【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
335 虜囚の魔女
【ルルドの森の林縁部・アスカ城】
「夕食をおさげいたします」
エマはアスカに声をかけた。
アスカは、物憂さげに柔らかい背もたれの椅子に埋もれるようにしていたが、わずかに顔をあげて小さく頷いた。
死霊の支配するルルドの森に面した城塞都市である「アスカ城」だ。
そして、そこを「支配」する女王アスカの居室である。
もちろん、アスカはひとりだ。
侍女もエマひとりであり、アスカの生活に必要なことのすべてはエマがする。
もっとも、アスカは大抵のことは魔道で終わらせてしまうし、女王といっても、名ばかりで実権がないので職務を持たないどころか、アスカはこの女王の部屋から、一斉外に出ることはできない。
だから、ひとりで十分なのだ。
つまり、この大きな部屋の周りに張り巡らされているアスカの脱出を封鎖する封印紋が結界錠となり、アスカの脱出を拒んでいる。
やらせたのはパリスであり、このアスカ城の真の支配者は、アスカの従者ということになっている少年の姿をしているパリスなのだ。しかし、その真実は限られた者しか知らない。
アスカは、「女王」という名の、この城塞に囚われている虜囚にすぎない。
つまり、パリスは、アスカがこの城塞を自由に歩くことを禁止しており、ずっと長いあいだ、こうやって私室に閉じ込めているのだ。
もっとも、パリスが特別に禁じている場所でなければ、アスカは自分の影を作って、どこにでも出現させることはできる。
だが、最近ではそれもしないようだ。
いつも憂鬱そうに、不機嫌な表情をしているだけである。
また、かつては頻繁に実施されていた召喚術も、それを強要するパリスが不在がちなことから、かなりの間行われてもいない。
ところで、エマは、パリスが長くここを留守にしている理由を知らないのだが、アスカは思い当たることがあるようだ。
アスカが塞ぎ込む様子になってしまったのは、パリスの行き先に関係がある気配である。
エマには推測のしようもないものの、パリスが長期不在となる直前、アスカはパリスの命令で、なにかの「護符」、すなわち、魔道を込めた紙札を作らされたみたいだ。
アスカは、パリスには絶対服従であり、逆らうことはできない。
そして、アスカの憂鬱そうな態度は、その直後から始まった気がする。
確か、半年近く前のことと思う。
「ああ、わかった」
アスカはほとんどエマを見ることなく返事をした。
ふと見ると、今回もほとんど食事には手がつけられていない。まあ、魔道力の高い魔女なので、その気になれば、何日も食べなくても、魔力を生きるのに必要なものに変えて体内に取り込むこともできるらしい。
エマのような常人とは異なり、アスカくらいになると、食事というのは、生きることに必要なものではなく、娯楽のひとつなのだ。
だから、問題ないということは知っている。
しかし、こうも長く、食事をほとんど残す日々が続くと、さすがにどうかしたのだろうかと思う。
「あのう……、食事が合いませんか?」
エマはおそるおそる訊ねた。
食事だけのことなら、いくらでも準備ができる。
この城塞の真の支配者はパリスだが、そのパリスが食事のことなら、一切の制限をしていない。異国の珍しい食材でも、アスカが望めば取り寄せることができるだろう。
「んっ、まだいたいのかい、エマ?」
アスカがやっとエマの存在に関心を寄せたように声をかけてきた。
やっぱりおかしい。
少し前までは、アスカは、エマに夢中になって、それこそ、丸一日だってエマと愛し合おうとしてきたのだ。
ところが、このところ、そういう行為も完全に飽いてしまったかのように、エマに興味を示さなくなった。
いや、半年くらい前から、アスカの様子が変わった。当初は、暴力的とも感じる激しさで、エマを嗜虐してきた。しかし、だんだんに、エマそのものに関わる頻度が減り、最近では手を出さないどころか、エマが話しかけても上の空だ。
本当にどうしたのだろう。
「アスカお姉様、そのう、なにか、最近お元気がないですね……?」
エマはアスカの残した食事の盆を運んできた車輪付きの台車に載せてから言った。
「元気? おかしなことを訊ねるねえ。どうしたんだい? また、わたしに可愛がられたくなったかい?」
アスカが椅子に上体を沈めたまま、顔だけをこっちに向けて言った。
エマはにっこりと微笑んだ。
侍女服の上衣に手を掛ける。上からぼたんを外していく。
「それで、アスカお姉様がお元気になられるのでしたら」
エマは、服を寛げながらアスカに寄っていった。アスカは、上下の下着に薄物をひっかけただけの、ほとんど半裸の状態だ。
脱いだ上衣をアスカが横になっている長椅子の端に置く。上衣の下は布で乳房を巻いていただけだ。エマはアスカの胸に布に包まれた乳房を押しつけるようにして、覆いかぶさる。
「欲情したかい? そういえば、かなりご無沙汰だったからねえ」
アスカが微笑みながら、胸を包んでいる布を押し下げて、エマの乳房を露出させると、淫靡に揉み始める。
「あっ、あああ」
エマは思わず、狼狽の声を放ってしまった。
「可愛いおっぱいだよ。あやおや、もう乳首が勃ったのかい?」
「アスカお姉様に抱かれると、エマはすぐにこうなります。大好きです、お姉様」
アスカの手がエマの乳房を柔らかく揉みしだき、快感が胸から全身に拡がっていく。
エマは、唇を重ね合わせた。
アスカの舌が口の中に入り込み、粘っこくエマの口の中を愛撫する。
「あ、あっ、ああ……」
全員の疼きが深いものに変わる。
自分の口から甘い鼻声が出るのがわかった。
しかし、なぜか急にアスカが口を離して、エマの身体を横にどけた。
エマは呆然としてしまった。
「やっぱり、やめだ……。なんとなく、その気にならない」
そして、アスカが横を向いてしまった。
別に途中でやめてしまうのはいいのだが、いままでにそんなことがなかっただけに、エマはちょっと驚いてしまった。
どちらかといえば、アスカは淫乱体質であり、女同士の百合愛専門だが、性愛が生活から手離せない性質だと思っている。
やっぱり、おかしい……。
「あ、あのう、あたし、なにかしましたでしょうか? ご奉仕しますので……。そ、それとも、また、ぺ、ペニスを生やしていただいて遊びませんか? 一生懸命にやります」
エマは言った。
少し前まで、エマの股間には、アスカが魔道で作った小さな男根があり、その性器にさまざまに悪戯をされ、アスカから調教を受けたりしていた。
その頃のアスカは、生き生きとしていて、淫らな享楽にどっぷりと浸かったようになっていた気がする。
だが、いまのエマの股間は、それも元に戻されて、普通の女の股間になっている。
それだけでなく、この一箇月くらいは、まるでエマに興味を失ったみたいに、話しかけてくることさえ少なくなった。
エマの背に冷たい汗が流れる。
それは、まずい……。
パリスから命じられているエマの任務は、アスカの見張りなのだ。
性愛を通じてアスカを観察して、少しでも不自然なところがあれば、パリスに伝えることになっている。
そのご褒美は、パリスから与えられるセックスだ。
だが、アスカがエマに興味を失ってしまえば、そもそも、エマの存在価値がなくなってしまう。
どうしよう……。
「お前のせいじゃない。最近、面白くないことがあったから、ちょっと気が乗らないんだよ。悪いね」
アスカは言った。
エマはアスカに身体を寄せた。
「面白くないこととはなんですか? あたしにできることでしたら?」
エマは言った。
アスカの寵愛を失うわけにはいかないのだ。
ここで暮らす者は、第三階級以下の「貴族」と、第四階級以下の「奴隷」に分かれる。
エマは奴隷階級だったが、アスカがエマを寵愛しはじめたことから、それまでとは雲泥の生活ができる立場になることができた。
もともとは、いまのエマの立場にいたのは、エルスラという名のエルフ美女であり、エルスラは、アスカの行う召喚術を覚えて、代わりにやったりもしていた。
最初はエマも、召喚術をこなすことを求められたのだが、魔道力のほとんどないエマは、アスカによって魔道力を増幅されても、召喚術を遣えるようにはならなかった。
本当であれば、それでパリスから処分されてもおかしくなったが、パリスに呼び出されて、アスカを見張る「間諜」として使ってくれることになった。
嫌も応もない。
いくらアスカのお気に入りといっても、パリスはこの城塞の支配者だ。アスカなど、パリスに囚われているただの虜囚だ。
それに、パリスから与えられる代償は、セックスだと言われた。
つまりは、パリスの愛人になるということだ。
それは、この城塞では、アスカのお気に入りよりも、ずっと魅力的な立場だった。
エマは、パリスを望んで受け入れた。
無論、アスカには秘密だ。
アスカはパリスを嫌っており、そのパリスに抱かれたということがわかれば、怒ったアスカがエマを捨てるというのは十分に予想できたからだ。
こうやって、エマはアスカを見張る任を帯びることとなった。
パリスにより、第三階級にも引きあげられ、エマは少なくとも、すべての奴隷階級に自由に命令のできる「貴族」になったのだ。
だから、いまアスカの寵愛を失うわけにはいかない。
エマは焦った。
「できることねえ……。じゃあ、パリスは、ナタルの森から戻ったかい? わたしは、ここから出られないからね。それすらも知ることはできないからね」
「ナタルの森? パリス……は、ナタルの森に行っているのですか?」
危ない……。
咄嗟だったので、思わず「パリス様」と口にするところだった。
この城塞の本当の支配者がパリスだと知っているのは、第二階級以上の者たち、すなわち、パリスの子飼いの部下たちまでだ。
第三階級以下のエマたちにとっては、パリスはアスカに仕える少年従者ということになっている。
それはともかく、パリスがナタル森林に行っているとは知らなかった。
ナタル森林というのは、人族発祥の地ということで知られていて、いまはエルフ族が支配する領域だ。その中心はエランド・シティと呼ばれる浮遊都市である。
そこにパリスが……。?
「その様子じゃあ、知らないかい……。だったら、最近になって、黄金の髪をしたエルフ美女がさらわれてきたということはないかい?」
「エ、エルフ美女ですか?」
アスカ自体がエルフ美女だが、ほかのエルフ族?
エルスラのこと? 確か、彼女は金髪だった。だが、エルスラならエルスラというだろう。
いずれにしても、エマの知る限り、新しいエルフ族の女が奴隷などとして、ここに連れて来られたという話は耳にしない。
エマは知らないと答えた。
「わかった……。じゃあ、そういうことがあれば、教えておくれ。もう、休んでいいよ」
アスカが長椅子に横になるようになって、目を閉じた。
もう、なにをしても、相手をしてくれなさそうだ。
「……では、失礼します、アスカお姉様……」
エマは仕方なく、服を整え直して、アスカの部屋を出ようとした。
そのとき、背中から声をかけられた。
「別にお前に飽いたわけじゃない。どうしても、気になることがあってね。もう、百年は思い出しもしなかったのに、あいつがあんなものをわたしに作らせるから……」
最後の方は、エマに話しかけたというよりは、ほとんど独り言に近い小さなささやきだった。
エマは聞き直したが、それっきりアスカは眠ったようになって反応してくれなかった。
仕方なく、エマは台車を押して、アスカの部屋を出た。
*
「ふう……」
アスカの部屋の前でたむろっている連中から、いつものからかいを受け、エマは自室に戻った。
その連中というのは、パリスに命じられて、アスカを見張っている者たちであり、いわゆる「牢番」の役目をしている者たちだ。
城塞では第二階級であり、アスカとパリスの本当の関係を知っている。
もっとも、見張っているとはいっても、アスカの部屋の周囲に刻まれている魔道の刻印がアスカの出入りを阻んでいるので、彼らには特にすることがない。
だから、いつも、部屋の前の広間で酒を飲み、アスカの部屋に唯一出入りできるエマをからかうのを愉しみにする下劣な者たちだ。
彼らからは身体を求められることがあるが、エマは断らないことにしている。
断れば面倒だし、さっさと終わらせた方が早く終わる。
エマが抵抗しないのが面白くないのか、最近ではそれほど身体を要求されることはない気がする。
ただ、今日は、これまでに見たことがない新入りが混じっていて、そいつに身体を要求された。
エマは、ここでするならいいと応じて、ほかの男たちが見ている前でスカートを捲って下着を脱ぎ、テーブルに上体を倒して尻を出してやった。
すると、なにが面白くなかったのか、その男は舌打ちをして、エマを抱くのをやめてしまった。
よくわからないが、エマとしては得をした気分だ。
今夜は、そのまま戻ってきた。
エマの自室は、第三階級者用に与えられている個室であり、寝台と机とちょっとした家具が揃えられている。
アスカの部屋のように広くはないが、まあ十分だ。
ちょっとした厨房もあるし、身体を洗うための湯の出る洗浄室もある。水洗魔道の施された厠まであり、奴隷階級だった頃とは雲泥の生活だ。
個室に備えられている個人用の食糧庫には、食材もちゃんとある。
当番の奴隷が、定期的に補充をするのだ。
アスカに見出される前のエマは、第三階級以上の「貴族様」に、食料を始めとする色々な荷を運ぶ仕事を与えられていた。
仕事の途中に「貴族様」に捕まって強姦されることなど、日常茶飯事だった。
エマは侍女服を上下とも脱いで、下着だけになると、身体を洗うために替えの下着と布を持って、洗浄室に向かおうとした。
そのとき、ふと人の気配を背後に感じた気がした。
「えっ?」
はっとして振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。
気のせい──?
ほっとして、顔を前に戻そうとすると、顔の前に金属の冷たさを感じた。
そして、首に何者かの腕が絡まった。
「そのきれいな鼻がすぱっと落ちるよ。手を後に回すんだ。防音の結界を張ったから、騒いでもいいけど、うるさいのは好きじゃない。だから、声を出すんじゃないよ」
「ひっ、なに?」
エマが息を呑んだ。
すると、鼻の下の刃物が眼の直前に当てられた。
「わからない子だねえ。声を出すなといっているじゃないかい。それと、お手々は後ろだ。あたしとしては、別にあんたを殺したってかまわないんだ。いや、むしろ、そっちの方が楽なんだけど、特別の慈悲で監禁するだけで済ましてやろうって思ってんだ。早くしな」
エマを背後から拘束している者がくすくすと笑った。
女の声だ。
だが、こういうことに随分と慣れた感じがする。
これは本気だ……。
理屈でなく、エマは肌でそれを感じた。
おそらく、抵抗をすれば、後ろの女は間違いなく、エマを殺すことを選ぶ。
恐怖で身体が震えだした。
素直に両手を背中に回す。
「そうじゃない。腕を腰の後ろで水平に重ねな」
言われたとおりにした。
聞き覚えのない声だ。
すると、両手首に手枷が嵌まり。さらにそこから鎖で繋がっている感じである枷を二の腕にも嵌められた。
エマは両手を完全に後ろ手に拘束されてしまった。
「いい子だね。じゃあ、顔を見せてもらうよ。アスカのお気に入りのエマちゃん」
剃刀が顔の前からどけられる。
だが、次の瞬間、両方の足首にも、鎖付きの枷が嵌められた。
寝台にどんと身体を押された。
「きゃああ」
エマは寝台に力一杯に身体を押された。
うつ伏せに倒れたところで、慌てて身体を反転させて前を向く。
寝台に向けるように、椅子が移動していて、そこに女が座っていた。
ただ、顔全体を包む黒い覆面をしている。
眼と鼻と口の部分だけに穴が開いていて、ほかの部分は完全に袋に包まれてた。
いずれにしても、会ったことのある女じゃないと思う。
「だ、誰なの、あんた?」
エマは寝台の上に座り直しながら言った。
「なるほど、アスカという希代の魔女が百合の相手にする娘だけあるねえ。可愛い顔しているじゃないか。じゃあ、じっくりと写させてもらうよ」
「写す? いえ、あ、あんた、誰なの? あたしのことを知ってるの?」
「知っているよ。だから忍び込んできたんだ。ただ、あたしのことは気にしなくていいよ。名乗るほどの者じゃないからね。ただ、しばらくは、あんたの命を預かるご主人様ということにあるのかな? まあ、せっかくだから、愉しもうじゃないか。ただ、監禁するだけじゃ愉しくないしね。あんたも、愉しい方がいいだろう」
覆面の女が笑った。
ぞっとした。
なんだ、こいつ?
それに、監禁──?
「な、なに言ってんのよ、あんた──? 頭おかしいの?」
エマは怒鳴った。
すると、女がまた笑った。
「ああ、そんな感じで頼むよ。声も写さないとならないしね。さて、じゃあ、あのときの声も拾っとこいうかな。アスカの寵愛の相手となると、そういう声も出さないとならないんだろうしね」
女が言った。
さっきから、なにを言っているのか……?
写す……?
「じゃあ、しばらく、あんたと遊ぼうかな。とりあえず、素っ裸になってもらおうか」
覆面女が寝台にあがってくる。
得体の知れない恐怖を感じて、エマは不自由な身体を縮めるようにしてあとずさった。
「触んないでよ──」
「そんなこといっても、あたしは触りたくてね」
覆面女が剃刀の刃先をエマに伸ばす。
「いやあ、助けてええ」
力の限り叫んだ。
しかし、女は余裕たっぷりだ。
ぞっとした。
防音の結界を張っているというのは本当なのだと思った。
そうであれば、万が一にも助けなど来ない。
もともと、成りあがり者であるエマには、親しい友人など第三階級の居住層には皆無だし、この部屋を訪ねて来る者などいない。
もしも、ここで殺されても、かなりの確率で数箇月は放っておかれる。
唯一の望みはアスカだが、あの部屋を出ることができないアスカがエマを助けることなどできない。
アスカの部屋の前でいつもたむろしている連中が、エマが出てこないことをどのくらい経てば不審に考えてくれるだろう。
いや、そもそも、こいつは、なんなんだ──?
侵入者?
この警戒の厳重なパリスの城塞であるアスカの城に──?
「ほら、もう少し騒ぎなよ。あんたの声をしっかりと、魔道で写し取る作業が必要でね。ところで、胡坐をかきな」
女が完全にあがってきた。
今度は剃刀ではなく、短剣だ。
刃先を向けられる。
「いやああ」
恐怖に悲鳴をあげたが、女が切断したのは、胸を巻いている布だった。
次いで、腰の下着──。
「ひっ、ひいいっ」
切られたのは下着だが、刃物を身体に当てられたことで、エマは腰が抜けたようになってしまった。
身体が硬直したところで、布切れになった下着を身体から取り払われる。
あっという間に全裸にされた。
「胡坐だよ。胡坐──」
女が短剣を手から離す。
一生懸命に考えているが、どう聞いても知らない声だ。絶対に、この城塞の者ではない。そうであれば、やっぱり、この警戒厳重な城塞に、この女は潜入してきたのか?
幾重にも魔道による結界や警備用の紋章が刻まれているこの城塞に侵入してくるなど、そんなことができるのか?
「ほら、まさか、胡坐を知らないってんじゃないだろうねえ」
女は両膝を立てて、身体を守るように置いていたエマの両膝に手をかけ、膝がしらを左右に押し倒した。
太腿が大きく開き、股間が露わになる。
すると、股のあいだに縄束が投げ捨てられて、素早くエマの足首から枷が外された。
「ちょ、ちょっと──」
逃げる余裕などない。
素早く両くるぶしを重ねるように縄をかけられた。
そして、あっという間に縄を腿にも巻かれて、がっちりと胡坐縛りにされてしまった。
だが、それで気がついたが、この女はどこから縄束を出したのか?
そういえば、エマを脅した剃刀や短剣などの刃物が近くに見当たらない。どこかに隠した気配もなかった……。
そのとき、足元にさっきエマの足首から外された枷があった。
女が手を軽くかざすと、その枷がふっと消滅した。
「収納術──?」
エマは声をあげてしまった。
収納術というのは、異空間に自由自在に物を収納して、いつでも好きなようにそれを取りだすという魔道なのだが、それを駆使できるということは、この女がかなりの上級魔道遣いだということを意味する。
やはり、この女は潜入者だ──。
これほどの魔道遣いが城塞内にいれば、たとえ、覆面をしていても、思い当たらないということなどありえない。
目の前の見知らぬ女が上級魔道遣いだとわかり、エマの身体はさらに恐怖で委縮した。
「おや、大人しくなったじゃないかい。もっと、抵抗してもいいんだよ」
女がエマの足首を縛った縄端をエマの首の後ろに回して縛り、そのまま身体を仰向けに突き倒した。
いわゆる、座禅転がしというものだ。
その名前くらいは、エマも知っていた。
「ああ、な、なにすんのよ──」
思わず絶叫が口から出た。
突然の羞恥の体勢に、エマは動顛して身体をもがかせた。
だが、胡坐縛りの上に、腕もがっしりと枷で後手に固定されており、身体を起きあがらせることさえできない。
「さあて、じゃあ、しばらくさえずってもらおうかな」
エマの股間の背後に女がにじり寄ったのがわかった。
指をエマの股間に伸ばして愛撫を始める。
「あっ、くうっ」
女の指先が柔らかくエマの股間をほぐしにかかると、痺れるような疼きが全身に迸った。
なに、こいつ──。
上手……。
「んんっ、んあああ、ああっ」
たちまちに、甘い声が口から迸る。
さらに女の手が身体の下にのびて、乳房も揉み始めた。
「あっ、だ、だめえ、な、なにすんのよ、あああっ」
股間と胸を同時に刺激されて、身体に電撃でも走ったような快感が走った
エマは声をあげた。
「ああ、そんな声を出すのかい……。なるほどねえ……。怪しまれないように、ちゃんと覚えてないとね。あのアスカは、あんたを縛って抱くことも多いそうじゃないかい? こういうこともされるかい?」
この女はさっきから顔や声を写すとか、エマの喘ぎ声を覚えるとか、なにを言っているのだ……。
目的はなんなのか……?
だが、急に愛撫の手が激しくなり、エマは我を忘れそうになる。
「あ、ああああっ、あああ」
乳房を上下に大きく弾かれ、肉芽を揉まれる。指も女陰に挿入されて膣の中を刺激され続ける。
本当にかなりの手管だ。こういうことに余程に慣れている。
快楽の波が全身に駆け抜ける。
「ひいっ、ひああああっ」
大きな快感が背中を駆け抜けて、エマは拘束されている裸体を限界まで弓なりにした。
「ふふふ、すっかりと調教されている敏感な身体じゃないかい。あたしにできるかねえ」
指でクリトリスを挟まれて、こりこりとしごかれる。
「そ、そんなあ、ああああっ」
疼きと痺れが一層激しくなる。
拒絶の言葉も喘ぎ声に阻まれる。
「十分に濡れたようだね。じゃあ、これはどうだい?」
股間から指が抜かれた。
ほっとしたのは束の間だ。
そこに、後ろから、異物がすっと挿入された。
「わああっ、なに? いやああああ」
男根としか思えないなにかだ──。
多分、張形?
それが股間にぐっと貫いて来る。
「ああっ、あああ、ああああっ」
痛みとむず痒さが混じったような衝撃が全身を貫く。
「なかなかの好き者だね。ほら、こっちもまた揉んでやろう」
太腿を支えるようにしていた手が女の部分に移動して、再び胸を刺激してきた。
しかも、魔道でもかけたのか、挿入されている張形が突然に蠕動運動を開始する。
「ああ、いやああ」
エマは大きな声をあげてしまった。
太腿ががくがくと痙攣をはじめた。
気持ちいい……。
下半身がどうしようもなく熱くなり、じんじんと痺れが腰を震わせる。
「あひいいっ、ああ、ああああっ」
女の手管は、巧妙で執拗だった。
エマは動き回る張形の刺激と女の愛撫に翻弄され、あられもない声を放ち続けた。
何度も何度も、背を弓なりにして悶える。
だが、女は巧みに、エマが絶頂しそうになると、快感を緩めて、寸前で逸らせてしまう。
張形も挿入したまま、振動がぴたりととまる。
そして、しばらくすると、張形の振動と指による愛撫が再開するのだ。
それを幾度か繰り返された。
エマは翻弄された。
「さて、じゃあ、十分に感じているときの声は写せたし、一度天国に行ってもらおうかね」
今度は胸を揉んでいた手を股間に持ってきて、またもやクリトリスを摘まむようにして愛撫してきた。そのあいだも張形はぶるぶると動きまわっている。
しかも、女は張形を魔道で振動させたまま、前後の律動を加えてきた。
それだけじゃなく、張形の振動が激しくなる。
すべての愛撫がエマを絶頂させるためのものに変化した。
「ああっ、それはだめえ、だめえええ」
我慢したくても我慢などできない。
喉の奥から嬌声が出る。
どうしようもない。
「ああっ、はううっ、ああああっ」
エマの背中が大きく跳ねて、喘ぎ声が大きくなる。
ついに、快感の極みが襲いかかってきた。
「だめええ、ああああっ」
快楽の津波が起き、両腿が激しく震えて、乳房がぶるぶると揺れる。
がくんがくんと痙攣を繰り返し、やがて、すべての力が抜けてしまった。
達してしまったのだ。
「ははは、気持ちよかったようだねえ。とにかく、お陰で、いいものが収集できたよ」
勝ち誇ったような口調で、後ろにいた女がエマから手を放して、エマの顔側に回ってきた。
それはともかく、エマは愕然とした。
女が手を放しても、股間に挿入されている張形がそのままなのだ。
それだけでなく、いまだに、魔道による蠕動運動を続けている。
「あ、ああ、ちょ、ちょっと抜いてよ──。こ、こんなのいやああ」
エマは座禅転がしの不自由な姿勢のままもがいた。
すると、女は覆面のまま、エマの前に胡坐に座り、声をあげて笑った。
「ははは、随分とお気に入りみたいだからね。朝までそのままにしてやるよ。魔道で外に出ないように封印してあげたから、朝まで好きなだけいきな。いずれにせよ、しばらく付き合うことになるんだ。挨拶代わりだね」
女が笑い続ける。
朝までこのまま──。
冗談じゃない──。
「う、うう……ふ、ふざけないで──。こ、こんなことして、ただで済むと……、ああ……ああっ」
文句を言おうと思うのに、痺れが全身に走り回るために、上手く言葉を紡げない。
絶頂をしたばかりの身体に、再び重い快感の波が昇ってきた。
「いくらでも悶えなよ。この部屋には、誰ひとり訪ねてくるような者がいないのは、十日間で調査済みさ。あんたについては、しばらくのあいだ、この部屋に監禁させてもらう。どこにも行く必要はない。食事は運んでくるし、糞尿の世話もしてやる。まあ、ずっとあたしがそばにいるってわけにはいかないけどね」
ここに監禁──? しかも、十日も前からいた?
だが、なにを言っているのか理解できない。
思考ができないのだ。
股間の玩具に翻弄されて、喘ぎ声と腰の震えがとまらない。
すると、首にがちゃりと首輪がかかった。
なんとか顔をあげると、首輪には鎖が繋がっていて、いつの間に取りつけたのか、天井に金具があり、そこに接続されている。
鎖の長さから考えて、エマはこれを外してもらわない限り、寝台からおりることもできないだろう。
「ああっ、お、お願い、こ、この股間のものだけでも、ぬ、抜いて、あああ、んぐうう、あああ、死ぬうう──。このまま、朝までなんて、死んじゃううう」
「死ぬかどうか、一回試してみればいいじゃないかい」
女が覆面を取った。
エマは目を見張った。
なんと、そこには、エマ自身の顔があったのだ。
「ええっ、えええ?」
顔だけじゃない。
気がつくと、身体の体形そのものもそっくりになっている。
どういうこと──?
驚愕したが、すぐに、女がずっと顔や声を写すという言葉を使っていたのを思い出す。
つまりは、この女は、エマに顔と声と身体を魔道で写し取り、おそらく、変身の魔道か、魔道具で姿と声を写しとったのだと悟った。
そういえば、喘ぎ声も覚えるとか言っていたし、この部屋に乗り込んだのは、エマと入れ替わるのが目的──?
「くっ、んひいい、あ、あんた、あんた、誰よおお──」
喘ぎ声が出るのを必死に耐えて、エマは叫んだ。
「あたしの名はノルズ……。この城塞に潜入してきた諜者だよ。そして、さっきも言ったけど、ここにはしばらく厄介になるつもりさ。この部屋を占拠する処置はもう終わってる。まあ、部屋代代わりに、あんたが退屈しないように調教でもしてやるよ」
ノルズと名乗った女が酷薄に笑った。
エマの顔で……。