【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
心の隙間に怒りと苛立ちが沸いては弾け、弾けては沸く。
そんな不快な感情にずっとつきまとわれている。
原因不明の軽い頭の痛さ……。
なにもかも面白くなかった。
ここは、後宮に準備されているルードルフのための一室だ。
珍しくもひとりだ。
今日はテレーズは不在だ。
侍女たちは、呼ばないと姿は見せない。いや、呼び出したところで、姿を見ることは少ない。とにかく、侍女たちは逃げ回っている。
しかも、それを誰か手助けしている者もいる。
ルードルフの命令に反してだ──。
いつの間にか、そんな風になったのだ。
以前からいた貴族令嬢の侍女は気がつくといなくなり、見知らぬ顔の侍女が交代で出入りするようになっていたのは、いつ頃からだったろうか……?
そして、思い出した。
ルードルフの股間が突然に勃起しなくなり、後宮の女妾たちと遊べなくなった時期だった気がする。
どうも、このところ、記憶が曖昧だ。
不能の理由はわからない。
すぐに王宮の医師を呼びつけて調べさせたが、なにもわからなかった。
ただ、その医師は、いい機会なので、しばらくは女遊びを自重すべきと言っただけだった。
ルードルフは、すぐに、その役立たずの宮廷医師を罷免して、王宮から追い出した。
いずれにしても、とにかく、性欲を発散できないということに、ルードルフは、悩み、苦しみ、もがき抜いた。
だが、なにをやっても駄目だった。
どうしても、一物が勃起しないのだ。
ルードルフは途方に暮れた。
そういえば、その頃からルードルフの頭痛が始まった気がする。
常に気分が優れず、苛々にまとわりつかれるようになった。
周囲に侍る者が気に入らなくなり、込みあがる怒りのままに、誰も彼もに怒鳴り散らした。
そうやっているうちに、誰もルードルフに寄って来なくなった。
ああ、以前からいた侍女たちが姿を消すようになったのも、やっぱり、その頃からだ。
いや、これはさっきも同じことを思ったか?
どうも、記憶が曖昧で、思念も乱れている。
いずれにしても、女を抱くことができないというのは、ルードルフとしては一大事だった。
後宮に集めていた女妾、女奴隷、男娼……。
片っ端から呼び出して奉仕させた。
だが、誰ひとりとして、ルードルフの男根をぴくりとも動かすことはできなかった。
腹がたったので、全員を身ひとつで追い出してやった。
そいつらが、どうなったのか、いまだに知らない。
とにかく、どうしていいのかわからなかった。
性欲はあるのに、勃起しないのだ。
だが、それを助けてくれたのがテレーズだ。
テレーズは、二箇月近く前に、領地からやってきた女官長であり、ルードルフの命令を大臣や官吏に伝える仕事をさせていた。
侍女や後宮の管理もだ。
なかなかにいい女であり、何度も抱いたが、ルードルフの一物が調子が悪くなり、股間が勃起しなくなったために抱くのをやめざるを得なかった。
そうでなければ、ずっと抱き重ねていたいような女だ。
そして、ルードルフの股間が勃起できなくなったことに対して、解決策を教えてくれたのが、そのテレーズだったのだ。
テレーズは、調子のよくないルードルフに、合意のもとによる性交だけじゃなく、女の意思に反して犯す性交もあると囁いた。
言われた通りにしてみることにした。
女官長のテレーズの名を借り、適当な若い侍女を個室に呼び出し、睡眠香で眠らせてから、全裸に剥いて寝台に括りつけてから凌辱したのだ。
あれはよかった。
ありがたいことに、ルードルフの股間が勃起し、ついに性欲を満たすことができたのだ。
歓喜の瞬間だった。
そうだ。
あの相手は、たまたま新しい侍女としてやってきたトミア家のユファーという娘だったか……。婚約者とやらの男の名を繰り返しに叫んでいた。
朝から始めて一日中抱き、さらに翌朝まで抱き続けたところで、なにをしても反応がなくなったので解放してやった。
まるで、廃人になったように、動かなくなったのだ。
寝室から追い出したあとは、気にしなかった。テレーズが幾らかの財とともに、娘を実家に送り返したと説明しにきたが、「そうか」と応じただけだった。
いずれにせよ、毀れたのは惜しいことをしたと思ったが、代わりの娘はいくらでもいる。
しかも、テレーズが手配をして、ほかにも、若くて無垢な令嬢を侍女として集めてくれたみたいだった。
ルードルフのテレーズに対する信頼は、揺るぎのないものになった。
とにかく、凌辱をして、泣き叫ぶ女であれば、勃起するということがわかったので、積極的にそれをすることにした。
ルードルフは満たされた……。
だが、その幸福も束の間だった。
連続した三日間に、ひとりずつ犯し抜いていったところで、四日目からは侍女たちが逃げ回り、なかなか捕まえることができなくなったのだ。
しかも、ルードルフの護衛をしている長の者が、生意気にもルードルフの行いをたしなめるような物言いで諫め、それだけでなく、ルードルフが侍女を喰うのを邪魔するように行動し、ルードルフが下級貴族の令嬢の侍女を犯そうとすると、幾度か直接的に阻止して逃がしたということをしたりした。
激怒のあまり血が噴き出すかと思ったが、その騎士は、女が無慈悲に犯されるのを見逃すことは騎士としてできないと、厚かましくも主張した。
なんという男だと腹がたったから、鞭打ちをして追い出すように命令をし、その場で罷免した。
だが、翌日のことだったと思う。
たまたま窓から見ていたら、その騎士が平然と王宮の庭を歩いているのを目撃してしまったのだ。
激しい怒りに包まれた。
つまりは、ルードルフの命令にも関わらず、その護衛は鞭打ちもされず、罷免にもならず、ただルードルフの前から離されただけで、終わってしまったということなのだ。
誰の差配なのかわからないが、明らかにルードルフが軽んじられているという証拠だった。
ルードルフは生まれて初めてかもしれないほどの憤りに包まれた。
そのときには、テレーズが横にいたのだが、彼女がなにかを喋ったと思う。
いまにして考えても、そのときも、なにを言われたのか覚えていないのだが、ルードルフが激しい怒りに我を忘れ、心が激情に支配されたことだけは辛うじて記憶にある。
ルードルフは近衛隊の指揮官を呼び出した。
護衛騎士の処分命令に従わなかったことを叱責した。
だが、近衛隊長は、なんのことかわからないという態度であり、調査をするので時間をくれという態度をとった。
ルードルフは、自分が愚鈍であるつもりはない。
近衛隊長が、ただこの場を誤魔化すためだけに、のらりくらりとルードルフの怒りをかわそうとしているということはわかった。
結局のところ、その場はそれで終わったが、あまりに口惜しかったので、侍女を抱いて発散しようと思った。
ところが、そんなときに限って、侍女が近くにいない。
侍女の待機室にまで出向くが、そこにもいない。
しかし、身の周りのことについては、最小限度のものは整えられるので、いることはいるのだろう。
どうやら、逃げ回っているということもわかってきた。
テレーズを呼んだ。
姿を見せたテレーズに、侍女を犯すから、誰でもいいから連れて来いと厳命した。
ルードルフに従わない王宮の中で、唯一、ルードルフの味方であるのがテレーズだ。
そのときも、テレーズは娘を連れてきた。
王家に伝わる薬物で朦朧とさせ、ルードルフは心いくまで、その若い娘を犯した。身体は弛緩させても、意識だけはしっかりと保つ薬物を使ったので、この娘もルードルフに犯されながら、ひたすらに泣き叫び続けた。
行為の最中に訊ねたが、なんと十四歳だということがわかった。侍女でもなく、女官の見習いとのことだった。
だが、その娘は翌朝にはいなくなったみたいだ。
また、ルードルフは、家臣たちに自分の命令に従わせる、実にいい方法を思いついた。性欲を満たすのにも役に立ちそうだった。
王宮内の王家の宝物庫だ。
そこには、目の前にいる相手の心を従わせ、盲目的に従属をさせる隷属具があったことを思い出したのだ。
それを使えばいいとわかった。
試しに、それを持って、後宮から官吏たちのいる正殿に向かい、侍女になるような若い娘のいる貴族たちを呼び出させ、娘を侍女として出仕させるように命令をしてみた。
対象の娘に直接使わなかったのは、凌辱でなければ勃起しないといことがわかっていたからだ。
貴族たちは、隷属の宝物に影響により、その翌日には娘を侍女として出仕させてきた。姿を見なくなった娘も何人か戻ってきた。
しかも、娘たちは因果を含められているらしく、侍女の役目から逃げだすということがなかった。
もっと早く隷属の宝物のことを思い出せばよかったと思った。
テレーズに教えると、あのなんでもわかっているような女が、そのときに限っては、驚いたように目を見開いていた。
隷属の宝物など、初めて接したのかもしれない。
ちょっとだけ、小気味よかった。
さらに、これを使うことで、さらに解決したことがある。
忘れていたが、大切な娘をぼろぼろにしたと言って、侍女で最初に犯したユファーの父親のトミア子爵が怒鳴り込んできたのだ。
誰がルードルフの前まで来ることを許したかわからないのだが、宮廷までやって来た子爵が思い詰めたように、ルードルフを詰問してきたのだ。
ルードルフは近臣たちによって、無理矢理に面談室で会わされた。トミア子爵は、テレーズが渡したという財宝も返して寄越してきた。
面倒なので、隸属の宝具で黙らせた。
ルードルフに、トミア子爵との面談を強要した無礼な近臣もだ。
トミアは笑って立ち去った。
簡単なものだ。
しかも、これで令嬢たちに、なにをやっても、なんとかなるということもわかったし、性欲のことも安泰だと思った。
だが、またもや問題が発生した。
アネルザだ。
王妃のアネルザがうるさくつきまとうようになったのだ。
ロウ=ボルグのことを激しく怒ってきた。また、イザベラとアンのこともだ。
最初に言われたときには、両方とも誰のことかすぐにはわからなかったが、だんだんと、イザベラというのが王太女のことであり、ロウというのは、それを孕ませた冒険者のことだと思い出した。いや、子爵か……?
まあいい……。
いまもそうなのだが、股間がうまく勃起しなくなった頃から、ルードルフは極度の物覚えの悪さにも悩まされるようにもなっていた。
そういえば、テレーズになにかをささやかれて、大きな怒りが沸き、ふたりに関して、なにかを命令した気がする。
でも、覚えていなかった。
記憶のないことで、罵られるのは愉しいことではなかった。
懐に入れていた隸属の宝具を使おうとしたが、なぜかアネルザには効果がなかった、
仕方なく、その場は追い返すだけにした。
しかし、アネルザはその翌日も来た。
また、隸属の宝具を作動させたが、やはり効かなかった。
結局、怒鳴って追い返すしかなかった。
また、その翌日にもやって来た。
ルードルフは閉口した。
それでいて、なぜか、アネルザには逆らえないという気持ちはあった。
隸属の宝具も効果がないし、どう対処すべきかわからなかった。
とにかく、追い返すだけで済ませた。
一方で、せっかく令嬢たちが戻ってきたのに、なかなか捕まらないということが、何日も連続した。
隸属の宝具を使えば簡単なのだが、それだと凌辱にならない。あれは、完全に相手を言いなりにする道具だからだ。
とにかく、そんな日々が数日続いた。
ところが、テレーズから、ルードルフが侍女を抱けないのは、アネルザが手を回して邪魔をしているからだと教えられた。
唖然とした。
その瞬間に、心にあったアネルザに逆らってはならないという感情が消え去った。
憎い──。
憎い──。
ルードルフを邪魔するアネルザが憎い……。
その心に支配された。
すると、テレーズが実にいいことを提案してきた。
アネルザを捕縛して、監獄塔に押し込めておけばいいというのだ。
ルードルフはその場で、テレーズにそれを実行するように指示した。
そういえば、タリオ大公のアーサーから、魔石通信が来たのも、アネルザの捕縛を指示した日の前後だった。
イザベラを妃としたいというのだ。
それだけでなく、アンのことも引き取ってもいいと言う。腹心の部下をアンの夫として準備するということだった。
しかも、イザベラについては、王太女なので、タリオに嫁ぐのではなく、形式上の夫婦ということで、年に数回往復するだけの形式婚を打診してきたのだ。
イザベラの腹の子も、アーサーの子として認知するとのことだった。
断る理由は少なかったが、すでにアーサーには、第二王女のエルザが嫁いでいる。
大公だから、アーサーが妻をひとりに限る必要はないが、ハロンドール王国がふたりの王女を同じアーサーに嫁がせるということは、明らかにハロンドールが格下に置かれた立場になる。
それについては、問題があった。
だが、アーサーはすぐに、その解決策を申し出てきた。
熟考をしていると、アーサーがいきのいい女騎士を五人ほど、性奴隷として贈ると言ってきた。
ルードルフは、アーサーの申し出を受け入れることにした。
ただし、性奴隷ではなく、なにかの理由をつけて、使者として送れと伝えた。
それを強引に犯すのだ。
アーサーはその条件を受け入れた。
これで、すべての問題が解決すると思った。
隷属の宝物に支配された父親から送り込まれた令嬢の侍女のひとりを捕まえることにも成功した。
そして、いよいよ犯そうと思ったら、またもや勃起しなかった。
愕然とした。
結局、そのときはうまくいかず、令嬢を放り出すしかなかった。
半裸で泣きじゃくりながら出ていく娘を送り出しながら、ルードルフはテレーズを呼んだ。
ルードルフのことを理解し、いつもなんとかしてくれようと頑張ってくれるのは、テレーズだけなのだ。
テレーズは慰めてくれたが、さすがにテレーズも、いい考えはなさそうだった。
ルードルフは、勃起できなかった股間に呆然となったまま、苛立ちの感情のまま眠るしかなかった。
どうやら、ルードルフは女を犯すことができなくなったようだ。
試しに、翌日に、別の侍女の令嬢で試したが、やはり勃起しなかった。
そして、さらに気分の悪い感情に襲われる日々が始まった。
今朝もそうだ。
とにかく、ルードルフは、得体の知れない吐気にも似た気持ちの悪さの中をずっと漂っていた。
特に、今日は気分が悪い。
とにかく、まずは目覚めが最低だった。
おそらく、なにかの悪夢でも見たのだと思うが、目が醒めるとその内容は消えていた。
ただ、理由のわからない憤怒と憎悪がルードルフを包んでいた。
次に、ルードルフが目覚めたにもかかわらず、すぐに持ってくるはずの洗面用の湯と布が今朝に限って、すぐには運ばれてこなかった。
呼び鈴を鳴らすことでやっと、国王付きの侍女がきた。
しかも、三人だ。
だいぶ前からそうなのだが、侍女たちは、大抵は決してひとりではなく、ほとんど三人、四人と連れだって行動してくる。
それが苛つきを拡大する。
ルードルフは罵声を浴びせ、呼び鈴の鈴をひとりの侍女の顔に投げつけた。
若い侍女の額が割れ、真っ赤な血が流れて、その侍女が泣き声をあげた。
その赤い血も喚き声も気に入らなかった。
護衛のひとりが怪我をした侍女を部屋の外に連れ出した。
だが、そのとき、不思議なこともあった。
股間にむず痒いような疼きが走ったような気がしたのだ。
ルードルフは、ただ首を傾げた。
それが今朝だ。
そして、簡単な食事のあと、ルードルフはこの部屋でずっと過ごしていた。
「陛下、昼食の時間です。別室に整えております」
護衛のひとりが声をかけてきた。
ルードルフは、頭痛と吐き気に耐えて、その別室とやらに向かった。
部屋には侍女がふたりいた。朝の三人とは別の娘だ。給仕をするのだろうが、怯えて部屋の壁際に立って震えている。
全く不愉快だ。
そして、昼食が最低だった。
パンは練りが足りないのか柔らかくなく、野菜にはどことなく瑞々しさが足りないように感じ、野菜と肉を溶かした汁にはほんのちょっぴりだが塩味の加減がいつもと異なっていた。
とにかく、このところずっと、ルードルフの逆鱗に触れるような些細な出来事が続いている。
まるで、ルードルフの気分を悪くするために、周りの者が動き回っているかのようだった。
どうして、こんなに苛立つのかわからないが、我慢できないことばかりが繰り返されていた。
そのたびに、ルードルフは怒りのまま、怒鳴りつけ、あるいは物を投げ、ときには鞭打ったりした。
とにかく、なにをやっても気分が優れない。
侍女を見るのも不愉快になってきた。
犯せるならまだしも、凌辱をしようとしてさえも、勃起しないのだ。
ルードルフの苛つきは沸点に達していた。
不快の原因もわかっている。
女を犯していないからだ。
とにかく、精を放っていない。
おそらく、ルードルフを苦しめている苦悶はそれだけだ。それですべてが解決することはわかっている。
だが、できない。
犯せないとなれば、女を見るだけでも不愉快が増大する気がした。
目の前には、ふたりの侍女だ。
身体を震わせて、ルードルフを怖がるように顔を伏せている。
ルードルフは、理由のない怒りに包まれた。
「それにしても、不味い飯だ。余を愚弄するのもほどがあろう──」
ルードルフは癇癪のまま、テーブルの上にあった朝食を侍女たちに向かって打ち払った、
「きゃあああ」
「いやああっ」
ふたりの侍女に熱いスープがかかり、侍女たちが悲鳴をあげた。
侍女たちがお互いに身体を抱えるように、その場にうずくまる。
そのときだった。
どくんと、股間に血が流れるのがわかった。
熱い……。
股間が……。
もしかして……。
いや、これは……。
完全ではないが、半勃ちというところだ。
ルードルフは、驚きで声をあげそうになった。
いや、これは勃ちかけている。
間違いない……。
侍女の悲鳴を聞いたから……?
だが、可能性がある。
つい先日までは、凌辱をすることで女たちを抱けたのだ。
なぜ、再び勃起できなくなったのかはわからないが、残酷に抱くことで性欲を発散できるのであれば、あるいは、もっと残虐な行為をやれば、性欲が満ち満ちて、勃起できるのかも……。
やってみる価値はあるか……。
いや、むしろ、なぜそれに思い至らなかったのか……。
「そのふたりを懲罰室に連れて行って吊るせ──。このような不味い食事を持ってきたことに、余が直々に罰を与える」
ルードルフは立ちあがった。
間違いない。
血がたぎっている。
股間が熱い……。
疼く……。
いける……。
いける──。
いけるぞ──。
やっとわかった。
凌辱ですら勃起ができなくなったのは、残酷さが不足していたからだ。
そんな簡単なことだったのだ。
「ひいいいっ、お、お許しを」
「お許しください、陛下──」
懲罰を申し渡した若い侍女ふたりが、お互いを抱き合ってしゃがんだまま、真っ蒼な顔をあげてルードルフに哀願してきた。
すると、股間が疼いた。やはりまだ半勃ちだが、さっきよりは固い……。
いける──。
本当にいける。
「陛下、それはちょっと……」
「お待ちください。その朝食は、その者たちとは関わりはありません」
そのとき、護衛たちが声をあげ、侍女たちを庇うようにあいだに割り込んできた。
またしても忌々しい。
ルードルフは、最近では肌身離さずに持っている隷属の宝具を服の上から握り、護衛たちに向けて術を放つ。
護衛たちの目が虚ろになり、魔道具に支配されたのがわかった。
これで、しばらくのあいだは、このふたりも、ルードルフに従う「犬」だ。
「命令に従え──。このふたりを懲罰室に連れていくのだ」
ルードルフは言った。
なお、懲罰室というのは、この後宮に作ってある遊戯のための部屋だ。
もともとは、ルードルフが女から辱めを受けて悦ぶための部屋だったが、最近では犯すために捕らえた女をそこで辱めるために使っていた。
そのとき、ルードルフをいい気持ちにしてくれていたふたりの若い寵姫のことをが頭に浮かびかけたが、すぐに霧に包まれるように、その記憶が消滅した。
「はっ」
「承知」
護衛たちは短い返事をして、恐怖で震えている侍女の手を取り、強引に立たせた。
悲鳴をあげる侍女を抱えるようにして、廊下に連れていく。
もちろん、向かうのは「懲罰室」だ。
ルードルフは、後ろからついていく。
「陛下──」
そのときだった。
廊下の前から、テレーズが近づいてくるのが見えた。
横には背の高い美しい女もいる。
背の高い女については、よく知っている気がするのだが、なぜかなにも思い出せない。
ルードルフは、目の前の美しい女を思い出せないことで、またもや不快な気持ちになった。
「テ、テレーズ様、お助けを──」
「サキ様、どうかお助けください。わたしたちは、なにもしてないのです。それなのに、陛下が懲罰をと──」
護衛に身体を捕まえられて歩かされている侍女が泣き声でテレーズたちに助けを求めた。
もうひとりの背の高い女は、サキという名前らしい。
しかし、それを知覚した途端に、その名は頭から消えてしまった。
「陛下、お待ちを……。その女たちをどうするのですか?」
テレーズが話かけてきた。
無視したかったが、ルードルフには、テレーズの言葉には、耳を傾けなければならなという思いが心に刻み込まれている気がする。
仕方なく立ちどまった。
「お前たちは、準備をしておけ」
ルードルフは胸の服の下にある隷属の宝具に触れながら、護衛たちに命令した。
護衛たちが泣き叫ぶ侍女をふたりが抱えるように連れていく。
「あの者たちが粗相を?」
女たちと護衛が去ると、テレーズが言った。
ルードルフは嘆息した。
早く、懲罰室に向かいたいのだが、テレーズの言葉には逆らってはならないのだ。
逸る気持ちを抑えて口を開く。
「別になにもない。ただ、余がそうしたいから、あのふたりに罰を与えるのだ。余のこれが元気になりそうでな」
ルードルフは笑って、股間を指さした。
ちょっとだけ固くなっている。
女の股間に挿入できるほどの勃起ではないが、久しぶりの血の猛りのような気もする。
「どうしたのだ? わしの願いを受け入れて、園遊会まで禁欲させてくれるのではなかったのか……?」
背の高い美女がテレーズにささやくのが聞こえた。
「その予定なんだけどね……。闇が突き抜けて、股間に血を集められるようになったのかも……。よく見てよ。勃起しかけているわ」
「相変わらず、中途半端な術だのう。ただの射精管理くらい、きちんとやってみせんか」
「そう言わないでよ、サキ……。あなただって、わたしとの約束を破って、アネルザを監獄塔にまだ置いたままじゃないの」
「手違いがあったのだ。明日には連れていく」
「お願いよ」
テレーズともうひとりの女が小さな声で会話をしている。
ルードルフのことを語っているということは、なんとなくわかるのだが、耳に入って来ても、意味のある言葉として伝わってこない。
だが、そんなことよりも、侍女のふたりだ。
あいつらを徹底的に鞭打って痛めつけるのだ。
それで、ルードルフは快感を得られる気がする。
「それで、これをどうするのだ?」
「……闇魔道が暴発しているようね……。無理矢理に支配を強めることはできないわ。そんなことをすれば、こいつの支配が緩んでしまう……。とりあえず、発散させるわ……」
「ちっ、またか――。勝手にせい──」
テレーズがぼそぼそと隣の女に語り、隣の女は不機嫌そうに舌打ちをした。
やはり、話の内容がルードルフには理解できない。
テレーズがルードルフを見る。
「そうですか……。これは失礼をいたしました……。ところで、宰相閣下が陛下にお目通りを願っております。なんでも、どうしても申しあげたいことがあるとかで……」
「用件は──?」
ルードルフは不機嫌な感情を抑えられずに言った。
「財政のこととか申しておりました。先日、陛下の命令で、南域の国境軍に多大な食糧と武器を供給を処置させた件だと思います。それで財政が厳しいとかで……」
「南部の国境軍?」
なんのことかわからない。
だが、すぐに、そういえば、このテレーズに言われて、なにかの書類に署名をしたことを思い出した。
考えてみれば、南部駐留の国境軍の倉庫群に、通常の年度予算の十倍にあたる財を投入して、最新鋭の兵器と保存のできる食料を大量に備蓄させるという命令書だった気がする。
普通はいちいち署名した書類など覚えていないが、あまりにも異常な内容だったので、記憶に残ったのだ。
だが、そんなことをルードルフに言われても困る。
そもそも、手配をしたのはテレーズであり、ルードルフは、あれになんの意味があるのかも、いまだもってわかっていない。
ルードルフは署名をしただけだ。
「知らん──。お前が宰相と話せ、テレーズ。お前に任せる。余は忙しい」
「かしこまりました。いずれにしても、宰相殿は、王国の財政の不足を憂いておいでなのでしょう……。陛下、実は二十軒ほど、目星をつけている商家がおります。商業ギルドの重鎮に属する商家ですが、その家財を没収すれば、かなりの財が集まり、国庫も潤いましょう。それをわたしの方で行ってもよろしいですか? もちろん、宰相殿と相談いたしますが……」
「余は忙しいと言っておるだろう。よきにはからえ──」
ルードルフは怒鳴った。
だが、ふと思った。
商業ギルド?
この前は、その商業ギルドに対立する自由流通を排除する命令に署名した気がする。
今度は、逆に商業ギルド側を潰すのか?
しかし、思念はそこまでだ。
なにかが頭を覆い、これ以上考えられなくなる。
「では、これに署名を……」
テレーズが羊皮紙を差し出した。
羊皮紙は正式の命令書などに使用する高価な用紙だ。
テレーズが、それを取りだして拡げる。
どこから出したのか、署名用の書き物も出した。
むあ、いいか……。
頭が怠い。
ルードルフは、中身を読まずに署名を施した。
「玉璽はわたしの方で処置いたしますわ、陛下」
テレーズがにこにこと微笑みながら、場所を空けるように壁に退く。背の高い女もだ。
ルードルフは、懲罰室に歩みを向けた。