※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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271 闘奴少女と白馬の王子

「起きろ──」

 

 つんとする刺激臭でマーズは目が醒めた。

 眼を開けると、どこかの天井が見える。

 それが闘奴たちの道場だとわかったのは、少ししてからだ。天候の悪いときでも鍛錬ができる建物であり、床には頑丈な厚張りの板が敷き詰められている。

 かなりの広さもあり、二階部分からは道場が見下ろせるようにもなっている。

 ちょっとした小さな試合興行ならここでもできるのだ。

 実際のところ、マーズも幾度も、ここで闘試合興行に参加した。

 だが、なぜ、ここで寝ていた……?

 頭がぼんやりとしている。

 

 周りは明るい。

 道場には、篝火(かがりび)も焚けるようになっていて、夜でも鍛錬ができるのだが、すでに陽は明るいようだ。

 採光用の大きな窓からは、燦々と陽の光が道場を照らしている。

 

「聞こえねえのか──。起きるんだよ、マーズ」

 

「ぐっ」

 

 マーズは乳房を思い切り足で踏みにじられて、さすがに顔をしかめて呻いた。

 しかし、それでわかったが、マーズは乳房を剥き出しにしているみたいだ。

 なぜ……?

 

「あっ、ええ──?」

 

 はっとした。

 やっと自分の置かれた状況がわかったのだ。

 マーズは全裸だった。

 そして、道場のど真ん中に仰向けに寝かされていた。

 腕は頭の横……。

 

「な、なんで?」

 

 思わず叫んだ。

 腕を動かそうとして、じゃらりと鎖の音がした。

 マーズの両手首には、金属の手錠が嵌まっていて、それは首に嵌められている金属の首輪の両側に密着するように、首の両横に繋がっている。

 つまりは、マーズは両手を首の横から動かせないように拘束されているのだ。

 もともと、されていた奴隷の首輪とは違う。

 それとは別の拘束用の首輪だ。

 そして、足首にも金属の枷──。

 足の枷のあいだは鎖で繋がっており、マーズは肩幅から脚を開くことができないようになっていた。

 

 そして、周りには十人ほどの屈強な男たち……。

 マーズの乳房を踏みつけたのはタルトだった。

 その横には、脚に車輪のついた椅子に座っている老人がいる。随分と身なりがいい。また、十人の屈強な男たちとは別の執事のような男が老人の椅子の後ろに立っている。

 

 さらにだんだんと頭がはっきりとするようになり、昨夜のことを思い出した。

 昨日は、そこにいるタルトに呼び出されたところ、マーズが自由民になるために貯めていた賞金を横取りされていて、マーズの身柄については、グリムーンという公爵に売り飛ばすと言われたのだ。

 到底受け入れられることではなく、マーズは抵抗しようとしたものの、奴隷の首輪による強制力によって自由を奪われ、タルトに犯された。

 それからの記憶はない。

 

 ただ、マーズに精を放ったタルトが、マーズに飲み薬のようなものを無理矢理に飲ませたのを覚えている。

 それで、急に意識が消えた。

 もしかしたら、あれは眠り薬で、あれから、いまのいままで眠っていた?

 そして、ここに運ばれて、この恰好にされたのか?

 多分、そういうことなのだろう。

 いまが、いつなのかわからないが、少なくとも朝にはなっている。

 随分と空腹だし、喉も乾いている。

 それを考えると、もしかしたら昼くらいなのかもしれない。

 

「これでまだ十六歳か……。大きいのう。筋肉も見事だ。だが、乳房は柔らかそうじゃ。こういう闘女は、乳房が男のようになっている者がほとんどなのだが、ちゃんと女の身体をしているのは珍しいのう。陰毛も上品だ。この前の値で支払ってやろうぞ、タルト」

 

 口を開いたのは、車輪付きの椅子に座っている老人だ。

 グリムーン公爵という貴族に、マーズを売り飛ばすと言っていたので、もしかして、こいつがそうなのか?

 

 取りあえず、身体を起こす。

 しかし、身体が重い……。

 これは、薬を飲まされたのは、昨夜の一度のみじゃないだろう。それから、寝ているあいだに、繰り返し全身の弛緩剤と眠り薬を飲まされ続けていたに違いない。

 身体がそんな感じだ。

 

「しかし、公爵様……。さっき、お話しました通りに、実は昨夜、一度……」

 

 タルトが恐縮するように、老人に揉み手で寄っていく。

 間違いない。

 あいつがマーズの新しい飼い主となる男なのだ……。

 

「構わん。どうせ、ここにいる全員に、挨拶代わりに犯させる……」

 

 老人が言った。

 マーズは耳を疑った。

 全員に犯させる?

 

 周りには、十人くらいの屈強な男たちだ。

 闘士ではないようだが、それなりの猛者だろう。それは彼らの身体つきを見ればわかる。

 おそらく、戦闘兵士……。

 公爵の子飼いの傭兵か……?

 なんとなく、そんな感じだ。

 何人かは上半身が裸だったが、身体が見える者たちの肌には、例外なく、切り傷や刺し傷のような古傷がたくさん身体についている。

 

「マーズ、余がお前の新しい飼い主じゃ。まずは、戦えば無敵というお前の実力を見たい。こいつらと戦ってみよ」

 

 戦ってみろ?

 しかし、マーズは拘束されている。

 だが、周りの男たちは無表情のまま、あるいは相好を崩して、身に着けているものを脱ぎ始める。

 ぎょっとした。

 

「負ければ、犯される。そういう試合をいつもやってるのだったのう。今日も条件は同じじゃ。手足が拘束されている以外はな」

 

 グリムーン公が下品に笑った。

 ここで、全員がマーズを犯すのか……?

 そんな戦いを強いられ続けてきたマーズだが、こんな風に拘束をされたままで、どうやって戦えばいいのか……。

 

 一方で、十人ほどの傭兵らしき男たちは、どんどんと服を脱いで、下半身を露出していく。

 ほとんどの男の股間が勃起していた。

 マーズは慌てて立ちあがった。

 

「えっ、なに……?」

 

 だが、マーズは違和感に思わず声をあげた。

 全身が異常にだるいのだ。

 さっきは、弛緩剤がまだ効いているのだと判断したが、これは違う気がする。

 身体が熱い……。

 動いただけで、汗が全身から噴き出してくる。

 

「無敵の闘少女マーズ──。どのくらいの抵抗ができるのかのう? 両手は頭の横に拘束。脚は動かない。身体は裸。しかも、たっぷりと強い媚薬を飲まされて、身体が熟れきっている。これからこの十人に犯させるが、すぐに毀れて余を失望させるなよ」

 

 老人、すなわち、グリムーン公が好色そうに笑った。

 すると、執事のような男が公爵が座る椅子を車輪で動かして、さがっていく。

 タルトも一緒に離れた。

 マーズは拘束されたまま、十人の男に囲まれた状態で取り残される。

 

 くそう……。

 

 マーズは歯噛みした。

 とにかく、身構える。

 マーズはすっかりと囲まれている。

 すると、後ろから、忍び足で誰かが近づいているのを肌で感じた。

 とりあえず、マーズは気がつかない素振りをする。

 腕が無造作に後ろから伸びてきた。

 マーズはいきなり振り返ると、上体の力だけで、頭突きをその男の顎に食らわせてやった。

 

「うごああああっ」

 

 しっかりと顎を砕いてやったから、その男は悲鳴をあげてのたうち回った。

 だが、一方でぐらりと身体が傾いた。

 両腕が首の横で拘束をされて、うまく平衡をとれないのと、飲まされている媚薬のせいだろう。

 

「くそうっ、やっちまえ」

「とりあえず、ぶちのめせ」

 

 怒号のような声が響きわたり、男たちが突進してきた。

 マーズは先頭の男の胸に頭から飛び込んだ。

 

「捕まえた……、うげえっ」

 

 その男はマーズの頭をがっしりと胸で受けとめたが、次の瞬間、頭を捻って、マーズは男の顔面に肘を叩き込んでいた。

 顔の骨が折れる感触が確かに伝わる。

 これでふたり……。

 

「こいつ――」

「じたばたと……」

 

 後ろから羽交い絞めにしようとしたふたりの腕をかわして、身体を沈める。

 両脚を揃えて伸ばし、そいつらの足首を払った。

 ふたりが体勢を崩して倒れ落ちる。

 

「おっ?」

「うわっ」

 

 そのときには、マーズは立ちあがって、跳躍していた。

 ふたりの顔めがけて、両脚をそれぞれ床に叩きつける。

 

「んがあっ」

「ふげええっ」

 

 男たちが奇声をあげ、そのまま動かなくなる。

 これで四人……。

 

「なんという無様じゃ──。貴様らは、それでも傭兵か──」

 

 グリムーン公の不快そうな声が道場に響いた。

 残りの男たちが、そのひと声で色めき立った。

 ひとりが殴り掛かって来る。

 それを紙一重で避けて、体当たりで飛ばす。

 すぐさま振り返り、後ろのふたりに、頭を振って肘鉄を喰らわせる。ふたりが呻き声をあげてうずくまる。

 

 後ろの男──。

 屈んで、足に体当たりする。

 そいつが転ぶ。

 入れ替わるように立ちあがって、喉を踏みつけて絶息させる。

 跳躍した。

 鎖の繋がっている両脚を回して、ひとりの男に回転蹴りを叩きつける。

 男がグリムーン公が離れて座っている方向に飛んでいって、車輪の付いた椅子に座っているグリムーンの身体にぶつかった。

 

「貴様、余の身体に触れるな──」

 

 グリムーン公は椅子に杖を置いていたが、それを転がってきた男の口に思いきり突っ込んだ。

 

「んげえええ」

 

 男が口から血を噴いたのがちらりと見えた。

 それよりも、残りの男たちだ。

 倒しただけの男たちは、すでに立ちあがっている。

 残りは四人──。

 しかも、四人とも一度はマーズの肘打ちなどが食い込んでいて、足元は揺れている。

 

 いける──。

 マーズは確信した。

 

「お前ら、マーズが拘束されててよかったなあ」

 

 そのとき、グリムーンのところにいたタルトがげらげらと笑いだした。

 一方で四人の男たちは、マーズを慎重に囲むようにしながら、連携をとるように身構えている。

 迂闊に距離を詰めたら、あっという間にマーズに抵抗されるのがわかったのだろう。

 

 しかし、次の瞬間だった。

 衝撃が全身に走った。

 

「んごおおおお」

 

 マーズは絶叫して、その場に崩れ落ちていた。

 なにが起きたかわからなかったが、首に嵌められている金属の首輪から強い電撃が流れたのだということがわかった。

 のたうち回りながらマーズは、タルトを見た。

 手でなにかの操作をしている。

 魔道具か……。

 

「うおおおっ」

 

 電撃の痛みを耐えて起きあがり、タルトに向かって走る。

 だが、足首に嵌まっている足枷からも電撃が迸り、マーズの脚が弛緩した。

 

「んがあっ」

 

 マーズはその場に倒れ落ちた。

 

「そいつの首輪に鎖を繋げろ。それと重りを持って来い」

 

 タルトが叫んだのがわかった。

 おそらく、まだ倒れていない男たちに言ったのだろう。

 

「あがあああっ、ぐがあああっ」

 

 しかし、そのあいだも電撃は続き、マーズはなにもすることができず、ひたすらに、床で激痛に悶え叫んだ。

 やっと電撃がとまったのは、高い天井からおりてきた太い鎖が、マーズの首輪の後ろの金具に繋がれたときだ。

 両足首に、鍛錬用の砂の嵌まった大きな樽がそれぞれに繋がれる。

 首輪に繋がっている鎖が引きあげられ始めた。

 さすがにこれは引き千切れない。

 マーズが身体を真っ直ぐに伸ばした時点で鎖の上昇がとまった。

 

「公爵様、趣向を台無しにして申し訳ありません。念のために首輪と足枷に電撃紋を刻んでおりました。ただ、あのままでは……」

 

「よいよい、余の準備した傭兵どもが思ったよりも不甲斐なかっただけだ。それにしても、拘束されつつも、男十人を相手にして、傷ひとつつけられんとは、聞きしに勝る強さじゃ。そのマーズを余の手で毀せると思うと、ぞくぞくするわい」

 

 グリムーンが車輪付きの椅子のまま寄ってきた。

 

「少し弱らせましょう。さもないと犯すこともできません。奴隷の首輪で命令するのは簡単ですが、よければ、この虎のような娘を躾けてみせましょうか?」

 

 タルトが媚びを売るように、グリムーンに言った。

 

「よかろう。多少の傷はつけてもよい。余のところには腕のいい治療師も飼っておるしな。フラントワーズ、余の妻だが、治癒の魔道が遣える」

 

「魔道遣い様が奥方様ですか。羨ましい」

 

「なに、ただの奴婢よ」

 

 グリムーン公が笑った。

 一方でタルトは、残っている男たちに道場の倉庫から、棍棒のような鉄棒を持って来させた。

 これも鍛錬用のものだ。

 運ばれてきた鉄棒は二本──。

 残っていた四人のうち、ふたりがそれを持って、マーズを挟む。

 残りのふたりは、マーズに倒された六人を外に運び出している。

 

「さて、マーズ、お前の大好きな鍛錬の時間だ。声を出すなよ」

 

 タルトが寄ってきた。

 そして、そのタルトの合図で、鉄棒を持っているひとりがマーズの腹を尖端で突きあげた。

 

「んぐっ」

 

 さすがに声が迸りかけた。

 腹に穴が開いたのかと思うような衝撃が加わったのは、胃袋の下だ。

 吊られた身体が後ろに揺れて、足首に繋がっている砂入りの樽に阻まれて、急激に姿勢が戻る。

 その戻ったところをさらに強く、突きあげるように鉄棒が襲いかかる。

 今度は鳩尾だ。

 的確に急所を狙ってくる。

 

「ぐはっ」

 

 マーズは吐くような声とともに呻き声をあげた。

 

「あがあっ」

 

 今度は後ろから容赦のない鉄棒の打擲が尻を襲う。

 マーズは悲鳴をあげてしまった。

 

「声を出したのう」

 

 グリムーン公が相好を崩したのがわかる。

 そうやって、しばらく前後左右から腹や尻を滅多打ちにされた。

 しばらくは耐えたが、殴打が五十発を超えたところで、マーズの身体は脱力して力を失った。 

 すると、男たちが手に持つものが鉄の棒から乗馬鞭に変わった。

 タルトが持ち返させたのだ。

 

「乳房を打ってやんな。股ぐらもだ」

 

 タルトが酷薄に笑った。

 股──?

 ぞっとして脚を閉じようとするが、これだけ棒で打たれて力を失っている身体では、足首に繋がっている砂入りの樽を動かすことができない。だから、マーズの脚は開いたまま動かせない。

 

「へえ、この大女──」

 

 前の男の乗馬鞭がマーズの股間に振りおろされた。

 

「ぐうっ」

 

 股間を上から鞭先が舐めた途端、マーズは必死で声を喉の奥で抑えつけた。

 とにかく、こんな卑劣な男たちの前で弱い部分を見せるのが嫌だったのだ。

 だが、直接に股間を打たれる激痛が、マーズも想像ができないような衝撃を与える。

 

「もういっちょ」

 

 たったいま、マーズの股間を打ちおろした男が返す鞭を下から股間に振りあげた。

 

「あぎいいっ」

 

 マーズは吠えた。

 股間のもっとも敏感な局部をまともに、鞭が当たったのだ。

 全身の力が抜ける。

 

「おりゃあああ」

 

 すると、もうひとりの男が鞭をマーズの乳首に打ち払った。

 

「んあああっ」

 

 マーズは悲鳴を我慢することができなかった。

 そして、今度は鞭打ちの洪水が開始された。

 

 十発──。

 二十発──。

 三十……。

 

 股間、尻、乳房、脇腹、腿……。

 とにかく、あらゆる部分が叩かれる。

 息をする暇もないほどの連続の鞭だ。

 いつしか、マーズの身体は完全に力を失って、首輪の鎖で上に引っ張られるだけになっていた。

 

 百発──。

 いや、二百──?

 

 打たれた数など、もうすでにわからない。

 かなりの長い時間を鞭打ちされたと思う。

 マーズの皮膚は、いつしかあちこちが破れ、かなりの血が滴るようになっていた。

 

「もういいだろう。前戯は終わりだ」

 

 はっとした。

 気がつくと、打ち疲れて汗まみれの男ふたりが少し離れている。

 タルトの声がほんのすぐ後ろから耳に入って来たのだ。

 同時に、そのタルトの腕が背後から胸に絡みついてきた。

 そして、ゆっくりと揉み始める。

 乳首を指で転がしながら……。

 

「はああっ」

 

 マーズは上体を弾ませて、露わな声を放っていた。

 自分でもその反応に驚いた。

 しかし、タルトの手の包むような感触は、怖ろしいほどにマーズの淫情を呼び起こした。

 

「ああっ」

 

 マーズは声を放った。

 そして狼狽した。

 すぐに、最初から飲まされていた媚薬のせいだと悟った。

 また、圧倒的な打擲で感覚がどうかしてしまったというのもあるだろう。

 しかし、自分が声まで出して、女の反応をしてしまうなど……。

 

「へへへ、女の匂いが股からし始めたぜ。気持ちがいいか、マーズ」

 

 ぼろぼろの身体に、性感が響き渡る。

 マーズは、上体から腰を喜悦に任せて、あられもなくくねらせてしまった。

 

「ああっ、ああっ、ああああっ」

 

 タルトの手が乳房から股間に伸びる。

 ねっとりと指が股間を愛撫する。

 マーズは悲鳴をあげた。

 

「ははは、さあ、できあがったぜ。お前ら運がいいぜ。最初は十人の予定が四人になったんだ。四人がかりで、(まわ)してやりな。公爵様が満足されるくらいに毀すんだ。でかくても、所詮は小娘だ。とびきりの媚薬を追加してやるからよう」

 

 タルトがマーズから離れて、げらげらと笑った。

 腰から水筒のようなものを取りだす。

 ふたを開けて、マーズにまた寄ってくる。

 ぞっとした。

 これ以上、媚薬を追加されたら……。

 

 そのときだった。

 金属音のような轟音が道場に突然に響き渡り、目の前のタルトがひっくり返った。

 

「うわあああっ、なんだ──。なにがあった。うわああっ、血がああ、血があああ」

 

 マーズの足元に倒れたタルトは、持っていた水筒を手離して、横腹を押さえて泣き声をあげている。

 そこから確かにかなりの血が流れ出している。

 マーズは唖然とした。

 一体全体、なにがあったのか……?

 

「それは、俺が狙ってる女だ。手を出すな、ちんぴら」

 

 そこにいたのは、ロウだった。

 あのときに一緒にいた女たちも三人いる。

 四人は少し離れており、ロウは中心にいて、そのロウの周りを囲むように、武器を抜いた女たちが構えている。

 また、ふと見ると、ロウの手の中には黒い金属の道具のようなものが握られていた。

 マーズが見たことのないものだが、握り手があり、細い筒の先がこっちを向いている。

 その先端からは白い煙が薄っすらと出ていて、そこからなにかが発射されたみたいだ。

 どうやら武器らしいが、やはりマーズは見たことがない。

 

「ご主人様の銃の腕って、どんどん上手になりますね」

 

 ロウのやや前に立って、二本の短剣を握っている小柄な女がこっちを見たまま、声だけでロウに話しかけた。

 

「時々、サキの仮想空間で山のように銃を撃たせてもらっている。あそこなら、弾の問題もない。剣とは違って、数さえこなせば、確実に上手になるから楽だ」

 

「剣だって、一生懸命に毎日素振りをすれば、確実に上手になりますよ」

 

 ロウの横のとても美しいエルフ女の戦士が言った。

 彼女は神々しいくらいに美しく、また細剣を片手に立ち、さらに片手をこっち側に向けている。

 まさに、戦女神(いくさめがみ)のアルティアそのもののように感じた。

 

「ただし、正しい素振りと正しい姿勢でだろ?」

 

 ロウが茶化すように言った。

 その瞬間、構えていた金属の武器が消滅して、すぐに手の中に同じものが現われた。

 さっき、小柄な女が「銃」と言っていたので、やっとあれが銃という武器なのだとわかった。

 マーズは、言葉としては耳にしたことがあるが、生まれて初めて見るので、それが銃だとわからなかったのだ。

 

「そうです。正しい素振りと正しい姿勢です」

 

「遠慮しとくよ、エリカ……。俺の剣にはお前がなってくれ。頼りにしているから」

 

「わかりました」

 

 エリカと呼ばれたエルフ女性がちょっとだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

「だが、ロウは銃にかけては、もはや一流を名乗ってもいいかもしれんぞ。その命中率は、王軍でもそんなにはおらん」

 

 エリカの反対際の人間族の女騎士だ。彼女のことももちろん記憶している。

 ただ、あのときと異なり、凛とした美女の彼女が、ああやって剣を抜いて構える姿は、反対側のエリカがエルフ族の守護神アルティアなのに対して、人間族の女神であるヘルティアを思わせる。

 女神ふたりに挟まれて、さらに前を守護神のように両手短剣を構えた小柄な女に護衛されるようにして立っているのがロウだ。

 

「な、なんだ、お前らは──。どこから入った──。ここは護衛の傭兵で固めていたはずじゃぞ──。おい、お前ら、余を守れ──」

 

 グリムーン公が悲鳴のような声をあげた。

 この道場に残っているのは、マーズをいたぶっていた傭兵ふたりしか残っていない。

 そういえば、マーズが倒した男たちを外に運んでいった残りの傭兵は、いつまで経っても戻って来ていないことに気がついた。

 

「くそうっ」

「うりゃああ」

 

 マーズのそばにいた屈強そうな傭兵ふたりが、ロウたちに飛び込んでいく。

 

「ちょろちょろ、するな──」

「ふん、目障りよ……」

 

 女騎士が飛び込んで、ふたりのうちのひとりをあっという間に斬り倒した。

 また、残ったひとりも、エリカの飛ばした魔道の衝撃波のようなものに吹っ飛ばされて、そのまま床に倒れて動かなくなる。

 

「さて……」

 

 ロウがグリムーン公に向かって歩みだした。

 すると、三人の女たちも、一緒に動く。

 

「うわっ」

 

 声をあげたのは、グリムーン公の車輪付きの椅子をずっと動かしていた執事だ。

 ロウがあの銃を構えたまま近づいたので、恐怖で尻もちをついたのだ。

 そのまま逃げていこうとしている。

 

「ま、待て、待たんか──」

 

 置いていかれるかたちになるグリムーン公が恐怖に顔を引きつらせる。

 ロウの前には、ずっと小柄な女がロウの身を守るように進んでいるのだが、彼女が執事を追いかける仕草をしたが、ロウがそれを阻んだ。

 グリムーン公が座っている椅子のところまでロウが来た。

 すると、ロウがいきなり、グリムーン公の椅子を蹴り倒した。

 マーズは目を見張った。

 

「うわああっ、な、なんじゃ、お前――。ひいっ、ひっ、余、余がグリムーン公爵と知って……」

 

 グリムーン公が床に投げ出される。

 

「あんたの自己紹介には興味はないね」

 

 ロウが銃をグリムーン公に向ける。

 

「ひいいいっ、撃つなあああ──」

 

 グリムーン公が絶叫した。

 手足をばたつかせて逃げようとしているが、その場でもぞもぞしているようにしか見えない。

 ロウが銃の先端を床にいるグリムーンに向けている。

 

 大きな音が鳴った。

 グリムーン公の横の床に穴が開いたのがわかった。

 ロウの撃った銃弾は、グリムーン公の顔のすぐ近くをかすめたみたいだ。

 グリムーン公が失禁をしたのが、ここからでもわかる。

 

「ひいっ、ひっ、だ、だから、なんで、なんで、ここにいる……。よ、余の護衛兵は……」

 

 グリムーン公が歯をがちがちと鳴らして震えている。

 ロウの手からまた銃が消滅した。

 魔道──?

 

 どうやら、ロウは魔道も遣えるのだとわかった。

 マーズは、ロウが魔道も駆使できるのを知らなかったので、唖然としてしまった。

 

「さっきから、護衛、護衛と喚いているけど、道場の周りにいた私兵の一団が来ないことが不思議なのか? そろそろ制圧されたんじゃないか? 王軍騎士団にね」

 

「王軍だと?」

 

 グリムーン公が呆気に取られている。

 すると、左右の出入口から五十名ずつくらいの王軍の一隊がそれぞれに入ってきた。

 驚いたことに、一隊の先頭には王妃アネルザがいる。

 護衛兵に守られながら、こっちに静かに歩いてくる。

 

「ロウ殿、銃音が鳴ったが問題ないか? 外は片付いたようだぞ。すでに制圧のようだ」

 

 アネルザがからからと笑った。

 

「大丈夫、マーズ?」

 

 さっきのエリカと女騎士のふたりがマーズのところにやって来た。

 マーズの足元で、横腹を押さえて呻き声をあげているタルトから鍵を取りあげて、金属の首輪と手錠、樽や足枷が外される。

 身体が自由になっても、まだふらついたが、女騎士がさっと支えて、床に座らせてくれた。

 すると、ロウがこっちにやって来た。

 一方で、グリムーン公は入ってきた兵の一団に囲まれている。

 

「マーズ、媚薬を飲まされて、身体が弛緩しているようだな。そういうものにも、耐性をつけないとな。よければ、俺が色責めの修行をしてやろうか? その代わりに、俺と毎日セックスをする必要があるけどね」

 

 ロウが微笑んだ。

 そして、さっと手の中に一枚の毛布を出現させてマーズの裸身にかけてくれる。

 マーズは、呆然としてしまった。

 危ないところに颯爽と現れて、マーズを助けてくれる……。

 これは、まるで白馬の王子様じゃないか──。

 まさか、自分のような大女で、闘奴をしているような者が、こんな風に白馬の王子様に救出されるお姫様のような扱いを受けるとは……。

 マーズは全身が真っ赤になるのを感じた。

 

「……悪かったな、マーズ。不穏な状況は把握していたんだが、まさか、もうこんなことになっているなんて、思わなかった。知っていたら、昨夜のうちに乗り込んでいた。すまん──。ところで、俺のことを覚えているか?」

 

 ロウが毛布に包まれて座り込んでいるマーズの前に座り込んだ。

 

「も、もちろんです、先生……。だ、だけど、どうして……」

 

「ああ、実は、マーズがいた闘奴の一座が解散になると耳にしてね。よければ、冒険者として、俺たちのパーティに入ってくれないかと誘いに来たんだ。あんたの底抜けの強さが欲しくてね……。ただ、ちょっとばかり、危機に陥っていると聞いて、アネルザに頼んで、王軍の一隊を貸してもらったのさ」

 

 ロウがお道化た感じで言った。

 

「あ、あたしをですか──。あれは、本当の話で……?」

 

 言葉に詰まった。

 横に転がっているタルトの口からだが、ロウがマーズを冒険者のパーティに誘おうとしているというのは、昨日耳にした。

 本当であれば、嬉しいと思ったが、たったいま本人の口からそれを告げられた。

 マーズは有頂天になった。

 

「……ところで、薬の影響を抜く……。傷もな……。これは治療だ。いきなり殴るなよ」

 

 そして、不意に、ロウが毛布ごとマーズを抱いて、口づけをしてきた。 

 しかも、舌が入り込み、唾液が注入される。

 マーズは目を白黒させてしまった。

 だが、それよりも衝撃を受けたのは、ロウに口づけされた瞬間に、全身を甘い痺れが包み、次いで雷のような気持ちよさが駆け抜けて、全身に拡がったのだ。

 

「あっ、ああっ」

 

 ロウが口を離した。

 だが、マーズはしばらく呆けた感じになり、すぐに動くことができなかった。

 しかし、一方でずっと身体にまとわりついていた不快な火照りが消滅していることに気がついた。

 それだけでなく、棒と鞭で傷ついた痛みがなくなった。

 毛布の下の身体を覗くと、血の痕はあるが、皮膚が破けたところが、すべて塞がっている。

 マーズは驚愕した。

 しかし、そう言えば、ロウがマーズに口づけをする前に、「治療」と口にしていた。

 ロウは女に口づけをすることで、治療術の魔道を遣うのか?

 マーズは唖然とするしかなかった。

 

「ア、アネルザ──。こ、こんなことは許されんぞ──。よ、余をこんな風に扱うなど──」

 

 グリムーン公だ。

 いまは、取り囲んだ兵士たちに起こされて、車輪付きの椅子に乗せ直されている。

 だが、周りに護衛がまったくいない状態に、恐れおののいているのか、威勢の割りには顔色が蒼い。

 身体もぶるぶると震えている。

 失禁で汚れたズボンもそのままだ。

 

「うるさいねえ、グリムーン──。ところで、お前はなんでここにいるんだい? 今日は、ここにいるタルトという悪党が、公証人を通して、遺言で自由民となることが届けられているマーズという闘奴を闇奴隷として売り払おうとしているという情報に接し、こうやって、手入れしに来たんだけど、まさか、あんたが買い手じゃないだろうねえ。だとしたら、大変なことさ。なにしろ、闇奴隷とわかっていて買うのは大変な罪だからねえ」

 

 アネルザが不敵に笑った。

 

「なにい?」

 

 グリムーン公が絶句した。

 マーズにはよくわからないが、ロウが連れてきた王軍の一隊は、そこに血を流しているタルトの捕縛に来たというのが名目ということなのだろうか?

 そういうことをグリムーン公に言っている?

 マーズはよくわからなかった。

 

「聞こえなかったのかい、グリムーン──。ここに入って来たとき、お前が命じて、闇奴隷として売り飛ばされかけているマーズをいたぶっているように見えたけど、それが本当なら、大変なことだと言ってんだよ──。それとも、たまたま、ここにいただけなのかい? だったら消えな。それとも、関係者になりたいのかい──。ああ、そういえば、外にいた、お前の私兵は全員が庭に転がっているよ。このまま帰るなら見逃してやる。連れて帰りな──」

 

 アネルザが怒鳴った。

 びっくりするような貫禄だ。

 さっきまで傍若無人だったグリムーン公が絶句している。

 

「ア、アネルザ、き、貴様、この余に、こんな真似をして、ただで……」

 

「連れていきな──」

 

 アネルザが指揮官らしき男に声をかけた。

 グリムーン公の椅子が押されて、外に連れ出される。

 

「待て──」

 

 そのとき、マーズの前にいたロウが立ちあがった。

 アネルザが手で合図をして、グリムーン公の車椅子をとめる。

 反転させて、ロウの方を向かせる。

 

「な、なんだ、貴様は──」

 

 グリムーン公がロウを睨んだが、その顔には明らかに恐怖が浮かんでいる。

 

「俺はロウ……。ロウ=ボルグだ。あんたを蹴り飛ばした男……。よく覚えておいてくれ」

 

 ロウがグリムーン公に言った。

 そして、手で追い払うような仕草をした。

 グリムーン公が今度こそ外に連れ出される。

 

「余計なひと言だな。あの男は忘れんぞ……。恨みを買うなら、わたしだけでよかったのだ。わざわざ、ひと足先に乗り込んで、目立つようなことをして……。ところで、いまは、ここで脅すのが、わたしの限界だ。この場では殺すことまではできん……。公爵を処断するには、闘奴を闇奴隷として買っただけでは、罪が軽すぎるのだ。あいつは、このまま放免するしかない」

 

 アネルザがロウに近づいて耳元で言った。 

 

「いいさ……。これで恨みの相手がアネルザだけでなく、俺に対しても二分される。アネルザばかりに、恨みの矛先を押しつける気はない……。もっとも、そんなことを言いながら、三箇月も王都を留守にするんだから、申し訳ないけどね」

 

「まあ、できれば、そなたがいないあいだに、公爵からは力を削いでおくさ。むしろ、丁度いい」

 

 アネルザが笑った。

 

「悪いな……。戻れば、公爵との政争も手伝うよ」

 

「無用と言いたいが、頼もしいし、嬉しい。じゃあ、約束の礼も頼むぞ」

 

「あれは冗談だろう?」

 

「冗談なものか」

 

 アネルザが大きな声で笑った。

 なんのことかわからないが、ロウがとても複雑そうな表情になった。

 

「なんか、そういう競争も急に始まったわね。イザベラ姫様に、王妃様? アン様も手をあげたいって、宴のときにつぶやいてたけど、あたしもサビナ草を飲むのやめようかな」

 

 ずっとロウについていた小柄な女がぼそりと言った。

 サビナ草……?

 もしかして、避妊草の?

 

「わたしは、とっくにやめているぞ。ロウが望むなら、いつでも受け入れる。ロウ次第だ」

 

 不意に女騎士が口を挟んだ。

 

「えっ、そうなの?」

「そうなのか──?」

 

 エリカとロウがほぼ同時にびっくりしたように声をあげた。

 

「あ、あのう……、先生……。ありがとうございます……」

 

 マーズは言った。

 とにかく、なにが起きたのかわからずに、圧倒されて口をきくのも忘れていたみたいになっていたが、とにかく助かったのだ。

 ロウがこっちを見た。

 優しく微笑んでいる。

 

「とにかく、よかったな……。先手を打って、さっさと乗りこんだつもりだったのに、実際には危機一髪だった……。とにかく、なんて男だ、こいつは──」

 

 ロウがずっと忘れられたように放置されていたタルトの腹を蹴った。

 

「うがああっ、ぐがあああ」

 

 タルトが呻いた。

 すでにかなりの出血をしている。

 しかし、治療されることなく放っておかれているので、かなり衰弱をしている。

 

「では、王妃殿下、連れて行きます──」

 

 王軍の一隊の指揮官らしき男がアネルザに敬礼をする。

 

「ああ、厳しく調べて、余罪を洗いな。多分、マーズ以外にも、本来は解放されるはずだった闘奴を不当に闇奴隷にして売り飛ばしているはずだよ。拷問で殺してもいいけど、すべて自白させてからにするんだよ」

 

「わかりました──」

 

 生真面目そうな騎士隊長がもう一度敬礼をし、部下に命じてタルトを外に運ばせる。

 それとともに、乗り込んできた兵も引きあげていく。

 アネルザの護衛らしき数名はいるが、それは道場の入口までさがっていった。

 

「ところで、大丈夫か? 女の身体を棒や鞭で打たせるなど、他人がすると腹がたつな」

 

 ロウが心配そうに言った。

 マーズは噴き出した。

 

「あたしは闘士ですよ、先生。あたしを女扱いするのは、先生だけです」

 

 マーズは笑った。

 すると、ロウが困ったような顔になった。

 

「先生はやめてくれよ。そんな器じゃないし、困ってしまう」

 

 ロウが頭を掻く。

 

「先生は先生です──。どうか、そう呼ばせてください──。それと、さっきの話ですが、是非ともお願いします。先生の奴隷としてお仕えします。冒険者のパーティの戦力としてお加えください」

 

 マーズはしっかりと頭をさげた。

 そして、ロウの気の変わらないうちに、さっき口にしていた、マーズのパーティー入りのことを承諾しなければと思った。

 

「奴隷の身分はすぐに解放するよ。ここを出れば、正規の手続きをするために、奴隷登記所に向かう。本当はそんなことをしなくても隷属を外せるんだけど、マーズの場合は、正規に手続きをした方がいい……。とにかく、受け入れてくれてよかった……。じゃあ、よろしくな」

 

 ロウがマーズの頭をあげさせた。

 顔をあげると、口づけをされたときのように顔が近い。

 マーズはかっと顔が赤くなるのがわかった。

 

「初々しい反応だな。ところで、よいのか、マーズ? 一応は、わたしが仲介を頼まれたから訊ねるが、この男の傍に行くということは、女として大抵のことはさせられるぞ。誠実そうな顔をしておるが、このロウはかなり好色で鬼畜だ。信じられないくらいの回数のセックスを求められるし、もしかしたら、さっきみたいに鞭で打たれるかもな。そういう性愛もあることを耳にしたことがあるか?」

 

 アネルザが横から口を挟んだ。

 セックスは当然だが、鞭で打つ?

 このロウがタルトと同じようなことをするなど信じられなかったが、タルトが相手なら怒りと屈辱しか感じなかったものが、ロウに裸にされて鞭で打たれることを想像すると、悪くないと思ってしまったから不思議だ。

 考えようによっては、修行だ。

 とにかく、マーズは断るつもりはない。

 慌てて、首を縦に振った。

 

「もちろん構いません。鞭打ちでも、セックスでも──」

 

「鞭打ちなんてしないよ。今回、傍からみてわかった。女たちを鞭打ったりするのは自重するよ」

 

 ロウが意気消沈したように言った。

 

「なにを言う──。していいのだぞ、ロウ──。いや、むしろ、してくれ」

 

 すると、女騎士が焦ったように、突然に叫んだ。

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