※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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38  女伯爵の来訪

「あっ……あっ……ああ……」

 

 エリカが甘い声をあげながら、横で身悶えをしている。その右手の指はしっかりと股間の亀裂と肉芽の部分を上下していて、すでに指は愛液まみれだ。

 また、左手は服の上から乳房をしっかりと揉み続けている。

 エリカが座っているのは、寝台の横に置かれている椅子だ。その両膝はしっかりと両方の手摺りにかけさせている。おかげで美しいエルフ少女の卑猥な自慰行為を余すことなく見物することができる。

 

「はあ、はあ、はあ……。エ、エリカ、あ、あたしは……そろそろ、だめ……。も、もう、ご主人様に……お願いする……。わ、悪い……わね……」

 

 一方で一郎が上半身を起こして身体を横たえている寝台の足下では、やはりエリカと同じように下半身だけ裸になっているコゼが、曲げた膝を左右に大きく開いた状態で、エリカと同じように自慰をしていた。

 ふたりが自慰をしているのは一郎の命令であり、さっきふたりが脱いだ腰から下の服と下着はもうひとつの寝台の上に無造作に重ねてある。一郎のズボンと下着もそこだ。

 一郎の下半身も、なにも身につけておらず、すっかりと欲情して勃起した怒張が股にそびえたっている。

 コゼもエリカもその怒張を物欲しそうに視線を送ってくる。

 

「ご、ご主人様、も、もう、もらっていいですか……。そ、そろそろ、いきそうです……」

 

 コゼが身体をくねらせて言った。

 コゼの「快感値」は“15”というところだ。

 まだまだ、ぎりぎりではない。

 一郎は首を横に振った。

 

「まだだな。股間はもういい。今度は指を尻に入れろ。絶頂しそうになったら自分で愛撫をやめて、寸止めをするんだ。そうやって、三回、自分の力で寸止めをすることができたら、俺の性器を入れていいといったはずだぞ。あと一回だな。ずるはだめだ。俺には、ちゃんとお前たちがどのくらい欲情して、本当に寸止めを実行しているかどうかわかるんだ」

 

 一郎は笑って言った。

 

「は、はい……。で、でも、あたし、ずるなんか……」

 

「わかっているよ、コゼ……。まだ、絶頂寸前というのがどういう感じなのか、しっかりと覚えていないだけだ。俺が声をかけてやるから、そこで指を止めてみろ。それができたら精をやる。とにかく、お前たちは俺の女だからな。絶頂も俺の許可なしにはできない。それを身体と心で覚え込むんだ」

 

「は、はい……」

 

 すでに二度の寸止めで虚ろな表情になっているコゼが股間から指を離して、膝立ちするようなかたちで後ろに右手を移動させた。

 

「ふっ、ふうう……」

 

 大きく息を吐きながら、コゼがお尻に指を入れたのがわかった。コゼの指もまた、股間から溢れている愛液にまみれている。それを潤滑油にして簡単に指は根元まで入ったようだ。

 コゼの身体が小刻みに震え始める。

 

「二本だ──。二本入れろ」

 

 一郎はすかさず言った。

 

「は、はいっ」

 

 コゼが上ずった声をあげた。

 すぐに命じられたことを実行する。

 そして、二本の指を挿入したコゼは、この前教えた通りに、交互に弾くような感じで動かし始める。

 

「ああっ、あっ……い、いきます……。ま、まだですか……? い、いきそうです、ご主人様」

 

 コゼが大きな声をあげた。

 

「もう少しだ。続けろ、ただし、間違って達してしまうなよ。そうしたら、ご褒美はなしだ。夕食のあとまでお預けにするからな」

 

 コゼの快感値は“7”──。

 それが、“6”になり、“3”になる……。

 

「んんっ……だ、だめえ……ご、ご主人様……ゆ、許して……も、もういくの……」

 

 コゼが上ずった声をあげる。

 

「あとちょっとだ──。エリカなんて、すでに自力寸止めを五回もしているぞ。それなのに、いまはもらえないんだ。三回くらいの寸止めくらい自分をしっかりと制御しろ」

 

 一郎は言った。

 

「はっ、ああっ……イ、ロウ様……エ、エリカはまた、い、いきそうです……。せ、せめて、このまま達する許可をください……。い、一度だけ……」

 

 すると、横の椅子に座っているエリカが息も絶え絶えの泣き声をあげた。

 

「だめだ。今度も自分で寸止めだ──。失敗しても、手を抜いても、夜はお預けにするぞ。それが嫌ならしっかりと寸止めを続けろ、エリカ」

 

「は、はい……。う、うう……は、あああっ」

 

 エリカががくがくと身体を震わせた。

 快感値は“1”だ。

 

 荒い息をしているエリカの身体が静止する。

 さすがは一郎の性奴隷期間の長いエリカである。

 しっかりと寸止めに成功した。

 一郎はほくそ笑んだ。

 

 コゼと同じで寸止め自慰をするように命じているエリカは、これで六回目の寸止めということになる。感じやすいエリカはコゼよりも達しやすいというのもあるし、一郎が「快感値」が“1”のところで止める本当の寸止めの感覚というのをすっかりと教え込んでいる。

 だから、たかが寸止めという行為でも、コゼよりも上手に繰り返せる。

 もっとも、それだけコゼよりもつらい状況に追い込まれなければならないということだが……。

 

 なにしろ、ニーナが今日の調査報告を受けにやってくる夕食の前のひと時である今については、エリカはこのまま寸止めだけで終わることになっている。

 今日は、エリカの“お預けの日”なのだ。

 一郎の精をもらって昇天することができるのは、今日の調査報告が終わる夕食後のことだ。

 

 それに比べれば、コゼはとりあえず、三度目の寸止めに成功すれば、一郎の精をやると告げている。もっとも、「快感値1」の本当の寸止めに失敗して達してしまえば、やっぱりお預けだ。

 

 コゼは歯を食い縛って、懸命に快感を耐えようとしている。

 快感を“1”で自力で静止させるのは、実は結構難しい。普通に愛撫をすれば、“1”なんかで快楽は止まらず、止まるのは“2”か“3”だ。あるいは、そのまま達してしまう。

 だから、コゼもエリカも、自慰で欲情を大きくしながら、一方でそれを静止するという矛盾した行為を続けなければならないというわけだ。

 淫魔力の力で強制的な寸止めをすることもできるが、それでは面白くない。

 いまは、その力は使わず、あくまでも自力寸止めの練習をさせている。

 

「よし、いまだ──。そこで止めろ──。いくな──」

 

 一郎は叫んだ。

 コゼの快感値が、まさに“1”になったのだ。

 

「んんっ、んんんっ──」

 

 コゼは身体を大きく弓なりにして突っ張り、白い喉をさらして唇を噛んだ。

 快感値が“1”で束の間安定し、それが“2”から“3”になる。

 コゼがやっと三度目の自力寸止めに達した。

 

「よし、こっちに来い。精をやろう──。今日の調査結果のご褒美だ」

 

 一郎は手招きをした。

 

「は、はい──。ありがとうございます──。ご主人様──」

 

 コゼが元気な返事をして一郎に寄ってくる。

 そして、一郎と身体を向き合わせるようにして一郎の股間を跨ぎ、腰を沈めて一郎の怒張をずぶずぶと自分の膣に入れていく。

 

「あ、ああ、き、気持ちいい──。す、素敵です、ご、ご主人様──あああっ」

 

 コゼが一郎の性器をしっかりと、股間で咥えながら声をあげた。

 すぐに全身が震えだす。

 

「好きなようにむさぼっていいぞ、コゼ。せっかく覚えた寸止めだ──。俺の性器で寸止めを繰り返して性交の時間を長くしてもいいし、それともすぐに達してもいい。とにかく、俺はコゼに合わせて精を放ってやろう……。ただし、ニーナさんがやってきたら、それで終わりな。すぐに放つぞ」

 

「うう……。ど、どうしよう──。ご主人様をもっと味わっていたいし、でも、もういきたい……。ああ、こうしているあいだにもいきそう……。だ、だめ……。ご主人様を受け入れながら我慢なんかできない……。や、やっぱり、あっという間にいく……。ああっ、もういく……。が、我慢なんてしたくない……。で、でも……も、もっと……」

 

 コゼが一郎の腰の上で夢中になって腰を振っている。

 どうやら、コゼはすぐにエクスタシーに達する選択をしたようだ。

 快感値の数字が“1”をすぎて、“0”に到達した。

 

「ああああっ──」

 

 コゼが声をあげる。

 一郎はそれを確認して、おもむろにコゼの膣に精を放った。

 それを感じたコゼがさらに深い絶頂を続ける。

 そして、コゼはがっくりと一郎の身体に倒れ込むように身体を預けてきた。

 

「よし、エリカも終わっていい──。股を拭いて、服を着ろ──。コゼは俺の性器を口で掃除してからだ。そろそろ、ニーナさんもやってくるだろう。準備をしよう」

 

「……は、はい……」

 

 結局、一度も達することができなかったエリカがやっと寸止め自慰から解放されて、恨めしそうに返事をした。

 一方でコゼはしっかりと股で喰い締めていた一物を名残惜しそうに抜くと、そのまま、抜いたばかりの一郎の性器に顔を被せて、舌で掃除をしはじめる。

 一郎は温かいコゼの口を感じながら、快感の余韻に耽った。

 

 ニーナからトーイの警護と襲撃の調査以来を受けて二日目の夕方だった。

 

 警護の任を受けながら、三人でこんなことをするのは不謹慎かもしれないが、この宿屋は今日も休業になっていて誰も客はいないし、エリカの魔道で警戒の結界を宿屋中に張り巡らせているうえに、あちこちに侵入者防止の罠も仕掛けた。トーイには、不用意に部屋から出ないように指示しているし、この宿屋から出ない限り、誰であろうと侵入はできないはずだ。

 むしろ、襲ってくれた方が手っ取り早く、そいつを捕えてしまうことができると思うので、それが望ましいくらいだ。

 

 ただ、この二日間、トーイが二度目の襲撃を受けることはなかった。

 そして、この二日間の調査でおおよそのことはわかってきた。

 トーイを襲った──いや、襲わせた者の正体はだいたいの見当がついた。

 

 ニーナのパトロンであるドルニカ伯爵夫人だ。

 

 ドルニカ夫人くらいになれば、子飼いの暗殺者くらい飼っている可能性がある。

 それを使ったに違いないと一郎は思っている。

 

 今夜は、それをニーナに報告するつもりだ。

 ニーナは決まって夕食時に、その日の調査報告を受けに、この宿屋にやって来ることになっている。

 昨日の夕方にはこれといった報告はできなかったが、それから今日一日の調査で、かなりのことが判明した。

 だから、今夜はそれを告げることになると思う。

 

 自分の信頼するパトロンがトーイを襲わせたと知れば、ニーナがどんな反応を示すのはわからないが、得られた情報から判断すればそうなるのだ。

 それ以外に一介の宿屋の息子であるトーイが、プロの暗殺者に狙われる可能性はない。

 母親のマニラも、今回の件でニーナの周辺の者が関わっていることを予想していた節がある。マニラもまた、この商売をしながらドルニカという伯爵夫人の危険な裏の評判について、少しは耳にしていたに違いない。

 

「もういいぞ。お前も服を着ろ──」

 

 一郎はコゼに声をかけた。

 コゼが離れていく。

 一郎は寝台を降りて立ちあがった。

 急いで身支度を整えたエリカが、すかさず駆け寄って、一郎に下着とズボンをはかせ始める。

 一郎がドルニカ夫人こそ、今回の騒動の張本人だと断定するに至ったのは、コゼが集めてきた情報によるものが大きかった。

 

 この依頼を受けたとき、すぐに一郎は、ニーナのパトロンであるドルニカ夫人のことが気になった。

 プロの殺し屋を雇えるとなれば、それだけの財と地位が必要だ。トーイの周囲にいる者でそれに該当するのは、ニーナを除けば、ステファンを含めたニーナの関係者だ。

 

 しかし、ステファンは白だ。

 それは、一郎の勘がそう知らせている。彼には裏表を感じない。

 ニーナのことで、トーイを嫉妬している可能性があるが、それで裏で暗躍するタイプではないと思う。

 だから、注目したのはドルニカ夫人だ。

 しかし、それについて、なんの確証もあったわけでもない。

 それで、夫人について集中的に調べさせた。

 

 特に、今日は、一郎がこの宿屋に留まって警護を担当し、エリカとコゼに外に出て、いろいろと調べまわらせた。そして、エリカはこれといって成果はなかったが、コゼはかなりの情報を掴んで戻ってきた。

 それでいま、コゼにご褒美の精を与えたところだ。

 

 コゼの情報収集要領は実にユニークだった。

 コゼは、今日一日かけて、この城郭にいる奴隷たち──。

 とりわけ、この城郭にもあるドルニカ夫人の別宅の奴隷たちや、その周辺の奴隷に聞き込みをして回ったのだ。

 

 この異世界には奴隷に人権などない。

 奴隷は主人の所有する「物」と同じ扱いだ。

 それだけに、この異世界の住人は、大切なことを平気で奴隷たちの前で喋ったりするようなのだ。

 喩えれば、それが外聞を憚る内容であろうとも、家具の前でその話を慎もうとは思わない。

 それと同じだ。

 この世界の人間は、奴隷を一人前の人間とは思っていない。

 だが、実際には奴隷は家具でも物でもない。

 耳も眼もあれば、口もある。

 

 コゼはわざわざ効果のなくなった奴隷の首環をしていって、自分も奴隷だと告げて、この城郭の奴隷たちを安心させ、ドルニカ夫人のことを訊ねまわったようだ。

 それでわかったのは、ドルニカ夫人は王都で多くの芸術家を育てている有名なパトロンでもあるが、同時に若い女が好きな百合の性愛の趣味を持っていて、夫人の保護を受けている芸術家たち──すなわち、クリエンスたちには、ニーナのような若くて、可愛い娘がほとんどだということだ。

 しかも、ドルニカ夫人は、奴隷たちも鼻白むほどのサディストであり、パトロンとして世話をしている若い女芸術家をほかの女友達とともに嗜虐して愉しむのを日常にしているらしい。

 

 そして、ニーナはドルニカ夫人のいま一番のお気に入りだ。

 この城郭にもドルニカ夫人の別宅がある。ニーナがドルニカ夫人にサディスティックに抱かれるのは多くが王都のことだが、この城郭にあるその別宅で抱かれることもあるとのことだ。

 

 そういうドルニカ夫人の屋敷内の内情について、館の奴隷たちは事細かくコゼに教えてくれたようだ。しかも、たまたま、今日になって王都にある夫人の館で働いている奴隷たちが、かなり、この別宅に送り込まれていて、王都の屋敷の内情に詳しい奴隷たちも、この城郭の夫人の別宅に集まっていたそうだ。

 

 その奴隷たちの情報によって、少し以前から、ニーナはドルニカ夫人に、もう歌姫をやめて宿屋に戻りたいと訴えていたということもわかった。

 それも王都から来ていた奴隷たちが教えてくれたことだ。

 性愛のときには、残酷とも思える行為を強いているドルニカだが、一方で普段はニーナには本当に優しい態度で接しているらしい。

 だから、ニーナはそんな扱いを受けながらも、ドルニカ夫人のことをとても信頼をしているのだ。

 

 しかし、奴隷たちによれば、嗜虐的な性愛を含めて、普段の夫人はあくまでも表の顔だという。

 本当の夫人は本当に恐ろしい人物だと、奴隷たちは口々に主張したようだ。

 

 裏の顔は怖い……。

 

 奴隷たちは断言したそうだ。

 しかし、ニーナ自身は夫人の表側しか知らないのだろう。

 だから、ニーナは、歌姫を引退することを夫人に訴え続けた。

 ドルニカ夫人は、ニーナの申し出を受け流しつつ、柔らかい口調で翻意を促していたようだ。

 

 だが、ニーナは頑固者だ。

 絶対に自分の意思は曲げない。

 

 結局のところ、ついに夫人は、ニーナが今度宿屋に戻ったときに、ニーナが自身がドルニカ夫人との関係をトーイに告白し、トーイがそれを受け入れたら、ニーナの思うとおりにしていいと言ったらしい。

 それが、今回この城郭にニーナが戻る少し前であり、おそらくニーナはそれを信じて、トーイに求愛をしたのだろう。

 そして、ニーナは自ら夫人との関係をトーイに喋ったはずだ。

 

 だが、トーイは拒絶した。

 それは一郎たちがこの依頼を受けた朝の状況から推測できる。

 ニーナがあの朝、部屋で号泣していたのは、告白の結果、トーイにそれを受け入れてもらえなかったためであり、トーイが襲撃を受けたあとで、ふたりが交わした会話についても、それで全部辻褄があう。

 

 しかし、ニーナはそれでも、トーイを諦めるつもりはないのだろう。

 依頼にかこつけて、毎日、トーイの前にやって来るのは、それでもトーイに自分を認めて欲しいという強い意思によるものだ。

 

 相当に心が強いのだ。

 だが、一方で、一郎にはトーイの態度にも気にかかるものがある。

 これについては、ただの勘だが、トーイがニーナを受け入れないのは、ドルニカ夫人との関係のことがあるからではないような気がするのだ。

 

 それよりも、もっと深刻なことがありそうだ……。

 

 しかも、トーイ自身ではなく、ニーナ自身のことについて、トーイは不自然なくらいに心配している。

 トーイは襲われたのが自分自身でありながら、まるでニーナが襲われたかのように、ニーナのことを気にかけている。

 それはこの二日、ずっと一緒だったからわかる。

 

 もしかしたら、トーイはなんらかの脅迫をされているのではないだろうか……?

 しかも、ニーナを受け入れたら、ニーナを殺すというような……。

 そして、実際に致死性の毒を使って、トーイが襲われるという事実をもって、その脅しが本当であることに、トーイが確信を持つに至った──。

 この二日のトーイの態度は、そう考えればしっくりくる。

 

 トーイがいまでもニーナを愛しているのは見ていて明白であり、しかも、トーイはまったく自分が命の危険を脅かされていると認識している態度がない。

 トーイが気にしているのは、ニーナの安全だけだ。

 ドルニカ夫人の嗜虐の性など、まだ優しい彼女の表の顔……。

 

 奴隷たちはそう言った……。

 それを信じれば、すべてが合致する。

 

 ドルニカ夫人は、ニーナの歌姫引退の強い申し出に優しい口調で応じながらも、一方でニーナを受け入れないようにトーイを脅し、実際に命まで消そうとした。

 それこそ、夫人の裏の顔なのだ。

 

 だが、当のニーナは夫人がそこまでやるとは、夢にも思ってないと思う。

 思っていれば、最近のことから、トーイを襲撃させたのは夫人であることを容易に察したはずだ。

 とにかく、今夜、ニーナが報告を受けにやってきたら、ニーナとトーイに対して、揃って一郎の想像をぶつけるつもりだ。

 それでなんらかのことがわかるだろう……。

 

「よし、そろそろ、降りるぞ、エリカ、コゼ──。コゼは部屋にいるトーイさんを連れてきてくれ。真相に近いものを掴むことができたから、ニーナさんと一緒に聞いて欲しいと伝えてくれ。俺たちは、一階に先に行って、ニーナさんがやって来るのを待つ」

 

 一郎は言った。

 コゼは大きく頷いた。

 

 

  *

 

 

 宿にしている城郭の中心街にある高級宿屋を出たときだった。

 ニーナはステファンがつけた護衛ふたりを連れていた。

 どんなときでも、護衛を離してはならないというのが、ステファンがこの城郭に留まることを許す条件だったからだ。

 

 そのニーナたちの前に、一台の豪華な馬車が突然に停まった。

 そして、その馬車の扉が開いて、目つきの鋭いひとりの女性が降りてきて、ニーナの進路を片手で塞いだ。

 不審に思い、視線を馬車に向けた。

 

 だが、ニーナは驚愕してしまった。

 馬車の中にはドルニカ夫人が乗っていたのだ。

 ほかに三人ほどの貴婦人が一緒にいる。

 四人がくすくすと笑いながら、ニーナを扉から覗き込んでいる。

 

「こ、これはドルニカ様……。こ、今回のことは大変に申し訳なく……」

 

 ニーナは慌てて、スカートの両端を軽く持って頭をさげた。

 

「ふふふ……可愛いニーナ……。いいのよ……。大変だったようね。唄会の件はいいわ。ステファンがいろいろと動き回って処置しているから──。それよりも、わたしの大切な女友達が地方から王都にやってきてね……。そこであなたの名前が出たのよ。それで、是非とも会ってみたいということになってね……。だからわざわざ王都からここに来たというわけよ──。さあ、乗りなさい──。お前の話はゆっくりと聞くわ……」

 

 ドルニカ夫人が言った。

 ニーナは困惑した。

 ドルニカ夫人の命令には逆らえないが、ドルニカ夫人の言葉の意味はわかってしまっている。

 夫人の女友達というのは、夫人と同じような嗜虐の性愛が大好きな同好の趣味の者に決まっている。

 

 そういう者たちを「接待」するために、「性奴隷」として相手をするのは、ドルニカ夫人の世話を受けているクリエンスとしての義務のひとつだ。ニーナは唄歌いとして成功させてもらうにあたって、それを受け入れた。そして、王都の歌姫と称されるまでにしてもらい、それなりの地位と財を築くに至った。

 

 だが、いまはトーイのことが……。

 

「あ、あの──。で、でも、これからトーイのところに……」

 

 ニーナは言った。

 トーイのところに行くのだ。

 

 いまはもう、夫人のところに戻りたくない。

 もう、ニーナの決意は決まっている。

 夫人はこのあいだ、ニーナに約束をしてくれた……。

 トーイがニーナを受け入れ、しかも、夫人に「調教」されたニーナの身体が夫人ではなく、トーイとの関係を選ぶことを許すなら、ニーナの申し出に応じてやると……。

 

 トーイは、まだニーナを受け入れるとは言ってくれないが、トーイに抱かれることで、ニーナは絶対的な確信をした。

 トーイとの性愛は、夫人がもたらす愉悦よりも、何十倍、いや何百倍も素晴らしかった。

 自分の身体も心もトーイのところにある。

 それがわかったとき、もうニーナは、これ以上、夫人の「愛人」を続けて、トーイから離れていることは不可能だと悟った。

 どんなに蔑まれても、疎まれても、絶対にもうトーイから離れない。

 

 もう、迷わない──。

 ニーナの肚は座った。

 

「いいから乗りなさい──。唄のことは許すわ──。でも“義務”のことまで許すつもりはないのよ──。別に王都に戻れとは言ってないわ。場所は、この城郭にあるわたしの別宅よ──。さあ、乗るのよ──」

 

 ドルニカ夫人が険しい表情で怒鳴った。

 これまでに接したことがないような怖い眼だった。

 ニーナは思わず、ぞっとしてしまった。

 しかも、さっきの目つきの鋭い女がニーナの片腕を掴んできた。その無礼さに腹がたったが、それ以上に彼女に不気味なものを感じた。

 そして、ニーナを厳しく睨むドルニカ夫人の視線……。

 ニーナは、まるで蛇に睨まれた蛙のような心境になり、それ以上逆らうことができなくなった。

 

「は、はい……」

 

 ニーナは仕方なく言った。

 

「さあ……」

 

 さっきの女がニーナを馬車の方向に押した。

 

「待ってください、我々も──」

 

「絶対にニーナ様から離れるなという命令をステファン様から与えられております」

 

 すると、ふたりの護衛が慌てて馬車に駆け寄ってきた。

 しかし、突然に、まるで糸が切れた操り人形のように、ふたりの身体がその場に崩れ落ちた。

 

「きゃああ──。ど、どうしたの、お前たち──」

 

 ニーナは驚いて叫んだ。

 

「さあ、どうしたんでしょう──? 突然、眠くなったのかしらね」

 

 女がくすくすと笑った。

 

「ブルド、ニーナを馬車に乗せなさい」

 

 ドルニカ夫人が言った。

 この女はブルドというらしい。ドルニカ夫人の部下のようだが、ニーナは顔を見るのは初めてだ。それにしても、いま、護衛たちが倒れたとき、このブルドの手が素早く動いた気がしたのだが……。

 そのブルドに、ニーナは強引に馬車の中に乗せられた。ただ、ブルドは馬車の中には入ってこなかった。

 

「ドルニカ様、例のものは片付けておきますか? 今度こそ、仕留めますが……」

 

 ブルドが馬車の下から言った。

 

「まだ、いいわ……。指示を待ちなさい。このニーナの態度次第だから」

 

「かしこまりました」

 

 ふたりが意味ありげな会話をした。

 扉が閉まる。

 すぐに馬車が動き出した。

 ニーナの席はない。

 四人が向かい合うように座っている席の中央に立たされる。

 

「本当に可愛いお嬢さんね……。とても、おいしそう……」

 

「座る場所がないわね……。わたしたちの膝に乗るといいわ」

 

「ハロルドの都では有名な歌姫なんでしょう? どんな声で泣いてくれるのかしら……。本当に愉しみ……」

 

 三人の女たちが卑猥な表情をして口々に言った。

 ニーナはぞっとした。

 

「さあ、両手を背中に回しなさい」

 

 ドルニカ夫人がいい、強引に手を後ろ手にされた。

 逆らうことは不可能だ。

 ニーナは四人がかりで押さえられ、あっという間に背中側で手首に手錠をかけられた。

 

「スカートの下に下着をつけている必要はないわね」

 

 女たちのふたりがニーナのスカートの中に手を入れてきた。

 下着を掴まれて足首に向かっておろされる。

 

「い、いや──。こ、こんなところで──」

 

 ニーナは身体を左右に激しく動かして拒否をしようした。

 これまでに、何度も「接待」を務めたが、それは館の密室に入ってからだ。こんな動く馬車の中でいたぶられたという経験はない。

 しかも、馬車とはいえ、ここは公道ではないか……。

 

「もう、お前を甘やかすのはやめたのよ、ニーナ──。ところで、スカートもはく必要もないわね。切り取ってしまいましょう」

 

 ドルニカ夫人がそう言って、小さな刃物を取り出した。

 夫人を含めた四人が馬車に立たせたままのニーナの腰の部分に切り込みを入れて、スカートを切り始める。

 

 スカートの中はもう下着は身に着けていない。

 ニーナは悲鳴をあげた。

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