【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【バロンドール王国・ノール離宮】
五人を素っ裸のまま地下に連れ込み、ひとつの牢に放り込ませた。
全員を後ろ手にして、縄で手首を縛っている。また、足首には歩行に支障のない程度の幅を残して、縄で足首を繋ぎ合わさせた。
歩けはするが、走ることはできないということだ。
ここは、ノールの離宮にある地下だ。
また、地下には通路を挟んで、同じような鉄格子の嵌まっている牢が左右に三つづつ並んでいる。牢の壁には囚人を繋ぎとめるための金具もある。
そして、通路の最奥の右側は訊問室だ。
そこは厚い扉になっていて、声は外には漏れないし、牢からでは様子がわからないようになっている。
さらに、実は、その訊問室を挟んで、向こう側にもここと同じような数個の牢があるのだ。
そちら側には、出口はない。
牢番の待機室と訊問室を通過してしか、こちら側の階段には出られないので、さらに監禁が厳重になるということだ。
王家の古い別荘とはいっても、王家の離宮だ。最低限の設備は備わっている。
地下の囚人施設についても、そういう最小限の設備のひとつというわけだ。
「では、シャーラ様……」
「これで……」
「失礼します」
エルザに毒を盛った五人のタリオ公国の侍女たちの連行を手伝ってもらったのは、モロッコたち五人ほどの侍女だ。
しかし、これからのことは、シャーラひとりのことになる。
まさか、拷問というような汚い仕事を彼女たちの前でするわけにはいかない。
だが、必要なことだ。
堕胎薬を持っていたが、本当にまだ使用されていないのか。
マアの情報もあり、イザベラの子をひそかに堕胎させるということが、アーサーの指示だということは確信はしているものの、彼女たちに直接にアーサーが指示をするとは思えない。
具体的に指示をした者はほかにあるはずだ。
そして、エルザと一緒にハロンドールに乗り込むということは、ハロンドール内に入り込んでいるタリオの手の者の情報も持っている可能性が高い。
それについては、タリオ公国の諜報員だったビビアンをロウが取り込んだときに、かなりの情報を入手できて、手を打つことができていたが、そのビビアンは、本国に呼び戻されて、いまは別任務でカロリックに潜入しているという。
だから、新しい情報として、タリオの諜報員に関する情報を搾り取っておきたい。
それができるのは、ここにはシャーラだけだ。
エルザにはもちろん、イザベラにも無理だろう。だから、薄々は感じているとは思うが、ここで、なにをするのかということをはっきりとは教えずに、この連中を地下に連れてきた。
「あ、あのう、ひとりで大丈夫ですか……。お手伝いは……。せめて、見張りとか……」
イザベラ侍女団のひとりであるモロッコが最後に残って言った。
彼女は、剣の実力があるので、侍女たちの中では、シャーラとともにイザベラを直接に守る護衛に役目がある。
それで、なんとなく、義務感を覚えたのかもしれない。
だが、シャーラは首を横に振った。
「必要ないわ……。こういう仕事も、姫様を支える仲間として、いずれは覚えてもらうかもしれないけど、いまはいい。それよりも、丸一日はかかると思う。それまで、姫様たちの護衛は任せるわ」
「……わかりました」
モロッコもさがっていく。
通路の反対側には、一階にあがる階段があり、踊り場で鉄の扉で遮られている。
しばらくすると、その鉄の扉が音を立てて閉じる音がした。
最後に残っていたモロッコが一階にあがっていたのだろう。
壁の燭台に垂らされているだけの薄明りに、拘束された五人の女とシャーラだけが残る。
「さて……」
シャーラは格子の向こうの女たちに視線をやろうとした。
だが、一階に通じる階段から、誰かが降りてくる気配に接し、そっちに視線を戻した。
やって来たのは、マアとモートレットだ。
モートレットは、籠のバスケットを持っている。
「どうしたのですか、おマア様? なにかご用でしょうか?」
シャーラは困惑して言った。
すると、マアが不敵に微笑んだ。
「こいつらから情報を搾り取るんだろう。立会させてもらうよ。人越しじゃなく、生の情報になるべく接したいしね。王太女殿の許可はもらっている」
シャーラは驚いた。
「報告は、後でさせてもらいます。おマア様のようなお方が、いまからやることに立ち会うなど……」
「いや、見くびらなくていいよ、シャーラさん。見た目の若さは、ロウ殿に贈られたけど、これでも百戦錬磨のおマアでね……。拷問だって経験はある。やるのも、やられるのもね。邪魔はしない」
マアは言った。
シャーラは肩を竦めた。
「そう言われるなら……。でも、口を出さないでくださいね」
「ああ、食事でもしながら見物させてもらうよ」
マアが微笑んだ。
モートレットが手にしているバスケットが食事なのだろう。
シャーラは苦笑した。
「……というわけだから、お前は、あてがってもらった部屋で休んでおいで、モートレット。さすがに、ここから先はお前にも刺激が強すぎる。あっ、バスケットは預かるよ」
マアが話しかけたのは、後ろに立っているモートレットだ。マアが籠を受け取ろうと手を伸ばす。
しかし、モートレットは首を横に振る。
「わたしは、マア様の護衛です。おそばを離れるわけには……」
モートレットがほとんど表情を変化させないまま言った。
彼女の声をまともに耳にするのは初めてだが、男装の女だとわかってしまえば、女の声だ。もしかしたら、だから、あまり話さないようにしているのかもしれない。
「必要ないよ。このシャーラは剣の腕ではお前を上回る。大丈夫さ」
「……剣の腕なら負けません……」
モートレットの顔に初めて感情が浮かんだ気がした。マアの物言いがかなり不本意そうだ。
すると、マアが声を立てて笑った。
「そりゃあ、悪かったよ。だけど、シャーラがいれば、護衛など必要ないと言いたかったのさ。それに、シャーラは魔道を遣える。万が一ということもないさ」
「それでも、わたしはいます」
モートレットはきっぱりと言った。
マアは微笑んだままだ。
「そうかい……。だけど、かなりの刺激があるよ。ずっと大神殿に保護されてきたお前は、あまり世間の醜い部分に触れたことはないだろう? お嬢様には毒さ」
マアが言った。
シャーラは、どうやら、マアはモートレットを試すような言葉をわざと口にしているのだとわかった。
それにしても、神殿に保護? お嬢様?
「いまの言葉は、わたしへの侮蔑ですね……。マア様でなければ、剣を抜くところですよ」
さすがに表情を変えたモートレットがマアを睨みつけた。
ただ、シャーラは驚いた。
いくら言葉だけのこととはいえ、護衛に任じる者が護衛対象を斬るなどという発言は許されるものじゃない。
しかし、よく考えれば、マアはモートレットを「護衛」とは言いつつ、「預かり物」と表現していたことを思い出した。
もしかしたら、イザベラとシャーラの関係のような、忠誠心で結ばれた関係ではないのかもしれない。
「だったら、一切、口を出さすにいられるかい? 訊問に口を出されたら、シャーラにも迷惑だし、わたしも興醒めだ。約束できるんだね?」
マアの口元から笑みが消えるのがわかった。
さすがの貫禄だ。
モートレットがたじろぐのがわかった。
「や、約束します」
「わかった」
マアが頷いた。
そして、シャーラに視線をやる。
シャーラも頷く。
「奥の訊問室に先に行っていてください。牢番用の控室も隣接していますので、そこでくつろいでいただけても結構です。わたしは、最初の者を連れて、向かいますので」
そして、シャーラはマアに言った。
ふたりが向こうに進んでいく。
シャーラはやっと、五人の女たちに目をやった。
「ひっ」
「うう……」
五人のうちのふたりほどがシャーラの視線に怯えて小さな悲鳴をあげた。
残りの三人は無言のままだ。その三人のうち、シャーラを憎々し気に睨んでいるのがふたり……。
ふたりのうちのひとりが、侍女長のベーレだ。
シャーラは、十中八九、五人をとりまとめて、すべての情報を持っているのは、ベーレだと思っている。
だから、ベーレへの訊問は最後と決めていた。
シャーラは、牢の鉄格子の扉を開いて、シャーラを睨みつけたもうひとりの侍女の髪の毛を掴んだ。
「出ておいで」
通路側に連れ出す。
ほかの女たちから見えるように、彼女たちが入っている牢の目の前に平伏させた。
「きゃあああ」
その女が悲鳴をあげる。
背中に片脚を乗せて押さえつけ、後手縛りの手を取る。
片側の小指を無造作に捻じ曲げた。
「うぎゃあああ」
絶叫が地下に迸る。
小指は関節の反対側に完全に曲がっている。
シャーラは隣の指を握った。
「や、やめてえええ──。ひぎゃあああ」
ぼこりと音がして、その指の骨も折れた。
今度は中指だ。
最初の女には訊問をするつもりはない。ただ、ほかの女たちの前で痛めつけているだけだ。
それを見せるためにしているのだ。
「やめてええ、お許しを──。許してください……。許して、あがああああ」
頓着せずに指をへし折る。
そして、次……。
そうやって、シャーラは十本の指を全て折った。
女は四本目で一度失禁し、反対の手の指を折ったときに、もう一度失禁した。
また、一度気絶したが、次の指の骨を折ったときに、覚醒もした。
全部の指を折ったあとで、シャーラはやっと女の後手の縄を解く。
もはや、抵抗の力はない。
折れた指を足で踏む。
「いぎいいいっ、許してええ」
激痛に悲鳴をあげるが、すでに声は小さい。
シャーラは、剣を鞘ごと腰から抜き、それを手首に叩きつけて、手首を砕く。
「ああああああ」
女が絶叫する。
反対の手首も同じことをする。
再び、女が気絶する。
シャーラは牢の中に目をやる。
四人の全員が震えていた。
そして、シャーラが視線を向けただけで、四人のうちのふたりが失禁した。
すっかりと、ベーレも怯えている。真っ蒼な顔になり、痙攣をしたように身体を震わせている。
もういいだろう。
シャーラは、足の下の女を裏返して、仰向けにすると首に手を掛けた。
ゆっくりと絞めていく。
「ひうっ」
息をとめられたその女が眼を剥く。
だが、指を折られ、手首を砕かれてしまっては、抵抗は不可能だ。
しばらく絞めていると、ぶるぶると身体が震えて、がくりと脱力した。
息はとまっている。
シャーラは女から手を離して立ちあがる。
「あんたたちの仲間のひとりはいま死んだわ。もっと苦しませてもよかったけど、まだ四人残っているから、これで許した。だけど、次からは容赦しないわ。いくら頼んでも殺さない。ただ、こちらが気に入るような情報を喋ったら、殺す前に次の者の拷問を先に行うことにするわ」
それだけ言って、シャーラは目の前に移動術の魔道紋を刻む。
紋様で横たわっている女を包んだ。
魔道を発動させる。
一瞬にして、奥の訊問室側に女ごと跳躍をした。
「おや、遅いと思ったけど、もう殺したのかい?」
声をかけたのはマアだ。
驚いたことに、これから拷問をするこの部屋の隅に小さなテーブルを準備させて、食事と飲み物を並べさせていた。
椅子が三脚準備してあり、そのうちのふたつにマアとモートレットが腰かけている。
ここで食事をするつもりなのか……。
シャーラは少しばかり鼻白んだ。
「訊問の手間を省くための見せしめです……。ただ、殺してはいません。まだ……。魔道で仮死状態にしました。丸一日は目を覚まさないと思います」
シャーラは魔道で女の身体を浮きあがらせて、訊問室の奥に通じている牢番の控室とは別の倉庫に女の身体を運んでいった。
倉庫とはいいつつ、本来の用途は拷問で責め殺してしまった囚人を一時的に収容する遺体安置所だ。
最初の頃に、この離宮を探索したとき、設備に乏しい小離宮ながらも、囚人の拷問の設備だけは整っていることに接して、唖然としたものだ。
まさか、一箇月も経たないうちに、利用することになるとは夢にも思わなかったが……。
「殺してないにしても、手首を折ったのだな……。指もおかしな感じだ。もしかして、抵抗したのか?」
モートレットがシャーラに言った。
シャーラを咎める物言いだ。
マアが顔を険しくさせて、口を開きかけたが、それをシャーラは手で制する。
とりあえず、ひとまず、女を倉庫に放り込み、座っているモートレットの前に歩いていく。
シャーラが目の前まで来たことで、立ちあがろうとしたモートレットをそのまま座らせたままでいさせる。
「抵抗なんてしなかったわ……。そんなことさせるわけもない。まったく無抵抗だったわ。その無抵抗の彼女の指を全部折って。手首を砕いた。本当はもう少し痛めつけてやってもよかったけど、十分に効果があったみたいだから、手順を端折ったのよ」
「手順を端折る?」
モートレットが眉をひそめる。
「モートレット、約束を忘れたのかい? わたしは最初に言ったはずだよ。箱入りお嬢様には、毒だってね」
マアが不機嫌そうに口を挟んだ。
モートレットが顔を赤らめる。
「す、すみません……。思わず……」
だが、すぐにモートレットはマアに謝った。
そして、シャーラに向かって、頭をさげる。
「申し訳ありません。もう約束は破りません。ここにいさせてください……」
モートレットが頭をさげたまま言った。
シャーラは息を吐いた。
「気持ちはわかるわ……。だけど、こういうことも、やらなければならないこともある。汚れた仕事でも、誰かがやるのよ。それが必要だから……」
「わかりました。すみませんでした」
モートレットが謝罪の言葉を口にする。
存外に素直なのかもしれない。
ふと見ると、マアから不満顔がなくなっていた。
「いまは、なんでも見ることだよ。お前にはそれが必要さ。神殿の中にいては見えないこともあるし、知ることができないこともある。もちろん、見たもののすべては真実などということはないけど、なにも見れないよりはましさ。そして、自分の価値観を見つけたらいい。わたしたちを信じろとは言わない。敵になるならなればいい。だけど、いまは、ただ黙って世間に接するだけにしな。わたしがお前に、世間を知るための目を養わせる材料をやるから」
「はい、もう口は挟みません」
モートレットがもう一度謝罪をした。
思ったよりも、喋るのだな。
シャーラはちょっとだけ思った。
跳躍術で女たちが監禁している牢の前に戻る。
すると、すぐに女たちのうちのふたりが声をあげた。
「な、なんでも訊いてください。喋ります。知っていることはなんでも……」
「あたしも話します。だから、お許しを……」
必死の口調で訴えてきたのは、最初にシャーラの視線に怯え、最初の女を拷問したときに、失禁までしたふたりだ。
「お前たち──」
咎めるように強い口調で叱咤をしたのは、ベーレだ。
しかし、シャーラが睨むと、顔色を変えて黙り込んだ。
「わかったわ。じゃあ、ふたりは出ておいで、向こうで訊問する。殺さないでもいてあげるわ。ただ、まだふたりいるし、その喋ったことに食い違いがあれば、次は死ぬ方がましだという目に遭わせる。脅しじゃないわよ」
「喋ります──」
「あたしも……」
ふたりが声をあげた。
すると、ずっと押し黙っていたもうひとりの女が顔をあげた。
「わたしも喋ります。知っていることは全部──」
シャーラは頷いた。
そして、ベーレに目をやる。
だが、口惜しそうに黙っているだけだ。
「いいわ。お前もおいで……。ひとりずつ聞くわ」
三人を牢から出して、跳躍術で移動する。
ただし、今度は訊問室ではなく、こことは反対側の奥側の牢だ。
そこに連れていき、ひとりずつ訊問室に呼び出して、質問をしていった。
今度は、モートレットは口を挟まなかったし、マアも何も言わない。
だが、大した情報は得られなかった。
結局のところ、彼女たちが直接に指示を受けたわけではなく、ベーレを通じて任務を付与されただけであり、ほとんど有益な情報は持っていなかった。
やはり、ベーレでなければ、情報は得られないか……。
また、共通するのは、彼女たちは、エルザの侍女とはいいつつも、もともと、エルザを監視し、懐柔し、必要によっては手を下す役目を負っていたみたいだ。
無論、信用をさせるために、エルザに心を許す芝居をしていたらしい。
シャーラは、そんな者たち囲まれていたエルザのことを改めて、気の毒に思った。
さらに、タリオ公国の諜報組織の質問をしたが、彼女たちは諜報員ですらなく、まったく役に立つものはなかった。
三人については、奥の牢に戻した。
「さて、次ね……」
シャーラは、最後に残っているベーレを訊問するために、跳躍術で移動することにした。
すでに、半日の時間がすぎていた。