【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【ハロンドール王宮・後宮殿の一室(
「うわああああ──」
自分の絶叫で目が覚めた。
ルードルフは、寝台で自分の上体を跳ね起こしていた。
「……ふふふ、どうしましたか、陛下?」
ふわりと温かいものがルードルフを包む。
それが、テレーズの身体だというのがわかったのは、しばらくそのぬくもりを堪能してからだ。
寝台に横になっているルードルフに対して、テレーズは寝台の横に置いた椅子に座り、いまは寝台にいるルードルフに身体を預けるような感じでルードルフを抱きしめてくれている。
ふと見ると、きちんと服も見つけていた。
ルードルフは、身体の力を抜いた。
怖ろしいほどの緊張で身体が硬直していたみたいだ。
だが、テレーズの言葉を耳にしてから、心の底からの安堵を覚えた。
いつもそうだ。
このテレーズだけが、ルードルフの苛つきを癒し、怒りや哀しみ、なによりも、この世にあるすべての恐ろしいものから守ってくれる。
いつから、そう考えるようになったのかわからないが、ルードルフは目の前のテレーズがいなければ生きてはいけないだろう。
そんな暗示のようなものに包まれている。
「テ、テレーズか……。嫌な夢を見ていたようだ。悪夢だ……」
ルードルフは口にした。
そのくせ、テレーズに自分がどんな悪夢を見たのか説明しようとしたのだが、なにも頭に思い浮かばなかった。
どうやら、もう忘れてしまったみたいだ。
「まあ、どんな夢ですの?」
「……忘れた。悪夢だったのは確かだがな……。しかし、そなたは服を着ているのだな。久しぶりに、そなたの生の肌の香りを嗅ぎたくなったわ」
「お戯れを……。また女を準備しましょう……。純情無垢で……陛下に逆らわないけど、陛下のとの交合を望まぬ娘……。そんな女を準備します。そのときには、思う存分に精をお出しください。きっと、とてもいい気持ちになれますわ」
テレーズが耳元で囁くように言った。
純情無垢で……自分を望まぬ女を凌辱する……。
想像しただけで、身体が燃えたぎるように熱くなった気がした。
だが、残念ながらルードルフは、テレーズに手を出すことはできない。
勃たないのだ……。
いまも、少し前なら朝にはいつも元気だった男根が静かなままだ。
ルードルフは強姦でなければ勃起しない。
従って、テレーズに、どんなに手を出したくても、それはできない……。
どうしてこんなふうになったのかわからないのだが、ルードルフの一物が勃起できなくなるという奇病にかかったのは、しばらく前からだ。
それから、ルードルフの苦闘が始まった。
女を抱けないというのは、ルードルフにとっては、生きてはいないということと同じなのだ。
原因を発見することのできない無能の王宮医師は追い出し、ルードルフの男根を元気にすることのできない役立たずの後宮の女たちは処分した。
しかし、そんなことをしても、ルードルフの悩みは解決しなかった。
だが、それを救ってくれたのもテレーズだ。
意に反する女を無理矢理に犯せばいい──。
彼女がそう言い、やってみると見事にルードルフの股間は固くなり、久しぶりに精を放つことができた。
ルードルフは感激してしまった。
だが、それとともに、別の悩みも生じてきた。
なぜか、言いようのない苛つきや憎しみ……。そういうものがルードルフを覆うようになったのだ。
なにもかもが気に入らない。
人が煩わしくて仕方がない。
そして、それを助けるのもテレーズだ。
常に襲われている心の不快感が、テレーズがそばにいると不思議に癒されるのだ。
また、テレーズの言葉に従うと、とてもいい気持になる。
だから、ルードルフはテレーズが口を開くのを待っている。彼女がなにかを言い、ルードルフがそれに従うと、得体のしれない快感がやってくる。
あの気持ちよさを我慢することなどできない。
「そうだな……。テレーズに従えば、すべてがうまくいく……。そうなのだな……?」
「もちろんです、陛下……。あたしにお任せください。それでなんの問題もありませんから……」
テレーズが優しく言って、ルードルフの背中を撫でてから、すっと椅子に戻った。
だが、身体が離れた瞬間、途端に、再び得体のしれない恐怖心が襲ってきて、ルードルフは悲鳴をあげそうになった。
「う、うわっ」
「陛下、落ち着いて──」
テレーズが慌てたように手を伸ばして、掛け布の上にあったルードルフの一方の手に握る。
なにかが身体の中に流れてきた気がした。
すると、ちょっとだけ心が落ち着いてきた。
「はあ、はあ、はあ……。な、なんだ……? なぜ……?」
呟いた。
どうして、こんなに自分は不安を感じているのだろう?
なぜ、恐れおののいているのか……?
「温かいものを運ばせましょう……。侍女を部屋に入れても?」
テレーズが微笑んだ。
すっと心が穏やかになるのを感じる。
やっぱり、ルードルフには、この女が必要なのだ。それを思った。
だが、女を部屋に来させると聞いてはっとした。
「な、ならんわ──。その侍女が余を襲ってきたらどうする──」
怒鳴った。
この恐怖の原因を思い出したのだ。
昨日のことだった。
ルードルフは、グリムーン公との取引で、あれの孫娘のエリザベスを強姦しようとしたのだ。
だが、侍女が邪魔をして、それは果たせなかった。
それでも、その侍女を犯すことはでき、それでルードルフは満足はできたのだ。
しかし、その直後だった。
突如として、庭師が襲ってきて、ルードルフを刺したのである。
庭師と思ったのは、若い娘……まだ童女と言っていいくらいの少女であり、ルードルフのことを悪しざまに罵った。
ルードルフは死にかけた。
死にそうになったのだ──。
いま、思い出しても、そのときの恐怖と怒りが込みあがる──。
「問題ありません……。扉の向こうまで侍女に運ばせます。そこからはあたしが陛下のそばまでお持ちします。それではいかかですか?」
「だが、毒の危険も……」
ルードルフは怯えて言った。
だんだんと夕べの記憶が蘇ってきたが、あの庭師に化けた娘が王宮内でルードルフに刃物を刺すほどに接近できたのだ。
害意のある者がルードルフが口にするものに、毒を入れることも不可能でないのではないか……。
「毒の危険などありません。あたしが信用できる者にやらせますので……。すべてをお任せを……」
「そうか」
テレーズの言葉に安心する。
ルードルフが頷くと、テレーズはすっと手に透明の球体を浮かび上がらせて、それに言葉を込めた。
伝言球だ。
言葉を伝える魔道であり、魔道を自由に遣えないように制御している王宮内だが、この伝言球については問題なく扱えるようにしている。
テレーズの手の上から伝言球の玉が消滅する。
相手に跳んでいったのだろう。
「……とにかく、そなたに任せればいい……。そうだろう?」
「そうです。でも、本日はご政務もございます。どうしても陛下でなければならない裁断も……。あたしが書類をお持ちしますので、ご署名だけをしていただければ結構です。面談を望む大臣も数名おりますが、そっちについてはあたしの方で……」
「わかった」
ルードルフは頷いた。
政務など本当に面倒くさい。
少し前までは、大抵のことはアネルザと、また、イザベラが王太女になってからは、イザベラにも仕事を回していた。
だが、ふたりとも王宮から追い出したので、どうしてもやらなければならない政務がルードルフに回ってくるようになったのだ。
まあ、ふたりの処遇については、テレーズの提案なので、逆らうわけにはいかなかったが……。
とにかく、テレーズの言うとおりにしておけば、いいのだから……。
「だが、面倒だな」
ルードルフは嘆息した。
そのとき、扉にノックの音がした。
びくりと身体が反応してしまった。
テレーズが立ちあがり、扉に向かう。
扉が開いたが、部屋の外の様子は見えなかった。
すぐに扉が閉まり、テレーズが台車を運んでくる。
湯気の立つスープを載せた脚付きの台をテレーズが寝台の上に置く。
「お飲みください。終われば、こちらにご署名を……」
台車には、官吏から回ってきた書類もあったみたいだ。
ルードルフはスープに数口をつけ、書類に手を伸ばした。
「署名だけでよいのであろう? そっちを先に片づける」
すぐにテレーズが最初の束を渡し、ペンを持たせる。
中身を確かめることなく、ルードルフはサインをしていく。
次の書類……。
同じようにする……。
三通目……。
また、サイン……。
「暴徒の鎮圧か……?」
サインをし終わった後、何気なく書類の文字が目に移り言った。
興味もなかったが、たまたま視界に入ったのだ。
「このところ王都が不穏なのです。小さな喧噪も続いておりまして。これはそれを禁止する法令です」
「喧噪を禁止する? もともと禁止であろう」
「でも、改めて王の名で触れを出します。そうしたいと主張する官吏が多くて。まあ、大勢に影響もございませんし、勝手にやらせましょう」
「そうだな」
ルードルフは頷いた。
そういえば、税が高くなったせいで、王都の民が不満を大きくしているというのは、以前に耳にした気もする。
税は、このところ急に必要な出費が増えたので仕方がないものだから、取り消すことはできないが、暴徒というのは困るなとちょっと思った。
「……陛下、問題ありませんよ……。全てお任せを……」
テレーズが言った。
すっと楽になる。
やっぱり、テレーズはいい。
ルードルフは差し出された次の種類にもサインをした。
「……ただ、王都の喧噪もまもなく解決されましょう。それを扇動していた首謀者は捕らわれますから」
テレーズが言った。
ルードルフは顔をあげた。
「首謀者? 王都の民を扇動した者がおるのか?」
そう言ってから、最初に王都で小さな暴動が多発していると教えられたときに、同じことをルードルフ自身が訊ねたということを思い出した。
そして、そのときのテレーズの答えも頭の中で蘇った。
テレーズは、王都が不穏になっているのは、首謀者がいるのであり、テレーズだけでなく、サキもまたそれで動き回っているそうだ。
そんな内容だった……。
どうでもいいが、このところ妙に頭が回らない。
また、サキといえば、しばらく前まで気に入って、ずっと後宮で性の相手をしてもらっていたのだが、もしかして、最近ご無沙汰か?
まあ、一物が勃たないのだから、抱くことはできないが、それ以前に、そういう相手として考えなくなった。それと、もうふたり、お気に入りでいつも遊んでいた女が……。
あれっ、名前はなんだったか?
「夕べ遅くに、ご署名をなさった命令を覚えておられますか?」
「署名?」
夕べだと?
なんだったか?
このところ、記憶を紡ぐのもひと苦労なのだ。
そして、やっと記憶を掘り起こす。
「そうか……。余はグリムーン公とラングーン公の両家を捕縛するように命じたのだったな」
昨日は夕方から夜にかけて、ルードルフに手をかけた少女を訊問したのだった。
なかなかにしぶとかったが、テレーズがやって来てくれて、その少女から、グリムーンとラングーンの両公爵家がルードルフの暗殺をもくろんだという情報を聞き出したのだ。
あの両家が王位簒奪を企てている証拠も、テレーズは持っていた。
ルードルフは、ふたつの公爵家に兵を向けて財を没収し、公爵については処刑するように命令したのだった。
まあ、もともと目障りな存在だったので、なにも問題ない。
「……サキが向かっております。もうひとつの方が片付く頃には、すべて終わっておりましょう」
「もうひとつのこと?」
「スクルズですよ、陛下」
「ああ、そうだった」
拷問をしたときに娘が白状したのは、公爵ふたりだけではなかった。
なんと、第三神殿の女神殿長のスクルズも陰謀に加わっているということだった。
「……スクルズも捕らえるか?」
ルードルフは言った。
「王都の民に人気のある女ですけど仕方がありません。彼女については、このところ、連日のように、陛下の王政を批判する演説を神殿でしているという事実もございます。いずれにしても、捕縛せねばなりませんでした」
「余の王政を?」
「王妃アネルザを捕縛したのは間違いだと……。それと、ロウ=ボルグ卿を冤罪で手配したのは暴挙だとか……。ほかにも、あたしは王を操って悪政を強いる傾国の悪女だと……。まあ、そんなようなことを毎日のように……」
「ロウ=ボルグ? ああ、あいつか──」
すぐには思い出さなかったが、イザベラとアンを孕ませた冒険者上がりの男だった。ちょっと前までは、なかなかに頼もしい男だと思っていたが、いまは憎しみしかない。
どうして、気に入らないのか、わからないが……。
ああ、王女たちを孕ませたからか……。
わからない……。
どうも、思考が混濁している……。
「スクルズについては、本日謁見の間に出頭命令を出しております。陛下、お自ら審問のうえ、お裁きを……」
「余が自ら?」
驚いて、テレーズの言葉を途中で遮ってしまった。
「スクルズは無垢で純情な若い女ですよ……。あたしにお任せを……。あれを逆らえないようにする策がございます……。公爵たちのように問答無用で処断しても、陛下はご満足なさらないのでは? それよりも、あのような美貌の女神殿長を凌辱なさりたいとは……?」
テレーズが意味ありげに微笑んだ。
ルードルフは思わず、唾を飲み込んでしまった。
「スクルズを……? 可能なのか?」
「あたしにお任せを……。問題ありません」
スクルズを凌辱できる──。
股間がたぎってきた。
実際には勃起はしていないが、心では興奮している。
犯したい──。
やりたい──。
あの美女に──。
敬虔で無垢なあの女に──。
ルードルフは喜びに身体を震わせた。
神殿の巫女は、クロノス神に身も心も捧げて、生涯を男と無縁に生きる。そう耳にしている。
きっと、処女に違いあるまいな。
ルードルフは想像だけで、顔に笑みがこぼれるのをとめることができなかった。
「昼前には準備ができます。ほかの大臣たちや高級官吏にも、スクルズの訊問には立ち会わせます。みんなの前で引導を渡しましょう。愚かな女への酬いです……。問題ありません……。テレーズにお任せを……」
「そなたに任せれば、確かに問題はないな」
ルードルフは笑った。
「これで、陛下を脅かす存在は、すべて消えましょう……。王妃アネルザ……。冒険者ギルド……。商業ギルド……。そして、公爵家……。スクルズです」
テレーズは言った。
その言葉が頭に染み込む。
まるで、なにかの啓示のようだ。
だが、テレーズの言葉は、なんであろうと、本当に心地いい……。
そういえば、最初はアネルザだった。
役に立つ女だったが、ルードルフに逆らい過ぎた。
テレーズの助言で監獄塔に放り込んだが、それでルードルフの憂いはひとつ消えた。
グリムーンが奴隷として欲しいと言っていたが、取り引きが成り立たない以上、あれはご破算だ。
まあ、まだ役に立つこともあるかもしれないし、しばらく塔でいいだろう。
次は冒険者ギルド……。
名目だけのギルド長のイザベラは、母体保護の名目で政務から離してあったし、冒険者ギルドを仕切っていたミランダとかいうドワフ女の捕縛も許可した。
テレーズが危険だと言っていたので、実際にルードルフの邪魔者だったのだろうと思う。
さっさと手を付けておいて本当によかった。
そして、商業ギルド……。
このところ従来の利権を失い青色吐息だったみたいだが、テレーズの進言もあり、商売の独占権を復活してやった。
だが、その恩にも関わらず、重税については反対だとか、抗議の文を送って寄越したりして、恩知らずなことばかりされた。
そいつらも、やはり、テレーズの再度の進言で潰した。
連中を潰せば、王都に入ってくる物資に供給に問題があるのではないかと、そのときちょっとだけ心配になったが、テレーズがなにかをささやき、あれからなにも思わない。
大丈夫……。
問題ない……。
そして、二公爵……。
最後にスクルズ……。
ルードルフの得体のしれない恐怖心を湧き起こす可能性がある存在がなくなるのは、単純に嬉しい。
本当にテレーズは頼りになる。
「……気に入らないものは、どんどんと消せばいいのですよ……。陛下にはそのお力があるのです」
テレーズが耳元で言う。
気に入らないものは消せばいい……。
その言葉が頭に刻み込まれる。
「……わかった。いずれにしても、今日は謁見室に赴かねばならんのだな。そこで、スクルズを犯すのだ」
「いえ、犯すのは別の場所で……。謁見には大勢を立会させますので」
テレーズが笑った。
「そうだったな。これは余が先走った」
ルードルフも苦笑した。
「まだ、数ノスございます。しばらくはお休みください。ご準備のときには、またあたしが参りますので……。そうそう、もうひとつご署名をお願いします……」
テレーズが台車から再び書類を取り出して、ルードルフに差し出した。
「園遊会?」
まず飛び込んだのは、意外な単語だ。
とりあえず署名はしたが、説明をテレーズに求めた。
すると、テレーズが柔和に微笑んだ。
「サキの発案です。陛下の名で園遊会を催すそうです。それに、王都に所在する主立つ令夫人や令嬢を集めます。拒否は認めません」
「集めてどうするのだ? 誰が園遊会を主催する。余か?」
テレーズが勧めるのであれば、園遊会の主人役くらいしてもいいかと思ったが、そんなものは何年もしていない。
また、どうしてそんなことを突然にやるのかが理解できなかった。
「陛下はなにもする必要はありません。これは方便です。口実なのです」
「口実?」
「園遊会に集まった女たちは、そのまま王宮内に留めて監禁し、貴族たちの人質にするのです。そうすれば、もう陛下に逆らう貴族は居なくなります。なにしろ、公爵たちでさえ、陛下を裏切ったのです。ならば、ほかの貴族も陛下に害をなす可能性もあります」
「だから、人質か──」
ルードルフは膝を打った。
妙案だ。
身体に巣食っていた脅迫観念が薄まっていく。
なんといういい案であろう。
人質か……。
「……それに、人質の女たちは、ほとんどが無垢な令夫人や令嬢たちでもありますよ……。毎日愉しめましょう」
テレーズの言葉に、ルードルフはにんまりとしてしまった。
(第22話『兇王の疑心』終わり、第23話『女神殿長の処刑』に続く)