【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
昼過ぎになり、アネルザたちと別れて宮廷に戻った。
いつもの離宮に入る。
どっと疲労が襲った。
本当に疲れた。
すると、すぐにテレーズがやって来た。
テレーズにつけている
やはり、サキの行動を監視していたのだろう。
「うまくいったようね、サキ……。あなたに持たせた盗聴用の魔道具を通じて、四人の会話は聞いていたわ。想定していないこともあったけど、概ねこっちの手のひらの上よ。うまくまとめてくれたわ。ああいうのは、ばらばらに動かれると、かえって面倒なのよね。むしろ。ひとつになってくれると、対処しやすいのよ」
テレーズが応接用の椅子に勝手に腰かける。
スカンダは、いつものように、にこにこして、テレーズの横に立っている。
サキは、テレーズの向かい側の椅子に座っていた。
「スカンダ、テレーズに侍る任を解く。わしのところに戻れ。そして、次の指示を待て」
サキはスカンダに声をかけた。
「あい、サキ様」
スカンダが元気よく返事をして、ちょこまかと歩いてくる。
「あら、お別れなの? 寂しくなるわねえ。それに、とっても便利だったのに」
「話を聞いていたのだろうが。アネルザをノールの離宮に送る。お前の言う通りにしたぞ。だから、このスカンダをアネルザにつけるのだ。お前については、この宮殿を出ないのであろう。必要あるまい」
「でも、可愛いのよう。とっても素直でいい子で……。誰かさんとは大違い。じゃあ、またね、スカンダちゃん。今度、また、お菓子を準備しておくわね」
テレーズがにこにこ微笑んだ。
「あい、テレーズ様、ありがとうございました。それと、お菓子、とってもおいしかったです」
スカンダがサキの横で振り返り、テレーズに向かって大きく頭をさげる。
そして、すっと姿を消した。
サキが仮想空間に、スカンダを隠したのだ。
「とにかく、よくやってくれたわ。アネルザは途中で、今回の陰謀の相手を確信したような様子だったけど、あなたがうまく誘導して暗示をかけてくれたので、一時的に関心を消してくれたようだったわね」
「ふん……。いまは、お前の手の内かもしれんが、あいつらは、一筋縄ではいかん女傑どもだ。そうそう、お前の思うままにはいかんぞ。いずれ、お前がタリオの犬であることは、すぐに勘付く」
「いいのよ。時間がすぎてから気がついたとしても、王都から離れてしまえば、なにもできないじゃない。いずれにしても、アネルザは、わたしの闇魔道にはかからないから面倒なのよね。いなくなってくれた方が、わしが王宮で動きやすいわ」
「す、好き勝手してくれおって……。あんな風に脅さんでも、ちゃんと話を誘導してやった」
サキは舌打ちした。
「ふふふ、ごめんなさいね。だけど、声だけだけど、ちょっと途中から愉しくなっちゃってね。だって、わたしが話題を変えろと盗聴具の振動で伝えるたびに、声が上ずるんだもの。よく気がつかれなかったわね」
テレーズがころころと笑った。
「貴様……」
サキはテレーズを睨みつけた。
だが、すでに慣れたものであり、サキが殺気を向けても平然としている。
はらわたが煮えるのをぐっと我慢する。
「とにかく、あれで十分よ。ミランダは、放っておいてもいいわ。さっきの話によれば、彼女がやるのは流言によるルードルフの悪評の拡大なのね。それは、わたしが望むことでもあるので、どんどんとやってもらいましょう。それに、彼女は国同士の陰謀なんか得手じゃないでしょう。自由にさせておいても、そんなに怖くないわ」
「あの水に混ぜた魔道薬は、どのくらいの効き目なのだ? 本当に危険なものじゃないのだな?」
サキは言った。
水というのは、義姉妹の盃と称して、三人に飲ませた水に混ざっていた魔道薬のことだ。テレーズに事前に手渡されたものであり、サキが集めた会合のときに、三人に飲ませるように「命令」されていた。
だから、義姉妹の水盃と称して、自然なかたちで三人に飲ませた。
テレーズに事前に教えられたのは、あれを飲めば、しばらくのあいだ、暗示にかかりやすくなり、あまり人の言葉を疑わなくなる効果があるということだ。
確かに、あれを飲ませてから、四人の打ち合わせは、サキの提案の通りになり、残りの三人はほとんど意義を唱えなかった。
まあ、サキの提案とはいっても、テレーズに指示を受けた内容のものであり、その意味では、サキを含めた四人は、ずっとテレーズの手のひらで踊っているだけと言えないこともない。
「あなたに説明したとおりよ。魔法薬の効果は非常に限定的。数日もすれば、きれいさっぱりと効果も消えるわ。だって、あんまり効果が強いものだと、アネルザとミランダはともかく、スクルズが気がつきそうだったもの。実際、ひやひやしていたけど、彼女はなにもわからなかったみたいね。あなたの身体の中の魔道の盗聴具の存在もね」
テレーズはくすくす笑った。
サキは歯軋りするほどに、歯を噛みしめた。
だが、テレーズの言葉には、嘘はないのだろう。
サキから見ても、あの魔道薬は、ほんの少し他人の言葉を信用しやすくなるくらいで、大したものじゃない。
だから、テレーズに命じられており、サキには逆らうことはできないとしても、三人を騙して口にさせることに、あまり、罪悪感は覚えなかった。
そして、効果も確認した。
あれを飲んだ直後、アネルザはあのとき、タリオの関与の可能性について発言しようとしていたと思うが、サキが「問題ない。任せよ」という言葉を挟むと、それ以上の思考をやめて、タリオのことを頭から消してしまった。
「それに、気がついてもいいのよ……。動かなければ……。わたしも驚いたけど、あの三人は、わたしが闇魔道でこの国の王宮を支配していることを知っても、どうでもよさそうだったわね。それよりも、騒動を拡大して、ルードルフを排除する方向に傾いたじゃない。あれなら、わたしが命じられていることに合致するから、魔道薬を飲ませるというような小細工はいらなかったかもね」
「お前がタリオの犬だということを知られても構わんということか?」
「タリオって?」
テレーズが笑った。
この女は、これだけあからさまにしながら、絶対に自分の口からは、タリオの間者であることを発言しない。
おそらく、それを禁止されているからなのであろうが、しかし、それを仄めかしたり、サキの言葉を否定しないというような言葉遊びはする。
これもテレーズの遊戯のようなものなのかもしれない。
自分を「命令」に逆らえない「犬」だと自嘲し、いまでも指示を受け続けているとはいうが、それが誰であるかは具体的には言わない。
サキが相手を口にすれば、否定しないことで肯定するのみだ。
おそらく、口には出せないように、命令を受けているのだろう。
「お前の飼い主だ」
サキははっきりと言った。
「……まあ、困るのは、それを確信して、外交問題としてわたしの飼い主の国に抗議されることよ。そうすれば、向こうは謀略などなかったと白を切り、わたしは消されるわ。この死の呪術ですぐにね。わたしが怖れているのはそれよ……。ねえ、リュンネガルト?」
テレーズが顔に冷笑を受かべる。
サキはかっとなった。
「い、いつまでも、わしを愚弄すると……」
「愚弄してなどいないわ。あなたは、わたしの永遠の奴隷……。わたしが、死の呪術で殺されれば、あなたも後を追わないとならない。それを教えてあげているのよ──」
テレーズがサキを睨み返してきた。
「……アネルザはこっちで抑える。迂闊に動きそうなのは、あれだけだ。こっちの宮廷は、お前が支配に置いておるのだろう?」
サキは、言いたいことをぐっと我慢して、それだけを言った。
「そういうことね。じゃあ、いい子ちゃんのサキには、そろそろ盗聴具を抜く命令を与えてあげましょうか? それとも、気に入った?」
「首を捩じり抜くぞ──。ギルドでも、監獄塔でも、いちいち会話の途中でちょっかいをかけてきおって──。わしをあんまり愚弄せんことだ──。お前など、ほんの一瞬で殺せるのだぞ──」
テレーズの小馬鹿にしたような物言いに、ついに激昂してしまって、サキは怒鳴った。
立ちあがって、サキの首に手を伸ばしかける。
だが、それ以上は身体が動かない。
真名で支配されている魔族の本能が、サキの行動を阻むのだ。
サキは硬直したまま、呻いてしまった。
「だけど、真名で支配されて、言いなりになるしかない……。そうでしょう、サキちゃん?」
テレーズは冷笑的に顔を歪めた。
サキは不機嫌を隠すことができずに鼻を鳴らした。
大きく深呼吸をして、気を落ち着かせえる努力をして、座り直す。
まったく、本当に忌々しい。
「あのとき、油断さえしなければ……。お前が真名を唱える前に、首をもいでおけばよかった……」
「そうね。呑気に酒を飲んだり、食事をしたりすることなく……。いえ、魔毒殺しを飲んで能力がなくなっていたとしても、それに気がついていれば、あなたは、その腕でわたしを殺せたわね。残念だったわねえ」
テレーズが勝ち誇ったように言った。
サキはぎりぎりと歯を噛んだ。
とにかく、この妖魔将軍のサキともあろうものが、目の前の人間族に唯々諾々と従い、こそこそと仲間を裏切るようなことをさせられて、思考を宣言するような魔道薬を服用させ、こいつのくだらない謀略の片棒を担がされるなど屈辱だ。
だが、この女に真名を握られている以上、サキには逆らう方法がない。
すべては、あの食事のときに、すっかりと油断しきってしまったからだ。
目の前の女など、まったく武芸も使えず、闇魔道の遣い手とはいえ、せいぜい感情を動かす程度であり、操り術というのもおこがましいほどの能力しか持たない小者だ。
いつでも殺せるし、どうにでもなると思った。
まさか、真名を読み取られてしまうとは……。
「いずれにしても、あなたたちの一連の話し合いは、わたしの満足の範囲内だったわ。話し合われたことも概ね想定内だったし……。これで、もう少しルードルフを使って、この王都を賑やかにすることができそうね。アネルザも、わたしを泳がせることに同意したしね。よくやったわ、サキ」
「やかましい──」
サキは怒鳴った。
とにかく、この人間族の思惑に従って、人形のように動くしかないというのは、不本意だ。
ただ、納得はしている。
このテレーズと最初のときに話したときに、このテレーズは、サキを説得し、テレーズがやろうとしている騒動は、ロウをこの国の支配者にするための企てと合致するのではないかと諭した。
テレーズは、自分に隷属の紋様を刻んでいるタリオの男の命令に従い、タリオの利益になる謀略をさせられているが、考え方によっては、いまの国王のルードルフを悪評で引きずり落して、殺すか退位させるというのは、悪いものではない。
この人間族の掟では、ルードルフが死ぬか、退位すれば、王太女のイザベラが後継者と決まっているので、イザベラを支配するロウが必然的に、この国の支配者ということになる。
ロウが本来、あるべき地位に就くということであり、確かに、サキにとっては望ましいことだと思った。
いや、むしろ、そうなるべきだと強く思った。
まずは、この国を荒させて、ルードルフの悪評を高め、ルードルフが王として廃される状況を作る──。
テレーズは、それが飼い主から命じられていることなのだから、サキも協力し、その後で、ロウを王にでも、なんでもすればいいと説明したのだ。
テレーズは、自分が命じられていることを包み隠さずに喋り、「ロウを失脚させろ」とは命じられたが、「王にするな」とは命じられていないとはっきりと明言した。
テレーズがやるのは、ルードルフの悪評を起こすこと、ハロンドールを荒させること、そして、ロウの失脚であり、それ以上でもそれ以下でもないと……。
テレーズの任務が変化しない限り、テレーズはロウが台頭することについては、一切邪魔はしないそうだ。
むしろ、失脚したロウが台頭することは、この国が荒れることに通じるので、望むところということだった。
まあ、もちろん、それは、テレーズを動かしているタリオの指示が変化しないことが前提となる。
タリオの指示が変化すれば、テレーズはロウに直接的な危害を加えるように工作をするかもしれないし、ロウの女たちに手を掛ける工作をするかもしれない。
しかし、それは、「いま」ではないのだ──。
「とにかく、わたしが命じられているのは、この国の宮殿を大いに賑やかにすることよ。あの王を使ってね……。その邪魔をされなければいいの……。わたしは人形よ……。指示に従うしかないね……」
テレーズが服の上から自分の胸に触れた。
それが意味するものは、すでに察している。
サキは鼻を鳴らした。
だが、テレーズは気がついているだろうか……?
テレーズは、真名を支配することで、サキを支配しているつもりだろうが、サキはロウに対しても、真名で支配を受けている。
従属しているのだ。
真名を支配しているテレーズに、サキが逆らえず、その不利益になる行動ができないのと同様に、ロウに対しても、サキは命令には逆らえないし、不利益になることはできない。
いまは、テレーズのやることが、ロウの利益に通じると確信しているので、サキもふたりの「主人」に矛盾なく仕えることができる。
だが、ロウの支配は、テレーズに対するものに比べれば、限りなく強い。
もしも、テレーズがロウを完全に不利益に陥れる行動を取りだしたら……。
いずれにせよ、テレーズにはまったく教えてはいないが、ラポルタという雌妖を動かしている。
まだ時間がかかりそうだが、いまのところ、ラポルタは上手くやっている。
準備が完全に整えば……。
「いずれにしても、あなたには期待しているわね、サキ……」
テレーズが意味ありげに言った。
「前にも訊ねたが、最終的に、
「乗らざるを得なかったんでしょう、哀れな魔族ちゃん……。それは、何度も説明した通りよ。わたしは任務通りにするだけよ……。じゃあ。盗聴具を取りださせてあげるわ。立ってスカートを捲りなさい」
テレーズが口元に小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。
ぐっとサキは歯噛みした。
しかし、サキの身体は、ほとんどサキの意識もなしに立ちあがり、テレーズの前に進み出て、両手で大きくスカートをたくし上げる。
真名を支配している相手の明確な意思と認識した言葉には、サキは逆らえない。それは魔族であるサキの血に流れている本能なのだ。
サキは完全にスカートをたくしあげて、白い下着を露出させた。
しかも、軽く脚さえ拡げている。
そうするのが、テレーズの望みとわかっているからだ。
魔族に対する真名の支配は、人族が使うような「隷属」魔道とは異なる。もっと本質的なものだ。
だから、言葉以上のものを察して、行動に移す。
テレーズがしているような、言葉遊びをしながら、ぎりぎりの命令のみしかやらないということは不可能だ。
それが魔族の従属だ。
「あら、軽く欲情してた? けっこう濡れているわよ。どうでもいいけど、今度から、こういうときには、下着は黒にしたら? 染みが目立つわよ」
テレーズがサキの下着を見て小さく笑った。
わざわざ自分で確認する必要もなく、濡れているのはわかる。
「う、うるさい──。しゅ、主殿が白が好きなのだ。ほかの色のものはない──。い、いや、そんなこと、お前に関係あるまい──」
サキは大きな声をあげた。
恥辱で顔が赤くなるのがわかる。
「可愛らしいことを言うのね……」
テレーズが言った。
しかも、ちょっと笑ったみたいな口調だった。
サキはむっとした。
「どうでもよかろう──」
「そりゃあ、そうね……。じゃあ、とりあえず、下着を外すわよ」
テレーズが手を伸ばして、無造作に下着の紐を解いてサキから下着を取り去る。サキがはいていたのは、ロウが贈ってくれた、腰の横で紐で結んでとめる形式の小さな下着だ。
それ以外の下着をサキは持っていない。ロウに気に入られたいので、すべての下着をそれとそっくりに作った。
サキから下着を外したテレーズがくすりと笑う。
「前も見たけど、あんたのような魔族の女が股の毛をつるつるに剃られているなんて、扇情的よねえ。本当に綺麗な性器だし」
「く、くだらんことを喋るな、人間――」
サキはスカートをたくしあげたまま怒鳴った。
しかし、テレーズはサキの股間をじっと観察する態度をやめない。
おそらく、サキが怒るのを愉しんでいるのだろう。
本当に忌々しい。
「ふふふ、それに、やっぱり濡れているわねえ……。というよりは、かなり汁が多いのね……。それとも、ちょっと刺激が強かった? 魔族って感じやすいの?」
テレーズがからかうように言った。
サキはかっとなった。
「主殿から敏感な身体に調教されておるのだ。やかましい――」
すると、テレーズが声を出して笑う。
それで、またもや腹がたつ。
「だったら、悪かったわね。だけど、この場所は都合がいいのよ。あなたにもわかるだろうけど、この場所は、ロウ卿の強い魔道が掛かっているから、ほかのどんな場所よりも保護されているので、ほかの場所に隠させるよりも、探知されないのよね。だから、あの魔道力の強いスクルズでさえも、こんなに近くにある魔道具の存在に気がつかなかったようだしね」
「余計なことを喋るなと言っとるだろうが──。は、早く、外に出す命令を出さんか──」
サキは怒りが沸いて怒鳴りあげた。
実のところ、このテレーズには、股間の中に小さな卵型の盗聴魔道具を仕掛けられている。
しかも、遠隔の振動機能付きのだ。
それで、ミランダの捕縛のときや、監獄塔での話し合いのあいだ、ずっと苛まれてきたのだ。
つまり、テレーズは、この盗聴具を通じて、サキたちの会話を耳にしつつ、遠隔の振動で合図を送ったりしていたということだ。
思い出すと、その屈辱が甦る。
「ふふふ、頭に血が昇ってるのね? この盗聴の魔道具で一度いっとく? 特別に絶頂させてあげましょうか?」
テレーズが笑った。
サキは怒りで頭が沸騰した。