【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
388 女神殿長の召喚
【ハロンドール王宮・謁見の間】
ルードルフが謁見の間に着くと、一斉に集まっている者たちが動いた。
すなわち、整列している近衛兵たちは直立不動になり、立会の大臣や高級官吏たちは静かに頭をさげる。
また、広間の中央には、真っ白い神官服に身を包んだ女が両膝を床について頭を垂れていた。
スクルズだ。
今日の訊問の相手だ。
ルードルフは玉座に腰をおろした。
すると、テレーズは、その隣の副座に座る。
副座は本来は、王太女、王太女がいない場合は王妃の席であり、国王に準じる者しか座れず、余人が勝手に座ればそれだけで不敬罪であるのだが、無論、テレーズがそこにいることに不満を示す者はいない。
ルードルフは満足した。
「顔をあげよ、スクルズ」
ルードルフは言った。
すると、スクルズが顔をあげて、にっこりと微笑んだ。
相変わらず美しい。
いや、久しぶりに面と向かって会うが、その美貌はさらに増した気がする。筆頭巫女の時代は、美しいものの人としての優しさや善人さが際立つような感じであり、女としては物足りなく思ったものだったが、いまのスクルズは、ふと見ると、驚くほどの女の色香と官能に満ち溢れている気がする。
遠目からでもそう思うのだ。
あれを拘束し、裸にして、ルードルフの肌を擦りつけたりすれば、どれだけ興奮するだろう。
想像して、口元が卑猥に緩むのを感じた。
こういう機会を準備してくれたテレーズには、どれだけ礼を言わねばならないかわからない。
「なぜ、召喚をされたかわかっておるな?」
「さあ、さっぱりとわかりません、陛下。わたしはなにも間違ったことはしておりませんから」
スクルズがはっきりと言った。
しかし、これほどの佳人だったか?
これをいまから抱けるのだ。
ルードルフは思わず、生唾を飲み込んだ。
一年と少し前の筆頭巫女時代には感じなかった色気のようなものに、ルードルフは股間に熱さのようなものを覚えてきた。
「間違ったことは、言っておらんだと?」
「まあ、生意気なこと……。陛下もそう思われますよね……」
副座のテレーズがささやくように言った。
すると、ざらりとした気持ちの悪さが胃を襲った。
このところ常に感じている不快感だ。
いきなり、激しい憤怒が込みあがった。
まるで、なにかに憑りつかれたかのように、突如としてルードルフの中に得体のしれない怒りが込みあがる。
女としてのスクルズへの欲望の上に、その激昂が上乗せされる。
「のぼせあがるのも、大概にせい──」
気がつくと、手に持っていた
しかし、力が入り過ぎたらしく、笏はスクルズが跪く方向には向かわず、ずっと横を一回、二回と床を叩いて、別の方向に飛んでいく。
そのとき、笏が急に方向を変化させ、劇的に曲がってスクルズに向かって直進した。
すぐに、横のテレーズが魔道具のようなものを使って、ルードルフの投げた王笏を制御したのだと気がついた。
魔道を遣えないテレーズのために、ルードルフが贈った王家の宝具のひとつだ。
その数が重なっているため、かなり国庫も苦しいと耳にした気がする。
まあ、テレーズに任せているので、なんの問題もないはずだが……。
「えっ?」
スクルズが動揺したように、小さな声をあげるのが聞こえた。
だが、スクルズに当たると思った直前に、見えない壁に弾かれるように跳ね返り、そのままからからと転がってから床に落ちた。
周りから、ほっとしたような安堵の息が一斉に洩れるのが聞こえる。
そのことが、さらにルードルフの怒りを呼ぶ。
王が生意気な小娘に正義の鉄槌を加えようとしたのだぞ──。
それを失敗したことを喜ぶとは……。
「いま、安堵の声を出したのは者は誰だ──。一歩前に出よ──」
怒鳴りあげた。
鞭打ってやろうとも思った。
謁見の間が一瞬にして静まり返る。
「陛下、落ち着いてくださいませ。王笏を落としましたよ」
澄んだ女の声が静寂を打ち破る。
スクルズだ。
ルードルフの怒りがそっちに向かう。
そもそも、投げつけた芍のことをわざわざ「落とした」と表するところが生意気だ。
「黙れ──。余の笏を魔道で受けるとは何事か──。それひとつとっても、余に対する謀反の心ありとみなせるな」
「そんな大袈裟なものじゃありませんわ。避けなければ当たってしまいます」
スクルズが余裕たっぷりの表情でころころと笑った。
「本当に、生意気な……」
テレーズが横で呟いた。
そうだ、生意気だ──。
途端にそう思った。
あの笑いがはらわたを煮え返らせる。
なにを気楽そうに笑っているのか──。
ルードルフは、スクルズの笑いがまさに嘲笑の笑いだと思った。
「王宮で魔道を遣うのはご法度中のご法度──。それを忘れたわけではあるまい、スクルズ──」
大声で叱りつけた。
王宮内における魔道は王の許可を受けた者しか放つことができない。
王族の警護における安全のためである。
そもそも、王宮内では魔道が許可を受けていない者が魔道を刻めないように、幾重にも魔道の遮断結界が刻まれている。
許可のない魔道の使用は、それ自体が法に背く行為なのだ。
それを生意気にも、魔道で防ぐとは──。
「陛下こそ、お忘れではないのですか? わたしは許可を受けております。そもそも、このスクルズの魔道も、宮殿全域の魔道防護に注がれているのです。さもなければ、わたしが魔道で笏を避けることなどできはいたせませんもの……」
「余に口答えをするか──」
「まさか……。でも、それよりも、陛下が笏を落とされたとき、その横の女官長殿が魔道でわたしに向かって、笏を向かわせました。これこそ、王宮の法に背く行為なのでは?」
穏やかな物言いながらも、その言葉には毅然としたものがある。
ルードルフは舌打ちした。
スクルズの言っていることは正しい。
この王宮に刻んでいる結界については、王都に所在する高位魔道師七人がそれぞれに魔道を放って編みこんである。
これをもって、魔道七人衆とも称するが、つまりは、この七人が、王都内の魔道の使用にあたっての特別の権利を有する者ということになる。
権利には義務が伴うが、その義務というのが、魔道を定期的に注ぐことで、王宮の安全を護る結界を保持することなのだ。
スクルズはそのひとりであり、王宮魔道師ではないものの、王都一の魔道遣いとして名高いスクルズは、当然ながらその七人衆に名を並べている。
王宮の結界にスクルズ自身の魔道が刻まれているのだがら、王宮内で魔道を刻むことはできるのは当たり前だ。
それに比べれば、テレーズは七人衆にも入っていなければ、正規に王宮内で魔道を遣うことを許可された者ではない。
ただ、ルードルフが私的に許可して、結界を無効にする魔道具を渡しているだけだ。
「小賢しいことを……。テレーズについては余が許可したのだ。だが、スクルズ、お前は余の投げた笏を魔道で避けたのだ。それは王に逆らう行為も同じだ」
「あんな宝石を埋め込んだ笏が当たれば、スクルズは怪我をしてしまいます。痛いですもの」
スクルズがわざとらしく媚びるような口調で言った。
それが馬鹿にしている感じに聞こえ、ルードルフはさらに怒りが沸いた。
「陛下、スクルズは謀反の疑いで召喚されたのですよ……。まずは、許可されている王宮内の魔道許可を取りあげましょう。このような者は、いつ王宮に危害を加えるかわかったものじゃありません。すぐに魔道を封じねばなりません」
テレーズが横から言った。
そうだ──。
まずは、それが先だ。
ルードルフははっとした。
「よく言ってくれた……。さすがは、テレーズだな……。スクルズ、ただいまをもって、お前に許可された王宮内における魔道使用の認可を解く──。右手を出せ」
ルードルフは、手首にある魔道具を使って、宙に魔道結界の紋様を出現させた。
スクルズに与えている魔道使用の許可を取り消すためだ。この紋様をスクルズが受け入れれば、その瞬間にスクルズは魔道を宮廷内で使えなくなる。
「陛下、わたしの魔道が封じられれば、いま王宮に刻まれているわたしの魔道までもが消失してしまいますわ。そうなれば、王宮の結界にほころびが生じてしまいます。ほかの六人による結界の刻み直しを先に行ってください」
「黙れ──。すぐに受け入れよ──。さもなければ、それをもって、余に害意ありとみなす──」
怒鳴りあげた。
なんという生意気な女なのだ。
まだ小娘と言っていい年齢の分際で──。
スクルズが小さく息を吐くのが聞こえた。
だが、右手を出す。
ルードルフは、国王だけにしか扱うことのできない魔道具をもって、その右手に魔道許可を打ち消す紋様を刻んだ。
これで、スクルズは王宮内において魔道は遣えない。
そのとき、テレーズが、ルードルフが与えているテレーズ直属の近衛兵のひとりを呼んで、なにかひそひそとささやくのが見えた。
ルードルフと目が合うと、テレーズがにやりと微笑み、「あの娘をいじめるちょっとした意地悪を思いつきましたの。さっきから生意気すぎますわ」とルードルフだけに聞こえる声で伝えてきた。
なにを考えているのかわからないが、テレーズのことだから、愉快な趣向があるのだろう。
ルードルフは頷いた。
とりあえず、スクルズに向き直る。
「さて、スクルズ、話を戻す。お前にそそのかされて、余に害を加えた者がいる。自供もした。覚えがあるな──?」
「陛下に害を? まさか……。いえ、もちろん、覚えはございません」
スクルズは驚いたように言った。
たったいままでの余裕のある表情が一変に消えた。心からびっくりしているように見える。
もしかしたら、本当に覚えがいないのか?
「芝居が上手ねえ……」
テレーズが横でくすくすと笑った。
心の中に生まれかけていたもやもやが消えて、頭がすっきりとする。
そうか、芝居か……。
危うく騙されるところだった……。
やはり、テレーズがいてくれてよかった。
スクルズに対する怒りが心を支配し直す。
「証言がいる。逃れられると思うな──」
「そんなことを言われましても……。陛下のことを狙ったことはございません。クロノス神にかけまして偽りは申しません」
スクルズがきっぱりと言った。
クロノス神……。
仮にも、神官であるものが、クロノスやクロノスに仕える女神たちの名を使うことには、特別な意味がある。
神官は神殿との誓いにより、神の名を軽々しくは口にしないし、ましてや、それに誓うと言うなら、これを疑うことはできない。
しかし、おそらく、嘘だろう。
テレーズが言っているのだ。
なんと、忌々しいことか……。
「あら、じゃあ、あなたは毎日のように、あたしや陛下のことを弾劾する演説をしているそうじゃない。それも、クロノスの名で否定するのかしら?」
横からテレーズが口を挟んだ。
「おう、そうだ──。お前はこの連日の演説で、余が王に相応しくないということを繰り返し、民衆に訴えているそうだな。証人も大勢おる。言い逃れはできんぞ。それさえも、神に誓って偽りと申すか──?」
ルードルフはスクルズを睨みついた。
だが、スクルズは口元に笑みをたたえたまま、微かに小首を傾けただけだ。
本当に、その余裕そうな態度が癪に障る。
「なんとか、言わんかっ」
「わたしは陛下への悪意を訴えったことはございません……。ただ、わたしは、王の王たる資格は王たることと申しただけですから……」
「……陛下……」
テレーズがルードルフを呼んだ。
聞こえるか、聞こえないかくらいのほんの小さな声だ。
ルードルフは、テレーズを見た。
テレーズの目に身体が吸い込まれる錯覚に襲われる。
次の瞬間、ルードルフの中に凄まじいほどのスクルズに対する殺意が込みあがった。
これまでも、ずっとスクルズに対する怒りはずっと存在していた。
だが、それは小生意気な態度に対する憎悪であって、殺意ではなかった。
しかし、いまこの瞬間、スクルズを殺してやりたくなったのだ。
いや、この女を殺さねばならない──。
殺意に対する猛烈な使命感がルードルフの心を急き立てた。
殺す──。
殺す──。
スクルズを殺さなければならない──。
殺す──。
殺す──。
殺さなければならない……。
スクルズを──。
「毒杯をもて──」
大声をあげていた。
居並ぶ文官たちだけでなく、警護の近衛兵まで騒然となった。
だが、誰も動かない。
それで、また、かっとなる。
まったく、誰も彼もが、なぜこれほどまでに自分に逆らうのか──。
「早くせんか──」
喚きたてた。
しかし、誰も彼もが躊躇するように、顔を見合わせるだけで動こうとしない。
ルードルフはさらに声をあげようと思った。
「お待ちください、陛下」
そのとき、テレーズの声がした。
振り返ると、すでに立ちあがっている。
「ほかの者では信用できません。わたしが準備しましょう。毒杯を……。ほかに準備した趣向もございますから……。わたしにお任せを、陛下……」
テレーズが意味ありげに微笑んだ。
やはり、頼りになるのはテレーズだけだ。
その時、確信した。
ほかの者は、誰も彼も、ルードルフに逆らうか、影で嘲笑するか、あるいは、ルードルフを苛つかせる者だけだ。
少なくとも、信頼に足る者はテレーズ以外にない。
「任せる」
「直ぐに戻ります」
テレーズが席を立った。
いなくなる。
ルードルフはスクルズを見た。
すると、スクルズから口を開いた。
「よい機会であるので申しあげます、陛下。このところ、王都の民衆は動揺しております。度重なる重税──。もしも、それが、先ほどのテレーズのような者にそそのかされて、彼女に贅沢をさせるためにするのであれば……」
「黙れ、スクルズ──」
「黙りませぬ。陛下、目をお覚まし下さい──。そもそも、なぜ、あの者に玉座の横に座ることをお許しになるのですか。彼女は一介の女官長。玉座の横は王位継承権第一位の者と決まっております。そこに座る権利があるのは、まずは王太女殿下──。そして、王妃殿下──。ただの女官長である彼女は、たとえ王に許されたとしても、そこに腰掛けるなど──」
「黙れと申しおろうが──」
ルードルフは鞭打つ代わりに、懐に入れている自衛用の小刀を鞘のついたままスクルズに投げつけた。
今度はスクルズの顔に向かって小刀は飛び、避ける暇もなくスクルズの頬に当たり、わずかだがスクルズの頬に赤い血が流れた。
かすかだが、溜飲がさがる。
「そうやって、生意気にも余の悪口を民に演説しておったか──。いずれにしても、すでにお前の罪は明白。しかも、余が神殿長に推薦してやった恩を忘れ追って──。これをもって、お前の神殿長としての役目を解く。ただの市井の女として、毒杯をもって死ぬがよい」
憎しみを持って吐き捨てた。
しかし、スクルズは不敵に微笑んだままだ。
だが、いまこそわかった。
スクルズは、その笑みにはっきりとしたルードルフに対する敵意を隠している。
ただのその敵意を微笑みで誤魔化しているだけだ。
「異なことを陛下……。わたしの神殿長としての役目は、ティタン教会の大神殿の教皇猊下より示されたものです。陛下はこのスクルズをご推薦していただいただけです。陛下にはわたしを罷免する権利はございません」
スクルズが毅然として言い放った。
ルードルフは、かっとなった。
なんという生意気な女だろう。
しかし、実はスクルズの言う通りだ。
この大陸に広く拡がっているティタン教の総本山である大神殿は、旧ローム帝国の帝都があったタリオ公国に存在する。そして、大神殿を統括する教皇が各国を跨ぐ全部の神殿の人事権を握っている。
ルードルフは、スクルズを推薦し、神殿長の就任式にも出席したが、あくまでも立会人の立場であり、また、儀式としても、スクルズを神殿長に任命したのは、教皇の認可を受けて代行をした第二神殿長だ。
「余がお前に手を出せないというか──。余はいつでも誰でも罷免できる──。余はこの国の王ぞ──。その王の言葉を教皇であろうとも、おろそかにはできまいぞ──。王都三神殿は余の膝元にあるのだ。余がお前に、神殿長の資格なしと送れば、教皇はすぐに罷免を認めるだろう」
「ならば、そうしてください。でも、教皇猊下からの罷免状が届くまで、わたしは神殿長です。陛下のお言葉は関係ありません」
きっぱりと言った。
ルードルフは激昂した。
そのときだった。
テレーズが謁見の間に戻ってきた。
何人かの近衛兵を従えて、幾つかの品物を運んできている。
テレーズは、まずは四つの香炉をスクルズが両膝をついている周りに置いて、香を炊かせた。
白い煙が四方からスクルズに向かって流れる。
そのうえで、スクルズの眼の前に、一個の盆を置く。
その上には黄金の盃があり、中には真っ赤な葡萄酒が注がれているようだった。
あれは間違いなく毒杯だろう。
だが、なぜか毒杯の横には、赤い金属の首輪があった。
首輪は開いていて、首を入れて自分で閉じられるようになっている。
なんだろう、あの首輪は……?
スクルズも怪訝な表情になっている。
しかし、すぐに、スクルズがびくりと身体を竦ませるような仕草をした。
そして、さっきまでの落ち着きが嘘のように、急にそわそわと身じろぎを始める。
ルードルフも首を傾げた。
だが、テレーズが運んできた、スクルズの周りで炊かせた香が原因のように思う。
「お待たせしました、陛下。どうやら、話も長くなるような気がしたものですから……。どうしたの、スクルズ? あなたらしくもない。急にもじもじしちゃって」
テレーズが悪意がたっぷりとこもったような大笑いした。
スクルズが歯ぎしりをするようにぐっと口を喰いしばって、テレーズをにらみつけたのがわかった。
ふと見ると、いつの間にか、顔が上気して真っ赤だ。
それだけでなく、すでに顔じゅうに汗をかいていて、それがぽたぽたと床に落ちだした。
これは異常だ。
「こ、こんなことは許されません──。テ、テレーズ殿──。わ、わたしを馬鹿にしては……」
「馬鹿ですって──? 陛下、この者はよりにもよって、謁見の間に召喚をされたにもかかわらず、馬鹿だと悪態をつきましたわ」
テレーズがわざとらしく声をあげた。
一方で、スクルズはますます焦ったような感じになっている。
「わ、わたしは……こ、これがちょっと無体な仕打ちだと申しているだけで……」
そのあいだもスクルズは、そわそわと身体を艶めかしく動かしだした。
なんだか、ほんの少しもじっとしていられないという感じだ。
ルードルフはほくそ笑んだ。
これは、本当に色っぽい。
「テレーズ、あの煙はなんだ。なんだか、面白いことになっているようだな?」
ルードルフは、いきなり始まったスクルズの身悶えを眺めながら、テレーズに訊ねた。
「あの香は女の性感を暴発させる媚香ですわ。ひとつだけでも、のたうち回るような身体の疼きが全身を襲うはずです。それを四周に四個も炊かせました。あの若い女の身体で、あれだけの香を吸い続ければ、もしかしたら、ここが王宮であるのも忘れて、自慰でもするんじゃないでしょうか」
テレーズが爆笑した。
ルードルフもつられて大笑いした。
「こ、こんなこと許されません……。す、すぐにやめさせてください……。こ、これでは話もできません……。ど、どうか、お願いですので……」
スクルズの顔はどんどんと赤くなる。
全身にも汗をかいているのだろう。
真っ白いに装束に内側からの汗が染みて、桃色の肌がところどころ透けたようにもなっておく。
「こ、この仕打ちはあまりです。わ、わたしは戻ります──」
スクルズが立ちあがるような仕草をした。
「だめよ──。ちょっとでも動いてみなさい──。陛下に対する謀反の罪で、あなたのみならず、あなたの養家族全員を連座で処刑するわ」
テレーズが叫んだ。
スクルズが目を丸くした。
ルードルフはにやりと笑った。
「テレーズの言葉は余の言葉だ。お前の養家族を捕縛させる。テレーズ、手配せよ」
「わかりました」
テレーズが副座に戻り、近衛隊の将校のひとりを呼んだ。
すると、テレーズは、わざとスクルズにはっきりと聞こえるように、ある地方都市の商人家族の名と住まいを彼に告げた。
将校が戸惑いながらも、横で頷く。
「ま、待ってください──。わ、わたしを養ってくださったご家族とは、わたしは神殿に入信するときに、すべての縁を切っております。連座にはなりません。そもそも、もう十年以上も会っておりません」
スクルズが焦ったように言った。
顔は媚香のせいで赤いし、かなりの汗をかいているが、表情は追い詰められている。
ルードルフは微笑んだまま、意地悪くスクルズを見た。
スクルズは、すっかりと汗で衣服が貼りついた感じになった身体を震わせ、下腹部を中心に悶々を身体を動かしている。
おそらく、強烈な媚香の影響のために、全身の性感帯という性感帯が沸騰したようになっているのだろう。
実のところ、スクルズの養家族のことについては、この謁見の直前に、テレーズから教えられていた。
孤児だということになっているスクルズだが、実は地方商人の娘であり、両親が早世したために、スクルズの両親と昵懇だった商売仲間の夫婦が、十歳になるまでスクルズの面倒を看て育てたということだった。
その育ての親ともいうべき者も、テレーズは特定してした。
都合がいいことに、国王直轄領のひとつの地方都市で暮らしていて、いまでも健在のようだった。
神殿に入信するときには、俗世を捨てることが決まりなので、縁が切れているのは本当だろうが、だからといって、見捨てることはできないだろう。
その者たちの名を出せば、スクルズが抵抗できないだろうということは想像がついていた。
「連座になるかどうかは余が決める。ならば、関係ないということを説明せよ。じっくりと聞いてやろう。たっぷりと時間をかけて説明することを許すぞ」
ルードルフが言うと、スクルズがやっと追い詰められたような表情になる。
ようやく溜飲がさがった気持ちになった。
「ひ、卑怯です──」
スクルズがさらに腿を擦りつけるように脚を動かしだした。