【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「お、お嬢様、早く──」
ケイトが前を走りながら叫ぶ。
だが、夜会のときほどではないが、茶会で身に着ける衣装も、それなりに嵩張るし、重い。しかも、後手で手首に手枷を嵌められていて、うまく身体を動かせない。足元もおぼつかないし、あっという間に、ルードルフ王が迫ってきた。
「そ、そんなこと言っても……」
エリザベスは懸命に走りながら、泣き言を口にした。
切られてはだけている衣装が左右に分かれて、腕は胴体にまとわりつくのだ。うまく走れないし、まるで上体まで拘束された感じになり、いよいよ動きにくい。
さらに足元が路面に引っ掛かって、転びかける。
「裸足になってください──。そして、走って。あたしが時間を稼ぎます。そのあいだに、とにかく遠くに逃げてください──」
ケイトが振り返って、エリザベスの後ろに行く。
振り返ると、ルードルフ王がすぐそばまで近づいていた。
ケイトが両足を踏ん張るように立ち、卑猥な笑いをしながら、明らかに常軌を逸しているルードルフ王に向かい合う。
「時間を稼ぐって──。い、一緒に逃げるのよ」
「できません。お嬢様が捕らわれれば、まずはお嬢様から犯されます。とにかく、誰かを連れてきてください──。もう、後ろを見ずに走って──」
ケイトが顔を振り向いて、必死の形相で叫ぶ。
公爵令嬢である自分に、侍女の身で命令するとは何事かと思うことはなかった。
それよりも、考えているのは、ここでケイトが足止めをするということは、あのルードルフ王がケイトを凌辱するだろうということだ。
それは、怖ろしいことだった。
「ほれ、ほれ、待たんか。余の一物がたぎっておる。エリザベス、余の相手をするのだ」
ルードルフ王が間近に迫る。
ケイトが駆け進んで、体当たりしたのが見えた。
「んっ? おっと……」
「あぐううう」
だが、そのケイトがルードルフ王に当たった瞬間に、ケイトが絶叫して崩れ落ちた。
一瞬だが指輪が白く光ったように見えたので、あの指輪の魔具で電撃を放ったのだろう。
でも、ケイトは倒れながらも、ルードルフ王の服に噛みつくようにして、一緒に地面に引き倒した。
しかも、ルードルフ王の身体の上にのしかかり、馬乗りになって、脚を挟んで胴体を締めつけるようにしている。
「犯すなら、あたしを犯しなさい──。この変態王──」
ケイトが叫ぶのが聞こえた。
仮にも国王である相手に、そんな口をきくのは驚いたが、あんなにも気性が激しい性質だというのは初めて知った。
とにかく、ケイトは必死の姿だ。
エリザベスは、心の中でケイトに謝りつつ、靴を脱いでその場を駆け去った。
すぐに、喧噪の気配が遠くなる。
花園の辻を曲がる。
しばらく走る。
やはり、誰も出てこない。
息が切れる。
どれくらい駆けたか。
エリザベスも、王宮にそんなに詳しくないので、迷ってしまい、あちこちを動き回ることになっていまった。
こうしているあいだも、ケイトが……。
気が焦る。
すると、やがて、建物が近くなってきた。
正殿だ。
やっと、ちらほらと警備に立つ近衛兵の姿が遠目に映るようにもなった。
「誰か──、誰か来なさい。グリムーン家のエリザベスです──。誰か、来なさい──」
心の底から絶叫した。
こんな格好を見られれば、公爵令嬢としての自分の醜聞だとかを考える余裕はなかった。
いま、ケイトがどんな目に遭っているのは想像もしたくない。
ケイトを助けないと……。
考えていたのはそれだ。
やがて、ふたりほどの近衛兵が走り寄ってくるのが見えた。
エリザベスはほっとして、その場にしゃがみ込んでしまった。
「こ、これは──。グリムーン公爵家のお嬢様……。どうして、こんなところに──? しかも、その格好は……」
走り寄って、まず声をかけたのは、背の高い女性騎士だった。もうひとりは男の騎士である。
女性騎士は、はだけているエリザベスの服を掴んで寄せ、エリザベスの下着を隠すようにした。
そして、エリザベスの後手に手枷が嵌められているのを見て、目を丸くしている。
「こ、後宮のそばの庭園で……暴漢に襲われて──。わたくしの侍女が襲われてます。早く助けなさい」
咄嗟に言った。
“暴漢”だと口にしたのは、その暴漢がルードルフ王だと知れば、そのまま放っておかれる可能性を考えたからだ。
もしかしたら、この近衛兵そのものが、ルードルフ王に協力しているかもしれない。
そのそも、夜逃げをしていた伯爵家で、エリザベスに馬車を乗り返させて、この王宮に連れ込むというなことをしたのは、近衛兵の一隊の手筈なのだ。
「マイク、お前はこの令嬢を頼む。わたしは行ってくる」
マイクというのは、男の騎士だろう。
それで気がついたが、ふたりの騎士のうち、男は下士官の階級をしている。一方で女騎士は将校だ。
また、エリザベスは、目の前の女騎士が男装の麗人として少し有名なベアトリーチェだとわかった。
王軍の女騎士の中では、あのシャングリアと並んで有名な存在であり、爵位は騎士爵の家の出身と低いが、剣の腕なら男にも引けは取らず、男勝りの性質で、男よりもエリザベスのような令嬢たちの世界で人気がある女性だ。
美貌であり、これまでに婚姻話もたくさんあったらしいが、自分は剣に生きるのだと、一切相手をせずに、三十近くなるまで浮いた話も耳にしない。
いずれにしても、高潔で義侠心に溢れるな女性騎士と有名だ。
エリザベスはほっとした。
「待ってください、ベアトリーチェ様──。おひとりでは」
もうひとりの男の騎士が立ちあがったベアトリーチェに代わり、エリザベスのそばにしゃがみ込みながら、彼女に向かって顔をあげている。
「問題ない。わたしの方がお前よりも強い。暴漢くらい」
ベアトリーチェが白い歯を見せた。
「でも、今の時間、後宮方面に近づくのは禁止されてます。命令に逆らえば、処罰が……」
「だから、お前はここにいろ。王宮内に暴漢だと聞いて、ほったらかしにできるか──」
ベアトリーチェは駆けだしていった。
*
「余に逆らうか? 一族郎党皆殺しだぞ。元気がいいのはよいがな」
身体の下のルードルフが卑猥に笑った。
ぞっとしたが、ここで時間を稼がないと、エリザベスがこの狂った王に凌辱される。
このことだけを考えた。
後で殺されようが、毀されようが、いまは時間を稼ぐことだけだと思った。
「ふぐうっ」
だが、腹に指輪を下から押しつけられて、衝撃が身体が跳ねあがった。
電撃だ。
ケイトの身体が力を失う。
それでも、馬乗りになっていた脚だけは絡ませ続ける。
「ほう、なかなかの主人想いの侍女だな。しかも、よく見れば美人か? まあ、いまはお前にするか。取引はしたから、エリザベスは逃げられんしな。また、グリムーン公に連れてこさせればよい」
ルードルフの腕がケイトにかかる。
呆気なく地面に引き倒された。
逆にルードルフに馬乗りに乗られる。
「くうっ」
まだ痺れているが、まったく動けないわけじゃない。
ケイトは渾身の力で後手のまま背中を反らせて、ルードルフ王を振り落そうとした。
だが、重い。
ルードルフが身体を倒して、ケイトの上に寝そべるようにしてくる。
突き出ている腹がケイトの腹にのしかかる。
ルードルフの手がケイトのスカートの中に入って、たくしあげられた。
「くっ、うう……」
太腿を触られ、胸元を服の上からまさぐられる。
さすがに、こうなったらほとんど抵抗はできない。両手さえ拘束されている。
「ほら、よいのか? もっと抵抗せんか。言っておくが、余の手つきになったところで、後宮には入れんぞ。いちいち、そんなことをすれば、後宮がいっぱいになるし、正直、お前は余の好みではない。まあ、気が強そうなのはいいがな」
ルードルフがケイトの身体を触りながら笑った。
かっとなった。
誰が後宮など……。
そのあいだも、あちこちを触られ続ける。
この暴行の中で、その手管だけが緩慢だ。
女の身体を感触を確かめるような感じである。
しかし、それを払いのけられないのが口惜しい。
こんな男……。
せめてもと思い、ケイトはルードルフを下から睨んだ。
不敬罪など知ったことか──。
「その怒った顔がいいのう……。そそる……。おお、固く勃起した。三日ぶりか……。このところ、獲物が捕まらんで、余の一物が昂ぶることもなくなっていた……。おお、勃った。余の一物が完全に勃った──」
ルードルフが訳のわからないことを言って感激したような声をあげる。
そして、一度身体を起こして、ケイトの胸元に指輪を当てた。
一瞬身体が竦んだが、すっと指輪が身体の上を通り抜けて、スカートの裾まで進み去った。
そのあいだ、指輪は青い光を放っていたと思ったが、終わると服が完全に左右に切断されていた。
また、ルードルフはケイトの身体に馬乗りになったままであり、そこから逃げることはできなかった。
暴れても、押しつけられている指輪が今度は電撃の道具に戻るだけだ。
ケイトは耐えた。
とにかく、この破廉恥王がケイトに関わっているあいだに、エリザベスは遠くに逃げられるはずだ。
「観念せい」
もう一度露わになった下着の上を同じように、指輪で撫でられる。
下着も切れて、ケイトの裸体が外の風に触れた。
「乳はきれいだな。どれ」
ルードルフが両手で左右の乳房を握りしめた。
「ううっ」
ケイトは絶望感に襲われて声をあげてしまった。
「動くな。動くと、乳房に電撃が当たるぞ。ほれ、ほれ」
ルードルフが腰をずらせて、左の乳首に舌を這わせてきた。一方で右の乳首には王の指にある指輪が当てられる。
さすがに、そんなところに直接に電撃を浴びせられるのは怖い。
ケイトの身体が緊張して動かなくなる。
股間に残っていた下着をルードルフの左手が掴む。
ゆっくりとさげられていく……。
「い、いやああっ」
ケイトは身を捩って抵抗しようとした。
「はぎゃああああ」
凄まじい電撃がケイトの右の乳首に叩き込まれて、ケイトは一瞬だけ意識を失いかけた。
下着がおろされて、足首から取り払われる。
「ははは、抵抗されすぎるのも面倒だが、抵抗せんのもつまらん。その点、お前はほどほどでいい。その調子で余を悦ばせよ」
ルードルフが一度立って、さっと下半身の装束を脱いで股間を露わにした。
勃起した男性の性器がケイトの目に入る。
そんなものを見るのは、生まれて初めてのケイトは、心の底から恐怖してしまった。
「とりあえず、精を放つ。味見はその後だ。溜まっておるのだ。だが、出せんで苦しかった。まずは一発だ」
ルードルフに両脚を抱え込まれる。
全く濡れていない股間に、勃起したルードルフの男根の先をあてがわれる。
「いやああ、やめてえええ」
ケイトは泣き叫んだ。
力一杯に暴れた。
冗談じゃない。
このまま犯されるなど──。
「んぐううううう」
次の瞬間、腹に衝撃が走り、ケイトは痙攣していた。
電撃を当てられたのだ。
全身が脱力する。
「もっと暴れてもよいぞ。その代わり、電撃で痛めつけるがな。ちゃんと気絶せんように加減をしているので安堵せい。もう、暴れんでいいのか?」
ルードルフが股間に男根を押し入れてくる。
ものすごい激痛が湧き起こる。
「あがあああ」
ケイトは絶叫した。
「痛ければ蜜を出せ。出さんから痛いのだ」
ルードルフが愉しそうにぐいぐいと男根を深く押し込む。
あまりの痛さに、ケイトは電撃どころか、これで意識を飛ばしそうになった。
「入ったぞ、ケイト。いま処女膜を破った。やっぱり生娘か」
ルードルフが高笑いした。
ケイトは自分の眼から涙がこぼれるのがわかった。
そのときだった。
がさごそと背の高い花園の草が動き、誰かが急いでこっちに来る気配がした。
「た、助けて──」
ケイトは叫んだ。
誰が来たのかわからない。
しかし、とにかく声をあげた。
「なんじゃ、お前? この時間は、誰も近づかんように命令を徹底させているはずだが?」
ルードルフがケイトに男根を入れたままの状態で、草の壁の中から出てきた相手を見た。
ケイトも視線を向ける。
背の低い庭師の男だ。
随分と小柄なので、庭師が世話をしている見習いの少年かとも思った。
「わああああ、お姉様の仇──」
だが、その庭師が突然に懐からなにかを取り出した。
陽の光に当たって、それが光る。
刃物だ──。
ナイフだ。
わかったときには、そのナイフがルードルフの横腹に刺さっていた。
「うわあああ──。痛いいいい。な、なんじゃあああ、うわああああ」
ルードルフがケイトの上から転がり落ちた。
下半身だけが裸のまま、悲鳴をあげながらに逃げていく。
手で横腹を押さえているが、傷は深くはないみたいだ。
それでも、よろよろと腰が抜けたみたいに逃げようとする。
「ああああ──」
庭師──いや、少女だ──。
ルードルフに突き飛ばされたときに、庭師の被っていた帽子は外れ、さらにかつらが飛ばされていた。
どうやら、庭師に変装をしていた少女みたいだ。
手にルードルフの血の付いた刃物を握りしめている。
血を流して逃げるルードルフを彼女が追う。
ケイトは呆気にとられた。
「だ、誰じゃ──。よ、余を誰だか知っておるのか──。誰かああ、誰かあああ」
「お、お姉様を返せええ──」
少女が絶叫して、ルードルフに体当たりしていく。刃物はしっかりと前を向いている。
ケイトは目を見開いた。
ルードルフが腰が抜けたように、その場に倒れる。
しかし、その少女がいきなり横に突き飛ばされた。
「うわあっ」
少女が地面に転がる。
風のようなものがすぎ、少女がおとしたナイフを蹴り飛ばした。
「へ、陛下、ご無事で──。陛下?」
駆けつけて少女を取り押さえたのは、ひとりの女騎士だ。
ケイトはその女性を知っていた。
面識はないが、男装の麗人として有名なベアトリーチェだろう。近衛隊に所属する女騎士だから、王宮にいたのだろう。
「こ、これはどういう状況なのですか、陛下?」
少女を押さえているベアトリーチェも、呆然としている。
腹から血を流して、下半身を剥きだしている国王──。
ナイフで王を襲った少女──。
そして、明らかに犯されていたということがわかる自分だ。
突然にこの光景を見れば、なにがなんだかわからないに違いない。
まあ、なにがなんだか、ケイトにもわからないが……。
「そ、そいつは余を襲った暴漢だ──。いや、それよりも、余を救え──。余はまだ死にたくない。余を助けんか、命令だ──」
ルードルフが喚いている。
あんな傷で死ぬか……。
ケイトは心の中で悪態をついた。
そして、身体を起こして上体をあげ、脚で切られた服を寄せて股間だけを隠す。
痛い……。
泣くほどに股間が痛い……。
「す、すぐに……」
ベアトリーチェが懐からなにかを出して、空に向けた。
しゅうという音とともに煙の塊が飛び出して、空でぼんと弾けた。
信号弾のようだ。
「すぐに人が来ます。陛下、お待ちを……。ところで、あっ」
ベアトリーチェが押さえている少女を見て小さく叫んだ。
ケイトも声を出しそうになった。
その少女を知っていたのだ。
確か、トミア子爵家の下の令嬢だ。
ケイトも最近まで、貴族相手の商売を手伝っていたので、大抵の貴族の顔と名は、その家族まで頭に叩き込んでいる。
彼女の名はミリア……。
トミア子爵家の下の娘であり、年齢は確か十四歳……。
そういえば、彼女の姉のユファは、つい最近自殺をしたという噂があったのを思い出した。
情報は商売人の命なので噂は大切にしているのだが、トミア家の上の娘がほんの最近に亡くなったというのは本当だ。
だが、その死因が自殺だというのが噂なのだ。
そういえば、ミリアはさっき、姉の仇だと叫んだか?
「お願い、こいつを殺させて──。こいつのせいで、わたしの大好きなお姉様は、首を括って死んだんだから──」
ベアトリーチェに押さえられているミリアが激しく号泣し始めた。
*
ユファ:『314 暴王の誕生(その2)』を参照