【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【ハロンドール王国・ラポルタ領】
薄暗い店だった。
テレーズ・ラポルタは、五人の護衛とふたりの侍女ともに、指定された刻限の少し前に着いた。
馬車は、街外れのなんでもない廃屋の傍に停めてある。そこから夜の街を護衛たちとともに、徒歩で進んできたのだ。
黒いマントを羽織り、顔もマントに付いているフードで隠している。
八人の全員が同じ姿をしていた。
ただ、護衛については、全員がマントの下に剣をはいている。
また、侍女も、懐に武器を隠している。
テレーズでさえ、武器を持っていた。
もっとも、テレーズについては、自衛のためであっても武器など役にはたたない。
女伯爵として四十歳を半ばすぎるまで、護身術すら学んだことはない。
しかし、テレーズを除けば、侍女を含めて全員が手練れだ。
そういう人選をした。
また、馬車に馭者を待たせているが、テレーズが二ノス以上戻らないときには、すぐに領館と、街にある領軍の施設に報せに走るように手筈を整えている。
万が一にも、相手の罠に陥らないためだ。
だが、そうでなければ、ぎりぎりまで交渉をするつもりではある。
テレーズとしても、ひとり娘のマリーは可愛い。
できの悪い子ほど愛おしいとはいうが、十四歳になるマリーは、貴族の誇りのようなものはなく、放蕩癖があり、お世辞にもできがいいとはいえない。
しかし、娘は娘だ。しかも、ひとり娘だ。死んだ夫の唯一の忘れ形見でもある。
できれば、助けたい。
だからこそ、連中の要求に従い、こうやって、女伯爵テレーズ自らやって来たのだ。
「いらっしゃい。ここは会員制の店でね。食事をして、酒を飲み、賭けをする。薬もある。あらゆる退廃的な性も揃えているよ。男でも、女でも、同性でも、異性でも……。獣人の娼婦もいる。男娼もね」
店の中は、とても狭くて、がらんとしていた。
テーブルも二個ほどしかない。
貴族の邸宅に仕える執事のような格好をした壮年の男がカウンターのような場所にひとりいるだけだ。
「ここの責任者に会いたいわね。迷い鳥の母親がやって来たと伝えて頂戴。羽根休めにやってきたとね。それに、夜はとても短いわ。なにしろ、男女が愛するには、十分な時間とはいえないからね。それと、月は青いし、太陽は明るい。私は躍り疲れているの」
テレーズは指示されていた合言葉を告げた。
壮年の男は頷いて、なにかの操作をした。
すると、驚いたことに、ただの壁に亀裂が走り、両側に開いて奥に進む空間が出現した。そして、奥に階段がある。
「主はお待ちかねだ。ただし、奥に進めるのは、お母さんを含めて女ふたりと男ふたりだけだ。それ以外は、ここで待つことになる。もしも、ここで交渉を打ち切るなら、マリーお嬢様とは二度とは会えない。掟のままに奴隷として売り払う。相手が貴族様だろうが、領主様だろうが、王様だろうが関係ない。あんたの娘はそれだけのことをした」
「マリーはここにいるのね?」
「行って確かめることだ。すべての交渉は、この先で行う。俺は交渉人じゃないし、ただの雇われただけの伝言者だ」
「どうだか」
テレーズは肩をすくめた。
そして、五人の護衛のうち、ふたりを指名し、ひとりの侍女に一緒に来るように命じた。
残りはここで待機だ。
いずれにしても、テレーズは、自分の領地が抱える都市の中に、こんな秘密の遊戯場のような場所があることは知らなかった。
外から見ただけでは、どこにでもあるような平凡そうな居酒屋にしか見えなかったが、実は会員制の特殊な遊び場になっていたのだ。
まあいい。
どうせ、ならず者の連中だ。
今回のことが終われば、理由をでっちあげてでも、容赦なく摘発させて潰すつもりだ。
だが、それは、娘のマリーを無事に保護してからだ。
マリーは素行が悪く、閉じ込めても、叱っても、夜遊びのようなことをやめられず、これまでも度々に騒動を起こしていた。
そのたびに、泣いて謝るのだが、やはり、ほとぼりが冷めると、また遊興に手を出して、羽目を外すということを繰り返していた。
付き合う友達も悪く、テレーズがいくら諭しても、まったく生活を改めるということがなかった。
領主の娘だから、大抵のことはテレーズの名を出せば、切り抜けられるという甘えもあっただろう。
テレーズとしても、忙しさにかまけて甘やかしてしまったという反省もある。
だから、今回のような騒動になってしまったのだ。
とにかく、テレーズの館に、マリーの知人だという者がやって来て、手紙を置き捨てて去ったときには驚いた。
それには、マリーが会員制の遊戯場に入り浸りになっていて、支払い能力のない借金を作ってしまい、さらに、贋金を使おうとして、店のしきたりに従い、借金奴隷として売り払う旨の内容が記してあったのだ。
マリーは、いつもの取り巻きの友人たちと、そこに行き、多額の借金を作ってしまったようだ。
すぐに、調べさせたが、事実のようだった。
さらに、それがあって、初めて気がついたのだが、マリーは昨夜、こっそりと屋敷を抜け出して、それっきり戻っていないということもわかった。
テレーズは自分の足元の領土内の都市に、そんな退廃的な店があるなど知らなかったが、それ自体は違法ではない。
だから、支払える能力のない賭けをすることは、むしろ、そっちが罪だ。しかも、手紙によると、マリーは贋金を使って見せ金にし、それで賭けをしたらしい。
それで支払えず、しかも、贋金という大罪を犯している。
どう聞いても、マリーが罪人だ。
見せしめに、店が奴隷として売り払っても、許されるほどのことだ。
領主の娘などということなど関係ない。
それが法だ。
もっとも、手紙の内容が、本当に真実であった場合の話だ。
しかし、すぐにさせた調査でも、不完全ではあるが、事実でありそうなことを裏付けていたし、しかも、いかにも、マリーがやりそうな話で、テレーズは真実ではないかと予感した。
だから、あまり公にすることを躊躇ったのだ。
連中は、すぐに処置せずに、テレーズに話し合いを求めてきた。テレーズ本人が交渉することが条件であったが……。
つまりは、交渉の余地があるということだ。
だったら、穏便にすませたい。
少し前とは異なり、多少の金銭の要求なら、なんとかするつもりだ
なにしろ、テレーズは一箇月程したら王都に向けて出発し、いまのルードルフ王の女官長として、王宮で働くことになっている。
それに伴う準備金を受け取っていた。
また、逆に、娘の犯した醜聞が明らかになると、テレーズにも極めて不都合だ。
なにしろ、今回の女官長の話は、ラポルタ家にとっては、まったくありがたいことなのだ。なくなったら困る。
まあ、女官長としてとはいっても、好色である国王の性愛の相手も含まれているらしいものの、大して産業もない、貧乏伯爵家としては、王宮側の準備する多額の準備金と定期的な支援金は魅力だった。
王の夜の相手として後宮に入ること自体も、未亡人であるテレーズからすれば、名誉に近いことだったし、テレーズは乗り気だ。
資金援助だけでなく、優秀な官僚団も領地に来ることになっていて、すでに先遣隊が来ている。
確かに彼らは優秀であり、テレーズがいなくても、上手く領地経営を導いてくれそうだ。
だからこそ、女官長の実娘が贋金で賭け事に興じ、店に捕らわれて奴隷として売却されたという、大変な醜聞を公にするわけにはいかないのである。
いずれにしても、まずは、娘のマリーの保護だ。
ただ、最初の手紙には、店の場所も交渉人の相手も記載はしていなかった。
慌てて、捜査をさせたときも、それらしい特殊な遊戯場所があるということはわかったが、具体的な場所の情報はなかった。
そんなときに来たのが、二度目の手紙だ。
今日の夕方のことであり、マリーについては引き渡すので、その代わりに、誰にも知らせずに、テレーズが自らやって来て、借金の支払いと謝罪をするように要求していた。
テレーズが直接に来ないときには、交渉は打ち切り、マリーは奴隷商に引き渡すとあった。
迷った末に、テレーズは連中の要求に応じるふりをすることにした。
少人数で乗り込むことは危険ではあるが、とにかく、マリーさえ身柄を確保できれば、あとはどうにでも揉み消せる。
店ごと関係者を潰せばいい。
後は、どうにかなる──。
それで、一騎当千で信頼のできる手練れの部下を同行させて、乗り込むことにしたのだ。
「どうぞ、伯爵様。この騒動の結末は、地下で待っています」
伝言役を名乗る男が大袈裟な仕草でお辞儀をした。
テレーズは現われた階段を選んだ三人の護衛たちとともに、降りていく。
果たして、そこは大きな広い部屋になっていた。
奥にはいくつもの扉があり、さらに向こうに部屋もありそうだ。
食事や飲酒をするテーブルのある場所、賭け事をする場所、なにかのショーをするようなステージもある。
椅子に囲まれた寝台まである。
テレーズたちがやってきたのは、小さなダンスホールを思わせる一画であり、そこに十人ほどの男女がいた。
全員が顔の半分を隠す仮面をつけている。
そして、その連中の前には、素っ裸で天井から両手首を束ねて吊るされているマリーがいた。
「マリー、ああ、なんてことを──」
テレーズは叫んで、駆け寄ろうとした。
しかし、そのテレーズを護衛たちが肩を掴んで阻んで、近づかせまいとする。
「な、なにをするのです。離しなさい──」
テレーズはかっとして叫んだ。
しかも、マリーの肌には、あちこちに青あざがあり、殴られたり、蹴られたりされた痕がある。
「勝手なことをしないのよ、伯爵様。ちゃんと捕まえておきなさいね、あんたたち」
「わかりました」
「かしこまりました」
マリーを囲む集団の中から、ひとりの女らしき者が出てきた。
女らしいというのは、その人物がテレーズと同じように頭にフードを被っていて、顔が隠されているから、はっきりとは判断できないからだ。
だが、見えている表情と声で、おそらく、女だというのはわかる。
しかし、それよりも、その女の言葉に、テレーズの護衛が反応したことに驚いた。
それだけでなく、まるで、その女の言葉に従うかのように、いまも、テレーズの肩を握る手に力を入れている。
ぎょっとして、ふたりを見る。
「女伯爵様、そんな風に見ても無駄よ。彼らは、すでにわたしに、忠誠を尽くしているわ。その侍女殿もね」
女が言った。
なにを言われたのか、すでにテレーズの理解を越えている。
「ちょ、ちょっと、どういうことなの、お前たち──。離しなさい──。離すのよ──」
テレーズは絶叫して暴れようとした。
だが、ふたりもの屈強な護衛の腕から逃れることなど不可能であり、しかも、簡単に両手を背中側に持っていかれた。
「こんなものも役には立ちませんけど、一応は取りあげておきますね」
唯一ついてきた侍女のひとりが、テレーズの懐から隠していた武器を取りあげた。
テレーズは呆然としてしまった。
「な、なにが起きたというの──。お前たち、説明しなさい。誰か、誰か来なさい──」
テレーズは金切り声で叫んだ。
連れてきた護衛たちは、果たして偽者だったのか?
激しく疑念が湧くが、いまは逃げることを考えた。
地下に連れてきた護衛たちが裏切り者であることは確かだが、まだ、四人が一階に残っている。
テレーズの悲鳴が届けば、助けにやって来るか、あるいは、都市内で待機している警備隊に報せてくれるだろう。
とにかく、こんなのは、想定外だ。
逃げなければ──。
「抵抗しないのよ。こっちを見なさい……」
女が冷たい口調で言った。
テレーズは、思わず、声に従って、フードの中の女の両目を見る。
急に、その仮面越しのふたつの瞳に吸い込まれるような感覚に襲われ、テレーズの全身が恐怖に包まれた。
抵抗しようという気力が消失する。
怖い……。
ただ、怖い──。
恐怖がテレーズに襲いかかる。
「さあ、静かになったわね。じゃあ、話でもしようかしら、伯爵様……。とはいっても、引導を渡すだけのことだけどね。だけど、どうして、こうなったのかもわからないで、娼館に売り飛ばされても、寝覚めが悪いでしょう」
女が溜息をついた。
すると、女の横にいる酷薄そうな男が口を開いた。
「そのことなんですけど、この女は殺した方がいいんでは? 異国の娼館に売り飛ばしたとしても、万が一にも、本物であることに気がついた者がいては……」
「黙りなさい──」
女がぴしゃりと言った。
しかし、その会話から、テレーズにさらに恐怖が生まれる。
殺す──?
異国に売り飛ばす──?
いずれにしても、もしかしたら、簡単に対抗できると思って、不用意に直接出てきたのは間違いだったか?
だが、娘のマリーが関与した怪しい店など、伯爵家の力を使えば、いくらなんでも、どうにかなると思ったのだ。
どうして、こんなところに、のこのことやって来てしまったのか……。
「殺す……?」
「殺すのか?」
「えっ?」
そのとき、護衛たちと侍女が動揺したように、びくりとしたのがわかった。
「殺さないわ──。この女はここで犯す。娘ともども売り払い、その代金は全員で山分け。すでに、娘のたちの悪い友人たちは、闇奴隷屋に引き渡したわ。あれは、あんたらの取り分よ」
女が慌てたように言って、少し離れた場所にあるテーブルを指さした。
そこには、七個に分かれた布袋が準備されている。中身は金貨とか銀貨のたぐいのような気がする。
しかし、すでに売り飛ばした?
さらに、さっきから、テレーズとマリーについても、奴隷商に渡すつもりだと話している……。
女伯爵の自分を──?
その令嬢のマリーを──?
テレーズは唖然とした。
「……気を付けてよね……。あたしの術は、心を操っているわけじゃないのよ。感情を操るのよ。この女伯爵のことについて、部下たちが嫌気を抱いていたことは確かだけど、殺すところまでは思ってないのよ。あたしは、こいつの部下たちの心の範疇で操作しているのよ。あまりにも、意思に反したことなら、うまくいかないのよ。口出ししないで」
女が不満そうに言った。
「だが……」
「だが、じゃないわよ……。そもそも、売られた女が、いくら自分が本当は伯爵だと言っても、頭がおかしいと思われるだけよ……。本物はいるんだし……」
「しかし、万が一……」
「あたしの決め事に文句があるの──」
ついに女が怒鳴った。
「わかったよ……。とにかく、面倒だな……」
口を挟んだ男が不貞腐れたように吐き捨てた。
だが、次の瞬間、女がさっとその男を見る。
すると、男が能面になり、すぐに、女に対する畏敬のような顔になった。
その表情の変化は劇的なほどであり、テレーズも唖然とした。
だが、いまのやりとりでわかったのは、この女がなんらかの操り術を駆使しているということだ。
しかも、感情を動かすということらしい。
これは、禁忌の魔道のひとつである闇魔道というものだろう。
おそらく、それで、テレーズの部下たちは操られているに違いない。
操られているのが思考そのものなのか、あるいは、感情だけなのかはわからないが、とにかく、魔道をかけられていることには変わりない。
テレーズは、突然に部下たちが裏切った理由に合点がいった。
そして、さらにわかったのは、テレーズもまた、すでにさっきこの女の闇魔道にかかってしまったということだ。
なぜか、この女に逆らうという気持ちが起きてこない。
ただただ、怖い。
怖くて仕方がない。
「まあいいわ。そろそろわかったと思うけど、あんたは罠にかかったのよ。少し前からね。そいつらの随行についても、あんたは適当に選んだつもりかもしれないけど、実際にはそう仕組まれたの」
「えっ?」
「いずれにせよ、あんたに恨みはないけど、諦めて頂戴。その代わり殺しはしないわ。娘ともども、残りの人生を娼婦として、生きるだけよ。まあ、死ぬよりもいいでしょう」
女が酷薄そうに言った。
テレーズはぞっとした。
「こ、こんなこと、許されるわけないわ。す、すぐに足がつく。お、お金なら……」
「金なんか大してないでしょう。すっかりと調べはついているのよ」
女がせせら笑った。
「あ、あるわ。王宮に入る支度金が……」
「いいえ、ないわ。それは借金に消えてる。残ったのは大したことない。女伯爵とは聞こえがいいけど、領地経営は下手くそで、借金だらけ。だから、国王に身体を売るようなことを引き受けたんでしょう?」
それは、事実だった。
夫が死んでから、伯爵位と領地を受け継いで、いままでやって来たが、なにをやっても上手くはいかず、領地の財政は火の車だ。
だから、正直、女官長の話は嬉しかった。
若くもないテレーズにとっては、領地のために売れるのであれば、自分の身体であっても嬉しい。
「部下たちから、そんなに慕われてもいない。だから、あたしの魔道なんかで、みんな簡単に心変わりしたのよ。みんな、不安がってんのよ。だから、将来の不安を取り除くような話を持ち出して、魔道で感情を動かしたら、簡単に心が転んだわ。忠誠心が高い部下だと、こうはいかないのよね」
女がさらに言う。
馬鹿にされているというのに、やはりどうしても口惜しいという感情は湧かない。
それよりも、なんとか逃げたい。
だが、マリーを助けなければ……。
マリーがいなければ……。
「そうよ、あんた……。あんたが逃げれば、マリーはどうなるかわからない……。だけど、あんたがあたしに従うなら、マリーの命は助かる。一緒にいさせてあげる。娼婦としてだけどね……」
女が諭すように告げる。
マリーを助けたい。
この気持ちが心で一気に大きくなった。
だからこそ、危険を承知でここまできたのだ。
領地を失っても、爵位を失っても、どんなにできが悪くても、ひとり娘のマリーだけは助けたい……。
ここに来る前には、マリーについては最大限に努力はするが、やむを得ないときには、見捨てる決心をしていた。
しかし、もう逃げたくない。
マリーが殺されてしまう。
「わ、わたしはどうなってもいいわ。マリーを……、マリーを助けてください」
テレーズは叫んだ。
すると、女の目が笑った気がした。
「……そうね。娘は大切よ……。その感情が動かないように保持しておいてあげる……。そうすれば、あんたは、この出来損ないが人質である限り、なにもできない……」
女の言葉が染み入るように心に入ってくる。
そうだ。
マリーを助けなければ……。
母親として……。
「じゃあ、早速、試してあげるわ。マリーだっけ? この娘を助けたければ……一緒にいたければ、ここで服を脱ぎなさい。生まれたまんまの姿になるのよ。下着から全部。髪飾りひとつ、指輪の一個に至るまで、ここで外しなさい」
「えっ?」
テレーズは自分の耳を疑いかけた。
「ほら、早く脱ぐのよ。娘がどうなってもいいの?」
「そ、そんなことをここでわたしにさせようというの──。娼婦に売るなら、売ればいいでしょう。さっさと、わたしもマリーも連れていけばいいのよ」
この女が異国にテレーズたちを売るといっても、実際にはそんなことは不可能だということをテレーズにはわかっている。
仮にも、領主を誘拐して、無事に領地を出れるわけがない。
それに、テレーズが二ノス後に戻らなければ、ここに領軍が殺到する。
怪しげな術を使う女だけれども、いくらなんでも、兵の全部を操ることなど不可能なはずだ。
テレーズが自らここに来ることについては、領軍の主要な者には語っている。
護衛たちが裏切っていたとしても、軍の幹部を根こそぎ操るなどあり得ない。だから、テレーズは、ここで、ただ時間を稼げばいいのだ。
「あんたは口答えしなくていいのよ。それよりも、護衛たちをけしかけてあげるわ」
女がテレーズから、両脇の護衛たちに視線を向け直す。
「ほら、尊敬はしてないけど、あんたらは、美しい女伯爵のことを内心で気に入ってたんでしょう? その感情を増幅してあげるわね。だから、丸裸にしなさい。ただし、服は破らないでよ……。それと、侍女のあんたは、取り分を持って一階で待ってなさい。そして、残りの護衛にも声をかけておいで。女伯爵を犯したければ、降りて来いってね」
「ば、馬鹿な真似はやめて──」
テレーズは絶叫した。
しかし、護衛だった男ふたりの目つきが一瞬だけ、とろんと呆けたかと思うと、すぐに好色そうな怪しい表情になった。
そして、テレーズから着衣を奪い始める。
「ああ、お母様──」
マリーが宙吊りのまま泣き叫ぶのが聞こえた。
一方で、侍女はさっとテーブルに向かって、袋をふたつ抱えると、そのまま一階の方に走っていった。
「うるさいねえ、小娘──。もとはといえば、あんたのせいじゃないの──。ほかにもいろいろと罠を考えていたけど、あんたのおかげで随分と手間が省けたさ。ひとり娘のあんたの放蕩で、領地の将来を見限っている者が多くて、簡単に魔道にかかってくれたしね」
女がぴしゃりとマリーの尻を平手で叩いた。
マリーが悲鳴をあげる。
「誰かあ──。誰かきてえ──」
テレーズはとにかく叫んだ。
大の男ふたりにかかっては、テレーズなど子供も同然だ。
どんどんと服が奪われて、裸にされていく。
それを女の元々の部下たちが受け取って、女に運んでいく。
「おっ、やってますな」
「俺たちも参加しましょう」
「テレーズ様、実は以前から、お慕いしてました」
一階からどやどやと残りの護衛たちが降りてきた。
口惜しいことに、彼らもテレーズから衣服を奪う作業に参加する。
やがて、下着姿だけにされた。
両手はがっちりと掴まれて動かせない。
貴金属のたぐいがどんどんと外されていく。
「さあ、早く下着をちょうだい。そろそろ、時間がないかもしれないし。確か、二ノスだっけ?」
女が笑った。
二ノス?
領軍に、テレーズが戻らなければ、ここに殺到するように指示したことを知っているのか?
だが、テレーズはそれどころじゃない。
肩から乳房を包む下着を脱がされ、ついに、腰の下着まで掴まれた。
「きゃあああ、これ以上は許してええ」
必死に腰を振って抵抗する。
だが、あっさりと下着を足首から奪われる。
狼狽して、その場に身を縮こませようとするが、強引に立たされた。
それどころか、この部屋の奥にある寝台のある場所に、寄ってたかって運ばれる。
そして、寝かされた。
四肢を握られて、さらに両膝を乳房につけるように、持ちあげられる。
「あらあら、ちょっとばかり、あなたに対する恋慕の心を弄ってやったけど、思った以上に、あんたの部下は、けだものねえ。裏切って、あんたを犯せとはそそのかしたけど、想像以上の乱暴ぶりじゃない。しかも、仮にも自分たちの主人をまんぐり返し? 容赦ないわねえ」
女が近くに寄って来て笑った。
しかし、テレーズからは見えない。
完全に護衛たちに囲まれている。
しかも、護衛たちはおもむろに全員がズボンを脱いで下半身を露出しはじめたのだ。
すぐに、五人の赤黒い性器が露わになる。
全部が逞しく勃起している。
「いやああ、あ、あなたたち、正気になって──。なにをしようというのよ。やめてええっ、やめなさいい──」
テレーズは狂ったように叫んで暴れた。
「さあ、やろうぜ」
「ああ、しかし、その前に滑りをよくしないとな」
言うなり、護衛のひとりがテレーズの股間に唇を押し当てて、亀裂に沿って舐め始めた。
すぐに、秘裂を指で左右に割り、さらに舌を置くと粘膜に侵入させてくる。
「あっ、ひいっ、いやあっ、ひいいっ」
「国王に身体を売るような女伯爵のくせに……。畜生、そんな淫乱女なら、俺たちが犯ってやる」
別の護衛がテレーズの乳房を揉み始めた。
しかも、左右から……。
無理矢理に発生させられる性の疼きに襲われながら、テレーズは、女が、自分がやっているのは、部下の中に存在している感情を増幅させてるだけだと口にしたことを考えていた。
もしも、そうなら、テレーズが国王の女官長に就任することを受け入れたことで、彼らの心が離れたのだろうか?
その仕事が、本当は娼婦も同然の職務だというのは、この国の中枢にかかわる者なら、大部分がそれを知っているだろう。
それで見限られた?
「……ねえ、せめて、こういうことが、気持ちいいと感じる感情を増大してあげるわ。女というものは大なり、小なり、犯されれば気持ちいいと感じる心があるわ。生物としての本能ね」
またもや、女の声が聞こえた。
そして、わかったが、どうやら、女は、すぐそばにきて、服を着替えているようだ。
だが、次の瞬間、テレーズは狼狽した。
甘い感覚が身体の奥底からふき出してきたのだ。
しかし、まさか、部下の男たちに輪姦されそうになって、女の悦びを感じるなど……。
「おお、感じてきたようだぜ、テレーズ様が」
股間の愛撫をしていた男が嬉しそうに言った。
「ち、違う──」
テレーズは悲鳴をあげそうになった。
だが、さっきの狼狽はすでに焦りになっている。
身体の底で発生した甘い感覚は、次第に欲情のうねりになって、四肢に拡がりだしたのだ。
すでに、小さく膨らんだ小鼻からは不規則な息遣いが繰り返すし、口からは明らかな嬌声が洩れ出し始める。
「いや、やっぱり、感じてるぜ、テレーズ様は」
股間にいた護衛が体勢を変化させる。
はっとして、見た。
すでに、亀頭が女の亀裂に当てられている。
犯される──。
腰を振って避けようと思うが、あっという間に深々と怒張を貫かれてしまった。
「いやあああっ、ああああっ」
律動が始まる。
甘美な快感が拡がる。
慌てて、テレーズは歯を食いしばる。
声が出そうだったのだ。
だが、股間を貫かれ、乳房を揉まれることで生み出される愉悦は、だんだんとテレーズを追い詰めていく。
「こらっ、あんたら、今後二度とその女をその名で呼ぶじゃないわよ。マリーのこともよ。なんと名前を付けて呼ぼうとしてもいいけど、その女はテレーズじゃないわ。これから、奴隷の娼婦として売りさばかれて、男に身体を売るだけの女よ」
すると、テレーズを犯している背後から、女の強い口調が響き渡った。
その口調があまりにも強かったので、テレーズを犯していた男たちが、思わず動きをとめて、硬直したほどだ。
「あっ、その姿は──」
そして、テレーズは絶句した。
男たちが身体を硬直して、身体を起こしたために、視界が割れたのだ。
その視界に映ったのは、テレーズそのものだった。
怪しげな術でテレーズを罠にかけたさっきの女のはずだが、さっきまでテレーズが身に着けていた服を完全に身に着けている。貴金属まで同じように着こなしているし、髪型も一緒だ。
しかし、それだけじゃなく、顔がテレーズそのものなのだ。
びっくりした。
「さて、じゃあ、行くわね、伯爵様……。いえ、元伯爵様……。あんたには、これっぽっちも恨みはないけど、これも仕事でね……。あんたたちには、腕のいい調教師たちを準備しているわ。そいつらの言うことに従うといいわよ……。そうすれば、これからの毎日が少しは楽になる……。それがせめてものお詫びよ。殺さないのもね」
女が言った。
そして、護衛たちに声をかける。
「……そして、あんたらは気がすんだら、金を持って領地から消えなさい。あたしは、侍女たちと一緒に、マリーの偽者を連れて屋敷に戻るけど、あんたたちのことはうまく処置しとく。だけど、今後、ラポルタ領に接近すれば、死ぬと思いなさい」
「わかった。いや、わかりました、伯爵殿」
「承知しました」
護衛たちがお道化たように口にして、再びテレーズを犯す体勢に戻る。
いまの言葉はどういう意味──?
まさか、この女はこのまま、わたしと入れ替わって、屋敷に行くのか?
さっきから、そのことを仄めかしていたが、本当に?
しかし、その思念が吹き飛ぶ。
束の間、中断していた律動が再開したのだ。
「はううっ」
食い縛った口から声が洩れた。
身体では、テレーズの気持ちとは別に、淫靡な快感がうねりとなって暴れ出している。
快感が込みあがる。
「さて、出すぜ。そ、そろそろだ」
テレーズに男が呻くように言った。
「全員が出すんだからな。中に出すなよ。顔にかけてやれ」
誰かが声をかけ、律動をしていた護衛が勃起した一物を抜く。
いきなり、白濁液が顔にふってきた。
「いやああ」
声をあげた。
「さて、選手交代だ、伯爵様……。いや、名無しの女」
すると別の護衛が位置を変わる。
今度はかなりの巨根だった。
すぐに、その巨根がねじ込まれた。
*
【その後の女伯爵】
この後、本物の女伯爵テレーズとその令嬢である娘のマリーは、玄人の調教師たちの徹底的な調教を受け、逃亡の意思も、抵抗の意思も完全に失って、カロリック公国の娼館に売り飛ばされます。
その娼館では、単に女を抱かせるだけでなく、客の前で卑猥な見世物をして、金をとるということもしていました。
ふたりは美人で、肌もきれいだったことが主人に気に入られ、娼婦よりも、見世物で恥態を演じる方を主体にやらされることになります。
高貴な身分だったふたりですが、実の母娘で、しかも、大勢の客の前で、道具を使って愛し合うということまでやらされ、心も徹底的に折れてしまいます。
そして、心の抵抗心を奪う闇魔道の影響もあり、ふたりは娼婦に堕とされた自分たちの境遇を受け入れるようになっていきます。
しかし、その調教の過程は、別のお話ということで……。