【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
293 隣席の若い男女
「だっからさあ、料理に使う食材の調達は、あんたに頼んだでしょう。式では、メイン料理だけは、夫になる男が捕らえた獲物を、妻になる女が調理をして客に振る舞う──。それがこの土地の風習なの──。何度も言ったはずよ。それなのに、まだ、段取りもつけていないってどういうこと──? もう五日後よ──」
罵るような若い女の声が聞こえてきた。
声の主は、たまたま隣の席に座っている若い男女のうちの女の方だ。結構、美人であり、それに比べれば、男の方はぱっとしない痩せた男だ。
ただし、ふたりが交際している仲だというのは明白である。
席が近いので、どうしても会話の内容が聞こえてくるのだが、どうやら、このふたりはもうすぐ結婚式を挙げるらしく、その準備のことで会話をしているのだ。
シャデルワースという王国では中堅都市となる城郭である。
一郎たちは、その一画にある酒場にやって来ていた。
夕食のためである。
一郎たちが座っている広めのテーブルの上には、すでに大皿に盛った料理があり、七人分の食器も並べられている。ただし、そのうちの三人分については、まだ席にはついていない。
解決したクエストの褒賞金の受領と、退治した
この城郭にやって来て、初日に受けたクエストであり、本来、
転移する前の世界では、バッファローは草食動物だったが、この世界では肉食だ。しかも、人を襲う猛獣でもある。
それで、魔獣ではないものの、冒険者ギルドに退治の
それを見つけた一郎たちは、さっそくをそれを受け、翌日の夕方には三頭の大きな野牛の死体をここまで運んできたところだ。
つまり、それがいまだ。
とりあえず、クエスト完了報告をしたあと、倒した野牛を亜空間から出し、冒険者ギルドの庭に三頭の死骸を並べて、イライジャとエリカとマーズを置いてきた。
ギルドでは仲介はするが、買取は商業ギルドがするということであり、時間がかかりそうだったからだ。
交渉事はイライジャで十分だし、エリカにはその補佐を指示した。マーズは大きな野牛を動かすための力仕事要員だ。
その三人に手続きを任せて、一郎たちは、ひと足早くここにやって来て、夕食を口にしているというわけだ。
一郎の両脇には、コゼとミウ、向かい側にはシャングリアが座っている。
どうでもいいが、コゼもミウも距離が近い。
コゼは以前からだが、ミウもまた、身体の関係ができると、吹っ切れたように一郎のそばに寄りたがるようになってきた。
ミウを最初に抱いてから十日ほど経つが、あれから毎日のように抱き、いまでは大人の女と同じように、性でも快感を得るようになってきている。
それにつれて、べったり度もあがってきているのだが、まあ、可愛いものだ。
「そんなことを言われてもなあ……。わかっているだろう。俺は冒険者だったのは間違いないが、あいにくの
また、隣の席から声が聞こえてきた。
なんとなく、一郎は耳を傾けた。
「ふざけるんじゃないわよ。あたしが参加したら、女のあたしが準備したことになるでしょう。そうなれば、その夫婦はかかあ天下になって、縁起が悪いと言われているのよ。別にあんたがひとりで獲る必要はないのよ。仲間を募って仕留めればいいの。冒険者ギルドでも通して、人足を雇ったら? でも、その金子はあんたが出すのよ。習わしなんだから」
すでに、女が尻に敷いているだろうと突っ込みたくなるが黙っていた。
女の気の強さに、男側はたじたじのようである。
「ただじゃねえだろう。なんで、そんな無駄な出費……」
「む、無駄な出費──。いま、無駄って言った──? もう一度言ってみなさい、ヤッケル──。あたしと結婚するためのお金と手間が無駄なものだっていうの──」
レンという名前らしい若い女がどんとテーブルを叩いた。それに対して、ヤッケルというちょっと小柄な若者は、怯んだような表情になっている。
いずれにしても、レンという女の声が大きい。
聞き耳を立てているつもりはないが、どうしても会話が耳に入ってくる。
一郎だけじゃない。
ほかの客も同様のようであり、何組かいる酔客たちはにやにやと笑いながら、ふたりの会話に耳を傾けている気配だ。しかも、客たちは、このふたりをよく知っている感じだ。
「また始まったな……。おい、レン──。お前は、冒険者時代には女戦士だったんだから、結婚式のときの獲物は、お前が準備したらいいじゃねえか。ヤッケルが料理してな」
「そうだな。そして、花嫁衣装はヤッケルが着な。花婿にはレンがなれよ」
すると、そのうちのひと組の酔客がふたりをからかった。
「うるさい、殺すわよ──」
レンがもう一度テーブルを叩いて、ふたりを睨んで名を呼んだ。
ふたりの男が、わざとらしく、ジョッキを片手に肩を竦めて怯える仕草をする。
「ロウ様、飲み物のお代わりはいかがですか? それとも、もう少し肉をお取りしましょうか?」
ミウだ。ミウは椅子を寄せて、ほとんど一郎に密着するかのようにしている。そして、返事も待たずに、大皿にある香草入りの肉炒めを取り寄せて、一郎の皿に足した。
「ミウ、そういうことは、あたしがするからいいのよ。それに、ご主人様はそんなに、お酒はお飲みにはならないわ。そもそも、ご主人様のお世話はあたしがするからいいのよ。あんたは、自分のことに専念しなさい」
「いえ、いつも可愛がっていただいていますから、せめてものお礼として、身の回りのお世話くらいはあたしにやらせてください。それに、一番歳下ですし……。これは当然の役割かと……」
「なに、慎ましいこと言ってんのよ。だいたい、あんた、このところ図々しいわよ。ちょっと前まで、借りてきた猫みたいに大人しかったくせに……。ご主人様のお世話は、みんなで交代でするのよ。独占なんてできないんだから」
「交代といっても、いつもくっついておられるのは、コゼさんだけです。あたしがロウ様にくっついて、嫌な顔をされるのも、コゼさんだけで……」
「わかってんなら、遠慮しなさいよ、ミウ」
「やです。あたしも、お世話したいんです。コゼさんこそ、遠慮してください。あたし、まだ新米なんです」
「いつから、そんなに喋るようになってんのよ。ちょっと抱いてもらったくらいで……」
「ちょっとじゃありません。毎日抱いてもらってます」
「あたしだって、毎日抱いてもらっているわよ」
コゼが怒鳴った。
「やめろよ、お前ら──。声が大きい」
一郎は苦笑して言った。
コゼとミウがはっとしたように口を閉ざす。
いつの間にか、酒場の酔客の注目はこっちに向いてしまったようだ。
男たちのひそひそ声があちこちから聞こえてきた。
だが、さっきのレンとヤッケルという若い男女だけは、自分たちの会話に夢中で、こっちには気を留めていない。
「まあ、ロウの女になって最初は、そんな時期もある。いつもくっついていたいのだ。わたしもそうだった。もちろん、いまでもそうだが……。ミウには家族もいないし、ロウを慕う気持ちは人一倍なのだろう。わかってやれ、コゼ」
シャングリアが口を挟んだ。十分に制御された声であり、周りに聞こえないように気を遣っている。
「ありがとうございます、シャングリアさん」
ミウが嬉しそうに頭をさげた。
「まあ、そうだな──。なあ、ミウ──。俺を含めて、ここにいる者はみんな家族だ。遠慮なく接しろ……。じゃあ、飲み物を足してくれ。それと魔道でちょっと冷やしてくれるか。その方がうまい」
一郎は金属のグラスをミウに差し出した。
薄い果実酒だが、水よりは危険がないので、それを飲み物代わりに飲んでいる。旅先でその土地の生水はなるべく口にしない方がいいというのは、エリカにも言われているし、イライジャにも諭された。
どうしても、水が必要なときは、亜空間にもあるし、ミウが魔道で出してくれるので、それを飲むことになっている。
だが、いまは、酒場なので薄めた酒だ。
「はい」
ミウが嬉しそうに瓶をとって、半分ほどなくなっていた一郎のグラスに果実酒を満たしていく。それと同時に、グラスの表面に霜がついてきて、一郎のグラス全体が一気に冷えたのがわかった。
ひと口飲む。
おいしい。
魔道とは便利だと実感した。
エリカもイライジャも魔道はできるが、無限に魔道が使える
「うまいなあ。これからは、ミウに専属で頼むか」
一郎は笑って言った。
「はい、もちろんです。ありがとうございます」
ミウが心の底から嬉しそうに言う。
思わず釣り込まれそうな笑顔だ。
一郎も微笑んでしまう。
「おふたりのも冷やしますね」
シャングリアとコゼにミウが言った。
「ああ、頼む」
シャングリアがグラスを差し出す。
それもすぐに霜がつくくらいに冷える。
「あたしは、いいわ」
だが、コゼは面白くなさそうに不貞腐れた。
「そう言わずに、冷やしてもらえよ。そっちの方がうまいぞ」
一郎は自分のグラスに手を伸ばして、グラスの縁をそっと指で撫ぜた。
「あっ」
すると、コゼが急に真っ赤な顔になって、びくりと身体を伸ばす。
当然だ。
淫魔術を遣って、一瞬にして、コゼの女性器とこのグラスを連動させたのだ。つまり、グラスの縁を撫でると、コゼは自分の女性器を撫ぜられたのと同じ感覚が伝わるというわけだ。
まあ、世の中広しといえども、こんなことができるのは一郎くらいだろう。
一郎は舌でグラスの表面をねっとりと舐めた。
「んくっ」
コゼが両手で股間を押さえて椅子の上でくの字に腰を曲げる。
「どうしたのですか?」
ミウが不思議そうな表情になって、コゼを覗き込む。
「さあな」
一郎はとぼけて、今度はグラス全体をコゼのクリトリスに直結させる。
片手でとって、グラスを強く擦る。
しばらくのあいだ、しつこくグラスの縁を舐めてやった。あるいは、手で擦り、時折、とんとんと軽く叩いたりする。
その刺激のすべてがコゼの股間に伝わっているのだ。
コゼは真っ赤な顔をして、そのたびにびくりびくりと身体を震わせた。
「あぐっ、んぐうっ、んくうううっ」
しばらくそうやっていると、股間を両手で押さえたまま、コゼがぶるぶると全身を痙攣させた。
達したのだ。
一郎はグラスからひと口だけ果実酒を口にしてからグラスをテーブルに置く。
グラスとコゼとの連動は解除した。
「はあ、はあ……」
コゼが肩で息をしている。
「続きは後でな、コゼ……。さあ、機嫌を直して、お前もミウに冷やしてもらえ」
一郎はコゼの耳元でささやいた。
真っ赤な顔になっているコゼがこくりと頷いた。
だが、一郎が構ったことで、機嫌も直った気配だ。
さっきとは一転して、にこにこしている。
「……ご、ごめん、ミウ……。やっぱり、あたしのも冷やして……」
コゼがグラスをミウに少し寄せた。
「は、はい……」
事情がわからないミウが、きょとんとした表情で首を傾げながら、魔道をかけた。
ふと見ると、シャングリアは呆れたというような顔をしている。
シャングリアは、一郎が悪戯をコゼに仕掛けたのがわかったのだろう。
だが、肩を小さく竦める。
そして、なにかを思い出したような表情になって、口を開いた。
「……ところで、ユイナとかいう褐色エルフを競り落としたら、彼女をどうするつもりなのだ、ロウ? イザベラ姫様のそばにつけるという話はあったと思うが、ロウが競り落とせば、ロウの奴隷になるのだろう? わたしたちと一緒に暮らすことになるのか?」
「ううん……。まあ、多少はからかってやろうとは思うが、その予定はない。あいつをみんなと一緒にいさせると、不和の種を撒くような気もするしな──。奴隷にして弄んで、腹癒せが終わったら、ベルズ殿のところにでも預けようかとも考えている。あいつは魔道研究に興味があるようなんだ」
ベルズは第二神殿の筆頭巫女でありながら、一方で、王都では魔道研究の大家であって、かなりその世界では有名人だ。ユイナもいい勉強になるだろう。
「奴隷にするのに、そばにはいさせないんですか?」
ミウが口を挟んだ。
「付き合えばわかる。あいつは人を不快にさせるなにかを持っている。そうそう、言っておくが、かなりの人間族嫌いだ。エルフ族は孤高の種族だと思っていて、しかも遠慮なくそれを口にするからな。お前らもすぐに嫌いになると思う。いまのうちに覚悟しておけ」
思い出すが、考えてみれば、殺されそうになったのを助けてやったにも関わらず、一度もまともに礼を言われていない気もする。
また、自分で呼び出した魔妖精のクグルスで騒動を起こして、それを一郎のせいにして知らんふりを決め込もうとした。そのときだって、まともに謝罪はしなかった。
「そ、そんな人を助けに行くんですか?」
ミウは唖然としている。
「そうだ──。あいつにとっては、人間族の俺の奴隷になるなど、身の毛もよだつような嫌悪感を抱くだろうな。そのユイナを奴隷にして無理矢理に犯すんだ。いまから愉しみだ」
一郎はにやりと笑った。
ミウだけでなく、コゼとシャングリアも驚いたような顔をしている。
「まあいいですけど……。じゃあ、そのユイナというエルフ娘はベルズ様のところに預けるとして、ミウ、あんたはどうするの? 王都に戻ったら、また、スクルズのところに戻るの? そりゃあ、魔道の修行としては、スクルズのところが一番だと思うけど、あんたは、本当に聖職者になりたいの? 結構、聖職者の世界も窮屈なところなんでしょう……。まあ、あの淫乱巫女は自由にやってるようだけど」
コゼがミウを見た。
「あ、あたしですか? さあ、どうしたらいいでしょう……」
すると、ミウが一郎を見た。
しかし、一郎は首を横に振る。
「それは自分で決めることだ、ミウ。先日も言ったと思うけど、スクルズに魔道を教わることを続けるとしても、必ずしも聖職者にならなくていい。それくらいは、俺がスクルズに頼んでやる」
「は、はい……。でも、魔道遣いとして生きるとしても、聖職者にならなければ、ほかになにをしてもいいのか……」
ミウは困惑した表情になった。
「なにを言っている、ミウ。魔道遣いなど、引く手あまただ。たとえば、宮廷魔道師などという職務がある。王宮に仕える魔道師だ。スクルズのような高位聖職者と並んで、魔道遣いが望める職としては、最高位に位置付けられている」
シャングリアが口を挟んだ。
「でも、あたしなんかが、宮廷務めなど……。ただの孤児ですし……」
「いや、ほかの職務ならいざ知らず、魔道遣いだけは実力の世界だ。腕がよければ、親が奴隷でも筆頭魔道師になったりする。ましてや、次の代は、イザベラ殿下が王になられるのだ。ミウが望めば、姫様は喜んで、お前をそばに仕えさせると思うぞ。最低でも、一代限りだが爵位ももらえる。それどころか、功績があれば、貴族としての家を興せる。ミウの子供か、あるいは親族の子を養子にもらって、代を継がせるのだ。そうなれば、その家はミウが創始だ」
「貴族ですか?」
ミウが戸惑っているようだ。
これまでは、ただ言われたことをやって、なんとか魔道遣いになることで、生きる道を探ろうとしていただけと思う。
突然に高位の魔道に開眼して、ほかにも道があり、なんにでもなれると言われても、どう思っていいかわからないのかもしれない。
「そうだ──。ほかにも軍人になるという道もある。魔道師隊だ。あるいは、このまま、冒険者として生きるということもできる。それとも、魔道具を作って売ったり、魔道の遣える医師として開業ということだってできる。ミウほどの魔道遣いなら、なにをやっても成功すると思う。よく考えて、自分の道を決めるといい」
シャングリアがきっぱりと言った。
一郎も頷いた。
「まあ、ゆっくりと考えるんだ。まだまだ、ミウの人生は始まったばかりだしな」
「はい、ロウ様」
ミウが頷く。
すると、コゼが口を開いた。
「なにになるかなんて、いいのよ。それより、あんたって、結構面白いし、一緒に住んだら? 聖職者にしろ、王宮勤めにしろ、あたしたちのところから通いなさい」
「いいんですか?」
「いいのよ。それに、ご主人様といたいんでしょう。それを前提に考えればいいのよ」
「はい、コゼさん」
ミウが満面の笑みを浮かべた。
そして、会話がひと段落したところで、食事に没頭する態勢になる。
「……だから、はぐれ
すると、また、横の若い男女の会話が聞こえてきた。
レンとヤッケルという婚約している男女だ。
結婚式で出す料理の食材となる獲物を男が準備しなければならないというしきたりのことで、もめていたようだったが……。
もっとも、喋っているのも、大きな声をあげているのも、女側のレンだ。ヤッケルの方は、もっぱら受け手という感じだ。
「……数日前からうろうろしているんだって──。それをどっかの冒険者を雇って狩ってきなさいよ。ちょうどいいじゃないのよ。あんたが仕留めなくても、あんたがそのパーティに加わっていれば、それであんたが準備したことなるんだから」
はぐれ野牛──?
一郎たちが仕留めた獲物のことだと思った。
「……ああ、ちょっと聞こえたんだけど……」
一郎はふたりに話しかけた。
突然に声をかけられて、ふたりはちょっと驚いている。
「そのはぐれ
「えええっ──。ほら、あんたが、ぼやぼやしているから──」
レンがヤッケルという恋人を睨みつけて怒鳴った。
「そ、そんなあ……。俺のせいかよ……」
ヤッケルが両手でレンの責めを交わすような仕草をした。
そのときだった──。
「終わりました──」
酒場にイライジャとエリカとマーズが戻ってきた。
「かなりの稼ぎになったわよ、ロウ。丸ごとの野牛なんて珍しいって──。しかも、一度に三頭もということで、すごく喜ばれたわ。たっぷりと買い取り額に色をつけさせたのよ」
イライジャがテーブルに近づきながら言った。
「……相変わらずの交渉上手ねえ、イライジャ──。さすがよ……。でも、最後には、相手の商人が可哀想になったもの。あれは交渉じゃないわ。脅しよ」
「驚きました……」
エリカだけでなく、マーズも溜息をついた。
どんな交渉をしたのだろう。
「なに言ってんのよ。あいつら、最初は安く買い叩こうとしたのよ。旅の者だと思って、足元見たのよ。だから、商人というのは油断ならないのよ……」
イライジャは奮然と言った。
よくわからないが、かなりえげつない交渉をしてきたというのは確かだ。
「えっ? イライジャ?」
「おう、イライジャじゃねえか──。久しぶり──」
すると、いきなり、レンとヤッケルが叫んだ。
「えっ? ヤッケルとレン? どうして、ここに?」
イライジャも驚きの声をあげた。