※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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391 三人の晒し刑

【ハロンドール王都・ラングーン公爵家の王都(本宅)】

 

 

 

「さらに男を確保しました。もしかして、探している執事ではないかと思うのですが……」

 

 大広間の真ん中に置いた椅子に座っているサキは、走り寄ってきた近衛兵のひとりから報告を受けた。

 五十人ほど連れて来た兵のうち、半分はもともとの人間族の近衛兵であり、もう半分は人間族と入れ替えたサキの子飼いの妖魔たちだ。

 もっとも、全員を人間族に化けさせているし、完全に同化させているので、区別がつくのは、サキとラポルタ、そして、王都の軍の主立つ者たちを支配するように命じたサキュバスのピカロくらいだろう。

 それ以外は、潜入している妖魔たちですら区別はつかないと思う。

 

「やっとか。連れてこい──」

 

 サキは声をあげた。

 近衛兵が走り去っていく。

 こいつは、人間族の方だったなと思った。

 王都にあるラングーンの屋敷である。最初に急襲した別宅に次いで、こっちが本宅側だ。

 

 早朝の陽が昇る前に、まずはグリムーンの屋敷を急襲し、いまは、それを終わらせて、ラングーン側の屋敷側に踏み込んだところである。

 思いのほか、グリムーン家で戸惑ったこともあり、ラングーン側にサキがやってくるのが、陽が中天にそろそろ差し掛かるくらいの時刻になってしまっていた。

 一応、ラングーン家の襲撃を先にすることで、こっちに情報が洩れることを懸念していたが、それは杞憂ですんだようだ。

 サキが近衛の一隊を連れてやってきたときには、グリムーン家の早朝の騒動に気がついた気配はなかった。

 それでも、ラングーンの敷地内のうち、童女奴隷を集めていることがわかっている別宅側を最初に襲ったので、本宅側で「準備」をされてしまったのだ。

 すなわち、テレーズから公爵家族と一緒に、捕らえてこいと命じられているリストを渡されている家人たちが隠れてしまったのだ。ついでに、本宅側にあるはずのラングーンの私財の一部も一緒にだ。

 

 すでに、ラングーン公自身は、別宅側で捕らえたので問題はないのだが、リストにある者たちを連れて行かないと、テレーズがうるさい。

 あいつに言わせれば、グリムーン家とラングーン家から、本人及び家族以外に連れてこいと指示しているのは、公爵たち同様に悪事をしている者たちばかりなのだそうだ。

 それだけでなく、公爵には知られていないが、「犬」と繋がっているので、できるだけ情報を遮断するために、一緒に捕らえたいみたいだ。

 

 犬か……。

 テレーズは、決して“タリオ”とは言葉を発しない。

 “犬”だという。

 自分のことも、自分を支配している者たちのことも……。

 

 とにかく、公爵家族ほど優先順位は高くないものの、捕らえてこなければ面倒くさいことになる。

 このところ、調子にのって、次第に激しくなっている「罰」という名の一方的な官能責めを、またされるだろう。

 ものすごく嫌だ。

 いずれにしても、絶対あいつは、百合癖に違いない。

 しかも、執拗なやつだ。

 

 サキは、全員に命じ、それこそ、床を全部引き剥がさせる勢いで捜索させた。

 すぐに、隠れていた家人をちらほらと発見し、いまやっと最後に残っていた執事とやらを見つけたかもしれないと報告を受けたところである。

 これでリストの人物は終わりだ。

 逃がしてしまっては、あいつがうるさいと思っていたので、サキは少し安堵した。

 

「ラポルタ、公爵夫人を連れてこい」

 

 サキは、伝言球の魔道により、別室に待機をしている眷属のラポルタに言葉を送る。

 大きな透明の球体が発生して、すぐに消滅する。

 しばらくすると、サキ同様に人間族の貴族女の恰好をしているラポルタがやってきた。

 手に縄を持っていて、その縄は一緒に連れて来た人間族の女の背中側に繋がっている。手首を背中で縛って、その縄尻をラポルタが持っているのだ。

 ラングーン公爵の夫人だ。

 この夫人については、家人たちのように持ち運びできる財とともに隠れるということはなく、自室で大人しくしていた。

 それをラポルタが手に縄だけをかけて、とりあえず部屋に閉じ込めていたのだ。

 確か、名前はフラントワーズだったか……。

 

「サキ様、連れてきました」

 

 ラポルタが言った。

 サキは頷く。

 

「その縄は適当に、そこに結んでおけ」

 

 サキは顎で横にあった重そうな大きな木製のテーブルを示した。

 ラポルタが、夫人の後手に繋がっている縄をそこに結ぶ。

 夫人はラポルタとサキをかわるがわる睨んで口惜しそうにしている。

 

 ほう、存外に気が強いのか……?

 サキは思った。

 最初に襲撃をしたグリムーン家の正妻のマリアとかいう女は、気位の高い貴族女にしては、大人しい感じだった。

 屋敷を襲撃されて、娘や家人とともに連行されると、ただおろおろと狼狽えるばかりだったのだ。

 それに比べれば、目の前の女は、いかにも気位の高い人間族の貴族女という感じだ。 

 

「フラントワーズ、これから、執事らしき男を連れてくる。本人であったらそう言え。嘘をつくとためにはならんぞ」

 

 サキが椅子に脚を組んで座ったままフラントワーズに言った。

 殺気を当てると、フラントワーズがびくりと震えて、顔を蒼くする。

 

「嘘をつく理由もないし、正直に申しますわ。どうせ、ラングーン家も終わりですもの。詳しくは知りませんが、あの男の悪事がついに発覚したのでしょう? ならば、大人しく罰を受けるだけです」

 

 だが、すぐに気を取り直したように、顔を引き締めてサキに向かってそう言った。

 サキは内心で感嘆した。

 大した殺気ではないが、人間族の女がサキの威圧に負けずに、まともに喋れるというのはすごいことなのだ。

 改めて、フラントワーズを見た。

 確かに気が強そうだ。若いころはかなりの美貌だったと思うが、短命の人間族なので、すでに顔に老いの兆候が出ている。

 惜しいところだな。

 

「お前、歳は幾つだ?」

 

「えっ? 歳……ですか? 四十七ですが……」

 

 フラントワーズが困惑したように応じた。

 あまり、乱暴に話しかけられるのは慣れていないのだろう。

 明らかに、不快そうな色が表情に出た。

 つくづく惜しい……。

 

「惜しいな。もう少し若ければ、主殿(しゅどの)の性奴隷候補にしてもいいのだがな。主殿も守備範囲は広いが、まあ若い方が歓ぶだろう。気が強そうなのは主殿好みだとは思うが、そこまでとうが立っていてはな……。できれば生娘がいいだろうし、生娘ではないよな?」

 

 サキは訊ねた。

 すると、みるみるうちに、フラントワーズの顔が真っ赤になり、表情も険しくなる。

 

「わ、わたしを愚弄するのですか──」

 

 大声で怒鳴った。

 サキは軽く電撃をフラントワーズの局部に放ってやった。

 どこに当ててもよかったのだが、男であろうと、女であろうと、そこが一番効き目がある。

 大抵は、一発で逆らわなくなる。

 

「いぎゃあああ」

 

 フラントワーズがひっくり返った。

 だが、大きなテーブルに縄尻をつなげられているので、倒れたときにテーブル側に引っ張られる感じになり、横腹を思い切りテーブルの脚にぶつけていた。

 それでも、サキは電撃をやめなかったので、そのままがくんがくんと腰を上下させてのたうち回る。

 やがて、スカートの下から水が流れてきた。

 失禁したようだ。

 サキは電撃をやめてやった。

 

「わしには丁寧な言葉を遣え。それと口答えもするな。わしは奴隷に盾突かれるのは好かん」

 

「はあ、はあ、はあ、ど、奴隷……?」

 

 フラントワーズが眉間に皺を寄せて、サキを見た。

 だが、さっきまでとは違い、顔にはサキに対する恐怖心が浮かんでいる。

 

「お前らの身柄は、わしが引き受けたのだ。テレーズとの取引きでな。男についてはテレーズが受け取り、とりあえず全員を牢に入れる。だが、お前たち女はわしの管轄だ。全員性奴隷だ。その中で選び抜いた者を主殿の女としてお渡しする」

 

「主殿……? と、とにかく、わたしたち女の処分は、奴隷送りということですか?」

 

 まだ、息の荒いフラントワーズが上体を起こしながら言った。

 すでに、立ち直っている。

 やはり、大した女だ。

 横のラポルタが手を貸そうとするのを断り、不自由に身体を捻りながら、なんとかその場に立ちあがる。

 スカートの股間の前が少し濡れている。生地が厚いためか、そんなには目立っていない。

 ただ、足元にはしっかりと、彼女が漏らした失禁による水たまりができている。

 いずれにしても、“主殿の女”という言葉には、なにも察知することはなかったが、奴隷という言葉については、どうやら奴隷身分に落とされるという意味だと捉えたみたいだ。

 間違ってはいないが、別段、本物の奴隷になるということではない。

 サキが口にしたのは、ロウの性の相手をする女にするという意味である。

 

 まあ、いずれにしても、四十七歳か……。

 やはり、年齢がなあ……。

 悪くはないが、ロウを助ける女たちは揃っているので、ロウに贈りたいのは、単純に性欲の処理をする女たちだ。

 それだと、体力のある若い方がいい。

 

「ところで、公爵の罪はなんですの? 正直、あの男については、心当たりがありすぎて、果たして、どの罪で当家が潰されるのかわからなくて……」

 

 するとフラントワーズが訊ねてきた。

 見ると苦笑している。

 股間に電撃を食らって、小便まで垂らしたくせに立ち直りの早いことだ。

 サキは感心した。

 

「ああ、お前らには説明をしておらんかったか? 謀反だ。ルードルフ王に対する暗殺未遂だな。グリムーンについても同じだ。向こうを片付けてから、こっちに来た。外にある檻車の中に向こうの夫人と孫娘も放り込んでおる」

 

「謀反? そんなことを……。呆れましたね。ならば、家族が連座するのも当然ですか」

 

 フラントワーズが溜息をついた。

 泣き叫ぶわけでもなく堂々としているし、なかなかの女だな。

 やはり、ロウに紹介するか?

 ロウのことだから、年増の貞操は気にしないかもしれない。最終的には、ロウが王となって凱旋したときに、選んでもらえばいいし……。

 案外、ロウも年増好きかもしれん。

 

 そういえば、アネルザもマアもヴァージニアも、このフラントワーズと同じくらいの年齢だろう。マアは本当はもっと上か……。

 子供のような顔をしているが、ミランダもそれなりに歳だ。

 ロウの好みは、多様過ぎて、どういうのを選べば本当に喜ぶのかが、よくわからない。

 とにかく、たくさん揃えておけば、問題ないだろう。

 きっと褒めてくれるに違いない。

 

 そのとき、部屋に通じる廊下側から喧噪がした。

 しばらくすると、ふたりの近衛兵から両側を押さえられているみすぼらしい恰好の男が連れて来られた。

 もうひとり兵が後ろにいて、鞄のようなものを持っている。

 こいつが執事だとすれば、その鞄を持って逃げようとしたのかもしれない。みすぼらしい恰好なのは、屋敷の雇い人にでも紛れようとしたのだろう。

 サキは、公爵と家族、主立つ家人は前庭に停めてある檻車に放り込ませているが、ほかの者については原則、無視している。

 ただ、ここの者たちは自発的に数箇所に集まって大人しくしている感じのようだが……。

 また、別宅で保護をした人間族の童女たちは、何人かの近衛兵に命じて、世話をさせている。

 見目がいいのもいたから、ロウの性奴隷にどうかとも、一瞬考えたが、心が毀れかけている者ばかりであり、ロウに提供するにまで回復させるには、時間がかかりそうだと判断した。

 あれらは、とりあえず放逐するか……。

 

「当家の執事です。間違いありません」

 

 フラントワーズが男を一瞥して言った。

 男は完全に項垂れてしまった。

 

「ううう、な、なんでこんなことに……」

 

 執事だという男は泣き言を口にし始めた。

 サキは、手を振った。

 近衛兵たちが、執事を外に連れていく。

 外にある檻車に放り込むためだ。

 

 檻車は三台あり、ひとつはふたりの公爵であり、すでにふたりとも縛って、中に放り込んでいる。

 

 二台目は、テレーズとの取り決めで、サキが身柄をもらい受けることになっている公爵家の女たちだ。

 すでに、グリムーン公の息子夫人のマリア、その娘のエリザベスが乗っている。マリアの年齢は目の前のフラントワーズとほぼ一緒だろう。

 もしかしたら、マリアの方が少し若いのかもしれない。

 

 また、娘のエリザベスは、ロウの性奴隷候補だ。顔も綺麗だったし、生娘であることも確かめた。年齢は十九歳。十分に若い。

 気が強いことは、フラントワーズ以上だろう。

 サキを相手に、物を投げつけて、くってかかったくらいだ。

 まあ、びんたを三発ほどくれてやったら、あっちも大人しくなったが……。

 いまは、母親と一緒に庭に停めている檻車内にいる。

 

 そして、三台目の檻車が男用だ。グリムーン家の二人の息子、十数名の家人と傭兵の幹部、さらに、このラングーン家の家人や傭兵幹部を全部放り込んでいるので、いまは誰も座れないくらいに満員だ。

 まあ、周りは鉄格子だけで、息ができなくなることはない。

 問題ない。

 どうせ、王軍の敷地内にある牢舎に到着するまでのことだ。

 

「これで全部だな」

 

 サキはラポルタを見た。

 

「そうですね」

 

 ラポルタが頷いた。

 すると、フラントワーズがきっと顔をサキに向けた。

 

「お、お待ちください。その財をどうしますか?」

 

「財? これか?」

 

 財と言われて、なんのことかわからなかったが、さっき執事を近衛兵が連れて行ったとき、残していった鞄のことだと悟った。

 中身は知らないが、あの執事が持って逃亡をしようとしたのだから、確かに中身は財宝に違いない。

 

「はい、あ、あのう、お願いがございます。当家の私財は国に没収だと思います。で、でも、少しばかり残すわけには……。この通りです」

 

 いきなりフラントワーズがその場に跪いた。

 突然の行動に、若干唖然としたが、どうやら、私財を残したいのか?

 まあ、サキとしては、どうせテレーズが懐に入れるだけだし、人は捕縛して集めるが、正直、家屋財産の処置については、テレーズに言われた仕事の外だ。

 ただ、財を保全しろと告げられているので、グリムーン家にも、近衛兵を残して警備させているだけだ。

 そのうち、然るべき者たちがやって来て、取り出すものを取り出し、最終的には屋敷は解体するはずだ。

 テレーズからはそう耳にしている。

 

「財か? それについては全部没収だ。わしは知らん」

 

「そこをどうか……。お願いです。残っている家人、そして、主人が集めていた少女たち……。彼女たちは、これから露頭に迷うことになります。幾らかでも持ち出すことを許可ください。お願いします──」

 

 フラントワーズが後手のまま頭を床につけた。

 サキは驚いた。

 財を残せというから、なんのことかと思ったが、私利私欲のためではないみたいだ。

 召使いたちに金をやりたいのか……。また、あの別宅の童女たちにも……。

 いずれにしても、このフラントワーズも、あの別宅の状況は知っていたのだなと思った。

 

 そのときだった。

 宙に透明の球体が現われた。

 伝言球だ。

 サキ宛らしい。

 指で軽く突くと、球体がはじけて割れた。

 頭に「声」が響いてくる。

 伝言球にも種類があるが、これは周囲の余人には聞こえないように、直接本人のみにしか言葉が伝わらない魔道がかかっている。

 だから、サキの頭の中で声が響きだす。

 差出人はテレーズのようだ。

 

 

“こっちは終わった。スクルズは死んだわ。これで貸しが三つね。園遊会の命令書についてルードルフにサインとさせたこと、今日の捕り物で公爵家の女の処遇をあなたに一任したこと、そして、スクルズのこと……。ところで、ルードルフのご機嫌が最悪なの。とりあえず、性処理させるから、公爵夫人のひとりをすぐに、聖壇室(せいだんしつ)に連れて来て。よろしくねえ。命令よ、サキちゃん”

 

 

 テレーズの「声」が消える。

 なにが、貸し三つだ──。

 スクルズについては、あの女の貸しだ。サキじゃない──。

 それに、サキちゃんだと?

 テレーズに対する腹が煮えかえる。

 なにも仕返しができない自分に対しても……。

 

 とにかく、公爵夫人か……。

 サキは目の前のフラントワーズに改めて視線を注いだ。

 いまは床に頭をつけるのをやめて、跪いたままこっちを見ている。

 そういえば、財がどうのと言っていたか?

 まあ、夫の集めた奴隷や、露頭に迷うはずの残っている家人に少しでも財を渡したいというのは峻峭(しゅんしょう)ではあるか。

 まあいい……。

 

「フラントワーズ、さっきの話だが条件付きで認めてやってもいい。この屋敷は、近衛兵で封鎖させるが、しばらく待ってやろう。すでに捕縛する者は集めたから、三ノスの猶予をやる。そのあいだに出た者も、持ち出した物も知らぬふりをしてやろう」

 

「ほ、本当ですか──」

 

 フラントワーズが目を大きくして、頬を綻ばせた。

 面白い女だ。

 貴族女だというから、もっと威張っているのかと思ったが、家人や奴隷のために、逆に跪いて頭を床につけることができることには驚いた。

 しかも、幾らかでも財を渡してやれそうだとわかって、あんなに嬉しそうにしている。

 逆に、これも貴族の矜持というやつか?

 必要なら、自尊心も捨てて、頭もさげることができるということか……。

 目下の者たちのために……。

 

「ああ、ただし、いまも言ったが、条件がある」

 

「条件?」

 

「いまから王宮の後宮に連れていくから、王を相手に股を拡げろ。それを承知すれば、三ノスのあいだ、近衛兵を引きあげさせる。屋敷を封鎖するのは三ノス後だ。しかし、お前については、すぐに後宮送りだ」

 

 サキは言った。

 フラントワーズの顔色が変わった。

 顔も蒼くなり、ぶるぶると震えている。

 さっきは、奴隷送りということを認識したみたいなことを言っていたが、具体的に口にしたことで、改めて屈辱が込みあがったか?

 さて、どう反応するか……。

 どっちにしても、無理矢理にさせるか、納得してさせるかの違いでしかないが……。

 だが、すぐにフラントワーズの震えがとまった。

 毅然とした表情になり、サキをしっかりと見る。

 

「わかりました。どんなことでもします。その代わり、先ほどのことよろしくお願いします」

 

「いい覚悟だ。面白い。着替える時間だけやろう。小便臭い下着は替えてこい。そのあいだに、必要な指示を侍女にでも告げよ。ここから連れていく女はお前だけだ」

 

「侍女たちも許してもらえるのですね。重ね重ねありがとうございます」

 

 フラントワーズが跪いたまま、もう一度頭をさげた

 サキはラポルタに命じて、フラントワーズの手首の縄を解かせる。

 彼女はたちあがり、ひとりで自室に戻っていった。

 ラポルタには、ついていかなくてもいいと告げた。

 フラントワーズは逃げない。しかも、すぐに戻るだろう。

 サキはそれを確信している。

 

「……ラポルタ、あれが戻ったら出発する。一度近衛兵は、全部引きあげさせろ。戻すのは、わしらが出発してから三ノス後だ。それと、わしは公爵ふたりを連れて、王都広場に行かねばならん」

 

「了解しました」

 

「お前は残りの荷台の檻車を所定のところに届けよ。男は軍営、女は後宮じゃ。だが、お前は絶対にテレーズには会うな。わしのように操られるぞ」

 

「それは承知しています」

 

「それと、テレーズには手も出すな。これは絶対の命令だ。全員にもう一度徹底せよ」

 

 サキの言葉に、ラポルタが無言で頭をさげる。

 もっとも、テレーズに手を出すなというのは、サキの本意ではない。テレーズによって、定期的にサキの眷属にそう命じ続けるように、真名を使って「命令」を受けているのだ。

 だから、こうやって、時折、サキは自分の眷属たちに、そう命令をしなければならないということだ。

 テレーズは、実に用心深い。

 一度、サキを支配に置いたら、容易に隙を見せもしない。

 サキは大きく嘆息した。

 

 

 

 *

 

 

【ハロンドール王都・王都広場】

 

 

 

 王都の広場には、人が集まっていた。

 まだ、中にはまだ誰もないが、臨時で作られた木枠で囲まれて、そこに三本の高い柱が立っているのだ。

 なにか始めるのではないかと、好奇心を抱いているのだろう。

 多分、柵の周りにいる市民の数は百人を超えていると思う。

 もともと、ここは噴水広場とうう別名もあり、老若貴賤を問わず、人々が集まって話をしたり、集会を開いたり、休んだりする場所だ。集まる人間を目当てに、大道芸人や屋台などもあり、いつも賑わっている。

 

 サキはそこに、ふたりの公爵を入れた檻車を乗りつけた。

 柵の周りを王国の兵が囲んでるが、サキが乗っている馬車がやってくると、囲いの一部に作られている出入口部を開いて、馬車を通してくれた。

 サキは檻車の馭者台に座っているので、周囲の様子がわかる。

 集まっている者たちは、鉄格子があるだけなので、外から丸見えの檻車の中に、グリムーンとラングーンの身柄が入っているのを見て驚いている。

 

 無論、ここに集まっている者の全員が上級貴族であるふたりの顔を知っているというわけでもないが、何人かは知っていたようであり、「公爵だ──。ラングーン公だ。グリムーン公だ」という声が数箇所からあがり、それが伝染するように全体に拡がっていった。

 このふたりの素行の悪さは有名であり、悪名ということであれば、ルードルフ以上だろう。

 

 とにかく、サキは人間族のしがらみになど興味はないので、知ったことではなかったが、このふたりの公爵とやらは、少し調べただけでもかなりの悪党だ。

 権力にものをいわせた闇奴隷集めはもちろん、詐欺に恐喝、善良な市民への私兵を用いた嫌がらせなど、小悪党が服を着て歩いているような恥知らずだ。

 特に、ラングーンは屋敷の庭を探らせただけで、数十人分の人間族の子供の骨が埋まっていた。

 グリムーンについても、気に入った女を誘拐同然に連れ込んでは、薬物死させて、部下に処置させるということをやっていた。

 ルードルフの命を狙おうとしたことなどどうでもいいが、それだけでも処刑に値しそうだ。

 いずれにしても、人気のないふたりが、どうやら捕らえられたらしいということを悟って、早くも民衆が喝采を叫んでいる。

 

「服を引き剥がして素裸にせよ。そしたら、棒で五十回打て。終わったら、棒の上に縛りつけろ」

 

 サキは指示した。

 近衛軍の者たちは、サキの命令に従うように、ルードルフの仕掛けた王家の宝物による呪術が効いている。

 すぐに、ふたりが檻車から引きずり出される。

 ふたりは、まさかここのまま、磔刑(たっけい)になるとは思いもよらなかったのだろう。

 大声で喚きだした。

 だが、横に渡した棒に腕を固定されて、背中を打たれ始めると、悲鳴をあげるだけで、かなり大人しくなった。

 

 二十発も打たないうちに動かなくなったので、サキは棒打ちを中止させ、三本の柱のうち、両側の二本を使ってふたりを柱の上側に縛りつけさせた。

 足台はあるが、そこに立たされて身動きできないようにがっしりと全身を拘束される。

 性器も剥き出しだし、あのまま死ぬまで晒され続け、糞尿も垂れ流しだ。

 

 サキが決めた刑ではないが、テレーズが二公爵の処刑について、ルードルフに改めて訊ねたとき、こうやって死ぬまで晒し刑にせよと言ったようだ。

 テレーズの闇魔道により、心の凶暴性を活性化させられているとはいえ、ああやって残酷性を示すのも、ルードルフの隠れた性質のひとつということだ。

 少なくとも、二公爵の晒し刑については、サキとテレーズの発案ではない。

 

「た、助けてくれえ」

 

「やめよ、おろせ、おろすのだ──」

 

 長い梯子を数本使って、兵たちが柱の高い方にふたりを引きあげて固定しようとすると、ふたりがまたもや叫び出した。

 とにかく、遠くからでも見えるように、ふたりはかなり高い柱の上側に繋ぎとめられている。

 ふたりの哀れな姿に、早くも周囲の者たちが歓声をあげだした。

 

「四日はかかるか? グリムーンの方は老いぼれているし、ラングーンは右手首の先を失って弱っていて、案外、二日ほどで死ぬかもしれんな。まあ、すっぱりと首を落としてやればいいとは思うがな」

 

 サキは誰に聞かせるためでもなく呟いた。

 ふたりの身体は、サキの身長の三倍分は上にあがっている。

 

 すると、さらにもう一台の馬車が囲いの中に入ってきた。

 檻車ではなく、屍体を運ぶための霊柩(れいきゅう)馬車だ。

 周囲の観客たちが歓声をわっとあげた。

 すでに晒されたふたりは、市民に人気がないことでは際立っているので、今度は誰が晒し刑になるのかと期待を込めた声だろう。

 

 サキが見守っていると、すぐそばまで霊柩馬車がやってきて停車した。

 後方側の扉が両側に開いて、まずは男の近衛兵の恰好をしたピカロが飛び降りた。

 

「あっ、サキ様──。ご機嫌ようです。ご無沙汰しています。ちゃんと、ラポルタ様に言われたことは……」

 

 ピカロがサキを認めて、挨拶のようなことを口にし始めたので、サキはそれをやめさせた。

 実際、ピカロには、なるべくサキと会わないようにして、ラポルタから指示を受けるように伝えていたので、面と向かって会うのは久しぶりかもしれない。

 

「よい。よくやっているのは知っておる。公爵のところの襲撃についても、両家とも私兵はまったく騒がなかったしな」

 

 ピカロに主に命じているのは、サキュバスの能力であるお得意の精神操作をするために、王軍と公爵家の私兵の将軍、隊長連中を片っ端から性のしもべにすることだ。

 これについては、うまくいっていて、もはや王都内に存在する武力と呼べるものは、ピカロの言いなり状態だ

 このおかげで、公爵側もまったく私兵の警備が機能せず、簡単に捕縛が終わった。

 ただ、どうでもいいが、サキュバスに心を乗っ取られるには、ピカロと寝る必要があるんだから、まあ、股の緩い将軍たちばかりだということか。

 

「ありがとうございます、サキ様──」

 

 ピカロはサキに褒められて嬉しそうに破顔した。

 そして、霊柩馬車の中に声をかける。

 

「……いいぞ、出せ。あっての男たちと一緒に、縛って上にあげるんだ」

 

 すぐにふたりほどが霊柩馬車からおりてきて、板の上に乗せられた「人間の身体」を外に出す。

 ここに最初からいた王兵も手伝って、「人間の身体」を載せた台を馬車からおろしていく。

 サキは、そのまま柱の下に運んでいこうとするのを自分の前で少しとめた。

 頭から足の先まで布ですっぽりと包まれていて、外からでは中身はわからない。

 掛けている布を剥がす。

 横になっているのは「スクルズの遺骸」だ。当然ながらぴくりとも動かない。

 また、どうでもいいが、スクルズの「死体」は裸のようだ。

 

「これは、どうしたのだ? 裸か?」

 

 サキはピカロを見た。

 すると、ピカロが肩をすくめた。

 

「王様が素っ裸で晒せってさ。見ていたけど、王宮で倒れたスクルズのこと蹴ったり、服を引き破ったりしたんだ。結構、怖かったよ」

 

 ピカロが笑った。

 サキは苦笑した

 

「あれも、テレーズが魔道と毒で射精管理をしておるからな。そうなると、隠れていた凶暴な面が表に出るということだな」

 

 テレーズがやっているのは、あくまでも感情の操作であり、ルードルフの意思まで動かしているわけではない。

 侍女や下級令嬢を凌辱するのも、スクルズの屍体を暴行して辱めるのも、しっかりとしたルードルフの意思だ。

 まあ、暴君として恨みを持った貴族に刺されるか、暴徒になった民衆から殺されるとしても自業自得だろう。

 どうせ殺されるなら、ロウを英雄にするために役に立って死んで欲しいとは思う。

 

「それじゃあ、わしは行くぞ。後は任せた」

 

「あれ、最後まで見ていかないんですか、サキ様?」

 

 スクルズの屍体を載せた台が柱の下まで運ばれる。

 いまのところ、これがスクルズであることに気がついた民衆もないだろう。王軍の兵でさえ、ちらりとしかサキが布を剥ぐらなかったのでわからなかったと思う。

 

「これを晒せば、下手すれば、暴動が起きるぞ。巻きまれてたまるか」

 

 サキは笑った。

 そして、檻車の馭者台に乗る。

 移動術で跳躍してもいいが、寵姫サキの姿なので、魔道が自在に遣えることが世間に拡がり過ぎると面倒なこともある。

 

「うわっ、狡いですよ。そんな怖いことが起きるなら、ぼくも逃げたいです」

 

「抜かすな。最後まで見留めていけ。それに、スクルズの懐にあった“玉”は回収したのか? その始末もあるだろう」

 

「そっちは、もうラポルタ様に指示された妖魔に渡したって。そうだよ、よく考えれば、スクルズって人気あるんだよね。それを晒すって怖いよ。ぼくも一緒に戻る──。だって、これを柱の上に固定するくらい、ぼくがいなくても問題ないし」

 

「いいから、それを柱の上に晒すまで、最後までいろ。わかったな」

 

 サキは馬にたづなで合図をして、檻車を進ませる。

 入ってきたときと同じように、柵を兵が開きサキが乗った檻車を出してくれる。人の輪も分かれて、サキはそこを進んでいった。

 

 しばらく進んだときだ。

 爆発するような怒声の塊が王都広場のある後ろ側から聞こえたと思った。

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