※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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375 一応、事件解決

【バロンドール王国・ノール離宮】

 

 

 

「……だけど、エルザ妃は、国じゃあ、アーサー大公に首ったけという評判なんだよ。あれが芝居だとしたら、わたしは、彼女のしたたかさを改めて評価しないとならないねえ」

 

「エルザ様はわたしの恩人でもあるんです。そして、彼女は本当に、イザベラ様のことも、アン様のことも大切にされておりました。そのイザベラ様を傷つけることに同意なさるとは思いません」

 

「だけど、昔のことだろう? 女は男で変わるものさ」

 

 マアがうそぶく。

 シャーラは、マアの言葉を否定する気持ちを込めて、首を横に振った。

 

 ノールの離宮の建物に向かって歩く道すがらだ。

 シャーラとマアは横に並んで歩いている。

 ただ、マアはロウにもらった若い姿のままだ。いつもの老婆に見せかける変身の魔具は解いている。

 また、用心棒だというモートレットは、後ろからついてきていた。

 ただ、なにも喋らない。

 美少年にしか見えないこの男装の少女は、余程に無口なたちなのか、ずっとひと言以上を喋らない。

 それとも、シャーラのことを警戒しているのだろうか……?

 マアが、シャーラたちのことは、ある程度喋ったとは言っていたが……。

 

「まあ、確かに、わたしも素で付き合っているわけじゃあないし、公妃という立場のエルザ妃にしか会ったことがないのは本当だけど……」

 

「とにかく、あり得ません──。断言します。そもそも、わたしを姫様に引きわせたのは、まだ冒険者ギルド長を兼任しておられた時代のエルザ様なんです。本当に、エルザ様はキシダインの謀略に脅かされるイザベラ様の境遇に心を痛めておられました。優しいお方なんです」

 

 シャーラはきっぱりと言った。

 随分昔のことのように思うが、まだ数年前のことになる。

 かつて、シャーラはハロンドール王都に流れてきた冒険者であり、当時の冒険者ギルド長は、まだ、就任仕立てだが、第二王女だったエルザだった。

 ハロンドール王都の冒険者ギルド長は、王家から特別な加護が与えられる代わりに、歴代のギルド長を王族から迎えることを習わしにしている。

 冒険者ギルドは王国内で、治外法権的な特別の権利を与えられているが、その実力が王家に背かないための代償というわけだ。

 ただ、王族のギルド長などお飾りでしかなく、冒険者ギルドを本当に牛耳っているのは、代々の副ギルド長だった。

 

 エルザが冒険者ギルド長になったとき、とてもじゃないが、冒険者ギルドは評判がいいとはいえなかったらしい。

 実力はある者が多い反面、乱暴や狼藉をする者も少なくなく、ギルド本部など酒場なのだかギルド事務所なのか、判別に迷うほどだった。

 ナタルの森から出てきたばかりのシャーラも辟易したものだ。

 

 しかし、まだ少女だったエルザは、当時、性質(たち)の悪い与太者の集まりになりかけていたギルドを立て直すため、ギルド長になるや、不正をしたり評判の悪かったギルド員や冒険者を次々に追放した。

 また、老齢で覇気のなかった昔からの副ギルド長を強引に引退させ、当時現役を退いたばかりのミランダを抜擢して、ギルド改革を断行させた。

 その結果、凋落しかけていたギルドを立て直した。

 シャーラは驚いたものだった。

 

 そのシャーラが王家に誘われたのは、エルザとミランダによる冒険者ギルド改革がひと段落してすぐの頃だ。

 冒険者をやめ、童女から少女になりかけていたくらいのイザベラの常駐の護衛をしてくれないかと頼まれたのだ。

 土下座をされて……。

 シャーラは驚愕した。

 

 とにかく、話を聞くと言えば、エルザはイザベラの置かれた危険な状況を説明してくれた。

 秘中の秘だと念を押したうえで……。

 

 つまりは、現王の第一王位継承者には、ふたりの候補者がいるのだという。

 ひとりは第三王女のイザベラ……。姉であるアンとエルザは、魔道力が皆無なため、王家のしきたりで王位継承者にはなれないらしい。

 もうひとりは、キシダイン卿という王族の傍系の男……。

 魔道力は皆無ではないが、高くはない。ただ、やり手という評判があり、多くの大貴族が後押しをしている……。

 

 常識的には、イザベラが後継者として王太女になるのが当たり前なのだが、政務に興味がなくて事なかれ主義のルードルフ王は、大部分の貴族が推すキシダインを無碍にはできずに、ずっと王太子を定めないでいた。

 それが混乱を作っていたのだ。

 

 イザベラさえ「事故死」、あるいは「中毒死」すれば、キシダインが後継者で決定する。

 そのために、まだ童女のイザベラは、絶えず、暗殺の危険に脅かされていたのだ。

 王宮に守る者もいない状態で……。

 

 だから、イザベラについてくれないかと、エルザは頼んだのだ。

 こんなことは、誰にも頼めない。

 王家や貴族には、イザベラの味方をしようとするものなどないのだと……。

 エルザにさえも、そんな力はない。

 シャーラの命をかけて欲しいとまで言われた。

 そして、エルザは、シャーラにその場に土下座をしたのだ。

 

 平民腹と蔑まれているという噂はあったが、エルザは王城生まれの王城育ちだ。れっきとした王族なのだ。

 しかも、現王の直系だ。

 そのエルザが、異母妹の危うい境遇を憂いて、まるで奴婢が主人にかしずくように、床に頭を平伏すなど……。

 シャーラは、そのエルザの気持ちに打たれて、護衛を引き受けた。

 

 ただ、軍に籍のないシャーラは正式の護衛にはなれないので、侍女という立場になることになった。

 幸いにも、シャーラはナタル森林におけるエルフ族の貴族の身分を有していた。もっとも、家出同然に飛び出してきたので、平民も同然だったが……。

 エルザは、それを利用して、王族の侍女になるための、それなりの身分をシャーラに作りあげた。

 力がないとは言ったが、ギルド改革にしても、シャーラを王城に押し込む政務力にしても、エルザはなかなかの者なのだと、そのときシャーラは評価した。

 

 あれから、もうすぐ七年……。

 

 数奇な出会いを経て、シャーラは、イザベラと同じ男に愛されることになり、長く苛酷な戦いを続けてきたキシダインの一派を駆逐することに成功した。

 そして、イザベラは正式に王太女になった。

 シャーラも、侍女という仮初の立場ではなく、正式の王太女護衛長だ。

 

 ロウと出会うまでは大変だった。

 イザベラが美しく成長するにつれて、キシダインの闇工作はどんどんと過激なっていった。

 ルードルフ王は、どんなに実の娘が暗殺の危機に見舞われても、まったく関心を寄せないし、それがキシダイン一派をどんどんと図に乗らせた。

 食事や飲み物への毒の混入は日常茶飯事になり、賊の襲撃もいつものことになっていった。

 イザベラの側近の誘拐も繰り返され、シャーラ自身も一度は捕らわれて、拷問を受けた。

 処女を失ったのも、そのときのことであり、シャーラも暗殺者を捕らえては拷問もした。

 

 死ぬか生きるか……。

 それが日常であり、そういう日々を過ごし続けた。

 よく生きていられたものだと思う……。

 しかし、生ききった。

 だから、いまの日々がある。

 

 いずれにしても、突然に、ノールの離宮に現われ、周囲に駐屯しているライス隊の軍天幕で再会したマアに聞かされたのは、あのアーサーが仕掛けようとしている謀略のことだ。

 つまりは、エルザがこの離宮に現れたのは、エルザの意思ではなく。アーサーの息がかかっていて、イザベラに毒を盛ることを指示されているというのだ。

 目的は、イザベラを殺すことではなく、イザベラが宿した胎児を流させることなのだそうだ。

 

 つまりは、いま、アーサーは、イザベラとの形式婚をルードルフ王に対して、申し入れている。 

 それに対して、ルードルフ王は、イザベラが、一代子爵とはいえ、ロウという冒険者上がりの流れ者の子を宿してしまったということで、子をアーサーの種だと認めるのであれば、要求を呑んでもいいと回答したようだ。

 そういう経緯をシャーラは知らなかったが、ここにやって来たアネルザや、先日、ここに立ち寄ったサキから聞かされた。

 それだけでなく、アンにもまた、胎児の父親となるに相応しい高位貴族を準備するということで、タリオ大公国の貴公子との再婚話が進んでいるという。

 シャーラも、さすがに驚いてしまった。

 

 だが、今回、マアが持ってきたのは、それに関わるとんでもない陰謀だ。

 アーサーは、ルードルフ王には、イザベラの夫になり、子を自分の血筋だと認知すると約束しながらも、実際には他人の子を受け入れる気などなく、形式婚の誓約が成立次第、ここに送り込んだエルザを使って、イザベラに堕胎薬を服用させ、子を流させるつもりだというのだ。

 これが本当であれば、大国ハロンドールを随分と馬鹿にしたものだが、アーサーというのは、戦域などで華々しい功績がありながらも、実はなかなかの陰謀好きらしく、そういうこともやりかねないというのがマアの評価だ。

 マアがもたらした情報なので、それなりに確かなのだとは思う。

 

 考えてみれば、同じ大公にふたりの王女を嫁がせるわけにはいかないので、イザベラを妻にするのであれば、先に嫁いでいたエルザは離縁して返せというルードルフ王の要求はあったらしいが、イザベラとの形式婚が成立する前に、早々とエルザをハロンドールに返すのは不自然だ。

 しかし、エルザをここにやった目的がアーサーの闇工作の手先としてということなら、なかなかに辻褄は合う。

 だが、エルザに限って、そんなことはあり得ないとも思う。

 いずれにしても、エルザに直接に確認する必要があるだろう。

 

「わかったよ。わたしだって、エルザ妃のことを完全に知っているというわけじゃないことは認めるよ。そりゃあ、所詮は、公妃と商人という関係でしかないからねえ」

 

 マアが歩きながら、肩を竦めた。

 そして、離宮に戻った。

 表には警備の兵がいる。離宮の建物そのものには入らないように厳命されているが、彼らはずっと建物に入る侵入者を警戒をしている。

 しばらく前までは、この彼らがシャーラたちを幽閉をする牢の番人の役目だった。

 

 シャーラが若返っているマアとモートレットを連れて入ろうとすると、見知らぬふたりに警備兵たちが緊張を走らせたのがわかった。

 ましてや、モートレットは男姿であり、剣をさげている。

 だが、シャーラが大丈夫だと合図をすると、なにもせずに、通してくれた。

 

 建物内に入る。

 いつもであれば、誰かが広間にいるはずなのに、侍女のひとりもいない。

 なんとなく違和感を覚えたが、奥の貴賓室側になにかしらの慌ただしさを感じた。

 

「おマア様……いえ、マリラ殿、そのまま奥側に行きます」

 

 シャーラは、マアがとりあえず、偽名を名乗りたいと告げていたことを思い出して、名を呼び直した。

 マアは頷いて、シャーラについてくる。モートレットも一緒だ。

 

「あっ、シャーラさまあ──」

 

 エルザの部屋の前に人だかりができている。

 イザベラ付きの侍女たちだ。

 シャーラに気がついて呼び掛けたのはユニクだ。

 

 舌足らずな甘えた口調の独特の喋り方をするが、半分は平民であるイザベラ侍女団の中では、れっきとした貴族令嬢だ。実家も子爵家であり、侍女たちの中ではもっとも実家の地位が高い。

 ただ、貧乏子爵家であり、持参金の準備のあてもないため、王宮に侍女として働いていて、当時は人気のなかったイザベラ王女付きを押しつけられて、現在に至っている。

 すでに二十二歳であり、貴族令嬢としては行き遅れになるのだろうが、本人はロウの愛人になったことで、焦ってどこかに嫁がないでよかったと言っている。

 

 そのユニクがシャーラに声を掛けると、エルザの部屋の前に集まっていた侍女たちがシャーラの名を呼んで部屋の中に入らせようとする。

 

 ただ、一緒についてきたマアの存在にびっくりしていた。

 侍女たちは、若い女であるマアの本当の姿を知っているが、ここにいることに驚いているのだ。

 後ろにいるモートレットには訝しむ気配はさせているが、シャーラとマアが連れてきた者なので、問題はないと判断したのか、なにも触れないではいた。

 

 いずれにしても、シャーラは室内に押し込まれた。

 

「これは?」

 

 シャーラは室内の状況に唖然とした。

 このところ体調の悪かったエルザは寝台で上体を起こした格好で横になっているが、その周りには外にいる侍女以外の数名の侍女に加えて、イザベラ、アネルザ、アンなどが揃っている。

 ヴァージニアもいるし、ノヴァもいる。

 全員が険しい表情だ。

 

 一方で、エルザについているはずのタリオから一緒に来ていた五人の侍女たちは、部屋の隅に床に跪かされ、モロッコに剣を向けらていた。

 

 モロッコは、騎士爵家の長女で、女騎士を目指していたが、剣技が上達せずに、夢を諦めて侍女になったという変わった経歴を持つ。

 ところが、ロウに抱かれたことで、その剣技が格段に向上して、いまや騎士団を含む王軍の中でも五指に入る強さだ。

 それはいいが、これはどういうことだろう?

 

「ああ、シャーラかい。とんでもないことがわかったよ」

 

 声をかけてきたのはアネルザだ。

 顔に怒りを浮かべている。

 

「どうしたのですか?」

 

 とりあえず言った。

 マアの帰還のことは後でもいいだろう。マアもモートレットも部屋の外に待たせたままだ。

 

「毒だ。しかも、エルザ姉様の体調が悪かったのは、こいつらが密かに毒を盛っていたのだ。それだけではないぞ。こいつらの荷から別の毒が見つかった」

 

 イザベラがヴァージニアに合図をした。

 すると、ヴァージニアが平ぺったい手のひらほどの袋を差し出してきた。それを受け取ると、中に液体が入っているのがわかった。

 

「もうひと袋あったけど、それについては、確認をするために開かせたわ。これよ」

 

 ヴァージニアから、さらに小さな杯に入れられた液体を差し出された。

 

「ちょっといいかい? わたしに確かめさせておくれ」

 

 外からマアが侍女を割って入ってきた。影のように従うモートレットも一緒だ。

 

「うわっ、おマア──。なんでここにいるんだい?」

 

「おマア様──」

 

「マア様」

 

 アネルザ、イザベラ、アンが驚いて声をあげた。

 

「えっ、モートレット、なぜここに?」

 

 一方で寝台のエルザには、目の前の若い姿のマアと、女豪商のマアが一致していないのか、マアではなく、モートレットの存在に驚いている。

 マアの話によれば、自由流通の施策を通じて、エルザとマアはタリオで深い付き合いがあったみたいであり、そのときの縁でモートレットも知っているのだろうか……。

 

「いや、こちらは……」

 

 マリラだと言い直そうとして、エルザは口を挟んだ。

 だが、マアにそれを制された。

 

「もういいよ、シャーラ。事情が変わった。エルザ妃はなにも知らなかったということのようさ。だけど、仕組んでいたのは侍女たちなんだね」

 

 マアはヴァージニアが手にしていた杯をひょいと横からとる。

 すぐに、匂いを嗅いだり、指に液体を軽く浸けたりした。

 

「しっかりと検査しないと最終的な判断はできないけど、タリオで生成された毒薬だろうね。間違いないと思う。わたしが追いかけてきたものさ」

 

 マアが杯をヴァージニアに返しながら言った。

 

「お前、タリオから戻ったのかい? 面会人というのはお前だったのかい」

 

 アネルザがマアに声をかけた。

 だが、マアがまたもや、手でそれを制する。

 

「挨拶は後にしますよ、アネルザ殿下。こっちは訳あり護衛のモートレットさ。こう見えても、それなりの美人の女の子でね……。ロウ殿に引き合わせても面白いと思って、連れてきたのだよ。ところで、わたしの警告は必要なかったみたいだね。どうやら事前に阻止できたみたいだ。よかったよ」

 

 マアは言った。

 シャーラは事情を説明してくれと頼んだ。

 ヴァージニアが代表するように、早口で説明する。

 

 それによれば、事が動いたのは、シャーラが軍営の外縁部まで外出しているあいだのことであり、最初は外で洗い物をしていたセクトがエルザたちの部屋から出された茶滓の残りに、かすかな毒の気配に気がついたことから始まったみたいだ。

 

 そして、ヴァージニアに報せて、すぐにエルザについている侍女たちの荷を調査したようだ。

 そのとき、たまたま、エルザの侍女たちの全員がエルザの部屋に集まっていたらしく、ヴァージニアとともに、報告に接したイザベラの指示で、そのまま外に出ないように見張りも立てたみたいだ。

 侍女たちの荷からは、すぐに怪しい薬液のようなものが幾つか発見されたとのことだ。

 

 一方で、アンとノヴァは、それを知らされてはいなかったが、不思議な勘が働いて、エルザの部屋に向かい、外で見張りをしていたモロッコたちとともに、強引に入ったみたいだ。

 すると、まさにエルザは、寄ってたかって無理矢理に毒を飲まされようとしていた真っ最中だったみたいで、あっという間にモロッコたちが、五人のエルザの侍女を取り押さえた。

 騒ぎに気がついて、アネルザもイザベラも、ここに集まった。

 その矢先に、シャーラも戻ったということらしい。

 

「エルザ妃が毒を飲まされていたなら、その毒がわかれば、解毒剤も渡せるかもしれないね。後で届く荷に、それなりの解毒剤を揃えている。モートレットに任せるといい」

 

 マアが言った。

 全員の視線がマアとモートレットに集まる。

 しかし、モートレットは相変わらず、ほとんど表情を動かさない。いまも軽く会釈をしただけだ。

 

「それにしても、とんだ状況のときに戻ったものさ、おマア。ハロンドールの王都のごたごたは耳にしていると思うけど、あれから大変なのさ。ロウのこともね。王都にいる馬鹿垂れが手配なんかしたものだから……。とりあえず、まだ無事なんだろうけど、ナタルの森では連絡も届かないでいるんでね」

 

 アネルザだ。

 マアが軽く頷く。

 

「そっちの状況も承知です。だから戻ったんですよ……。ところで、イザベラ様も、アン様もおめでとうございます。おふたりから元気なお子様が授かりますように。ロウ殿の子なら、わたしたち全員の子どもですね」

 

「そういうことさ。あいつはやっと、やってくれたよ。わたしたちへの最大の贈り物さ」

 

 マアの言葉にアネルザが破顔した。

 イザベラとアンも、顔を赤らめて嬉しそうに微笑んで、小さく頭をさげる。

 すると、マアが一転して表情を険しくして、顔を部屋の隅に集められている五人の侍女に向ける。

 

「だからこそ、許せないね。こいつらが持っていたさっきの杯に入っていたのは、強い堕胎剤さ。おそらくまだ口にさせられてはいないと思うけど、その辺もじっくりと訊問した方がいいね」

 

 マアが侍女たちを睨んだまま言った。

 堕胎薬という言葉に、部屋の全員が顔色を変えた。

 

「堕胎薬?」

「まさか──」

 

 悲鳴のような声をあげたのは、アンとノヴァだ。

 ノヴァが咄嗟にアンを抱き締めた。

 イザベラも顔を蒼くして、自分の下腹部に手で触れている。

 また、五人のエルザの侍女たちは、ますます顔を蒼くした。

 

「訊問ということであれば、あたしの仕事ですね……。全員を地下の牢に連れていきます。地下牢に吊るすまでは、あなたたちに手伝ってもらうわね。それから後はひとりでいいわ。拷問というのは、するのも、されるのも心にくるものですから」

 

 シャーラは、侍女たちをはじめ、周囲に目を配りつつ、溜息をついた。

 一方で、拷問という言葉にエルザに侍女たちが一斉に悲鳴をあげた。

 

「シャ、シャーラ、これでも彼女たちは、わたしによくしてくれたこともあったわ。訊問は仕方ないけど、彼女たちの身柄については、最終的にはわたしに委ねてくれないかしら」

 

 いままでずっと黙っていたエルザが寝台から申し訳なさそうに言った。

 しかし、シャーラは首を横に振った。

 

「申し訳ありませんが、姫様のお腹におられる子も、アン様もお子様も、王族の血を引いております。しかも、直系です。堕胎ということはその王族の子を殺す行為……。ハロンドールの法では、たとえ未遂でも王族への殺人は死刑になります」

 

 シャーラはきっぱりと言った。

 エルザは小さくごめんなさいと言って、口を閉じて下を向く。

 

「ひい、許して──」

「いやああ」

「お許しを──」

 

 五人の侍女たちが悲鳴をあげた。

 

「とりあえず、全員の服を剥いて──。なにも持っていないかを調べてから、ひとりずつ地下牢に連れていって──。アネルザ様、イザベラ様、アン様、これより先は関わりにはなりませんよう。彼女たちから聞き出した情報は後ほどご報告に参ります」

 

 シャーラは言った。

 アネルザたちがシャーラに声をかけてから出ていく。エルザについては部屋を移すように指示していた。数名の侍女たちが動き出す。

 

「シャーラの言うとおりにしなさい」

 

 王妃たちがいなくなると、ヴァージニアが残りの侍女たちに言った。

 侍女たちがエルザの侍女たちに群がり、ひとりずつ押さえつけて服を脱がせ始める。

 

 五人が泣き声をあげた。

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