、白痴だの、頭のおかしな女たちだのという揶揄が降り注ぐ。
隣では、シズが慟哭し続けている。
だが、一方で、ゼノビアには、こんな仕打ちを受けたことに対する怒りがふつふつと沸き起こってきていた。
まあ、いずれにしても、今回はゼノビアの失敗だ。
あのエリカというエルフ女に、あんな恐ろしい力を持った男がついていたとは夢にも思わなかったし、彼を取り巻く女たちがあれほどの一騎当千の女傑たちとは不覚だった。
とてもじゃないが、ゼノビアには歯が立たないというのは、完全に理解した。
シズの幼馴染だったエリカというエルフ女を見つけたことに満足し、その周辺調査を怠ったことは、完全にゼノビアの落ち度だ。
シズには本当に申し訳なかった。
しかし、だからといって、女を素っ裸で限界寸前の尿意を与えたまま、衆人のいる王都広場に魔道で転送するなどあんまりだ。
だが、ロウという男は怖い……。
あのロウに犯されたとき、なんらかの操り術のようなものを刻まれたのかもしれない。これだけの怒りに襲われながらも、ゼノビアはどうしても、ロウを憎いという感情を抱くことができないでいた。
おそらく、あのロウは、なんらかの操り術の持ち主……。
間違いない……。
だが、それを取り巻く女たちについては別だ。
まだ、残っているゼノビアの冷静な判断力がそれを語っている。
ロウに対して怒っているのに、腹をたてられない。
復讐をしたいのに、恨みの感情が沸かない。
その矛盾した感情に支配されているゼノビアは、それを解決しようと、懸命に心を整理しようとした。
そして、放尿をしながら、すぐにその解決法に到達した。
ロウの女だ……。
ロウには、腹が立たないが、その女に対してなら腹が立てられる……。
ロウには、恨みが沸かないが、その女に対してなら恨める。
ならば、スクルズだ。
神殿の高位巫女のくせに、得体の知れない若い人間族の男の言いなりになっていたあの女……。
おしっこを続けながらゼノビアは、ロウの命令に諾々と従って、躊躇なく素っ裸のゼノビアとシズを転送術でここに送ったスクルズという巫女に対する激しい怒りを込みあげた。
許さない……。
絶対に許さない……。
復讐してやる……。
さもなければ、恨み屋と自称して世間を渡ってきたゼノビアの女がすたる。
幸いにも、あのスクルズが何者かは、もうわかっている。
信じられないことだが、あのスクルズは、王都だけでなく、このハロンドールに入国したときから時折耳にすることがあった、若き美貌の高位巫女にして、優れた魔道師としても名高い第三神殿の神殿長に就任して間もないスクルズだ。
移動術を駆使できる魔道師のスクルズが、ほかにいるわけがない。
だが、意外だった……。
教会法では、確か、神殿長となる巫女は俗世の男性との性的関係はご法度のはずだ。
男神官とは異なり、巫女の最高職就任には特別な意味がある。
神々の父、クロノスとの婚姻の意味があるのだ。
神官とは無縁のゼノビアでさえも、そのくらいの常識はある。
だったら、神殿長に就任するスクルズが、ロウという男の愛人であるというのは、大変な醜聞になるはずだ。
だが、ゼノビアとシズをいたぶるあいだ、あのスクルズは、ロウにしなを作り、ロウの命令に絶対服従の態度を崩さず、ロウに女として特別な感情を抱いていることを隠そうともしていなかった。
つまり、あのロウは、エリカに加えて、仲間のふたりの女を愛人にしているのみならず、第三神殿のスクルズまでも愛人にしているのだ。
しかし、だからこそ、これを恨みを晴らす手段にしてやろう……。
ゼノビアは放尿をしながら思った。
それにしても、溜まりに溜まった尿はなかなか終わる気配がなかった。
その分、ゼノビアとシズの死ぬような羞恥は続くということだ。
だんだんと、周囲のざわめきが大きくなる。
ゼノビアの怒りは頂点に達した。
「お前ら、なに見てんだよ──。いつまでも見物してんじゃない──」
絶叫した。
すると、さすがに周りの者たちがたじろいだように、取り囲む輪を大きくした。
「こら、行きなさい──。散るのよ──。ここは、このミランダが預かる。いいから解散しなさい」
そのときだった。
突然に女の声がして、集まっている者たちを退け始めた。
ミランダ……?
少なくとも初めて接する声には違いないが、名に記憶がある。
すると、目の前に十歳くらいではないかと思われる童女が現われた。
「ほら、あんたたち、ちょっと周りを隠しなさい」
しかし、その童女が一緒にいた人間族の大人の女ふたりに指示をした。
すると、その女たちが身に着けていた上着を両手で拡げて、ゼノビアとシズを周囲から隠すように拡げてくれた。
そして、やっと放尿が止まった。
だが、ふと見ると、シズは自分がした尿の水たまりの上にしゃがんだまま泣いている。
余程にショックだったのだと思う。
「貸して、お願い」
ゼノビアは前後を囲む二枚の上着のうちの一枚をひったくって、シズの裸身を隠した。
シズが立ちあがって、ゼノビアにすがるように抱きついてきた。
「こ、怖かった……。本当に怖かった……。ご、ごめんなさい、ゼノビアお姉さま……。あんなに怖い思いをさせて……。ごめんなさい……」
シズがゼノビアを抱いたまま声をあげた。
ゼノビアはその身体をぎゅっと抱きしめ返す。
そのゼノビアの裸身を後ろからなにかが覆った。
服だ──。
壁にしてくれていたもう一枚の上着をその小柄な女性がかけてくれたのだ。
そして、そのときには、ゼノビアはこの童女にしか見えない女が何者かを思い出していた。
この王都で冒険者ギルドの副ギルド長をしているドワフ族の女のミランダであり、一騎当千の実力者集団を牛耳るこの王都の重要人物のひとりだ。
エリカへの復讐が終われば、このハロルドで冒険者として居を構えることも検討していたので、ミランダという冒険者ギルドの事実上の支配者の女のことは、名前くらいは覚えていた。
それで閃いた……。
冒険者ギルドといえば、金銭次第でどんなことでも引き受けるという、王家や貴族界、宗教界、あるいは商人ギルドとも一線を画する、既存の権威の外にある集団だ。
だったら……。
ゼノビア自身が復讐を企てることは諦めている。
だが、その冒険者ギルドに頼めば……。
依頼の内容は、「第三神殿の神殿長スクルズという巫女の権威の失墜」──。
幸いにも、身に着けているものは剥がされたが、宿に置いている荷には手はつけられていないと思う。
そこに、これまでの生活で貯めに貯めた財が隠してある。
この依頼に、それを全部つぎ込んでやる。
そして、この王都から逃亡する。
それに決めた。
この方法なら、なにかの操り術を仕掛けられたゼノビアでも、「恨み」を晴らすことができそうである。
とにかく、なんでもいいのだ……。
仕返しが成功するか否かさえも、実はどうでもいい……。
しかし、このままでは、どうしても腹の虫が収まらないのだ。
だから、どんな些細なことでもいいから、仕返しをしたという思いを抱いて、シズとともに王都を去る……。
それで、なんとか心を抑えよう……。
いずれにしても やはり、ロウという男に復讐する気持ちは、まるで心を制御されたように、心に浮かべることができない。
だが、その周りの者であれば、ゼノビアの復讐心は抱くことができる……。
よし──。
「……遠くから見ていたけど、あんたらふたりがいきなり出現したことで、なにが起こったのか想像がつくわ……。とにかく、ギルド本部はこの近くよ。一緒に来なさい」
思考に耽っていたゼノビアの肩をミランダがぐいと押した。
*
「依頼?」
ミランダは目を丸くした。
同時に、慌てて部下を部屋から退出させて、ゼノビアとシズと三人だけになった。
そして、大きく溜息をついた。
ロウったら……。
困惑するとともに、ここにはいないあの男のいつもの鬼畜癖に、呆れた思いが沸き起こった。
冒険者ギルド本部の個室のひとつだ。
ミランダは、王都広場に素っ裸で出現して、いきなり衆人の中心で放尿を開始した見知らぬ若い女をとりあえず、ここに連れてきた。
まあ、なにが起こったのか、このふたりが『移動術』で転送されて来た時点で、ミランダは察してしまったが……。
人をある地点から別の場所に一瞬にして跳躍させる『移動術』は、この王都でもスクルズ、ベルズ、シャーラにしか遣いこなせない高等魔道だ。
非常に珍しい魔道であり、周りにいた者は、ゼノビアとシズが魔道で跳ばされてきたことすらわからなかったようだが、ドワフ族として少しは魔道も扱うことができるミランダには、なにが起こったのか、すぐにわかった。
そして、このふたりが 跳躍術でやってきたということは、スクルズ、ベルズ、シャーラの三人のうちの誰かが、それをやったということでもあるだろう。
しかし、その三人は自分の意思でそんな鬼畜はやらない。
だが、反面、その三人は、ある男の命令であれば、どんなことでも従ってしまう。
つまり、ロウだ。
また、激しい尿意に襲わせたまま、若い女を素っ裸で王都のにぎやかな場所に送り込むなどという鬼畜は、いかにもロウがやりそうなことだ。
さらに、ミランダは、なにが起こったのかという質問に対して、舌が張り付いたように黙り込んでしまうゼノビアとシズの姿で、すべてが、ロウの仕業であることを完全に確信した。
おそらく、ロウとのことを口外できないようになにかの処置を刻まれたに違いない。
だが、事情の説明もできないのに、いきなりゼノビアという女が、冒険者ギルドに対するクエストの依頼を始めたのだ。
これには、びっくりした。
その内容は、第三神殿のスクルズの醜聞を世間に拡げるというものだった。
つまり、「スクルズには実は愛人がいて、その男の性奴隷的な女だ」という話を世間に拡めろというのだ。
自分でしないのは、ロウの仕返しが怖くて自分ではしたくないが、守秘義務が徹底されている冒険者ギルドを通せば発覚しないと思ってくれたのかもしれないし、もしかしたら、ロウのなんらかの処置で自分では行動できないのかもしれない。
いずれにしても、依頼そのものは、もしも、噂として拡げる内容が事実であれば、ギルドとしての倫理を逸脱するものではない。
そして、ミランダは、それが事実であることを調査の必要もなく知っている。
また、かなり高額な依頼料を支払う準備もあるようだ。
冒険者ギルドを預かる副ギルド長としては、クエスト依頼を不適当な案件として跳ね除けてしまう理由はない。
ただ、ミランダとスクルズが個人的に親しいという一点を除けばだ。
しかし、どうやら、このゼノビアもシズも、ハロンドール王国の王都ハロルドにはやって来たばかりであり、そういう世事については疎いようでもある。
……というよりは、見たところシズはもちろん、ゼノビアはかなりの世間慣れしている気配はあるものの、いまは冷静な判断ができないほどに感情が昂っている様子だ。
無理もないが、冷静になる前でよかった。
この女が、冒険者ギルドに依頼すること以外に、なにかの仕返しの手段を思い付いた後だったら、多少面倒なことになるところだったかも……。
ともかく、ゼノビアは、ミランダが冒険者ギルドの副ギルド長だと認めると、いきなりスクルズに対する復讐を依頼してきた。
察するところ、人の心を支配する不思議な力のあるロウのことだから、ロウに仕返しをすることや、ロウにやられたことを他人に訴えることについては、このふたりができなくなるようにはしたようだ。
けれども、それは、ロウ以外の者に復讐することができなくなる所にまでは及ばなかったようだ。
ギルドを通じてだが、しっかりとスクルズへの復讐をしようとしている。
ミランダはどうしたものかと、溜息をついた。
それにしても、どうにもロウのやったことは中途半端だったようだ。
また、スクルズもスクルズだ。
宗教界の最高権威のひとつである王都第三神殿の神殿長であるというのに、スクルズはいつまでもロウに絶対服従すぎる。
一度、説教が必要かもしれない……。
「ねえ、あたしはもういいわ、ゼノビアお姉さま……。なにか嫌な予感がするの。もう関わるのはやめましょうよ。もう復讐ごっこはいいよ」
シズが言った。
会話の端々から、このシズこそ、ロウたちになにかのちょっかいを出した張本人だということがわかる。
それを手伝ったのが、このゼノビアらしい。
だが、手酷い仕返しをロウから受けた。
まあ、そんなところだと思う。
当たらずとも遠からずというところだろう。
このふたりは、自らそれをミランダに説明することはできないようだが、それも、ロウに確認すればわかることだ。
「なに言ってんのよ、シズ。あんた口惜しくないの?」
「口惜しくない。あたしは、むしろ命が残ってよかった……。できれば、二度と関わりたくない。あたしには、ゼノビアお姉さまがいればいい。もう、それで十分」
「とにかく、これは矜持の問題よ。あのままじゃあ、終われないわ」
ミランダは言い争いのような会話を始めたふたりに、咳払いでこっちに注目を向ける。
そして、口を開いた。
「……とにかく、あんな恰好で外に放り出されたりして、身体が冷えたんじゃない。温かいものを準備させるわ。詳しい話はそれからにしましょう……。ちょっと待ってね。クエストの依頼受けの書類を準備するから」
ミランダは一度席を立ち、そして、ランを呼ぶ。
ランもまた、ロウの性奴隷の刻みを受けており、ミランダとともに、スクルズとロウの関係も十分に知っている。
「ラン、いつものお茶を準備してあげて……」
書類を探す振りをして、ランに言った。
だが、“いつものお茶”などというものは、ここには存在しない。
敏いランなら、それで察するはずだ。
お茶に眠り薬を服用させると思う。
「わかりました、ミランダ。いつものですね」
ランは支度を始める。
ミランダは、書類を準備する素振りをしながら、それを見ていた。
すぐに、ランがふたりの前に温かい紅茶を差し出した。
ふたりとも、特に疑う様子もなく、それぞれに茶をすすり始める。
ミランダは、にやりとほくそ笑んだ。
とにかく、あのふたりが冷静になる前でよかった……。
さもなければ、飲み物に一服盛るなどという古典的な罠には、簡単に引っ掛からなかったかもしれない……。
ミランダは、さっそくふたりがうつらうつらし始めたのを確認すると、書類の準備をやめて、ふたりが完全に眠り込むのを待つ態勢になった。
*
はっとした。
気がつくと、ゼノビアは見知らぬ場所にいた。
なにが起きているのか自覚するのに、しばらくの時間が必要だった。
そして、腕と肩に激痛が襲った。
「……お目覚めか、ゼノビア? こんなに早く再会するとは夢にも思わなかったな。せめてもの情けとして、丸一日は休ませてあげた。ずっと寝ていたのでわからないと思うけど、いまは、あれから一日経った翌日だ」
聞き覚えのある声がした。
そして、身体に戦慄が走った。
恐怖が迸る。
目の前にいるのは、あのロウだった。
そして、そのロウは、ゼノビアの視線の少し下にいて、椅子に腰かけている。
もっとも、こっちを向いているのは背もたれだ。
ロウは顔だけをこっちに向けている。
それでわかったが、ゼノビアは両手首を縛られて、天井からぶらさげられていた。
床は宙に浮いている爪先のずっと下にある。
ここは、どこかの屋敷のようだ。
どうしてここに……?
ゼノビアは頭が混乱した。
最後の記憶は、ミランダによって冒険者ギルドに連れていかれ、依頼するクエストについて話をしていたときのことだ。
だが、それで記憶が途切れている。
ミランダが書類を取りにいくと告げ、そして、若いギルド職員がお茶を入れてくれて……、そのあと急激な睡魔が襲い……。
「ああ、もう許して──。エリカ、許してったら──」
そのとき、シズの悲鳴がした。
「ああ、シズ──」
ゼノビアは叫んだ。
少し離れた場所で、全裸で後手縛りにされたシズが、三角木馬に跨がされて悲鳴をあげていたのだ。
その周りに、エリカとあのもうふたりの女の仲間がいた。
よくわからないが、エリカたち三人も全裸だ。
どうやら、三角木馬に跨っているシズをその三人が筆でくすぐり続けているようだ。
シズは泣き叫んでいる。
「や、やめて──、シズのことを許して──。あたしが責められる。あたしを痛めつけて」
ゼノビアは絶叫した。
どうしてこうなったのか理解もできないが、冒険者ギルドにいたはずのゼノビアとシズは、そこで意識を失わされて、今度はロウの屋敷に連れて来られたらしい。
なんで……?
どうして……?
とにかく、恐怖が頭を渦巻く。
うまくものを考えられない。
すると、ロウが笑いだした。
「あんたが責めを負うのは当たり前だろう。軽い罰で許してやったら、今度はスクルズに危害を加えようと考えるとはな──。今度こそ、本物の恐怖と服従を身体に刻み込んでやる……。ところで、もういいよ」
ロウが椅子から立ちあがった。ロウは服を着ていなかった。
勃起した性器が股間にそそり勃っている。
「うわっ、まさか」
そして、こっちからは死角になって見えなかったものが視界に入って来て、ゼノビアは悲鳴をあげてしまった。
ロウの椅子の前に、さっきのミランダとランがうずくまっていたのだ。
しかも、ふたりとも全裸だ。
両手を後手縛りにされて、どうやらロウの股間を口で奉仕していた気配である。
「……そうだ──。ゼノビアへのお仕置きの前に、うまく対応してくれたミランダとランに、ご褒美をしなくっちゃね。床に膝を立ててお尻をこっちに向けてくれ」
ロウが言った。
「あんたって、まったく……。ここに来るたびに、あたしを巻き込んで、馬鹿げた乱痴気騒ぎをするけど、普通に会話をして、普通に食事するとかないの?」
ミランダが全裸に後手で縄をかけられた姿で不満そうに言った。
「馬鹿げた乱痴気騒ぎは、ミランダが来なくても、いつもやってる。それこそ、普通のことだよ。ほら、ランも……。そろそろ、ランもこういう乱痴気騒ぎにも積極的に参加して欲しいと思っていたところだ。たまたま、それをやっていたところで丁度良かった」
ロウがくすくすと笑う。
「は、はい……」
ランという若い娘は、真っ赤な顔で頷いた。
そして、ロウに命じられるまま、縄で拘束された裸体をうつ伏せにして、ロウに向かってお尻を高く上げた。
「なにが、たまたまよ──。あ、あたしは、あんたにお説教しにきたのよ。それなのに、なんでこんなことになるのよ──」
一方で、横のミランダは、まだ悪態をついている。
「もちろん、お説教は聞くよ。犯しながらでよければね……。それよりも、お礼をしなくていいの? じゃあ、ランだけ犯すか? ミランダは横で見るだけでいい?」
ロウが余裕ぶったわざとらしい口調で言う。
しかし、ゼノビアにはわかった。
このロウはもちろん、ミランダにしても、これは言葉だけの遊びだ。
実際にはミランダは、怒ってもないし、むしろ、照れているだけだ。
逆に、すでにかなりの興奮状態にある。
縛られることで欲情しているのだと思う。
その照れ隠しに、もっともらしいことを言っているだけだ。
そもそも、たったいままで、部下の女と男の性器をしゃぶっていて、お説教もなにもあるものか──。
「じゃあ、いくよ、ラン」
ロウがランのお尻に手をやって、後ろから愛撫を開始したのがわかった。
「ああ、し、しなくていいとは、言ってないわよ……」
すると、ミランダが顔を真っ赤にして、慌てたように、ロウに言われるままの恰好になった。
ランと同じであり、つまり、頭を床につけて、お尻をこっちに高く掲げる格好だ。
女として、これほど無防備な体勢もないだろう。
第三神殿の神殿長だけでなく、冒険者ギルドのミランダや職員のランまで……?
この男、果たして何者?
ゼノビアに今度こそ、正真正銘の恐怖が走った。
そのミランダとランの股間をロウが背後から指で代わる代わる愛撫を始める。
すると、ミランダとランのふたりがあっという間に激しい反応をして悶え始めた。
(第41話『恨み屋さん』終わり)
第1部 完結