【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
25 奇妙な入国審査
「移民か……。冒険者希望だな……? エルフ族の女と人間族の男か……。ご禁制のものは保有していないな?」
「ありません」
机を挟んで椅子に腰かけている役人風の軍人にエリカが神妙に言った。
入境審査官だ。
このハロンドール王国に入国が許可されるかどうかを審査する役目の男らしく、入国希望者はここで、入国に問題がある人物かどうかの審査を受け、許可されて初めて、ハロンドールへの入国が許されるのだ。
その審査だ。
もっとも、積極的に移民を受け入れているハロンドール王国では、入国審査といっても、おざなりなもので、準備された羊毛紙の書類に入国する者の名や目的の街などを記入して、それをこの越境審査官に渡して終わりだ。
一郎は初めてだが、エリカによれば、そういうものらしい。
あとは、決められた税を支払って入国となる。
いま、一郎とエリカは、その国境監視団の施設にやってきていた。文字通り、国境を取り締まるのが役割の施設であり、守りにあたっているものはすべて軍人らしい。目の前のどう見ても、役人にしか思えない小太りの男も、れっきとした軍人だそうだ。
確かに、一郎の魔眼にも、目の前の男のステータスに、“軍人”というジョブがあるのが映っている。
もっとも、レベルは“3”だ。
軍人としては、それほど地位は高くないのかもしれない。
そのとき、一郎はエリカが書類に書きものをしているその男の書類の下に、すっと銀貨を一枚滑り込ませるのを見た。
銀貨一枚というのは、安宿にひと晩泊まれるくらいの額だとエリカが教えてくれていたので、それなりの額だと思う。
この大陸には、大きく二種類の通貨があり、ひとつは大陸共通貨幣のローム貨幣、そして、もうひとつは、各国が作成している金貨や銀貨や銅貨だ。
エリカが渡したのは、この国の王国で作られているハロンドール銀貨だ。
流通する銀貨や銅貨の価値は、作成した王国に関わらず、価値が概ね安定しているそうだ。
金貨一枚が銀貨百枚、銀貨一枚が銅貨百枚だ。
価値が一定となるように、各国で金銀の含有量を守っており、粗悪品を作るとたちまちに他国で通用しなくなるので、王室といえども、価値を極端に逸脱する悪貨は作成できないようだ。
また、ローム貨幣というのは、かつて、この大陸で唯一の国家だったローム帝国が特殊な魔道を込めて流通させていた金であり、それを管理していたローム帝国はもう実質的に滅んでいて、新しい貨幣は作られていない。
ただ、その帝国がかつて流通させた紙幣と硬貨は健在であり、一クート紙幣が金貨一枚、一ラクト紙幣が銀貨一枚に相当する。
また、それに相当する硬貨もあるそうだ。
旧帝国の作成したローム紙幣については、各国も使用を認めており、それで全世界で通用する貨幣になっているのだ。
金貨、銀貨、銅貨の価値観については、一郎はエリカからこの大陸のだいたいの物価を確認し、一応、金貨が十万円、銀貨が千円、銅貨は十円くらいだろうと見当を受けた。
まあ、一郎のいた世界とは、生活レベルも異なり、銀貨十枚もあれば、三、四人の子供のいる庶民が十分に一箇月の生活をやっていけるのだそうだ。
そう考えると、エリカはかなりの賄賂を贈ったことになると思うが、それは必要なことなのだろう。
一郎は口を出すつもりはない。
審査官は、書類から目を離さずに、すっとその下に差し入れた銀貨を手元に移した。
「審査は終わりだ。税はひとりにつき、銀貨二枚──。それを支払えば、反対の扉を出て、廊下を進め。そのまま先の出口から外に出ていい。そこから先はハロンドールだ」
エリカが改めて、銀貨四枚を机に置く。
審査官が紋章のある手のひら大の木板を二枚出した。
手形というらしい。
正式に手続きをして入国した者であることの証明証のようなものであり、これがないと街道にある関を通過できないし、冒険者ギルドへの登録も不可能になる。
エリカがそれを大切そうに荷にしまった。
「ようこそ、ハロンドールへ」
審査官が初めて微笑みを浮かべた。
「呆気ないものだな」
部屋を出て廊下を進みながら一郎は言った。
「念のために、出身も名も出鱈目に登録しました。ただ、通称については、これまで通りにロウ様の名を使ってください。登録名と通称名が異なるのは普通ですし、これでわたしたちが王都で冒険者登録をしても、入国の時期は特定できないので、アスカ様の足がつくことはないと思います」
「入国の記録の名と、手形の名、そして、ギルドに登録するときの名が違ってもいいのか?」
「問題ありません。本当は違法ですが、珍しくないことです。手形が必要なのは、冒険者ギルドに正式登録ができるまでです。ギルドに登録すれば、今度はギルドの身分証明書が身分保障になります」
「そういうものか」
一郎は頷いた。
そのとき、出口に近い廊下にあった部屋の扉が開き、武器を持った三名の軍兵が前を塞いだ。
「エルフ女については、もう少し審査が残っている。この部屋から中に入れ。男は行っていい」
ひとりが言った。
三人ともジョブレベルは“3”だ。
やはり、下っ端の兵なのだろう。
身に着けている軍装の階級章らしきものも、そんな感じだ。
「どういうことです? 手続きは終わりましたが……?」
エリカが当惑したように言った。
「なあに、追加の審査も形式的なものだ──。女については、この部屋でもう一度検査をするということになっているのだ。団長の命令でな──。すぐに終わる。とにかく入れ」
ひとりが言った。
どういうことだと一郎も詰め寄ろうと思ったが、一郎とエリカに次いで出てきた三人組の集団についても、その中の女のひとりが部屋に入るように指示を与えられた。
どうやら、すべての女に別検査があるということのようだ。
「とにかく、行ってきます。外で待っていてください」
エリカは、呼び止められたもうひとりの女とともに、部屋の中に入っていった。
*
エリカが示された部屋に入ると、そこには女兵士が待っていて、もうひとりの女とともに、さらに奥の部屋に連れて行かれた。
男の兵士はそれで終わりだ。すぐに戻っていく。
その部屋の先は、さらに左右の扉に分かれていた。
すると左側の扉から人間族とドワフ族の三人連れの女が出てきた。若いが経験を重ねた冒険者という感じであり、数人組のパーティをすでに組んでいる一行なのだろう。
パーティというのは、冒険者がより難易度の高い依頼をこなすために、複数名で目的の任務の攻略にあたる仲間となることだ。それにより、ひとりでは難しい任務をこなすことができて、利益も大きくなるし、危険もそれだけ少なくなる。
むしろ、冒険者登録する者は、「パーティ」が通常であり、単独で依頼をこなす者は少数派だ。
エリカも、ハロンドールの王都のハロルドで冒険者登録する場合には、ロウとエリカのパーティとして届けをするつもりだ。
それはさておき、エリカと一緒に別検査を指示された女にしろ、すれ違った女連れにしろ、別検査に呼ばれるのは、若い女だけという感じだ。
「お前たちは、そこから入れ」
待っていた女兵が言った。
三人連れが出てきた側ではない右の扉だ。
次の部屋に入った。
そこは大きな広間になっていて、驚いたことに、乳房を丸出しにした下着一枚の姿になっている十人ほどの女が列を作って並んでいた。
ほとんどが人間族だが、ドワフ族がひとりいた。エルフ族はいない。
並んでいる先は扉だ。その先が検査場のようだ。列を作っている女たちの全員が竹かごを抱えていて、そこに脱いだ衣類や持ち物などを入れている。
「お前たちふたりも下着一枚だけになって並べ。手配されているある女を探している。身体にある特徴があるので、それを調べているが、検査はすぐ終わる。調べが終われば、そのまま奥から退出することになるから、ここには物を置いておくな。脱いだものとかは、どれでもいいから空いている籠に入れろ──。装具も全部外して、籠に入れるのだ──」
この部屋を監督しているらしい女兵が言った。
確かに、壁際に十個以上の籠が無造作に置いてある。
エリカは、仕方なく、指示のとおりに服を脱ぎ、杖をはじめとする装具とともに籠に入れて、それを抱えて列に並んだ。
エリカの前は、ひと目で踊り子とわかる妖艶な人間族の美女だ。
後ろには、エリカとともに、この部屋に連れ込まれた女が並んだ。
やがて、エリカの番になった。
部屋に入ると、そこは小さな部屋だった。
しかし、誰も検査官のような者は存在せず、前に並んでいた踊り子風の女が奥に向かって出ていくところだった。
驚いたことに、女は素裸であり下着まで脱いでいた。
その女が身体を籠に抱えて、先の扉から出ていく。
エリカはその小さな部屋にひとりにされた。
部屋の四隅には燭台があり、随分と明るかった。ほかにはなにもない。ただ、左右に白い壁があるだけだ。前後には扉だ。
「荷物を床に置いて、右の壁に向かってまっすぐに立ちなさい。手は身体の横よ」
突然に声がした。
ふと見ると、右の壁に小さな伝声管がついている。声はそこからしたようだ。命令をしてきたその声は女だった。若い声ではないが、年老いた声でもない。
エリカはその通りにした。
「手を真っ直ぐに上──。ゆっくりと一回転しなさい」
手を上にあげる。
回る。
なんなのだろう、これ……?
「片脚をあげて、横に開きなさい。両手は真横」
声がする。
下着一枚でする恰好としては、かなり恥ずかしいが、やらないわけにはいかない。エリカは壁に向かって片脚立ちになる。
もしかして、壁の向こうからこっちが見えるのだろうか……?
だとしたら、いやな感じだ。
調べているのは女の気配だが、やはり恥ずかしい。
「そのまま唄をうたいなさい」
「えっ、ええっ? う、唄──?」
思わず声をあげてしまった。
「命令に従いなさい」
声──。
そのとき、エリカはほんの少しだが、指示を出す女の口調が変化した気がした。
気のせいだろうか……。
「は、はい……」
それはともかく、急に唄と言われても、突然に出てくるものではない。だが、なんとか子供のころに覚えた童謡を片脚立ちのままうたう。
「いいわ。次は下着を脱いで、籠に入れなさい」
壁から声がした。
「え、ええ──?」
また、声をあげてしまった。
「言われたことをするのよ──」
強い口調で怒鳴られた。
エリカは、そういえば、エリカの前の順番だった女が、裸で出ていったのを思い出した。
どうやら、全員がそういう検査をすることになっているのだろう。
仕方がない……。
諦めて下着を脱ぎ、サンダルだけの姿になると、丸めた下着を服の下に隠す。
「口を開いて──。乳房は自分で下から持ちあげるように──」
また、おかしな指示──。
命令に従う──。
終わると、次の指示──。
エリカは、壁の向こうの女の声の命じるままに、素っ裸で次々に不自然な痴態を取り続けた。
それにしても、少し時間がかかりすぎなのではないか……?
指示のままにおかしな恰好を続けながら、エリカは思った。
この検査を受けるために並んでいたのだが、明らかにエリカに対する検査が長いという感じだ。
前の女も、その前の女も、もっと早く解放された気がするのだが……。
「……最後の検査だ。両脚を曲げて真横に開き、自分の手でヴァギナを指で拡げなさい」
女の声がした。
「な、なんですって──?」
さすがにエリカは仰天した。
そんな破廉恥な指示に従えるわけがない。
「異物検査よ──。ある若い女の工作員が、まさにそこに“ある物”を隠して我が国に潜入しようとしているという情報があるのよ。恥ずかしいだろうから、自分の指で拡げさせてあげているのよ。いいからやりなさい。さもないと、男の兵を送り込むわよ。時間がないんだからね──。お前ひとりに、いつまでも時間をかけられないのよ」
苛立ったような女の声が目の前の壁の小さな伝声管から返ってきた。
エリカはどうしようかと少し迷ったが、さらに女の怒鳴り声がして、指示に従うことにした。
確かに、入国検査でこのような厳しい検査をされることは珍しいことではない。
ご禁制の魔道具や魔草、あるいは、禁忌の魔道生物、または、特殊な武器を身体に隠して他国に潜入し、敵国を混乱に陥れるということはあるのだ。
だから、入境検査で裸にされて調べられるというのは、エリカも初めてではない。
エリカ自身、アスカと出逢ってアスカの愛人兼部下としてアスカ城に赴く前には、冒険者希望として入国したし、半年くらいだがデセオ公国の女隊において、そういう特殊工作員の訓練を受けたことがある。
確かに、女の股間に武器を隠して入国する訓練も受けたことはあるのだ。
だが、なんとなく、この入国検査はおかしい……。
どことなく卑猥な感じがするのだ。
気のせいだろうか……。
「いいわ……。だったら、いまから、そこに男の兵を入れる……。そのままでいなさい」
壁から冷たい口調の女の声がした。
エリカは慌てた。
「ま、待って──。やるわ。やるから」
覚悟を決める。
脚を拡げて中腰になり、大きく左右に開いた。
さらに両手で膣の襞を割り開くように股間の肉を引っ張る。
なんなのだ、これ……?
心の中で悪態をついた。
不意に、真下から明るい光が灯った。
魔道だ。
床に魔力が走ったのがわかった。
「きゃあ──」
エリカはびっくりして姿勢を崩しかけた。
「動くんじゃない──。いま、検査をしているのよ──」
女の怒鳴り声……。
エリカは声に威圧されて、身体を硬直させた。
そのとき、女の強い鼻息が聞こえた気がした。
「……ふっ、生娘じゃないのね。だけど、綺麗な股ね。鍛えられているし、しっかりと筋肉も発達している……。よく締まりそう……。それにしても、もしかして、ちょっと濡れてる? お前、入国審査で感じてるの?」
突然に小馬鹿にしたように女の声が言った。
「な、なに言ってんのよ──」
さすがにエリカは指を離して、股をしっかりと閉じ直した。
いくらなんでも、そんなことを言われる筋合いはない。
女の笑い声がした。
「ごめんね……。ちょっと、あんまり、あんたの反応が愉快だから、からかっただけよ。じゃあ、最後の検査よ。この声のする壁にぴったりとお尻をつけて、今度は指で肛門を開きなさい。そこに異物が混入していなければ解放よ」
急に砕けた口調になり女の声が笑った。
「くっ……」
からかわれたのがわかり、エリカは急に羞恥で顔が赤くなるのを感じた。
「急ぎなさい──」
声がまた機械的な口調に変化する。
エリカは諦めて、裸の尻をぴたりと壁に密着させ、尻たぶを両手で持って左右に開くようにした。
「……こっちも使ったことはあるのね……。まあ、いいわ。籠にあるものを身に着けなさい。検査は終わりよ」
「なっ?」
おかしな言葉に、またもやエリカはかっとなった。
身体をさっと壁から離す。
しかし、すぐに思い直して、怒りを収めることにした。
とにかく、終わったのだ。
早く、ロウに合流しないと……。
「あっ──」
そのとき、エリカはびっくりしてしまった。
さっきまで籠に入れていた衣類や持ち物がすっかりと消えてしまっている。
その代わりに、そこにあったのは、貞操帯を思わせる革製の下着だ。しかも、股間の内側の部分に大小二本の模擬男根がついている。
かっとなった。
「どうしたの? 早く、それを身につけなさい」
女がこらえきれなくなったかのように噴き出した。
騙された……?
エリカはやっぱり、この入国審査はただの検査ではないと悟った。
しかし、そのとき、エリカは怒りよりも先に恐怖を感じた。
罠に嵌まった?
これがどういう罠かはわからないが、これは罠だ──。
そう思った。
次の瞬間、不意に蒸気のようなものが小部屋に立ちこめた。
その蒸気を吸いこんだ途端にエリカの意識は遠のいていく……。
しまった……。
なにかの毒気だ──。
そう思ったときには、エリカの身体は弛緩していた。
もう、どうしようもない。
身体が崩れるのを感じた。
そして、突然に床が消滅した。
エリカは、意識が完全に失われるのを感じながら、床の下にできた穴に吸い込まれていった。