※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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310 ふたり目の主人[13歳]

【ナタルの森・森林街道】

 

 

「イットちゃん、魔獣よ」

 

 幌馬車の中で口奉仕をしていると、御者台に座っているサリーの血相を変えた悲鳴が響いた。

 イットは咥えていた男根を口から離すと、さっとアンドレの顔を見た。

 

「行け、命令だ」

 

 四十歳すぎの人間族の旅の商人であるアンドレが短く言った。

 イットはそのアンドレに飼われている奴隷だ。

 その一言で、イットは性奉仕をしていた少女奴隷から、一気に戦闘態勢に変化した。

 

 アンドレ自身も、出していた一物をすぐにズボンにしまって、横の剣に手を伸ばしている。

 イットが確認したのは、そこまでだ。

 次の瞬間には、イットは停止した幌馬車の前側から躍り出て、前に向かって走っていた。

 御者台のサリーの横を過ぎると、彼女の「気をつけて」という言葉が追いかけてきた。

 

「お前たちは馬車の中に隠れていろ」

 

 走り進むイットの背中でアンドレの声がする。

 その指示は、サリーとアリアに向かって告げた言葉だ。このふたりは、まったく戦闘には役に立たない。

 アンドレと三人の女奴隷の中で、まがりなりにも戦えるのは、イットとアンドレだけだ。

 もっとも、それはおかしくはない。

 本来の三人の役目は、旅の商人であるアンドレの夜の相手、つまり、性奉仕なのである。

 

 だから、性奉仕をするのはイットも同じなのだが、イットは戦闘もできるので、必要なときには、いまのように戦闘の命令も与えられる。

 イットが加わる前には、移動の際には、冒険者ギルドに護衛を依頼していたらしいが、イットが加入してからは、それはやめてしまった。

 護衛代が節約できることについてはアンドレも喜んでいる。

 

 また、性奉仕以外の能力を重宝されている存在は、二十歳の人間族の女であるサリーもそうだ。

 サリーは元々は商人の娘であり、計算もできるし、仕入れの手伝いもできる。

 だから、アンドレはサリーは手離さない。

 

 アンドレは、よくわからないが、一度に飼う性奴隷は三人までと決めているらしい。

 だから、気に入った女奴隷を新しく入れるときには、必ずひとりを処分する。

 イットは、三人の奴隷の中では、サリーに次いで古い。

 

 とにかく、最初に奴隷になって、サーシャという女奴隷商が、イットをトルドイという街の分限者に性奴隷として売ってから数えて、性奴隷生活も三年。

 そのトルドイが突然死し、遺族がイットを奴隷商に売り、その奴隷商が行商人のアンドレにイットを売ってからは一年。

 イットは十三歳になっていた。

 

 なんだかんだで、アンドレは同じ奴隷を二年と飼ったことはないらしい。

 例外はサリーであり、もはや、サリーはアンドレの商売の相棒のような立場だ。それ以外は消耗品のような扱いであり、アンドレは気紛れのように新しい女奴隷を購入しては、古い性奴隷を売るということを続けている。

 従って、やはり人間族の少女のアリアが加わるとき、売られる順番はイットだったのだが、数日前に奴隷商に交換で処分されたのは、意外にもイットよりも後に加わったメイだった。

 つまり、アンドレは、イットについても、サリーと同じように、性奉仕以外のことで必要と評価しているということだろうか。

 ならばうれしい。

 戦闘奴隷として評価してくれるということは、イットの望みなのだ。

 

 駆け進む街道の先に、角のある大きな虎に似た魔獣の巨体が三頭いる。

 ただ休んでいるだけで、地面に腹をつけて寝ているだけだったが、イットが闘気を帯びさせながら、走り寄って来るのに接して、すっくと立ちあがって、戦闘態勢になった。

 

「はあっ」

 

 イットは駆けながら雄叫びをあげるとともに、両方の手に刃物となる鈎爪を出した。

 

 魔獣は咆哮をして、三頭同時に飛びかかってきた。

 一頭の身体はイットの三倍はあるだろう。

 イットは跳躍して先頭の突進をかわすと、すれ違った魔獣に向かって後ろから跳び、喉を切り裂いた。

 首の半分が切断され、どっという音とともに倒れる。

 残りの二頭が躊躇したように動きをやめる。

 それで十分だ。

 イットは振り向きざまに、さらに一頭の首を裂き、さらに身体を回転させて、もう一頭の喉も裂く。

 大きな前肢による攻撃もさせなかった。返り血を避ける余裕まであったので、汚れてもいない。

 三頭全部は、(むくろ)に変わっている。

 

「ご主人様、終わりました」

 

 馬車の前で一応は防御の姿勢をとっていたアンドレに声をかけた。

 サリーとアリアも馬車の中から顔を出す。

 イットの攻撃力を知っているサリーはそうでもないが、初めての魔獣との遭遇に、新入り奴隷のアリアは真っ蒼だ。

 魔獣など珍しい存在だが、このナタル森林においては、以前からよく出没するそうだ。

 従って、ローム三公国とナタル森林の都のエランドを結ぶ交易は、実入りはいいが危険も高いらしい。

 アンドレは、危険を賭して商売することで、儲けている行商人なのだ。

 

「さすがはイットだな。角山猫(ホーンリンクス)三頭を瞬殺か」

 

 アンドレが苦笑しながら近づいてきた。

 すでに剣は鞘に収め、その代わりにトーチを持っている。

 魔道具である。

 イットが下がると、三頭の魔獣に屍骸にトーチで火をつける。

 三頭が燃えあがり、炎に包まれた。

 これをしておかないと、血の匂いで魔獣や野獣が近づくことになるし、最悪の場合は、呪毒を持つ屍腐体(ゾンビ)となって周囲を彷徨い歩くことになってしまう。

 大切な処置だ。

 

「さて、じゃあ、焼却処置が完了するまで待機だな。イットには、さっきの続きをしてもらうか。奉仕の途中だったしな……。イットには旅のあいだは、あまり夜に抱けないから、昼間たっぷりと愛してやろう」

 

 アンドレが笑いながら、街道の道端にイットを引っ張って、草むらに胡坐をかいた。

 その足の中にイットを招き寄せて横抱きにする。

 

「うわっ、ご、ご主人様、こ、こんなところで……」

 

 さすがに道の真ん中で抱かれるということには抵抗があって、抗議の声をあげた。

 だが、すぐに思い直した。

 好色なアンドレだ。

 本当にここでイットを犯すつもりだろう。

 すぐに諦めて、脱力した。

 どうせ、奴隷の首輪を嵌められているので、逆らうことはできない。

 

「心配ない。こんな辺鄙なところ、誰も通るものか。魔獣退治のご褒美だ」

 

 イットは肌の上に袖のない革のチョッキと、半ズボンを直接に身につけていたが、紐をほどいて半ズボンを緩められる。

 アンドレの手がズボンの中に入り込み、イットの股間の亀裂をすっと撫ぜた。

 

「はんっ」

 

 イットはそれだけで激しく反応してしまい、思わずアンドレが悪戯をしている腕を掴んでしまった。

 

「相変わらず、まだ幼いくせに、びっくりするほどの敏感な反応だな。じゃあ、もっと感じるようにしてやろう。両手を背中に回して動かすな、命令だ」

 

 アンドレが笑いながら言った。

 快感に弱すぎるイットの身体の反応は、奴隷になってすぐに受けた奴隷商における肉体調教が原因だ。

 わずか一箇月ほどの調教期間であり、十歳の幼い身体に受けたものだったが、イットは、あの調教で全身が性感帯のように超敏感な身体にされてしまった。

 それだけでなく、いまのように拘束されたり、命令で動きを封じられて責められると、どうしようもなく欲情してしまう。

 それを知っているので、アンドレはイットを犯すときには、必ず「命令」で拘束してからイットを責める。

 

「ほらほら、もうクリちゃんが立ってきたぞ。淫乱な童女戦士殿だ。胸も吸ってやる」

 

 アンドレが前側で紐で編み留めているチョッキを解き、イットの胸も露わにした。

 身体の小ささのわりには、大きくなった膨らみだが、しっかりと感じる場所だ。

 アンドレの舌がイットの乳首を口に含む。

 

「うっ」

 

 電撃のような衝撃にイットは全身を弓なりにさせた。

 だが、さすがにここは陽の照っている野外であり、しかも、往来がないとはいえ、ローム三国からナタル森林に入った場所くらいの街道のど真ん中だ。

 必死で漏れていく声を噛み殺そうとした。

 だが、体内に巻き起こる愉悦を我慢できない。

 奴隷になった直後の時期にすっかりと植えつけられてしまった淫乱体質は、アンドレの些細な刺激だけで、イットの想像を遥かに越える衝撃となって、イットの性感という性感を沸騰させてしまう。

 

「ううっ、はうっ、はううっ」

 

 イットは懸命に声を噛み殺した。

 アンドレはそんなイットの様子が面白いのか、愉しそうに股間に指を這わせ、乳首をぺろぺろと舌で刺激する。

 あっという間にイットの全身は弛緩し、膝が投げ出されるように脱力してしまった。

 まだ、愛撫が始まってほんの少しの時間しか経っていない。

 しかし、イットは正気を保つことができないくらいに、完全に燃え狂っている。

 

「いつもながら、面白い身体だ。金貨十枚は高かったが、それなりの価値はあった。こんなにも淫乱で、それでいて、とんでもない戦闘獣人というのは、本当に掘り出し物だ」

 

 商人らしくアンドレは、そんな風にイットのことを褒め讃える。

 通常の子供の獣人奴隷の相場は、金貨二枚がいいところなので、十枚というのはかなりの高額だ。

 それが性奴隷としての取引きというものであり、イットは童女ではあるが、調教されている性奴隷ということで、それだけの値打ちがついたということらしい。

 しかし、さらにイットは、並みの戦士以上の戦闘もできるのだ。

 アンドレは、いつも、それについては、奴隷商の見る目がなくて、大儲けだったと繰り返す。

 イットとしても、獣人への差別意識がなく、イットを戦闘員としても扱ってくれる主人に買われたことは、大きな幸運だった。

 

「もう前戯は十分だな」

 

 アンドレがイットから革の半ズボンを脱がして足首から抜く。

 体勢を変えて、イットを対面座位で跨らせると、片手で剥き出しにしたアンドレの怒張に、濡れきったイットの股間の中心を押し当てた。

 ずぶりとアンドレの怒張が、めりめりという音さえ感じるくらいの強引さで押し入ってくる。

 イットの股間には、すごい力で無理矢理に肉が拡げられる感覚が襲いかかってくるのだが、本来であれば激痛のはずのこの感覚が、イットには最大の快感となるように身体が変えられている。

 やったのは、やはり、イットを最初に調教したあのサーシャであり、そして、最初の主人のトルドイだ。あの肉体調教の日々がイットをして金貨十枚ほどの値をつけさせた要因だ。

 

「ひいいん」

 

 イットは耐えきれなくなって、泣くような声をあげた。

 すぐに、アンドレの律動が速くなった。

 かつて教え込まれた性技を使う余裕さえなく、イットはただただ熱い蜜を股間から溢れさせた。

 痺れるような気持ちよさが、ひと挿し、ひと挿しで沸き起こり、全身が溶けるような快感が噴きあげる。

 

「ご、ご主人様、い、いきますうっ」

 

 あっという間に追い込まれたイットは、一気に快感の頂点に引きあげられていった。

 

「んふうううっ」

 

 イットは腰をぐっと締めつけるようにして、がくがくと身体を震わせて達した。

 

「うう……」

 

 その締めつけで、アンドレが顔をしかめた。

 これこそ、覚えた技のひとつであり、イットは狭い膣道と強い筋肉を利用し、怒張の根元から先端にかけて、絞り出すような強くて細かい刺激を連続で与えることができる。

 

「うはっ」

 

 すると、イットの締めに耐えられずに、あっという間に、アンドレがイットに向かって精を放った。

 

 

 *

 

 

「んああ、あああっ、あああっ」

 

 馬車の中から、サリーが快感に泣く声がする。

 幌馬車の中でアンドレが、今夜の奉仕当番であるサリーを抱いているのだ。

 イットたちのご主人様であり、旅の行商人であるアンドレは、基本的には、女を抱かないと、夜に眠れない性質(たち)らしく、毎夜必ず、女をひとりずつ抱く。

 これが毎晩の決まりだ。

 ただ、必ずしも順番というわけではない。

 

 大抵は、夕食が終わったときにアンドレが、三人のうちのひとりを指名する。そして、その奴隷がアンドレの寝室に同衾するということになるのだ。

 残りのふたりは外だ。

 今夜のように野宿のときには馬車の外で寝るし、街に入って宿屋に泊まるときには、納屋か馬車で寝る。

 建物の中で寝るのは、アンドレの性の相手をする女奴隷だけだ。

 

 イットは、馬車の車輪を背もたれにして、夜空を見上げていた。今夜の月は三個だ。十分に明るい。

 また、焚き火はすぐそばにあり、それも十分な灯かりとなっている。

 今夜は、このまま馬車の外で休むことになると思うが、いまの季節は寒いということはない。

 野獣避けに火をつけているようなものだ。

 イットは、焚き木として準備している小枝を数本火に放り込んだ。

 小さくなりかけていた炎がぱっと大きくなる。

 

「あああ、いくうっ、いきますうっ、いぐううっ」

 

 馬車の中から、吠えるようなサリーの声がした。

 紛れもなく、女が絶頂を迎えるときの声だ。

 これで何度目だろうか。

 

 もっとも、実際には、サリーはそれ程の数は達していないということをイットは知っている。

 しばらく前に、サリー自身が教えてくれたことだが、あれはほとんどが演技だそうだ。

 本当はサリーは、むしろ感じにくい体質であり、それで、アンドレに飽きられないように、わざといくふりをしているらしい。

 その点、イットが羨ましいとサリーに溜息をつかれた。

 なにをされても簡単に達してしまうイットは、本当に男を悦ばせる身体なのだそうだ。

 あまり褒められている感じがしないのだが、サリーの言葉は心からの言葉だというのは知っている。サリーはサリーで、それなりに努力もしているし、苦労もあるのだろう。

 

 イットは目を閉じて、微睡(まどろ)みに身を任せた。

 獣人族のイットは、たとえ眠っていても、感覚の一部は起きていて、危険が迫ったり、異変が起きる気配を感じると、すぐに目を覚ますことができる。

 だから、見張り役としても重宝され、こういう野宿のときには、大抵はイットは夜伽の使命を受けない。

 まあ、それはイットには、ありがたいことだ。

 

 性奴隷になって、最初にトルドイというカロリック公国の地方城郭の分限者に売られて、これまで性奴隷として三年──。

 そして、旅の行商人であるアンドレの性奴隷になってからは一年──。

 主人から主人に渡る間の奴隷商において商品として陳列されていた期間──。

 その間に、相手をさせられた男は両手両足以上になるし、性経験の数は限りない──。

 

 だが、イットはただの一度も、男との交わりが嬉しいとか、自分から男に抱いて欲しいと思ったことはない。

 身体の快感と、心の満足とは別のことだ。

 性奴隷だから抱かれることには抵抗はないし、身につけている性技で一生懸命に奉仕はするが、本心ではまぐ合いは嫌いだ。

 だから、野宿は好きだ。

 獣人族らしく、見張りとして使ってもらえるし、ときには今日の昼間のように、戦闘種族としての本来の能力を生かしてもらえることもある。

 

 そのとき、イットは馬車の反対側から、声を殺して泣く女の声を耳にした。

 イットは、一度閉じていた眼を開いた。

 足音を消して、馬車の裏側に回る。

 果たして、アリアが両手を顔に押し当てて、涙を流していた。

 そばには、夕食として与えられたビスケットと乾燥肉がほとんど手つかずで木の皿に載っている。

 避妊のための薬丸まで放置されている。

 イットは溜息をついた。

 

「……アリアさん、食事をしてください。明日も旅なんですから、参ってしまいますよ。食べないとだめです」

 

 イットはアリアの隣に座り直して、アリアの食事が乗っている木皿を手に取って差し出した。

 アリアは、イットがそばに来たことに、びっくりした様子で顔を向けたが、すぐに首を横に振った。

 

「食べたくないのよ。放っておいて、イット」

 

 アリアは顔を伏せたまま言った。アリアは人間族の十六歳の少女だ。それに比べれば、イットはまだ十三歳であり、また、獣人族ということもあり、人間族のアリアよりもずっと小柄だ。

 

 イットが奴隷になった頃のカロリック公国は、奴隷といえば獣人族のみという感じだったが、このところ、アリアのように人間族で奴隷になる者も多くなった。

 よくはわからないのだが、カロリック公国の若い女大公の施策で、新たな獣人の奴隷化が制限されるようになったみたいであり、その分、人間族の奴隷が増えているようなのだ。

 カロリックのあちこちで、獣人たちが公国への不満を爆発させて徒党を組んだ騒ぎのようなことをしていて、それで獣人に対して厳しすぎた法などが少しずつ改善されているらしい。

 

 それはともかく、アリアのことだ。

 アリアがアンドレの奴隷になって五日──。

 ただの一瞬も、アリアが、アンドレにもイットたちにも心を許したことがないことはわかっている。

 イットは、食べ物が載っている皿をぐいとアリアに押しつけた。

 

「食べてください。食べないと、口にねじ込んででも食べさせますよ」

 

「放っておいてというのがわからないの、獣人──。あたしに近づくな」

 

 アリアがやっと顔をあげ、嫌悪いっぱいの口調で怒鳴った。

 アンドレもサリーも、獣人差別の意識の希薄な人間族だが、世間的には、獣人族は下級人種扱いだ。

 アリアの態度にも、それが滲み出ている。

 しかし、イットはちょっとほっとしている。

 アリアの心に怒りの感情が沸いたみたいだからだ。

 なんでもいい。

 心が死んだようになるよりは、怒りにでもなんでも包まれた方がいい。

 

「食べてください──。お腹がすけば、気力がなくなります。気力がなくなれば、心が死にます。心が死ねば、人として死んだと同然となります。いまは絶望しか感じないかもしれませんけど、とにかく、口にできるときには食べてください」

 

 イットは強い口調で言った。

 アリアがイットの権幕にたじろいだのがわかった。

 気後れしたように皿を受け取る。

 しかし、やはり、食べる気にならないのか、乾燥肉をちょっと摘んだだけで、その手がとまってしまった。

 イットはアリアを睨んだ。

 

「気持ちはわかります。あたしが売られたのは三年前でした。借金を作った父親に売られたんです。借金のためというよりは、父親が一緒になろうとした後妻があたしを嫌ったんです」

 

「えっ……」

 

 アリアが絶句したみたいになった。

 イットは続けた。

 

「……父親は、あたしよりも、その女を選んで、奴隷商会の中でも、性奴隷専門の奴隷商にあたしを売りました。後でわかったことですけど、そっちの方がいくらか高く売れるからだそうです。それでも、獣人族だったこともあり、相場を知らない父親は、かなり買い叩かれたようですけど」

 

 自分の生い立ちを語るのは、久しぶりだと思った。

 おそらく、この三年で父親のことをまがりなりにも思い出したのは、いまが初めてだろう。

 だが、わざわざ、それをアリアに話したのは、三年前、やはり、奴隷になったばかりで、心が打ちひしがれていたイットを、自分のつらい境遇を語ることで慰めようとしてくれた男の子のことを思い出したからだ。

 

 名はリック──。

 

 イットは最初に売られた奴隷商にいた二歳上の男娼奴隷であり、イットの性調教の相手役だった男の子だ。

 どんなにつらいと思っても、絶対に食べなければならないと諭したのは彼だった。

 

 飢えれば心が耐えられなくなる。

 希望を感じることができなくなる。

 そうすると、心が死ぬ──。

 だから、つらくても食べろ──。

 

 いまにして思えば、壮絶だったと思うサーシャからの性調教のあいだ、リックは繰り返し、そう言って、イットを叱咤した。

 そして、リックは正しかった。

 性奴隷になるなんて、死んだ方がましだと思ったし、ひとり目の主人のトルドイなど、イットのささやかな自負心など徹底的に踏みにじって、イットを動物のように扱い、心を潰させるような卑猥芸をさせることで悦に耽った。

 あれに比べれば、性行為そのものには、いまでは、それ程の抵抗はない。

 そして、いまは、アンドレという比較的善良な主人にも巡り会えた。

 

 しかし、本当に、最初の「ご主人様」は酷かった。

 ありとあらゆる恥辱を味わったし、屈辱的な性交もたくさんやらされた。

 複数の大人から同時に強姦のように犯されるという嗜虐も受けたし、ときには、家畜そのものと、まぐわいをさせられたこともあった。

 破廉恥な宴で見世物にもされた。

 素っ裸で外を四つん這いで歩かされたこともある。

 サーシャに受けた肉体調教の日々以上に、死にたいと思ったし、絶望も味わった。

 

 だが、そのたびに、リックの言葉を思い出した。

 リックとは、サーシャの奴隷商から商品として売られて以来、会ってはいないが、常にリックの言葉はイットとともに存在した。

 つらい日々の中で、とにかく与えられた食べ物だけは口にした。

 

 やがて、転機が訪れた。

 二年間の性奴隷の生活の後、突然にイットの持ち主である分限者のトルドイが死んでしまったのだ。

 朝の散歩の途中で倒れ、そのまま息を吹き返さなかったらしい。

 その分限者は、家事をする下男下女が大勢いる以外はひとり暮らしだったが、すぐに甥一家という夫婦が屋敷にやってきた。

 屋敷と家財は彼らが受け取り、イットのような女奴隷たちは即座に処分された。

 同じ街の奴隷商に売り飛ばされたのだ。

 

 イットは再びサーシャに売られるのだと思ったが、イットたちを買ったのは、一年前にその街で奴隷商を開いたという別の奴隷商だった。

 あとで知ったのだが、サーシャは、ウノ、ドス、トレスという三人の部下に裏切られ、強姦の末に殺されてしまったのだそうだ。

 サーシャを殺した三人の男の行方はわからないらしい。

 イットにそれを教えてくれたのは、イットがもう一度売られた奴隷商にいたほかの獣人奴隷たちだ。

 そのとき、リックの行方も訊ねた。

 イットがサーシャの店から売られたとき、リックはまだ誰にも買われてはおらず、イットの方が先にいなくなってしまっていたからだ。

 だが、リックという奴隷少年のことを知っている者は、ひとりもいなかった。

 

 二度目の奴隷商での暮らしは長くはなかった。

 いまのアンドレに、すぐに買われたのだ。

 アンドレは、旅の商人であり、たまたま、イットがいる街に商売でやって来たのだが、イットのことをひと目見て気に入って、買い取った。

 アンドレの趣味は性の相手をする奴隷を飼育することであり、定期的に入れ替えては、毎日の性の相手をさせていたのだ。

 そのときアンドレは、奴隷商が値をつけた金貨十枚という値に対して、商人らしからず、そのまま言い値で支払っていた。

 そのことについては、いまでもアンドレは、掘り出し物だったという。

 

 だが、実のところ、アンドレはイットの身のこなしをわずかに見ただけで、イットが性奉仕だけでなく、戦闘技術についてもかなりのものがあることを見抜いたらしかった。

 それで、言い値で支払ったのだ。

 なにしろ、イットが性奴隷としての値打ちだけでなく、戦闘奴隷としても、人並み外れた腕があると、もしも、その奴隷商が見抜いていれば、イットは金貨十枚どころか、その倍の値は少なくともついただろうと言っている。

 

 まあ、いずれにしても、アンドレが物の値打ちを読むことに長けた一流の商人であるということは間違いないようだ。

 旅の行商でかなりの額を稼いでいる。

 だからこそ、高額の性奴隷を売ったり、買ったりして定期的に交換するという贅沢もできるのだ。

 

 とにかく、イットは性奴隷としてつらかった思い出を語った。そして、奴隷として生きることの覚悟と厳しさ、さらに希望を持つことの重要性をこんこんと話した。

 かつて、リックがイットにそうしたように……。

 

「あたしは、お前のように強くないのよ……。獣人なんかとは違う……」

 

 アリアはぼそりと言った。

 

「なんでもいいです。とにかく、食べましょう。食べることさえできれば、絶対に心は死にません。それとも、口の中に本当に食べ物を突っ込まれたいですか──?」

 

 イットは、あのとき、リックが繰り返して、教え諭してくれたことを思い出しながら、脅すように言った。

 

「た、食べるわよ……」

 

 アリアは、イットの恫喝のような口調にたじろぎ、慌てたように皿のものを食べ始めた。

 

 

 

 

(第11話『【前日談】ある獣人娘の履歴』終わり)

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