【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
302 羞恥責めのお願い
「せーの──。はい──。よし、エリカが当たりね。じゃあ、責任をもって、ご主人様を外に引きとめるのよ。よろしくね」
コゼがけらけらと笑った。
エリカは自分が引いた当たりの印のある
この手のことで、コゼが作ったくじを引くと、ほぼ間違いなく、エリカが当たることになる。
絶対に細工をしているような気がするのだ。
ナタルの森に迫った国境を越えた小さな宿場町だ。
すでに、出入国審査の営門は抜けているので、正確にいえば、もうすでにハロンドール国内ではない。
ここから先はナタル森林国だ。
ついに、ここまで辿り着いた。
もちろん、いつぞやに騒動を起こした城郭じゃない。そこからはかなり離れた別の国境監視所のある城郭だ。
だから、褐色エルフの里までは、ナタルの森林をそれなりに縦断して進むことになる。
だが、ハロンドール国を出入国できる時間が限られているので翌朝の城門解放を待つための旅人か、あるいは、昼間に出国したものの、このまま進んで森林内で野宿になるのを嫌って時間調整する旅人を目当ての宿屋が幾つかある。
小さな町だが、それなりには賑わっている。
そんな場所だ。
エリカたちは、みんなでロウにお願いして、まだ昼を少し過ぎただけの時間だったが、早めの宿をとって、ここに泊まることにしたのだ。
いま、ロウは小用でほんの少しだけ、イライジャと一緒に外に行っている。
イライジャも、ここでエリカたちが、これらの段取りを話し合うための時間を作ってくれているのだ。
しかし、すぐに戻るだろう。
ほかの女は、全員が部屋の中だ。
「ねえ、おかしいわよ。ちょっと、手の中見せなさいよ、コゼ」
「なによ。なんにもないわよ」
コゼが笑いながら、手のひらを見せた。
確かに、なにもない。
だが、笑顔が不自然だ。
あの顔はなにかを隠している。
長い付き合いになるのだ。
もう、コゼの顔を見れば、こいつがなにかを企んだときの表情くらい察することもできる。
そもそも、よく考えれば、エリカは一瞬だが紙縒りに目をやったのだから、そのあいだに、小細工を隠すことが可能じゃないかと悟った。
「ちょっと、服の下も見せてよ──」
エリカはコゼに手を伸ばそうとした。
だが、ひらりとコゼに身体を交わして避けられる。
すると、シャングリアがエリカをとめるように、割って入った。
「どうしたのだ、エリカ? ロウと外に行って、時間を作るだけのことじゃないか。それに不満があるのか? ロウと一緒に過ごすのだぞ」
「そ、それについては……。だ、だけど、絶対にこいつはくじに細工をしたのよ。きっとよ──」
エリカはコゼに怒鳴った。
しかし、すでにコゼはマーズの後ろに隠れてしまっている。
そのとき、一瞬だがコゼの手が懐に入って、すぐになにか小さなものを寝台の下に捨てたように見えた。
「いま──。いまよ。なにか捨てたわ。それを見せなさい──」
エリカは迫った。
「待ってください。ロウ様とイライジャさんが、そろそろ階段にあがってきそうです」
扉のところで、外の様子をうかがう役目のミウが声をあげた。
ミウは先日以来、魔道の能力が飛躍的にあがって上級魔道遣いと称してまったくおかしくないくらいに、自在にさまざまな魔道を駆使するようになっていた。
いまも、その魔道で外を探ってくれているのだ。
「あ、あのう……。先生と一緒にいるのが不満なら、あたしがやっても……。先生に鍛錬をお願いすれば、時間は作れると思うんですけど……」
マーズがおずおずと手をあげる。
しかし、コゼがそれを遮る。
「だめよ。あんたは身体が大きいから重要な役目があるのよ。皿よ。皿。今夜のびっくりパーティの料理を身体に置いてもらうからね。
コゼだ。
「にょ、女体盛り……ですか?」
マーズが目を大きくした。
「わああ、ロウ様は、きっとお喜びになりますね。いいわねえ、マーズ──。ねえねえ、コゼ姉さん。あたしは? あたしはなにをするんです? ロウ様に可愛がってもらえる役目がいいです……。あっ、いま、階段を上りだしました」
ミウが扉から一瞬顔を離して、すぐに扉に顔を戻す。
魔道があがってからのミウは、自分に自信を持ったのか、よく喋るし、よく笑うし、なによりも、露骨にロウにくっつくようになり、性交を強請る。
まあ、ロウと愛し合うのが嬉しくて仕方がないという感じだ。
また、愛し合うのも、ひとりだけという感じではなくなり、ほかの女たち同様に、一緒に抱かれる機会がかなり多くなった。
それに伴い、ミウは、コゼ、エリカ、シャングリアを呼ぶのに、“姉さん”を付けて呼ぶようになった。
いや、本当は、まずは、いつの間にか、コゼを“コゼ姉さん”と呼ぶようになり、悔しくてエリカのことも“エリカ姉さん”と呼ぶようにエリカが強請ったのだ。
それで、シャングリアを含めた三人については、姉さん呼びが定着した。
今回の旅の最大の成果だ。
とにかく、ミウに“エリカ姉さん”と呼ばれるたびに、エリカは興奮し、ミウを縛って苛めたくなる衝動に襲われるのだが、いまのところ平静な顔をして自重してはいる。
「あんたは、お股に飲み物を入れる“器”がいいかな? それとも、ケーキ?」
「うんといやらしくて、そして、愉しいパーティにしような。ロウが喜ぶパーティにしたいぞ」
シャングリアが笑った。
そうなのだ。
実は、ロウはもちろん覚えていないだろうが、今日はロウがこの世界に召喚されて、ちょうど一巡目という日なのだ。
それを思い出して、みんなに話したら、だったら、みんなでお祝いをしようということになったのだ。
なにしろ、ロウの誕生日は、こっちの日付と、元のロウの世界の日付が違い過ぎて、こっちの暦に当てはめることができないのだ。
以前に訊ねたところ、ロウの前の世界では一年間に同じ日付というのは一回しかなく、例えば誕生日は必ず一年に一回になるらしい。ところが、エリカたちは、一年は三百日ごとに一年であるが、日付は夜空に現れる女神になぞらえた月の周期によって数え、五個の月が全部現れるか、あるいは滅多にないが、すべての月が現れない夜があるごとに、日を“1”に戻してしまうので、必ずしも同じ日が一年に一回ということがない。しかも、月の始まりも、新たな日付始めの後に最初に出る月の名前が基準になるので、毎回変わる。とても複雑だ。
従って、月の日付始めから日付終わりの周期も、そのときどきにより異なるが、前回の周期は一年と少しくらいで終わった。今回は多分三年くらいだろうという話だ。はっきり言って、暦を正確に言えるのは、学者か神官くらいのはずだ。
とにかく?従って、年齢については年始めに一斉に全員が年齢をひとつ増やすが、誕生日などだいたい十年に数回くらいというのが普通だ。
エリカはむしろ、毎年誕生日があるという一郎たちの元の世界の風習に驚いた。
とにかく、あまりにも違っていて、ロウの誕生日は、こちらの暦には当てはめられなかったのだ。
しかし、ロウがエリカの召喚によりその世界に現れた日は、エリカが覚えているからわかる。
それが、今日だ。
だから、ロウがこの世界に来てくれた日こそ、エリカたちの大切な日にしようと、みんなで、ロウが喜ぶパーティを企画しようと決めた。
ただ、その準備のあいだ、ロウを外に繋ぎとめておく必要がある。
その話し合いをしていたのだ。
「……というわけだから、責任をもって、ご主人様を暗くなるまで外に留めておくのよ、エリカ──。それまで、戻って来るんじゃないわよ。準備の途中で戻ってこられてしまったら、全部台無しになるんだから」
コゼがエリカに視線を向ける。
「もう二階ですよ──。すぐに来ます」
ミウが小さく声をあげる。
「わ、わかったけど、でも、どうやって……」
「そんなの自分で考えなさい。あっ、そうだ。羞恥責めにしてって、強請れば? きっと、ご主人様は悦んで相手してくれるわ」
コゼがけらけらと笑った。
「なんで、そんなこと──」
エリカは激昂して怒鳴りかけたが、扉が外から開けられようとする。
ロウが戻るのだ。
エリカは慌てて、口を閉じる。
そして、ロウがイライジャとともに部屋に入ってきた。
「おう、特にギルドにも、王都からの連絡のようなものはなかった。予定通りに、明日出発しよう。ユイナのいる里までは、馬車でゆっくりと行っても、常識なら十日くらいしか、かからないと思う。だけど、ちょっと問題がありそうだ」
扉が閉じられ、手近な寝台を椅子代わりに腰掛けたロウが言った。
「問題……ですか?」
エリカは声をかけた。
「うん……。やっぱり、ナタルの森に魔獣が氾濫しているみたいなのよ。わたしが出てくるときよりも、酷くなっているの……。もう異常としか思えないわ……。迷惑かかって悪いんだけど……」
イライジャが暗い顔をして言った。
奴隷の競売にかけられるユイナを競り落としてくれというクエストの依頼主という立場のイライジャなので、魔獣の危険があることについて、申し訳なさそうな顔をしている。
「気にするな、イライジャ──。もう、俺たちは一簾托生の仲間だし、迷惑なんて、かけあって当然だ。俺なんか、大して能力もないから、みんなに迷惑かけっぱなしだ。だけど、こんなに偉そうにしているよ」
ロウが笑った。
「せ、先生はすごい能力があります」
「そうです──。ロウ様はすごいです」
マーズ、次いでミウが怒ったように叫んだ。
ロウは「わかった。ありがとう」と寄ってきたふたりの頭を撫でている。
そのとき、いつの間にか、コゼが横に来ていて、肘でエリカの身体を軽く突いた。
早く声をかけて、連れ出せと言っているのだろう。
だけど、理由など思いつかない。
すでに食料は、国境を抜ける前に、大量に買い込んで、ロウの亜空間に収納してもらっているし、ここにある冒険者ギルドの連絡所のようなところは、たったいま、イライジャとロウが行って戻ったばかりだ。
「じゃあ、日はまだ高いけど、やることをしようか?」
ロウが上着を脱ぎかけた。
やることとロウが言ったら、それはひとつしかない。
コゼがどんと強くまた肘で突く。
だけど、どう言っていいか……。
「……さあ、誰からだ? ふたりでもいいぞ。三人でもね」
ロウが女たちを見渡す。
始まってしまえば、終わりだ。
だけど……。
エリカは懸命に、頭を回転させて、ロウを外に連れ出す言い訳を考える。
「ご主人様、エリカがお願いがあるそうです」
そのときだった。
コゼが焦れたように、ロウに向かってそう言った。
まだ、なにも思いついていないと叱ろうと思ったが、ロウが怪訝な表情でエリカにじっと視線を向けてきた。
どうしよう……。
「エリカがお願いって、考えてみれば珍しいかな。なんだ?」
ロウが言った。
でも、焦ると頭がいよいよ真っ白になる。
そもそも、よく考えれば、エリカは他人に嘘をつくとか、ごまかすとか、そういうことが大の苦手なのだ。
だから、ロウと一緒にいるという役目でも、嘘をつく仕事など割り当てられたくなかった。
嫌だとかそういうんじゃなくて、本当に苦手なのだ。
「え、ええと、ええっとですね、ロウ様……」
どうしよう……。
どうしよう……。
「ほら、エリカ」
コゼがどんとエリカの背を押す。
エリカはロウの前に一歩踏み出すかたちになる。
「なんだ?」
また、ロウが言った。
「く、暗くなるまで……」
エリカは仕方なく口を開いた。
だけど、まだ、なにも思いついていない。
「暗くなるまで?」
ロウが先を促すように、エリカにじっと視線を向ける。
もうだめだ。
なにか頼まないと……。
だけど、食料は買ったし、ギルドへの用事は終わっているし……。
ああ、本当にだめ……。
同じことしか思いつかない。
どうしよう……。
ええっと……。
ええっと……。
「く、暗くなるまでですね、ロウ様……」
「だから、暗くなるまで、なんなんだ?」
ロウが半分困惑したような、半分不思議がるような表情で言った。
「く、暗くなるまで……」
「暗くなるまで?」
「暗くなるまで、外で……」
「外で?」
ロウは笑ってる。
もう面白がってる感じだ。
だけど、暗くなるまで、どうしよう?
「わ、わたしを羞恥責めに」
思わず、言っていた。
頭にあったのは、そのコゼの言葉だけだったのだ。
「……して……ください……」
しかし、すでに後悔した。
よりにもよって、なんということを……。
でも、ほかになにも思いつかなかった……。
横で、コゼがぷっと噴き出した。
小さな声で「馬鹿じゃないの、あんた」と呟いている。
ロウが驚いた顔になったのは一瞬だ。
すぐに、その表情が好色で嗜虐的なものに変化した。
「いいとも……。暗くなるまでだな。じゃあ、出かけるか、エリカ……。そういうわけだが、エリカと暗くなるまで外に出てる。悪いな、みんな」
ロウが立ちあがって声をかけた。
エリカは心の底から後悔した。
本当に本当に後悔した。
そして、心の中で自分を罵倒した。
馬鹿じゃなかろうか──。
もっと、ましなお願いがあったはずだ──。
よりにもよって、羞恥責め──。
エリカが心の底から嫌いなことだ。
それだったら、どこかふたりきりで愛して欲しいとでも言えばよかった……。
はっとした。
そうだ──。
そう言えばよかった。
だが、それはいま思いついた。
「あ、ああ、あのう……、や、やっぱり……」
エリカはロウに向かって口を開く。
だが、コゼに再び背中を押された。
今度は外に向かう扉の方向だ。
「大丈夫です。いってらっしゃいませ、ご主人様──。さあ、エリカもよろしくね。暗くなるまでよ──」
コゼが言った。
「いってらっしゃい、エリカ姉さん」
「いってらっしゃい、エリカ様」
「いってらっしゃい、エリカ」
ミウとマーズとシャングリアも一斉に声をかける。
「ごゆっくり、エリカ」
イライジャが半分呆れたように、くすりと笑うのが聞こえた。