【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【ハロンドール王宮・後宮殿】
「呼んだか、テレーズ?」
サキは移動術でテレーズにいる後宮の一室に跳躍した。
夕食を終えたばかりの時間であり、そこに伝言球がやって来たのだ。
あれの呼び出しには、碌なことがない。
このところ、やたらに絡んできて、サキに対して性的悪戯をするためだけに、後宮にやってこさせたりする。
むしろ、この二日間の夜の呼び出しはそれだった。
真名を耳元でささやかれて隷属状態にし、サキの身体をひたすら愛撫したりするのだ。
昨夜など、徹底的に筆で局部や尻穴を責められ、この自分に、あんなに恥ずかしい悲鳴をあげさせては、悦に入っていた。
しかも、穴の中こそ、ロウの貞操術の守りで指や異物を入れられないものの、しっかりと入口に塗り、ただれるほどに痒くなってから、筆責めをするのだ。
あんなものを耐えられるわけがない。
思い出しても、腹が煮えかえる。
どうせ、今夜も同じようなことをしようと思っているに違いない。
だから無視したいが、無視を決め込むと、夜中に嬉々としてやってきて、それ以上の嫌がらせをしてくる。
このサキが真名ひとつで、人間族の女ごとに、いいように扱われると思うと、怒りで頭の血が沸騰しそうになるが、サキには逆らう手段がない。
この前のことだが、呼び出しを無視した罰だと言われてやらされた、媚薬を塗ったうえでの寸止め自慰はつらかった。
絶頂寸前まで自慰をさせられ、ひたすらにそれを寸止めでやめるということを繰り返しやらされたのだ。
しかも、真名を使った命令だけを残して、朝まで続けろと放置された。
さすがのサキも、誰もいない部屋で寸止めだけを何百回も繰り返したときには、心が折れそうになった。
とにかく、またもや今夜も呼び出した。
どうでもいいが、もしかしたら、あいつは百合愛の癖があるのではないだろうか……?
最初は、サキへの嫌がらせだけの行為だと思っていたが、それにしてはしつこすぎる。
このところ、頻度も多くなっているし、無表情だったテレーズの顔から感情が読めるようになってくると、サキに淫靡な行為をするときには、テレーズがかなり愉しんでいるということもわかってきた。
いずれにしても、サキは口惜しさに歯ぎしりをしながら、テレーズの居室に跳んだ。
すると、そこには、テレーズのほかに、人間族の少女がひとりいた。
顔にそばかすのある若い娘だ。
「来たわね、サキ。そこに座ってくれるかしら」
テレーズは、手すり付きの長椅子に、その人間族の娘とテーブルを挟んで座っている。
また、人間族の娘の前には、湯気の出ているスープがあり、飲み物も置いてあった。そして、娘は身体を大きな白い布で包んでいる。
よくわからないが、娘が被っている布の下は裸のようだ。
髪は濡れていて、たったいま水か湯を浴びていたという感じだ。
意気消沈していて、元気がない。
ただ、眼の生気だけはある。
「誰だ、こいつは?」
サキはふたりの側方側ある椅子に腰をおろしながら訊ねた。
いずれにしても、数日続いていた淫靡な仕打ちではなさそうだ。
とりあえず、ほっとした。
「彼女はケイトよ。ルードルフが昼間に庭園で強姦した娘……」
テレーズは事も無げに言った。
サキは眉をひそめた。
「またやったのか、あいつは?」
サキは呆れた。
好色のことだけしか考えない怠け者であり、人畜無害だけが取り柄のルードルフだったが、テレーズが毒を与え、強姦でなければ勃起しない体質に変えてしまって、すっかりと強姦魔になっていた。
隙あらば、近くに侍る娘を襲おうとし、王宮内は大変な状態だ。
しかも、その行為を邪魔されないように、王家に伝わっている隷族の魔具なども持ち出して、近衛兵や官吏、高級貴族などがルードルフに逆らえないようにしている。
だから、いまや、王宮はルードルフの無法地帯だ。
あれはまたやったのかと思った。
そのとき、ケイトだと教えられた娘がサキに向かって顔をあげた。
さらに、身体を布で包んだまま立ちあがろうとした。
「あ、あたしは……、い、痛たたた……」
だが、腰をちょっとあげただけで、しかめっ面をして顔を歪めた。
「座ったままでよい。なんじゃ、お前?」
サキは怒鳴った。
ケイトは腰を落としてしまったが、サキの声でびくりと身体を反応させる。
「い、いえ、ちゃんと、ご挨拶と思いまして……」
ケイトが言った。
びくついてはいるが、それでも、ちゃんと言葉を返すあたり、かなりしっかりとしているようだ。
そもそも、ルードルフに犯されたとテレーズが口にしていたので、それをテレーズが保護したということだと思う。
理不尽に犯されたにしては、心を潰されるということもないらしい。
なかなかに頼もしい娘だとサキは思った。
「わしはサキだ。何者なのかはどうでもいい。覚える必要もない」
サキは吐き捨てた。
「あたしの腹心よ。親友なの」
テレーズが横から言った。
サキは舌打ちした。
「本当でしょう? 夕べも、その前も愛し合ったわ。否定するなんて、ひどおおい」
テレーズがわざとらしく甘えたような口調で応じる。
怒りで顔が赤くなるのを感じたが、サキは懸命に怒声を我慢した。
サキがぶち切れると、理不尽な行為をむしろ余計にやらされる。
ふと見ると、ケイトという娘が顔を真っ赤にしている。
テレーズのからかいの言葉を真に受けた表情だ。
サキは捨て置くことにした。
「それでここに連れてきたのか?」
サキは、戯れ言を打ち切り、テレーズを見る。
とにかく、珍しいこともあるものだと思った。
ルードルフが犯した女を助けて世話をするなど、初めてではないだろうか。いつもは、放置して終わりだ。
「まあね。ちょっと気に入ったのよ。こういうしっかりとした気性の子は好きでね。子飼いの部下にしようよ思っているわ。なかなかに見どころがある。なにせ、このケイトは、女主人を逃がすために、進んでルードルフに自分を襲わせて時間を稼いだらしいわ。生娘だったのにね」
「女主人?」
「グリムーン公爵家のエリザベスよ。なにか、覚えていない?」
テレーズが微笑んだ。
「グリムーン公? ああ、あの……」
サキは言った。
思い出したのだ。
グリムーン家のエリザベスといえば、テレーズの影に隠れて、この国の公爵二人とマーリンという魔道遣いが陰謀めいた話を盗み聞きしていたときに、名前が出た令嬢だろう。
忘れていたが、ルードルフにわざと襲わせて、謀略の材料にすると言っていたか……。
あれが今日だったのか……。
「そ、そのことなんですけど……あ、あのう、王宮に務められるのは光栄だとは思いますが、あ、あたしはエリザベス様の侍女でありまして、いずれにしても、一度帰していただきたいと……」
ケイトがおずおずと言った。
これまでのあいだに、テレーズはケイトにさっきのことを申し渡していたようだ。
だが、テレーズは首を横に振る。
「決めたことよ。さっきも言ったわ」
「で、でも……」
「でもはなし。だめよ。あたしはあなたが気に入ったの。それと、王宮務めじゃないわ。あ、た、しの部下よ。あたしのそばにいなさい。実を言うと、あたしには侍女がいないの。あなたをそれにしてあげるわ」
「し、しかし……」
ケイトは困惑顔だ。
しかし、サキはテレーズが本気だということがわかった。
よくわからないが、この娘も随分とテレーズに惚れこまれたものだ。
珍しい……。
「すでに、あなたの実家には人をやって、それなりの支度金を一緒に持たせたわ。グリムーン家も問題ない。そっちはまだだけど、すぐに使いをやるわ。あたしの言葉に逆らえるわけないしね。あたしのことを知っているかしら?」
「テレーズ伯爵様です……。陛下の女官長をされている方ですよね?」
「わかっていたら、あたしの言葉に逆らえないというのも理解しなさい。私物についても、後日全部こっちに移動させるわ。それまであなたはここにいなさい。必要なものは全部準備するし」
テレーズが言った。
サキは鼻を鳴らした。
「ほう、このケイトとやらが、随分と気に入ったのだな。ところで、わしを呼んだのは、この娘を紹介するためか?」
サキは言った。
テレーズがサキに視線を向けた。
「ひとつはね。まずはこのケイトに治療術をして──。応急処置はしたけど、あいつ、この
「あっ、もう大丈夫です。こ、こんなもの……」
ケイトが恐縮するように言った。
だが、そのときには、サキはケイトの身体に治療術をかけ終わっていた。
治療術のような光魔道は得手ではないが、多少はできる。
ちょっとした打撲や裂傷程度なら、これで問題はないはずだ。
「あっ、あ、ありがとうございます」
楽になったのだろう。
ケイトがサキに向かって頭をさげた。
「それともうひとつ……」
テレーズが懐から一枚の紙を出した。
いや、紙の体裁をしているが、これは魔道紙だ。魔道で作った特殊な材質のものであり、受け取ったことで、これにかなりの魔道が込められていることも分かった。
「誓紙?」
サキには、その魔道の内容もわかった。
この魔道紙に刻まれているのは、誓約の魔道だ。
折れ目を開く……。
自分の眼が大きく見開くのがわかった。
これは、マーリンとグリムーン公とラングーン公の三人が刻んだ誓紙だ。
グリムーンとラングーンの二公爵が王位を奪うことに対して、マーリンが協力するという内容の誓約書である。
あの三人の会話をテレーズの影の中から傍受しているときに、口にしていたやつか……?
すると、テレーズが身体を乗り出して、サキの耳元に口を寄せる。
「……偽物よ……。さすがに、本物は盗めなかったし……。だけど、それなりに魔道もかかっているし、本物で通用するわ。それに裏切りの証拠なんてどうでもいい……。要はあいつが信じさえすればいいのよ」
「あいつって、あれか?」
ルードルフのことだろう。
この誓紙をルードルフに信じさせると口にしているのか?
二公爵が裏切って、王位を狙っていると?
それそのことが、真実であることをサキは知っているが、テレーズの意図がわからない。
テレーズは、ケイトにさっと視線を向けて、いきなりぱちんと指を鳴らした。
ケイトの身体が脱力して、椅子に身体を沈めて眠ってしまう。
テレーズは、サキから誓紙を戻した。
「明日は忙しくなるわ。あなたに預けている近衛軍をいつでも出せるように準備しておいてね」
「近衛軍?」
首を傾げかけたが、そういえば、サキはこの王宮に侍っている近衛軍の隊長ということにもなっていることを思い出した。
このテレーズがそうしたのだ。
「……このケイトをあれが襲ったとき……、本当はエリザベスを襲おうとしたんだけど、彼女が庇ったの……。そのとき、別の少女が現われたのよ……。首を吊った姉の仇を討とうとしたようよ……。残念ながら果たせなかったけど、横腹には刃物は刺さったわ」
「ルードルフが刺された?」
サキは驚いた。
「あいつって、このところ、無垢の女を凌辱することに憑りつかれているでしょう。だけど、そんなときには、護衛兵が邪魔なので、ひとりでうろうろするの。そこを狙われたのね」
「王宮に暴漢か? はっ、だが、生きておるのか──。死ねばよかったのに」
サキは吐き捨てた。
「そうはいかないわ。まだ、使い道があるんだから……。だけど、おかげで、いまは恐怖心と猜疑心の塊でね……。死の恐怖を味わったせいね。いまのルードルフなら、自分の命を脅かす可能性のあるものに対して、どんなことをしても、排除しようとするわね。好色よりも死への怯えが勝っている……。こういう状態になったのは初めて……」
テレーズがくすくすと笑った。
よくわからないが嬉しそうだ。
ただ、こいつは闇魔道士だ。
人の心にある悪感情を増幅して他人を操る──。
いままでは、ルードルフの好色を使い、凌辱でなければ勃起しないように術をかけたりして、若い侍女などを強姦させて、悪王に仕立てあげたりしていた。
だが、やっと猜疑心がどうのこうのと口にしているのを考えると、つまりは、ルードルフの心を恐怖心や猜疑心で操ることができたということに違いない。
しかし、それがなんだというのだ……?
「面倒な物言いは好かん──。軍の出動を準備させておけというのはわかった。だが、それがなんだ──?」
サキは苛ついてきた。
すると、テレーズがにやついた顔になる。
「やっぱり、回りくどい言い方や腹芸は魔族には通用しないのね……。さっき見せた誓紙があるでしょう。猜疑心の塊になっているあいつに、これを見せればどうなると思う?」
テレーズが意味ありげに言った。
サキにはやっとわかった。
「そういうことか……。それで軍か……。もしかして、このケイトを公爵家に返さんのは、だからか?」
「気に入ったのよ。これは本当ね」
テレーズはちらりと眠っているテレーズに視線をやって言った。
「まあいい。とにかくわかった。近衛隊の掌握は任せておけ」
サキは言った。
「早朝かな……。とりあえずは……」
「早朝か。承知した」
サキははっりきと頷いた。
すると、またテレーズが身を乗り出して、サキの耳に口を寄せた。
「……明日全部、片付けましょう……。二公爵……。ついでに、スクルズ……。王都は混乱するわね……。あいつって、実のところ、自分の予想もしないことが起きると動揺するのよね……。とても憶病なの……。ものすごくね……威張っているだけで、実は虫みたいに肝は小さいの……。だから、事を起こす……。しかも、次々に……。すると、臆病者のあいつは、心が乱れて動揺する……。魔道も制御を失う……。隙もできる……。問題は逃げないかどうかね。まあ、それはあたしが何とかする」
「あいつ? 誰のことを言っておるのだ?」
サキは首をひねった。
「まったく……。直接的な表現じゃないと駄目なの──? いくら腹芸ができなくても、いい加減にしてよ」
テレーズが不機嫌そうに声をあげた。