【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
245 ふたつ目の陰謀
【ナタル森林国・イムドリス宮】
「ガドニエル様、よろしいですか? ブルイネン隊長がおみえです」
ガドニエルは、侍女の呼びかけに、気だるさをこらえて頷いた。
このところ、ガドニエルは体調のすぐれない日々が続いていた。
まだ齢は、百五十年も過ぎていない。
黄金色の長い髪もまだ少女時代のときのままだし、肌の滑らかさも、見た目の若さも、人族の二十代の女と引けを取らない状態を保持している。
しかし、実際のところずっと身体に力が入らないという日々が続いているのだ。
治療の魔道も、エルフ族の秘薬も役には立ちはしない。
なにかの「呪い」なのだろうかと思ったりまでしたが、どうもよくわからないでいた。
ここはナタル大森林という巨大森林の中心にあるエルフ族の小城塞である。
城塞名をイムドリス宮殿という。
ナタルの大森林には、百個以上の森エルフの里があり、さらにドワフ族の村や有名な地下都市もある。
イムドリス宮殿は、ナタルの森を支配するエルフ族長老の住居だ。
そして、エルフ長老家の深い結界で隠された亜空間の中にある。それを支配することは、エルフ長老家の長老しかできない。
つまりは、ガドニエルでなければ、結界は自由にならないのだ。
逆に、ガドニエルならば、このイムドリス宮殿を世界のどこにでも繋げることができる。
いまは、ナタル森林国の首都的な空中都市のエランド・シティの行政府である水晶宮に繋げている。
だから、ガドニエル以外の者がイムドリス宮に来るには、その水晶宮を経由するしかない。
ガドニエルは、そのイムドリス宮殿とエランド・シティの女王であり、森エルフだけでなく、世界に拡がる街エルフも含めたすべてのエルフ族の頂点に立つ女長老でもある。
もっとも、頂点といっても、実際にはナタルの森にある有力族長のまとめ役にすぎず、人族の王のように絶対的な権力があるわけじゃない。
エランド・シティについても、行政は太守に完全に任せておりガドニエルに実権はない。
ただし、ガドニエルが動けば、すべてのエルフ族になんらかの影響を及ぼす。
それくらいの力はある。
侍女が両扉の片側を開く。
椅子に座ったまま顔をあげると、血のりのついた具足のままのブルイネンがガドニエルに向かって真っすぐに部屋を横切って来る。
ガドニエルは訝しんだ。
任務を果たして一目散に戻ってきたのだろうが、長老の塔に報告にやって来るまでに、せめて血を拭くくらいのいとまはあったはずだ。
だが、戦闘の痕跡が残る恰好のままやって来るのはどうしたことだろう。余程に急いでやって来たということだろうか。
「ひとまず任務を果たしました。とりあえず、エランド・シティの城塞の周辺に沸いた魔物のたぐいは一掃したことを報告します」
「どうしたのです? 随分と暗い顔ですね。魔物は退治をしたのでしょう」
ブルイネンの浮かない表情を見て、ガドニエルはそう言った。
ガドニエルがブルイネンに命じていたのは、イムドリスが繋がってるエランド・シティの周辺で発見された新しい「特異点」の封印と、そこから溢れ出たらしい魔物の退治だ。
このところ、ナタル森林のあちこちに特異点が発生して、魔物の力の根源である瘴気が溢れかえり、それにより、封印されたはずの魔物が次々に現われるということが続いていた。
特異点というのは、かつて人族と戦った魔王である「冥王」とその眷属の魔物を封印した魔界と、こちら側の世界を繋ぐ出入り口のことである。
完全に封印したはずなのだが、なんかのきっかけで封印が弱くなる空間ができて、冥王のいる魔界が繋がってしまうのだ。
それが「特異点」である。
特異点ができれば、そこから、大量の瘴気とともに、何十という魔物が出現して、こちら側の世界を荒らす。
それだけでなく、瘴気がさらに拡大して、大地に満ち満ちてしまえば、冥王そのものが現われるほどの、空間の大きな綻びに発展するかもしれない。
だから、すぐに魔物を退治するとともに、特異点を再び封印して瘴気の拡大を防がなければならないのだ。
特異点だけを封印しても、魔族の吐き出す息そのものが瘴気である。
魔物もまた、駆逐しなければ、やはり、瘴気の充満の原因になってしまう。
ガドニエルは、イムドリスのエルフ守備兵を使って、その魔族討伐と原因となる特異点封印を逐次に続けさせていた。
もちろん、イムドリス宮で隔離した生活を送っているガドニエルに、その義務もなければ、役割もない。
ガドニエルは、あくまでもナタル森林国の象徴にすぎず、実際の森の運営は、エランド・シティと呼ばれるナタル森林内の中心である空中城塞に置かれている水晶宮の政務庁で行うからだ。
魔族討伐のためのエルフ軍も、その水晶宮が握っている。
だが、このところのナタルの森の魔族の大発生は、あまりにも異常事態である。
ところが、水晶宮で政務を任せているカサンドラという女エルフのやり口が、あまりにも無策のように思え、女王として危機感を覚えていた。
それで、カサンドラを通して得られるもののほかに、情報を得ようと思って、親衛隊を動かして、討伐の傍ら、情報集めをさせていたのだ。
ブルイネンは、その親衛隊長だ。
「討伐に当たったエルフ兵十人が死にました」
その報告に、ガドニエルは眉をひそめた。
魔物討伐は戦いであるので、負傷はつきものだ。
しかし、魔道力の強いエルフ族の兵は滅多なことでは死なず、即死でない限りすぐに治療術で回復する。
従って、十人の死者が出たということは、エルフ族の強兵を十人一度に即死できるほどの強力な魔物が出たということだ。
ブルイネンが重そうな口を開く。
巨人族の軍団──。
信じられない単語がそこから洩れた。
ほかにも、グリフォン、キマイラの単語もあった。
それだけの超強力な魔物が、エランド・シティの近傍に現れたというのは信じられないことだった。
「命を落とした者に冥福を……」
ガドニエルは立ちあがって祈りの仕草をした。
ブルイネンが静かにこうべを垂れる。
「それにしても、このところの魔物の頻繁な出現は異常です。これだけの質と数の特異点が続けて発生するなど、かつてなかったことです。なにが起きているのでしょう、ガドニエル様?」
祈りの仕草が終わるとブルイネンが言った。
ガドニエルは首を横に振った。
「わかりません。でも、これがナタルの森に留まらない、全大陸の現象ということは断言できます。三公国、ハロンドール、エルニアなど、人族の諸王国からも、頻繁な特異点の発生と魔物の出現は報告されています。嫌な予感がします」
ガドニエルは椅子に座り直しながら言った。
外交というものを積極的に行わないナタル森林国であり、また、政務に関することは全て、結界の外側のエランド・シティの水晶宮でしか行わないので、ガドニエルに入る情報は間接的なものだ。
それでも、この世界に異変が起きているという兆候には、十分のことのようにガドニエルは感じた。
「嫌な予感とは?」
「もしかしたら、冥王の復活とか……」
ガドニエルは静かに言った。
ブルイネンが「まさか」という顔をしたが、これまでに集められているすべての兆候を繋ぎ合わせればそうなるのだ。
特異点の乱出以外にも、ブルイネンにも話していない世界中の数々の異常現象の情報があるが、そういったことの全部を分析していけば、数百年前に異界に封印された冥王を、誰かが復活させようとしているのではないかという結論になる。
恐ろしいことだが……。
「……荒唐無稽のこととはわかっています。でも、とにかく、わたしの名で人族の王たちに親書を送ろうと思います……。“冥王の復活の兆候あり”──と。これをエルフ族女王のガドニエルの名で知らしめます。冥王の復活など許してはなりません。情報を共有し、特異点の出現を防ぎ、現れればすぐに封印する。これを繰り返すしかありません。ましてや、このナタルの森に、冥王復活の場所など作らせてはならないのです。それは、ブルイネンにお願いします」
ガドニエルの言葉に、ブルイネンが顔を引き締めて出ていく。
「アルオウィンを呼んでくれる?」
ブルイネンが去ると、ガドニエルは侍女に告げた。
アルオウィンとは、ガドニエルが使っている手の者の長だ。
ブルイネンが軍団を率いて表の戦いをするとすれば、アルオウィンは人の海に紛れて、各地で情報収集や裏の任務を果たす仕事をする。
亜空間結界にある宮殿に閉じこもり、世間と途絶されているガドニエルの唯一の耳目である。
そういう役割だ。
しばらくすると、美しい女エルフがやって来た。
アルオウィンである。
「ガドニエル様、お体の具合はいかがですか?」
「ちっとも……。このところ、心労の種が続いていますからね。その疲れが溜まっているのかもしれません」
ガドニエルはアルオウィンに言った。
そして、世界各地の特異点にまつわる異常現象についてのガドニエルの意見を口にした。
何者かが冥王の復活を目論んで、意図的に特異点の拡大と拡散を謀っている……。
信じられることではないが、アルオウィンとは何度もその可能性について意見を交わしてきた。
アルオウィンも、いまはガドニエルと意見が同じであり、このところの特異点発生は、偶然ではなく、人為的なものを感じていると言っている。
「先日やって来た人族の女のことを覚えていますか?」
「ノルズですね」
アルオウィンは言った。
半年ほど前だが、このアルオウィンがこのイムドリスにやって来たひとりの人族の女を連れてきた。
エルフの結界があるこの小宮殿に、そのノルズと名乗る女がどうやって入ったかはわからない。
ここに入るのは、事実上、エランド・シティにある水晶宮にある特別な部屋から入るしかない。
だが、そこは厳重に管理されており、密かに入り込むなど、事実上不可能のはずなのだ。
しかし、入ってきた。
すぐにアルオウィンの部下が捕らえたものの、そのノルズがもたらした警告は、あまりにも常軌を逸したものだった。
だが、アルオウィンは、持ち前の勘で、そのノルズという女の言葉が意味のない出鱈目ではないと思ったらしい。
だから、アルオウィンがガドニエルの前に、ノルズを連れてきたのだ。
そのノルズが警告したのは、三公国のかつての宗主国であり、いまはなんの権力もない皇帝家が、冥王の復活をさせようという陰謀を働いているというのだ。
そして、それを実現させるために、世界各地で特異点発生の工作を続けており、そのもっとも大きな特異点が、三公国の端にある「アスカ城」という都市国家で作られようとしているという内容だった。
いまであれば、あの警告が真実かもしれないという思いはあるが、当時は馬鹿げた話だと思った。
俄かには信じられないことであり、なによりも、アスカ城のアスカが、ガドニエルやナタルの森に害を及ぼそうとするなど、あり得ないことなのだ。
ガドニエルはとりあえず、そのノルズを牢に監禁するように命じた。
イムドリスに潜入した罪と、不穏な噂を広めて人心を不安に陥れようとしているという罪だ。
しかし、その夜のうちに、ノルズは脱走して、イムドリスから消えた。
いまもって、どうやって逃げたのか、さっぱりとわからない。
「あの言葉が気になります。アスカ城という場所に向かってくれますか? そこでなにが起きているのか、あるいは、起きていないのかを確かめてきてください」
「わかりました」
アルオウィンは言った。
そのアルオウィンも退出する。
「疲れました。湯浴みをします」
ガドニエルが侍女に言うと、すぐに五人の侍女が動き出す。
やがて、湯の準備ができたと、ひとりが言いに来た。
ガドニエルはその侍女の肩を借りて、部屋を出て湯舟に向かう。
本当に体調が悪い。
こんなこと初めてだし、この半端ない疲労感はなんなのだろう。
湯舟のある部屋に着く。
大きな部屋に深紅の絨毯が敷き詰めてあり、その真ん中に人がひとり入れるくらいの湯舟がある。
香水の香りをたちこめたなめらかな湯が満たしてある。
ガドニエルは身に付けているものをすべて侍女たちに脱がせてもらい湯舟に肢体を浸ける。
「ふう……」
気持ちがいい。
ガドニエルは湯舟の中から首と乳房と足首から先だけを出して、身体を伸ばして横になった。
身体が温かくなるにつれて、眠気に襲われた。
ガドニエルは、静かに眼を閉じた。
しばらくしてから目が覚めた。
どうやら、本当にあのまま眠っていたらしい。
湯舟の中で上体を起こした。
鎖の音……。
はっとした。
両手首に金属の枷が嵌められている。
びっくりした。
そして、はっとした。
湯舟の前に、ひとりの男エルフがいたのだ。
「さすがは世界一の美しさと称されるガドニエル様ですね。じっくりと裸を堪能させていただきましたよ」
さすがに小娘のような悲鳴はあげなかったが、慌てて乳房を腕で隠すようにして身を竦めた。
「な、何者だ──。どうやって、ここに入った──?」
動顛した。
そして、すぐに誰なのかわかった。
ダルカンというエルフ族の男だ。
一年以上前に、褐色エルフの里という小さなエルフ村で長老をしていた男であり、そこで罪を犯して、顔に刺青のうえに、その里を追放になった男である。
本来であれば、ナタルの森にも残ることはできないのだが、このダルカンの縁者がガドニエルに親しく、泣きつかれて仕方なく、小間仕事をする雑人として、イムドリスに住むことを許した。
ここであれば、世間と隔離されているので、エルフ族の世界から追放された者でも匿うことはできる。
罪人らしいが、反省しているようだし、頼まれたこともあり、仕方なく、彼を預かることにした。
最初以降、一度も顔など見なかったのだが、罪人であることを示す刺青が額にあることから、それを思い出したのだ。
だが、なんでここに?
ガドニエルはすっかりと狼狽えてしまった。
「お前たち、なにをしている。この不届き者を捕らえよ──。すぐにブルイネン隊長を呼べ」
叫んだ。
湯舟の周りには、相変わらず五人の侍女が囲むように立っていた。
しかし、ダルカンは、彼女たちになにも咎められることなく、鼻の下を伸ばしたような下品な顔つきで、ガドニエルの裸身を眺めている。
「わからないのですか、女王様? 五人の魔道の杖は、俺じゃありませんよ。さっきからあんたを狙っているんですよ」
ダルカンの言葉にはっとした。
確かに、侍女たちはいつの間にか、魔道の杖を抜いている。
魔道の杖というのは、持っている魔力を増幅して魔道を強力にする道具だが、彼女たちはそれをガドニエルに向けているのだ。
わけがわからない。
すると、ダルカンが魔道の杖を出し、魔道を放った。
手枷に鎖が出現して、ガドニエルの裸身を宙に引きあげる。
「う、うわっ──。ど、どういうことだ。お、お前たち、なんでだ? なぜ、侵入を許した? なぜ、捕らえん?」
侍女といえども、五人とも一騎当千の魔道戦士の女エルフたちだ。
しかも、ガドニエルに完全な忠誠を誓っているはずだ。
だが、まったくダルカンのやることを阻止しようとしない。
それどころか、ガドニエルがダルカンに抵抗できないように、ガドニエルの魔力を発散させるように魔道をかけている。
「無駄だよ、女王──。あんたが侍女だと思っていた女たちは、この一箇月で全員、こっそりと入れ替わってたんだ。ここにいるのは、みんな俺の仲間だ……。というよりもある方の部下だがな。特別な魔道具で侍女に化けているだけだ。あんたが元気なら気がついたかもしれないが、毎日、身体と魔力を弱らせる毒を与え続けてきたから、その身体じゃあ、入れ替わりなど感知できなかっただろうさ」
ダルカンが笑った。
侍女たちがずっと前から、いつの間にか入れ替わった……?
一箇月以上もかけて、毒を盛った……?
信じられないが、いまこの状況を考えると、それが事実なのではないかと信じるしかない。
しかし、エルフ族の女王たるガドニエルをその総本山たるイムドリス宮で罠にかけるだと?
「な、なにを考えている、ダルカン──。恩をあだで返すとは──」
ガドニエルは魔道を放った。
しかし、すぐにそれが無駄であることがわかった。
身体に魔力を封印する魔道陣が刻まれている。
寝ているあいだに刻まれたのだろう。
本来であれば、ガドニエルに魔道をかけて、魔道陣を刻むなど不可能のはずだ。
しかし、この一箇月調子が悪くて、ガドニエルの身体は本来の状態ではなかった。
どうやら、それはこのダルカンが仲間とともにやったもののようだが、とにかく、そのためにガドニエルは魔道を封印されてしまっているようだ。
ガドニエルは、背中に冷たい汗が流れるのがわかった。
「あなたが余計なことをするからですよ。俺はあんたを見張るのだけが役目だったのに、人族の国王に警告の親書を送ろうとするとはね……。そんなことをするから、こうやって強引な手段を使わなければならなくなったのです」
宙に浮かんだ鎖が天井を進み、身体全体が湯舟の外に出た。
ダルカンがガドニエルの背後にまわって、指を尻たぶの下から股間に這わせてくる。
「うっ、な、なにをするか──。や、やめよ──。やめんか──」
大声をあげた。
しかし、このガドニエルの部屋は、外に対して完全防護の結界がかけられている。
ガドニエルか、侍女が解放しなければ、どんな者でも部屋には入れないし、声が廊下に洩れることはない。
「なにを狼狽えているんですか? 生娘でもあるまいに」
ダルカンがいやらしく股間を弄ってくる。
ガドニエルは必死に脚をばたつかせた。
しかし、もともと毒のせいで身体がだるいのだ。
抵抗らしい抵抗もできない。
それをいいことに、ダルカンはガドニエルの乳房を揉み、クリトリスを愛撫し、腟に指を挿し入れる。
ガドニエルは悲鳴を振り絞って、総身をあばれさせた。
しかし、いやらしい愛撫がガドニエルの抵抗力を削ぎ落としていく。
それにしても、いまにしてもわからない。
本当に侍女は入れ替わっているのか?
誰かが変身している感じなど、まったくないのだが……。
「わ、わたしになにかあれば、すべてのエルフ族が敵に回る。こ、こんなことをして、ただで済むと思っておるのか──。この部屋の外には、わたしを守る大勢の者がいるのだ」
ガドニエルは言った。
「しかし、いまはひとりもいない。油断して平和呆けをするから、身の回りから侍女がいなくなっても、あるいは、毒を飲ませられ続けてもわからない……。違いますか?」
ダルカンが前に回って来て、片脚だけを掴んで、身体を引き寄せた。
いつの間にか、ダルカンは股間を露出していた。
勃起しているダルカンの怒張は、いとも簡単に、ガドニエルの股間にねじ込まれた。
「ああっ、あぐうっ」
激しく律動が始まる。
なんの抵抗もできない。
やがて、あっさりと精を注がれた。
犯されたのだ。
口惜しさに歯ぎしりした。
次の瞬間、ダルカンの手首にある腕輪が光ったと思った。
すると、ガドニエルは自分の心が、ぽんと肉体から弾き飛ばされるような感覚に襲われた。
床に弾き飛ばされる衝撃とともに、ガドニエルは身体を打ちつけていた。
驚くことに、ダルカンの身体が宙吊りになっているガドニエルの肉体に、すっと消えるのが見えた。
宙吊りの身体が鎖から外れて、裸身のガドニエルがこっちに視線を送る。
目の前に自分?
ガドニエルは茫然自失になった。
声をあげた。
「ガアアア、ハガアアア──アガアア?」
しかし、自分の口から出たのは魔獣のような呻き声だけだ。
身体を見る。
手も足も毛むくじゃらの醜くて、短いものに変化していた。
「アガアアアアア──」
喚き声はまさに野獣の咆哮だった。
まさか、身体を乗っ取られて、ガドニエル自身は魔獣の姿にされた?
部屋の隅にある大きな姿見を慌てて見る。
そこには、猪の顔をした醜い雌の
「ンガアアアア」
ガドニエルは絶叫した。
だが、口から出るのは、やっぱり魔獣の吠え声だ。
まさか、こうやって本物の侍女たちも、ひとりひとり魔獣に変えられたのだろうか?
「親衛隊長を呼べ──。部屋に魔獣が侵入した。捕らえよと命じろ」
ガドニエルの姿のダルカンがガウンを着ながら言った。
なんとか、ガドニエルは、もう一度魔道をかけようとした。
しかし、この身体ではまったく魔道が発動しない。
言葉さえも喋れない。
「誰か──。誰か──。魔獣です。長老様の部屋に魔獣が出現しました──」
侍女のひとりが駆け出した。
廊下に通じる扉を開いて叫ぶ声がした。
ガドニエルは焦った。
すぐにエルフの親衛隊の兵がやってくるだろう。
そうすれば、問答無用でガドニエルは雌の魔獣として殺される……。
ガドニエルは走った。
ダルカンの前から逃げて、さっきの部屋に出て机の中の一個の宝玉に飛びつく。
「いかん、逃げられます。あれは、女王のみが使える脱出用の魔道具です」
侍女のひとりが大声を出して指さしてきた。
しかし、そのときには、ガドニエルの心の入ったこの魔獣の身体は、宮殿の外の世界に跳躍していた。
*
「ガドニエル様──」
ブルイネンは部屋に飛び込んだ。
そこには、ガウン一枚だけを身につけているガドニエルの姿があった。
周りをガドニエルを守るように、侍女の魔道戦士たちが囲んでいる。
「おお、ブルイネン──。大事です。突然にオークが部屋の中に、魔道跳躍してやって来たのです。やって来たときと同じように亜空間を脱して、外世界のナタルの森に逃げましたが、まだ遠くには行っていないはずです。捕らえなさい」
ガドニエルが言った。
「はっ、草の根を分けても──」
ブルイネンは事の重大さを知って驚愕するとともに、すぐに周辺探索をするための兵を集合させるために動いた。