※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第22話  兇王の疑心
382 罠に嵌まった令嬢


【ハロンドール王宮・王都ハロルド】

 

 

 

「まったく、どういうことなのよ──。わたくしを誰だと思っているのよ──」

 

 馬車の中で、エリザベスは悪態をついた。

 だが、向かい側の席に座っているふたりの侍女は小さくなって頭をさげるだけで、なにも喋らない。

 うっかりと言葉を放ってしまったら、エリザベスの八つ当たりが自分たちに飛んでくるのを怖れているのかもしれない。

 その感情が透けて見えるだけに、さらにエリザベスは苛立った。

 

「答えなさい──。茶会に招待されていた相手が夜逃げしていただなんて、冗談でも笑えないわ。あんたたち、知っていたのかしら? わたくしが恥をかいて馬鹿みたいだと思わないの? もしかして、相手先が王都にいないことを噂で知っていたんではなくて」

 

 エリザベスは怒鳴った。

 すると、やっと侍女のうち年配の方が口を開いた。

 

「お嬢様、わたしたちも狐につままれた気持ちです。エダン伯爵家が数日前から王都を引き払っていただなんて、想像もできませんでした。どうしてこんなことになったのか……」

 

「黙りなさい──。言い訳は聞きたくないわ。あななたちは、わたくしに鬱憤を晴らしたいんでしょう? だから、すでにエダン伯一家が王都にいないことを知っていながら、朝から準備するわたくしを笑っていたんでしょう。そうに決まっていますわ」

 

 エリザベスは喚いた。

 相手をしていた年配の侍女のみではなく、もひとりの若い侍女も慌てたように首を激しく横に振った。

 そのとき、走っている馬車が道でなにかに乗りあげたのか、馬車が上下にがくんと揺れた。

 お尻を座席に打ちつけてしまい、エリザベスは顔をしかめた。

 公爵家の馬車なら、こんなに乗り心地が悪くはないのだが、これは茶会が行われるはずの伯爵家の屋敷で乗り換えた馬車であり、そこにいた王都の近衛隊が別に準備したものだ。

 だから、乗り心地が悪い。

 それもまた、エリザベスを腹立たせる。

 

「痛いわ──。馭者にしっかりと動くように伝えなさい──」

 

 エリザベスは叫んだ。

 すると、侍女が困ったような顔になる。

 

「でも、馭者は王軍の手配でつけてもらったもので、当家の者でもないので……」

 

「わたくしの言うことを聞けないの──」

 

 エリザベスは、その年配の侍女の名を呼んで叱ろうとしたが、名が思い出せなかった。

 なにしろ、グリムーン公爵家の家人は入れ替わりが激しい。

 侍女も同じだ。

 

 普通であれば、公爵家くらいであれば、下級貴族の令嬢が行儀見習いの奉公として侍女になりに来るものなのだが、家人扱いが悪いということが評判になっているらしく、グリムーン家に来る貴族令嬢はほとんどいない。

 そのため、あがってくるものは平民で雇われた者になる。

 だが、そういうものは使えないし、素行が悪い者までいる。だから、すぐに解雇することになる。

 すると、さらに悪評がたち、人がグリムーン家に集まって来ないということになるのだ。

 エリザベスについている侍女たちも、同じようなものだ。

 なんという腹の立つことか……。

 

 母親のマリアには、このふたりを首にしたら、もうエリザベスの世話をしてくれる者はいなくなると、疲れた顔で釘を刺されている。

 公爵家の令嬢を世話をする侍女さえもいないとはどういうことか──。

 まったく嘆かわしい。

 

 だが、エリザベスの母親は、公爵家の妻というには、まったく大人しい性質であり、祖父である現公爵や次期当主の父の言いなりになるだけの大人しい人だ。

 そもそも、グリムーン家の屋敷に家人が集まらないのは、公爵家に仕えるというのに、与える給与が低いからだ。

 エリザベスはそれを知っている。

 しかし、家のことは、グリムーンに嫁いだ母のマリアの役割であり、家人のことについてなど、祖父も父も頓着しない。

 それでいて、十分な金を彼らは母に渡さない。

 そもそも、父親は遊び歩くだけで、ほとんど家には戻らないし、祖父は別宅で暮らしている。

 彼らにとって、グリムーン家の屋敷も、マリアやエリザベスのことも、どうでもいいものなのだ。

 

 だから、公爵家の女だというのに、母のマリアはあまり贅沢なことはしない。

 身に着けるものも平凡だ。

 ひとり娘のエリザベスにだけには、それなりに着飾らせてくれるが、自分はいつも質素だ。

 ほとんど家から出ることもない。

 あんな風にはなりたくない──。

 エリザベスは、母があまり好きではなかった。

 

 そもそも、今日は、どうして、こんなことになったのか……。

 エリザベスには、まったくわからない。

 だいだい、エダン伯爵家の茶会に参加するようにという祖父の命令と招待状が来たのは、昨日のことだ。

 格下であり、あそこの夫人とも令嬢とも親しくはないので、まったく気乗りはしなかったが、祖父の命令は絶対だ。

 さすがに、我儘は通用せず、エリザベスは同意した。

 

 ところが、朝から準備して、そのエダン伯爵家にやってくると、そこはもぬけの空であり、エダン家は、数日前から家人ごと消えていて、領地である南方に戻ってしまっているということだった。

 エダン家の当主は、王宮でも財務管理を預かる者であり、なんの報告もなく、いなくなったということで、事件性もあるということで、王命で王軍が調査にも入っていたようだ。

 そこに、茶会の恰好をしたエリザベスが乗り込んだのだ。

 恥ずかしかったこと、この上ない。

 

 しかも、エリザベスの乗った馬車が伯爵家の屋敷につくや、突然に故障してしまい、仕方なく、そこにいた王軍が準備した馬車の乗って戻るということになった。

 もともとの公爵家の馭者も、故障した馬車につくので、エリザベスを送り返す馭者は王兵が代わりにしてくれるということになった。

 だから、こんなに乗り心地が悪いのだ。

 

 いずれにしても、このところ、王都から逃げ出す貴族は少なくないということだ。

 王都は物価がおかしくなっているし、治安も乱れている。

 それで、貴族や商人のうち、ほかに逃げる場所がある者は、王都から脱走する者があとを断たないようだ。

 王都がそんなことになっているということも、エリザベスは、今日、近衛隊の将校と話をして初めて知った。

 

「いたっ」

 

 また馬車が揺れた。

 エリザベスはかっとなってしまった。

 だいたい、なにもかも愉快ではない。

 

「いい加減にしなさい──。馭者にしっかりと馬車を操るように伝えるのよ──」

 

 エリザベスは持っていた扇を侍女たちに投げつけようとした。

 慌てたように、今度は若い方の侍女が顔をあげる。

 

「お嬢様、でもそれはできません。見てください、馭者台側を」

 

 若い側の侍女は声をあげた。

 そのとき、この娘の名を思い出した。

 ケイトだ。

 

 まだ、グリムーン家に入ったばかりの娘であり、年齢はエリザベスと同じ十九歳だと言っていたか……。

 王都でもそれなりの大商家の娘だったらしいが、先日、国王の命令で商業ギルドの重鎮に連なる商家が突然に罪を鳴らされ、家長が処刑になり、財が没収されるという事件があった。

 この娘は直接潰された商家の娘ではないのだが、その影響で露頭に迷うことになった商家の家の者とのことだ。

 貴族ではないが、貴族相手に商売もするほどの家なので、彼女はそれなりに行儀や言葉遣いができた。

 だから、すぐに雇って、エリザベスに配置されるということになったのだ。

 それはともかく、そのケイトがなにを指摘しているのか……?

 

「なによ、ケイト──?」

 

「馭者と連絡をする小窓がありません。封鎖されています。伝声管のようなものもないし、動いているあいだは、こちらからは声がかけられないのです」

 

 ケイトが言った。

 エリザベスは初めて、そのことに気がつき驚いた。

 ふと見ると、確かに、普通ならある馭者台との連絡窓が封鎖されてなくなっている。行き来できる空間も存在しない。

 

「どういうこと? じゃあ、窓から叫んで」

 

 エリザベスの指示で、そのケイトが馬車の窓に寄る。

 内側にはカーテンがあり、窓は見えないようになっている。

 

「な、なに、これ──?」

 

 だが、カーテンを開いたケイトが驚きの声をあげた。

 カーテンを開くと、そこには鉄格子があったのだ。外側にもガラスの内側にカーテンがあったので、乗り込むときには気がつかなかったが、馬車の窓を隔てる窓にしっかりと鉄格子がある。

 

「どうして……?」

 

 年配の侍女も、反対側の窓に寄る。

 カーテンを開く。

 やはり、鉄格子だ。

 エリザベスは狼狽した。

 

「どういうことよ──。あいつら、わたくしを囚人馬車に乗せたの──」

 

 エリザベスは喚いた。

 囚人馬車にしては造りが豪華だが、鉄格子が嵌まっているということはそういうことだろう。

 とにかく、わけがわからない。

 

「あれ? ここは……どこでしょう? 馬車が進んでいるのは、王都の大通りではありません、お嬢様」

 

 窓に寄っているケイトが、外側のカーテンを開いて、外を覗きながら言った。

 エリザベスも身体を動かして、視線をやる。

 確かに、馬車が進んでいるのは、王都の街の中ではない。

 どこかの庭園内だ。

 そこを進んでいる。

 いつの間に……?

 少なくとも、公爵家の館に戻る経路にこんな場所は存在しない。

 

「あ、あたし、外に出ます」

 

 ケイトが意を決して、馬車の扉に手を掛けた。

 ゆっくりとはいえ、動いている馬車だ。

 さすがに、外に出るなんて危ない。

 

「お、お待ちなさい、ケイト。危ないわよ──」

 

 エリザベスはとめようとした。

 だけど、それはケイトのあげた声によって阻まれた。

 

「閉まっています。外から鍵がかかっています」

 

 ケイトもすっかりと狼狽している。

 エリザベスは唖然としてしまった。

 

 どういうこと?

 なんで?

 

 しかし、そのうちに馬車が停まった。

 慌てて、外に出ようとしたが、やはり扉には鍵がかかっていて、外には出られない。

 

「誰かおりませんか──。ここを開けてください──。馭者の方、そこにいないんですか──」

 

 ケイトが窓と馭者台側の壁に向かって大声をあげた。

 でも、誰も返事をしない。

 それどころか、馬車の外に人の気配を感じない。

 

 とにかく、ケイトともうひとりの年配の侍女が代わる代わる鉄格子に向かって声を出したり、馬車の扉をこっち側から叩いたりする。

 それでも、なにも起きない。

 エリザベスは不安になってきた。

 だが、ケイトがまくり避けている窓から、外の風景がちらりと見えた。

 エリザベスは、その景色に見覚えがあることを思い出した。

 

「待って、ここは王宮の中だわ。確か後宮に繋がっている庭園よ」

 

 エリザベスは窓の外に目をやって叫んだ。

 間違いないと思う。

 もうかなり前だが、少女といえる年齢のときに、二度ほど王妃のアネルザ主宰の茶会に招かれたことがある。

 上級令嬢だけの集まりだったが、公爵家の令嬢だったエリザベスも当然に呼ばれた。

 そこに違いない。

 

「どうして、王宮に?」

 

 しかし、王妃アネルザは、国王に対する不敬罪ということで幽閉され、後宮にはいないはずだ。

 いまは誰が知っ切っているのか……。

 そもそも、誘拐されるように、ここに連れて来られたのはなぜなのか……?

 エリザベスは大混乱した。

 

 そのときだった。

 がちゃりと扉の鍵が開く音がした。

 

「開きました──」

 

 音がしたのは年配の侍女がいる側の扉だ。

 扉を開けて、その侍女が外に出た。

 

「ぎゃあああああ」

 

 突如として外で悲鳴があがった。

 びっくりして、エリザベスは扉の外を見ようとした。

 

「待ってください、お嬢様──。外には出ないで──」

 

 ケイトがエリザベスを強引に手で押し避けて、扉に身体を寄せる。

 すると、そのケイトに男の腕が伸びてきた。

 

「ひぎいいいい」

 

 ケイトの身体ががくりと曲がり、そのまま座席に倒れる。

 

「ケイト──」

 

 エリザベスはその身体を掴もうとした。

 だが、伸びていた男の腕がケイトの身体を支えるように抱いた。

 

「ふぐうううう」

 

 すると、またもやケイトが身体を突っ張らせて悲鳴をあげた。

 完全にケイトの身体が脱力する。

 意識を失わされたみたいだ。

 

 男が馬車の半身を乗り込ませて、力を失っているケイトの身体を座席に倒して、両手を背中に回させて、両手首に鎖で密着している枷を嵌めた。

 

「ひいっ」

 

 エリザベスは馬車の中で悲鳴をあげた。

 

「年増には興味はないが、この侍女も無垢そうでいいのう。だが、まずはお前だな。久しぶりだのう、エリザベス。前に会ったのは、まだ十歳くらいだったと思うが、随分と色っぽくなったものだ」

 

 ぬっと馬車に姿を出したのは、驚いたことに国王のルードルフだ。

 しかし、様子がおかしい。

 眼は血走っていて、口元からはだらしなく涎が出ている。なによりも、その顔に浮かんでいる卑猥な色に怖気が走った。

 

「へ、陛下、こ、これはどうして、あ、あの……」

 

 なにを喋っていいかわからない。

 儀礼をするような状況でもないし、だいたいケイトに危害を加えたのは、国王の仕業だ?

 なにが起きているのだ──?

 

「お前のことは、グリムーンと話がついておる。諦めるのだ。余の性を慰める生贄になってもらう。どれ、馬車の中で犯すのがよいか。それとも、外がよいか? どちらでもいい。人払いはすんでおる」

 

 ルードルフ王がエリザベスに手を伸ばした。

 エリザベスは咄嗟に馬車の反対側に寄る。

 しかし、それ以上は退がれない。

 

「怯える顔もいいのう。可愛いのう。もちろん、処女であろうな。間違いあるまい。余の一物が反応しておるしのう」

 

 ルードルフが訳のわからないことを呟きながら、エリザベスに腕を伸ばす。

 

「へ、陛下、お戯れを──。グ、グリムーン家のエリザベスでございます。こ、これはいったい、どういうことでございますか──」

 

 声をあげた。

 だが、ルードルフ王が完全に馬車の中に乗り込んできた。

 唯一の逃げ道は、王の背中側だ。

 立ったままのルードルフ王が完全に塞いでいる。

 

「わかっておる、グリムーン家のエリザベス。お前はちょっとした取引きで、余の叔父……グリムーン公からもらい受けた。面倒だが、グリムーン家の紋様のついた馬車を王宮に入れて襲うのはやめてくれというから、わざわざ、外で別の馬車に乗り換えさせるという手間もかけさせたのだ。だから、お前たちが王宮に入ったという事実はない。入ったのは軍の馬車に乗ってきた不届き者だ」

 

 ルードルフ王が笑った。

 なにを言っているのが、さっぱりとわからない。

 とにかく、いまが危険な状況だということだけは悟った。

 

「いやああ──。誰か──。誰か──」

 

 エリザベスは絶叫した。

 ルードルフ王の腕がエリザベスの右腕を掴む。

 すると、ルードルフ王の手に嵌まっている指輪が真っ白い明るい光を放ったと思った。

 

「あぎいいいい」

 

 全身に強い電撃が走った。

 衝撃で身体が弾けて、エリザベスはその場に崩れ落ちてしまった。

 あの指輪が電撃を放ったのだ。

 侍女たちも、それで気を失ったのだろう。

 

「あ、あ、あ……」

 

 舌先まで痺れて声をもあげられない。

 ルードルフ王は腰にさげていた手枷を取り、エリザベスの身体を裏返して、がちゃりと両手首に手枷を嵌められた。

 エリザベスの両手の自由は完全に奪われた。

 

「女の衣装というのは、脱がすのも面倒だからのう。まあ、公爵家の屋敷に帰すときには、新しい服を余の名で贈ってやる。犯し尽して余の道具が勃起することがなくなるまでだから、数日後になると思うが……」

 

 ルードルフ王によって、もう一度身体が座席に乗せられて、仰向けに反転させられる。

 しかし、身体が痺れて動かない。

 ドレスのスカートの裾を握られた。

 がばりと腰近くまで捲られる。

 

「ひ、ひいっ」

 

 やっと声が出た。

 

 だけど、怖い──。

 怖い──。

 怖い──。

 

 さっきのルードルフ王の指輪が今度は青色に光った。

 

「も、もう、お、おやめください、へ、陛下──」

 

 だが、さっきの電撃を浴びせられる──。

 恐怖が走る。

 

「悲鳴はいくらでもいいぞ。どうせ誰も来んし、その怖がる姿が余の精をたぎらせるからな。だが、逃げんことだ。逃げると電撃を浴びせるぞ。余もできるだけ、意識のある状態で犯したい。気絶をしているところを犯しても、あまり面白くないのでな」

 

 指輪がエリザベスの首元から臍にかけて撫ぜる。

 ぱっくりと上半身の部分のドレスが切り開かれて、絹の下着が露わになる。

 本当にここで犯すつもりなのだ。

 エリザベスは恐怖で身体が動かなくなった。

 

「お、お嬢様──」

 

 そのときだった。

 ケイトがいつの間にか起きあがって、後ろ手のままルードルフ王の身体の前に足を入れた。

 そのまま身体を捻って、体重をかけ、体当たりするようにルードルフ王とともに馬車の外に一緒に転げ落ちていく。

 

「ケイト──」

 

 エリザベスは声をあげた。

 なんとか立ちあがって、馬車の外に出る。

 ドレスの前が割れ、両手も背中側で手枷が嵌まっているのでうまく動けないが、それでも馬車に外に出た。

 

 やはり、王宮の後宮のそばの庭園であり、周りを美しい花畑に囲まれている一画だ。

 しかし、周りには誰もいない。

 ルードルフ王の護衛さえもいない。

 馬車の外に倒れているケイトとルードルフ王、そして、もうひとりの侍女が地面にいるだけだ。

 

 また、ケイトとルードルフ王には意識はあるが、もうひとりの年配の侍女は電撃が強すぎたのか、まだ気を失ったままだ。

 一方で、ケイトは、馬車から落ちたときに、ルードルフ王の上になったみたいで、それほどの外傷もないようだが、ルードルフ王はケイトに馬車の外に突き飛ばされたときに頭を打ったのか、うんうんと唸っている。

 

「お嬢様、逃げましょう──。早く──」

 

 ケイトが叫んだ。

 後ろ手のまま、肩でエリザベスを馬車と離れるように押す。

 

「に、逃げるって……」

 

「とにかく、人のいるところまで──」

 

 ケイトが叫んだ。

 すると、頭を押さえながら、ルードルフ王がよろよろ立ちあがるのが、視界に入った。

 エリザベスは悲鳴をあげて、ケイトとともに駆け出した。

 

「ふふふ、追いかけっこか? それもいいのう。いかにも犯しているという風情がある。どうせ誰も咎めん。余に逆らうものは王宮にはおらん。王兵のいる前で犯してやってもいいぞ」

 

 すぐに、ルードルフ王が笑いながら追いかけてきた。

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