※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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313 暴王の誕生(1)

 拳ほどの大きさのあぶく玉が目の前に出現した。

 夜明け前であり、まだサキは離宮で微睡んでいたところだったが、目を覚ました。

 寝台から身体を起こして、ガウンを肩にかけると、サキはあぶく玉を指で突いた。

 『伝言玉』と称する魔道であり、離れた場所にいる特定の相手に対して、声を伝える魔道だ。

 どのくらいの距離まで届けられるかは、術者の能力によるが、一般的な術者であれば、王都程度の端から端まで「声」を届けられる。近傍の城郭までということになれば、サキやスクルズほどの魔道力が必要になるだろう。国境を越えてということになれば、そこまで「声」を届けられる魔道師など、魔族でも存在しないだろう。

 エルフ族の女王、ガドニエルくらいになれば、わからないが……。

 

『そちらに行くわ。まだ夜明け前だし、この伝言玉が弾かれたのがわかったら行くから』

 

 声はテレーズだった。

 どうやら、サキのところに行きたいのだが、まだ陽も出ていない刻限だということで遠慮したらしい。

 それで、まずは『伝言玉』をサキのところに送り、サキがそれを弾けば、目を覚ましたのだと判断して、こっちに来るということにしたようだ。伝言玉を開けば、送った向こうでも、それがわかるのだ。

 わざわざ律義なものだ。

 

 果たして、目の前の空間が揺れて、テレーズが『移動術』でやってきた。

 サキは指を鳴らして、部屋の照明を灯した。

 近衛軍の軍装姿をしているテレーズの姿が露わになる。

 

「おはよう、サキ。それにしても、便利なものね。このスカンダちゃん、わたしの専属にして欲しいわね」

 

 明るくなったことで、テレーズの影が現われたのだが、その影の中から人間族の五歳ほどの幼女が出現する。

 前で合わせて腰ひもで縛る「着物」という名の衣服を身に着けており、花の髪飾りをしたあどけない姿だ。

 韋駄天(いだてん)族に属するスカンダという名の妖魔であり、闇魔道以外に能のないテレーズのために、サキが貸し与えているものだ。

 人間族の幼女にしか見えないが、れっきとした成人だ。

 ただ、知能は見かけのとおりであり、大して頭はよくない。

 しかし、幼い姿だが自由自在に移動術を連続でこなすだけでなく、音よりも早く駆けることができ、例えばこの広大なハロンドール王国でも、国境の端から端までを一日で踏破するだろう。

 このスカンダに手を繋いでもらったり、影に入ってもらえば、およそ考えられないくらいに、長い距離をあっという間に移動できる。

 同じ宮廷内程度であれば、一瞬だ。

 

「ならんわ。お前には過ぎた妖魔じゃ。王太女がいなくなり、王妃も早晩失脚する。ルードルフを抱えているお前が権力を独占だ。せっかくの権力だ。国王付き女官長用の移動ポッドを張り巡らせろ。しばらくは連絡を取るのに必要だから貸すが、早晩、とりあげる」

 

 移動ポッドとういうのは、スクルズがロウのために、王都内の女のところに瞬時に移動できるように設置した“ほっとらいん”と同じようなものであり、常時発動の『移動術』の設備だ。

 スクルズは、その移動術の設備を王都内どころか、遥かに遠くの城郭や異郷の山奥の温泉などに繋げたみたいだが、それは無理だろうが、この王宮の魔道技術者であれば、宮廷内くらいなら、すぐに設置するだろう。

 

「残念ね。とっても可愛らしいし、そばに置くだけでも、心がなごむのにね」

 

 テレーズが微笑みながら、スカンダの頭を優し気に撫でる。

 スカンダが嬉しそうににっこりとした。

 

「スカンダ、影に戻って、名を呼ぶまで門を閉じておれ」

 

 サキが声を掛けると、スカンダは「あい」と元気な返事をして、再びテレーズの影に戻った。

 テレーズは寝台の横にある椅子に座った。一方で、サキは寝台に腰をおろしている。

 

「ところで、なんじゃ、その恰好は、テレーズ? 女官長から近衛軍の将校にでもなったか?」

 

「ちょっとした遊びよ。一度でいいから、軍隊というのを動かしてみたくてね。だけど、思ったよりも愉しくはなかったわね。ルードルフの命令書もあるのに、指揮権がどうのこうのと文句ばっかり。命令には従わないし、頑固だし、本当に軍人って面倒。もうこりごりよ」

 

 テレーズが肩をすくめた。

 サキは苦笑した。

 

「指揮に従わない部下など、一度ぶん殴って、裸にして逆さに吊るしてやれ。大抵は、それで大人しくなる」

 

「そういうことは、あなたに任せるわ。わたしには無理ね。まあ、最終的には従わせたけど」

 

 テレーズは静かに言った。

 軍人に命令をきかせるなど、本物の将校であっても一筋縄ではいかないものだ。ましてや、本来は国王付き女官長が、軍服を身に着けて現われても、なんの遊びかと訝しむだけに違いない。

 おそらく、最終的に従わせたというのは、闇魔道で従わせたのだろう。

 こいつは、人の心を入れ替えるということをほんの短い時間でできる女だ。

 

「それで、首尾は?」

 

「すでに出立したわ。イザベラ王太女、アン様は、ノールの離宮に向かって移動中よ。およそ考えられる限りの乗り心地のいい魔道馬車を準備させたわ。移動のあいだ、ふたりは、まったく馬車が揺れていることさえ感じることができないはずよ」

 

「スクルズは?」

 

「邪魔はしなかったわ……。というよりも、不在ね。このところ王都にはいないらしいのよね。忙しいみたい……。いずれにしても、王命による離宮静養ですもの。母体を静かな環境で生活させるという大義名分があるから、邪魔だてする理由もないはずよ」

 

 テレーズの言葉にサキは頷いた。

 スクルズがこのところ、王都を不在がちというのは、サキも耳にしていた。

 なにをしているのかも、概ね知っている。

 ロウが出立する前から手掛けていた、この王国に遠距離瞬間移動のための魔道施設を張り巡らせるという計画を進めているのだ。

 ただ、いまのところ、専ら、ロウが向かったナタル森林に向かう方向にどんどんと施設設置を進めているみたいなので、彼女のわかりやすい動機は、サキのみならず、ロウの女たちは見抜いている。

 しかし、今回はそれで出し抜かれたかたちだ。

 もしも、スクルズが第三神殿にいれば、ロウから預かっている身重のアンを簡単に王軍に渡すということはしなかったと思う。

 

「ノヴァとは離さなかっただろうな?」

 

 テレーズが昨日の夜のうちにやったのは、ルードルフの命令というかたちで、イザベラとアンをノールの離宮と呼ばれる東の海の辺境に移動させることだ。

 ただ、これを本人たちや周囲の者に報せずに、ほとんど拉致同然に行った。

 アンはともかく、イザベラは王太女として実権を握っており、王宮の軍を動かす指揮権も持っている。かつてロウが準備した独自の王太女騎士団もいる。

 だから、出し抜いた。

 イザベラとアンを診療という名目で引き出し、テレーズが準備した国軍の一部で囲んで、ほとんど着の身着のまま連行したのだ。

 まだ、夜明け前であり、イザベラ王太女が不在なことに気がついている者も多くはないだろうが、夜が明ければ、それなりの騒動になるのは間違いない。

 

「あなたに事前に念を押されたからね。アン様は侍女と一緒に移動してもらっているわ。そういう意味では、イザベラ王太女殿下は、シャーラ護衛長と一緒よ。ただ、それ以外の侍女たちは、置き去りになったかたちね。彼女たちには、すぐに宮廷から退去する命令が出されるわ。全員、罷免ね」

 

「罷免? 理由は?」

 

 イザベラについている侍女たちといえば、ヴァージニア女官長を始めとする十人の侍女たちだ。侍女だったが、ロウが女にしたことで、新たな能力が覚醒して、有能なイザベラ直属の官吏団になっている。

 あいつらを追放するのか……。

 まあ、イザベラを王都から出しても、王太女府業務を担っていたそいつらが残っていては、権力を独占できないだろうが……。

 だが、いずれも、ロウの愛人たちであり、サキとしては保護しなければならない対象である。

 

「そんなことは適当よ。あなたにとっても、それが都合がいいでしょう?」

 

「なにが、わしの都合だ。お前の都合だろう」

 

 サキは吐き捨てた。

 

「わたしの都合は、あなたの都合でしょう? そうじゃない、リュンネガルト……?」

 

「その名を口出すな──」

 

 サキは吠えた。

 テレーズは悪びれる様子もなく、首を竦める。

 この女に真名を支配されている以上、サキはこの女に逆らえない。

 忌々しいが、それが魔族に刻まれている呪術のような本能なのだ。

 サキは内心で舌打ちした。

 また、いまのは脅しだろう。

 サキが逆らえば、真名を言い触らすとでも伝えたいのだ。

 まったく、この女は……

 

「手を後ろにしなさい、サキ」

 

 すると、なぜかテレーズが一度立ちあがって、サキの隣の寝台の上に座り直してきた。

 また、サキの手はいまの言葉で勝手に背中に回ってしまった。

 

「な、なんじゃ?」

 

 びっくりして、身体をびくりとさせてしまった。

 テレーズの手がガウンの下の下着に伸びてきたのだ。

 

「な、なにを……」

 

 テレーズがサキのクリトリスの付近を探るように、ゆっくりと愛撫しはじめたのだ。

 いきなりのことで、驚いて頭がついていかない。

 しかも、意外に上手い。

 布越しなのに、あっという間にサキはテレーズによって、快感を引きずり出される。

 

「や、やめい。な、なにをする……? うっ、くっ……」

 

「分を教えてあげようと思ってね……。わたしは優しいから、やることをやれば、かしずけとは言わないけど、あなたは、弱い弱い人間族のわたしにこんなことをされても、なにも抵抗できない奴隷なのよ……。それを知りなさい……。誰にも助けを求められない……。禁止するわ。ほら、大人しくしなさい……。脚の力を抜いて……」

 

 テレーズが愛撫を続ける。

 薄い布の下に二本の指を差し込んできた。クリトリスを強く弱く、回すように動かす。

 

「あっ、くっ、や、やめんか……。あっ、んくっ」

 

 サキは歯を食い縛った。

 確かに、なにも抵抗できない。

 屈辱で腹が煮え返る。

 愛撫による股間の疼きが全身に拡がり、震えが……。

 

 だが、いきなり愛撫が終わり、指が離れる。

 テレーズはもう一度、向かいの椅子に座り直した。

 サキは荒い息をしながら、呆気にとられた。

 

「女は女ね……。魔族も人間も一緒……。ふふふ……。自由にしていいわ」

 

 テレーズが懐から出した布で指を拭きながら、静かに微笑んだ。

 背中の手が外れて自由になる。

 サキは息を整えながら、テレーズを睨む。

 だが、テレーズは動じる気配すらない。

 

「ところで、あなたも、今日から近衛軍の将校よ。あなた用に美しい軍装を準備したから、辞令を発出次第に届けるわね」

 

 テレーズが何事もなかったかのように言った。

 

「わ、わしが近衛軍?」

 

 サキは訝しんだ。

 

「昨夜、ルードルフに任命させることに同意させたわ。王権により、好きなように近衛軍を動かせるわよ。あなたの眷属たちも悪くないだろうけど、ちょっと目立つから、動くなら国軍の方がいいでしょう。あなたなら、わたしよりも、もっと上手に国軍を動かすでしょうし」

 

「なるほどな。ならば、早晩、わしの出番もあるということか……」

 

「明日には、ロウ=ボルグ卿の爵位剥奪と身柄拘束命令が王国全土に発出されるわ。そうなれば、王妃が出てくる。それを抑えるのよ」

 

 テレーズが感情のこもらない口調で言った。

 サキはテレーズを睨みつけた。

 

主殿(しゅどの)に危害が加わるようなら、お前を八つ裂きにする……。その意思は変わらん」

 

「あなたになにができるの、サキ……。それとも、リュンネガルト?」

 

 テレーズが不敵に笑って、指を二本出し、宙でサキの股間を愛撫するような仕草をした。

 サキは歯噛みした。

 

「安心しなさい。王家の命令はゆっくりとした速度でしか地方には伝わらない……。冒険者ギルドに伝わっている情報によれば、数日前に、シャデルワースという国境に近い城郭で、岩野牛(バッファロー)退治のクエストを受けているそうよ。そこからなら、国境を越えるまで十日もかからないわ……。命令が追いつく頃には、間違いなく国境を越えているわ」

 

 テレーズが言った。

 冒険者ギルドの組織情報をどうして、テレーズが掴んでいるのかは知らないが、それなりに情報源があるのだろう。

 それにしても、サキもロウたちが、どこにいるのかということまでは詳細は把握していない。

 そうか……。

 国境沿いの城郭にいるのか……。

 

「信用していいのだな、テレーズ?」

 

 サキは睨んだ。

 

「この前言った通りよ。わたしは、任務を果たすだけよ。伝えられた通りのままのね……。それしかできない人形なのよ……。あなたの言う犬……」

 

「伝えられた通りのか……」

 

 サキは嘆息した。

 このテレーズがタリオの間者だというのは、はっきりとは口にしないが、否定しないことで、肯定していると思っていいだろう。

 そして、このテレーズは、この宮廷に入っているタリオのほかの間者を通じて、その命令とやらを受け取っているみたいだ。

 

「伝えられた通りのことをする犬よ……。逆らうことも、意に沿わぬ行動をすることも禁じられているわ」

 

 テレーズが意味ありげに言って、自分の胸に手で触れた。

 そこには、隷属の紋様が刻んであることをサキは知っている。

 

「まあ、わかった」

 

 サキはそれだけを言った。

 テレーズは無言でにっこりと微笑んだ。

 

「ところで、話はそれだけか?」

 

 サキはテレーズを見た。

 

「ああ、それと警告しておこうと思ってね」

 

「警告?」

 

「ルードルフのことよ」

 

「あの腑抜けがどうした?」

 

 サキは大して興味がなかったが、一応は訊ねた。

 ルードルフについては、このテレーズが闇魔道で支配し、後宮の一室に押し込めている。

 ほとんど、誰にも会わさないようにして、玉璽を押した命令文書だけを書かせて、宮廷を言いなりにしている。

 今回のことで、王太女のイザベラを王都から追放したので、あとはアネルザさえ、抑えることができれば、テレーズによる王宮の完全支配はほぼ完成する。

 そして、アネルザを抑える役目は、サキに任されている。

 サキも、真名を支配されてしまった以上、いまのところ、テレーズに逆らう術を持たない。

 いずれにしても、ルードルフがどうしたというのだろう。

 サキに興味はない。

 

「ずっと性欲を抑えていたんだけど、今日からはそれを発散させようと思うわ。それを教えておこうと思ってね」

 

「発散?」

 

 この女の得意は闇魔道だ。

 闇魔道とは、人の抱く悪感情を利用して、相手を支配してしまう操り術であり、このテレーズは、あまり悪感情のないルードルフを支配するために、あの好色男を薬で不能にしてしまったのだ。

 あれだけの好き者が性欲を発散できなくなったことで、相当に苛つき、焦り、激しく動揺したという。

 その悪感情を利用して、テレーズはやっと、ルードルフの感情を闇魔道で完全支配することに成功したようだ。

 しかし、それを発散させる?

 すると、ルードルフを支配しにくくなるのではないのか?

 サキは訝しんだ。

 

「……最近、ルードルフの身の周りをする侍女がどんどん辞めているの。あいつが、苛ついて、周囲を怒鳴りまくるのが原因なんだけど……。それで、実は昨日から、下級貴族たちを中心に、強制的に交代で令嬢を侍女として差し出すように命令させたわ。王命でね。それで、若い貴族娘たちが数名ずつ、聖壇室(せいだんしつ)に来ているのよ。ルードルフの世話をするためにね」

 

「それがどうした?」

 

 サキは言った。

 聖壇室というのは、こいつが名付けたもので、ルードルフを隔離している後宮の一室のことだ。

 すると、テレーズが笑った。

 時折、浮かべる冷笑的な笑みだ。サキはこの女のその表情が好きじゃない。

 

「だから、性欲発散よ。どんな女妾を抱いても勃起しないあいつの一物だけど、近づいてくる無垢な女を見ると、勃起するように暗示をかけたのよ。抱かれに来た女じゃだめで、そうではない女を強姦するときだけ、あれが大きくなるし、精を放つことができる。そういう風にしたのよ」

 

 テレーズが声をあげて笑った。

 サキは驚いた。

 

「なんじゃ、それは? そうなったら、あの締まりのない肉欲の塊のような男は、見境なく、近づく無垢な女を強姦しようとするのではないか? あれは、性欲の発散をほかのすべてに優先させる腑抜けだぞ……。あっ、そういうことか……」

 

 サキはテレーズがなにをしようとしているのかがわかった。

 

「あなたの言うとおりになるんでしょうね。権力を利用して、手当たり次第に女を強姦する希代の悪王の誕生よ」

 

 テレーズは言った。

 サキは噴き出した。

 

「なるほど……。確かに、お前が欲している王都の混乱が始まるというわけか。あの腑抜けが悪王か。まあ、悪王でも、長い治政でなにも施政をしなかった軟弱王と後世の歴史家に評されるよりもましであろう……。そうか、それで、イザベラの侍女たちを罷免して王宮から離すのか……。王宮が荒れる前に……」

 

「一応、わたしも気を使っているのよ。大切な(しもべ)の仲間だし。彼女たちはとても可愛らしくて、美貌で無垢よ。放っておけば、ルードルフは手を出すわ」

 

「なにが(しもべ)じゃ」

 

 サキはむっとして怒鳴った。

 もっとも、あいつらが無垢かどうかは知らん。

 ロウが毎日のように抱き、女としての磨きも艶やかさも加わった者たちだ。

 あいつらの美しさは、ロウの精液漬けの毎日が作ったものだ。

 まあ、さすがに、テレーズはそこまで知らないだろうが……。

 

「……さてと、じゃあ、わたしは戻るわ。ほかにも色々とすることもあるしね。頓挫していた施策の実行よ。王都だけに許されていた自由流通商業は数日中に完全に全面禁止になるわ。これからは商業ギルドのみしか許されない。逆らえば、その商家は取り潰して財産没収になる……。それと王都を中心に臨時人頭税やあらゆる税が一斉に増税よ……。なにしろ、新しい離宮を建設するので国費がいるのよ。ルードルフはご機嫌で、命令書にサインをすると思うわ。なにしろ、やっと性欲が発散できるんだもの」

 

「流通の停滞に、増税か? まあ、人間族の政事(まつりごと)のことは知らんが、大騒ぎになりそうだな」

 

「間違いなくね……。ついでに、商業ギルドの復権と自由流通の禁止は、わたしの飼い主の要望よ。それで、この国の(くず)が喜ぶんだそうよ」

 

「屑?」

 

「グリムーン公とランカスター公の二大公爵家よ。王妃と仲が悪いんでしょう。わたしの飼い主のお気に入りよ」

 

 テレーズが笑った。

 公爵家といえば、アネルザのみならず、ロウもマーズとかいう闘奴隷のことで、喧嘩を売った状態のはずだ。

 そいつらに力を与えるということか。

 

「さて、じゃあ、本当に行くわ。あなたのことは頼りにしているわね、サキ……。スカンダちゃん、出てきてくれる?」

 

 テレーズが自分の影に向かって呼び掛け、とんとんと踵を鳴らした。それが合図になっているのだ。

 幼い童女姿のスカンダが姿を現わす。

 

「あい、テレーズさん」

 

「執務室まで送ってくれる、スカンダちゃん」

 

「あい、わかりました。では、ごきげんよう、サキさま」

 

 スカンダがサキに向かって大きく頭をさげ、次いで、テレーズの手を握った。

 次の瞬間、ふたりの姿が消滅した。

 

「ちっ……」

 

 サキは立ちあがった。

 テレーズの愛撫で濡れた股間がぬるぬるして気持ち悪い。

 ちくしょう……。

 好き勝手しやがって……。

 

 とりあえず、仮想空間から着替えなどを出して、魔道を操り、あっという間に身体をきれいにして、髪も整えて身支度を整える。

 そして、仮想空間を経由して、魔道通信を使い、ひとりの女眷属を呼び出した。

 サキの扱う眷属の中でも、もっとも目端が利く者であり、大雑把な性質が多い魔族の中では珍しく、繊細な仕事ができる者だ。

 また、見た目は人間族の女にしか見えない。

 

「サキ様、お呼びですか?」

 

 呼び出してしばらくして、黒髪で黒い肌の美貌の女が目の前に出現した

 ラポルタだ。

 

「ラポルタ、仕事じゃ。適当な眷属を使って、この人間族の宮廷のテレーズという女官長とその周辺を探れ。そして、密かに接触する者を逐次に明らかにせよ。見つけたらわしの指示により、いつでも一斉に殺せるように、準備をしておけ」

 

 サキはラポルタに命じ、さらに詳細な指示を与えた。

 ラポルタは頷いた。

 彼女に任せておけば、うまくいくだろう。

 

「かしこまりました」

 

 ラポルタは消えた。

 とりあえず、これでいい。

 サキは、朝食をとることにした。

 これでも、料理くらいはする。

 サキは離宮に備え付けられている厨房で、食事の支度を始めた。

 そして、支度をしながら、ルードルフが若い貴族令嬢を強姦するように仕向けるのだというテレーズの話を考えた。

 テレーズのしたいことは理解できるが、無垢な若い令嬢をあれに次々に喰わせるなど、勿体ないことだ。

 そういうことは、王の中の王にこそ相応しい気もする。

 女を独占するのは、まさに、王の王、すなわち、クロノスの特権だ。

 そういえば、テレーズが集めたのは下級貴族の令嬢か……。

 

 ふうん……。

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