【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
311 後宮の奇妙な噂
【ハロンドール王宮・王宮敷地内の小宅】
王宮の小さな離れの一室の長椅子に身体を沈めませながら、サキは幾度となくこめかみに手をやる。
頭痛ではない。
ただ、頭が重い。
それ以上に熱っぽく、気怠い感じがするのは身体だ。
理由はもうはっきりとしている。
ロウだ……。
彼らがナタルの森に出立して、そろそろ一箇月半……。
当然のことだが、サキは、そのあいだ、ロウに抱かれていないし、精を注がれていない。それがこれほどまでに、サキの身体を悩ませるとは……。
とにかく、性感がロウの精を欲して、激しく疼かせて訴えるのだ。
子宮がロウの精に飢えている。
一箇月以上もロウと離れているサキの子宮は、最近ではぎゅうぎゅうと脈動して、息をするのも苦しいくらいだ。
淫らな血が湧き起こって仕方がない。
ロウがいなくなってからというもの、サキはなにもやる気にならない日々が続いていた。
なにをしていても熱中できないし、そもそも、なにかをしなければならないことがあるわけじゃない。
ロウから言われているのは、ロウがいないあいだは、ルードルフを見張る役目はしなくてもいいということだけだ。
しかし、こんなことなら、なにかを命じられていた方がましだ。
主になにかを命じられるということは、甘美な快感であり、命じられないことが、これほどに支配されることへの渇望を呼ぶとは、サキはこれまで知らなかった。
ロウに支配されるまで、誰ひとりとして、主人を持たなかったサキだが、強い者に従うことに快美感を抱くというのは、やはり、サキもまた、強者に従うことが本能に刻まれていると言われている魔族のひとりだったということだろう。
いずれにせよ、ロウの命令でないのなら、あの腑抜けにも、人間族の王宮にも興味はないので、ルードルフに小さな離れの建物を準備させ、後宮から離れて、ここにずっと閉じこもっている。
ほとんどの時間をここで過ごしていると言っていい。
そして、考えるのは、ロウのことばかりだ。
ロウに会いたい。
なにかを命じられたい。
愛されたい。
ロウを求めて、身体が沸騰する。
とにかく、どうにもならない魂の飢えのようなものに悩んでいた。
サキは溜息をついた。
いずれにせよ、これではなにもする気力がわかない。
いっそのこと、自分で慰めて身体の火照りを癒そうか……。
サキは身についていたドレスを仮想空間に消滅させて、ロウから以前に送られた薄い下着だけになる。
下着といっても、股間を覆う部分はなく、肩紐から胸を隠して、腰の括れまでしかない半透明の一枚布だ。
ロウは“きゃみそーる”と呼んでいたが、ロウが出立する直前に、サキにこれを着させて愛したので、一番記憶が新しい。
サキは裸体にそれだけを身に着けた格好になった。
ロウはいつも、サキを破廉恥に嗜虐的に抱く。
女を辱めて、恥辱に顔を歪めるのを愉しむのだ。
いびつな性癖といえないことはないが、サキにとっては、最高の快感を与えてくれる充実した時間だ。
百匹を超える支配級の眷属の魔族がおり、その眷属が従える小妖を含めれば、サキが自由にできる妖魔は、数千匹になるだろう。
そのサキが、ただひとりの人間族の男から与えられる被虐の支配を望んで、狂いそうになっているのだ。
だが、サキはそれを全くおかしなこととは考えられない。
ロウに会いたい。
命令して欲しい……。
手摺りのある木製の椅子を出す。
さらに縄を出して、縄尻を背もたれに括り、縄を跨ぐように腰掛ける。縄には縄瘤を作った。
ロウはこういう縄瘤で女の股間をいたぶるのが好きだった。
サキも何度も辱められたものだ。
両脚を手摺りに掛けて、大きく股を拡げる。
眼を閉じる。
こういう恥ずかしい格好をロウに命じられているのだと想像した。
すると、それだけでじゅんと股間が濡れるのがわかった。
股の下にある縄を持ち、股間に喰い込むように引っ張って持ちあげる。
ロウにされているのだ……。
そう思い込む。
「ああっ」
声が出た。
気持ちいい……。
なんでもない刺激でも、ロウにされていると想像すると、こんなにも違う。
自分でやっているんじゃない……。
ロウにされているのだ。
「うっ、あっ、ああ……」
そして、サキは耐えられなくて、声をあげてしまっている。
すると、サキがはしたない声を出したことで、ロウが揶揄するような言葉をかけた。
それで、サキはさらに興奮する。
動かす。
いや、ロウに縄を動かされる。
「ほううっ」
貫く甘美な刺激に、サキは大きく背を反らせてかすれるような声を発した。
縄瘤が敏感な場所に当たっている。
それを強く弱く動かす。
気持ちいい。
ロウの与える愛撫は、なんであろうと素晴らしいのだ。
熱くなった身体が弾けるような快感を吹きあげる。
そのときだった。
閉じていたはずの扉がばたんと開いて、ふたりの女が入ってきた。
「サキ様、お知らせだよ」
「最高級の情報だよ」
威勢のいい声とともに、威勢よく部屋に入ってきたのは、ピカロとチャルタだ。
部屋には鍵はしてあるが、サキュバスの能力として、自由自在に鍵のかかっている他人の寝室に入り込むことができるこいつらは、ほとんど無意識に開錠をして、部屋に入って来たのだろう。
「ひいいっ、な、なんじゃああ」
サキは悲鳴をあげた。
「うわっ、なに?」
「ふえええ、美味しい淫気……。ふううん」
ピカロとチャルタがうっとりと匂いを嗅ぐ仕草をした。
「貴様ら──」
サキは椅子を飛びおりると、力の限りに、続けざまに、ふたりの顔面に拳を叩きつけた。
*
「ひょめんなさい、サキしゃま……」
「ひぇやに、いきらり入っれ、失礼ひゅまひゅた……」
顔面を鼻血で真っ赤にし、殴られ蹴られて、全身を青痣だらけにしているピカロとチャルタが床に土下座をしている。
サキは椅子に座って腕組みをしながら、ふたりの頭をそれぞれの足で踏んづけている。
すでに身なりは整えたが、逆にピカロとチャルタは、サキに何度も蹴り飛ばされて転がされたので、服は破れてぼろぼろだし、床の塵や自分たちの鼻血で汚れている。
サキは嘆息した。
いまだに怒りは収まらないが、いつまでも殴り続けても仕方ない。
とりあえず、ふたりの傷を魔道で癒して、破れて汚れた服も綺麗にしてやる。
「ふわっ、あ、ありがとうございます」
「ふうう、ご、ごめんなさい、サキ様」
足をどけるとふたりが媚びを売るような笑みを浮かべつつ顔をあげた。
「なにを謝っておる? 謝るようなことがあるのか?」
サキはできるだけ平静なふりをして静かに言った。
「えっ、なにって……」
「さっき、ぼくたちが部屋に入ったとき……」
ふたりがきょとんとした。
サキは立ちあがった。
「そうか……。まだ、忘れとらんか……。ならば、もう百発ほど殴るか。どうせ魔道で回復させられるのだ。死なない限り、問題なかろう」
ふたりの胸倉に手を伸ばす。
「うわっ、忘れた──。いや、なんにも覚えてない」
「絶対に忘れた──。忘れました、サキ様──。覚えてません。本当です──」
ピカロとチャルタがのけ反ってサキの腕を避け、真っ蒼になって床に尻をつけたまま逃げていく。
「なにを忘れたのだ?」
サキは凄みながら、ふたりに向かって進む。
ふたりがさらに顔を蒼くする。
「なんにも忘れてない。忘れるようなことなんてないもの」
「そうだよ──。忘れるっていうか、ぼくたちはたったいま部屋に入って来ただけだもの」
ふたりが慌てたように叫んだ。
サキは椅子に戻って座り直す。
仮想空間から長椅子を出して、サキの対面に置いた。
「もうよい。座れ。それで、なにかの話をしに来たのではないのか?」
サキは言った。
ピカロとチャルタがほっとしたように、長椅子にやって来て座った。
「そうだった。あのね、サキ様。これは、関係者以外には、おれたちくらいしか知らないお知らせだよ」
「そのうちに、みんなに広まるだろうし、正式発表は半年くらい後だという話だけど、いまは最高級に新鮮な情報だよ」
「御託はいい。早く話せ──」
サキは怒鳴った。
「王宮魔道師が王太女のところに入ったんだ。第三神殿にもね。テレーズが手配したのさ」
「ほとんど誰にも知られないように手配されたけどね。ぼくたちにかかれば、秘密なんて無駄さ。まだ、王妃だって知らないはずだよ。まあ、もっとも今頃は、さすがに情報も伝わっているかもしれないけど」
ピカロとチャルタが手柄を競うように嬉々として語る。
サキは相好を崩した。
「ほう? では、やはり兆候のとおりか」
「八箇月後だってさ。人間族って長いんだねえ」
ピカロが言った。
「そうか──。やったな」
サキは思わず微笑んでしまった。
まあ、いいことなのだろう。
イザベラとアンに魔道治療の効果が低くなったというのは、少し前にもたらされていた情報だ。
つまり、それは兆候なのだ。
新たな命を体内に宿したときには、外からの干渉のすべてを保護するように女体の身体が働くからだそうだ。治療魔道は善意の魔道ではあるものの、肉体にとっては異物の力の侵入だ。治療魔道の効果が低くなるのは、そういうものを排除するように、身体の抵抗力が増すことが原因のようだ。
アンを預かっているスクルズからも、可能性ありと事前には伝えらえてはいた。
だが、はっきりとわかったというのは嬉しいことだ。
それにしても、ロウの女たちには、すでに避妊をしていない者が多かったものの、あれだけ毎日のように女の身体に精を注いでおいて、こういうことについては、どの女にも発生しなかった。
サキは、おそらく、ロウはなんらかの自分の力で、それを制御しているのだと思っていたが、ロウが最初に選んだのが、人間の王女ふたりとはな……。
それとも、偶然か?
とにかく、嬉しいことには違いない。
「
サキは声をあげて笑った。
すると、ピカロが渋い顔になる。
「王妃様はともかくさあ、このことでルードルフが怒っているんだよねえ。すごく苛々してさあ」
そして、ピカロが言った。
横でチャルタも顔を曇らせた。
だが、サキは笑い飛ばした。
「あの腑抜けが怒っておると? 冗談ではないわ。そもそも、なにを怒る?」
「王太女様はともかく、アン様については承知してないとか……。まあ、そんなことを周囲に怒鳴り散らしたみたいだね。一応、最新情報だけど」
「馬鹿を言うな。あの
サキは言った。
だが、ふたりが同時に首を横に振る。
「ううん……とねえ。おれたちは、ここしばらく、ずっとルードルフには会ってないよ。というか、テレーズが会わせないんだ。別に無理矢理に会いたい人間族じゃないし、無理には近づいてないし」
「ぼくたちだけじゃなくて、ルードルフのことをずっと監禁して、限定した人間にしか会わせないんだ。閉じ込めているんだよねえ。ほとんど誰の面会も許さないしさあ。今回のこともルードルフの指示だって、テレーズが代わりに宰相とかに伝えるだけなんだ。苛ついているっていうのも、ルードルフのいる部屋に出入りする従者たちの伝聞でさあ」
ピカロとチャルタがそれぞれに言った。
しばらく、後宮には近づいてないので、そんなことになっているのは知らなかった。
サキはびっくりした。
「お前たちは、テレーズにくっついて、ルードルフのところに通っているのではないのか?」
サキは訊ねた。
ロウがいなくなってからの一箇月半ものあいだ、ロウからルードルフの見張り役を解除されたこともあり、わざわざ、ルードルフに会いたくもないので、この小さな離宮に引きこもって久しい。
外に出ると言えば、時折、アネルザと茶飲み話をするくらいのことであり、サキ同様に、アネルザも、ロウがいないことで、なんだか落ち着かない感じでいるなあと思っていたくらいだ。
しかし、それでも、あのテレーズを野放しにしておくことには、危険なものがあったので、このピカロとチャルタには、テレーズに媚びを売って、くっついていろと命じていた。
だから、てっきり、ずっとルードルフのことも、一緒に見張っていると思っていたのだ。
「ううん、さっきも言ったけど、テレーズはおれたちを、ルードルフに会わせないよ。近寄らせもしない。とにかく、あそこで、いつもルードルフと一緒にいるのは、テレーズだけなんだ」
「もしかしたら、ルードルフに接近した方がいい? サキ様が命じるなら、無理矢理にでも
ふたりがサキの表情を探るように言った。
もしかして、ルードルフから離れていたことについて、叱られると思ったのかもしれない。
まあ、こいつらのことだから、テレーズについても、そんなには執着してないだろう。
サキュバスが性行為の相手以外の対象を熱心に関心を寄せることはない。
まあいい。
それよりも、聞きなれない単語について、サキは訝しんだ。
「聖壇室とはなんじゃ?」
サキは言った。
「後宮でルードルフが閉じこもっている部屋をテレーズがそう呼ばせているんだ。テレーズの部下みたいな兵が見張っていて、誰も勝手に入れないようになってんのさ」
「政務に関することは、その聖壇室から大抵は文書で命令があるんだ。玉璽が押されてね。それをテレーズが関係の大臣とかに持っていくという感じだよ」
このところ興味もなかったし、テレーズには、ロウに関わらない限り、なにをしてもいいとも言ってはいたので、完全に放っていたが、まあ、そんなことになっていたのだ。
とはいっても、あの怠け者が政務を投げ出して、後宮に入り浸るのは、通常のことであり、それほどの異常事態ということでもないだろう。
そもそも、サキには、あの無能を監禁して独占したところで、テレーズになにができるのか眉唾物だとは思う。
「つまりは、テレーズがルードルフを独占しているということか? お前らにも近づけさせずに? はっ、あいつもご苦労なことだ。じゃあ、あの女とやることしか頭にない能無しをひとり占めして、一所懸命に媚びを売っておるのか」
サキは笑った。
だが、ピカロがちょっと首を傾げた。
「それなんだけど、ちょっと変な話を耳にしたんだよね。そのルードルフだけど、最近、女を近寄らせないんだ……。テレーズは別だけどね。サキ様が後宮に関わらなくなって、最初はかなり頻繁に女も代わる代わる入っていたんだけど、いまではさっぱりさ。気配だけだけど、多分、テレーズもルードルフの相手をやってないと思うよ。あそこからは淫気が感じられない」
「やってない? あの好色しか取り柄のない……いや、好色は取り柄でもないが、とにかく、あの阿呆が女を抱かないと? 嘘をつけ──。あっ、もしかして、最近は男色か?」
サキは言った。
あれに限って、淫情に興味がなくなるということはありえない。
女も男もいける両刀遣いだし、叩かれたり苛めたりして悦ぶ、ど変態だが、異常な好き者でもあるのだ。
あれが、女なしですごせるわけもなく、だったら、最近の好みが男に変わったというだけだろう。
サキがそう言うと、ふたりは首を横に振った。
「さっきも言ったけど、それはないよ。あの部屋からは淫気は発していないもの。つまりは、女であれ、男であれ、あのルードルフは、閉じこもっているあの部屋で性行為をしてないよ。少なくとも、快感を覚えるようなことはやってないんだ」
「それは間違いないよ。おれも断言する」
ピカロに続いてチャルタも言った。
こいつらは、ロウにくっついているクグルス同様に、淫魔族であり、サキュバスだ。クグルスのような魔妖精は他人の性愛の場面に忍んで性行為によって発生する淫気を吸収し、サキュバスたちは、自ら人間族と性交をして淫気を吸うという違いはあるが、淫気を感じる能力は確かだ。
こいつらが、そういう行為をルードルフはしていないというのであれば、そうなのだろう。
しかし、どうにも信じられない。
あの好色王が、長く性行為から離れるなど……。
そもそも、だったら、なんで後宮に閉じこもっているのだ?
「それにね、サキ様、妙な噂もあるんだよ」
するとピカロが言った。
「噂?」
「うん、実はあのルードルフが勃起できなくなったとか……。最初の頃、頻繁に交代で後宮にいる女奴隷とか、男娼が出入りしたんだけど、全員が最後には怒声とともに、追い出されているんだ。しかも、一度入った者は二度と呼ばれないし、すぐに解雇されたり、処分されたりで、どんどんと後宮そのものから追い出されている。サキ様は、向こうにはいなかったから、知らなかったと思うけど」
「うん、後宮って、女妾たちも、男娼たちも、もうほとんど残ってないよ。ひっそりとしたものさ。みんな役立たずという理由で暇を出されたしね…。それで推測するしかないんだけど、もしかしたら、急に勃起できなくなったんじゃないかって……。ほら、人間族の男って、そういうこともあるんだろう?」
「ルードルフのところには、テレーズのほかにも、身の回りの世話をする従者や侍女もいるんだけど、そいつらは、王が不能になったって噂してるよ」
「誰もばらしちゃいけないし、口にしてはいけないんだけど、ひそかに噂話は蔓延している。王は不能ってね」
ピカロとチャルタが代わる代わる言った。
「あいつが不能だと? しばらく、後宮に近づかないあいだに、滑稽なことになっとるのだな。さては、ついに赤玉でも出したか?」
サキは笑った。
しかし、はっとした。
テレーズ……。
あいつの得意は、闇魔道……。
人の心に浮かぶ、負の感情を増幅して、人を支配する女……。
もしかしたら……。
ルードルフなど悪意に乏しい人畜無害のような男なので、闇魔道の対象としては苦労していた気配があるが、そのルードルフの心に悪感情を抱かせるには、あれから突然に欲情をとりあげてしまうというのは、確かにいい考えかもしれない。
特段に難しくもないだろう。
テレーズは、ずっとルードルフに侍っているのだ。
男の性器が勃起しなくなる毒を飲ませることは造作もないだろう。
ルードルフにしても、あれだけ毎日女と遊んでいたのに、突然に勃たなくなって、淫情を発散できなくなるのだ。
苛々が爆発して、心を悪感情に支配されてしまったというのは容易に想像がつく。
だったら、ルードルフは、すでにテレーズの支配下か……?
まあ、間違いあるまい……。
「アネルザに報せるべきかな……」
サキは呟いた。
ロウからは、アネルザを助けろとは言われてないが、茶飲み友達のよしみで教えておくか……。
だが、一時期はテレーズから政務を奪われて、それの奪回に躍起になっていたアネルザだが、サキ同様に、ロウがいなくなってから妙に元気がない。
すっかりと覇気を失ったという感じだ。
積極的に政務の主導権を取り戻そうという気概も感じないし、時折、会ってもぼうっとしている様子だ。
「なにか言った、サキ様?」
サキの独り言にピカロが反応した。
「なんでもない。いずれにしても、あの無能も不能にはかなわんということか。だが、その噂が本当である信憑性はあるな。あのルードルフも、突然の不能に慌てふためいて、次々に後宮の女妾を呼び出しては試し、うまくいかないから、苛ついて次々に追い出しているということだな」
サキはなんとなく合点がいった。
そうであれば、テレーズがピカロとチャルタをルードルフに接近させない理由もわかる。
あの男を一番勃起させるのが上手なのは、なんといっても、このふたりだろう。
そして、寵姫ということになっているサキだ。
テレーズがルードルフが不能によって発生している苛立ちの悪感情を昂ぶらせて支配をしているなら、それを維持するためには、サキたち三人には、絶対に会わせないだろう。
いや、ルードルフのことだから、勃たなくなって焦ったら、いの一番にサキたち三人を呼び出ししそうなところであるが、そうしないというのは、すでにテレーズに支配されて、記憶を失わせられているということかもしれない。
「もしかしたら、厄介なことなのかもしれんな。まあ、わしとしては、主殿が危害を受けることさえなければ、どうでもいいのだがな……。だが、一応、もう一度釘を刺しておくか。わしとしても、テレーズがなにをしておるのか確認しておきたい」
サキは口にした。
そして、ピカロとチャルタを見る。
「……お前たち、わしとテレーズが面談する段取りをしろ。理由はなんでもいい。とにかく、約束を取りつけろ」
サキは言った。
ふたりが慌てて立ちあがる。
すると、この離れに来客を告げる呼び鈴が鳴った。
ここにいるのは、サキひとりであり、侍女のような者はいない。
訪問客など滅多になく、強いて言えばアネルザくらいだが、いずれにせよ、ここを訪ねてくる者など珍しいことだ。
サキは、ピカロとチャルタを別室に隠して、玄関に出た。
果たして、そこにいたのは、テレーズの家人の女だ。
テレーズが王宮にやって来る時に、連れてきた者のひとりであり、一応は王付きの侍女ということになっている。
しかし、テレーズの手の者のひとりであることには間違いない。
「サキ様、テレーズ女官長からのご伝言です。本日、夕刻に後宮にて夕食会を行います。ご出席なさいますように」
侍女が言った。
その物言いには、随分と尊大な響きがあり、いつもならその場で怒鳴りつけているところであったが、今回については、渡りに船である。
サキとしても、テレーズに会いたいと考えていたのだ。
侍女が手紙のような封書を手渡し、刻限と場所を口にした。
「承知したと伝えよ」
サキは言った。
これは都合がいい。
いま少し頼りにならないピカロとチャルタに手間を取らせることなく、テレーズとの面談の手配が整ってしまった。