【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
275 報酬はあたし……
何事もなく、旅も三日ほどすぎた。
エルフの里で行われるユイナの競りは、二箇月ほど先である。
どこにも立ち寄らなければ、馬車でならゆっくりと進んでも一箇月もあれば十分だろう。
その気になれば、騎馬なら十日もあれば到着できる。
従って、道中では、数日で受けられるようなクエストをいくつかこなすつもりである。
ユイナを競り落とす軍資金は、事前にイライジャが準備したものに加えて、アネルザが準備してくれたものがある。
ほかにも一郎たち自身の蓄えもあるので、おそらく十分だとは思うが、多いに越したことはない。
それに、地方ギルドでクエストを受けるというのは、ミランダとの約束でもある。
「とりあえず、冒険者ギルドは、ここのようですね」
一郎の隣を歩いているエリカがほっとしたように言った。
やって来たのは、タイランという街だ。
王都のように城壁や城門があるような街ではない。王都に比べれば、街というよりは農村に毛が生えたように感じてしまう。
ここにやって来たのは、王都から運んできた手紙と荷があるからだ。
「配達」クエストは、本来であれば、シーラ・ランクに属する一郎たちがこなすようなクエストではないのだが、どうせ通り道だからと引き受けたのだ。こんな小さなものでも、クエストはクエストだ。それに、ここのギルド長は、ミランダの古い馴染みらしく、是非立ち寄ってくれと特別に言われてもいた。
ただ、あまり王都から外に出ない一郎たちの中には、地理に明るい者がいない。エルフの里のあるナタルの森に入れば、エリカもイライジャも詳しいのだが、王国内の大きな街道から逸れるような、こんな田舎街になるとよくわからない。
それでもタイランの街にやって来るまではなんとかなったが、街の中のどこに冒険者ギルドがあるかは、まったくわからなかった。
それで、こうやって一郎とエリカが馬車から降りて、道々訊ねながら、後ろから馬車を従えてやって来たというわけだ。いまの馭者はコゼだ。
「ここがそうなの? 酒場じゃないの?」
馬車を停車させたコゼが、馭者台から不審の声をあげた。
確かに、そんな感じだ。
目の前の店には、酒場であることを示す空の酒樽が置かれている。
「地方に行けば、冒険者ギルドなんて色々よ。酒場を兼ねているなんて珍しくもないわ。王都のギルドもミランダが就任する前は、酒場だかギルドだがわからなかったそうじゃない……。それに、あそこに冒険者ギルドの看板があるわ」
エリカが指さしたのは、入り口の扉の上側にある紋章の看板だ。
一郎の首に掛かっているものと同じ紋様であり、冒険者ギルドであることを示すものだ。確かに、間違いないようだ。
「みんな、着いたぞ」
一郎は馬車の後ろに移動して声をかけた。
「はい」
「はーい」
女たちの元気な声が返ってきた。
最初に飛び降りてきたのはマーズだ。
そして、預かっている荷の入った袋を受け取る。
続いて、シャングリア、イライジャ、ミウという順番で降りてきた。ミウは餞別代りにもらったという布のローブに身を包んでいる。いかにも魔道遣いという服装だが、華奢で小柄なミウが身につけると、ローブが新品なせいもあり、なにかのコスプレのようだ。
一郎がそういうと、「コスプレ」という単語の意味がわからないミウは首を傾げていた。
「とりあえず、中に入るか……。マーズ、荷を持ってついてきてくれ。イライジャも一緒に。ほかの者は待機──」
あまり大勢でいきなり入るのもどうかと思ったので、とりあえず、エリカとイライジャとマーズだけを連れていくことにした。
この数日で、イライジャの優秀さはすっかりとわかった。短い時間でメンバーの個性と能力も掌握してくれたみたいであり、なにかと頼りになるので、クエストを受けるかどうかを相談しようと思った。
「いらっしゃい。見慣れない顔だな。空いている席に座ってくれ。ここは宿も兼ねているから、泊まりもあるぜ」
カウンターの奥にいた酒場の主人が元気な声をあげた。
頭の禿げあがった小太りの中年の男性だ。ほかに給女をしている若い娘がいる。ステータスを覗くと二人は親子であり人間族だ。
驚いたことに、そうは見えないのだが、店の主人はかなりの上級の冒険者レベルを持っている。戦士ランクもそれなりだ。低いが魔道遣いでもあるようだ。
「場合によっては客になるかもしれないけど、とりあえず、
一郎はカウンターに進んでいくと、後ろのマーズに声をかけた。
「どうぞ」
マーズが袋をカウンターに置く。
配達クエストは、大抵が冒険者ギルドと冒険者ギルドを結ぶ荷の運搬だ。そこで荷を受け取ったギルド先で荷の受け入れを記録してもらえれば、受け取った側で報酬の支払いを受けられることになる仕組みらしい。
「おう、配達クエストか。冒険者だったのか。ご苦労さん……。ちょっと待ってくれ」
店の主人が袋の中にある荷を改めだすとともに、カウンターの奥から水晶玉のようなものを取り出す。
手をかざすと、急に光りだして、文字のようなものが空中に浮かびだした。なにかのリストなのだろう。
「はい、確かに──。代金はどうする。現金で? それとも登録しとくかい?」
主人がにこやかに言った。
登録というのは、ギルドの登録だけしておいて、どの地方の冒険者ギルドや両替商ギルドでもおろせるようにするというシステムだ。一郎の元の世界でいう銀行のような感じだ。
「最終的には現金で。ただ、ここで適当なクエストがあれば、受けようと考えてます。それと合算して報酬を受けたいと思います……。それと、ミランダがよろしくと……」
一郎は服の下から首飾りを出して見せた。
「ああ、ミランダの知り合いの冒険者か──。そういえば、優秀なシーラランクのパーティが来てくれると、連絡が来ていたな……。もしかして、あんたらか──。だったら、早く言ってくれよ」
一郎がミランダの名を出すと主人は懐かしそうな声をあげた。聞けば、ミランダとは随分昔になるらしいが、一時期、一緒にパーティを組んでいたことがあるそうだ。
この主人については、いまは怪我をして戦えなくなったために冒険者を引退し、故郷であるこの土地でギルドマスター兼酒場の主人をしているのだそうだ。
ミランダは元気かと訊ねるので、王都でも有名な女傑だと教えてやった。
一郎の女のひとりであることは、とりあえず喋らなかった。
少しのあいだ、カウンターを挟んでミランダのことについて会話をした。
「……そうか……。是非泊まっていってくれ……。せめて、酒を一杯ずつおごらせてくれよ」
「ありがたいけど、俺たちは七人連れですよ」
「七人か──。だったら、二部屋準備する。一泊目はただでいい。酒も全員に一杯ずつおごる。ただし、食事代は払ってくれよ」
主人がにこやかに言った。
一郎は、マーズにみんなを呼んできてくれと伝えにいってもらった。
「そうだ。クエストだったな──。いま、入っているのは、そこにある」
店の主人はカウンターの反対側にある壁を指さした。
確かに、十枚ほどの紙が無造作に貼ってある。
それにしても、なんだか、冒険者ギルドというよりは、酒場が本業で、冒険者ギルドの仕事はついでにやっているという感じだ。
とりあえず、一郎はエリカとイライジャとともに紙が貼られている酒場の壁に向かう。
それで気がついたが、店の中には十人ほどの客がいて、三個ほどのテーブルに分かれて座っていた。誰も彼も、珍しそうに一郎たちを眺めている。
ひとりだけ、ミウと同じ年くらいの少女が隅に座っていたが、ほかは全員が男であり、テーブルに酒の杯が並んでいる。
ほかの土地から冒険者がやって来るのが珍しいのだろうかと一瞬思ったが、ふと見ると、ほとんどの視線はエリカに向いているというのがわかった。
イライジャも美人だが、エリカにはかなわない。
考えてみれば、美貌で有名なエルフ族だが、その中でもエリカは若く美しい方に入る。それだけじゃなく、一郎から毎日のように精を注がれて、色っぽさに磨きのかかったフェロモンまき散らしの可愛いエルフ娘だ。
どうやら、そういうことのようだ。
「……護衛任務が二件……。薬草採集が一件……。これは魔獣退治ですね……。アンデッドモンスターの調査というのもあります……」
エリカが順にクエストを読んでいく。
クエストにはランクがあり、冒険者はパーティランクと同じか、低いクエストを受けられる仕組みになっている。
無謀にクエストを受けて失敗されるのを防ぐためであるらしい。
魔獣退治とアンデッドモンスター調査が
「まあ、あんたたちなら、魔獣退治のクエストが適当なんじゃない。全滅させなくても、退治した数に応じて報酬が支払われるようだから、時間がかかるようなら中断してもいいんだもの。アンデッドモンスターは、聖霊術をマスターした魔道遣いでないと除霊できないわ……。ミウも一応はできるらしいけど、まあ、彼女に負担がかかるようなクエストはまだ無理ね。エリカは聖霊術はできないでしょう?」
イライジャが言った。
だが、エリカが首を傾げた。
「……でも、確か、ロウ様って、アンデッドモンスターを倒せましたよね……。ほら、ルルドの森で……」
エリカが思い出すように言った。
そういえば、そんなこともあった。
あれはこの世界にやって来てすぐのときであり、アスカの城からエリカの魔道で脱走したとき、グールの充満しているルルドの森に入ってしまい、そのとき、なぜかグールの弱点となる核の一点がわかってしまい、そこに松明を当てるとどれもこれも、瞬時に退治できてしまったのだ。
あれは、いまにして思っても不思議だ。
「ええっ? あ、あんたって、聖霊術まで遣えるの?」
エリカの言葉を聞いたイライジャは目を丸くしている。
「いや、聖霊術というわけでも……」
一郎は困ってしまった。
しかし、それはともかく、ふと思ったことがある。
それで、エリカに魔獣のクエストと、アンデッドモンスターの調査のクエストの場所を訊ねてみた。
すると、どちらも“東の森”と称される街から少し外れた場所のようだった。ただ、アンデッドモンスターの出没されたと噂される地域は、どちらかといえば、森の外れの人家に近い場所のようだ。
「やっぱり……」
一郎は頷いた。
「なにがやっぱりなの?」
イライジャだ。
「いや……。確か、俺の記憶では、アンデッドモンスターが出現するのは、瘴気という魔物特有の気が溢れていることが原因だったはずだ。そして、それは魔獣も同じだ。魔獣は特異点と呼ばれる瘴気の発生場所が作られてしまったために、そこから入って来る現象だ。つまり、そのふたつの依頼は、同じ原因だと思うんだよ」
「この近くのどこかに、特異点が発生しているということ?」
イライジャは眉をひそめた。
だが、一郎は何度か、特異点封印のクエストを受けているので、特異点と呼ばれる異界との結界の綻びのことと、出現する魔獣との関係はわかっている。そもそも、一郎の女には、サキのような魔族そのものもいる。かなり、特異点について詳しいという自負もある。
魔獣も魔物も、かつて封印された冥王と称される魔族の王の支配に属するものであり、冥王そのものとともに、この世界とは異界に当たる場所に封印をされた。
だが、なにかの偶然などにより、その封印が綻ぶことがある。
それが特異点だ。
特異点が大きくなれば、瘴気が溢れて地域一帯に満ち、魔獣や魔物、そういうものが封印された異界から抜け出てきて、こちら側に次々に出現する。
だから、可能な限り素早く、発見された特異点は再び封鎖しなければならない。
ただし、発生した魔獣や魔物には特異点が封印されて瘴気がなくなっても、生きていけるものもある。仮想空間術のあるサキがそうだし、そもそも人族の淫気を食料とするクグルスなどの淫魔族系の種族は、瘴気とは無関係に生きる。
また、魔物の吐く息が瘴気そのものであり、それがどんどんと拡がれば、さらに瘴気が濃くなり、特異点と離れても魔物が生きやすい環境ができあがるということにもなる。
また、魔獣もそうだ。
本来は瘴気のあるところでしか生きることのない魔獣が子を成せば、それは瘴気がなくても生存を続ける。
この世界のいまでも存在する大部分の魔獣は、それであるらしい。だから、魔獣の存在は、必ずしも、深刻な特異点がそばにあることを意味しない。
だが、アンデッドモンスターは別だ。
彼らは子を成さないし、瘴気のある場所にしか出現しない。
従って、アンデット系のモンスターがいるということは、ほぼ間違いなく見つかっていない特異点がそばにある。
一郎は小声で、自分の見解を簡単に説明した。
「そうね……。ロウ様の言う通りよ。アンデッドモンスターと瘴気の関係についてはあまり知られていないけど、そのとおりなのよ」
エリカも同意した。
彼女はアスカと一緒にいるとき、なぜかアンデッド系の魔獣と関わることが多かったらしい。アスカの城の周りにはルルドの森などがあり、瘴気に溢れていて、信じられないくらいにアンデッドモンスターが多かったようだ。
「ううん……。そうだとしても、でも、このアンデッドモンスターの調査クエストは、
イライジャが言った。
確かにそうだとは思った。
アンデッドモンスターは金貨一枚で受けるようなクエストではない。その十倍でも受け手は少ないだろう。それだけ、退治が難しいからだ。
アンデッドモンスターを相手にするなら魔獣の方が割がいい。魔道じゃなくても剣が通用するし、魔獣そのものの退治だけでなく、素材と称される肉体の一部分を買い取ってもらうこともできる。
そのときだった。
軽く、袖を後ろから引っ張られた。
振り返ると 背後に十二、三歳の少女が立っていた。
ひとりだけ、食事も酒もないテーブルにいた少女だ。
一見して、この街か、その近くの農村の娘だろうということはわかる。
「お兄ちゃんたち、冒険者? そのクエストを受けてくれるの?」
そのクエストというのは、アンデッドモンスターの調査クエストのことのようだ。彼女の示す指先には、そのクエストの依頼の貼り紙がある。
魔眼を使うと、その少女の名は“サターシャ”とあった。
やはり、村娘だ。ジョブには魔道遣いともあるが、またレベルは低い。
年齢は十二のようだ。
ちなみに処女だということもわかった。
「検討中よ。ところで、あなたは?」
エリカが言った。
「あんたには話しかけていないわ、エルフさん。あたしは、このお兄ちゃんに用があるの」
「な、なによ──」
少女のちょっと失礼な物言いに、エリカはむっとした表情になる。
「だったら、そのクエストを受けて──。たった一日で終わるクエストよ。クエスト報酬は金貨一枚分だけど、あたしの身体を提供する……。一日間、好きなだけ遊んでいいわ。男の人って、そういうのが好きでしょう。それで不足する分を補って──」
彼女がロウに挑むように言った。
この調査クエストの依頼者は、彼女なのだろうか。
それにしても、この年齢で身体を提供とは穏やかでない。
一郎は呆気にとられた。
「こらっ──。サターシャ──。そんなものは報酬としてギルドで認められないと言ったはずだ。駄目だと断っただろう」
すると、店の主人がこっちに気がついて、慌てたようにカウンターから声をあげた。
「うるさいわねえ──。でも、いつまで経っても、これっぽちの報酬じゃあクエストを受けてくれる冒険者は現れないし、報酬もこれ以上準備できないんだから仕方ないでしょう──。だったら、これはギルドを通さない依頼にするわ──。あたしはこのお兄ちゃんに直接交渉する──」
サターシャが怒鳴り返す。
随分と気が強い少女のようだ。
「それは掟破りだ。いくらマイセンさんのところのお嬢ちゃんでも、ギルドを通さない直接交渉の依頼をギルド内ですることを許すわけにはいかん──。それに、マイセンさんのところの嬢ちゃんに、娼婦のような真似をさせられるか──」
店主が怒鳴った。
マイセンというのが誰かわからないが、この店主の口ぶりでは、街でもそれなりの名士という感じだ。
ほかの酔客も、報酬として身体を提供すると口にしたこの少女を馬鹿にしたり、卑猥な表情を向けていない。
誰も彼も困惑したような表情だ。
「黙れ、黙れ、黙れ──。なにもしてくれないのに偉そうに言うな──。ねえ、お兄ちゃん、あたしのおじいちゃんを助けてくれない。さっきも言ったけど、報酬は金貨一枚とあたしの身体よ──」
サターシャが腰にさげていた小袋をさっと開いて示した。
中にはぎっしりと小さな硬貨が入っている。全部合わせると、これが金貨一枚分になるのだろうか。
「とりあえず、話を聞こうか……」
一郎は言った。
「ほ、本当?」
サターシャが破顔した。
怒っているような表情よりも、笑った顔は遥かに魅力的だ。
思わず、笑みをこぼした。
そのとき、またもや店の扉が開いて、誰かが入ってきた。
腰に剣をさげた少年だ。
ただし、剣を吊っている以外は、どこをどう見ても、農夫の少年という感じである。
年齢はサターシャと同じ歳──。
名はレオン。
ただし、武術の腕はなかなかのものだ。
戦士レベルは“10”──。
この年齢としては大したものかもしれない。
一郎など、銃の技術があがることで、戦士レベルがやっと“5”になったところだ。
「サターシャ、また、ここに来たのか──。勝手にいなくなるなと言っただろう──。護衛ができないだろう」
少年が叫んだ。
護衛──?
この少年は、このサターシャの護衛役なのか……?
「レオン、やっと依頼を受けてくれる人が見つかったのよ。この人よ──。この人が受けてくれるわ──」
サターシャが声をあげた。
いや、話を聞くと言っただけだし、まだ受けるとは口にしていない。
そう言おうとしたら、レオンという少年がつかつかと目の前までやって来て、一郎をすごい顔で睨みつけた。
「受けた──? ただでか──? ただで受けるんだな──? まさか、代金を取るつもりじゃないだろうな」
レオンが言った。
横でエリカが口を挟もうという素振りを示したが、一郎はそれを制した。
「俺たちは冒険者だぞ。ただ働きをするわけないだろう。クエストを受けたとすれば、報酬はちゃんともらう。クエストを達成したときにな」
一郎ははっきりと言った。
「代金は金貨一枚分の硬貨と、あたしの身体──。ちゃんと払うわ。約束する。ねえ、お願い──」
サターシャが必死の口調で口を挟んだ。
すると、レオンがさっと剣を抜く。
「許さん──。決闘だ。武器を抜け──」
そして、レオンが叫んだ。
しかも、いきなり斬り込んできた。