【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
南に向かう。
イットは、後ろをゆっくりと進んでくる幌馬車の前を進みながら、周囲の警戒をしている。
今日については、いまのところ、行き交う旅人はいるが、魔獣や魔物は出現していない。
もっとも、得体の知れない気配はある。
ナタル森林における魔獣の出現率は異常としかいえないが、エランド・シティに近づくにつれ、魔獣との遭遇頻度は高くなった気もする。
今日はまだ、出くわしてはいないだけであり、陽が中天に達するまでに一度も魔獣が現われないのは、むしろ大変に珍しい。
いつもだったら、すでに二、三回は魔獣の襲撃を受けている気がする。
だが、ほんの一年前くらいのときには、ナタル森林の森林街道で魔獣に襲われることなどなかったのだ。それが日に何度も魔獣や魔物に襲われるのが常態になっている。
まあ、一年前の前回のときは、イットはアンドレという隊商の主人の性奴隷のひとりだったのだ……。いまは、アンドレが捨て殺そうとしたイットをロウが引き取り、いまはナタル森林を南に進むように旅に加わっている。
とにかく、一体全体どういうことか……。
一方で、股間のむず痒さは続いている。
ロウが朝にイットに嵌めた貞操帯の張形に塗った油剤のせいだとわかっているが、どうすることもできない。
黒い色の革でできている貞操帯には、ロウによる「淫魔術」の錠がついており、イットの獣人族としての怪力でも、引き千切るのは不可能なのだそうだ。
つまり、貞操帯の内側には、小さな張形がついていて、それがイットの花唇を打ち抜いているということだ。
ロウから命じられている「調教」の一環であり、今日は、しばらくのあいだ、このまますごすことを指示されていた。
膝までのスカートを着ているので外からはわからないが、張形を装着したまま歩かなければならない恥ずかしさは堪らない。
だが、その恥ずかしさがいい……。
そんな風に考えてしまうイットが内面に存在するのも事実だ。
ナタル森林は、エルフ族の国ともいうが文化は独特だ。
ハロンドール王国を始めとした人間族の国のように、森林を切り拓いて都市や村落を築くということはなく、太古からの森林をそのまま生かしたまま、その自然の中にエルフ族の集落を溶け込むように作っている。
だから、森林を貫く街道はあるのだが、それに繋がっているはずのエルフ族の集落を見つけることは難しいらしい。
魔道に長けるエルフ族が集落への入口を結界で隠している場合も多いらしく、知らぬ旅人はエルフ族の里がすぐ横にあっても、気がつくことなく通り過ぎることも多いという。
だが、この数日は、旅の様相も変わってきた。
街道を塞ぐような城壁のような関所のような施設も、時折、見られるようになったし、街道沿いに限れば明らかに人の手が加わったような畠も見えるようになった。そこで働くエルフ族もだ。
それだけでなく、昨夜くらいから野宿ではなく、エルフ族が開いている宿場町で宿をとって泊まれるようになった。
予定では、今夜も宿屋に宿泊予定だという。
やはり、これもエランド・シティに近づいているからだろう。人の集まりが密になっているのだ。
エランド・シティ……。
ナタル森林における唯一の城郭であり、エルフ族の女王であるガドニエルが支配する浮遊都市だ。
ロウたちの旅の目的地は、そのエランド・シティだそうだ。
よくわからないが、ロウは、ユイナというエルフ族の少女をそのエランド・シティに探しにいくらしい。
イットが教えられているのは、ユイナというのは、ロウたちに縁故のある少女らしく、ロウによれば、ユイナというエルフ族の少女は、なんらかの陰謀に巻き込まれているのではないかということだ。
それがどんな陰謀なのか不明であるものの、この旅にも同行しているイライジャという褐色エルフ族の美女の
だが、ユイナをさらったのは、エルフ族の女王ガドニエル自身だという情報もあり、シティに到着しても、どうなるかわからないという。
まあ、イットは、ロウに仕えるだけであり、ロウが戦えというのであれば、相手はエルフ族の女王であろうと、そのエルフ族の軍団であろうと、火の玉になって突っ込んで、武器である爪の刃を振るうだけのことだ。
それが、死ぬはずだったイットを助けてくれ、隷属の首輪まで外し、イットに「自由」を贈ってくれたロウへの恩返しであると思っている。
イットは、ロウからもらった「自由」な意思で、ロウに従うことに決め、性奴隷として調教してもらうことを選んだ……。
それにしても……。
昨日宿泊した宿場町を出立して、すぐに装着され、やっと股間のディルドの違和感には慣れてきたと思ったが、ほんの少しずつであるが、だんだんと強くなっていく妙な痒みには慣れない。
おそらく、定期的にこうやって媚薬が張形から、媚薬が染み出る仕掛けにでもなっていたに違いない。張形だけなら気を張っていれば問題ないとまで考えていたものの、媚薬が加わったとあらば話は異なる。
イットの性感は刺激され続けており、隙間がないほどに締めつけているはずの股間の貞操帯の隙間から、それでも抑えられない汁が染み出てくるのがわかった。
「大丈夫、イット? まあ、ロウにも困ったものだが、その貞操帯を装着してしばらく過ごすのは、新入りの儀式のようなものだからな……。まあ、魔獣が出現したら、すぐに外すはずだったとは思うが、今日に限って街道も平和だ。それで長引いているというわけだが……」
声をかけてきたのは、今日はイットともに、幌馬車の外を警戒要員をして歩いているシャングリアだ。
このパーティは、ロウを中心とした冒険者の集まりであるのだが、もともとのパーティ要員と、今回の旅で新しく同行することになった者とに分かれるらしい。
もちろん、イットが一番新しい要員なのだが、今回のクエストの依頼者というかたちのイライジャ、イットと同じ歳らしいが、とてもそうとは思えない巨体で筋肉質の美少女のマーズ、そして、十一歳ながらの高位魔道師のミウが新入りということのようだ。
それに対して、いま声をかけてくれた人間族の貴族騎士のシャングリア、いまは、幌馬車の中でロウの相手をしてるはずの一番奴隷でエルフ族の美女のエリカ、さらに、やはりに人間族のコゼが昔からのロウの
「も、問題ありません……」
イットは街道を歩きながら言った。
だが、それは実際には空元気だ。
気を抜くと、脚ががに股になってしまうので、イットは意識をして両膝を閉じて歩いている。
そのために、股間の張形を締めつける格好になって、媚薬がかなり効いてきている。いまは、一歩進むごとに、じーん、じーんという甘美感が股間から全身に駆け抜けている。
「そうか。でも、無理はしない方がいいと思う。先生も調教とはいいながらも、危険を賭してまでやるつもりはないはずだし、そろそろ外してもらってはどうだろう」
今度はマーズが声をかけてきた。
股間に淫具を挿入しているイットは、実際のところ警戒要員というよりは、ロウの性癖による趣味を満足させるために、外を歩かされているといっていい。
実際の見張り役は、シャングリアとマーズであって、イットはその後ろ側であり、幌馬車のすぐ前を歩いている。
ロウにも、とにかく魔獣が出現したら、すぐに馬車に戻れと言われていた。
「まったく、危機感もないったらないわね。でも、満更でもなさそうね、小猫ちゃん」
笑ったのは馭者台のイライジャだ。
戦闘要員ではないイライジャは、イットが加入してからのほとんどを馭者台ですごしていて、そこで馬を操っている。
同行の女たちのうち、戦闘要員はこうやって外の警戒もするし、魔獣や魔物に阻まれれば、その駆逐もするが、イライジャにはそれができないので、代わりに馭者に専念し、戦闘役の女たちを休ませる時間を作ると言っている。
もっとも、幌馬車に入ればロウがいて、そのとんでもない絶倫の性の相手をしなければならない。
今日はずっとイットは外歩きだが、さっきまで警戒員を務めていたエリカとコゼは、いまは中にいる。
おそらく、ロウの性の相手をしていると思う。
声は聞こえないが、それは防音の魔道護符を使っているからであり、幌馬車の中では絶え間のない男女の営みが続いているのをイットもわかっている。
だが、それも問題ないのだ。
ロウは「淫魔師」とやらであり、ロウから与えられる快感はとてつもないので、ほとんど身動きできないほどに追い詰められるのだが、魔獣が出現したという状況になれば、その淫魔術で瞬時に身体の回復をさせることができるのだ。
本当に不思議な術であり、本来は魔道を受けつけないはずのイットでさえも、ロウにかかれば、瞬時に正常な状態に回復させてもらえる。
だからこそ、いまのように、危険であるはずの旅のあいだに呑気に「調教」を受けるということができるのだ。
ロウとその女たちの不思議な結びつきがなければ、もっと緊張感のある旅をしなければならないはずだが、信じられないくらいに、ロウたちはナタル森林を縦断する旅を愉しんでいる。
「そ、そうですね……。た、愉しんでいるかもしれません、イライジャさん」
イットはそれだけを言った。
調教を愉しむ……。
そんな感情になるなど、少し前だったら想像もできなかったが、さっきのイライジャの言葉ではないが、満更でもないと思っているのは本当だ。
それはともかく、エルフ族というのは、人間族以上に獣人族に対する蔑視感情が強いとは耳にしていたが、このイライジャについては、まったくイットを蔑む態度は感じない。
いや、イライジャだけでなく、このロウやその仲間は、まったく分け隔てなく、イットに普通に接する。
ずっと、獣人族に対する差別感情に接してい生きてきたイットとしては、逆に居心地が悪いと思うほどの親しみ易さなのだ。
まあ、同じ男性に抱かれる女同士という気安さもあるのかもしれない。
例外は、一番奴隷のエリカだ。
よくわからないが、ずっと睨むような視線を繰り返し向けることがある。
まあ、エルフ族は、選民意識が強く、特に獣人族嫌いということが有名なので、エリカの態度が普通といえば、普通であるのだが……。
「だけど、我慢できなくなったら、馬車に入りなさい。本当はロウも、あんたが音をあげるのを待っているのよ。それにしても、そんな貞操帯を装着して、半日も歩き続けられるなんて、やっぱり獣人族の体力というのは想像を絶するわね。媚薬も滲み続けているんでしょう?」
イライジャがからかうように言った。
「で、でも、ご主人様の言いつけですので……」
「ロウはあんたが歩けなくなるのを待っているのよ。わたしには、見張っていろと言っていたしね。だけど、思いのほか、いつまでも元気なので、そろそろ痺れを切らしているんじゃない」
イライジャが笑った。
イットは視線を馭者台に向けた。
意味ありげに微笑んでいる。
ロウの仲間の女たちは、全員がひと癖もふた癖もあるが、このイライジャもわからない。
この旅の一行の中では、ロウを補佐するかたちで、旅の仕切りをする。
道案内や宿屋の手配、野宿をするにしても、その適地などに誘導するのは、イライジャの役目だ。
だが、それでいて、百合好きの責めの性癖がある。
エリカやコゼがからかわれるように、イライジャに縛られて遊ばれているのをすでに数回目撃した。
とにかく、イライジャに限らず、性愛にかけては、とことん弾けるのが、このロウの仲間だ。
そのときだった。
幌馬車の中から、ロウが顔を出した。
汗で額に髪が張り付いている。
顔も上気しているし、たったいままで性行為をしていたのは明白だ。
「そうだな。まだ、痺れを切らさないのか……。本当はじわじわと追い詰めるようとしていたんだけど、思いのほかだ。獣人族というのはまったく想定外だね」
「想定外……? はうっ」
思わず、その場で腰を落としかけた。
突然に股間の張形が振動を始めたのだ。
脳天まで突き抜けるような衝撃を感じた。
「くっ」
懸命に脚に力を入れて辛うじて踏ん張る。
すると、すぐに振動が静止した。
「気に入ったか、イット? これが俺の性奴隷になる洗礼だ。そこにいるシャングリアもマーズも仲間になったときは、この貞操帯の調教を受けた。エリカもコゼもな」
ロウが笑った。
なんと応じればいいのかわからなかったが、返事をしようと思ったら、再び振動が再開した。
「んふうっ」
歯を食いしばってイットは膝をがくがくと震わせた。
また、すぐに振動がとまる。だが、今度は、イットはがくりと脱力した感じになった。
「洗礼ってなんですか? あたしはまだやってませんよ、ロウ様──」
すると、幌馬車の中からミウが現われた。
ロウはイライジャの隣に腰掛けるようにしていてたのだが、ミウは、さらにロウの横にぴったりと座ってきた。
それはいいのだが、ふと見ると、顔が真っ赤だし汗びっしょりだ。
服も乱れているし、完全に情交が終わったばかりという感じである。
十一歳の人間族の童女であり、おそらく、同じ年齢の人間族の童女に比べて、さらに小柄であると思うが、すでにロウの性愛を受け入れることができる。
それどころか、ロウに淫に責められるのが大好きだという、ちょっと過激な性癖を持っている。
だが、とんでもない高位魔道遣いでもある。
とにかく、ミウはロウに愛されるのが愉しくて仕方がないという様子で、いつも迫りまくっている。
「あんたは、まだ半人前だからよ……。それはともかく、ちょっとどいてよ。ご主人様の隣はあたしの定位置よ」
今度は中からコゼが顔を出した。
よくわからないが、ロウの女たちはとにかく、ロウのいる場所に集まる傾向がある。
ロウが馭者台にやってきたことで、いままで幌馬車にいたミウとコゼもやってきたということだろう。
「嫌です、コゼ姉さん。あたしはロウ様にくっつきたいんです──。だけど、洗礼ってなんですか、ロウ様? だったら、あたしも貞操帯の洗礼を受けたいです」
ミウがコゼからロウの隣の位置を奪われそうになるのを、ぐっとロウの腕を両手で掴むことで回避している。
コゼも本気でミウをどかそうとしたわけでもないようだ。
ロウの背後からもたれかかるように、ロウに抱きついた。
これで、幌馬車に残っているのは、エリカだけということになるはずだ。
声もしないのは、あの防音の護符が効いているのかもしれないが、もしかしたら、抱き潰されているのかもしれない。
ロウに抱かれ終ったたばかりだと、とにかく身動きできないというのは、イットも十分に経験している。
また、ミウは言葉の後半は、ロウに話しかけた。
年齢にしては、大変に淫乱さを有しているミウだ。こういうロウの淫らな悪戯は、どうしても興味があるのだろう。
「ミウはそのうちだな。そのうちに、すごく恥ずかしくて、いやらしい調教を準備してやる。まあ、王都に戻ってからかな」
「やです──。ロウ様の性奴隷になる洗礼なら、あたしも早く受けたいです。なんで、イットが先なんですか? あたしの方が早くロウ様にお仕えしているのに」
ミウがぷっと頬を膨らませた。
そういう無邪気な表情は年齢相応だと思う。
内容は無邪気とは、ほど遠いが……。
「なに言ってんのよ、ミウ。貞操帯の調教を受けながら魔道なんて遣えないでしょう。もしも、魔獣が出現して、すぐに対応できなくて不覚をとったらどうするのよ。あなたは、このパーティの大切な魔道戦力なのよ」
さらに、エリカが馭者台から顔を出す。
まだ服ははだけていて、縄の痕がついた乳房の半分が露出している。切なそうに息を吐く表情は、同性のイットから見ても、ぞくぞくするほどの妖艶さを醸し出している。
エリカはコゼを肩で押すようにして、ロウに後ろから抱きつく位置を確保した。
「だったら訓練します。貞操帯を装着しても魔道を放てる訓練をさせてください」
ミウがロウに訴えた。
「ついこのあいだ、魔道が遣えるようになったにわか魔道師がなに言ってんのよ。あんたは、しばらく魔道でも、ご主人様との性愛でも、もう少し経験が必要よ。まだまだ半人前なのよ」
コゼがからかうように言った。
ミウはさらに、面白くなさそうな表情になる。
一方で、ロウは飄々としている。ただ微笑んでいるだけだ。
「あたしは、十分にロウ様のお相手ができます。仲間外れはひどいです──。ねえ、マーズ、あんたも、もう貞操帯調教の洗礼は終わったの?」
ミウが怒鳴るように言った。
マーズとミウは、身体つきは大人と子供としか表現しようがない程に体格が違うが、仲はいいらしい。
イットも、種族の違いはあるが、年齢も近いこともあって、ミウとマーズとはすでに打ち解けている仲になっている。
「あたしは、いつも鍛錬の時間に……。そのう……、貞操帯で責められながら戦う訓練もしてもらっているし……」
マーズが少し顔を赤くしながら応じた。
ミウが「ええ──」と不満そうな声を出した。
「ところで、イット──。まだ我慢できるか? どうしても欲しくなったら、こっちに来てもいいぞ。だが、ぎりぎりまで我慢だ。これも俺の性奴隷になる儀式だしね」
ロウがイットに声をかけてきた。
「ま、まだ、大丈夫です……」
イットは言った。
実際のところ、かなり追い詰められているのは確かだ。
さっき張形の振動で甘美さを味わっただけに、かえってどうにもならない焦燥感に見舞われてしまった。
振動がなくなったことで、むず痒さが拡大して、かなり耐えがたくなってきているのだ。
でも、耐えろというのであれば、もっと耐えたい。
それに、ロウから与えられる苦痛は、苦痛であって苦痛ではない。
なぜか、堪らない欲情を呼び起こし、イットになんともいえない淫情に染まらせる。
ロウがぎりぎりまで我慢しろというのであれば、いまはまだ限界ではない。
もっと耐えてみせる。
「んひいいっ、はうううっ」
すると、いきなり貞操帯に圧迫されているクリトリスが振動を開始してきた。
張形だけでなく、そんな場所も振動すると予期していなかっただけに、衝撃はすごかった。
イットはその場で立ちどまって、下腹部に手を当ててしまった。
そのまま天を仰ぐように身体を硬直させる。
「うう、うくうっ」
食い縛る口から嬌声が洩れる。
駆け巡る感覚は鋭く、甘美な輝きに満ち満ちている。
「イットはあまり、自分からは求めて来ないしな。イットがお願いだから犯してくれと訴えるまで責め続けるかな」
ロウが笑った。そして、振動がとまる。
イットはがくりと膝を落としそうなった。
だが、すでに馬車が追い抜く感じになっていたので、慌てるように小走りで前に出る。
「はんっ」
すると、またもや振動が加わる。
今度は尾が出ている小さな穴の周りだ。
獣人族の女にとっては、尾の付け根というのは、クリトリスに匹敵するほどに敏感な箇所だ。
そこに加わる淫らな刺激に、イットはまたもや歯を食いしばるしかない。
「なんか、ほかの女とは反応が違うよなあ。その懸命に我慢する感じはいいね。責めがいがある」
「うっ」
再び振動。
今度は痒みが襲っている膣の張形だ。
一瞬、立ちどまりかけたが、イットはそのまま走って、馬車の前に位置に戻った。
それでも膝が曲がって、真っ直ぐに戻せない。
振動がとまる。
「や、やっぱり、あたしも調教してください、ロウ様──。ずるいです──」
ミウが叫んだのが聞こえた。
そのときだった。
イットは顔をあげて、遠くの森の影を見た。
異変を感じたのだ。
「停まれ──。戦闘態勢──」
ロウが真面目な顔になり、大声を発した。
ロウも気がついたみたいだ。
シャングリアとマーズが剣を抜くのが見えた。
まだ、それなりの距離があるが、馬車が進んでいる方向の左右の森林から出現したのは、オーガ族の集団だ。
その数は、十……。
いや、二十……。
もっといる──。
オーガ族の大集団だ。
それがいきなり出現した。
「しゃあああああ──」
イットは両手の指に刃物のような爪を生やす。
ガロイン族と呼ばれる獣人族の中でも最強戦士を自負している。イットたちガロイン族は武器を使わず、戦闘体勢になることで、金属よりも固くなる爪の刃で、敵を斬り裂くのだ。
いまは落ちぶれてはいるが、世が世なら、ガロインの純粋な血を引いているイットは、獣人族の姫君と称しても不自然ではないほどに、ガロイン族とは最古参の種族の末裔だ。
そのまま、敵に向かって跳び出す。
「待ちなさい、イット──」
後ろから悲鳴のような声がしたが、イットは無視した。
前にいるシャングリアとマーズをあっという間に抜き去り、オーガの大集団に向かって駆け抜ける。
股間に違和感があるが、問題ない──。
小さく見えいていたオーガの集団が距離を詰めたことで大きな姿になる。
一匹一匹がイットの背丈の三倍──いや、四倍はある。
それが集まると、まるで山だ。
先頭付近のオーガの集団がイットに気がついて雄叫びをあげる。
それが集団の声となり、地響きとなって地面を揺らした。
「うっしゃあああ」
イットは構わず集団に飛び込んだ。
背中側で喉を斬り裂かれた前衛にいたオーガ族が数体その場に倒れる。
オーガ族が武器を持って、四方八方から一斉に斬りかかってきた。