※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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283 善良な魂と邪悪な魂

 ミウは、四肢を一郎の粘性体で地面に密着されて大の字に磔にされている。

 一郎は剥ぎ取った下着を横に捨てると、ミウの股間の亀裂に指を這わせた。

 

「ううっ、ううっ」

 

 ミウの首が当惑したように左右に激しく動く。

 嫌がっているが、これはミウじゃないだろう。ミウを操っているのは、ミウの中に憑依している悪霊だ。

 一郎はミウの髪を掴んで固定すると、無理矢理に唇を合わせた。

 強引に唾液をミウの口に中に注いでいく。

 

「い、いやあっ、や、やだっ。た、助けて……。だ、誰か、助けて……」

 

 ミウが必死に顔を避けて泣くような声を出す。

 一郎は舌打ちをした。

 わざわざ、ミウの口ぶりをして哀れそうな声を出しているのは、それで同情を誘って、一郎の行為をやめさせようとしている悪霊の魂胆に違いないからだ。

 もっとも、周りを囲んでいる女たちも動じた気配もなく、一郎がミウを犯すのを見守っている。まあ、悪霊が入っていなくても、女たちは一郎がミウをレイプするのを別段とめることもないと思うが……。

 

 とにかく、構わずに、さらにミウの口に唾液を注いでいく。

 だんだんと淫魔術の結びつきが強くなるのを感じた。

 

 それに応じて、ミウの性感帯もはっきりとわかるようになる。ある程度だが、これで、身体の感覚も操れそうだ。

 精を注げれば完璧なのだが、とりあえず、可能な限りの身体の感度を急上昇させる。ミウは全身に強い媚薬でも注がれたような感じになったと思う。

 

「はううっ」

 

 ミウの身体が弓なりにのけぞった。

 瞬時にミウの股間が熱くなり、一気に大量の蜜が流れ出した。

 愛撫を続ける。

 

「うおおっ、や、やめてくれ……。こ、こんな。こんな……」

 

 ミウの口から今度は男の口調で呻き声が洩れてきた。

 だが、声はミウのものだ。

 

「観念しな。さっさとミウから出ていけ──。さもないと、男に犯される体感を味わうことになるぞ」

 

 この悪霊が男であることは確かだ。

 少なくとも、一郎にこうやって愛撫されることに対する、ミウ側からの激しい嫌悪の感情を感じる。ミウならこんな反応を示すことはないはずだ。

 だが、逆に身体の反応は女そのものだ。

 みるみるうちに、ミウの身体から力が抜けていき、快感に浸かっていく素振りに変わる。

 

「ううっ、うううっ……」

 

 歯を噛み鳴らして、必死に快感に耐えようとするミウの脚を抱えて身体で押さえると、一郎は膨らんできた小さな肉芽を片手でゆっくりと回す。

 

「んふうっ」

 

 ミウが絶息するような悲鳴をあげた。

 一郎は指をヴァギナに挿入させる。

 すでにたっぶりの蜜で溢れていて、狭いものの抵抗はない。

 赤くなったもやの場所を念入りに擦る。

 ミウの身体の悶えが激しくなる。ぎゅっと膣も収縮した。

 

 もういいだろう……。

 さっさと精を注いで、悪霊を追い出そう。

 

 この悪霊の支配よりも、一郎の精の支配が強いことは間違いない。

 一郎が精を注げば、悪霊はミウに憑依できなくなり、外に飛び出すはずだ。

 

 そのときだった。

 なにかぼこりと音がした気がした。

 

「ロウ様──」

「ご主人様──」

 

 周りで見守っていた女たちの絶叫がしたと思った。

 

「えっ」

 

 わけがわからず、ミウに向かってさげていた上体を起こす。

 

「んぐうっ」

 

 頭に強い衝撃があり、一瞬視界が消えそうになった。

 身体が弾き跳ぶ──。

 転がった身体をコゼが捕まえてくれた。

 なにが起きたのかわからない。

 

「いいように、なぶってくれたな……。だが、お前はなんだ? 身体が剥がされそうになったぞ」

 

 ミウは手首と足首に、土の塊をつけたまま立ちあがっている。

 もしかして、魔道を遣って、貼りつけられている地面ごと外したのか?

 頭に感じた衝撃は、それを叩きつけられたのだろう。

 

「な、なんで? ミウの魔力は放出させたはずよ。そんなに早く回復するはずが……」

 

 エリカが驚いている。

 

「この子供は、自在型(フリィリィ)だぞ。仲間のくせに知らなかったのか? 魔道に必要な魔力を自由自在に吸収できる身体だ。魔力など、あっという間に回復できる」

 

 自在型(フリィリィ)──?

 なんだ、それはと思ったが、ミウについては一郎も、スクルズのいうような「不安定型(インスタビリティ)」という魔力が安定しないタイプではなく、通常の魔道師よりも高位に位置する自由自在に魔力を吸収できるタイプなのではないかと思っていた。

 おそらく、そのことを言っているのだろう。

 

 ミウがさっと手を前に出した。

 

「危ない──。来るわ──」

 

 イライジャが声をあげた。

 一郎はすかさず、ミウの前に粘性体の壁を作る。

 凄まじい炎の玉が連発で飛んで、作ったばかりの粘性体にぶつかって消える。

 

「なんなんだ、このわけのわからない粘性物は──?」

 

 ミウの中に入っている悪霊の舌打ちが聞こえた。

 一郎は粘性体の壁をミウに被せる。

 だが、ミウの跳躍が早かった。

 さっと、後ろに飛びのいて、それを避ける。

 一郎はさらに粘性体を追わせた。

 

 ミウが振り返って手を振る。

 大きな土の壁が出現して、一郎の粘性体を阻んだ。

 土壁(ソイル・ウォール)の術か──。

 

「捕まえろ──」

 

 一郎は叫んで、土の壁の反対側に走った。

 女たちも全員が突入する。

 

「顕現せよ。時をとめ、空間の扉を開け──。移動術(テレポ)──」

 

 叫び声がした。

 

「えっ? うそっ」

 

 コゼの声がした。

 コゼはミウを追う集団の先頭にいたのだ。

 全員の目の前で、ミウは姿を消してしまった。

 

「ミウが移動術を?」

 

 立ち止まったシャングリアが目を丸くしている。

 もともと、悪霊にそれだけの能力があったのか……。

 あるいは、完全ではないが一郎の淫魔術を刻まれかけたミウの能力が覚醒して、能力が飛躍したのか……。

 いずれの理由かわからないが、移動術は王都でも、スクルズ、ベルズ、シャーラの三人しか遣えない高等魔道だ。

 ミウは消えてしまった。

 

「どこに行ったんでしょう?」

 

 マーズの途方に暮れた声がした。

 だが、一郎はすぐに見当がついた。

 

「墓地だ──。ミウの魔道の力を使って、強引に結界を解こうとしていると思う。行くぞ──」

 

 一郎は声をあげて、駆けだした。

 全員が一郎を囲むように、追いかけてくる。

 

 

 *

 

 

 やがて、墓地に着く。

 果たして、ミウがいた。

 ひとつの墓の前でなにかをしている。

 おそらく、あれがマイセンの息子夫婦の墓なのだろう。

 そこに悪霊の本体が封印されているはずだ。

 

「もう、来たか──?」

 

 ミウの声だが悪霊が操っているのは明らかだ。

 こっちに振り向くと、さっと手を振ったと思った。

 黒い煙のようなものが、ミウの前の墓石から飛び出す。

 いくつもの小さな黒い煙に分離して、地面に吸い込まれた。

 すぐに、それぞれの場所の地面からなにかが這い出してきた。

 

骸骨戦士(スケルトン)が現われたわ──」

 

 イライジャが声をあげた。

 地面から現われたのは、剣を持った骸骨の戦士だった。

 全部で十体──。

 それがこっちに襲いかかってくる。

 

「俺がミウのところに行く。こいつらをなんとかしてくれ」

 

 一郎は亜空間から短銃を出して叫んだ。

 だが、こいつらには、弱点となる青い核のようなものが見えない。

 おそらく、憑依をしている霊の方を遮断しないと、退治できないのだと思う。

 

「仕方ない──。許せ、ミウ──」

 

 一郎はミウに向かって短銃を撃った。

 もちろん、胴体ではなく、脚を狙っている。怪我ならいくらでも治せる。

 しかし、なにかに阻まれて、銃弾は届かなかった。

 なにかの結界のようなものを張っているのだろうか。

 

「こいつ──」

「うおおおっ」

「うりゃあ」

 

 そのあいだにも、イライジャを含む女たちが武器を持って、骸骨戦士(スケルトン)に斬りかかった。

 さすがに、一騎当千の女傑揃いだけに、骸骨戦士(スケルトン)ごときに後れはとらない。もっとも、すぐに、バラバラになった骨が集まって身体を復活してくる。

 

「マーズは俺と来い。力ずくでミウをとめるんだ」

 

 一郎は銃をしまって、封印石を手に持った。

 エリカたちが骸骨戦士(スケルトン)を抑えている間隙を縫って前に出る。

 

「来たか──。だが、もう遅い──」

 

 墓の前に辿り着くというときに、ミウの口から勝ち誇った高笑いの声がした。

 なにかが墓から転がり落ちて地面に転がる。

 石だ。

 もしかしたら、これまで悪霊を封印していた封印石か?

 

 その瞬間に、真っ黒い煙の塊が墓から飛び出して飛翔した。

 さらに墓からだけじゃなくて、ミウの身体からも黒いものが飛び出して、黒い煙と一緒になる。

 

「ミウ──」

 

 気を失って崩れ落ちるミウの身体をマーズが抱きかかえた。

 一方で、一郎は黒い煙を追う。

 十体の骸骨戦士(スケルトン)からも、それが飛び出して、高く舞っている黒い煙に集まった。

 骸骨戦士(スケルトン)ががらがらと崩れて、地面に吸い込まれてしまった。

 

「いまこそ、我が身体を取り戻せる──。やっと、このときが来た──」

 

 黒い煙から大きな吠え声がした。

 一郎は舌打ちした。

 封印に失敗してしまったようだ。

 それが完成する前に、先に悪霊が飛び出してしまった。

 

「追うぞ──。マーズはミウをそのまま頼む」

 

 一郎はまたもや走り出した。

 悪霊が向かったのは、マイセンの屋敷の方向だ。

 マイセンによれば、悪霊が復活すれば、必ず自分に復讐すると言っていた。

 悪霊はマイセンを襲撃に行ったに違いない。

 

 一郎が駆けだすと、すぐにエリカ、コゼ、シャングリア、イライジャが追ってきた。

 

 

 *

 

 

 屋敷の中から悲鳴がした。

 飛び込む。

 階段の下でメリジーヌが倒れていた。

 二階から転がり落された感じだ。

 頭を打ったらしく、額から血が出ている。

 

「イライジャは彼女を頼む」

 

 それだけを言って、二階に駆けあがる。

 短銃を再び抜く。

 

「どかんか、小僧──。わしが抱き飽いたら、この娘はくれてやる。しかし、これはわしの物だ──。あの女に似ている。この娘は、わしがもらう」

 

 マイセンの声がした。

 だが、あのマイセンとは思えない下劣な口調だ。

 駆けあがった。

 

 マイセンが壁に向かって立っていた。

 その足元にいるのは、びりびりに服を破かれたサターシャだ。

 完全に怯えている。

 そして、その前に血だらけのレオンがいた。

 剣を構えたまま、立ち続けている。

 しかし、傷が顔から胸にかけて流れていた。

 大きな傷だ。

 足元には大量の血だまりができていた。

 

「や、やめ……ろ……」

 

 レオンはまだサターシャを庇っている。

 

「ならば、死ね──」

 

 マイセンが大きく片手をあげた。

 その手に、光の剣のようなものがかざされた。

 よく見ると、マイセンはズボンをはいていない。

 怒張が股間にそそり勃っている。

 

 一郎を追い抜いて、コゼが飛びかかった。

 無言で、手をあげているマイセンの肩に短剣を突き刺す。

 

「うがああっ──。いつまでも、面倒な連中だ──」

 

 マイセンが片手を振った。

 

「きゃあああ──」

 

 コゼが吹き飛ばされる。そして、壁にぶつかってぐったりとなった。

 一方で、肩に刺さった短剣がマイセンの肩から抜けて転がった。

 あっという間に、傷口も塞がっていく。

 一郎も唖然とした。

 

「マイセンさんから出ていくのよ、悪霊」

 

 エリカがさっとレオンの前に入った。

 シャングリアも反対側から剣をマイセンに向ける。

 そのとき、レオンががくりと膝を折った。

 

「レオン──」

 

 サターシャが血まみれのレオンに抱きついた。

 レオンの意識はもうないようだ。

 傷がどうなっているかわからない。

 

「出ていくだと──?」

 

 すると、マイセンが哄笑した。

 

「……どこから出ていくというのだ。この身体はわしのものだ──。わしのものではないものが入っていたのは、いままでのマイセンだ。いまこそ、本当のわしが身体に戻ったのだ」

 

 マイセンが吠えるように叫んだ。

 一郎はびっくりした。

 

「なにを馬鹿なこと言っている──」

 

 シャングリアが前に出た。

 だが、マイセンがさっと手を振った。

 シャングリアが見えない武器にぶつかったように、宙を飛ばされる。

 

「お前もだ──。どけっ、女──。いや、それとも、こっちにするか。小娘よりは、こっちがいいか」

 

 マイセンが下衆な口調でエリカに寄っていく。

 エリカがぎょっとした顔になった。

 

「きゃあああ」

 

 次の瞬間、エリカが悲鳴をあげて飛ばされた。

 エリカの服は上から下までまっぷたつに引き破られていて、エリカの下着が完全に露出している。

 

 サターシャとレオンがうずくまっているそばに、エリカが倒され、そのエリカにマイセンの身体がのしかかる。

 

「なにやってんだ──。それは俺の女だ──」

 

 一郎は声をあげて飛びかかった。

 だが、近づく前に、見えない棍棒のようなものでぶん殴られて身体を飛ばされる。

 壁まで転がり、くらくらする頭をあげて、マイセンの方を見た。

 マイセンは、完全にエリカに馬乗りになっていた。

 すでに胸当ても引き千切り、いまは腰の下着に手をかけている。

 

「いやああ。は、離せ──。離しなさい──」

 

 エリカは必死に下着を両手で掴んで泣き叫んでいる。

 だが、マイセンは余裕たっぷりで笑っているだけだ。

 そして、そのマイセンからなにかが迸る。

 マイセンとエリカの身体が光った。

 電撃(エナジー・ボルト)だ。

 

「んぐうううっ」

 

 エリカの苦悶の声が迸り、一瞬身体が、マイセンに跨られたまま弓なりになった。

 そして、がっくりと脱力する。

 

「どれ、どんな味かのう。ほかの女もその後で味見するぞ。全員逃げるなよ──」

 

 マイセンがついにエリカの下着を引き千切った。

 

「畜生──」

 

 一郎は粘性体を飛ばす。

 だが、途中で遮られて、逆流してきた。

 慌てて、粘性体を消滅させる。

 

「何度も同じ手は喰わんよ。そこで見ておれ」

 

「ご主人様──」

 

 コゼの声だ。

 目の前に無数の尖ったものが迫っていることに気がついた。

 とっさに、再び粘性体を出して壁を作ったが、全部は防げなかった。

 辛うじて胴体と顔は守ったものの、手足に木の欠片のようなものが突き刺さっている。

 ふと見ると、床の一部が剥がれていた。

 マイセンは、床を剥がして砕き、それを武器として飛ばしたみたいだ。

 

「ほう、面白いものをつけておるのう。股間に指輪か? 乳首もか。ほれっ、弄ってやろうか。ははは、堪らんか? それそれ」

 

「や、やめっ、……やめてえっ」

 

 エリカがまた叫んだ。

 だが、下半身を露出しているマイセンがそのエリカの股間と乳房を荒々しく愛撫し始めた。 

 

「くそうっ」

 

 一郎は飛びかかった。

 だが、マイセンの魔道で吹き飛ばされて、壁に全身を打ちつけられる。

 

「きゃあああ」

「うわああっ」

 

 コゼとシャングリアについても、やはり、マイセンの魔道で吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。

 一郎はとっさに粘性体で防護したが、かなり頭を打ったと思う。

 ふたりがぐったりとなる。

 

「あ、あふう、ううっ……。や、やめて……」

 

 一方で、マイセンに強姦されそうになって、抵抗を続けているエリカだが、その動きがだんだんと脱力するものになっているのがわかった。

 びりびりに服を破ったエリカの上に乗っているマイセンが、荒々しい手つきでエリカの乳房と股を愛撫しているのだ。

 エリカも必死の抵抗をしているが、ちょっとでもエリカが逆らおうとすると、マイセンは容赦なく、電撃(エナジー・ボルト)を浴びせている。

 すでに、エリカも虫の息だ。

 

「諦めの悪い女だのう」

 

 マイセンが嘲笑したと思った。

 

「んぎいいいいっ」

 

 エリカが絶叫して身体を弓なりにした。

 マイセンが再び電撃を身体から浴びせたのだ。

 もう、何度目になるだろう。

 

「畜生──」

 

 一郎は叫ぶと、身体から粘性体を一気に放出する。

 さっきから、同じことをやっているが、マイセンの身体の真後ろで全部跳ね返されてしまう。

 おそらく、あの位置でなんらかの魔道の結界を張っているのだと思う。

 一郎は、今度は、それを避けて、マイセンがさっき開けた床の穴に粘性体を流し込んだ。

 

 うまくいった。

 マイセンは気がついていない。

 

「な、なんか、おかしいなあ……。これだけ濡れているのに、随分と硬いな……」

 

 そのマイセンが首を傾げている。

 エリカの股間は一郎の施してある淫魔師の紋様の護りによって、マイセンの指の侵入を阻んでいるはずだ。

 おそらく、それを訝しんでいるのだと思う。

 

 とにかく、エリカに気をとられているいまがチャンスだ。

 一郎は下から床を粘性体に突き破らせて、マイセンではなくエリカを包み込んだ。

 

「うわっ──。なんだ?」

 

 目の前に粘性体を見ることになったマイセンが仰け反って声をあげた。

 一気に粘性体でエリカの身体を引き寄せる。

 一郎の手足は、さっきマイセンに床の木片を飛ばされて血だらけだ。それでも激痛に耐えて、エリカを抱き寄せた。

 

「大丈夫か──」

 

 エリカを包んでいた粘性体を消失させる。

 

「ああ、ロウ様──」

 

 エリカがすごい力で抱き締めてきた。

 その顔は半泣きだ。

 余程、身体をまさぐられたのが気持ち悪かったのだろう。

 

「あれっ? 怪我が……」

 

 しかし、すぐにはっとした顔になった。一郎の手足の状態に気がついたようだ。

 傷が少しだけ塞がる。

 エリカもミウほどではないが、初級の回復術程度は遣えるのだ。

 こんなときでも、やっぱりエリカは健気だと感じた。

 

「もういい。問題ない」

 

 一郎はエリカによる治療術を妨げて、マイセンに備えさせた。

 

「しつこい、連中だなあ」

 

 マイセンが苦笑して立ちあがる。

 その股間には、赤黒い男根が勃起していた。

 

「し、しつこいのはお前よ──」

「まったくだな……」

 

 やっと立ちあがれたコゼとシャングリアが、一郎とエリカの前に出て武器を構えた。

 もっとも、ふたりともさっき壁に頭を叩きつけられているので、動きがまだぎこちない。

 

「面倒じゃのう……。じゃあ、やっぱり、こっちにするか」

 

 マイセンが呆れたという表情で視線をサターシャに向けた。

 血だらけのレオンを抱き締めていたサターシャの顔が恐怖に包まれた。

 

「いい加減に、粗末なものをしまいなさいよ」

 

 コゼが素早くサターシャたちの前に回り込んだ。

 マイセンが片手をあげる。

 一郎は粘性体で全員の前に壁を作る。

 間一髪、火炎弾をコゼの前で阻むことができた。

 マイセンが舌打ちした。

 一郎たちの攻撃からマイセン自身を守ることはできるが、逆に一郎の粘性体の壁を、マイセンの魔道が突破することもできないようだ。

 

「ちっ、しぶといのう」

 

 マイセンが舌打ちした。

 しかし、マイセンにはまだ余裕のようなものがある。

 

「なんなんだ、畜生」

 

 一郎は、エリカを抱き締めたまま短銃を出した。

 胴体を避けて脚を狙う。

 

「無駄だ。本来のわしに戻ったからには、そこらの冒険者風情で相手になるか」

 

 マイセンが嘲笑の声をあげた。

 そのとおり、弾丸が空中で阻まれて床に落ちた。

 一郎はステータスを確かめる。

 

 

 

 “マイセン

  人間族、男

  年齢:82歳

  ジョブ

   魔道遣い(レベル60)

   退魔師(淫)(レベル60)

  生命力:400

  攻撃力:500

  魔道力:1000”

 

 

 

 やはり、能力が跳ねあがっている。

 また、悪霊が憑依したせいなのか、ジョブに退魔師が増えている。

 しかも、魔道力がとんでもない数値だ。

 退魔師のジョブに、“(淫)”がついているが、あれは悪霊が完全に淫情に支配されているからだと思う。

 悪霊に憑依されていたミウにも、それがあった。

 

 しかし、一郎は首を傾げたくなった。

 さっきから悪霊が憑依したはずのマイセンが、いまこそ、本来の自分に戻ったという趣旨の言葉を繰り返していることにだ。

 どういうことなのか……?

 

 いずれにしても、どうするか?

 殺すつもりで戦えば、やりようはあるかもしれない。

 しかし、その場合は、憑依されている側のマイセンも殺すことになる。

 コゼとシャングリアも、剣は向けるものの、致命傷を負わせないようにしているので、どうしても対応が鈍くなる。

 

 そのときだった。

 

「うあああっ、じゃ、邪魔をするなあっ」

 

 突然マイセンが絶叫して苦しみだした。

 

「わしを殺せ──。な、長くは支えられん……。は、早く……」

 

 マイセンの口から、別のマイセンの声がした。

 はっとした。

 乗っ取られる前のマイセンだ。

 

「おじいちゃん──」

 

 サターシャが叫んだ。

 

「こ、この偽者(にせもの)があ」

 

「偽者ではないわ。お互いに、わしよ……」

 

 また、声が入れ替わる。

 もう、一郎もどうしていいかわからない。

 

「こ、殺してくれ……」

 

 マイセンの口から苦しそうな声が漏れた。

 だが、またもや、すぐに狂気のマイセンが顔に戻る。

 

「ロウ様──」

 

 すると、階下から誰かがやってきて声をあげた。

 身体をマーズに支えられたミウだ。その後ろにはイライジャもいる。

 

「メリジーヌさんは大丈夫よ。こっちは? どんな状況なの?」

 

 イライジャが素早く言った。

 一方で、マーズは剣を抜いて前に出る。

 

「小うるさい蠅だ。束になったら、かなうと思っているのか」

 

 マイセンがさっと構えた。

 なにかをするつもりだ。

 

「あたしがやります──。光を遮る見えなき闇よ、光溢れるところに闇はない。聖なる光で暗黒の魂を薙ぎ払う……」

 

 ミウが早口で詠唱する。

 

「んんっ? 上級聖霊術……? させるか──」

 

 一瞬、マイセンの顔が曇ったように見えた。魔道が飛ぶ。

 一郎はすかさず粘性体の壁を飛ばすが、間に合わないかも……。

 焦った。

 

「させん──」

 

 マーズが完全にミウの前に出て、盾になる。

 マイセンの炎が飛ぶ。

 マーズの剣の一閃──。

 炎が分かれて左右に弾けた。

 遅れたが、一郎の粘性体の壁もやっとできる。

 

聖霊の光(ホーリー・ライト)──」

 

 ミウが叫んだ。

 眩しい光が部屋中を包む。

 

「うわああっ」

 

 マイセンの雄叫びがした。 

 真っ黒い煙がマイセンの身体から抜けていき、さらに光を浴びて溶けるように薄くなる。

 そして、消滅した。

 マイセンの身体が音をたてて倒れる。

 

「おじいちゃん──」

 

 サターシャが悲痛な声をあげた。

 

「ミウ、よくやった。レオンを……」

 

 それだけを指示して、マイセンに駆け寄る。

 しかし、様子がおかしい……。

 マイセンの顔には血の気がない。すでに死人のようだ。

 

 

 

  “マイセン

  人間族、男

  年齢:82歳

  ジョブ

   魔道遣い(レベル60)

   退魔師(レベル60)

  生命力:400

  攻撃力:10↓

  魔道力:0/1000↓”

  状態

   瀕死

 

 

 

「な、なんで?」

 

 思わず声をあげた。

 死にかけている。

 それに、退魔師の“(淫)”は消えたが、悪霊が憑依したために生まれたのだと思った“退魔師”ジョブが消えていない。

 もっとも、魔道力が枯渇しているので、敵対する危険はないと思うが……。

 

「エリカ、レオンの回復術をミウと変わってくれ。ミウはマイセンさんを──」

 

 一郎は言った。

 また、いまレオンを確認したが、まだ意識はないものの、これ以上悪化させなければ、命は大丈夫と判断した。

 それよりも、マイセンだ。

 

「む、無駄だ……。す、すでに、わしの半分の魂が消失しているのだ……。なにをやっても助からん……」

 

 そのとき、マイセンがかすかに眼を開いて言った。

 一方で、レオンの介護をエリカに加えてイライジャが受け持つ。

 ミウは、こっちに来て、マイセンに回復術(ヒール)をかけ始める。

 しかし、ステータスに好転はない。

 ゆっくりと生命力がなくなっていく。

 その数値が“3”に下がる。そして、“2”に……。

 

「サ、サターシャ、す、済まない……。こ、これが、欲望に負けた人非人(ひとでなし)のなれの果てじゃ……」

 

「そ、そんな、おじいちゃん──」

 

 サターシャがレオンの身体を預けて、マイセンのところに駆け寄ってきた。サターシャの身体は服が破れて、小さな乳房も無毛の股間も全部あらわになっている。だが、怪我はないようだ。レオンが必死に守ったのだと思った。

 マイセンは、いとおしそうにサターシャの顔に手を伸ばした。その手をサターシャが掴む。

 

「……レオンと仲良く……。あ、あいつはすごいな……。わ、わしを相手に……。わ、わしに……こ、こんなことを……言う……資格はないが……、あいつは、お前の騎士だ。大切に……。そ、そして、ロウ……殿……、か、感謝する……。あ、あの魔石の箱に……。か、隠し蓋がある……。その中に手紙が……」

 

 それが最期の言葉になった。

 一郎の魔眼からマイセンのステータスがなくなった。

 死んだのだ。

 

「ミウ、もういい……。レオンの治療に戻ってくれ……」

 

 一郎は上着を脱いで、まだ剥き出しのままのマイセンの腰にそれをかけた。

 

「はい……。その前にロウ様の治療も……」

 

 ミウがまだ、負傷の残っている一郎に魔道をかけようとしたが、一郎はそれを制した。

 一郎には、ユグドラの癒しがある。

 自然の大地や風に触れれば、どんな大怪我でも、しばらくすれば癒してくれる。

 一郎は窓を開かせて、外の風を部屋に入れた。

 徐々に自分の怪我が癒されていくのがわかった。

 

 

 *

 

 

「ロウ……」

 

 イライジャが手紙を差し出した。

 あれから、四半ノスほど経っている。

 十数分というところだ。マイセンの遺体はとりあえず、格好を直させて寝台に横にさせている。

 

 二階にいるのは、ロウとエリカとイライジャだ。

 ほかの者は一階にいる。

 とにかく、レオンの怪我がひどい。

 サターシャもメリジーヌも、マイセンの死はショックだろうが、いまはレオンの治療に専念している。

 ミウは下だ。

 レオンの治癒にあたってもらってる。ほかの者もそっちを手伝うように指示した。

 

 イライジャには、手紙を見つけて読んでくれと言ったのだ。

 マイセンが言い遺したのは、魔石の入っている箱に隠し蓋があり、そこに手紙が入っているということだった。

 イライジャには、それを探してもらっていた。

 

 エリカが横にいるのは、ロウの治療のためだ。

 一郎には、ユグドラの癒しという自己治療の特殊能力もあり、外の風に触れさせることでほぼ完全に回復した。

 だが、身体に入っている木の破片を除去するために、やはり、治療術が必要なのだ。

 それは、エリカに頼むことにした。

 また、エリカ自身の着替えもある。亜空間にある荷から、着替えを渡してエリカに渡した。すでにちゃんとしている。

 一郎の手足には、木片が刺さって大変のようだが、いまはエリカがひとつひとつ魔道で取り除いてくれているところだ。

 それもあらかた終わった。

 いまは最後の確認だ。

 エリカは長椅子に座る一郎の脚のあいだに跪いている。

 

「俺はまだ、字が読めなくてね……。まあ、多少はわかるんだが……。だけど、少しは予想がつく。手紙にはマイセンさんの告白が書かれてるんだろう? あの悪霊も、そして、悪霊が憑りつく前のマイセンさんも、どちらもマイセンさんだ……。悪霊なんかじゃない……。マイセンさんは、自分の魂を分離して、(よこし)まな側を封印していた。そうだったんだろう?」

 

 いまこそ、わかる。

 おそらく、間違いないだろう。

 イライジャは眼を丸くしている。

 

「どうして、わかったの?」

 

 イライジャの反応でやはり一郎の勘は正しかったのだと思った。

 みんなを下に行かせてよかった。冷静になってみると、そうじゃないかとふと思ったのだ。

 だから、真相を知る者を最小限にするために、わざわざみんなを一階に行かせたのだ。

 

「えっ、そうなんですか?」

 

 一郎の傷を一心不乱に確認しているところだったエリカが、驚いた感じで顔をあげた。

 

「読んでくれよ、イライジャ……。ただし、小さな声でね」

 

 一郎は言った。

 イライジャが一郎が座っている長椅子の隣に座ってくる。

 

「手紙は古いものよ……。おそらく、十一年前に書いたものだと思うわ。そして、これは、わたしたち宛てでもなければ、サターシャちゃん宛てでもないわ。マイセンさんが自分自身に宛てて書いた手紙よ。ただ、十一年間、一度も開封された形跡はなかったわ」

 

「多分だけど、マイセンさんは、自分でも忘れてしまっていたんじゃないかな。おそらく、自分自身を分離してしまった影響だろう。だけど、最後に封印していた半身が入ってきた。それで、手紙のことも思い出したのだと思う……。手紙を書いていたことすら、死ぬ間際まで思い出さなかった気もするな。それを予想して記憶が失われる前に手紙を書いたのだと思うけど……」

 

 一郎は自分の予想を言った。

 最初に会ったとき、マイセンには、十一年前のことを覚えている様子がなかった。

 もしも、覚えていたとすれば、一郎が十一年前になにがあったのかを確認しようとしたときに語ったと思う。あの半身はマイセンの善意の側の半身だったのだ。

 もっとも、少なくとも、息子の墓に封印したのが、自分自身の半身だというのは知っていたはずだ。

 だから、もしも、封印が解放されれば、その半身がマイセンの身体を取り戻しに来ることも予想していたのだと思う。

 

 イライジャが手紙を読み始めた。

 

 果たして、内容は一郎が予想した通りだった。

 しかし、そこに書かれていたことは、一郎の予想以上のことだった。

 過去のマイセンの犯した悪行は凄まじいものだったのだ。

 

 マイセンはもともと、旅の退魔師であったようだ。

 だが、魔道遣いでもあったので、実際にはさまざまな依頼を受けていたらしい。

 その力で各地を回り、依頼を通じて名声を得ていたようだ。

 ギルドに登録している冒険者ではないが、似たような仕事をしていたとある。

 しかし、本人の十一年前の手記による告白によれば、とてもじゃないが、性格はいいものではなかったようだ。

 極悪非道とまでは書かれていなかったが、まあ、その一歩手前だ。

 

 特に女癖は最悪で、いい女を見つけると、どうしても犯したくなってしまい、魔道の力を駆使して、乱暴もしたとある。

 ひとり息子も、そうやって生まれたようだ。

 ただ、息子が生まれたことは承知していたが、金を送るほかは、全く面倒も看ていなかったと手記にはあった。

 この城郭に立ち寄ったのも、本当に気紛れでしかなく、長く仕送りをしたのだから、宿代わりに使うつもりだけだったようだ。

 また、そのときには、息子を生んだ女は死んでいた。

 数年前に病気だったらしい。

 マイセンは、それさえも、この屋敷に立ち寄って知ったようだ。

 

 そして、マイセンは、この息子の妻に恋慕した。

 だから、まずは住み込みの召使だったメリジーヌを理由をつけて追い出し、息子もまた適当な言いつけで屋敷を出して、そのあいだに息子の妻を犯した。

 魔道で拘束をして、無理矢理だったと告白には書かれていた。

 

 それからは大いなる悲劇だ。

 戻った息子は、マイセンのしたことを知り、激怒して襲いかかってきた。

 マイセンは、あまりの息子の怒りに、つい本気を出してしまった。

 返り討ちにしてしまったのだ。

 

 マイセンの息子を殺したのは、マイセンだったのだ。

 それを見ていた嫁も、そのまま狂って自殺した。

 サターシャを遺して……。

 

 ふたりの死体を前にして、さすがのマイセンも、やっと自分のしたことの恐ろしさに我に返ったらしい。

 そして、マイセンは、三日間部屋に閉じこもり、自分の魔道の力の限りを尽くして、自分自身を分離したのだ。

 

 ひとつは、(よこし)まな心のマイセン──。

 

 もうひとりは、善良な心のマイセン──。

 

 善良なマイセンは自分の身体に留まり、邪まな側は、息子の墓に封印した。

 そのとき、彼の能力もまた分離した。

 退魔師のマイセンは、邪まな側に……。

 魔術遣いの部分は、善良な側だ。

 しかも、どちらかと言えば、邪まな側のマイセンこそが、主人格だったのだと思う。だから、善良な側のマイセンは、邪まなマイセンの人格が戻るまで、過去のことを思い出さなかった。

 まあ、いまとなっては、どうでもいいことだが……。

 

 いずれにせよ、これが真相だ。

 あとは、この街の人々が知っているとおりである。

 

 善良な側のマイセンは、自分自身を封印したことを隠して、この街の人のために尽くし、息子夫婦の遺したサターシャを大切に育てた。

 償いの意味もあったかもしれないが、邪まな側の半身を失っているので、純粋に善意の心からによるものだと思う。

 

「じゃあ、悪霊なんかじゃなくて、あれもマイセンさん自身だったということですか?」

 

 エリカはまだ信じられないという顔をしている。

 

「……邪まな側だけどね。だから、極端に本能に忠実だったのさ。特に、淫情にね……。本来は、邪まな部分と善良な部分の両方が合わさったのが、真のマイセンさんだ……。いずれにしても、封印されていた側のマイセンさんは、長く身体から分離していたので、ほとんど悪霊同然になっていたことは確かだと思うよ。淫情のお化けみたいになっていた。さもなければ、ミウの聖霊術で退治できたわけはないんだ」

 

 東の森でミウが憑依されてしまった理由も、いまではわかる。

 特異点が発生したために、東の森では瘴気が溢れて、死霊体(アンデッド・モンスター)が発生するほどだった。悪霊状態になっていたマイセンの半身も、それで力を得て、一部ではあるが封印を突破することに成功もした。

 

 ミウに憑依したのは、ただ、ミウがそこにいたからだ。

 一郎たちの中では、ミウだけが一郎の精を受けたことがなく、他者の憑依や操りに耐性がなかった。だから、のりうつられたのだ。

 もしも、ミウが一郎とすでに関係を持っていたら、一郎の淫魔の支配が防壁になり、ミウはマイセンの半身に乗っ取られなかった。

 また、さらに、ミウの高い魔道の力がなければ、ああも簡単に封印は解けなかった。

 ある意味では、一郎がミウを犯すのを躊躇っていたために、今回のクエストを失敗したといえるだろう。

 

 ただ、あの「悪霊」が邪悪な心のマイセンの成れの果てだとすれば、悪霊を退治することは、マイセンの本来の半身を殺すことであり、どうやってもマイセンを助ける方法はなかったということになる。

 唯一の方法は、悪霊、すなわち、邪悪なマイセンの半身を殺すことなく封印し直すことだっただろうが、あの半身の本来の居場所もマイセンの身体なのだから、力を得てしまった邪悪なマイセンをこれまでと同じやり方で封印できたかもわからない。

 もともと一部とはいえ、自ら封印を解いて外に出てきていたことを考えると、一郎は、新しい封印石を使ったところで、完全な封印のやり直しはできなかったのではないかと予想している。

 

 いずれにしても、失っていた心の半身が戻ったことで、善良な側のマイセンも忘れていた記憶を取り戻してしまったのだと思う。

 十一年前に、なぜマイセンが真相を手紙に書き、それを隠していたのかは、いまとなってはわからない。

 ただ、最後にそれを思い出して、真実を一郎に託した。

 そんな気もする。

 

 

 *

 

 

「イライジャ、その手紙をすぐに焼いてくれ……。手紙なんてなかった。この街に尽くしたマイセンさんは、悪霊に殺された。残念だけど……。万が一にも、このことはサターシャには教えたくない。知る必要もない」

 

「それでいいのね、ロウ?」

 

 イライジャが一郎に視線を向けた。

 一郎は頷いた。

 いずれにしても、非正規依頼とはいえ、一郎は初めてクエストに失敗した。

 完全達成記録(パーフェクター)は途絶えることになるが、そんなことは問題じゃない。

 

 イライジャの手の中に炎があがる。

 手紙は空中に浮かび、あっという間に灰になった。

 

 あとには、なにも残らなかった。

 これで、もう一度「悪霊」は封印されたのだ。

 

 

 

 

(第6話『邪悪な欲望』終わり、第7話『余話』に続く)




 このエピソードは、ロバート・スティーブンソン作『ジキル博士とハイド氏』をモチーフにしてます。
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