【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「なにすんのよ」
一郎が剣の斬撃に気がつくよりも早く、エリカの怒声が響いた。
金属と金属がぶつかる音がして、レオンの剣が遠くに飛ばされる。
エリカの剣がレオンの剣を弾いたのだ。
「いてえっ」
レオンが右手首を掴んでうずくまる。
だが、すぐに飛んでいった剣の位置を認め、飛びつこうとした。
「動くな」
しかし、一郎はその眉間に短銃を突きつけた。
すでに火はついている。
亜空間には、火のついた二連発式の短銃が数十丁は準備されている。この世界に存在する最新の武器だ。クエストの賞金を継ぎ込んで、さらにアネルザの伝手を使って集めまくったのだ。
そして、一郎はそれらを手首から先だけを亜空間側に包むことで、瞬時に取り出せるように処置している。
周りの者から見れば、一郎が魔道で短銃を取り出したようにしか思えないだろう。
剣の才能がない一郎だったが、銃だけは数を撃つことで、当たるようになった。剣の鍛練は気が進まなかったが、銃の訓練だけは、サキの仮想空間も活用してたっぷりとやったのだ。
いまや、この短銃だけは一郎も、自分がそこそこの遣い手だと自負している。
ましてや、この距離だ。
外しようもない。
目の前の少年が金縛りにあったように動かなくなった。
「見知らぬ相手に、いきなり決闘だと叫んで斬りつけてきたんだ。返り討ちにあっても不満はないな? ここにいる全員が証人だ」
一郎はできるだけ凄味を効かせるように努力しながら言った。
そして、引き金を握る指にじわじわと力を入れていく。
レオンが跪いたままの姿勢で顔を蒼くした。
「……う、うう」
レオンがやっと恐怖で震えだしたのがわかった。
レベル10といえば、王都であれば、ごろごろしているが、この辺りの田舎では、大人であっても向かうところ敵なしだったかもしれない。おそらく、こんなにも呆気なく負けるとは思いもしなかったのだろう。
「やめてっ、レオンを殺さないで」
そのとき、絶叫がした。
サターシャだ。
銃を突きつけている一郎の前に割り込もうとしている。
一郎は構わず、引き金を強く引いた。
ガシャ──。
空音が鳴る。
一郎が亜空間から取り出したのは、火はついているが、弾込めをしていない銃だったのだ。
呆然としているレオンに、にやりと笑いかけた。
「なんちゃってな……。だが、殺されてもおかしくない状況だぞ。冒険者は荒くれが多い。本当なら殺されても文句を言えないところだ。これに懲りたら無鉄砲はやめるんだね。護衛という限りは、このサターシャを守るのが君の役割なんだろう? それじゃ、サターシャどころか、自分自身も守れないぞ」
一郎は手首から先を亜空間に包んで銃を消す。
目の前のレオンが脱力したようになったのがわかった。
「このばか──」
すると、いきなり罵声が響いて、レオンの頬で音が鳴った。
サターシャがレオンの頬を思い切り平手打ちしたのだ。
「なんてことすんのよ──。この人はやっと見つけたおじいちゃんを助けてくれる冒険者なのに──。謝んなさい──。謝るのよ──。このばか──」
サターシャがすごい剣幕で、もう一度レオンの頬を張った。
慈悲の欠片もない力一杯の張り手だ。
一郎はたじろいでしまった。
「んぎいっ──。だ、だって……いてえっ、お、お前の身体を……いたあっ──。こ、こいつが……」
「やかましい。それは、あたしが言ったことじゃないのよ──。あたしが報酬として身体を提供しようが、レオンの知ったことか──。そんなんで、報酬をまけてくれるなら、それに越したことはないのよ。それなのに……。こいつめ、こいつめ──」
サターシャがレオンを叩き続け、その勢いのままレオンに馬乗りになった。
さらに、ビンタを連発している。
「ちょ、ちょっといい加減にやめなさいよ」
「いいから、落ち着きなさい、ふたりとも……」
呆気に取られていた感じだったエリカとイライジャが気がついたように、サターシャをレオンから引き離した。
それを合図にするように、静まり返っていた店の中がほっとしたざわめきに包まれる。
「……さすがはシーラランクの冒険者だな。魔道遣いか、あんた……。とにかく、レオンを殺さないでくれてありがとう……。そいつは悪い子供じゃないんだが、サターシャのこととなると見境がなくてな……」
安堵したような店の主人の声がした。
サターシャもレオンも、みんな顔馴染みなのだろう。
何人かの客が、レオンをからかうような声をかけたりしている。
「なにか言うことあるでしょう、レオン──」
まだ憤懣が収まらない様子のサターシャがレオンの腕を掴んで、強引に立たせる。
「ご、ごめんなさい。で、でも……」
レオンが大人しく頭をさげた。
ただの向こう見ずではないようだ。
ちゃんと謝るだけ立派だろう。
根は素直なのかもしれない。
「でも、じゃない──」
サターシャがレオンの頭を叩いた。
そのときだった。
どやどやと新しい喧噪がやってきた。
コゼたちだ。
手持ちの荷を抱えて、店の中にやって来たのだ。
「ご主人様、馬車は預けました。それよりも、ふた部屋だそうですけど、あたしはご主人様と一緒の部屋ですからね。これだけは言っておきます。なにせ、ご主人様の護衛ですし」
まず口を開いたのは、先頭で入ってきたコゼだ。
後ろにシャングリア、マーズ、ミウと続いている。
「なに言ってんのよ、ロウ様の護衛はわたしよ──」
すると、エリカが噛みつくように言った。最初にアスカの城を逃亡してきて以来、エリカは一郎の護衛を自負している。部屋割りのことはともかく、コゼが一郎の護衛だと主張したのが気に入らなかったようだ。
「そうだったわね。じゃあ、あたしはご主人様の性奴隷。だから、同部屋ね」
コゼがにこにこと言い返した。
堂々と性奴隷だと口にしたコゼに、店の者たちが驚いたのがわかった。
一郎は苦笑してしまった。
「だったら、わたしもロウと同部屋だ。性奴隷だしな。それに、ロウと同じ部屋ということは伽をするということであろう? わたしも当然に加わるぞ」
シャングリアだ。
店の中のざわめきが大きくなったのがわかった。
「あんたらいい加減にしなさいよ。慎みのない……。それに、古くからの者と新しい者に分かれて部屋に入ってしまったら、チームワークに亀裂が入るじゃない。新入り代表として、わたしはロウと相部屋になるから。いつも一緒にいるあんたらが遠慮しなさい」
イライジャのたしなめる声が響く。
「そ、そんなこと言って……」
コゼが不満そうな声をあげる。
「あら、だったら、わたしとあんたは、一緒の寝台で寝ましょうか、コゼちゃん」
イライジャが意味ありげに微笑んだ。
途端にコゼがびくりと尻込みするのがわかった。
一方で、いきなり他人の前で、平気で痴話を交わし合う女たちに、マーズとミウが呆然としている。
まったく、こいつらは……。
「やめないか、お前ら──。イライジャの言うとおりだ。場所をわきまえろ」
一郎は一喝した。
口は閉じたが、コゼがなにかを主張するように、しっかりと一郎の腕を掴んできた。
「なあ、あんた……。えらい別嬪さん揃いだなあ。だが、まさか、全部あんたの女というわけじゃないんだろう?」
話を聞いていた酔客のうち、一番近かった男が好奇心を抑えきれなくなったかのように言った。ただ、さっき、いきなり短銃を出現させた一郎の手妻を見ていたのだろう。その口調には遠慮のようなものもある。
「そうですね。全員というわけじゃありません。一番小さい娘の魔道遣いのミウには手を出してませんよ。まだね……」
一郎が冗談交じりで言うと、ミウが真っ赤になった。
「す、すみません……。不甲斐なくて……」
ミウが呟くように言った。
「いいんだ、ミウ……。旅のあいだにたっぷりと時間はある。そのあいだに、ロウのお情けを受け入られるようになればいいんだ。みんな応援しているから」
「そうだ。あたしもできることは協力するよ。そうだ──。今度、あたしが先生に可愛がられるところを見るというのはどうだろう? それで抵抗感はなくなるのかもしれない」
シャングリアとマーズだ。
マーズとミウは身体つきはまるで違うが、十一歳になったミウと十六歳のマーズは一番年齢が近い。いつの間にか、大の仲良しになってしまった。
ミウが「うん」と頷いている。
性行為をして、ミウの魔力を安定させてくれとスクルズに頼まれて預かったミウだが、いまのところ、少しずつ緊張のようなものがほぐれていっているのはわかるが、まだまだ性行為を受け入れられるようにはなっていない。もっとも、一郎も、これについては焦るつもりはない。
訊ねた男だけでなく、男たちの全員が一郎に対して、畏敬のような視線を向けた。
なんかちょっと気持ちいい……。
「ね、ねえ、サターシャ……。やっぱり、この人に頼むのはやめようよ……。危ないよ」
「なにが危ないのよ──。あんたは黙りなさい──」
サターシャがレオンを一喝した。
*
「敵──」
先頭を進んでいたエリカが叫んで、さっと飛びあがって後ろに退がった。
次の瞬間、たったいままでエリカがいた場所の地面から、巨大な角が二本飛び出てきた。
続いて現われたのは、巨大なミミズだ。
そのミミズの先端に人の身体ほどの大きな牙が二本あり、それが最初に地面から飛び出したということだ。
「
エリカが叫びながら、さっと細剣を振って牙の一本を切り割いている。
反対側の牙にもシャングリアの剣が一閃した。
緑色の体液のようなものが飛び出して、魔獣がもがき始める。
東の森と呼ばれる街外れの森だ。
一郎たちは、ひとまず魔獣退治のクエストを受けて、こっちに来ていた。
クエストは、このところ大量に発生している東の森の魔獣をいくらでもいいから退治して欲しいという内容だった。
全滅させるというクエストではない。
数を減らせば、それに応じて報奨が支払われるというものであり、処分すべき魔獣の種類はいくつか挙げられていた。
この街にやって来て二日目である。
結局のところ、一郎はこの魔獣退治のクエストと、サターシャからの依頼であるアンデッドモンスターの調査というクエストを受けることにした。
ただし、優先は魔獣退治だ。
報奨から見てもこっちが本命であるし、向こうはいわば、ボランティアのようなものだからだ。サターシャも後回しになることは承知し、魔獣退治が片付いてから、改めて連絡をするということで納得してくれた。
店の主人に訊ねても、魔獣については大いに住民の生活を脅かしていて、切羽詰まった感じだったが、アンデッドモンスターそのものについては、出現すると言われている場所も、墓地域の一角に限定されていて、近づかなければ襲撃もされないらしく、またいまのところ犠牲者は出ていない。
魔獣退治に比べれば急がなければならないという感じではなかった。
「どいて下さい──」
一郎のすぐ前にいたマーズが大剣を持って飛び出した。
エリカとシャングリアが脇に外れて、マーズの突進経路を解放する。
「うおおおっ」
マーズの剣が炸裂する。
一郎の眼には入らなかったが、二閃したらしい。
胴体が三つに分裂して地面に横たわる。
「気をつけてよ──。
イライジャだ。
一方で、最後尾を進んでいたコゼが前に出たマーズに代わって、さっと一郎を守る位置に移動する。
「待つよりも攻めよう──。こいつの弱点は、イライジャ?」
一郎は怒鳴った。
「冷気──。温度が冷えると、動きが鈍くなるのよ」
イライジャが短く言う。
一郎はミウを見た。
「ミウ、この辺りの土一帯に振動を起こせ──。驚いて出てきた
巨大蚯蚓の身体を切断するほどのパワーのないコゼに、一郎はさっき出現した
束の間だったが、一郎には土から出現した魔獣の弱点が青い光として魔眼で認識できたのだ。
敵とみなした相手の弱点が青い光でわかるのも、一郎の魔眼の力のひとつだ。
「わかりました、ご主人様」
コゼがさっと両手に短剣を構える。
エリカとシャングリアたちも、中心にいる一郎たちに背を向けるように半円形陣を組んだ。
正面はマーズだ。その両側にエリカとシャングリアが構える。その後方で、一郎とイライジャとミウが守られるような体形だ。コゼは一郎のすぐ前で中間位置になる。
「い、いきます」
ミウが身構えた。
最初の戦闘ということで、ミウの極度の緊張が伝わってくる。
すぐに地震のような揺れが足元から起きる。
「来るわ」
エリカが雄叫びをあげる。
大きな牙を持った魔獣の
うまい具合に、すべて外側だ。
「
ミウが叫んだ。
周囲一帯に凄まじい冷気が沸き起こる。
「いまよ──」
エリカの声を合図にするかのように、近接戦闘役のエリカ、シャングリア、マーズが動きの鈍った魔獣に飛びかかった。
ただし、コゼは前に出ない。
今日のコゼは一郎の護衛役なのだ。
どんなときでも、一郎から離れるなとエリカに厳命されていた。
いつもは言い争いの多いふたりだが、こういうときは真剣だし、連携もばっちりだ。
あっという間に
最初に屠った魔獣を加えて、全部で六匹が死骸となって転がった。
「牙を回収したら、ここでキャンプを張りましょうよ、ロウ。魔獣の血の匂いを追って、ほかの魔獣がやって来ると思う。それを待ち受けて処分していくのよ」
イライジャが言った。
確かに、考える限りの適切な策だ。
一応はこれで大きな成果だが、請け負ったのは一帯からの魔獣の掃討であり、魔獣はいまの
歩き回るよりも、呼び寄せる方が手っ取り早いのは確かだ。
また、イライジャの役割は戦闘そのものではなく、リーダーである一郎の補佐である。なんとなくイライジャが司令塔のように指示するのをみんな受け入れるようになっていた。
しかし、一郎にはもっと有効な手があった。
ただ、それを披露することをちょっと迷っていた。
だけど、そろそろいい機会だ。
王都の女たちには、すでに紹介済みだし、全員が受け入れてくれた。
新しい女たちも、問題ないと思った。
一方で、女たちはさっき倒した
牙は魔獣退治の証拠になるし、毒のこもっている牙に魔道処置を加えれば、すりつぶして粉にすることで毒消し剤の貴重な材料になるとのことだった。ここのギルドでも受け取るだろうし、大きな城郭にあるような魔道ギルドでも高値で受け取るということだ。
「……終わりました、ロウ様……。保管をお願いします」
エリカたちが麻袋に包んだ牙を持って来た。
一本一本の牙が大きいので、これだけあると持ち運ぶだけでも本来一苦労だが、一郎の能力があれば、それ程でもない。
次々に亜空間にしまい込むだけだ。
あっという間に処置が終わった。
「今夜はみんなで寝ずの番ね。じゃあ、支度をするので野宿の道具を出して、ロウ」
イライジャが言った。
荷は全部、亜空間だ。
まったく便利なものだ。
「露営準備も魔獣退治も、ご主人様はなにもしなくていいですからね。よければ、ひとりくらい抜いてもいいですよ。好きなように暇つぶしの相手を命じてください」
コゼが言った。
ただ、「自分がやる」とは言わなかった。
さすがに、魔獣の集まる夜が予想されるということで、軽口を言う気にならないのだろう。
「俺もそんなに淫獣じゃないぞ。ひと晩くらい女を抱かなくても我慢できるよ」
一郎は笑ったが、女たちは笑わなかった。
「本当に?」
エリカが女たちの心情を代表するように、不審な顔で小首を傾げた。
一郎は咳払いした。
いずれにしても、さっさと終わらせるか……。
「ところで、イライジャ……。待ち受けよりもいい手がある。元を断つんだ」
「元を断つ?」
イライジャが不審な顔になる
「ただし、イライジャはもちろん、ミウとマーズも騒ぐなよ。受け入れてくれ。あいつも立派な仲間だ」
マーズとミウはともかく、イライジャはあのときの悶着を記憶しているので、誤解するかもしれない。でも、聞く耳を持っていそうな女だし大丈夫だろう。
一郎は腕を擦って念を込める。
クグルスを呼び出すのだ。
魔妖精は特有の嗅覚で、瘴気の根元である「特異点」の場所がわかるのだ。
「呼ばれて飛び出て、じゃじゃしゃじやーん。クグルスだよ。ご主人様、久しぶり──。わお、新入りがいる。黒エルフに、デカ女、小さいのもいるな……。いや、小さいのはご主人様の臭いがないから手付かずか? いずれにしても、みんなスケベそうだ。さすがはご主人様だ。みんな美人だし」
「ま、魔妖精──? み、みんな、離れて──。身体を乗っ取られて色情狂にさせられるわよ」
イライジャが魔道の杖をさっと抜いて、クグルスに向けた。
「おっ、やるか、黒エルフ?」
しかし、だが、クグルスは自在に宙を飛び回る手のひら程度の妖精だ。なかなかイライジャの狙いも定まらない。クグルスがイライジャにぶつかって身体を乗っ取る方が早かった。
「きゃああああ」
イライジャが悲鳴をあげて、うずくまる。
そして、いきなり自ら乳房と股間を服の上からまさぐり出した。
「や、やめてぇ」
イライジャが真っ赤な顔をして悶えだす。
クグルスが身体を乗っ取って、イライジャを操っているのだ。
「クグルス、適当なところでやめておけよ」
一郎は苦笑した。
「と、とめないんですか?」
エリカが驚いた声を出した。