※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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333 クロノス談義

「ロウ=ボルグ卿?」

 

 エルザは懸命に記憶を呼び起こすような表情をしていたが、しばらくしたところで、微かに目を細める仕草をした。

 

「もしかしたら、ボルグ卿というのは、アネルザ王妃の愛人だという噂の冒険者あがりの子爵ですか? そういえば、もっとも新しい(シーラ)・ランクの冒険者でしたっけ……? ああ、そうか――。思い出しました。あのロウ=ボルグ……卿か……」

 

 エルザは首を傾げながら言った。やっと記憶が繋がったみたいだ。

 イザベラは、手で口を隠しながら笑った。

 

「タリオ内にはアネルザ王妃の愛人と伝わっているのか……。おかしなことだ。あのアーサーは、わたしがロウの愛人であることを知っておるぞ。むしろ、まったく誤解のしようがないようなことをして、アーサーに見せつけたのだ。わたしではなく、そのロウがな」

 

 イザベラは笑った。

 国内でもほとんど知られていない、イザベラとアンの妊娠のことを知り、しかも、王命によって、ふたりが王都からこのノールの離宮に移動させられていたことを承知していたのだから、それなりの情報収集力があるのだろうが、なぜか、アーサーはロウがアネルザをはじめとして、多くの女を愛人に持つクロノスであるということを公にしなかったみたいだ。

 その理由は不明だが、もしかしたら、なかなかに自尊心の高そうな男だっただけに、ロウをクロノスを認めるのが嫌だったのかもしれない。

 いずれにしても、エルザには、イザベラとロウの関係のことは伝わっていなかったみたいだ。

 

「まあ、アーサー大公は、わたしなんかには、諜報部の情報は渡しませんからね。わたしが知っているのは上っ面の情報です」

 

「別に揶揄ったわけじゃない、エルザ姉上。気に障ったなら謝る」

 

 イザベラは言った。

 ここは、ノールの離宮のうち、イザベラの寝室である。

 横には大きな寝台があり、その横にある小さな卓に、イザベラ、アン、エルザの三姉妹に加えて、ヴァージニアとノヴァの五人がいる。

 

 ヴァージニアと一緒にやって来た侍女たちは、もう休んでいる。エルザの侍女たちもだ。

 特に、ヴァージニアたちは、話半分でも、大変に波乱万丈な冒険談だったみたいであり、かなり疲れていた。

 しばらくは働いていたが、ここに辿り着いたことで疲労が溢れ出てしまったらしく、見ていてつらそうだったので、イザベラは今夜は早く休むように命令して、すでに与えられた居室で就寝している。

 だいたい、彼女たちには服がない。

 丈がおそろしく短い派手な道化服で侍女として働く彼女たちの姿は、はっきりいって、滑稽でちょっと扇情的だ。

 とにかく、服を急いで調達してもらったので、数日中には全員の服も揃うはずと思う。それまでは、仕方がないので、あの道化服で働くのだろう。

 とりあえず、ヴァージニアだけには、シャーラの私服を貸して着させている。背丈は合ったが、胸はヴァージニアがずっと大きいので、そこだけは少しきつそうだ。

 

 また、ヴァージニアについては、ここに来てもらった。

 どうしても、他聞をはばかることというエルザの言葉であり、重要そうな話になりそうだったので、申し訳ないが無理をして参加してもらった。

 

 それはともかく、ライスには、箝口令を徹底しろという指示とともに、ここにエルザと侍女たち、さらに、ヴァージニアたち侍女団の合流を教えた。

 ヴァージニアたちに斬りかかったというのだから、秘密にすることも考えたが、食料ひとつとっても、調達量が異なってくるから、そういうわけにはいかない。

 ライスはびっくりしていたが、承知もしたし、王都へ秘密にすることも約束した。

 そして、驚いたことに、道化師の格好をした侍女たちを追い払ったことも、ヴァージニアに直接に話しかけられて、斬りかかったことも、まったく覚えてなかった。

 これには、イザベラも驚き呆れた。

 ライスがヴァージニアに斬りかかったときに、そばにいたモロッコは、そのときのライスがなにかに取り憑かれていた雰囲気だと言っていたので、本当にそうかもしれないと判断するしかない。

 ライスには、惚けている様子は全くなかった。

 当事者のヴァージニアも、ライスの反応には、首を傾げるばかりの様子だった。

 

 ところで、この寝室を話し合いの場に選んだのは、この寝室の方がノールの離宮の中でもっとも、防諜性が高い場所だからだ。

 なにしろ、こっちは夜の営みの声も外には聞こえないように、特殊な構造になっている。

 アンたちの寝室も同じようになっているはずだが、もちろん、イザベラもアンも妊娠初期であり、そんなことはしない。

 ロウに夜な夜なの百合行為を強要されているアンたちもさすがに自重しているようだ。

 いや、しているはずだ……。

 

「気になど障っていませんよ、イザベラ様。ただ、あの男の女扱いは、そういうものだと言っているだけです。根本的に、女を軽く見ているところがあるのでしょうね。女を信用してないんです。だから、重要な情報をわたしたちに渡すなんてことはないんですよ。それでいて、格が高くて、有能だと言われている女を手元に集めたがっているんです」

 

 エルザが応じる。

 イザベラは苦笑せざるを得なかった。

 

「どうしたの? なにがおかしいんですか?」

 

 イザベラが笑っていることに気がついたのだろう。

 エルザがイザベラの顔を見て、眉間に皺を寄せた。

 ところで、エルザには、もっと砕けた言葉遣いをして欲しいと頼んだのだが、それはきっぱりと断られた。

 イザベラは、ハロンドール王国の王太女であるし、そういうわけにはいかないというのだ。

 まあ、その辺りは、エルザのこだわりなのだろう。

 イザベラも、あまり強く強要するのはやめた。

 

「いや、もうこの部屋に入って二回目。夕食のときにも三回くらいは、エルザ姉上は、アーサー大公の悪口を口にしてたぞ。余程に嫌いなのかと思ってな。だが、エルザ姉上の夫であろう」

 

 イザベラは笑いながら言った。

 どうでもいいが、エルザがアーサー大公に、まったく尊敬の念を抱いていないというのは、よくわかる。

 エルザは、別になにかの思惑があったり、謙譲の気持ちで、アーサーをさげているわけではなさそうだ。

 言葉の端々に棘がある。

 

「わたし、そんなにアーサー大公のことを悪く言ってる?」

 

 エルザがアンを見る。

 アンがころころと笑い声をあげた。そのアンは、相変わらず、横に座っているノヴァと手を繋いでいる。

 そして、ノヴァは、こうやって話をしていても、ずっとアンを見ていて、いまもアンが笑ったことで、心からの嬉しそうな笑顔をした。

 本当に仲がいい。

 

「そうね。口にしているかもしれないわね」

 

 アンは言った。

 

「そう──。だったら、あまりにも日頃から鬱憤が溜まっているから、口に出るのかしら……。だけど、夕食といえば、イザベラ様のところの侍女の料理って、すごかったわねえ。あの“くれいぷ”という食後の菓子も最高だった──。あれ、また食べれるのかしら?」

 

 エルザが急に思い出したように言った。

 

「セクトに言っておきます。あれは、随分と簡単に作れるみたいですよ。それに、セクトには、まだまだ、ロウ様に教えてもらった料理や菓子があるみたいです。ここでは、執務もないし、特にすることもないので、ほかの菓子も作ると思います」

 

 ヴァージニアが笑顔で言った。

 エルザが嬉しそうな顔になる。

 

「あの侍女さんの料理を口にできるだけでも、アーサー大公から、ここに派遣されてよかったわ。一緒に来た四人も、彼女の料理に喜んでいたし」

 

 エルザは笑った。

 

「まあ、ここに来たのは、アーサー大公のご指示だったの、エルザ?」

 

 アンがエルザに言った。

 

「そういうことね。でも、ちょっと待って、アン──。わたしのことはなんでも話すわ……。だけど、先にわたしの好奇心を満足させて。夕食のときにも、ずっと訊きたいのを我慢していたんだから……。ねえ、イザベラ様の子の父親がロウ=ボルグ卿という方だということはわかったけど、アンのお腹の子の父親は誰なの? それとも、それは秘密のこと?」

 

 エルザがアンに顔を向けた。

 確かに、好奇心がいっぱいで堪らないという表情だ。

 

「別に秘密じゃないわ。まだ、公表されていないだけよ。この子の父親もロウ様よ、エルザ」

 

 アンが言った。

 すると、エルザは目を丸くした。

 

「ひええっ、なら、王陛下が怒るはずねえ──。つまりは、王妃の愛人であるボルグ卿が、あなたたち姉妹まで孕ませたということ?」

 

「孕ませたというのは下品な物言いだが、まあ、そういうことになるな。だが、言っておくが、アネルザ様の愛人であるロウが、わたしたちを愛してくれたわけじゃないぞ。わたしとアンの相手だったロウがアネルザ様も恋人にしたのだ」

 

 イザベラは言った。

 すると、アンが口を挟んだ。

 

「ちょっと違うかもしれないわね……。まずは、イザベラが最初で、次がお母様。わたしたちはその後よ」

 

「ああ、そうか……。だったら、わたしたちが愛人になった順なら、まずはシャーラ、次にわたし、そして、王妃様に、姉上とノヴァか」

 

 イザベラが言うと、エルザがさらに驚いた顔になった。

 

「はあ? シャーラって、そういえば、今日はいないけど、わたしが、イザベラ様の侍女にした、エルフ族の女魔道戦士の、あのシャーラですよね?」

 

「いまは、護衛長だ」

 

「そんなのはどうでもいいです──。じゃあ、そのボルグ卿は、王妃様やあなた方姉妹、そして、それぞれの筆頭侍女と身体の関係を持った挙句に、あなたがたふたりを妊娠させたということ?」

 

「あのう、わたしも、ロウ様の愛人です。わたしだけじゃなく、今日一緒にやって来た侍女の全員が……」

 

「ああ、そうか。順番は、シャーラ、わたし、王妃殿下、ヴァージニアたち、そして、アン姉上とノヴァか」

 

 イザベラは言い直した。

 

「えええええっ」

 

 すると、エルザが大きな声をあげた。

 

「ほかにも愛人は大勢いる。むしろ、会った女はすべて愛人にするというところもある。エルザ姉上も気をつけることだ」

 

 イザベラはからかった。

 だが、エルザは顔を険しくしたままだ。

 

「なんて、鬼畜男なの──」

 

 そして、憤慨したような声をあげた。

 

「そ、そんな……。ロウ様は鬼畜なんかじゃありません──」

 

 珍しくもノヴァが口を挟んだ。

 ロウの悪口を言われて、我慢できなかったのだろう。

 

「そうだな。言葉だけ並べていると、確かに鬼畜のような感じがするな。でも、エルザ姉上、わたしたちは、心からロウを慕っている。それに、わたしもそうだし、アン姉上やノヴァのことを助けてくれたのもロウなのだ」

 

 イザベラは言った。

 

「ご主じ……いえ、ロウ様は素晴らしいお方よ、エルザ」

 

 アンだ。

 

「わたしたち姫様のお世話をする者たちも、ロウ様に精を注いでいただいたお陰で……。いえ、なんでも……」

 

 ヴァージニアだ。

 おそらく、ロウの精が女の能力や外見の美しさなどを引き起こすことを口に仕掛けたのだと思う。

 しかし、さすがに、いま口にするのは時期尚早だと思い直したのだろう。途中で口を閉ざした。

 

「んっ? んっ? なになに?」

 

 エルザが目聡く、ヴァージニアを見る。

 

「なんでもありません。ただ、わたしたち十人も、ロウ様をお慕いしています。それだけは申しておきます。そして、ロウ様は決して鬼畜な方ではありません。わたしたち、女を大切にしてくれます」

 

 ヴァージニアがきっぱりと断言した。

 

「そもそも、わたしと王妃様のことだって、ロウがいなければ、いまのようないい関係にはならなかった……。同じ男を愛したことで、わたしたちは、いまのような関係を築けたのだ」

 

 イザベラはもう一度口を挟んだ。

 

「ふうん……。そんなに言うなら……。でも、そういえば、わたしがいた頃には、犬猿の仲だったイザベラ様と王妃様が最近では昵懇だという噂は耳にしていました……。だけど、全員が同じ相手を? ヴァージニアさんたちも含めて? 多すぎない?」

 

 エルザは信じられないという顔をしている。

 確かに多いのだろうな。

 だが、おそらく、ロウの女で、ロウを独占したいと考える女は皆無だろう。あの絶倫の相手をひとりでするなど、イザベラなら恐怖しか抱かない。 

 

「彼はクロノスだ。大勢の女を愛する男だ。そして、それだけの甲斐性がある」

 

 イザベラはきっぱりと言った。

 エルザは嫌そうな顔になった。

 

「クロノスなんて、名乗るのは碌な男じゃないわ。タリオ公がそうだもの。いわゆる、釣った魚には餌をやらないという男ね。わたしのことなんて、ハロンドール王の血を引いているが、平民腹じゃあ、片輪者だとはっきりと言うし、エリザベートのことだって、王族じゃないからって、第三公妃とは名ばかりで、側女扱いだし、可哀想で……」

 

「向こうでは苦労しているのか、エルザ姉上?」

 

 そういえば、エルザがタリオ公とはうまくいっていないというのは、直前にアンから耳にした。

 確かに、随分とエルザも不満が溜まっている気配である。

 また、エリザベートというのは、アーサーのもうひとりの公妃であり、同じタリオ公都にあるティタン教総本山の法王の孫娘だ。確かに、法王はどの王族や貴族の血も引いていない。

 

「まあ、苦労というほどでも……。相手にされないだけだし。まあ、はっきり言って、もう夫婦生活も二年くらいないわ。そもそも、わたしたちふたりがいるのに、第一公妃が欠で、第二公妃と第三公妃って、どこまで馬鹿にしているのよ──」

 

 エルザが吐き捨てるように言った。

 イザベラは言葉を挟もうと思ったが、イザベラの人生経験では、うまく言葉を紡ぐことはできない。

 

「落ち着きなさいよ、エルザ……。とにかく、ロウ様はそんな方じゃないわ。そもそも、クロノスだと呼んでいるのは、わたしたちの方で、ロウ様はただの一度もご自分をクロノスだと称したことはないわ。ねえ、ノヴァ?」

 

 すると、アンが口を挟んだ。

 

「はい、その通りです」

 

 ノヴァも大きく頷く。

 

「だけど、本当にクロノスなんです、エルザ様」

 

 ヴァージニアもはっきりと言った。

 すると、ちょっとエルザも落ち着いた感じになった。

 

「まあ、そんなに言うなら、そうなんでしょうね……。でも、だったら大変ね。これからどうするのよ。ボルグ卿のこと……。というよりも、彼はあなたたちのことを知っているのですか?」

 

 エルザがアンとイザベラに視線を向けた。

 アンが口を開く。

 

「まだ、知らないわ、エルザ……。ちょっと、冒険者ギルドのクエストで国外に行っていて、その間に発覚したことだから……。でも、わたしは、ロウ様には素晴らしいものをもらったと思っているわ。わたしとノヴァの命をもらい、幸せをもらい、今度は子供まで……。ねえ、ノヴァ?」

 

「はい、わたしたちの大切な子供です」

 

 ノヴァがアンに寄り添うようにしながら、うっとりと微笑みながら言った。

 

「わたしたち?」

 

 アンとノヴァの特別な関係までは知らないエルザがちょっとだけ、怪訝な表情になっている。

 

「とにかく、もうロウ様にはこれ以上、なにも欲しいとは言えないし、ロウ様がどうするのかは、ロウ様次第ね。わたしはそれに従います」

 

 さらに、アンが続けた。

 

「そうだな。ロウがこの子供の父親になりたいというのであれば、なって欲しいし、困ると言うなら無理強いはしない。子供はわたしたちで育てられる。それに、夫や父親という肩書があろうと、なかろうと、わたしたちを愛してくれるだろう」

 

 イザベラも笑んだ。

 しかし、エルザはちょっと困ったような表情になった。

 

「まあ、幸せそうだし、それはそれでいいと思うけど……。とにかく、わたしはあなた方の味方よ……。大公の方は大丈夫よ……。でも、だったら、なおさら、どうするつもりなんですか、ボルグ卿のこと……。国外にいるなら、もう、ハロンドール王国には戻れないでしょう?」

 

 エルザが言った。

 イザベラは首を傾げた。

 

「戻れない? なんでだ?」

 

 イザベラの言葉に、エルザは逆にびっくりしたみたいだ。

 

「なんでって……。もしかして、それすらも知らないの?」

 

「知らないとは、なに、エルザ?」

 

 アンが横から言った。ヴァージニアやノヴァも怪訝な表情をしている。

 すると、エルザが大きく息を吐いた。

 

「だったら、もしかして、教えない方がいいのかもしれないけど……。でも、言うわ。あんまり動揺しないでよ……。さっき、名前を教えてもらったときに、記憶が繋がったんだけど、確か、ハロンドール王は、王国全土にロウ=ボルグ卿の手配書を回しているわ。入国次第に捕縛せよと……。それだけじゃなく、タリオ公国を始め、三公国にも捕縛協力の要請が来てる。わたしが思い出したのは、それがあったから……」

 

「なんじゃと──」

 

 イザベラは激昂して叫んだ。

 王都から離して、ここにイザベラとアンを隔離したことから、なにかを企んでいるとは思っていたが、ロウに手を出そうとしているのか──。

 

 だったら、こうしてはおれん──。

 とりあえず、王都に戻らねば……。

 イザベラは立ちあがった。

 すぐにでも、王都に戻って、ロウへの捕縛命令など取り消させないといけないと思ったのだ。

 しかし、エルザがしがみついてきた。

 

「ごめん、ごめんなさい、イザベラ様。興奮しないで……。ああ、やっぱり、教えるべきじゃなかったのかしら……。わたしもうろ覚えだし……。とりあえず、落ち着いて。お腹の赤ちゃんにも障るから……」

 

 エルザが泣きそうな顔になった。

 

「そうね、イザベラ……。落ち着きましょう。とりあえず、お母様に連絡を……。事態を把握しましょう。それに、きっとなんとかしてくれるわ。通信は禁止されているけど、昼間のライス殿の態度なら書簡くらいは届けられそうだし……」

 

 アンが口を挟んだ。

 それもそうかと思った。

 いずれにしても、ロウは不在であり国外だ。

 真実だとしても、まだ時間はある。

 シャーラも王都から戻ってくれば、なんらかの情報を携えてくるだろう。

 

「そうだな、姉上。王妃様に連絡をしてみよう」

 

 イザベラは言った。

 だが、エルザは眉をひそめている。

 

「……あっ……。もしかして、アネルザ様のことも……知らない? まあ、あっちは、ただの夫婦喧嘩だろうから、問題ないと思っていたけど……」

 

 エルザが言った。

 

「王妃様がどうかしたのか?」

 

「お母様になにか?」

「教えてください──」

 

 イザベラだけでなく、アンとヴァージニアもエルザに詰め寄るかたちになった。

 

「お、教えるけど……。でも、あまり、興奮しないでよね。あなたたち妊婦さんなんだから……」

 

「早く言え──」

 

 イザベラは怒鳴ってしまった。

 そのときだった。

 

 寝室の隅に置いている“ほっとらいん”の姿見が光り出したのだ。

 ここに移送されるにあたって、なにを置いても、持ってきた品物がこれだ。

 ずっと、イザベラの王宮内の寝室に置いてあったものであり、この姿見とロウの屋敷が転送術で繋がっていて、ちょくちょく、この鏡からロウがやってきて、夜這いをしてくれていた。

 離宮に持って来て、同じ効果があるかどうかはわからなかったが、ここからロウが出現するような気がして、携行せずにはいられなかったのだ。

 王宮から、さらわれるように連れてこられるとき、これについては、ライスの兵に頼んで、荷に紛れさせてもらった。 

 

「アン様、姿見が……」

「うん、イザベラ、もしかして──」

 

 ノヴァとアンが喜びを響かせた声をあげた。

 イザベラも期待した。

 もしかして、ロウが……。

 

「えっ、えっ、えっ?」

 

 ヴァージニアは焦った様子で髪を手櫛で直したり、シャーラから借りている夜着を整えたりしている。

 イザベラも期待するところもある。

 なにしろ、王太女府に隣接されている私室にいるとき、この姿見が光るときには、必ず、ロウがそこから現われるのであり、そして、腰が抜けるほどに、ロウがイザベラたちを可愛がってくれる合図でもあるのだ。

 

 そして、姿見から人が出現した。

 

 最初に出てきたのは、王の寵姫のサキだった。

 次いで、シャーラ──。

 さらに、見知らぬ少女と童女──。

 最後に王妃のアネルザが出てきた。

 

 ロウではなかった。

 ちょっとだけ失望した。

 まあ、確かにそうか……。

 ロウが戻るには、まだまだ一箇月以上の時間が必要なはずだ。

 こんなに早く戻るわけがない。

 しかし、なんだ、この組み合わせは?

 

「王妃様、どうしてここに? それにサキ殿も……。シャーラ、どういうことだ? お前が王都からおふたりを連れてきたのか?」

 

 イザベラは言った。

 だが、シャーラは首を横に振る。

 

「連れてきたのではなく、連れて来られたというか……。それと、王都には行っておりません。行けなかったんです。でも、王都の状況はわかりました。ちょっと大変なことになってます」

 

 シャーラが言った。

 

「ええっ、王妃様──? どうしてここに──? 王都の監獄塔に囚われていたんじゃあ……」

 

 エルザが声をあげた。

 アネルザもまた目を丸くしている。

 

「それは、わたしの台詞(せりふ)だよ──。タリオ公国にいるはずのお前がなんでここにいるんだい──。ああ、そういえば、お前、アーサーから離縁状を突きつけられたって話だけど、もう、そうなったのかい? それとも、ついに、家出してきたかい?」

 

 アネルザが言った。

 イザベラはびっくりした。

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