【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
眼を開くと、天井が見えた。
感じたのは、手足がばらばらになるような疲労感と、信じられないくらいの数の絶頂によって引きあげられた快感の余韻による恍惚感……。
そして、空腹だ。
拘束されていた四肢の縄は解かれていた。
手首を見たが、これ以上ないというくらいに暴れまくったはずだが、傷どころか、縄の痕さえも皆無だ。
アスカが魔道で治療したのだろう。
抱くときには、百合愛の相手のエマをとことんいたぶるくせに、底の部分では優しいのだろうか。
ノルズは、苦笑した。
横を向く。
寝息をかいているアスカの裸身がある。
あれだけ意地悪く抱くくせに、アスカは本当にこのエマという女を大切にしている。
そういえば、傷だけでなく、身体もかなり回復していると思う。
あんなに激しく抱かれれば、こんな疲労感だけで済みはしないだろう。
それで、ふと気がついたが、全身の汗や体液もきれいになっている。
全部、アスカの魔道だろう。
この女は、自分が愛する者にだけは本当に優しい。
憎しみに対しても容赦はないが、実際には、大して怒りも持続しない。
まるで子どもだ。
ノルズは、どうしてもこの女を嫌いになれない自分を感じていた。
「起きたのかい、エマ……?」
エマの姿のノルズが身体を起こしたことで、アスカも目を覚ましたらしい。
あるいは、ただ横になっていただけかもしれない。
「なにか、口に入れるものをお持ちしますね、お姉様……」
ノルズは立ちあがって、裸身に灰色のローブを被った。
並外れた魔道の能力を持つアスカは、その力で、食事や飲み物を長く口にしなくても、飢えや渇きを凌ぐことはできる。
そうでなければ、こうやって、丸一日、中断なく女同士で愛し合い続けるという行為を繰り返すことはできない。
でも、アスカはできる……。
それ程の魔道遣いということだ。
また、アスカ自身だけでなく、その相手をするこのエマにも、そうやって体力を保持させることもできるのだ。
だけど、必要がないというわけじゃない。
やっぱり、実際に食べたり、飲み物を飲んだりするのと、ただの回復術とでは、まったく回復力が異なる。
「ああ、軽いものでいいよ。ちゃんとした食事はいらない。手で摘まめるような簡単なものを準備しておくれ、エマ。ここで一緒に食べよう」
アスカが言った。
「ここって、寝台の上でですか? お行儀が悪いですよ」
ノルズは、エマの声で笑った。
「知ったことかい。どうせ、この部屋に来るのは、お前を除けば、あのパリスくらいのものじゃないかい。誰に遠慮がいるものかい」
アスカが吐き捨てた。
エマは、わざと顔を曇らせてみせた。
すると、アスカがちょっと不貞腐れたような表情になった。
意外な可愛さに、ノルズは噴き出した。
「仕方ないですね。では、ちょっとしたものを持ってまいります。寝台の上で食べれるようなものを」
「そうこなくっちゃね」
アスカが白い歯を見せた。
笑うと、この希代の魔女が驚くほどに可愛らしい顔になる。
ノルズも笑ってしまった。
だが、しばらくしてから、表情を真顔に戻す。
ノルズの醸し出す緊張が伝わったのか、アスカが口元から笑みを消す。
「ところで、アスカ様、お話が……」
ノルズはエマの声で言った。
その声は完全にひそめられていて、この部屋を密かに見張っている外の見張りに聞こえないようにしたものだ。
「どうかしたかい?」
アスカが怪訝な表情になる。
だが、ノルズは、この数日を決行の日と決めていた。
いま、このアスカ城の状況は、ノルズの企ての実行に千載一遇の機会だ。
なぜか、この十日くらいのあいだの、アスカ城から、どんどんとパリスの主立つ部下はどんどんといなくなっている。
なにが起きているのかは、この城塞の中ではよくわからない。
なにしろ、この城塞がアスカの牢獄であるということもあるが、完全に外からの情報を遮断するようにな態勢になっているのだ。
いかにノルズといえども、ここに閉じこもっていては、外の状況の詳細はわからないのだ。
しかし、色々と考えたものの、ノルズは、この絶好の機会を利用して、アスカを囚われの城塞から連れ出そうと思っている。
そして、そのための絶好の条件が整いつつあるのだ。
いずれにしても、大きな組織を背景にしているパリスだが、実のところ、驚くほどに信頼のおける部下というのが少ない。
いや、実のところ、パリスはもしかしたら、誰ひとりとして信用をしていないのかもしれない。
ノルズ自身、パリスには実力を買われているという認識をしていたのだが、実際には、いつの間にか「死の呪い」を刻まれていて、パリスにとってはノルズなど、使い捨てるだけの道具にすぎなかったの理解した。
とにかく、このアスカ城から人が減っているのは、パリスが呼び出しているのであり、その行先はナタル森林らしい。
あるいは、ハロンドールだ。
いま残っているのは、明らかに二線級、三線級の格下ばかりというところだ。
ノルズの方もまた、ずっと準備していたことがやっと整っていた。
あとは、ちょっとした処置をしてから、このアスカをその気にさせるだけだ。
ナタル森林にパリスが目をつけているのは、以前から知っていたので、そっちに人が向かうことはわかっていたが、ハロンドールにも人が送られているのは気になるところだが、まあ、この城塞における「仕事」が終わって、状況を確認する機会が得られれば、すぐにわかるだろう。
「アスカ様、ここを脱走しましょう……」
ノルズは声を低めていった。
「脱走?」
アスカの眉間に皺が寄った。
実のところ、アスカを逃亡させるという計画を抱いて、エマとして、このアスカの前に通う目的はふたつだ。
ひとつは、アスカの私室の前に刻まれている魔道錠だ。
アスカの脱走が不可能となるように、パリスが刻んでいるものであり、アスカはこれにより、部屋の外に出られないだけでなく、いまは、「影」と呼んでいる自分の分身も出せないらしい。
これを幾度もこの部屋を出入りできる「エマ」という立場を利用して、少しずつ細工をしている。
その結果、やっと準備が整った。
あとは、最後の魔道を刻んでしまえば、魔道紋が連鎖的に解体されて、魔道錠が崩壊する。
ただ、ノルズがそれをしない限り、一瞬接したくらいでは、魔道錠への細工が進んでいることはわからない。
そんな状況になっている。
もうひとつは、アスカをその気にさせることだ。
この城塞を脱走させる手段が整っても、肝心のアスカがその気にならないことには話にならない。
ところが、ノルズがエマの姿で、もしも可能ならば、逃亡をしないかと、なんとなく仄めかしても、まったく反応がない。
そのなことはできないと諦めているというよりは、すでに厭世的になっていて、もはや、この囚われの境遇から抜け出そうという気持ちがないみたいだ。
闇魔道による操りが得意なパリスなだけに、アスカを奴隷状態にしている可能性はあるが、魔道師としての能力が飛びぬけているアスカを真の意味での奴隷状態にすることは、さすがにパリスでも不可能なはずなのだ。
アスカに逃亡の意思が抜けているのは、アスカ自身の感情的なものだと思う。
「できると思います……」
ノルズはエマの口調で声をひそめていった。
アスカの顔がさらに険しくなる。
疑っているというよりは、信憑性そのものを疑っている気配だ。
だが、数日前から、ノルズがこのアスカに仄めかしているのは、このアスカ城からの脱走計画だ。
つまり、このアスカをこの囚われの城塞から連れ出し、上手く騙して、ロウに引き合わせ、性支配をさせてしまおうと思っている。
このアスカがロウを殺そうとしているということはわかっているし、そもそも、ノルズはそれを制するために、ここに潜入してきたのだ。
だが、アスカに会って気が変わった。
実際には、この気紛れ魔女は、大した執着をロウには示していないということはわかったし、ロウにとっては、それほどの脅威ではないと悟ったからだ。
もっとも、面を向かって会うことがあれば、アスカも、ロウへの恨みを思い出して、ロウへの殺意を思い出すということがあるかもしれないが、このアスカは、この城塞の囚われ女であり、ロウから接近をしない限り、アスカがロウに支配される機会はない。
だから、アスカをロウの前に連れ出すのだ……。
魔道をロウに行使することのできない状態で……。
その手段も整っている。
だが、肝心のアスカがその気にならなければ……。
「……このままでは、わたしは、パリスに殺されると思います。処分されるんです……」
口からのでまかせだが、アスカの目が大きくなる。
ノルズは、指を口の前に持っていて、アスカの言葉を制した。
「…お静かに……。…この部屋は見張られてもいます……。盗聴もされています……」
ノルズは言った。
ほんの聞こえるか聞こえないかの声で……。
アスカが不審顔で頷く。
だが、見張られているという事実については、アスカの反応はほとんどなかった。
なにをいまさらという表情だ。
この部屋が監視されていることをアスカが知っているのか、知らないのかはわからなかったが、いまの表情から判断すれば、監視され、会話を聞かれていることなどは、やはり、知っているのだろう。
しかし、知っていて、あんな風に平気で百合の性愛をするとは……。
ちょっとノルズは鼻白んだ。
まあいい……。
ノルズは、アスカにそっと抱きついた。
耳元に口を持っていく。
「この部屋にかけられている魔道錠の結界を緩める方法を発見しました……。数日以内には整います。逃げましょう……。ふたりで……」
ほんの小さな声だ。
さすがに、外の連中でも声を拾えないくらいのものだ。
いずれにしても、エマをだしに使うのは、これでアスカの反応を読むためだ。詳しいことは知らなかったが、ここに来て噂を拾っていくうちに、以前にアスカの愛人だったエルスラ、つまり、ロウのところにいるエリカがこの城塞を逃亡したとき、アスカが怒り狂って、城塞を脱走して追いかけようとしたというのは耳にした。
この城塞ではかなり有名な事件だったらしい。
それと同じことができないか……?
ノルズが考えたのはそれだ。
反応がなければ、それで終わりであり、もしも、エマがどこかに連れ去れたと知れば、もしかしたら、いまはその気になる気配もないアスカが、激怒してエマを追おうとするとではないか……。
まあ、だめで元々だし、うまくいかなければ、ほかの方法を考えればいい。
しかし、この十日のアスカのエマへの執着を考えれば、エマをなんとかすれば、アスカが追いかけようとする可能性は高い気がする。
「な、なに?」
ところが、アスカの目が丸くなり、大きな声をあげた。
ノルズは、慌ててアスカに飛びついて、唇でアスカの口を覆う。
どうして、わざわざ大声を放つのか──。
外の連中が見張っていると教えたじゃないか──。
ノルズは腹をたてつつも、アスカの口に舌を差し入れて貪る。
見張っているパリスの手の者たちからすれば、淫乱な女ふたりが、百合愛の余韻に耽って、またまた口吻を始めたくらいに認識していると思う。
「食べ物を持ってまいります──。ただ、すぐに戻ります。そのときに、お話をしましょう。食事をしながら……」
そして、ノルズは、アスカから離れて、少し大きめの声で取り繕うように声をあげた。
この部屋を見張る者がいることは確かだから、いまは迂闊なことは言えない……。
ノルズは、それを視線で訴えた。
アスカはわかったようだ。
だが、アスカは動揺している気がする。
これなら、もしかして、アスカをその気にさせることができるか?
「すぐに戻ります……。そのときは、また、愛してください、お姉様……。そして、いまの言葉をお考えを……。エマはいつでも、アスカお姉様のお味方ですから……」
ノルズは飛び切りの笑顔をアスカに向けた。
そのまま、服を整えてから外に出ていく。
部屋を出るとき、アスカはまだ服を着ていない状態で寝台に座っていたが、困惑顔でエマの姿のノルズを呆然と見つめているように思えた。
「味方なあ……」
アスカはエマの後姿を見送り、彼女が扉の外に姿を消すと呟いながら嘆息した。
*
封印の護符の影響を受けないノルズは、なんの抵抗もなく部屋を出ることができた。本来は、エマに対してのみの結界の緩みなのだが、エマに取って代わったときには、ノルズはそう処置し終わっていた。
その結界の処置に、事前の十日ほどがかかったのだ。
そして、さらに十日……。
すでに、準備は終わっている。
次は、いつ実行するかということだ……。
まずは、アスカをその気にさせる……。
「おう、終わったかい、淫売──」
部屋の外には警護という名の見張りがふたりほどいた。
アスカがアスカ城の本当の支配者ではないと知っている兵たちの一部だ。
つまりは、パリスに直接仕える一隊の一員ということだ。ただ、こいつらは小者だ。酒を飲みながら、赤い顔でノルズをからかうような言葉を送ってくる
少し前までは、もっと多かったが、数日前にパリスの呼び出しがあり、さらに少なくなった。
「アスカ様にお食事を運ぶだけです。すぐに戻ります……」
エマはそれだけを言った。
「そして、また乳繰り合うのか? 相変わらず、淫乱な女たちだな。乳繰り合う声がここまで聞こえていたぜ。だが、女同士なんてもったいねえぞ。よければ、いつでも相手をするがな」
ひとりが卑猥な顔をノルズに向ける。
「わたしに手を出すと、とんでもない目に遭いますよ。ちょっと性病にかかっているかもしれません。手を出すと、あれが腐って落ちるかもしれませんよ。お気をつけください。わたしたちは女同士なので、問題ありませんが」
ノルズはうそぶいた。
実際、股間に男の性器に害を与える毒を仕込んでいる。
最初のときに、ひとりが「エマ」をからかって犯してきたので、その毒を喰らわせてやった。
性器が股間に触れたところで、毒液を浸してやった。
もちろん、挿入はさせていない。
耳にしたところ、そいつは男根が真っ赤に腫れて大変だったらしい。
魔道で治療はしたらしいが、それ以降、手を出そうとする者はいなくなった。
「ちっ、ふざけやがって──。調子に乗るんじゃねえよ。ただの淫売が──」
「だったら、アスカ様よりも上手にわたしを気持ちよくしてくれるんですか? そんなのあり得るわけないじゃないでしょう。せめて、素人童貞を卒業してから来てください」
わざとらしく鼻を鳴らして、侮辱してやった。
「なんだと──」
すると、その男が真っ赤になった。
だが、隣の男に、たしなめられている。怒って乱暴をしてくることはないようだ。
「調子に乗るんじゃねえぞ、雌犬──」
しかし、離れていくときに、捨て台詞のような言葉をノルズの背中にぶつけてきた。
同じ悪態しかつけないのか──。
まあ、その程度の男ということだ……。
ノルズは無視して、その場を立ち去った。
そして、廊下を進んでいく。
しばらく城の中を歩く。
アスカの居室から離れれば、ノルズなど、この城で働くどこにでもいるような女中か侍女にしか見えない。
そろそろ、夜のようだ。
城の中には、ほとんど人影などいなかった。
ノルズは、今夜、決行しようと決めていた。
まずは、第一弾──。
あの女をこの城の外に出す──。
今夜がその日だ。
ノルズは、軽食が準備してある厨房には立ち寄らずに、そのまま私室に向かった。
やがて、私室に到着した。
部屋に入る。
誰もいない……。
見張りもない。
大丈夫……。
パリスたちも、アスカこそ見張るものの、その愛人で召喚術を覚え込ませようとするが、何度やっても、それが成功しない役立たずの娘など、相手をするのも馬鹿馬鹿しいと思っているのだろう。
準備してある袋荷を担ぎ、絨毯を剥いだ。
床に仕掛けている紋章に手を置く。
すると、壁がすっと消滅して、そこに床下の隠し部屋に向かう階段が現われる。
そこを降りていく。
地下を進む狭い通路があり、その奥に扉がある。
この部屋には、ノルズが施した防音の結界がしてある。どんなに大声を出したところで、外には中の音は洩れない。
それどころか、この場所の存在そのものが、誰にも知られていない。
この場所を作るのに、大変な苦労をした。
扉の外で、ノルズは指している『変身リング』を作動させて、エマに成りすましている変身を解いた。
そして、今度は、エマではなく、アスカの顔になる。
「エマかい──。本当に、ここにいるんだね──?」
中に入って扉を素早く閉じると、ノルズは、アスカの声でわざとらしく怒鳴った。
部屋はただの物置だ。
指を鳴らして、魔道の照明をつける。
そこにはひとりの女がいた。
その女は、下着姿で柱にお尻を床に付けた状態で胴体を縛られ、足首も括られていた。
ノルズを認めて、その女が猿ぐつわの下から激しく呻き声をあげた。
顔に涙の痕がある。
ふと見ると、下着がびっしょりと濡れて、股の下には失禁の痕があった。
我慢できなかったのだろう。
ノルズはくすりと笑った。
ここに監禁して十日ほどになるが、いつもは拘束はしていない。アスカが監禁されているのと、同様の方法で魔道で出られなくしているだけだ。
しかし、今日は最後になるし、ちょっと苛めてやりたかった。
だから、いつもは、毎朝させる小尿をさせずに、こうやって縛ってやったのだ。
案の定、お洩らしをしている。
それもあって、いつもよりも、惨めそうな表情だし、アスカの顔を見られて嬉しそうでありながら、羞恥で顔が歪んでいる。
本当に苛めれば苛めるほど、いい顔をする。
この女を愛人にして愉しむ、アスカの気持ちがよくわかる。
この十日、アスカに抱かれて愉しんだが、一方で、このエマを監禁して性的ないたぶりを続けるのも愉しかった。
最初は、処分してやろうと思っていたものの、アスカを処分するという計画を修正したので、この娘を使う必要が出てきた。
アスカがこのエマを大切にしているのはわかったし、このエマがさらわれたとなれば、アスカは目の色を変えて探そうとするだろう。
この城塞をなんとしても、脱出しても……。
「んんんんんっ、んんんんんっ」
エマの顔が歓喜に歪んだ。
この部屋に監禁して一箇月。
やっと訪れた救出だ。
エマの眼からぼろぼろと涙がこぼれる。
「助けが遅れて悪かったね──。知っていると思うけど、わたしは“影”だよ……。本体は部屋の中だ。お前をここに監禁していたのは、あのパリスと、その息がかかったノルズという女だ。しかも、忌々しいことに、そのノルズは、よりにもよって、ずっとお前に変身していたんだ。本当に悪かったよ」
ノルズはエマの猿ぐつわを解いた。
「ああ、アスカお姉様──」
エマは、拘束されたまま、アスカに対して歓喜の声をあげた。
「エマ、覚悟を決めな。ここを逃亡する。一緒にね」
ノルズはアスカの顔で言った。
エマの目が大きく見開かれた。