【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
284 幼馴染から恋人へ(1)─大切な人
夜である。
レオンは、サターシャに呼ばれて、屋敷の二階にあがってきた。
数日前、ここでマイセンに憑依した悪霊との激しい戦いがあった。
いまはあらかた片付いていて、散らかっているものはない。
ただ、元通りというわけじゃない。ここにあったマイセンの魔道研究の品物の幾つかは粉々になって壊れて捨てたし、マイセンが整理していた書類も集めてはあるが、レオンにもサターシャにも、その内容はさっぱりとわからない。
まあ、サターシャも少しは魔道を遣えるので、そのうちに、マイセンがやっていたものを意味のあるものに変えられるようになるかもしれないが、まだまだ先のことだろう。
それはとにかく、今日は一日大変だった。
マイセンの葬儀が行われたのだ。
長年、街のために貢献してくれたマイセンの葬儀ということで、かなりの人が参加をした。
マイセンのために、大勢が寺院に集まってお祈りをし、埋葬のときも多くの人がマイセンの死を悼んでくれた。
街のために尽くしてくれたマイセンの死をみんな悲しんでいた。
レオンも同じだ。
サターシャは一昨日までは、ずっと泣きじゃくっていたが、今日は一日、たった一人残ったマイセンの身内として立派に遺族としての務めを果たした。
埋葬が終わって、街の人が戻るときも、ひとりひとりに頭をさげて、葬儀の参列のお礼を繰り返した。
レオンは単なる家人なので、本来は葬儀の中心にいるべきではないのだが、サターシャに頼まれて、ずっと彼女の横に立っていた。
気丈そうなサターシャだったが、やはり時折感極まったように泣きそうになることがあった。
そんなときは、サターシャの方からレオンの手をぎゅっと握ってきた。
手を握り返すことくらいしかできないレオンは、恥ずかしいのを我慢して、少し力を込めて握り返してあげるのだ。
そうすると、サターシャは落ち着いたようになり、しばらくして手を離すのだ。
そんなことが何回かあった。
「サターシャ……」
二階にあがってきたレオンはサターシャに声をかけた。
すでに夕食の片づけも終わって、レオンの祖母のメリジーヌは一階の私室で休んでいる。レオンも喪装を着替えて平服だ。
二階で待っていたサターシャは、もう寝着になっていた。
この二階はマイセンひとりが使っていた研究室兼私室であり、サターシャの私室も、一階にあるレオンたちの部屋の隣にある。
だから、レオンをわざわざ二階に呼び出したということは、特別な話があるのだろうと思った。
「レオン、ここに座って」
サターシャは椅子ではなく、マイセンがいつも休んでいた寝台に腰かけていた。部屋全体が暗かったが、そこだけ燭台があり、光に包まれている。
彼女はとても複雑な表情をしていた。
いつものような元気な感じはない。
どちらかといえば、緊張している感じだ。
葬儀から戻って来て、サターシャに、寝る前に二階に来てくれと言われたときには、改まってなんの用事だろうと訝しんでいたが、あれから少し考えていて、なんとなくサターシャの話の内容について予想がついていた。
おそらく、サターシャはこれからのことを話し合いたいと思っているのだと思う。
マイセンは死んだ。
サターシャは、突然にたったひとりの肉親を失ったのだ。それは、サターシャは孤児になったということでもある。
そして、マイセンはほとんど財は残さなかった。
持っていた財産は、かなりの額を街の人のために使っていたし、残っていたものも、今回のクエストの報酬のために使い切ったはずだ。
サターシャに遺されたのは、この屋敷くらいのものだろう。
つまりは、サターシャは、いままで支払っていたメリジーヌとレオンへの給金を払えなくなったのだ。
深刻な顔で話そうとしているのは、そのことに違いないと思った。
「話というのは、これからの生活のことだろう?」
レオンはサターシャが口を開く前に、自分からそう言った。
「えっ?」
サターシャは驚いたような顔になった。
「俺たちのことなら、心配いらない。給金がもらえなくてもいい。このまま、屋敷に住まわせてもられば、それでいいよ。出て行ったりしない。生活に必要な金子だって……」
だが、最後まで言い終わることなく、サターシャに襟首を掴まれんばかりに密着される。
「なに言ってんのよ──。あんた、出て行くことなんて考えたの? あたしを置いて? あ、あたしは、もうあなたのことを家族だと思ってんのに……」
サターシャは激昂した感じで声をあげた。
しかし、急にはっとした表情になり、さっと立ちあがる。
すぐに、棚からふたつの箱を持ってきた。
レオンの前に置いて、それぞれの蓋を開いた。
「これは、魔石……? あれっ、こっちは──」
レオンは驚いて声をあげた。
片方の箱に入っていたのはエルフの魔石だ。あらかじめ大量の魔力を込めた石であって、魔道遣いが自分の魔力以外に、そこから魔力を引き出して魔道を行うための道具だ。
エルフの里でしか作ることができないので、エルフの魔石とも呼ばれている。
あまり流通していないので、大変貴重なもののはずだ。
そして、もうひとつは、あの冒険者に支払ったはずの報酬だ。
袋がふたつあり、ひとつはマイセンがクエストを出すときに準備した報酬金だと思う。小さな硬貨とかもあるが、金両一枚分になるはずだ。もうひとつは、追加の報酬ということで、メリジーヌとレオンが届けに行ったものであり、ずっと貯めていた財や屋敷の中で価値があると思ったものをマイセンの許可を得て足したものである。
しかし、それがなぜここに?
「ごめん──。こっちはあんたたちのものでしょう。返されたんだけど、ばたばたして渡すの忘れてて……」
サターシャがレオンたちの準備した側の袋を出して押しやった。
「いや……。それよりも、なんで、これがここにあるのさ」
レオンは訊ねた。
あの冒険者たちはもう出立していった。
今朝のことだ。
だから、これがここにあるはずがないのだ。
「……解決できなかったクエストの報酬はいらないって……」
サターシャがぼそりと言った。
「解決できなかったって……。でも、それは、おかしいよ」
レオンは首を傾げた。
あの女連れのロウという冒険者に依頼したクエストは『東の森に面する墓地のアンデッド・モンスターの調査』だ。
調査をした結果、不幸にもそこにいた悪霊がマイセンに憑依して、マイセンが死んでしまったということはあったが、それは本来のクエストと、無関係ということはないものの、結果的に悪霊は退治をされたし、墓地の
まだ数日だが、もうひとつのクエストだった東の森の魔獣掃討と同様に、怪しげな気配が完全に消滅したと、みんな言っている。
実際、あれから死霊体も出現していないし、今日だって、その東の森の墓地でマイセンを埋葬したのだ。
今日葬儀で会ったとき、宿屋を兼ねた冒険者ギルドを経営している親父も、冒険者たちから、墓地のアンデッド・モンスターも退治したと報告があったと口にしていた。
だから、これは支払わなければならない報酬だ。
レオンはそう言った。
「あ、あたしだって、そう言ったのよ。あたしは借りを作るのは嫌だしね。絶対に払うと言ったんだけど、あのロウさんは受け取ってくれなかったの。ギルドの親父さんも、調査クエストはかたちとしては、ギルドを通さなかったことになっているから、報酬は当事者同士の話し合いだって言って、そっちももらってくれないし……」
「でも……」
「とにかく、だったら、これはマイセンさんへの弔い金にしようって、ロウさんが……。それで、ここにあるのよ。じゃあ、これ……」
サターシャはレオンたちが準備した側の袋をずいと押した。
しかし、レオンはそれを押し返す。
「そういうことなら、これはマイセンさんの弔い金だ。受け取らない」
「なんですって──」
サターシャが怒ったように怒鳴る。
それから、「受けとれ」、「受け取らない」でもめたが、結局、レオンたちの私財で準備したものについては返してもらうことにした。
明日にでもメリジーヌに渡せばいいだろう。
いずれにしても、あのロウって、とんでもない女たらしだったけど、案外いい人だったようだ。
結局、サターシャにも手を出さなかったようだし、難しいクエストだって、数日で終わらせてしまった。
酒場ギルドの親父も、大した連中だったと褒めていた。
「とにかく、給金はこれまで通りに支払うわ。この魔石を売るから、かなりまとまったものが手に入るもの。それについては心配しないで。だから、どこにも行っちゃいやよ──。ねえ、行かないでしょう?」
サターシャがいきなり、両手でレオンの手を握ってきた。
しかも、すごい力だ。
「も、もちろんだよ」
レオンは慌てて言った。
すると、サターシャが顔に満面の笑みを浮かべ、ほっとした様子を示した。
だけど、びっくりした。
寝着一枚の薄物のまま、密着されてどきどきした。
また、くっつかれてわかったけど、サターシャはいい匂いの香水を薄っすらと身体につけているようだ。
葬儀のときにはそんな匂いはしなかったから、ここに戻って来てから香水をつけたのだろうか?
「だけど、給金はもういらない。それはお婆ちゃんとも話し合っている。俺たちは、ここに住まわせてくれればいい。サターシャのことだって、俺が面倒を看る。そりゃあ、最初は大して稼げないけど、そのうちに、ちゃんと一人前になってみせるから」
レオンは自分の胸を叩いた。
サターシャは首を傾げている。
「稼ぐって……。なにをするの?」
「冒険者だ」
「冒険者?」
「そうだよ。俺は冒険者になる。酒場ギルドの親父さんとも話したんだ。そしたら、俺なら、
ぽかんとしているサターシャにレオンは続けた。
それは、最初は
だけど、そのうちにランクもあがり、大きな仕事もできる。
もしかしたら、別の街でも働けるかもしれない。
それでも、必ず、ここには仕送りを続ける。
レオンはきっぱりと言った。
「……大丈夫だよ。無理はしない。ちゃんと地道に経験を積んで、少しずつ実力を身につけていくよ。今回のことで、俺なんかひよっこもいいところだってわかったしね」
レオンはサターシャに白い歯を見せた。
いままで、レオンは剣技なら誰にも負けないと思っていた。
実際に、この街では、大人だってレオンよりも強い者はいないし、だから、レオンは自分が相当の能力があるとうぬぼれていたのだ。
しかし、あの冒険者たちに、完膚なきまでに負けた。
エリカという美人のエルフ女には、一瞬にして剣を払われたし、ロウという不思議な
そのふたりとも、どうしてそうなったのか、わからないくらいの早技だった。
さらに、クエスト解決能力のすごさ……。
魔獣退治だって、特異点封印だって、悪霊退治だって、全部すごかった。
すごい……。
本当に、すごい……。
自分もあんな風に強くなりたい。
絶対になりたい──。
心の底からそう思った。
「……しばらくは修行だよ。だけど、食べれるくらいには一生懸命に稼ぐ。だから、給金はいらない。これからは、俺がこの家にお金を入れるよ」
レオンは言った。
「だったら、あたしもなる。一緒に冒険者になろうよ──」
サターシャは目を輝かせていた。
「えっ?」
「……絶対よ。ふたりでやろう。そうしようよ──。レオンはあたしのパーティに入って……。いえ、あたしが、あんたのパーティに入ってもいい。とにかく、ふたりで依頼を受けよう。その方がいいって」
「本当に?」
レオンは有頂天になった。
冒険者になると決めたとき、本当はサターシャと一緒にやれればいいと考えた。
レオンは剣ができるし、サターシャは魔道ができる。
ふたりとも子供だし、経験のない
ひとりでやるよりは、サターシャと組んだ方がいいに決まっている。
しかし、レオンはサターシャに人生を強要するつもりはなかった。
サターシャは、マイセンの跡を継いで魔道研究家になるかもしれなかったし、そうであれば、サターシャがそれで食べていけるようになるまで、レオンが生きるために必要なものを稼ごうと決心したのだ。
「……だけど、魔道研究は……?」
訊ねた。
「あれ?」
サターシャは棚に並べてあるまだ残っている魔道研究具や書物に目をやって笑った。
「あたしに、あんなのできるわけないでしょう。一生かかったって、おじいちゃんのようにはなれない。それよりも、あたしも冒険者になりたいわ。おじいちゃんも若いころは、旅の冒険者だったって……。じゃあ、一緒に頑張ろうね。うわあ、冒険者かあ……。でも、最初はふたりで雑用よね。でも、いつか……」
サターシャは嬉しそうだ。
レオンも思わず微笑んでしまう。
しかし、ふと思った。
これからの生活のことじゃないとしたら、サターシャの用事はなんだったのだろう?
「じゃあ、サターシャの用事ってなんだったの?」
レオンは訊ねた。
すると、サターシャがいきなり顔を真っ赤にした。
ちょっとたじろいでしまった。
だが、サターシャは決心したように口を開いた。
「あ、あたしは、本当に借りが嫌いなの──。ほら、覚えているでしょう。あのロウさんたちに、クエスト依頼したとき……。報酬に不足する分は、あたしの身体で払うって言ったの……」
確かに、そんな話もあった。
それで怒ったレオンが、あのロウに斬りかかって、瞬時に返り討ちにされそうになったんだけど……。
「だから、あたしは言ったの──。お金については、弔い金ということで受け取ります……。でも、こっちの方は受け取ってくださいって……」
「え、えええっ──」
びっくりして声をあげた。
まさか……。
「で、でも、断られたわ」
サターシャが慌てたように言った。
レオンはほっとした。
よかったあ……。
まあ、手は出さないって約束したしな……。
そのために、お金をかき集めて、追加の報酬を持っていったんだし……。
だけど、なんてことを言いに行ったんだろう……。
レオンは、サターシャを睨んだ。
「でね、そのとき、言われたのよ……。それは、あたしの大切な人にあげなさいって……」
「えっ?」
レオンは声をあげた。
サターシャが、ずいと身体を寄せて、レオンにくっつかんばかりに寄ってきたのだ。
「だから、もらって……。あたしは人に借りを作るのは嫌い……。ロウさんが大切な人にあげろって言ったんだから、これは大切な人にあげないといけないの」
「そ、それって……」
「あたしの身体をもらって……。あんたはあたしの大切な人……。あのとき、悪霊から守ってくれてありがとう……。あたしはなんにもできなかった。ただ、怖くて、あんたの背中で震えていただけ……。ありがとう。あたしを命懸けで守ってくれて……。いつか、あんたみたいに強くなる……。それはともかく、あたしをもらって……。つまり、抱いてくれってこと」
サターシャが言った。
レオンは息を飲んだ。
「も、もちろん、だから、これから、どうしろってことじゃないのよ。あんたがあたしのことをどう思っているか知らないし……。まあ、がさつで、お転婆で、可愛いところなんて全然ない女だし……。こ、これは、大切な人にあげろっていうことなんで、そうしたいだけで、あんたがこれに捉われることはないのよ。でも、あんたの気持ちに関係なく、あんたは、あたしの大切な人なの……。だから、あたしを抱いても、あんたは気にしなくていいの。これはあたしの都合ですることなんだから」
これだけ言われれば、レオンだって黙っているわけにはいなかない。
レオンは今度は自分からサターシャの両手を握った。
サターシャがぶるりと震えた。
「サターシャは、俺にとって、誰よりも大切な人だ。そんなこと、わかっていると思っていた。サターシャ、好きだよ。大好きだ」
「あ、ありがとう……。嬉しい……」
サターシャが下を向いて、にんまりとした。
そして、くすくすと笑い出した。
呆気にとられたが、なんだか、どうしても笑うのをやめられないみたいだ。
本当に嬉しそうにしてくれている。
レオンも嬉しかった。
「じゃ、じゃあ、脱ぐね……」
サターシャが手を離して、自分の寝着に手をかけた。
レオンはごくりと唾を飲んだ。
しかし、その手がとまる。
そして、レオンをきっと睨みつけた。
「だ、だけど、あたしって、全然色っぽくないよ。胸だって、まだぺたんこだし……。まあ、そのうちに、大きくなるかもしれないけど、で、でも、いまはまだ……。ほ、ほかにも、魔道のほかにも、剣の修行していたから、身体中に傷もあるし……。それに……」
レオンは笑いながらサターシャに近づいて、ぎゅっと抱き締めた。
サターシャがレオンの腕の中でびくりとする。
「色っぽくなくても、胸がぺたんこでも、そのうちに大きくなっても、身体に剣の修行の傷があっても……。それから、がさつでも、お転婆でも……。俺はサターシャが大好きだ。マイセンさんがサターシャをずっと守り続けたように、俺はずっとサターシャを守る。いつか強くなって、ロウさんみたいに、悪霊にだって勝てるくらいになってみせる……。それと、これだけは言っておくけど、サターシャは可愛いよ。とても女らしいと思う。少なくとも、俺にとっては」
「あ、ありがとう……。あ、あたしも、強くなるね……。レオンを守れるように……。あんたの役に立てるように」
サターシャがレオンの腕の中で首をあげた。
こうやって、くっつくと、いつの間にか自分はサターシャよりも身体が結構大きくなっていたのかと気がついた。
幼いときには、ほとんど一緒だったのに……。
「ふ、服を脱がせるよ……」
レオンはサターシャの寝着に手をかける。
「だ、だったら、脱がせっこしよう。あんたの服はあたしが脱がせていい?」
サターシャが言った。
レオンは頷いた。
襟の紐をほどき、たくし上げた寝着をサターシャの首から抜く。
サターシャは下着一枚になった。
可愛い裸……。
「こ、今度はあたし……」
サターシャの手がレオンのズボンの紐に触れる。
その指は緊張でかすかに震えているようだった。
レオンも、とてもどきどきした。