【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【ハロンドール王都・グリムーン公爵家の王都屋敷】
「アネルザ王妃を奴隷として飼う?」
ラングーンは思わず声をあげた。
そして、この男は、なにを喋っているのだと思った。
よりにもよって、現王の王妃を奴隷にして侍らせるなど、それをやったとして、周囲がどう感じるのかということを考えないのだろうか?
倫理観の欠如した男として、世間に認知されるだけではないか。
しかも、王になる前に、先にアネルザを奴隷にしたいだと?
人気のない王妃だが、あれはあれで辺境侯の長女であり、面倒見がいいところもあって、貴族界では影響力が高い。
そもそも、辺境侯に恩を売るどころか、敵に回したいのか?
ラングーンはすっかりと呆れてしまった。
「犯罪奴隷にしてしまえば、なにも問題はあるまい。あのときの余の恨みは骨に沁みておるわ。これを晴らすには、あれを余の玩具にしてしまうしかない。手足を切って犬のように四つん這いで飼育してやる。首輪をつけてな」
グリムーンは悦に耽った顔になって言った。
そんなことをすれば、グリムーンの評判は、ルードルフ同様に地に落ち、王位に推す者など消えてしまうだろう。
それはそれでいいが、ラングーンまで共倒れになるのは嫌だ。
ラングーンはどうしたものかと考えた。
「すでに王妃は監禁塔で無力。あなた様が王になってから、好きなようになさるのがよろしかろうと思いますぞ」
マーリンが静かに言った。
だが、グリムーンが眼に見えて苛つきの顔を浮かべるのがわかった。
もともと、癇癪持ちで我が儘な性質の男だ。
ラングーンが言えたものじゃないが、何の落ち度もない子爵夫人を罠にかけて性奴隷にするような、道徳心の欠片もないような男である。
いまも、自分の欲求を否定されて、顔を真っ赤にして怒りだしている。
「黙れ、マルロス──。金が欲しくはないのか。そして、爵位だぞ。お前が欲しくて堪らなかった貴族の爵位だ。お前の子に、子孫に、それを継がせられるのだぞ。そうだ、侯爵の地位をやろう。土地もだ。その代わり、余の願いを叶えよ。アネルザの裁判を早めるのだ」
そして、突然に怒鳴った。
頭ごなしに喚かずに、まだ取引めいたことを口にしているのは、それなりに分別が残っていたのだろう。
「私は一介の魔道師です。与えられるものだけで、分不相応だと思っております。これ以上のものは必要ございません」
「小さいのう。お前は余たちの餌を喰らっておる。それから逃げられると思うな」
「思いません。ですが王妃についてはしばらく捨て置きを……。進めております計略がややこしくなりましょう。ルードルフの評判が地に落ちきっても、それにまさる悪徳がささやかれては、次代の王への足枷になりかねません」
マーリンが小さく息を吐きながら言った。
ラングーンは黙っていた。
実のところ、この頭のおかしい老人を御するには、ほかに興味がわくような娯楽を与えてやればいいのだが、まあ助け船は出さない。
自滅するなら、すればいい。
要は巻き込まれなければいいのだ。
まあ、やりようはいくらでもあると思い直した。
とりあえず、辺境侯だな……。
情報を流してやるか。それで恩を売れる。
「とにかく、余に考えがある。余は悲劇の男になるからな。世間の同情は余に集まるであろうよ。余があれの王妃に、自ら断罪を与えるほどの恨みを持てばどうだ? そうなれば、余が王に仕返しをしたとしても、世間は納得しよう。むしろ、なにもしなければ、意気地なしの王として、王としての欠陥を突きつけられるかもしれん」
グリムーンはにやりと笑った。
だが、ラングーンには、さっぱりとわからなかった。
ルードルフが散々にやらかしているので、いまはルードルフ王に恨みを抱く貴族たちは多い。
しかし、グリムーンについては、なにもされていないだろう。
むしろ、ルードルフ同様に、世間の評判はよくない。グリムーンにしても、ラングーンにしてもそうだ。
それくらいの自覚はある。
この馬鹿にはないみたいだが……。
「恨みとはなんのことですか、叔父殿?」
とにかく、ラングーンは話に乗ることにした。
ある程度、喋らせれば、それだけで納得するかもしれない。いずれにしても、この男が腹を立てれば、なかなかに面倒なのだ。
話だけは聞くか……。
聞くだけならただだ。
「エリザベスだ」
グリムーンは勝ち誇った様子で言った。
「エリザベス? あなたの孫娘の?」
ラングーンは言った。
エリザベス嬢というのは、グリムーン家に属する令嬢であり、目の前のグリムーン公からすれば、息子の娘、即ち、孫にあたる。
ラングーンとの関係でいえば、
彼女の年齢は十九歳のはずであり、それなりの美少女だったと思う。しかし、大貴族の令嬢らしく我が儘が服を着たような性格をしていて、癇癪持ちとして有名だ。
それで、いまだに婚約者が見つからないという。
だが、そのエリザベスがどうしたというのだ?
「余は孫のエリザベスが眼に入れてもおかしくない程に可愛い。可愛いのだ。愛しておる。心の底からな……」
突然に芝居じみた口調でグリムーンが語りだした。
なんだと思った。
この男に家族愛など皆無だろう。
家族もまた、こいつのことは忌み嫌っているはずだ。
いまでも、子爵夫人とやらはグリムーンの股で奉仕を続けている。
こいつは、そんな蛮行を隠さない。
そんなことをさせる男を誰が尊敬するというのか……。
「そのエリザベスがルードルフに強姦されたとしたらどうだ? 余が怒り狂って、王妃を相手に恨みを晴らしても、誰もが納得するのではないか? いや、ルードルフなら乗るな。エリザベスを差し出すか。その代償として、アネルザを余に渡してもらおう」
「エリザベス嬢を生贄に?」
ラングーンは声をあげた。
つまりは、わざと孫娘のエリザベスをルードルフに凌辱させようというのだ。
いまのルードルフは、まるでなにかの操られたかのように、周りの子女たちを強姦しては、それを愉しんでいるという。
だから、王宮は大変な騒ぎだ。
そんなところに、エリザベスのような令嬢をいかせれば、確かにあの王なら手を出すかもしれない。ルードルフからしても、エリザベスは従弟の娘ということになるのだが……。
しかし、それを口実にアネルザを提供させる?
さらに、世間の悪評をこれでかわす?
やっぱり、この男は馬鹿だと思った。
まったく度し難い
「なるほど、公爵殿の孫を……。ううん、良い手もかもしれませんなあ。いや、恐れ入った。それなら、世間も貴族界も納得しましょう──。報復として、王妃を奴隷にするくらい当たり前になりましょう。これは妙案、妙案──。ルードルフの評判をさげるのに、これ以上のものはない。よき案です」
「当然だ。余は才気溢れる男なのだ」
グリムーンが嬉しそうに笑った。
マーリンが大きく頷く。
しかし、これがよい案か?
ラングーンは鼻白んだ。
まあ、ルードルフの評判が地に落ちるどころか、地面の下に潜ってしまうことだけは間違いないだろうが……。
「なによりも、あの王がこれまでに手を出したのは、下級貴族の娘たちばかりでございました。だが、上級貴族の令嬢にまで見境がなくなったとなれば、今度こそ、一斉にこの国の大貴族たちも見放しましょうよ。いやあ、素晴らしい案でございます、グリムーン公爵閣下」
「そうであろうが」
グリムーンが笑った。
褒められて嬉しそうだ。
しかし、ラングーンからすれば、マーリンの態度は、やはり、グリムーンを小馬鹿にしたようにしか見えないのだが……。
「近いうちに、余とルードルフが密かに話し合う場を作らせよ、マルロス。ただし、誰にも悟らせるな。そうじゃな。魔道で移動をさせてもらうおう。あそこは術封じが掛かっておるが、お前ならなんとかなるのであろう?」
「テレーズを使って動かしましょう。あの女を自由にできる手の者を幾人も侍らせております」
「早いうちにな。無論、アネルザの裁判もだ」
「ルードルフを見限る大貴族たちが大多数になれば、当然に王位は公爵様になります。なによりも、孫娘を汚されたという事実もあれば、あなたに同情も集まり、その同情があなたを推す流れに自然に変わりましょう。なにしろ、王位を継ぐべき者たちは、もうおふたりを除いておりませんしな」
マーリンがさらにへつらいを言った。
ラングーンは放っておくことにした。
「よい仕事をせよ、
グリムーンが満足したように頷き、股の間の子爵夫人の頭を軽く二、三回叩いた。
そして、懐から取り出した袋を床にぶちまける。
「──」
夫人が小さな奇声をあげて、薬を追って床を這い回り出す。
だが、目隠しをされているので、ぶちまけられた薬剤がどこにあるかはわからないようだ。
それでも、必死になって鼻で匂いを嗅ぎ、舌ですべての床を舐め尽くさんばかりに、顔を床に密着させて薬を探している。
その姿は、もはや慎みの欠片もない。
媚薬のせいで、べっとりと濡れている下着に透けて、尻の穴まで見えているが、夫人にはそんな余裕などないようだ。
畜生そのもののように、懸命に床を舐めまわっている。
「では、これで今宵の会合は終わりにしようか。この女の調教を進めねばならん。では、マルロス、さっきの件は頼むぞ」
「早ければ、明日にはルードルフとの次代の王との会合の段取りを整えましょう」
「お任せを」
マーリンが頭をさげた。
「待ってくれ。商業ギルドのことを……。なぜ、連中を潰させたのだ。その話を訊きたい。自由流通を追い出して、商業ギルドを復活させたのはいい。それでわしらにも、かなりの実入りがあった。しかし、そのギルドの長たちをルードルフの名を借りて、処刑させたであろう。おかげで、王都の流通は混乱している。なぜ、そんなことをさせたのだ?」
ラングーンは慌てて言った。
どうやら、この会合が、さっきの戯言を最後に、終わる気配だったからだ。
しかし、ラングーンは、いまのことこそ問い質したかった。
ルードルフの悪評を蔓延させるのはいいのだ。
だが、自由流通を撤退させ、復活させた商業ギルドまで壊されてしまっては、今後の王都の流通が成り立たない。
これは、誰が王につくかということよりも、重要なことだ。
だが、先日のことだが、突然に商業ギルドの重鎮たちが謀反の意図ありという理由で、財を没収されて、処刑されてしまった。
おかげで、王都に物が入って来なくなり、いまや日常の食糧にまで、とんでもない額がつきだしている。
「商業ギルド? それを私に言われましても……。処刑したのはルードルフ王ですぞ。さすがに、私にはそんなことまで手は回せません。しかし、没収した商人たちの財は。かなりのものをおふたりに横流しすることだけはできましたでしょう? それがなにか?」
「なにかだと? 問題は大ありだろう」
ラングーンは声をあげた。
これまでのこのマーリンの行いを考えれば、商業ギルドの重鎮の処刑について、こいつが知らないということなどあるものか──。
「なにが問題なのだ、ラングーン公。あれは、なかなかによいことだったな。定期的に入る賂がなくなったのは痛いと思ったが、その賂の十年分の財が一度に入ったとなれば、結果的にはよかった。しかし、商人という者は貯め込むだけ貯め込んでいるものだのう」
グリムーンが笑った。
これは駄目だと思った。
なにが問題なのか、グリムーンにはわかってないみたいだ。
ラングーンは嘆息した。
「わかりました。忘れましょう」
仕方なくラングーンは言った。
すると、グリムーンが手で合図をした。
執事が脚に小さな車輪のついている椅子を寄せる。
グリムーンは脚が弱い。
自力ではほとんど立つこともできず、ああやって車輪付きの椅子に腰掛け、誰かに押してもらわなければ、移動することもできないのだ。
それに、おそらく、もう一物も勃起はしないのだろうと思っている。
だからこそ、あんなに長い時間、口で奉仕を受けていても、射精した気配すらなかったのだと思う。
やはり、この男には王は無理だな。
ラングーンは確信した。
ならば、次代の王には、ラングーンが就くしかないではないか。
「では……」
マーリンが消えた
訪問時同様に移動術だ。
「ミハエル、約束の童女を連れて来よう。その代わりに、余たちの目の前で犯すふりをせよ。それを余がとめる。それをこの女に見させるのだ」
ラングーンが車輪付きの椅子に乗せ換えてもらいながら言った。
そのあいだも、夫人は床に落ちた粉薬を一生懸命に探しながら舐めている。
また、“ミハエル”というのは、ラングーンの名だ。滅多にないが、この男の機嫌がいいときには、いまのように親し気な口調になる。
思うとおりに事が進んでいるのが嬉しいのだろう。
やはり、馬鹿だと思った。
「それで、この女に恩を売るというわけですな。策士ですな」
とりあえず、ラングーンはそう言った。
「やるだけやったら、娘は持ち返れ。お互いに完全に調教を終わらせれば、再会させよう。そのときのこの夫人がどういう反応をするのか愉しみだ」
「悪趣味ですな、叔父さん」
ラングーンも微笑んだ。
*
【ハロンドール王都・ラポルタ家の王都屋敷】
目の前の空間が揺れた。
現われたのは、マーリンだ。
テレーズは、部屋の中に満杯の木箱のひとつに腰掛けたまま、顔だけをそっちに向けた。
部屋の中は、倉庫さながらに真っ暗であるが、テレーズが魔道で準備した小さな光球が浮かんでいるので、それなりの視界を保つことはできている。
「なんだ、椅子も準備しておらんのか」
「倉庫代わりにしている屋敷ですから……。とりあえず、ルードルフに
テレーズは言った。
ここは、テレーズがルードルフに
一貴族の王都屋敷を王家の財で建設させるなど、あっていい話ではないが。なにも考えていないルードルフはテレーズの言いなりだし、王宮の大臣や高級官吏たちは、ルードルフが持ち出した王家の操り具のために、いまは自我がほとんど消えている。
ルードルフの言葉に逆らいもしない。
テレーズが目の前にいるマーリンに命じられて始めたルードルフ王国の乗っ取りについては、テレーズによってほぼ完成されてしまったというわけだ。
仕掛けた闇魔道によって……。
「やれやれ……」
マーリンがテレーズに向かい合うように木箱に座る。
そして、大きく息を吐いた。
「それにしても、馬鹿どもの相手は疲れるわい。わしたちの話は聞いておったか?」
マーリンがテレーズを見た。
テレーズは、なにも言わずに、「伝声球」を横に置いた。
遠隔した場所から声を伝える魔道具だが、いまはマーリンが二公爵と話をしているあいだ、伝声球が繋げっ放しになっていた。
だから、あの連中の会話はずっと、こっちに筒抜けだったということだ。
マーリンの指示でしていたことであり、王宮から抜けて、この王都屋敷側で待っていたのも、マーリンの指示だ。
マーリンとの接触は、王宮に入っているタリオの手の者から指示が届くこともあるが、本当に大事なことについては、こうやって直接にマーリンが指示を送る。
いずれにしても、マーリンの言い草じゃないが、やはり二公爵は愚物だっと思った。
本当に、このまま王都と王宮を混乱させるだけさせて、自分たちに王位が回っていると考えているのか?
あれで本気だとすれば、本当に馬鹿者たちだ。
「……ならばよい。話はわかっておるな?」
「ルードルフに、グリムーンを会わせる段取りを整えればいいのですね? 明日中には……。それで、どうやってあの公爵を王宮に連れ込めばいのですか? 場所は後宮になりますよ。ルードルフはそこから出ませんので」
「それはわしが手配する。移動術の護符を使わせる。会合の場所に移動術の門を開いておけ」
マーリンがテレーズに魔道の紋様が描かれた魔道紙を渡された。
移動術には詳しくはないが、これを使えば、移動術の経路が王宮内に開くのだろう。後で、サキにでも見せるか。
テレーズはそれを闇魔道で異空間に収納する。
「まあ、馬鹿というのはどこまでも馬鹿なのだな。だが、これほど、簡単に踊ってくれると、あまりもやりがいがないのう。ところで、南についてはどうだ?」
「王家の財を根こそぎ剥いで、武器や兵糧に変えて送らせております。都合のいい男も見つけました」
“南”というのは、この王国の南域のことだ。
そっち方面の工作も、テレーズが言い渡されていることであり、テレーズの役目は、王都と王宮を引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、さらに、王国の南域に武器を横流しすることだ。いまのところ、誰にも咎められることなく、大量の物品が南域に流れている。
マーリンの言い草じゃないが、もう少し苦労しないと、かえって、なにかの罠ではないかと拍子抜けして、疑ってしまいそうだ。
「都合のいい男とは?」
「デュセル家の嫡男です。デュセル家は元は侯爵家であり、南域貴族の門閥の長として権勢を誇っておりましたが、例のキシダインの失脚に巻き込まれて、侯爵は処刑、家族は奴隷落ちしていました。嫡男は才気あふれる者として期待もされていましたが、あれからずっと鉱山奴隷として働いていたところでした。手を回して脱走させ、南域で囲っております」
「よかろう。こっちの手の者と接触させる。あとで情報を回せ」
「かしこまりました」
テレーズは頭をさげた。
「いずれにしても、公爵家の令嬢をルードルフに強姦させるというのは、驚いたが、悪い案ではないのう。これで下級貴族のみならず、大貴族もルードルフ王を手離すであろうな。馬鹿なりに妙な案を持ってくるわ」
マーリンが声をあげて笑った。
テレーズはマーリンがひとしきり笑い終わるのを待って、口を開く。
「……ところで、そっちについても進めますが、ルードルフの評判を、いえ、王家そのものの評判を完全に落とさせる策があります。こっちもルードルフを突けば、簡単に策を進められると思います。なにしろ、いまのあの男には、精を放つことしか考えられないのですから。凌辱でなければ勃起せず、非道によってしか女を抱けない……。そんな暗示をかけてからは、まるで脳のない淫獣そのものですし」
テレーズは口の端を緩めてみせた。
マーリンがかすかに首を傾げた。
「なんだ、別の策とは?」
「特に別の策というわけではありませんが、あのルードルフには、公爵令嬢エリザベスだけでなく、民衆に人気のある第三神殿のスクルズにも手を出させます。都合のいいことに、スクルズが民衆を集めて、王政を批判する演説を毎日繰り返しているのは確かです。ルードルフの疑心を突いて、スクルズを王宮に呼び出せます」
テレーズは事も無げに言った。
マーリンの目が大き見開いた。