【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
315 王妃捕縛
王妃の私室に近衛軍の一団がやって来たのは、アネルザが寝着に着替えてすぐのときだった。
夜が更けてからかなりの時間がすぎている。
かつては、寝着への着替えも侍女たちの世話を受けていたが、ロウの女になって以来、あの男が、いつ「ほっとらいん」と称した移動術を施した魔道具の鏡から出現するかわからないので、可能な限りこの寝室には誰も入れないようにしていた。
だから、いまもひとりきりだった。
もっとも、そのロウは王都にはいない。
そろそろ一箇月半になるが、王都を不在にして、エルフ娘を競売で買いとるクエストとやらで、国境を越えたナタルの森まで行っているのだ。
ただ、寝室ではひとりですごすのが癖になっていただけだ。
しかも、寝着はロウが夜這いに来たときに、愉しんでもらえるように、かなり際どい部分があるものだ。隠しているのは、乳房と股間のみであり、ほかの場所は全部出ている。
これもまた、癖になっていて、ロウが不在というのに、忘れていて、そのままだった。
「穏やかじゃないねえ。しかも、こんな格好でいるところに、男の集団でやってくるとはどういう料簡だい? それとも、みんなでこのわたしと遊んでくれるのかい」
アネルザは椅子に腰掛けたまま笑った。
部屋に入り込んできた近衛兵は十数人というところだろう。
全員が剣を抜いている。
部屋の外にも、この倍の人数がいる気配だ。
そのため、侍女も召使いも、アネルザに異変を報せることができなかったに違いない。
いずれにしても、そろそろ、アネルザを捕縛させるために動くだろうということはわかっていた。
イザベラとアンのこと……。
ロウのこと……。
この数日、連日のように、ルードルフとテレーズのところにいき、罵声を浴びせ続けた。
アネルザの力を使って、あちこちに圧力もかけた。
しかし、テレーズは、商業ギルドを完全復活させて、台頭しかけていた自由流通の萌芽を摘み取ったりもしていて、これによって利を得るグリムーン公とランカスター公の二大公爵家がテレーズに与し、彼らもまたアネルザの動きを牽制するということをしてきた。
サキにも協力してもらって、色々と動いたものの、こっちの動きは、読まれているかのように、アネルザに協力しそうな大臣や大貴族は、向こうに取り込まれるか、王都から離れさせられてしまっていた。
アネルザの影響力をことごとく、潰された感じだ。
とにかく、ロウがいなくなって、なぜか、しばらくやる気がなくなってしまったこともあり、ずっと動いてなかったので、もはや、アネルザはほとんど宮廷で孤立していて、いつの間にか、宮廷はテレーズ派一色になっていたのだ。
また、ロウが不在の影響が関係あるのか、ロウがいた頃は、頭が冴え渡っていた気もしたし、どんな相手にどういう話を持ちかければうまくいくかなど、相手の顔を見ればわかったのに、頭は働かないし、常に身体が熱い感じがあり、何事も集中できないのだ。
その調子の悪さも、すべてに後手を踏んだ要因だろう。
それでも、ルードルフのところに押し掛けて、激しく罵った。
特に、ロウのことだ。
数日前に、ロウに対する爵位剥奪と捕縛指示が王国全土に出ており、それを撤回しろと迫ったのだ。
アネルザが口を挟む余地のない電光石火の突然の命令であり、気がついたときには、発出された後であり、すでにどうしようもなかった。
王太女のイザベラが王都にいれば、こんなことは許されなかっただろうし、アネルザが後手を踏むようなことはなかったと思う。
いずれにせよ、こうなるのことは予測済みだ。
従って、動顛することもない。
いまさら、薄物だけの姿を見られて恥ずかしがる女でもないし……。
アネルザは微笑んだ。
「王命で、このまま塔に収監じゃ。その下着姿で移動してもらう。なに、心配いらん。見張ってるのは牢番だけじゃ。せいぜい肢体を愉しませてやれ」
近衛兵の後ろからやって来たのは、近衛隊の将校用の軍服に身を包んだサキだった。
どうやら完全に面白がっている気配だ。
わざわざ恰好をつけて軍服に身を包んできたらしい。
また、いつもの素の喋り方であり、寵姫として装ったものじゃない。
ロウの眷属で妖魔将軍と称されるサキだが、いまはロウの命令で、人間族の美女に化け、国王を見張るための寵姫として、人間族の美女に化けて、後宮に入り込んでいる。
この王宮内でサキの正体を知っているのは、アネルザを除けば、やはり、ロウが後宮に送り込んだチャルタとピカロのサキュバスだ。だが、なぜか、このふたりは数日前から後宮で見かけなくなった。
また、サキの正体は、イザベラとシャーラも知っているが、このふたりも、先日、ノールの離宮とやらに突然に送られて、いまは宮廷にはいない。
王太女としてのイザベラの執務を支えていたヴァージニアを始めとする侍女団は、イザベラが離宮に連行された次の日に、一斉に王宮からいなくなってしまい、消息がわからない。
イザベラを追いかけて、ノールの離宮に集団で向かった可能性もあるが、アネルザには、いまのところ、それを確認する方法がない。
いずれにせよ、イザベラとアンが離宮に送られたのは、ルードルフの指示ということになっているが、宮廷の権力を独占したい女官長のテレーズの手配に違いなく、実際、政務のかなりを担っていたイザベラがいなくなったことで、いまや、ほとんど王宮のことは、ルードルフの身柄を後宮で抑えているテレーズの言いなりになっている。
「サキかい。まさか、本気じゃないだろうねえ。このわたしを捕縛するなんてね」
アネルザは一応、そう言った。
すっかりと周りをサキが連れてきた近衛兵で囲まれてるのだ。
また、そいつらも、さすがに王妃を捕縛するという命令に動揺の色が見える。
いずれにしても、サキとアネルザは昵懇の仲だ。
なかなかに面白い女であり、アネルザとはすっかりと打ち解けて、ロウの女として、親しい仲間になっていた。
そのサキが、この夜更けに近衛隊とともにやって来た。
わざわざ、薄物しか身に着けていないような寝込みを襲ったのも、この雌妖独特の諧謔なのだろう。
「つまんないことを言ってはいけないわね、王妃殿下。王妃殿下であろうと、王への叛意を抱くのは大罪ですよ。多少の不自由は当然のことです。これからは虜囚の身なのだから、身の程をわきまえた方がいいでしょうね」
サキに次いで部屋に入ってきたのは、テレーズだ。
驚いたことに、一緒に来たようだ。
テレーズは、最近になって、あの王が自分の近くに侍らせた女伯爵であり、歳は四十を越えているはずだが、ニ十代と称しても不自然でないくらいの瑞々しい肌と若々しい美貌だ。
身体もいくらかふくよかであり、知らないが、これがあの王の最近の好みのようだ。
女好きの国王が、テレーズの美貌を耳にして王宮に呼び寄せたのだ。無論、アネルザも承知のことである。いや、むしろ、推薦した。
ルードルフは、実際には後宮にでも入れたかったかもしれないが、女伯爵の爵位持ちであり、死んだ夫から受け継いだ領地もある。
それで女官長の打診ということになった。
領地経営は、家人が代行しているし、国王の計らいで、そういう業務に長けた者を派遣している。
その条件で、テレーズも王宮入りを引き受けた。
もちろん、テレーズも、女官長という職のほかに、国王のルードルフから、自分がなにを求められているかはわかっている。
それを承知でやって来たのだ。
それが一箇月半ほど前だ。
ちょうど、ロウが王都から出立する直前であり、そのわずか一箇月半で、この女は完全に王宮全部を牛耳ってしまった。
いずれにせよ、最近混乱を引き起こした原因のテレーズが目の前にいる。
静かに笑っている。
王宮でテレーズの邪魔者だったのは、まずは王太女のイザベラであり、国王以上の影響力を持っているとも言われている王妃のアネルザだ。
それがついに、権力を奪って王宮から追い出せるのだ。
もはや、自分の天下くらいに考えていると思っているのに違いない。
アネルザも、以前にもテレーズに遭ったことはあった。
女官長の就任を認めたのもアネルザだし、ひとり娘は夫の死後、伯爵領を継いだテレーズが自分の後継者に指名できないくらいに素行の悪い不良娘だが、テレーズ自身は生真面目で善良な女だ。
しかし、領地経営は下手であり、アネルザもなんとか助けられないかと、ずっと気になっていた。
だが、なにもなしに、一領主を王家が助けるわけにはいかない。
王家として力を貸すためには、ルードルフの愛人になるという大義名分くらいは必要だった。
だからこそ、テレーズを助ける意味もあり、女官長に推薦もしたのだが……。
しかし、やってきたテレーズは、まるで別人だ。
権力欲の塊のような女で、すぐに国王に媚び入り、もともと後宮に行き浸りだったルードルフは、いまや、「
元来、政務なんて進んでやる男じゃないので、ルードルフの名を借りて、テレーズがすべてを仕切っているに決まってる。
そういう意味では、領主時代のテレーズと、いまのしたたかなテレーズが結びつかずに、意外ではある。
とにかく、イザベラがいないいま、王の裁可が必要な書類はすべて女官長を通さないとならないということになっていて、なにもかもテレーズの思いのままだ。
それをいいことに、このテレーズは王都を混乱させるような政令を次々に、ルードルフに発出させている。
執務のかなりを担っていたイザベラを排除して、権力を独占した王太女移送も、テレーズのやったことだし、私財でも増やしたいのか、王都住民に対して、新しい離宮建設を名目に大規模な増税を敢行して、いまや王都は大騒ぎだ。
さらに、賄賂をもらったからという専らの噂だが、王都に限り許されていた自由流通の商業を突然に禁止し、たった数日で数軒の新興商家が取り潰されて、私財を没収されたりしている。
その財も、ルードルフとテレーズが個人的なものにしたという噂が立っている。
また、それで、二大公爵家がテレーズ派になったのだ。
なにしろ、商業ギルドの復権でもっとも利益を得たのが、王族であるこの国の二大公爵家なのだ。
力を失いかけていた商業ギルドから、かなりの財を横流ししてもらったらしく、今回のことで、あいつらに相当のものが渡ったのは確認している。
ところが、こいつらは、まったく揃って王家の害虫のような存在であり、素行が悪くて民衆の人気もなく、しかも、裏で闇奴隷商売をはじめとするかなりの悪徳と繋がっている。
ルードルフのような怠け者が国王でなければ、とっくにとり潰されていたような連中だ。
それが王都で急に、力を台頭してきた。
全部、ルードルフとテレーズのこのところの悪政が原因だ。
とにかく、今回の王妃捕縛命令も、そういった後宮から出て来なくなったルードルフ、つまり、テレーズから発信されたものだ。
以前のアネルザの知っていたテレーズは、権力になど興味はない女だったのに、しばらく会ってはいなかったが、人というのは、変われば変わるものだ。
「立ちなさい。その下着だけでも、王宮から持ち出すのを許すのは、わたしの温情よ。本来であれば、ここからはなにも持ち出せない掟なのよ。素っ裸で収牢するところよ」
「王妃を裸で連行するのかい? 許されると思ってんのかい」
「逃亡の防止よ」
テレーズが冷笑的な笑みを見せる。
アネルザは舌打ちした。
すると、そのテレーズが王の玉璽が押されているアネルザへの収監命令をかざした。
「王陛下の名のもとに、王妃アネルザを捕縛する。王妃のあらゆる特権は只今をもって、無期限に剥奪される」
テレーズが宣した。
「ところで、いつから女官長が近衛兵を指揮するようになったんだい? 王都の法はどうなってんだろうねえ。ルードルフと話たいんだけどね」
アネルザはうそぶいた。
「近衛隊を指揮しているのは、わしだ、王妃。お前には言ってはいなかったが、これでも上級将校待遇でな。女官長は、お前が確かに塔に収監されるのを見届けるように、陛下に命令されたそうさ」
サキがにこにこ微笑みながら肩を竦めた。
本当に愉しんでる。
アネルザは苦笑した。
「お前が近衛の上級将校だって? 王の寵姫のくせにかい?」
アネルザは言った。
「このテレーズが頼んでくれたのだ。わしも、この恰好のいい軍服を一度着てみたくてな」
サキが笑った。
すると、さらに四人ほど部屋に入ってきた。
王宮魔道師たちだ。
さっそく魔道印を刻みだした。
転送術の結界紋のようだ。
人を瞬間移動させる移動術は、高等魔道であり、ひとりで駆使できるのは、王都では、スクルズ、ベルズ、シャーラ、そして、目の前のサキだけだ。
ただ、こいつらは四人がかりで、それをやろうとしているようだ。
どうやら、このまま、塔にアネルザの身を移動させるつもりみたいだ。
塔というのは、高位貴族を収監するために、王都内に作られている監獄である。アネルザが収容されるのは、その一番高い牢というのは間違いない。
そこには階段はなく、魔道でなければ出入りできない。
つまりは、魔道を封じられれば、脱走は不可能ということだ。
そして、アネルザは魔道はできない。
魔道が遣えたとしても、当然だが、その塔に収容される前に魔道封じの処置は施される。
「陛下に伝えておいておくれ。たかだか、子供のことで怒り狂って、功績のある貴族に捕縛命令を出すなんて、馬鹿のすることだとね」
いずれにせよ、ここまで追い詰められたかたちになったのは、アネルザの落ち度だ。
テレーズを甘く見ていた。
また、テレーズがやって来てから、政務から離されたかたちになっていたアネルザには、情報は集まって来なかった。
覆そうにも、二大公爵は敵だし、主な大貴族や高級官吏を抑えられ、完全に歯が立たなかった。
さらに、ルードルフの変心……。
少し前までは、アネルザの言いなりだったルードルフだが、最近は人変わりしたみたいに機嫌が悪く、アネルザが罵声を浴びせると、逆に不機嫌そうに、言い返したりもしてきた。
そんなことは、いままでなかっただけに、アネルザもびっくりしたものだ。
それだけでなく、いやな噂もある。
まさかとは思うのだが、ルードルフはこのところ、自分に近づく侍女の令嬢を無慈悲に強姦するのが、性癖の発散の流行りだというのだ。
色々と変態趣味の甚だしい男だったが、凌辱趣味は問題がありすぎる。数名の貴族家がアネルザに泣いて訴えてきたときには、愕然としてしまったものだ。
信じられなかったが、すぐに調べるということで、なんとか取りなした。
とにかく大変だった。
その真偽を問い詰めたのも、アネルザとルードルフが決定的に対立して、大喧嘩をした原因だ。
「王妃が陛下を馬鹿呼ばわりしたことは、しっかりと王陛下に伝えておくわ」
テレーズがアネルザを小馬鹿にしたように笑った。
その横でサキはにこにことしている。
「牢内では退屈したくないね、サキ。うまい食事と酒くらいはあるんだろうね」
「すでに運び込ませてある。それだけじゃなく、すぐに酒飲み相手も届ける。酒の強いお前の相手ができるドワフ族の女をな」
サキが言った。
ドワフ族というのがミランダのことだというのはわかった。
「ミランダを?」
アネルザはちょっと困惑した。
「やると決めたら、わしは徹底的だ。ロウの女たちには、誰も彼も巻き込ませてもらう。一蓮托生じゃ。文句をいう女は全員捕縛する。なにもしないならともかく、邪魔する者は当たり前に捕える。ただ、あのドワフ女は、最初から捕縛すると決めていた。邪魔するに決まっているしのう」
サキが真顔になった。
テレーズが咳払いのような音をさせた。
「遊びは終わりよ、サキ。始めなさい──」
テレーズが静かに言った。
本来であれば、たかが女官長程度の分際で、王の寵姫であるサキに、そんな無礼な口をきくことはできないはずなのだ。
テレーズは伯爵位であるものの、サキは一応は遠国の王女の血を引いているという適当な肩書きを作ってる。
だが、国王を握っているテレーズは、すでに王宮ではやりたい放題のようだ。
周りの近衛兵も、王宮魔道師たちも、それを訝しむ様子はない。
「こいつらだと、移動紋を刻むには時間がかかるんだよ、テレーズ……」
サキがテレーズに微笑みかけた。
その表情は妖艶であり、同性でありながら、アネルザもどきりとするくらいだ。
本当に絶世の美女によく化けている。
「そろそろ、準備も整いそうだ。無駄話の時間は終わりだな、アネルザ……。すぐに、ドワフ女も送り込んでやろう」
サキが言った。
「そもそも、ミランダは王権不可侵の冒険者ギルドだよ。罪状はなんだい? なんの権限で捕縛するんだい?」
アネルザは言った。
「権限? 罪状? そんなものは、後で考える……。わしはややこしいことは知らん。いずれにせよ、お前に関わりない、アネルザ……。じゃあ、時間だ」
サキがアネルザににやりと微笑んでみせた。
また、テレーズがアネルザの前に出てくる。
「そうそう……。それから、もうひとつ……。国王陛下から王妃殿下にご指示があるわ……。裁判については、王妃殿下の出席は不要──。だから、王妃はなんの心配もなく、気楽に過ごせとのことよ」
テレーズが言った。
「はあ──? まさか、欠席裁判でこのわたしを裁くつもりかい──?」
アネルザは鼻白んだ。
「では、王妃殿下、愉しい牢獄生活の日々をな……」
サキがわざとらしく優雅な素振りで頭をさげる。
その横ではテレーズが満足そうに微笑み続けていた。
アネルザの座っている椅子の下に刻まれている転送紋が光り出したのがわかった。
身体が軽く捻られるような感覚が襲う。
次の瞬間、アネルザは自分が高い塔の最上階の牢の中に移動したことがわかった。
女囚として。
下着姿のまま……。
そして、牢内を見ると、広い囚人の牢の一角を占めている大量の酒の入った木箱があった……。保存のきく干し肉や干し魚も……。家具や調度品はとりあえず一揃いしてある。
ただ、衣装棚のようなものもあるが、戸が開いていて空っぽであり、一見して、着るものが置いてない。
あいつ……。
アネルザは苦笑した。