【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「えっ? ヤッケルとレン? どうして、ここに?」
戻ってきたイライジャが驚くような声をあげた。
「えっ、知り合い?」
コゼが口を挟んだ。
一郎もちょっとびっくりした。
「ええ、そうなのよ。わたしがエランド・シティの冒険者に登録したての時期に、彼らのパーティに加わって、クエストを数件こなしたことがあってね。どうしてここにいるの? ベンツとアレックスは?」
すると、ヤッケルとレンのふたりは、ちょっと顔を曇らせた。
「ベンツは死んだんだ。あるクエストのときにね。それで、あのパーティは解散になったんだ。アレックスとも別れた」
ヤッケルが静かに言った。
「そう……。ベンツが……」
イライジャは呟くように言った。
ベンツとか、アレックスというのが何者なのかは知らない。
だが、とりあえず、ふたりとも以前イライジャが組んだことのあるパーティメンバーのようだ。改めて、お互いに挨拶をして名乗り合い、食事をしながら話すことにした。
隣のテーブルをずらし、こっちと合流させてひと繋がりの集まりにする。
「じゃあ、どいてよ、コゼ。ロウ様に、どんなクエストがあったのか報告するんだから」
そのとき、エリカがコゼの横に立って言った。
「報告なら向かいの席でもできるでしょう。なんでどかないといけないのよ」
「くっつかないと、喋りにくいじゃないのよ。いいから、どいてって」
いつもの痴話喧嘩だ。
本当にこのふたりは、毎度毎度、同じことを繰り返す。横にいる一郎も呆れて苦笑してしまう。
「わけのわからないこと言わないのよ。もう食べてんのよ──。食事してんの──。大人しく空いている席に座りなさい、エリカ」
「ロウ様の隣がいいのよ──」
「あたしもよ──。そっちの小娘どかせばいいでしょう」
コゼが声をあげた。
小娘というのは、反対側にいるミウのことだろう。だが、そのミウは、「先輩性奴隷」のコゼとエリカが配席のことでもめ始めても、素知らぬ顔をしていて、場所を譲りましょうかとは口にしない。
それどころか、まったく聞こえないふりをしながら、ますます、そばに寄ってくる。なかなかに芯が強いと思った。
「まあ、今回はいいじゃないか。反対側に座れよ、エリカ。それよりも、なにかいいクエストはあったか?」
一郎はあいだに入った。
「いえ、それが、旅に支障のないような、すぐに終わるクエストは……」
「それだけ言うのに、なんで隣に座らなきゃならないのよ」
コゼが横から怒鳴った。
エリカはふんと鼻を鳴らして、やっと向かい側の離れた席に腰かける。
一郎は、「後で埋め合わせをするから」とフォローした。エリカはぴくりと反応して、「本当ですか?」と嬉しそうに微笑んだ。
なかなか面倒だが、こういう機微を失すると、女だらけの集団は面倒なのだ。一郎もだんだんとわかってきた。
「なあ、もしかして、その白エルフさんと、こっちのお嬢さんの両方とも、あんたの女なのか?」
ヤッケルが身を乗り出すようにして、ぼそりと訊ねた。
「白エルフ」というのは色の白いエリカのことで、「お嬢さん」というのは童顔で小柄なコゼのことのようだ。
「あたしもです」
すると、ミウがすかさず口を挟んだ。
「えっ、この小さい子も……?」
レンがちょっと驚いている。
「わたしもだぞ。わたしもロウの性奴隷だ」
シャングリアが大きな声で堂々と言う。
いつも思うのだが、シャングリアは「性奴隷」というのが、なにかの名誉職と勘違いをしているんじゃないだろうか。
酒場が一瞬静まり返り、そして、ざわめきだす。
一郎は嘆息した。
「えっ?」
さすがにレンも絶句した顔になった。
ヤッケルも唖然としている。
「あ、あの、あたしも先生……、い、いえ、ロウ様の女です。性奴隷にしてもらってます」
マーズが小さく手をあげながら言った。
「まあ、そういう集団なのよ。彼はクロノスなのよ。実は、わたしもね……」
イライジャが顔を赤らめながら笑った。
レンとヤッケルは、一郎と女たちを見回してびっくりしている。
一郎は頭を掻くしかない。
無節操に女を増やしていくうちに、いつの間にか大所帯になってしまったのだ。
「クロノス……」
レンが呟いた。
クロノスというのは、女をたくさん侍らせる男のことであり、単に女たらしという意味だけではなく、この世界では、それだけの甲斐性のある男という意味もある。尊敬の言葉なのだ。
この席以外の客が、一郎を見てざわめいている気もする。
「なんか、すごいな……。六人か……。俺はひとりでも……」
「なんか言った? ひとりでも、なに?」
ヤッケルの呟いた言葉にレンがすかさず突っ込んだ。
慌てたように、ヤッケルが口をつぐむ。一郎は笑った。
「六人じゃないぞ。ここにいるのがそれだけなだけだ。王都に戻れば、この倍は……」
シャングリアが口を挟む。
「倍じゃきかないでしょう。三倍? 四倍? だって……」
コゼが指を折って数えだした。
一郎はやめさせた。
「ところで、イライジャとは、どこで知り合ったんですか?」
一郎は話題を変えようと思って訊ねた。
「ナタル森林のエランド・シティでクエストを受けたときに、三回ほど、彼女に臨時でパーティーに、入ってもらったのよ」
レンが応じた。
それによれば、もともとは、ここにいるヤッケルとレンに、さらにアレックスとベンツという戦士を加えた四人のパーティだったらしい。
ナタル森林の都であるエランド・シティには、ナタルの森で唯一の冒険者ギルドがあり、そこはなかなかに実入りのいいクエストが多く、出稼ぎのような感じで、その四人はやって来たらしい。
ただし、一郎も知っているが、ナタルの森の森エルフ族たちは、どこもなかなかに排他的だ。それで、一郎やエリカと別れた後、すぐに冒険者登録をして、フリーの冒険者になっていたイライジャが、それに加わり、クエストを受けやすくしたというわけのようだ。
「最初は、エルフ族だからというだけで入ってもらったんだけど、すごく助かったわ。勘もいいし、やり方にそつもないし。そのまま、正式にパーティーに加わって欲しいと誘ったんだけど……」
レンが言った。
「まあ、最初の頃から、わたしも冒険者以外にもいろいろとやってたから、シティを離れることも多くてね。だけど、あの後、シティに戻ったら、あんたたちがいなくなってたけど、どうかしたの?」
イライジャが言った。
「俺たちのパーティーはなくなったんだ。イライジャがいなくなった最初のクエストでベンツが死んで、そのまま、パーティは解散になったのさ」
ヤッケルが口を挟んだ。
冒険者という仕事は、常に死が身近だ。一郎はそこら辺は、勘を働かせて、自分たちの手に負えないような危険な
冒険者はいつか死ぬ。
引退しない限りはだ。
そういうものなのだ。
「そんなことが……。じゃあ、あのアレックスもどこかに行ったの? レンはアレックスにご執心だったから、一緒にはいかなかったのね」
イライジャが笑いながら言った。
レンの顔色がさっと変わった。
一郎はまずいと思った。
「イライジャ、このレンさんと、ヤッケルさんは婚約したそうだ。もうすぐ結婚式らしい」
一郎はすかさず言った。
今度はイライジャの顔色が変わった。まずいことを口走ったことに気がついたのだろう。
よくはわからないが、おそらく、目の前のレンという女性は、もともとアレックスという仲間といい仲だったのかもしれない。イライジャはそれを覚えていたのだと思う。
だが、さっきまでいなかったので、このヤッケルとレンが婚約しているという話は聞いていなかった。
だから、思わず、昔の話を出してしまったのだ。
勘のいい一郎には、いまのやり取りだけで、一瞬起こった気まずさの背景を理解してしまった。
「ご、ごめん」
イライジャが目の前で手を合わせて、謝る仕草をふたりにした。
「いや、いいんだ。レンがアレックスを好きだったというのは俺も知っているしな。だけど、アレックスが、レンを振ってくれたおかげで、俺はレンと結婚できるということさ」
ヤッケルが笑って頭を掻いた。
「そ、そんなことない──。そ、それは確かに……。で、でも、そんなこともあったけど……。だ、だけど、あたしは、あなたを選んだのよ」
レンが慌てたように言った。
ヤッケルがわかったという仕草をした。
「……そ、そう……。結婚するのね。おめでとう」
イライジャが失点を取り戻したいかのように、大きな声で言った。
「ここは、あたしの故郷なの。それで、パーティが解散になってから、やって来たということなのよ」
レンが語った。
また、ヤッケルには故郷と言えるような場所はなく、身寄りもないらしい。それで、ふたりで話し合って、ここを終の棲家にしようと決めたようだ。
それから、しばらく他愛のない会話をした。
お互いの食事も終わりかけた頃、レンが一郎たちに改めて口を開いた。
「……ところで、よければだけど、あたしたちの結婚式に出てくれないかなあ。実はあたしにも、もう家族はいないし、近所の人が集まるだけのこじんまりとしたパーティなの。だけど、あなたたちが来てくれれば華やかになるわ」
「うん、五日後なんだ。俺たちが暮らしている家の庭で立席形式でやるんだけど」
レンに続いてヤッケルが言った。
「結婚式……。そ、そうねえ……」
イライジャがちらりと一郎を見た。
その表情は、結婚式に参加したいと言っている。
「五日くらいなら、いいさ。まだ十分に日程に余裕があるし」
一郎は言った。
エルフの里における褐色エルフの里で行われるはずのユイナの競りは、まだ一箇月近く先だ。まだまだ急いでいくほどのものじゃない。
「わあ、ありがとう──。じゃあ、是非来てね」
レンが案内を改めて渡すとイライジャに言い、一郎たちの宿屋を訊ねた。一郎たちは、この酒場の数件先の宿屋に泊まっている。イライジャがそれを説明した。
「結婚式か……。だが、着ていくものがないぞ」
シャングリアが口を挟んだ。
「いいの。いいの──。来てくれるだけで。その恰好で十分よ。旅の途中なのに」
レンがぶんぶんと激しく手を左右に振る。
「そういうわけにもいかないだろうさ。じゃあ、俺が準備してやるよ。亜空間に以前に遊びで作ったものがある。それを直せばいい」
一郎は言った。
亜空間にもあるというのは、時折やる破廉恥ファッションショーのときのものだ。
趣向を凝らしたいやらしく淫靡な性質の物ばかりだが、多少直せば、外観くらいは普通になる。しかし、内側が触手になっているとか、身体をくすぐる羽根がついているとかいう機能があるものばかりだ。
それで、女たちを弄ぶのも面白そうだ。
結婚パーティは立席らしいので、きれいな衣装を身につけている一郎の女たちが、ひそかに淫靡な衣装に責められ、羞恥と快感に顔を真っ赤にして身体をくねらせる様子が想像できる。
一郎は俄然やる気になった。
「服の調達はわたしがやるわ。問題ない──。やってみせる」
イライジャが言い切った。
どうやら、一郎の顔を見て、いやらしいことを考えているのを見抜いたのだろう。イライジャの顔がちょっと赤い。
だが、さすがのイライジャでも、五日で六人分のドレスを入手するのは難しい気もする。
「じゃあ、手に入らなかったら、全員が俺の準備するドレスを着るんだぞ」
一郎はきっぱりと言った。
「えっ?」
「あっ」
「うっ」
やっと、一郎の魂胆を察したらしい三人娘が顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせた。一方で、まだわかっていないミウとマーズはきょとんとしている。
「まあいいや。じゃあ、イライジャは衣装探しをするとして、残りはヤッケルさんと一緒に、パーティのための獲物狩りといこうか……。失礼ですけど、ちょっと聞こえちゃったんで……。よければ、手伝いますよ」
一郎は言った。
レンが喜びの声をあげた。
「是非、お願い──。ほら、あんたからも頼んで──」
レンがヤッケルの背中をばんと叩いた。
「よ、よろしく……」
ヤッケルが頭をさげた。
一応、それで解散ということになった。
狩りについての打ち合わせも、明日ということにした。
だが、それとは別に、男だけでちょっと話せないかとヤッケルが声をかけてきた。
深刻そうな感じではないが、まだ話し足りないことがあるみたいな感じだ。
「わかりました。じゃあ、みんなは先に宿屋に戻っていてくれよ」
一郎は女たちに声をかけた。
だが、そこでまたもめた。
一郎をひとりにするわけにはいけないとエリカが言い始めたのだ。
ひとりを護衛として一緒に残せと言って譲らない。つまり、自分をだ。
すると、護衛なら自分がするとコゼが言い、シャングリア、さらにミウまで立候補した。
結局、エリカを残して、他は帰らせた。
なかなか大変だった。
*
「じゃあ、わたしは口を挟みません。どうぞ、男同士のお話を……」
エリカは言った。
上機嫌だ。
一郎に指名をしてもらったのが嬉しそうだ。
こんなことでも、そんなに嬉しいのだろうか。
なんだか、エリカの健気さが可愛くなる。
「あ、ああ……」
ヤッケルは頷いた。
残ったのは、一郎とエリカとヤッケルの三人だ。
さっきまでは、真ん中付近の席を占領していたが、人数が減ったので、一番隅のテーブルに移動してきた。
三人の前には、改めて注文した飲み物入りのグラスがある。
ただし、エリカは果実水だ。
以前、酔っ払って……というよりは、口からでなく尻から飲ませたのだが……大暴れして大変だった。あれ以来、エリカには酒は厳禁にしている。
「いやあ、ちょっと、あやかりたいと思ってね、あんたに……」
すると、ヤッケルが苦笑したような表情をして語り始めた。
「あやかる?」
一郎は首を傾げた。
「女心を教えてくれねえか」
ヤッケルは言った。
「女心? いや、女心を知りたければ、女に訊けばいいだろう。エリカがいるよ」
一郎は言った。
エリカもヤッケルに視線を向ける。
また、喋り方については、ヤッケルが丁寧語はやめてくれと頼むから、そうすることにした。
高い教育を受けたことのないヤッケルは、逆に丁寧語を使った話し方は得意ではないらしい。
いや、ヤッケルに限らず、一郎のように、相手の格に応じて喋り方を変化できるのは、すでに高い水準の教育を受けている証拠なのだそうだ。
というわけで、ヤッケルに泣きつかれて粗野に話すことにした。
そもそも、一郎がずっと歳上だ。
よく考えれば、貴族だし……。
「だけど、クロノスって言ってたし……」
ヤッケルだ。
しかし、一郎は自分が女心を掴める名人とは思わない。
淫魔師の能力を使っているだけだ。
もっとも、なんか構って欲しそうだなあ、とかそういうことはなんとなくわかる。そういうときには、構ってあげる。すると、どの女も途端に上機嫌になる。
それだけのものだ。
「レンさんとうまくいっていないのか?」
とりあえず、訊ねた。
「なんでわかったんだ? やっぱり、うまくいってないように見えるか?」
ヤッケルが不安そうに言った。
「見えないよ。わざわざ話だというから、そうだと思っただけだ。ふたりはお似合いだと思うよ」
一郎は言った。
「だけど、実は、あいつ、このところ怒ってばかりいてな。苛ついているというか……。結婚式が近づくと、ますますな……。それで、もしかしたら、俺との結婚が嫌なのかなあ、とか思ったりしてな……。まだ、こうやって、外に出てきたときは、大人しいんだが、家ではもっと苛々しているし……」
ヤッケルがぼそぼそと喋りだした。
一郎は肩を竦めた。
「俺は結婚したことはないけど……。まあ、そんなもんなんじゃないのか? 結婚式の準備って大変だし、それで苛々することもあるんだろう……。なあ?」
一郎はエリカに視線を向けた。
「まあ……」
エリカも困惑気味だ。
そもそも、なんの相談なんだろう?
レンとうまくいっていない事の相談?
一郎に?
ふたりのことを知らないのに?
「……そのう……、実は困っているんだ……」
ほとんど聞こえるか聞こえないかくらいの声だ。
自然と一郎は、ヤッケルに顔を寄せる体勢になる。
「困っているって?」
「レンだよ。苛ついてるって言ったけど、やたらにくっついてくるんだ……。家でな」
そういえば、レンとヤッケルは、もう一緒に暮らしていると言っていた。
だが、くっついてくるから、なんだというのだろう?
「それで、なに?」
一郎は言った。
だが、ヤッケルは唖然とした表情になった。
「なにって……。だから、くっついてくるんだよ。それで困ってんだよ」
一郎にはまったく意味がわからない。
婚約しているんだし、恋人同士だし、くっつくこともあるだろう。それが困るというのはどういう意味だろう。
だから、改めて、そう言った。
「なにを言ってんだよ、お前──。あいつは、やたらに、くっついてきて、それで俺もどうしようもなくなっちまうんだ。だけど、俺がいやらしいことを考えているのがわかったら、さすがに、あいつも引くだろう──。嫌われちまうと思うんだ。なあ、どうしたらいい? だいたい、なんで、あいつはあんなにくっつくんだ? 挙句の果てに苛ついたように怒鳴るし。なんなんだよ──」
ヤッケルは溜息をついた。
一郎は首を傾げた。
「もしかして、セックスのことを言ってる? うまく満足させられないとか……?」
それなら、相談に乗れると思った。
これでも淫魔師だ。
性技には自信がある。
淫魔師の能力を使わなくても、そこそこはいける。
毎日、五人、十人と性三昧の生活をしていたのだ。これで性技がうまくならなければ、そっちの方がおかしい。
だが、そういう話だったら、一郎はいいけど、エリカがいると、ヤッケルは話しづらいだろう。
いや、それとも、そばにいさせるか……。
しかし、思い直した。
なんだかんだで、エリカはなかなかに猥談が苦手だ。
そのエリカの前で、男同士の猥談をしてやるのも面白いかもしれない。
それよりも、いっそのこと、このエリカをどんな風にしたら悦ぶのか、本人の前でしてやるか。護衛に立候補したんだから、エリカは無理矢理にでも聞くしかない。
どんな風に嫌がるか、ちょっと愉しみになってきた。
一郎はほくそ笑んだ。
「セックス? あのなあ、俺たちは、結婚前だぞ。セックスなんてしないよ──。常識だろう」
ヤッケルが呆れたという顔をした。
一郎はびっくりして、ぽかんと口を開けたままにしてしまった。
だが、ヤッケルが婚約者のレンがこのところ不機嫌だという理由も瞬時に理解した。話を聞く限り、レンは、わかりやすすぎるくらいに、ヤッケルに迫っている。
つまりは、欲求不満だ。
それなのに、男のヤッケルが無視し続けるのでは、苛ついても当然だ。
一郎は、どこから説明していいのか、溜息をついてしまった。
「どうかしたか?」
ヤッケルが不安そうな顔になった。
基本的には、この男は気が弱いのだと思った。
よくも、冒険者なんてやっていたものだ。
まあ、
「そうだなあ……。じゃあ、まず、基本的なところからいこうか。ヤッケルは好色か? つまり、レンさんを抱きたいとは思わないのか?」
「な、なにを言っているんだ──?」
ヤッケルが当惑した顔になった。だが、その顔は真っ赤だ。
一郎はなんだか呆れてしまった。
見る限り、ヤッケルは一郎より、かなり歳下だと思うものの、それでも、いい歳した大人の男だ。
それなのに、性のことを知らない
いや、うちの
「興味はあるんだな。わかった。じゃあ、レンさんは、そんなことに興味があると思う? つまり、好色だと」
「レ、レンは女だぞ。女がそんなことを思うか──。それに、あいつは、もともと女戦士なんだ。そんなことを考えるような……」
小学生か──。
思わず、突っ込みたくなったが、一郎は話の代わりに、横に座っているエリカを座っている椅子ごとぴったりと引き寄せると、身体に手を回して、ぐっと抱き寄せた。
「うわっ、ロ、ロウ様」
エリカは驚いた声をあげた。
一郎は素早く周囲を見回す。
いまは、酒場の隅の方に移動しているし、一郎とエリカはたまたま、ほかの酔客に対して背を向けている態勢だ。
少しくらいは問題ないだろう。
まあ、見られても、それはそれで問題はない。
エリカは一郎の女だ。
なにをしても許されるくらいにしか思わない。
背中から回している手で服の上から乳房を鷲掴みするとともに、短いスカートの中にさっと手を入れて、太腿の付け根に手を置く。
「な、なにを……い、いやっ……。う、ううっ」
いきなり抱き締められて、エリカが真っ赤な顔になって身悶えた。
そして、とっさに手を払いのける仕草をしたものの、一郎が淫魔術で感じることのできる赤いもやの性感帯に指をすっと移動させて、ぐっと力を込めて揉むようにする。
すると、たちまちに脱力して、両手を一郎の手の上から重ねるだけになった。
もうこうなったら終わりだ。
感じやすいエリカは、もう抵抗できない。
一郎はそれを知っている。
静かな愛撫を開始する。
すると、エリカの膝がすっと緩んで少し開いた。
すぐに、慌てたように閉じようとするが、また、開く。おそらく、もう力が入らないのだろう。いまでも、両手で一郎の悪戯を払い除けようしているものの、ほとんど脱力してしまっている。
可愛いものだ。
薄い下着を身につけているようだが、そこがじっとりと濡れてくる。
一郎は下着の上からクリピアスを軽く動かす。
「んんっ」
エリカが必死の感じで口をつぐんだまま、ぴんと身体を突っ張らせた。
「う、うわっ、お、お前、なにを……?」
ヤッケルが目を丸くしている。
「うちのエリカも女戦士だよ……。失礼ながら、レンさんよりも、ずっと強いと思う。でも、好色だ。こうやれば、すぐに欲情する。そうだな、エリカ?」
一郎はちょっと責めを緩くした。だが、まだ手はスカートの中だし、愛撫は続けている。
「そ、そんな……。うっ、くっ……。も、もう、許して……く、あっ、んんっ、そ、そこは……」
エリカが顔だけでなく全身を真っ赤にして悶える。
本当に色っぽい。
「エリカ、お前もヤッケルさんの話を聞いてただろう──。男だけでなく、女も欲情する。どうしても、男と抱き合いたくなることがある。それを教えてやれ」
エリカの耳元で強く言った。
一郎の愛撫を必死に耐えているエリカはもう涙目だ。
「そんなことで……」と不満そうに呟いている。
だが、諦めたように、口を開く。
「……お、女も……男も……お、同じだと思います……。そ、そんな気分になるときは……、あ、あります……。お、お願い、ロウ様……も、もう許して……」
エリカが歯を喰いしばる素振りをしながら言った。
一郎は胸と下着の布越しに、それぞれのピアスリングに再び強めの刺激を与えた。さっきもそうだったが、ここを触られると、エリカは簡単に淫情が暴発したようになる。
普段は平気なのだが、一郎に触られるとそうなるように、淫魔術で細工をしているのだ。
「んふうっ」
エリカが身体をくの字にして、激しく喘いだ。
一郎は手を離してやる。
エリカは自分の身体を抱くようにして、ぐったりとなってしまった。
「わかったか、ヤッケル? 女だって、そういう気分になることはある。レンさんは、ヤッケルさんに抱いてもらいたいんだよ。苛々の原因はそういうことだ」
一郎はヤッケルを見た。
ヤッケルは、話の内容よりも、一郎がエリカに目の前で淫靡な悪戯をしたことに、圧倒されている気配だ。
まあいい……。
このくらいやれば、ヤッケルも欲情しただろう。
そのまま家に戻って、レンと愛し合えばいいのだ。
それで問題は解決する。
「家に戻って、レンさんを愛してやればいい……。ところで、やり方はわかるか?」
念のためだ。
すると、間に合っていると答えるのかと思えば、「教えてくれ」と言ってきた。やはり、自信がないのだろう。
だから、これまで抱かなかったということもあると思う。
それにしても、一緒に暮らしていて、婚約者に手を出さないというのは、一郎には信じられない。
こうなったら、教授するしかないか……。
再び、エリカを抱き寄せる。
「そうだなあ……。じゃあ、まずは、口づけだね。こうやって……」
エリカの顔を寄せる。
「こ、ここでするんですか──?」
エリカの顔が引きつった。
そのときだった。
興味深く一郎たちを凝視していたヤッケルの視線が動き、さっと顔を別の方向に向けた。
一郎もエリカから手を離して、後ろを振り返る。
ぼさぼさの黒髪をした頬に大きな傷のある屈強な男が、三人ほどの男を連れて、こっちに向かっているのが見えた。
後ろの三人組はともかく、先頭の男は強い──。
一郎にはそれがわかった。
全員に戦士のステータスがある。
レベルも高い。
「アレックス──」
ヤッケルが立ちあがって、大きな声をあげた、
アレックス?
誰だろうと思ったが、そういえば、さっき、レンとヤッケルの仲間だったもうひとりの男の名がそれだったと思い出した。
冒険者時代は、レンは、そのアレックスを好きだったとか……。
それが、この男……?
だが、確かに端正な顔をしている。
ひと言でいえば、ハンサムの野獣という雰囲気だ。
真っ直ぐにこっちに向かってくる。
「こっちに来たのか、アレックス。久しぶりだなあ……。あ、あのなあ、実は……」
ヤッケルが親しそうに、その男に話しかけ始めた。
やはり、あのアレックスか……。
しかし、なぜか、アレックスはとても険しい顔をしている。そして、突然に後ろの男から麻袋の包みを受け取ると、ヤッケルにそれを押しつけた。
そのため、ヤッケルは椅子に押し倒されるかたちになる。
「挨拶は抜きだ、ヤッケル──。俺がここに来たのは、レンを迎えに来たんだ。一年ほど離れていて、やっと俺にはあいつが必要だということがわかった……。だが、ここに来て知ったが、お前はレンと婚約したんだってな。これは迷惑料だ。レンは貰っていく。話はそれだけだ」
アレックスが言った。
一郎は唖然とした。
「な、なにを……」
ヤッケルは当惑している。
「ああっ──。まさか、俺に逆らうつもりはねえだろうなあ──。俺は仁義を尽しているつもりだぜ。これは、あれから、俺が一年かけて稼いだ金だ。文句はねえだろう」
アレックスがヤッケルに手渡していた袋を取りあげて、卓に置く。ヤッケルが袋を開くと、金貨がぎっしりと入っていた。
ひと財産だ。
一郎も驚愕した。
「だ、だけど、俺たちは婚約してて……」
ヤッケルは泣きそうな声で言った。
「それは知ってるよ──。だから、それをやると言ってんだ──。それに、わかってんだろう? レンは俺に惚れてる。一年前は俺は自分の気持ちがわからなかったから振っちまったが、やっと気がついた。レンを俺の女にする」
アレックスが苛ついた口調で怒鳴った。
「兄貴、よければ、俺たちがそいつに、焼きを入れましょうか? まあ、一ノスもあれば、よく言い聞かせますから。兄貴は、そっちで酒でも飲んでいてくださいよ」
すると、後ろの連中のひとりがそう言った。
しかも、ずいと前に出てくる。
ヤッケルが、「ひっ」と怯えた声をあげた。
「まあ、待て──。こんな根性なしだが、昔の仲間だ。とにかく、わかったな。レンは俺がもらう。その代わり、この金貨はお前のものだ。じゃあな。今夜は戻るんじゃねえぞ。どこか、他所に泊まれ。お前らが一緒に暮らしているというのには驚いたが、まあ、レンに手を出したことは水に流してやらあ」
アレックスが笑みを浮かべて、力強くヤッケルの肩をばんと叩いた。
ヤッケルは泣きそうな顔だ。
「い、いや、それが、まだ手は……」
言うのは、それか?
一郎は呆れた。
そして、嘆息した。
あまりの情けなさに、腹もたたない。
そのとき、風が目の前をすっと通った。
「うわっ」
アレックスが声をあげている。
気がついたときには、腕を取られているアレックスが宙に浮かび、次いで、目の前のテーブルに背中を叩きつけられた。
エリカだ。
いきなり、アレックスの腕を掴んで、投げ飛ばしたのだ。
一郎は目を丸くした。
エリカは、いまは憤慨している顔で、アレックスの前に仁王立ちしている。
「あ、兄貴──」
「な、なにすんだ、この女──」
「こいつ──」
子分らしき者たち三人が色めきだった。
アレックスは背中をテーブルにぶつけて、そのまま卓ごと床に仰向けにひっくり返っている。テーブルにあった酒も金貨も、その辺に散乱している。
「いきなり、やって来て、なにを喋ってんのよ──。ヤッケルさんとレンさんは婚約者同士よ──。昔の仲間かなんか知らないけど、突然やってきて、色男面するんじゃないわ」
エリカが怒鳴った。
一郎としては、この反応をヤッケルにして欲しかったのだが……。
そのヤッケルは、突然の騒動に、後ずさって怯えている。
本当に、元冒険者か──?
「このエルフ女──」
アレックスが立ちあがりながら、剣を抜いた。
しかし、エリカの方が早い。
アレックスが体勢を取り直したときには、エリカはその剣を自分の剣で弾き飛ばして、遠くにやってしまっていた。
「ぐっ」
手を痛めたアレックスが右手を押さえて、顔をしかめた。
「こいつ」
背後の三人が剣を抜くのがわかった。
ひとりがエリカに斬りかかる。
しかし、興奮しているエリカは気がついていない。
一郎は舌打ちした。
ズダン──。
酒場に銃声が鳴り響く。
一郎が亜空間から取り出した短銃で剣そのものを撃ったのだ。
エリカを斬ろうとした男の剣は弾丸により、刃の根元で真っ二つになった。持っていた男はまるで撃たれたかのように倒れた。
だが、身体には当たっていない。
ただ痺れただけだろう。
一郎は、撃ち終わった銃を亜空間にしまい、火縄に火がついている別の短銃を右手に取り出した。さらに、左手にも銃を出現させて、男たちに向ける。
「次は眉間に当たるぞ」
座ったまま、静かに言った。
アレックスを始め、三人のならず者は顔色を失っている。
「……それにしても、エリカ──。いきなり、投げ飛ばすやつがあるか。短気にも程がある。仕掛けたのはお前だ。まずは謝っておけよ」
一郎は銃を構えたまま言った。
エリカは顔を赤くした。
「だ、だって、ロウ様──」
「いいから──。怒るべきはヤッケルだ。そのヤッケルが我慢していたのに、手を出すやつがあるか」
声をあげた。
エリカは渋い顔をした。
だが、一郎は本当は、いまの言葉でヤッケルに文句を言ったつもりだ。
婚約者を寄越せなどと言われて金を渡され、それで怒るのではなく、怯えるなど、だらしなさすぎる。
「申し訳ありませんでした」
エリカが頭をさげる。
アレックスたちが、こっちを睨みながら無言で立ちあがった。
だが、一郎の銃は、四人に向き続けている。
「金貨を持って帰るのを忘れないようにしてくださいね」
一郎は言った。
さっさと帰れと言っているのだ。
アレックスが不満顔ながらも、連れの男たちに目顔で合図した。
三人が散らばった金貨を集めて袋に入れ、アレックスとともに、すごすごと去っていく。
一郎は二丁の短銃を亜空間にしまった。
その瞬間、わっと歓声と拍手が起こった。
酒場にいた客たちだ。
アレックスたちの登場の頃から、しんと静まり返り、こっちを見守る様子になっていたのだが、争いが始まったところで、全員がそこら辺に身を隠した。
しかし、アレックスたちが退散したことで、一斉に出てきて、喜んだ様子で一郎たちを取り囲んだのだ。
「いやあ、強いなあ──。どうなることかと思ったけど、すっとしたぜ」
「まったくだ。あんた、
「とにかく、一杯奢らせてくれよ」
「いや、俺の奢りを飲んでくれ」
男客たちが一郎の身体を次々に触って声をかけてくる。
酒の入った杯を押しつけてくる者もいる。
「あんたらの今日の払いはいいぜ。店の奢りだ。とにかく、ありがとうよ」
酒場の主人もやって来た。
本当に上機嫌だ。
「とにかく、飲んでくれよ。さあさあ、座って」
倒れてた椅子とテーブルが戻されて、そこら辺があっという間に片付けられる。一郎は男たちに囲まれたまま座らされた。
新しい酒を持たされる。
とりあえず、一口飲む。
そして、気がついて、エリカを見た。
エリカはエリカで、ほかの客たちに喝采を浴びながら囲まれている。
「エリカ、お前は飲むなよ──」
怒鳴りあげた。
しかし、すでに遅かった。
エリカは勢いに押されて、ぐびぐびと酒を飲んでしまっていたところだった。
しかも、普段飲まないものだから、加減がわからないらしく、一気に杯の半分は飲んだと思う。
*
それからは大変だった。
一郎が止めるのも構わず、杯の半分の酒ですっかりと酔ったエリカは、続けて、二、三杯飲んでしまい完全に泥酔した。
酔ったエリカは甘え上戸のキス魔だ。
ほかの男客がいるにもかかわらず、一郎に抱きついてきて、何度も口づけを
仕方ないから、しばらく相手をしてやっていたら、いつの間にか、一郎の腕の中で眠ってしまっていた。
「その美人のエルフさんは強いけど、本当にあんたに首ったけなんだな。しかも、あんたも女あしらいがうめえや。最初から見ていたんだけど、ほかの女もあんたのことが本当に好きそうだ。どうしたら、そんなにもてるんだ?」
そのとき、隣に座っていたひとりの酔客が、寝てしまったエリカを見ながら、感嘆したように訊ねた。
「さあ……」
一郎もなんと応じていいかわからず、苦笑した。
そのとき、そういえば、ヤッケルはどこに行ったのだろうと、周囲を見回した。
しかし、いつの間にか、家に戻ったのか、ヤッケルは店のどこにもいないようだった。
まあいい……。
とにかく、帰るか……。
「じゃあ、帰るぞ、エリカ──。ほら、背負ってやるから、起きろ──。まったく……。飲めないくせに調子に乗って……」
一郎はもたれかかっているエリカを揺り動かした。
エリカが真っ赤な顔をこっちに向ける。
「あっ、ロウしゃまだ……。ロウしゃま、きしゅ……きしゅして……」
一郎の首に両手を回してしがみついてくる。
本当に持て余した。